令和元年5月21日、心配された雨も上がり、東山植物園で、第6回自然と親しむ吟行会が開催された。河原地主宰、栗田顧問も参加していただき49名が集合した。先ず植物園案内板前で、野島さんから吟行コースの説明があった。ガーデン句会の皆さんの案内の3コース(①東海の森コース、②合掌家、日本庭園コース、③万葉歌碑とビオトープコース)と④自由コースに分かれて吟行。
雨に洗われた清々しい空気、マイナスイオンにあふれた園内では、珍しい植物の武蔵あぶみや、ねじ木の花、えごの花、栃の花、杜若、菖蒲など、また四十雀、日雀などの囀りを聞き、水辺の生物、お玉杓子や糸蜻蛉も観察することができた。桜の丘では、葉桜になり実を付けた楊貴妃桜、また竹林で勢いよく成長を続ける竹は、皮を脱いでいた。句帳に沢山の季語を記しながら、静かな園内でじっくり句作。昼食は各自休憩所で済ませて、句会場の植物会館へと移動。
句会に先立ち 配付された国枝さん作成の資料をここに一部紹介します。
◇植物園前史
開園前の東山丘陵地域の森林公園(現在の東山植物園)は、自然林と田んぼのいわゆる里山地域。当時は、覚王山から先は曲がりくねった郡道しかなかった。森林公園はただの山奥で、開園以降の整備などにより、47年に古窯(鎌倉時代の登り窯)、炭焼き小屋などが見つかっている。また徳川時代、東山一体は徳川御料林であったが、ささやかながら里山の生活の場でもあった。また古窯群が東山地域から瀬戸地域まで切れ目なく見つかっている。
◇東山植物園
大正15年から検討がなされ、昭和12年開園した。開園以降の整備によって、昭和47年、鎌倉時代の登り窯、炭焼小屋などが発見された。昭和20年に休園、昭和21年に植物園動物園共に再開園された。その後、也有園、合掌家移築、バラ園、日本庭園、植物会館、東海の森が昭和時代に開設、平成5年には、桜の回廊、学習用ビオトープ、東海のモデル林などが出来、平成8年には日本の音風景百選に選ばれた。
◇植物園の自然
もともとこの一体は、主にシイ、タブなどの自然林(原生林)だったが、里山としての人間のいとなみが行われると、窯炭焼きなどにより伐採が行われた。破壊されたあとの自然林が二次林に遷移した。その植生は、主にコナラ、アベマキ、アカマツ、タカノツメ、ソヨゴ、ヒサカキなどに変わっている。東海の森として整備されたここの銘木は、ケヤキ、シダレザクラ、ハナノキ、ブナ、サルスベリ、コナラ、メタセコイア、クロバイなどであり、植栽されている。
これら一部人工的に植栽された植生は、代償林、草地などと呼ばれる。そして現在は、人間による自然利用の生活の場ではなく、人工的に作られた自然を楽しむ場となっている。また東海の森の一番奥にビオトープとしての池が造られ、周りは二次林となっている。そこでは、トンボ、メダカの放流なども行われている。これらすべてがいわゆる広い意味でのビオトープとなっている。
(以上国枝さんの資料より一部を引用)
句会は2句投句、3句選で、披講は国枝洋子さんと松井徒歩さん。国枝隆生さん、栗田顧問、河原地主宰による丁寧な講評もいただいた。得点は玉井さんと長崎さんが集計、発表と表彰が行われた。閉会挨拶は熊沢和代さん。皆さんのご協力により句会もスムーズに進行できたと思う。
植物園は、広大な里山の自然を活かしたもので、多くの種類の木や草花が観察しやすいように整備されていた。水辺の生物や鳥たちの綺麗な鳴き声に癒され、四季を体感するのには絶好の場所であった。この吟行会で、あらためて東山植物園の良さを実感できた実りの多い一日であった。
終りに、野島さんとガーデン句会の皆さんには大変お世話になりました。あらためてお礼を申し上げます。写真は、一紀さん、松原さん、徒歩さんに提供していただきました。(伊藤範子記)
★高点句
第1位 朴の葉に影弾ませり四十雀 河原地英武
日のさして瑠璃透きとほる糸とんぼ 松平恭代
山蟻が這ひをり点字案内板 玉井美智子
第2位 池の面の影と連れ飛ぶ糸蜻蛉 加藤ゆうや
第3位 青葉光浴びて令和の旅人歌碑 国枝隆生
★河原地英武主宰選
◎全裸なる若竹天を突くばかり 加藤ゆうや
雨に濡れ武蔵あぶみの翡翠色 林 尉江
茅屋根に触れて色づく桑いちご 国枝洋子
蓬にも植物園の標示札 内田陽子
いつこうに足が出ぬ蝌蚪ビオトープ 野島秀子
萱屋根の切口緑雨したたれり 倉田信子
武家門の朽ちしくぐり戸柿青し 大嶋福代
山蟻が這ひをり点字案内板 玉井美智子
若竹のぐいとひと節ごとの丈 伊藤範子
小満の幸せの鐘師が鳴らす 伊藤克江
★栗田やすし顧問選
◎睡蓮の白きはやかに雨上がる 福田邦子
日のさして瑠璃透きとほる糸とんぼ 松平恭代
万葉の道ににほへりえごの花 鈴木久子
池の面の影と連れ飛ぶ糸蜻蛉 加藤ゆうや
茅屋根に触れて色づく桑いちご 国枝洋子
山桑の実のうす紅や日をはじく 松平恭代
雨あとのしづくこぼしてえご咲けり 伊藤範子
日を受けて楊貴妃桜実となりぬ 牧野一古
魚はねてウツギの花の影ゆらす 牧 啓子
緑雨過ぎ光零せり木曽五木 近藤小夜子