やすし俳句の特徴の一つは即物具象ということである。実物に即き実事を大切にする真面目な態度・方法が一貫して初期より今日に及んでいる。やすし君は堅苦しいくらいにその方向をくずさずに貫いている。一口でいえば楷書の謹直な俳句である。そこには氏の生活の処し方、人生を歩む態度があきらかにうかがわれる。
もう一つの特徴は俳句表現の特性をよくわきまえて言葉を抑制していることが指摘できよう。やすし君は俳文学研究の専門家であるから、その点は充分に心得てご自分の実作に活用しているわけである。しかし知識と実作とは違うのであって、君の作品は初期においてはやや散文的で饒舌なところがあったが、次第にそれを脱却し、柔軟性を増して、最近では円熟味を加えて来ている。
(沢木欣一「序」より)
沢木欣一抽出句
かゞやきて地卵売らる能登朝市
蔵を出て山車雪嶺を眩しめり
沈丁花伊吹の裾に母ゐます
枇杷の実を蟻登らんとして仰ぐ
晩学生たりし五年や春近し
木曾の秋ガラス瓶より煙草買ふ
白牡丹鵜匠の庭に開きたる
雁渡し吹かるゝ海女の白装束
墨うすき母の便りや秋深し
雪嶺に向く山車蔵を開け放つ
沢木先生のお薦めにより平成十年に創刊した俳誌「伊吹嶺」が十三年目の春を迎えるにあたって、これまで歩んできた道を省み、新たな道を探るため、初心に帰るべく、『伊吹嶺』の再版を決意した。
(栗田やすし再版「あとがき」より)
発行所:(株)東京四季出版
著者:栗田やすし
定価1200円 |
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