この度、古谷句会の髙島由也子さんが、米寿を記念して、句集『秋桜』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
句集は平成10年から令和4年まで「伊吹嶺」誌に掲載された中から、平成24年出版の海外写俳集『旅情』の掲載句を除いた337句を河原地主宰に選んでいただいたものです。
主宰は序文で「すっきりと姿形よくきれがある」「瑞々しさに目を見張る」「句集から大きな励ましを受け取った」と称賛しておられます。句集名となった句です。
吹かれゐる秋桜影を持たざりき 令和3年
由也子さんは医学の道へ進まれ、昭和51年から令和元年まで内科眼科を開業されながら、診療が長期の休みの間に海外へ何度も足を運ばれました。句集『秋桜』には43句の海外詠が掲載されています。海外詠をいくつか挙げます。どの句も大自然の営みやそれぞれの国の歴史を感じさせます。
バイソンの群れを囲めり雲の峰 平成12年
イエローストーン
初日さす南極海の白光り 平成20年
南極
八月の陽に照り映ゆる入植碑 平成21年
ブラジル
初御空ガンジスの水掌に掬ふ 平成24年
インド
うねりゆくオーロラの中星飛べり 平成25年
フィンランド
八十国を訪ひて傘寿や今日の月 平成26年
国内の吟行句も多くあります。写真の個展を開かれるほど研鑽された技術が、即物具象の写生句に生き生きと反映されています。
逆さ富士ゆらし白鳥身を反らす 平成14年
高原に風の道あり蕎麦の花 平成16年
ねぶた台傾げば迫る眼の光 平成26年
見はるかす紫陽花越しの由比ヶ浜 平成29年
西行の墓訪ふ花を踏み分けて 平成30年
由也子さんは、がんウィルス学の研究者であったご主人様ご逝去後も、医院で診療を続け、学会へも出席されていました。2人のお嬢様も眼科医となられましたが、平成27年にご長女との悲しいお別れがありました。ご家族や故郷の句、医院の句、それぞれ思いの籠った作品が心に染み入ります。
亡き夫の古書の湿りや梅雨最中 平成11年
父母の墓撫でるごとくに雪払ひ 平成13年
夫在る日咲きしカトレア今日ひらく 平成19年
若き日の論文捨てて梅雨明くる 平成23年
汝が植ゑし薔薇咲く中を棺出づ 平成27年
娘の好きな赤き薔薇咲く一周忌 平成28年
六十年の診療終へし秋さやか 令和元年
箱詰の古きカルテやちちろ鳴く 令和2年
身近な暮らしの中で詠まれた作品にも感性の豊かな佳句があります。
柚子しぼる十指に香りしたたらせ 平成19年
薄氷を踏めば朝日の七色に 平成22年
瑠璃深く風にきらめく犬ふぐり 平成28年
金色に透けて夕日の猫じやらし 平成31年
麦茶飲む少年の喉たくましき 令和3年
跋文は井沢陽子さんが書かれました。「八十八歳の今も強い意志と行動力で人生を貫いている姿勢に学ぶことがたくさんあります」と結んでおられます。
令和4年9月 (伊藤範子記)
発行所:豊文社出版
発行者:石黒智子
B6版 189頁
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高島由也子さん
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〒465-0068名古屋市名東区牧の里2丁目2209
髙島由也子
FAX(052)701-6002
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