この度、栗田やすし先生が、燦文社より増補新訂『俳句とふるさと』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
この著書は、平成元年4月から同6年3月にかけて、毎月1回「中日新聞」文化蘭に俳句紀行「句歌つれづれ」として纏められたものの増補新版です。
本著は句碑巡りではありません。中部地方9県に生まれた俳人や生れは違っても中部地方に縁のある俳人60名が、故郷やその土地を詠んだ俳句を紹介しています。これらの俳句は栗田先生が各俳人の句集の中から選ばれたものです。そして、句の鑑賞はもちろんのこと、俳人の生い立ち、俳人の故郷や訪れた土地の風土や風物などが、紀行文風に書かれています。栗田先生が現地を訪れての取材によるもので、俳句が故郷と深く関わっていることが伝わってきます。
本著は俳人60名の60句が四季ごとに章立てされていて、春14句、夏17句、秋15句、冬14句が記載されています。そして、各項目の構成は次のようになっています。1行目:俳句と作者名、2行目:俳句を詠んだ地名(網掛)、3行目:その土地の写真(不掲載の項目もあり)、その下に俳人の略歴、4行目以降が本文。項目の最後に栗田先生の吟行句(不記載の項目もあり)
「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ…」は、島崎藤村の詩『椰子の実』の一節。この詩は、「汐煙ながれて涼し伊良古岬 鈴木花蓑」の項目の書き出しです。詩ばかりでなく小説や紀行文、俳句で始まる項目もあります。実は本文の書き出しは様々で興味深いです。その書き出しの例を挙げてみます。俳人の故郷の紹介や様子、その土地を訪れたいきさつや関わり、俳句が記載されている句集の紹介、俳句が詠まれたいきさつやその土地の歴史、俳句を詠んだときの作者の状況や経歴などなど。書き出しが多様なので、楽しく読み始めることができます。そして、読み終わるまで興味が尽きません。
冒頭に記載された俳句は、俳人の故郷や訪れた土地の風景や風物が詠み込まれています。『俳句とふるさと』という書名からして、当然と言えば当然のことです。しかし、本著を読むとそれだけではないということが分かります。それは俳人の故郷への思い、詠まざるを得ないという気持ちの表れだということです。冒頭の句は必ずしもその俳人の代表句ではありません。しかし、それぞれの俳人がその一句に託した故郷への深い思いがあるのです。
冒頭の俳句以外に本文中には、同時作の俳句や本文の内容に関わる俳句が記載されています。言わば紀行文と俳句の融合といった感じです。冒頭の俳句と合わせて読むと、俳句を詠んだときの状況や背景、その俳人の生い立ちや経歴が分かります。そして、一句一句の味わいが膨らみます。
すべての項目ではありませんが、項目の最後に栗田先生の吟行句が記載されています。その項目の俳人の句や本文を読んだ後の一句です。思わず、うん、うんとうなずいてしまいます。
巻末には「郷土遊吟 二十句」と題して、註付きで60句が記載されています。栗田先生の故郷である岐阜県を詠んだものです。栗田先生の故郷への思いが伝わるもので、故郷賛歌というべきものです。
とにかく楽しく、そして興味深く、読み進んでしまう増補新訂『俳句とふるさと』です。
令和8年8月 新井酔雪記
発行所:燦文舎
発行人:廣中美和子
四六判 233頁(並製)
定価:本体2,200円(税込) |
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増補新訂『俳句とふるさと』

栗田やすし顧問
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