この度、伊吹嶺叢書第51篇として、八尋樹炎さんの句集『玄界灘』が上梓されました。平成16年から29年までの320句が収められています。
以下栗田前主宰の序文を抜粋して紹介します。
句集名『玄界灘』は、
杏煮て満州唱歌口ずさむ
引揚を語る夕べや柚子湯染む
玄海へ北窓開き轆轤踏む
と詠まれているように玄界灘は戦後満州から大変な思いをして、引揚げ船で玄界灘を渡って帰国した樹炎さんにとって格別な思いがあることからの命名である。
樹炎さんは広い屋敷内に窯場を設けておられるが、樹炎さんにとって窯場はもっとも身近な俳句工房であろう。
海あとの十薬匂ふ窯場道
生地碗に藁の掃け目やあたたかし
風に鳴る窯場の軒の唐辛子
陶房の棚に季寄せや年の暮
ぶれ癖の轆轤踏みをり牛蛙
いずれも確かな写生句である。5句目について言えば、「ぶれ癖の轆轤」が具体的で、轆轤を踏みながら牛蛙の鳴くのを聞いている樹炎さんの暖かな人柄がよく捉えられている。
第二の特色を挙げるとすれば、
軋ませて母の帯解く春こたつ
まなうらに面打つ父や牡丹雪
子が摘みし芹一握り白和へに
婿殿も親しむ博多雑煮かな
など家族愛に根ざした俳句が多いことで、二句目の「面打つ父」については、この句の他に
寒晴や父の手ずれの鑿を研ぐ
ざら紙の父の句帖やほととぎす
小面に父の鑿跡月涼し
とも詠まれており、改めて樹炎さんの豊かな芸術的センスの源を知らされる思いである。
(句集あとがきより)
全く思いがけなく、インターネットサイトから「伊吹嶺」にご縁を頂き距離感を感じない素早さで投句・選句・合評会と主宰はじめ多くの先輩方に鍛えられた嬉しい半ば悲鳴を上げながらついて参りました。余生にこのような充実した時間を持って、十七文字の世界から日本の四季の美しさを鑑賞出来ましたことが私の心の糧となりました。また多くの句友の皆様の暖かいご支援に深く感謝しております。
序文よりの抽出句(既出の15句を除く)
欠け茶碗積み上げし藪春の雪
轆轤場に第九を鳴らす冬日和
名刀の反りの浅さや冴返る
竹の皮すとんと落ちて身を反らす
荒滝のもんどり打つて迫り来し
分校の小さきふらここ夫と漕ぐ
入院の決まりし夫に土筆煮る
そつぽ向く夫の活けたる凌霄花
夫と肩触れて摘み合ふ蕗の薹
平成29年10月
発行所:豊文社出版
発行者:石黒智子
新書版 175頁
頒価1000円 |
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八尋樹炎さん近影
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八尋樹炎
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