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2020年1月号 俳日和(24)
 
  寒がり

                             河原地英武

 わたしは生来の寒がりだが、こらえ性がなくなってきたのか、最近それがますます高じている。自分の部屋に入ったら、まずエアコンを三十度にして一気に温度を上げ、しばらくしてから二十七度に設定し、そのままぬくぬくと過ごすのだ。風呂も浴室暖房を十分にきかせてからでないと入らない。この寒がりは信州育ちとも関係がありそうだ。いったいに寒冷な地域の出身者ほど寒さに敏感なのではあるまいか。たとえば冬日本に来たロシア人はたいてい日本は寒いという。不思議に思うかもしれないが、わたし自身、モスクワで一冬を過ごしてみてその理由がよくわかった。

 ロシアでは冬、寒さを感じないのである。外出するときは耳をすっぽり覆う帽子をかぶり、毛皮の重たいコートを着込み、靴も中まで毛のあるブーツを履く。だから氷点下二十度の戸外を歩き回っても平気だし、むしろ体は運動のせいで汗ばんでくる。室内も暖かい、どころか暑いほどだ。すべての住居の部屋ごとにセントラルヒーティングが完備され、冬になると一斉にそれが作動し、二十四時間途切れることがない。勝手にスイッチを切るわけにもゆかないのだ。それゆえ、外は氷点下十数度であっても室内では半袖で過ごすことができるし、ときどき窓をすこし開け外気を入れないと室温が上がりすぎてしまうのである。

 先日、「超極暖」のヒートテック(下着のシャツ)を三枚色違いで買い、毎日着用しているが、すこぶる快適だ。これで上半身は、あのすうすうする寒さからようやく解放された。といっても、別にシャツ自体が発熱するのではない。体から出る水分を特別な繊維が熱に変換するのだそうだ。厚さ一ミリもないのに誠に頼もしい下着である。どこか俳句のようだな、と感じた。俳句もまた、わずか十七音で、われわれの内から湧き出す詩情をしっかり受け止め、増幅してくれる文芸だからだ。