この度、山本光江さんが、古希を記念して角川書店より第1句集『風光る』を上梓されました。心よりお喜び申し上げます。
光江さんは、平成10年「伊吹嶺」、平成13年「風」に入会、栗田やすし前主宰、河原地英武主宰、梅田葵さんに師事されました。句集は令和4年までの作品1370句から550句を河原地主宰が選句をされたものです。光江さんは平成19年第1回伊吹嶺新人賞、平成23年伊吹嶺賞、また平成28年俳人協会全国俳句大会賞を受賞されました。
河原地主宰は序文で光江さんの作品の数々は、「四半世紀にわたる作者の自分史」であると綴っておられます。表紙は句集のためにご主人様が描き下ろされた水彩画です。優しく明るい色合いで光江さんの雰囲気にとてもマッチしています。
句集名は歩き始めたお孫さんを詠まれた句から採られました。
はやされて赤子の一歩風光る 平成30年
光江さんは、入会当初は近くの牧場を訪ね、動物の生命力に触れながら、写生を身に付けられました。どの句にも命あるものへの温かいまなざしが感じられます。
仔羊の噛みこぼしたる猫じやらし 平成14年
燕の子ちぎれんほどに首伸ばす 平成17年
耳振つて仔鹿が食めり小楢の実 平成22年
お住まいのある瀬戸市は製陶業が盛んです。平成23年の伊吹嶺賞は窯業を営む方の暮らしを詠まれた連作でした。窯場の句を紹介します。
寒燈が窯場の白き土間照らす 平成15年 自選句
轆轤挽く白木蓮へ窓開けて 平成23年
窯小屋で搗くや海苔餅豆の餅 平成29年 自選句
古里やご家族を詠まれた作品はおよそ120句あります。主宰は句集を光江さんの「心の日記」として位置づけ多くの選をされました。
父の忌の寒月薄き雲まとふ 平成16年 自選句
ふるさとの炬燵に足を重ね合ふ 平成20年 自選句
百株の白菜育て母卒寿 平成28年 自選句
体ごと跳ねて幼児歌留多取る 令和元年
職退きし夫の手料理梅酒酌む 令和3年
俳句の師を詠まれた作品も多く収めてあります。光江さんはあとがきで「そのとき」にしか詠めないものを、細見先生の「ひたすら」という言葉を念頭に、栗田先生の提唱する「心ある俳句」を目指し実作に努めたと述べておられます。
師の句碑に地酒かけ合ふ小春かな 平成20年
去り難き綾子生家よ青葉光 平成28年
読むほどに『半寿』の重み明易し 令和元年
ひとにぎり師の剪りくるる黄水仙 令和2年
(梅田葵さん)
大和路、知覧、沖縄、広島、その他積極的に吟行をされ、多くの佳句を詠まれています。
白木蓮昏れて當麻に水の音 平成16年
特攻の兵舎若葉の風通ふ 平成19年
被爆時で止まりし時計日の永き 平成21年
渡り蝶御嶽の空に青く透く 平成21年
全編を通して常に俳句への真摯な姿勢を貫いてこられたことが読み手に伝わる句集です。最後に帯の自選句でまだ紹介していない句を紹介します。
腰深く折つて砂掻く塩田婦 平成13年
皮剝がれ鮟鱇朝の日に透けり 平成16年
二上の夕日に鳴けり残る鴨 平成16年
冬ざれや厨子甕に空気穴 平成20年
余震など慣れしと母の初電話 平成24年
暮れてより風のざわめき沖縄忌 平成26年
原爆の碑へ遠足の列正す 平成28年
令和5年9月 伊藤範子記
発行所:角川書店
発行人:石川一郎
B5版 217頁
定価:本体2,970円(税込) |
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『風光る』
山本光江さん
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【申込み方法】
著者へ直接、葉書またはファックスでお申し込みください。
〒489-0988
愛知県瀬戸市東山町1-172
山本光江
FAX 0561-82-8003
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