この度、伊吹嶺副主宰河原地英武氏による第1句集『火酒』が角川書店より出版されました。
この句集に収録された341句はこれまでの「伊吹嶺」及び総合俳句誌掲載されたものから栗田主宰選によるものです。
句集の題名『火酒』は次の句から栗田主宰からつけられました。
虫の秋ロシア土産の火酒酌めり 英武
そして帯文に書かれている主宰の言葉がこの句集の特徴を端的に要約されています。
本句集には自然の妙を捉えた句、研究熱心な追究心の現れたく、家族思いの句など、多様な句が収められている。そこからは河原地氏の詩的天分だけでなく、それを支えている調和のとれた人間性の豊かさが見えてくる。
いつも「伊吹嶺」誌に掲載されているものを改めて句集として読むと、河原地氏の人柄、詩質がよく分かります。
以下栗田主宰の帯文に従ってそれに該当する序文から一部抜粋して紹介します。(隆生)
河原地英武さんが「伊吹嶺」に入ったいきさつは「伊吹嶺」インターネットへの投句で、投句すれば直ぐに添削されて戻ってくるのが魅力であったからという。ちなみに「伊吹嶺」(平成11年10月号)のインターネット「ホームページ俳句会抄」に露草(ろそう)の俳号で、
ゴンドラや眼下に夏の地獄谷
の句が掲載されている。
英武俳句が初めから俳句の骨法をよくわきまえていることに驚く。これは詩の詩的天分とともに研究者として培った積極的な追究心によるものだろう。
よく笑ふ新入生が真ん中に
夜学子に書く英文の推薦状
待春や黒板に書くロシア文字
指先にチョークの汚れ秋日濃し
教卓にひらく洋書や台風裡
これらはいずれも大学教師としての英武さんの日常を詠んだもので、あたたかな人間性を垣間見ることが出来る。
私の愛唱する句をいくつか挙げると、
浮寝鳥浅きところは歩きをり
春泥を羽ばたくやうに渡りけり
鯉の群春の光をもみくちやに
しやぼん玉屋根の弾みて水色に
本句集には家族、肉親を詠んだ句が50句ほどもある。
噴水のしぶきに妻を透かし見る
達磨忌や妻が選びし伊達眼鏡
虹消ゆるまでの約束肩ぐるま
子にかけるプロレスの技海の家
両親を詠んだ句は、
初写真老母の肩に手をまはし
花冷や弥勒のやうに母眠る
寂しさをいふ母寝かせ秋の暮
本句集の特徴はこれまで眺めてきて分かるように氏の詩的天分だけでなく、それを支えている調和のとれた人間性の豊かさにあるとみるのである。
(句集のあとがきより)
俳句に関してはわたしは「他力本願」の立場をとる。自信作が句会では空振りになる確率はすこぶる高いし、(そういう句は潔く捨てる)、逆に自己評価の低い句が大いにほめられたりもする。俳句は他者の選を経て初めて完成する文芸だと思う。なかでも栗田先生の選は格別だ。先生は皆が見向きもしない句を採られることもあれば、高得点句を選外にすることも珍しくない。たぶん俳句における何かを見抜かれるのだろう。わたしはその何かを学びたくて滋賀の自宅から名古屋の句会に通い続けている。・・・
先生には句集の命名をお願いし、あたたかな「序」まで頂戴した。それゆえこの句集には厚真かしさを省みず言えば、先生との「同行二人」の思いがある。
河原地英武
発行所:(一財)角川文化振興財団
発行者:宍戸健司
B6上製カバー装
201頁 341句
定価:本体2700円+税 |
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