この度、角川書店より、矢野孝子さんの第2句集『線描』が上梓されました。平成17年から29年までの377句が収められています。
以下栗田主宰の序文を抜粋して紹介します。
句集の題名『線描』は、集中の、
線描のごとき寒林夕日落つ
に依るが、夕日に透く寒林を〈線描のごとき〉と言い止めたことは、実施に即した驚きであり、いかにも絵心がある孝子さんならではの確かな発見である。
ゴッホの黄ゴーギャンの赤もみじ照る
ゲルニカを観る汗の児を抱き寄せて
ピカソ観し余韻へ木の芽雨しきり
孝子さんは洗練されたセンスの持ち主で、俳句が色彩感覚に優れている。本句集にも絵画や画家に関わる句が多い。
ゲルニカの句、ドイツ空軍による無差別爆撃を描いたピカソの絵「ゲルニカ」の前に立って詠んだもので、〈汗の児を引き寄せて〉という措辞が具体的で実感が強く、作者の気持ちのこもった佳句となっている。最近は身辺詠も多く見られるが、この変化によって句境がさらに広がり、深まることを期待したい。
(句集あとがきより)
句集名は、主宰や皆様の助言を頂き、『線描』としました。集中、絵画や画家の句が多いことに依ります。絵画で言う線描は線の一本一本が生きてこそ作品となります。同様に、俳句でも一語一語が生き、響き合ってこそ作品となると言えるでしょう。その共通点を思うと、句集名がますます親しいものになりました。
句集を編むことは自分の俳句や俳句人生を振り返る良い機会でもありました。中でも、「伊吹嶺」のインターネット句会との出会いは私に新たな世界を開いてくれました。良き指導者や句友・家族にも恵まれたことは有り難い事です。
自選12句(既出の3句を除く)
花籠の穂草気ままに綾子の忌
温めんと明日蒔く種子をふところに
誕生日鮒鮨うすくうすく切る
原爆忌蔓あるものは巻き登り
一本の茶杓観に行く神の留守
セザンヌの果実転がりさうな春
セーヌ川とつぷり昏れて牡蠣にレモン
仏間の灯消して母の日終はりけり
木枯や子規自画像の目の一途
平成29年10月
発行所:一般財団法人 角川文化振興財団
発行者:宍戸健司
B5版 219頁
定価:本体2700円(税別) |
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矢野孝子さん近影
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