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  富田範保第1句集『鮑海女』

                              ふらんす堂



 この度、富田範保さんが、ふらんす堂より第1句集『鮑海女』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
 富田さんは、昭和63年に栄の中日文化センターの俳句講座を受講します。そのときの講師が俳誌「笹」の故伊藤敬子氏で、富田さんは『笹』に入会しました。その後、一身上の都合で平成29年に『笹』を退会し、「伊吹嶺」に入会されました。
 この句集は、平成25年までの『笹』時代の1190句から550句を河原地主宰が選句されたものです。

 この句集には海辺の風景や島の暮らしを詠んだ句が多く見受けられます。中でも海女さんを詠んだ句が多く、句集名となった「鮑海女」の句も5句あります。
  
鮑海女夫の手を借り脱ぐ磯着   平成19
  桶に寄り息整ふる鮑海女     平成20
  濡れ髪のまま葬に入る鮑海女   平成21
  虚空蹴り海に逆立つ鮑海女    平成21
  海を出て雨を厭ひぬ鮑海女    平成21


 写生句というと見たままを句にするとよく言われますが、作者の写生句は一味違います。富田さんは、句に詠む対象を一度ご自身の中に取り入れて、感受性というフィルターを通して出てきたものを写生句としてまとめている気がします。つまり、目が捉えたままではなく、心が捉えたままを写生しているのではないでしょうか。
  
猟期終ふ山も安堵の色深め    平成6
  菜の花の蝶と化すには風足らず  平成7
  紙一帖冬日の楯として干さる   平成13
  踏まれたる邪鬼の呻きや春寒し  平成17
  散る力さへ失せにけり冬桜    平成25


 この句集には、比喩を使った句が多く見られます。比喩は対象物を端的に表現し、それでいて飛躍があります。その飛躍が、心が捉えた写生につながります。ですから、比喩は、作者の写生句を完成させるためには、必要な表現方法だと思います。
  
忘却のごと綿虫の消えにけり   平成3
  捨て台詞吐くごと枇杷の種吐きぬ 平成10
  絵巻まくごとく金魚の糶られけり 平成15
  白魚の涙のごとき斑を持てる   平成18
  蛇泳ぐ水のほつれを縫ふごとく  平成19


 その他、この句集に多く見られる表現技法にリフレインがあります。対句表現の調べはとても心地良いのですが、それだけではありません。対象の写生を深めたり、多面的にしたりしています。
  
追ふ犬も追はるる犬も息白し   平成2
  寒天を干して日の楯風の楯    平成10
  抜く足に沈む足あり蓮根掘る   平成11年 自選句
  水を押し水を曳きゆく代掻機   平成11
  くちなしの咲く今日の色昨日の色 平成13


 最後に句集の帯に載っている自選10選句のうち、まだ紹介してない9句を紹介します。
  
青き踏み十七文字を反芻す    平成4
  紫蘇揉みて生命線のまだ確か   平成10
  母の日やしばし天地に棲み分れ  平成15
  今生は色即是空紅葉散る     平成15
  人麻呂に座を一つ空け月の宴   平成16
  死を賜るほどの芸なし玉椿    平成19
  雪吊りの縄まだ風と遊びをり   平成20
  原爆を知る樹知らぬ木法師蝉   平成24
  児を呑みし津波の海へ雛流す   平成25


     令和5年1月    新井酔雪記


発行所:ふらんす堂
発行人:山岡喜美子
B5版  211頁
定価:本体2,750円(税込) 

「鮑海女」



富田範保さん

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富田範保

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