この度、栗田せつ子さんが、角川書店より第4句集『師恩』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
せつ子さんは昭和39年に名古屋市立女子短期大学を卒業、そして同年、栗田靖(やすし)先生とご結婚されました。やすし先生の勧めもあって、昭和46年に「風」に入会し、沢木欣一、細見綾子両先生に師事。60年には「風」新人賞受賞、昭和61年に「風」同人、平成10年に「伊吹嶺」創刊・編集同人、平成12年に「風」賞を受賞されました。
句集は平成7年に第1句集『富士近し』、平成10年に第2句集『山の日』、平成18年に第3句集『鵜の川』を上梓されました。この句集は、平成17年から令和4年までのⅠ7年間に「伊吹嶺」誌等に発表した1300余りの句の中から487句を選んだものです。
句集名『師恩』に違わず、この句集には沢木先生、細見先生に関わる句が多く見られました。そして、せつ子さんは、かつて細見先生に言われた「年を取ることは悲しいことではない。歳をとってくると、それまで見えなかったものが見えてくるものよ」という言葉を胸に、これからも句作に励んでいくと言われています。
師を偲ぶ四高の冷ゆる椅子に掛け 平成18年
綾子の忌近し鵜山の零余子摘む 平成22年
綾子忌や師の針箱に貝ボタン 平成23年
牡丹にかがめば遠き師の声す 平成24年 自選句
師の煙草買ひ来し道や梅は実に 平成27年
この句集には、ご家族を詠んだ句が多くあります。お母様、夫であるやすし先生、お子さん、お孫さん、どの句も作者せつ子さんの暖かい眼差しを感じました。中でもお母様を詠んだ句に心ひかれました。お母様を看取られたのですが、そのお母様のことを詠んでいながら、せつ子さんの思いが伝わってくるのです。
母とゐて桃の日の風やはらかし 平成19年 自選句
冬立つや米寿の母の化粧水 平成20年
長生きを母に詫びられ年昏るる 平成22年
九月来て日に日に母の声細る 平成25年
文机に母の遺影や今日の月 平成30年
吟行句も多く、沖縄の句も数多く見られます。私たち伊吹嶺の人間にとっては、沖縄は特別な吟行地です。沖縄は、戦争の犠牲となり、いまだ基地問題でもめています。沢木欣一先生に始まる沖縄への思いは、せつ子さんにも私たちにも受け継がれています。これも師系といえるのではないでしょうか。
島唄に児が踊り出す春の宵 平成19年
辺戸小春句碑に物言ひ酒そそぐ 平成20年
負け牛を拍手で送る西日中 平成21年 自選句
祝ぎの座へ海越えて来し古酒の甕 平成23年
甘蔗刈りし指のほてりや島を去る 平成25年
最後に句集の帯に載っている自選句12選句のうち、まだ紹介してない9句を紹介します。
大滝の凍てきはまりて青みたり 平成18年
馬の背にゆられて涼し草千里 平成23年
孫の手を握り黙禱慰霊の日 平成24年
縄ざしの鰯供ふる神楽宿 平成24年
子は遠し勿忘草は海の色 平成25年
ラ・マンチャの風にとばせり夏帽子 平成26年
蜜柑摘む海のひかりを指先に 平成28年
長城の空限りなし燕去る 令和元年
山雀が巣立つやさしき風のこし 令和4年
令和5年6月 新井酔雪記
発行所:角川書店
発行者:石川一郎
B5版 185頁
定価:本体2,700円(税別) |
|
|
「師恩」
栗田せつ子さん
|
【申込み方法】
著者へ直接葉書でお申し込みください。
〒458-0021
愛知県名古屋市緑区滝ノ水3-1905-2
栗田節子
|
|