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伊吹嶺叢書第60篇


 中村たか句集『雪解富士』
             

 この度、中村たかさんが伊吹嶺叢書第60篇として、第1句集『雪解富士』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
 たかさんは、昭和60年に「風」に入会し、その後平成14年に「伊吹嶺」に入会します。
 この句集は、その「風」「伊吹嶺」誌に載った1300句余りの中から380句を栗田先生に選んでいただき、作者の思い入れのある句を8句加えたものです。
 そして、句集名『雪解富士』は、
   
孫曾孫集ふ窓辺や雪解富士    平成30
から採ったもので、ご自身の命名です。栗田先生の序文と谷口千賀子さんの跋文、作者のあとがきを読むと、まさしくこの句集名は、たかさんの人生、句業を象徴していると思います。

 たかさんのお住まいは静岡市葵区です。静岡と言えば富士山。まず、富士山の句に目が行きました。
   
遠富士の雪輝けり木の芽風    平成11
   稲架越しの遠富士雲もなかりけり 平成15
   秋彼岸雲脱ぎし富士紫に     平成19
   振り返るたびに富士在り枯野道  平成22
   十月の富士を見に行く誕生日   平成23
   富士見ゆる夫の墓石や菊供ふ   平成25
   新雪の富士に向へり誕生日    平成25


 たかさんは家族思いです。それはご家族と日本一の富士山を詠んだ表題句から知れます。しかし、そのご家族もたかさんの夫のご両親、実のお母様、そして伴侶である夫を亡くされています。その後ご自身が大病を患うなど苦労の連続でした。
   
虫干や母の針目の長襦袢     平成2
   殊のほか母に今年の暑さかな   平成16
   癒え兆す夫に捥ぎたて夏みかん  平成17
   鈴の音涼しく赤子祓はるる    平成17
   丸刈の子がかしこまる初浴衣   平成19
   病む夫に腕輪ほどなる茅の輪編む 平成20
   炎天にかわと鴉が夫逝けり    平成20


 句集『雪解富士』には、俳人の忌日や句碑などの句が多く見られました。俳句の先人への敬意の表れと思います。俳人としてのたかさんの姿勢が窺われます。
   
逃水や頬骨高き一茶像      平成8
   桑の実の一つが赤し綾子句碑   平成11
   抽斗に遺りし薬獺祭忌      平成20
   天牛の髭がなぞれり子規の句碑  平成22
   ゑのころに吹きゐる風も綾子の忌 平成23
   欣一忌過ぎて京都の紅葉かな   平成27
   獺祭忌経木に分くる小饅頭    平成29


       令和3年6
       (新井酔雪)

発行所:豊文社出版
発行者:石黒智子
新書版  209頁
頒価1000円  







【申込み方法】
著者へ直接葉書あるいは電話・FAXによりお申し込みください。
〒421-1201
静岡県静岡市葵区新間1240-47
中村たか
電話・FAX 054-278-7441

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