この度、田嶋紅白さんが、角川書店より第1句集『無番地』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
紅白さんは、ロータリークラブで俳句を始められ、2008年「伊吹嶺」に入会、栗田やすし前主宰、河原地英武主宰、矢野孝子さんに師事されました。句集は2022年までの作品から321句を河原地主宰が選句をされたものです。
河原地主宰は序文で紅白さんの作品の数々に、ご職業の弁護士という作者像を超えた、自由闊達な境地、懐の深さ、度量の広さが伝わってくることを述べておられます。
「無番地」という印象的な句集名は、奥様のお父様がご住職をされていた三井寺宝泉寺を詠まれた句から選ばれました。
大寺の庫裏は無番地猫の恋 2020年 自選句
弁護士の立場から詠まれたと思われる作品は一割近くあり、いずれも秀句揃いであると主宰は序文に述べておられます。
夏燕調停室の窓掠め 2009年
緑さす山のくぼみに少女院 2019年
法廷の廊下は迷路秋日濃し 2020年
紅白さんは 各地へ足を運んでおられますが、国内では京都を舞台に詠まれた作品が多くあります。どの作品も、自然に言葉として湧き出てきたような作品で、読者の心にすっと入ってきます。
知らぬ間の時雨のあとや二寧坂 2013年
川床たのし遅れて詫びを言ふことも 2020年 自選句
京都好き酒も寒さも街並も 2022年
また、日本だけでなく世界の各地へ旅行や会議等にお出かけになっています。日常吟にも海外詠にも、弱者へ寄り添うお気持ち、戦争の愚かさを詠まれた作品があります。
冬ざるる路上に暮す人の影 2009年 帯の句
枯葉散るマンハッタンにテロの跡 2019年
ニューヨーク
露座佛の頰に弾痕夏落葉 2020年
アンコールワット
プロペラ機祀る知覧や鳥曇 2022年
自然や生き物を詠んだ句も多くあり、感性の豊かさと表現に深みのある佳句があります。
吹き抜くる風を形に花吹雪 2011年 自選句
稲雀つむじ曲がりの風となり 2013年
蜘蛛の子の毛玉のごとく転がり来 2022年
身辺句の中に 時々どこか飄々とした俳諧味のある作品が見受けられ、その味わい深さに惹かれます。
バスを待つ同じ顔触れ石蕗日和 2016年
ぶぶ汲んで身過ぎの話祭の夜 2019年
ウイルスの俄博士や地虫出づ 2020年
ご家族を詠まれた句を挙げます。句会でご一緒させていただいた折に、お手伝いをしてくださるなど紳士的で、ご家庭でも優しくご家族思いでいらっしゃる様子が浮かびます。
高々と妻の歌声花菫 2008年
励ましは言はず受験子送り出す 2019年 自選句
父の忌を修し知覧の新茶汲む 2020年
紅白さんはあとがきで、俳句を「澄み切った境地で生活を素直に詠むことを目指す旅」と位置づけ、精進していきたいと述べておられます。最後に句集の帯に載っている自選10句のうち、まだ紹介していない句を紹介します。
夏帽子置きどころなく抱へけり 2009年
足裏の砂の崩るる青嵐 2017年
落ち鮎を水にくるみて摑みけり 2020年
屋根裏に椅子置く窓辺パリの月 2021年
路上絵の聖母の像へ黄葉散る 2014年
着陸の機内でかぶる冬帽子 2014年
令和5年11月 伊藤範子記
発行所:角川書店
発行人:石川一郎
B5版 189頁
定価:本体2,970円(税込) |
|
|
『無番地』
田嶋紅白さん
|