この度、松永敏枝さんが、伊吹嶺叢書第54篇として句集『柿の花』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。 松永さんの俳句との出会いは、平成7年の夏、新聞に掲載された林 尉江さんの句を目にして、強く感動したことがきっかけだそうです。数日後、偶然林さんに会われたことから、栗田せつ子先生が指導しておられた「菜の花句会」に入会しました。とても素敵な偶然でしたね。
句集『柿の花』は、平成8年「風」入会以来の322句が収められています。句集の題名は、栗田やすし先生に、
母が焚く風呂の匂ひや柿の花 平成13年作
より付けていただいたそうです。
この句集の特徴は、何と言っても家族を題材に読まれた句が多いことで、4分の1ほどあります。そして、そのうちの6割ほどが、お母様を詠んだ句となっています。
汀まで母の手を引き磯遊 平成15年作
田疲れの母に汲みやる山清水 平成17年作
母の日やベッドの母に茶を点つる 平成25年作
作者のお母様への思いに溢れています。一言に親孝行と言いますが、作者の子供時代から育んできた親子の歴史が感じられます。
雛の間米寿の母を真ん中に 平成24年作
藤の寺先づ香煙を母と浴ぶ 平成27年作
春宵やベッドの母とパズル解く 平成28年作
お母様と一緒に過ごされるひと時。お互いを労り思いやる、他人が入ることを許さない尊い時間です。
手甲して母豌豆の手を取りぬ 平成9年年作
豆筵母が手擦れの砧打つ 平成26年作
彼岸会の法話に母は居眠れり 平成29年作
お母様の姿を客観的に捉えていますが、そこには作者の温かい眼差しがあります。
寒月を背に残業の夫帰る 平成11年作
産み終へて深眠る娘へ月涼し 平成15年作
外つ国へ帰る子と飲む浅利汁 平成26年作
作者の目は、ご自身のご家族にも向けられます。どの句も温かく、相手を思いやる気持ちに満ちています。
沢木欣一先生、細見綾子先生、栗田やすし先生の句碑を詠まれた句が十数句あります。
でで虫の句碑へ辿りし萩の花 平成9年作
みやらびの句碑へ苦菜の花摘んで 平成25年作
師の句碑に二日の梅の白く咲く 平成28年作
師の句碑を詠むということは、師への思いを詠むということです。作者は、ご自身と深く関わる方への思いを句となす俳人と言えると思います。
作者は表千家のお茶の先生です。作者にしか詠めない茶道に関わる句が十数句あります。
炉開や利休画像の軸拝す 平成25年作
白障子袱紗を捌く音弾む 平成29年作
内弟子の歩行涼しき薄茶席 平成30年作
茶の湯の心は、一期一会と聞いたことがあります。「ここで会えるのは生涯に一度きり。そんな気持ちで人と接する。」茶人である作者は、そういった気持ちで、人と接しているのではないでしょうか。そうとなれば、お母様、ご家族、師の句を詠むことは必然のことと言えます。(新井酔雪)
令和元年5月1日
発行所:豊文社出版
発行者:石黒智子
新書版 171頁
頒価1000円 |
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松永敏枝さん近影
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