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選句結果
     
第271回目 (2022年1月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 青饅や酢の一滴は妣ゆづり 梦二(神奈川県)
   初風呂や父の十八番の浪花節 貝田ひでを(熊本県)
   鉛筆の芯尖らせて初句会      正憲(浜松市)
   肩の荷を減らし喜の字の旅はじめ 美凡(北名古屋市)
   愛語る白寿の尼や福寿草 伊田一絵(東京)
   天金の白秋歌集暖炉燃ゆ 石塚彩楓(埼玉県)
   寒月や水母のやうな観覧車 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   航路なき小島の墓地に水仙花 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   正月の凧にひかれて車椅子 きょうや(東京)
   松が枝に雅楽のながれ初社 奈良野遊山(奈良市)
【  高橋幸子 選 】
  特選 百千の絵馬の願ひに初日差す 惠啓(三鷹市)
   神木の紙垂のゆらぎや淑気満つ いまいやすのり(埼玉県)
   梶棒を下ろす俥屋鳥総松      康(東京)
   風向きの変りて逃げるどんど焼き 幸子(横浜市)
   風花す関東武者の群像碑 眞人(さいたま市)
   卒寿なほ幼女のやうな初ゑくぼ 妙好(名古屋市)
   読初や子を膝に乗せぐりとぐら 石塚彩楓(埼玉県)
   ロゼワイングラスの並ぶ女正月 町子(北名古屋市)
   成人の日の晴れ晴れと遠伊吹 前川美智子(名古屋市)
   朝焼に鴨の発ちたる羽音かな 和久(米原市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 寒月や水母のやうな観覧車 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   騒めきを一瞬制す初日の出 雪絵(前橋市)
   初芝居人形焼を家苞に      康(東京)
   夕映えの山は墨色日脚伸ぶ 美佐枝(千葉県)
   今日という日を大切に去年今年 奥村僚一(滋賀県)
   鉛筆の芯尖らせて初句会 正憲(浜松市)
   読初や子を膝に乗せぐりとぐら 石塚彩楓(埼玉県)
   除夜の鐘父の遺愛のラジオから 飴子(名古屋市)
   一瞬の光弾きて潜る鳰 蝶子(福岡県)
   雪女戯れ過ぎる白き闇 美由紀(長野県)
【  坪野洋子 選 】
  特選 鉛筆の芯尖らせて初句会 正憲(浜松市)
   肩越しに御慶を受けし宮の磴 雪絵(前橋市)
   獅子舞に咬まれ笑ふ子泣き出す子      安楽()
   着ぶくれて忘れ上手な爺となり 幸子(横浜市)
   卒寿なほ幼女のやうな初ゑくぼ 妙好(名古屋市)
   初電話替はる替はるに孫の声 筆致俳句(岐阜市)
   天金の白秋歌集暖炉燃ゆ 石塚彩楓(埼玉県)
   冬温し窓の灯りのみかん色 飴子(名古屋市)
   除夜の鐘父の遺愛のラジオから 飴子(名古屋市)
   百千の絵馬の願ひに初日差す 惠啓(三鷹市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、正憲さん(浜松市)でした。「伊吹嶺」一月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2022年1月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

2	お年玉袋に興味幼き子

<興味>が説明ですので、幼子の様子かお年玉袋を描写してください。

3	一葉も使いし井戸や寒の水

しっかりと出来ている句ですが、井戸に「寒の水」は付きすぎのような気がしました。

5	初日記欲はもたずにあるがまま

(国枝)「欲はもたずにあるがまま」という個人的な感慨は俳句としてはなかなか共感
出来ないと思います。

6	久に会い親の老い知る嫁が君

報告気味の句ですが、お一人住まいのお父さんでしょうか。静かすぎる実家にねずみの
気配というのも正月くらいは賑やかしの気分ですね。

8	初風呂や父の十八番の浪花節

お元気なお父さんで何よりですね。

9	倒木の洞に雛咲く涅槃西風

<雛咲く>が分かりませんでした。

(国枝)「雛咲く」の意味が分かりませんでした。

10	摘み草や傷に溢るる水きらり

何の傷でしょうか?読み切れませんでした。

11	パン屑咥え逃げて波打つ鴨の脚 

鴨の行動を動詞で順番に示しています。俳句は一瞬を切り取る詩ですので<逃げて>は
省略してはどうでしょうか。

14	水仙の香りや恋の道標

カップルが水仙の香りのする小道を歩いているのでしょうか。さてこの恋は成就するの
かどうか。なかなか面白い取り合わせだと思いました。

16	神木の紙垂のゆらぎや淑気満つ

 正に神宿る木ですね。

高橋幸子氏評================================

今年の三が日は、太平洋側では晴れ渡る天気でした。神木の紙垂がかすかに揺らぐの
を見て取った作者。新しく真っ白な紙垂のゆらぎは、季語と映り合って、神域一帯の
厳かなめでたさをも感じさせます。

 ======================================

17	肩越しに御慶を受けし宮の磴

<受けし>は現在形の方が良いと思いました。

坪野さんの選です。

18	騒めきを一瞬制す初日の出

<一瞬制す>はもう少し柔らかい言葉のほうが良かったと思いました。

国枝隆夫氏評===============================
 
「一瞬制す」が一寸固いが、初日の出の一瞬の感激をよく捉えていると思います。

 ======================================

19	これ以上捨つる物なき冬木立

冬木というのはこんな感じですね。

21	初芝居人形焼を家苞に

浅草でしょうか、お土産の人形焼に満ち足りた気分が伺えます。

国枝隆夫氏評================================

浅草情緒がよく見える句と思います。

 ======================================

22	梶棒を下ろす俥屋鳥総松

 老舗のお店の前という雰囲気がありますね。

高橋幸子氏評================================

現在は観光名所を回って営業する俥屋。梶棒を下ろす瞬間を切り取ることで、具体的
な様子が見えるようです。着いた場所は料亭でしょうか。松明けに門松の後に差す
「鳥総松」が、一句によく効いていて、お客さんが門を入る様子も伺えます。

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23	年の夜や夕星まざと箱根山

 地名が効いているかどうか?どこの山でも良いような気もします。

24	夕映えの山は墨色日脚伸ぶ

山の向こう側の赤さと山のこちら側の墨色とのコントラストは格別ですね。

国枝隆夫氏評================================
7
色のない景色であっても、春が近づく兆しがよく見える句と思います。

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26	行く年や出番なかりし旅鞄

コロナ禍で気分の良く分かる句ですね。

27	帰郷せぬ子の部屋にゐて初読みす

<ゐて>は省略できると思います。

28	狂乱の篁夜目に北風の月 

北風の結果が< 狂乱の篁>だと思うのですが、その北風を月に掛けたのが成功してい
るかどうか疑問に思いました。

(国枝)「狂乱の篁」が分からないし、大げさのように感じました。

30	今日という日を大切に去年今年

国枝隆夫氏評================================

いわゆる写生俳句ではありませんが、思いの籠もった句です。稲畑汀子に「平凡を大
切に生き去年今年」という句があります。この句に非常によく似ていますが、「今日
という日を大切に」のフレーズに心を打つものがありましたので、頂きました。

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32	獅子舞に咬まれ笑ふ子泣き出す子

素直に出来上がった句ですね。

坪野さんの選です。

33	皹や働き者の太い指

理屈っぽい感じがしました。

34	帽子上げ父訪ひ来るや初夢に

(国枝)中七の「や」で強く切って、その後に「初夢に」とすると、この下五が浮いた
感じでした。初夢を中に入れ込んでみてはいかがですか。「初夢に帽子の父の訪ひ来る
か」などとすることも考えられます。

35	四日はや模試に望む子送り出す

<はや>に親の気持ちがこもっていますね。

36	キーボード鉛筆に替へ新日記

<キーボード>のあとに助詞が無いと調べが悪いような気がします。

37	三日はや扉の軽い冷蔵庫

年末から集まっていたお子さんたちが帰ってしまい、冷蔵庫の中身が少なくなったので
すね。

38	衰えぬ叱咤の恩師賀状来る

有難い先生ですね。

39	大正の作家気取りや懐手

目に見える姿が、(例えば明治と大正の作家との)違いが分からないので、具体的な描
写が必要だと思いました。

41	初夢や夫はセスナに乗込みぬ

上五で切れ字の<や>を使っているので、下五で<ぬ>という強い終止形<切れ>で終
らないほうがよいと思います。

43	諍いのひと言多き冬満月
 
季語は良いと思いましたが上五中七は当たり前のフレーズでは・・・。

45	鉛筆の芯尖らせて初句会

<芯尖らせて>に「初句会」への心構えが伺えますね。

坪野洋子氏評================================

平明な一句ながら中七の「芯尖らせて」で初句会の張りつめた空気も、作者のこれか
らの心意気も伺える佳句です。

 ======================================

国枝隆夫氏評================================

よくあるシチュエーションかも知れませんが、初句会の浮きたつ気持ちが籠もってい
ると思います。

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46	本堂に塵一つ無き淑気かな

入選候補なのですが、季語「淑気」の見本のような感じが(贅沢な悩みですが)気にな
りました。

47	うからの死初めて知る子冬銀河

親族の死を初めて経験したということでしょうか? やや報告のような気がしました。
でも季語は効いていると思います。

50	松とれて暫し懈怠の日々のあり

淡々と詠っていますが、<懈怠の日々>は生の気分の吐露ですので、具体的な何かが欲
しいです。

51	着ぶくれて忘れ上手な爺となり

下五の<なり>は連用形だと思いますので、どこかに切れがほしいですね。

坪野さんの選です。

52	風向きの変りて逃げるどんど焼き

慌てて逃げる様子に俳味を感じました。

高橋幸子氏評================================

<逃げる>は文語では<逃ぐる>になりますが、この句は、口語を使ったことが開放
的な感じになり良いと思いました。
どんど焼きの炎の大きさと、風によって炎の向きの変わる様子が、賑やかな人々の様
子と相まって生き生きと感じられます。

 ======================================

53	冱つる夜の首までつかる湯船かな

(国枝)しみじみとしたよい句ですが、この句だと首まで使っているのが湯船のように
読めます。単純ですが、「冱つる夜の首までつかる仕舞風呂」などとする方法がありま
す。下5はいろいろ考えて下さい。

54	肩の荷を減らし喜の字の旅はじめ

肩の荷を減らすのに77才は丁度良い年頃ですね。何時までも元気でいてください。

55	歯抜け子の口をいーして初鏡

面白い句なのですが、< 歯抜け子>という言葉が今一しっくりきませんでした。

56	風花す関東武者の群像碑
 
私の好みですと<関東武者>は<坂東武者>ですが・・・。

高橋幸子氏評================================

一句の調べが引き締まっていて惹かれました。<関東武者の群像碑>の硬質な趣と、
「風花す」の柔らかな動きがよく合っていて、印象深い御句です。

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57	愛語る白寿の尼や福寿草

アイフルのCMを思い出してしまいましたが、「福寿草」が決まっていますね。

58	初雪をふんはりとおく庭の松

<ふんはり>は常識の範囲内のオノマトペだと思います。

(国枝)やさしい雰囲気の句だと思いますが、「ふんはりと」とあれば「おく」はなく
ても分かると思います。例えば「初雪を築地の松にふんはりと」など。ただ場所につい
ては見たもので写生して下さい。

59	しなやかにここぞと勝負スケーター

スケーターの動きを<しなやか>というのは当たり前ですので具体的な描写が欲しいで
す。

60	卒寿なほ幼女のやうな初ゑくぼ

 卒寿の方に「初ゑくぼ」というのが良いですね。

坪野さんの選です。

(国枝)可愛らしい卒寿で、よい句だと思います。

高橋幸子氏評================================

一読、九十歳とは思われない、愛らしいおばあ様が目に浮かんできました。お顔もぽっ
ちゃりしておられるのでしょうね。周りのみんなに愛され、いつもにこにこしておられ
る様子が想像されます。一句の調べもいいですね。

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62	老猫は何はさておき日向ぼこ

老猫に自分を重ねてみると面白い句ですね

64	初電話替はる替はるに孫の声

コロナ禍で会うのも難しい中、正月らしく幸せな句ですね。

坪野さんの選です。

65	ちやんづけで贈る年玉祖母八十

<ちやんづけ>の句はよく見かけますが、祖母からというのが良いですね。

68	老松の枝いたわりて雪吊す

<いたわりて>に職人の心意気が伺えますね。

69	障子に日差せば部屋中光満つ

(国枝)障子には部屋全体を明るくする魔力があるようです。

71	風花や無声映画のラストシーン

風花が、<無声映画のラストシーン>のようだという句でしょうか?

73	天金の白秋歌集暖炉燃ゆ

ゆったりとした至福のひとときですね。

坪野さんの選です。

74	読初や子を膝に乗せぐりとぐら

私の子供たちもこの本を好んでいました。

高橋幸子氏評================================

<子を膝に乗せ>が具体的でいいと思いました。ロングセラーの絵本「ぐりとぐら」
を、お子さんと初読みしている様子が髣髴としてきます。

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国枝隆夫氏評================================

この句もよくあるシチュエーションかも知れませんが、新年を楽しむ家族風景が見えて
きます。
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76	ロゼワイングラスの並ぶ女正月

ロゼは赤ワインと違っていかにも女性的な華やかな色です。「女正月」がぴったりです
ね。

高橋幸子氏評================================

<グラスの並ぶ>から、女正月に集まった仲の良い女性グループが想像されました。
<ロゼワイン>は、女性たちに人気のワインですね。年末年始の忙しさから解放され、
楽しい会となったことでしょう。

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77	冬温し窓の灯りのみかん色

 部屋の中がいかにも温かく感じられますね

坪野さんの選です。

78	除夜の鐘父の遺愛のラジオから 

除夜の鐘がラジオからというのが意外ですね。「行く年来る年」はラジオでも放送し
ているのでしょうか。

坪野さんの選です。

国枝隆夫氏評================================

テレビでなく、ラジオのこういうしみじみとした除夜の鐘もあってもよいと思います。

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79	寒月や水母のやうな観覧車
 
私は「〜のような」という句は殆ど頂かないのですが、「寒月」と<水母>が微妙に響
き合って面白いと思いました。

国枝隆夫氏評================================

面白い比喩です。そう言われてみればそのとおりです。形もそうですが、観覧車が月明
かりの中でゆらゆらと揺れているのは水母に間違いありません。

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80	航路なき小島の墓地に水仙花

中七下五は普通なのですが、<航路なき>で決まりました。

81	冬の涛日出の石門穿ちをり

 <日出>ですが、音数の関係でどう読むのか困惑しましたが「ひい」と読むそうで
す 。「日出の石門」は愛知県伊良湖岬の名所だそうです。

82	茣蓙に咲く干大根のちぢれ花

予選で頂きました。茣蓙の上の大根の花を発見したのは良いのですが、<ちぢれ花>
という言葉で良いのかどうか自信が持てませんでした。

84	一輪の寒紅梅に心沸く

 感動を作者の主観で<心沸く>と表現するのではなく、感動の元をもう少し描写し
てください。

86	正月の凧にひかれて車椅子

<凧にひかれて>という表現だけで、車椅子を淡々と描写して、句として成功してい
ると思います。

87	根菜を刻んだスープ小鳥来る

< 根菜を刻んだスープ>は悪くはありませんが、いわゆる只事で留まっているように
思います。

89	しぐれ虹妻呼ぶ声のけたたまし

虹を見つけて奥さんが大きな声を出したのでしょうか。<けたたまし>が俳味になって
いれば良いのですが・・・。

(国枝)「けたたまし」は誰?または何?よく分かりません。それとも妻がけたたまし
い声で呼んでいるのですか。そうすると「けたたまし」がふさわしくないと思いました。

90	風立ちて垣の初雪一掃す

<一掃す>がやや硬い表現だと思いました。

92	初売や子等と選びし冷蔵庫

<選びし>は過去形ですが、この句では現在形のほうが良いと思いました。

94	日溜まりに元日草の薄明り

素直に淡々と無理に意味を込めない姿勢に好感を持ちました。

96	青饅や酢の一滴は妣ゆづり

簡潔な句柄に惹かれました。ただ、「はは」と読んでも良いのかどうか?

97	松が枝に雅楽のながれ初社

雅楽とは関係はないのですが、松の枝に目を止めたのが良かったと思います。

98	悪声の変へやうもなく初鴉

鴉の説明のように感じました。

99	一瞬の光弾きて潜る鳰

正に一瞬を捉えた句ですね。

国枝隆夫氏評================================

鳰の潜る瞬間の光が目に浮かんで来ます。

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100	新築の足場に触るる冬木の芽

新しい家の誕生への期待が「冬木の芽」に込められていますね。

(国枝)丁寧な写生句だと思いますが、やや情景説明的な印象でした。

101	成人の日の晴れ晴れと遠伊吹

伊吹山は校歌にもよく使われていて「成人の日」には格別なものがあると思います。

高橋幸子氏評================================

気持ちの良い伸びやかな御句。<晴れ晴れと>が気持ちと景の双方に働き、意味が増
幅して感じられます。遠伊吹をいつも見ておられる作者。若人らが成人となる今日は、
また格別です。

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102	店頭のテレビ等占むる初富士や

テレビに「ら」という言葉は普通は使いませんから「テレビを」で良いと思います。

103	風花やテールライトに従きて去り

「風花」の動きを説明しているように思いました。

104	朝焼に鴨の発ちたる羽音かな

 素直な写生ですね。

高橋幸子氏評================================

視覚と聴覚が刺激されます。朱色に朝焼けた空へ、音を立てて羽ばたき、水面から飛
翔する鴨の群れが力強いです。

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105	雪煙吹き上げらるゝ息吹嶺

<息吹嶺>は<伊吹嶺>のミスでしょうか?それとも造語でしょうか?

106	蒲団干す海へと続く赤き屋根

<海へと続く>というと余程長い屋根を想像しますが、それとも沢山の屋根でしょうか?

108	暗暗に命きらりと冬木の芽

やや観念が勝っていると思いましたが「冬木の芽」に対する思いを何かに掛けたように
感じました。

109	韋駄天のごと去年去りて大旦

例えが常識の範囲内だと思いました。

110	百千の絵馬の願ひに初日差す

万民の願いが叶うような初日ですね。

坪野さんの選です。

高橋幸子氏評================================

特選でいただきました。たくさんの絵馬に込められた一人一人の願いに、あまねく平
等に差す初日が美しく温かく感じられます。
	 
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112	はるかにも低き遠吠え寒の夜

<も>の措辞があるので遠くと近くの遠吠えが呼応しているのでしょうか。何の遠吠え
かが分ればもっと景が鮮明になると思います。

113	万葉の歌碑たつ丘や淑気満つ

(国枝)骨格のしっかりとした句だと思います。ただ感動の中心を「や」で切って、丘
にしていますが、この句の中心は「万葉歌碑」だと思います。「や」をもう少しやわら
かくしてはいかがでしょうか。

114	冬の月無窮の闇に冴え渡る

<無窮>は言葉を盛りすぎていると感じました。

115	正月や供花一つなき兵の墓

 戦争が終わって70年以上過ぎていますから、関係者も途絶え、切ないですね。

116	図書館の玻璃戸一閃冬の雷

図書館は大きい窓が多いですから雷にはびっくりしますね。

118	雪女戯れ過ぎる白き闇

<白き闇>という一見矛盾した言葉の斡旋が新鮮でした。

国枝隆夫氏評================================

「戯れ過ぎる」が面白い。ユーモアのある句。でも本当だったら怖い。

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119	人日の助詞だけ変へるスローガン

政治家の言葉遊びを皮肉っているのだと思いますが、俳句としては曖昧だと思いました。

(国枝)「人日の助詞」とは何ですか。または「助詞だけ変へるスローガン」がよく
分かりません。

120	先づ海老と肉の減りたる御節かな

よくある光景ですが、俳味の面白さには届いていないように思いました。



第270回目 (2021年12月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 筒袖の僧の帚や雪蛍 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   七五三耳の形は父に似て 石塚彩楓(埼玉県)
   膨らみて冬芽かすかに日の匂ひ      いまいやすのり(埼玉県)
   浮雲を映す蹲踞実千両 康(東京)
   冬帽子風の向かうの遠会釈 雪絵(前橋市)
   チョーク絵のパンダの並ぶ路地小春 まこと(さいたま市)
   報恩講寺の跡継ぎ同級生 水鏡(字みどり台)
   父母の暮らせし家や雪ばんば 直樹(埼玉県)
   墨痕の太き品書き河豚鍋屋 惠啓(三鷹市)
   鴨の陣一羽抜け出て解かれけり 櫻井 泰(館山市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 尼寺の粥の白さよ冬の朝 正男(大津市)
   七五三耳の形は父に似て 石塚彩楓(埼玉県)
   光るものすべて星なり山眠る      大原女(京都)
   冬帽子風の向かうの遠会釈 雪絵(前橋市)
   薄目せる縁側の猫漱石忌 ようこ(神奈川県)
   チョーク絵のパンダの並ぶ路地小春 まこと(さいたま市)
   源泉の硫黄の匂ひ山眠る 正憲(浜松市)
   薄化粧忘れぬ妻や冬すみれ 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   鰭立てて金目鯛煮る誕生日 町子(北名古屋市)
   終電の膝に抱へる聖樹かな とかき星(大阪)
【  伊藤範子 選 】
  特選 枯菊に風の宿れる生家跡 伊田一絵(東京)
   膨らみて冬芽かすかに日の匂ひ いまいやすのり(埼玉県)
   冬帽子風の向かうの遠会釈      雪絵(前橋市)
   行く年や余白の多き手帳閉じ ようこ(神奈川県)
   枯園の風に鶴唳放ちけり 小林克己(総社市)
   伊吹嶺を動かぬ雲や雪催 筆致俳句(岐阜市)
   ふる里の夕日のいろの吊し柿 伊田一絵(東京)
   紙漉や光の雫掬いつつ みのる(大阪)
   七七忌終へて一人の柚子湯かな 椋本望生(堺市)
   美酒に酔ふ煎り銀杏の翡翠色 野津洋子(瀬戸市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 終電の膝に抱へる聖樹かな とかき星(大阪)
   尼寺の粥の白さよ冬の朝 正男(大津市)
   虎の眼を捉え離さぬ冬の蝶      みぃすてぃ(神奈川県)
   己が影歩を合わせ行く冬の朝 奥村僚一(滋賀県)
   チョーク絵のパンダの並ぶ路地小春 まこと(さいたま市)
   薄化粧忘れぬ妻や冬すみれ 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   寂聴の源氏ひもとく霜夜かな 妙好(名古屋市)
   ふる里の夕日のいろの吊し柿 伊田一絵(東京)
   冬うらら手紙のやうな羽根ひとつ とかき星(大阪)
   七七忌終へて一人の柚子湯かな 椋本望生(堺市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、雪絵さん(前橋市)、まことさん(さいたま市)、正男さん(大津市)、とかき星さん(大阪)でした。同点が3名以上となりましたので、今月の最多得点賞は該当者無しとさせて戴きます。

【講評】


               2021年12月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	空っぽの檻に吹き込む落葉かな

 寂しげな景ですが、もうちょっと具体的な情報が欲しいと思いました。動物園の空の
檻なのか、自分のペットが棲んでいた檻なのか等。

2	七五三耳の形は父に似て

 子供の意外なところが両親や祖父母に似ていることに気が付くことってありますね。
自分の耳の形は自分ではよく分かりませんから、これを言われた父親は、ちょっと驚く
と同時に嬉しかったでしょうね。同時に、「そこしか似ていないの?」とも・・・。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈耳の形〉というピンポイントに焦点を当てられたところと、〈耳の形〉という似て
いてうれしいか微妙なところを句材に選ばれた点が、良かったと思います。

 ======================================

*上記2句は、11月15日に投句されましたが、午後九時を過ぎていたために、自動的に
翌月(12月)分となり、同じ作者から12月に投句された句は、一人二句の制限のため、シ
ステムにより受け付けられませんでした。

3	同胞と道頓堀のふぐ料理

 きっと楽しいひと時を過ごされたのだと思いますが、いまひとつ具体的な景が見えて
きません。大阪近郊の方たちは、道頓堀と言えば、何か共通のイメージや感慨が浮かぶ
のでしょうか?

4	尼寺の粥の白さよ冬の朝

 粥の白さが、尼僧の清廉さ、冬の朝の清澄さとよく響きあっています。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈尼寺〉〈粥〉〈冬の朝〉の句材の取り合わせが素晴らしいと思います。
 制限のある中での心の贅沢というのでしょうか、緊張感の中にあるぬくもりが感じら
れました。

 ======================================

5	夕星や商店街は冬ざれて

 年末の商店街ともなれば、年末商戦で活気があるはずですが、冬ざれた感じがするの
は、所謂シャッター通りになってしまったからでしょうか? ひとつぽつんと見える夕
星が、より寂しさを募らせます。

6	冬天や電柱上のこうのとり

 コウノトリが電柱に止まることがあるのですね。冬空を背景に、大きな鳥が凍り付い
たようにじっとしている姿は、孤高な感じを抱かせると思います。

7	庭先の小菊手折りて持たせくれ

 切れが無く散文的で、内容も報告の域を出ていません。

8	和菓子屋の玻璃戸眩しき冬日和

 和菓子屋というのが、冬日和に似合っていますが、店の中からガラス戸が眩しいと見
ているのか、店の外からガラス戸に反射する光を見ているのか、どちらにも取れますね。

9	城内の松もこも着て冬仕度

 この句は、「菰巻き」というひとつの季語で表現できますね。

10	気引き締め無事の茶掛けを師走かな

 句意は、「慌ただしい師走なので、気を引き締めて、茶室には「無事」と書かれた掛
け軸を掛けた。」ということでしょうか? 残念ながら、ちょっとわかりにくく、また
理屈っぽく感じました。

11	光るものすべて星なり山眠る

 勿体をつけた言い方ですが、簡潔に「星空の下山眠る」とすれば、上五でもっと何か
言えますね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 山の上など真っ暗なところでは、きっとこんな感じなのだと思います。

 ======================================

12	空の青残して山の眠りけり

 「空の青残して」の意味がよくわかりませんでした。この句も「青空の下山眠る」と
できると思います。

13	おでん屋でまたも上司と鉢合わせ

 サラリーマンあるあるですね。サラリーマン川柳で、高得点が獲れるかもしれません。

14	さざんかの咲き盛るとき散る盛り

 山茶花は、椿と似ていますが椿と違って花弁が一枚ずつ散ります。次々と咲いては、
次々と散って行く山茶花の様子をよく捉えられていますが、「季語の説明」的な感じも
受けました。

15	虎の眼を捉え離さぬ冬の蝶

 動物園で見た光景でしょうね。冬のことで、虎も動きが少なくなって日向に寝そべっ
たりしているのではないかと思います。そんな虎の視線が一匹の蝶に釘付けになってい
る。見過ごしやすい瞬間を、よく捉えられました。

16	芒原うねりて吾子を攫いけり

 小さな子でしょうね。原っぱで薄に隠れて見えなくなってしまったのを、「薄が攫っ
た」とちょっと大袈裟に表現されたことで、子供が見えなくなって一瞬ドキッとした親
の気持ちが感じられました。

17	寒禽の消えゆく空の青さかな

 空は一年中青いものですが、空気が澄んでいる冬の空は、ひときわ青く輝いて見えま
すね。

18	膨らみて冬芽かすかに日の匂ひ

 感覚が鋭い句ですが、頭で拵えた句のようにも感じました。

 伊藤範子氏評================================

冬芽が膨らんでくると寒さの中にも春を待つ心地が強くなります。季節は確かに巡っ
ていると感じさせる一句と思いました。

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19	ひた走るウーバーイーツ暮れの街

 「暮れの街」が季語になるかどうか、ちょっと疑問に思いました。厳しい人は、「夕
暮れの街と思われる」と言うと思います。ウーバーイーツが走るのは街中に決まってい
ますから、「年の暮」や「年の果」で良いと思います。

20	浮雲を映す蹲踞実千両

 水に映った青空と白い雲、千両の緑色の葉と真っ赤な実、色彩鮮やかな句ですが、類
句が多いように思います。

21	山茶花の散り敷くみ堂夕映えぬ

 綺麗な光景ですね。詠み方が一本調子で散文的ですので、切れを意識して作句される
ともっと良くなると思います。

22	秋冷や君の温もり朝の夢

 三段切れです。また、句意がよくわかりませんでした。

23	師走空ずり落ちさうな陸送車

 面白い句材ですね。車を陸送するトラックから、車がずり落ちそうになっているのを
見かけます。作者はその後ろについて車を運転しているのでしょう。

24	冬帽子風の向かうの遠会釈

 状況がよくわかりません。作者は、会釈した人が誰かわかったのでしょうか? また、
嬉しいのか懐かしいのか、はたまた避けたいのか??

 奥山ひろ子氏評===============================

 人物を出さず、「冬帽子」とだけで人の存在を詠んだ点が、省略が効いていていいと
思いました。

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 伊藤範子氏評================================

いつも決まった帽子を被っていることを知っていて、誰かがすぐ分かる親しい人なので
しょう。「風の向かう」の詩的な表現に惹かれました。

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25	行く年や余白の多き手帳閉じ

 余白の多い手帳に、作者は何を感じたのでしょうか? ゆとり? 虚しさ? 焦り?
下五は、「閉ず」とした方が、作者の感慨がより伝わると思います。

 伊藤範子氏評================================

コロナ禍のために今年の手帳には予定の書きこみが少なかった。一年を感慨深く振り返
る、誰にでも共感が出来ます。
 
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26	薄目せる縁側の猫漱石忌

 漱石→猫→縁側・・・ちょっと付き過ぎに感じました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 眠い猫の表情が〈薄目せる〉に表れていて、それが漱石忌であった点が、「吾輩」を
連想させますね。

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27	重そうな南天房の照らす庭

 南天の実が庭を照らすという見方が面白いと思いました。「重そうな」という主観を
排し、「南天房」は素直に「南天の実」とした方が良いと思います。

28	己が影歩を合わせ行く冬の朝

 影が自分と歩を合わせるのは当たり前ですが、それを改めて感じるのが冬の朝である
というところに納得です。

29	チョーク絵のパンダの並ぶ路地小春

 子供の落書きでしょうね。季語が生きてほのぼのとしています。

 奥山ひろ子氏評===============================

 子供の遊んだ後でしょうか、日常の生活のほのぼのした一コマをかわいらしく切り取
られていると思いました。パンダは〈並ぶ〉なので、たくさんいるのですね。季語も合っ
ていると感じました。

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30	満天星(どうだん)の樹齢百年冬紅葉

 樹齢百年という説明ではなく、百年経った木の様子を写生したいところです。満天星
は季語(満天星の花、満天星躑躅、満天星紅葉)であり、俳人は皆読めますから、仮名
を振って戴かなくても大丈夫です。

31	冬ざれし浜に造花の赤疼く

 冬ざれの砂浜と、人工的な造花の赤い色が印象的です。古い映画「猿の惑星」のエン
ディングシーンを思い出しました。「疼く」の措辞をどう捉えるか?

32	喧し鍋焼とどめに卵入る

 鍋物等のいわゆる「しめ」を「とどめ」と言うのは、少々下品に感じます。また、鍋
焼饂飩や雑炊に玉子を入れるのは特に珍しくなく、句材としてはどうかと思いました。

33	転びねの猫にちょつかい毛糸玉

 「転びね」は「転び寝」でしょうか? 猫が毛糸玉などにじゃれるのは当たり前の景
と思いました。

34	震災の1本松や年流る

 東日本大震災の、奇跡の一本松ですね。枯れてしまったものの、人工的に復元されて
保存されています。「年流る」は、「年月が流れ」たという意味ではなく、「今年もま
た過ぎてゆく」という感慨ですが、作者はどのような感慨を持たれたのでしょうか?

35	ひやひやな赤灯台の冬の夜 

 「ひやひやな」は、「冷や冷やな」でしょうか? 「ひやひやな赤灯台」の意味が分
かりませんでした。

36	雪眼鏡はづし句会の席探す

 句会に出るために、雪中をやって来たのでしょう。雪国で俳句に親しんでおられる作
者の生活が見えて来ます。

37	報恩講寺の跡継ぎ同級生

 三段切れで、寺の跡継ぎが作者の同級生だということは、読者にとってはどうでも良
いことです。

38	落葉や湖岸の墓は湖に向く

 出来ている句です。「墓は湖に向く」で、墓が湖の畔にあることはわかりますので、
「湖岸の」の部分にもう一工夫欲しいと思いました。

39	十二月八日兵士の墓の前

 十二月八日と兵士の墓は、付き過ぎに感じました。

40	枯園の風に鶴唳放ちけり

 鶴唳を放ったのはもちろん鶴でしょうが、枯園が放ったようにも読めます。「枯園の
風に一声鶴鳴けり」とでもすればすっきりしますが、枯園と鶴の季重なりになりますね。

 伊藤範子氏評================================

広大な場所で庭園というより鶴の飛来地なのでしょう。鶴の声と言わず「鶴唳を放つ」
とした語感に寒さが募るようです。

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41	空也の忌雲透く薄日恵みとも

 下五を工夫して、三段切れを解消して主観を消せば、更に良い句になると思います。

42	葱の束どんと貰ひし日々刻む

 作者が、葱を貰った日々を刻んでいるように読めてしまいます。

43	LED の虚飾の世界冬ざるる

 作者は冷めた目線でイルミネーションを見ていますが、あれを見てほっこりとした気
持ちになる人も多いのではないでしょうか?

44	目標の歩数まだまだ息白し

 具体的な景は描かれていませんが、白息を吐きながら大きく手を振り闊歩する元気な
姿が浮かんで来ます。

45	侘助や傘寿を祝ふ白子酒

 季語が、落ち着いて静かに傘寿を祝う席を連想させてくれますね。白子酒、私も一度
味わってみたいものです。

46	墨遊びてふ筆文字の賀状かな

 墨遊びというのが何かわからなかったのですが、ネットで調べたところ、フリースタ
イルの書道みたいなもののようですね。その賀状を貰った作者の気持ちはどうだったの
でしょうか?

47	海女どちの陸に暖とる焚火かな

 海女さんたちが焚火にあたっている景ですが、「陸に暖とる」は当たり前で、焚火の
説明でもありますので、焚火にあたっている海女さんたちの様子を写生されると良いと
思います。

48	伊吹嶺を動かぬ雲や雪催

 「伊吹嶺を動かぬ雲」で、晴れた空に一片浮いている雲を想像しますが、「雪催」で
は今にも雪が降りそうな一面の曇り空が浮かんで来ます。

 伊藤範子氏評================================

 雪が降る前は雲がどっかと伊吹山に居座っているのでしょう。日頃から伊吹山と雲と
天気をよく見ている作者と思いました。
 
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49	山眠るじやあまたねと逝きし母

 「じやあまたねと」は、文字数では7ですが、音数では6で字足らずとなります。

50	城山へ落葉重なる道続く

 落ち葉は、「重なる」と言わなくても重なっている景が浮かぶと思います。また道も、
途切れていたりしない限り続いているものですから、これらの言葉を整理したいところ
です。

51	枯蘆や惚けて風のなすままに

 枯蘆というだけで、風に揺れている景が浮かびます。それを「惚けて」というのは作
者の主観であり、全体的に季語の説明的に感じました。

52	一鉢のポインセチアの窓辺かな

 ポインセチアの置かれた窓はお洒落ですね。「一鉢の」は無くても良いかもしれませ
ん。もう少し家や窓の様子がわかり、それを見た作者の気持ちが伝わるようになれば良
いと思いました。

53	撮りためた写真整理の小春かな

 最近ですと、写真を撮るのはデジカメやスマホがほとんどだと思いますが、ここでは、
昔撮りためて紙に焼いた写真だと思いたいですね。懐かしい昔を思い起こしながら、縁
側に写真を広げている様子が浮かびます。

54	古民家のウェルカムボード小六月

 古民家を利用したカフェなどでしょうか? 和風と洋風の、ややミスマッチ風の取り
合わせが面白いですね。

55	凍月へ近づいてゆく歩道橋

 歩道橋が月に近づくのではなく、歩道橋を上って行く作者が近づくのですね。階段を
上りながらふと上げた視線の先に、思いがけなく煌々と光る月があって、作者の意識は
一瞬それに捉われたのでしょう

56	公園に人影見えず落葉雨

 雨だから→公園に人がいないという理屈が感じられます。

57	青空にゲートボールや落葉散る

 「雨が"降る"」「花が"咲く"」「落葉が"散る"」等の、当たり前の動詞を使うことは、
俳句では嫌われます。また、厳密にいうと、落葉はすでに落ちている葉ですので、正し
くは「枯葉散る」ですね。ゲートボール場に落葉が積もったら、邪魔になるのではない
かと、余計な心配まで浮かんでしまいました。

58	冬紅葉湯気の秘湯を独り占め

 羨ましいですね。風呂ですから、湯気があるのは当たり前ですので、そこをもう一工
夫欲しいと思いました。

59	源泉の硫黄の匂ひ山眠る

 山深い温泉地の空気感が伝わって来ます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 山は眠っているけれど、生きている感じが、〈原泉の硫黄の匂ひ〉に表れていると思
いました。

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60	筒袖の僧の帚や雪蛍

 僧が筒袖の着物を着ているということはわかるのですが、どうしても帚が筒袖である
ように読めてしまいます。

 武藤光リ氏評================================

  何の説明も無く、活用語も一つもない。それでいて寺の冬の朝を活写している。即
物具象の佳句である。

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61	薄化粧忘れぬ妻や冬すみれ

 季語が活きており、お年を召されても可愛らしい奥様が浮かびます。


 奥山ひろ子氏評===============================

 奥様をよく見ておられるのですね。そして身だしなみも忘れずきちんとした奥様の様
子が伝わってきました。

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62	街の灯に川面明るく浮寝鳥

 街の灯りを映す川面に浮かぶ水鳥のシルエットが見えます。上五中七がやや説明的で
すので、「街の灯を映す川面や」等でも良いかと思います。

63	雑踏をスラローム如師走駅

 駅に雑踏は付き物ですが、師走となるとそれがより忙しく感じられますね。助詞を省
き過ぎて、日本語が不自然に感じられます。

64	浮き上り首振る鳰やあちこちに

 季語の説明に感じました。中七を「や」で切っていますので、下五は鳰とは関係の無
いものを詠んだ方が良いと思います。

65	水音のこもる廃屋黄水仙

 廃屋に水の音が籠るというのがどういうことなのか、よくわかりませんでした。

66	五十年婚の土鍋のおじやかな

 「五十年婚の土鍋」というのが良く分かりませんでした。金婚式のお祝いに土鍋をも
らったのでしょうか?

67	観る人も見逃す人も冬の虹

 どの季節の虹についても同じことが言えると思います。

68	中陰を先導させたし鵙の声

 そう思う人もいれば、思わない人もいると思います。

69	木守柿傷口深く鳥刳る

 「傷が深い」とは言いますが、「傷口が深い」と言うでしょうか?

70	寂聴の源氏ひもとく霜夜かな

 寂聴氏も源氏物語も、内に熱いものを感じます。それが霜夜という季語と見事に響き
あうと思いました。

71	デパートの包みあふるる街師走

 師走→お歳暮→デパートの包み紙という連想で、ちょっと付き過ぎに感じました。

72	枯菊に風の宿れる生家跡

 野菊の枯菊でしょうね。枯菊がただ風に吹かれているのではなく、風が宿るとしたと
ころに、生家跡の温かみを感じている気持ちを思いました。

 伊藤範子氏評================================

 生家跡を訪ねると以前も咲いていた菊が残っていた。跡地は今風にさらされているば
かり。生家での思い出をめぐらしている様子が伝わります。
 
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73	ふる里の夕日のいろの吊し柿

 類句が多いと思いますが、それは良い句材で良い詠み方をされている証です。臆さず
に続けてください。

 伊藤範子氏評================================

 「夕日の色」が良いと思いました。甘く美味しくなることでしょう。
 
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74	紙漉や光の雫掬いつつ

 綺麗な句です。この句も類想が多いように感じました。

 伊藤範子氏評================================

水を揺らしては紙を漉く時の動きを光の雫と捉えた感覚が良いと思いました。動きのあ
る映像が浮かんできます。
 
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75	冬の水かくも透きけり鯉の髭

 「かくも」に主観が込められていますが、わざわざそう言わなくても、俳句に詠んで
いるということだけで、作者が感動していることは伝わります。

76	袋ごと土付きの葱玄関に

 誰かが葱を玄関に置いて行ってくれたのでしょう。田舎では良くあることかと思いま
す。事実を散文的に述べただけの句という印象で、切れを作ることを意識して戴きたい
と思いました。

77	寿の文字くつきりと冬林檎

 お祝い用の林檎ですね。表面の文字の印象が強く、冬林檎の季感が活きていないよう
に感じました。

78	鰭立てて金目鯛煮る誕生日

 こういう誕生日の祝い方もあるのですね。「鰭立てて」に、思いが込められています。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈鰭立てて〉が具体的で景が見えてきました。「金目鯛」がおめでたくてさりとて大
げさでなくていいと思いました。

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79	入院の日程決める冬の月

 冬の月が入院の日程を決めるように思えます。

80	川枯るや小魚達の行き所

 確かに心配になりますね。ただ、その心配は「川枯る」という季語に、すでに含まれ
ています。

81	クリスマス柱の傷は孫が上

 背比べでしょうか? 柱の傷というと、五月五日の背比べの印象が強く、クリスマス
との取り合わせは不思議な感じがしました。

82	終電の膝に抱へる聖樹かな

 もう寝てしまっている子供のために買った、小さなクリスマスツリーでしょう。疲れ
た家路も、明日子供が喜ぶ顔を思い浮かべて、楽しい帰路となったことと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 作者のことでしょうか。帰りが遅くなってしまったけれど、大切に聖樹を持って帰る
気持ちの高揚が伝わりました。

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83	冬うらら手紙のやうな羽根ひとつ

 鳥が落としたのか、風が運んだのか・・。作者は目の前に不意に現れた羽根が、空か
らの手紙のように思えたのですね。季語が活きています。

84	冬木立猫背の吾子の声替はり

 季語が離れすぎているように思いましたが、読み返すうちに、冬空に向かって直立し
た木々と、子供の猫背の対比が面白く感じられました。「声替はり」は「声変り」です
ね。

85	釣り糸の餌は天ぷら漱石忌

 句意がよくわかりませんでした。漱石と天ぷらといえば、坊ちゃんの主人公が天ぷら
蕎麦を四杯食べたというエピソードを思い出しますが、釣りの餌に天ぷらを使うという
意味がわかりません。

86	七七忌終へて一人の柚子湯かな

 安堵感と寂しさが入り混じった気持ちが伝わります。

 伊藤範子氏評================================

 忌明けを終えた感慨と共に柚子湯につかり様々な思いをめぐらしている作者。二種類
の数字を折り込んでいて「一人」が一層強く心に残る句となりました。

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87	しぐるるや思いどおりにならぬ指

 作者が指に障害をお持ちということではなく、寒さで指が悴んでしまったということ
でしょうが、そうだとすると、時雨る→寒い→指が悴むという、理屈の句となります。

88	パチパチとただパチパチとみかん摘む

 パチパチは、鋏の音でしょうね。蜜柑を摘むときに、そんなにひっきりなしに鋏を鳴
らすものでしょうか?

89	夜がたりの炉の灯届かぬ部屋の隅

 季語は「炉の灯」または「炉」でしょうか? 夜咄・炉語り・炉話・炉辺話という季
語を使って推敲されると、更に良い句になるような気がします。

90	父母の暮らせし家や雪ばんば

 作者も小さい頃に暮らし、今は誰も住まなくなった家なのでしょうね。季語が、静か
な懐古の情を感じさせます。

91	綿入に母の温もり重ねたり

 句意がよくわかりませんでした。綿入の暖かさに、母親の温もりのイメージが重なっ
て感じられたということでしょうか?

92	美酒に酔ふ煎り銀杏の翡翠色

 銀杏をつまみに一杯、良いですね。最初、煎り銀杏が美酒に酔っているように読めて
しまいました。

 伊藤範子氏評================================

 お酒は大吟醸でしょうか。銀杏の美しい色とともにいかにも美味しそうな食の一句で
した。

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93	碁敵に敗れて帰る十二月

 負納ですね。来年は頑張ってください。

94	斑白の貌がみつむる今朝の冬

 白髪まじりの人物が見つめているのは何でしょうか? 今朝の冬?

95	きっかけは大き花丸冬木の芽

 意味が分かりませんでした。大きな花丸(テスト等の?)が何のきっかけになったの
でしょうか?

96	着膨れて人里遠き寺詣

 「人里遠き寺詣」の、具体的な映像が浮かんで来ません。作者はどんなところを歩い
て、何を見ているのでしょう?

97	古農家や軒を余さず大根干す

 古民家とは言いますが、古農家という言い方はあるでしょうか? 農家の軒先に大根
が干されているというだけでは、ちょっと平凡で句材としては物たりないと思います。

98	墨痕の太き品書き河豚鍋屋

 品書きを見ただけで美味しそうですね。活気のある店の雰囲気が伝わって来ます。

99	捨てかねて床にひろげし古コート

 捨てられないコートを床に広げてどうするのでしょうか?

100	去年今年スウィングジャズにゆれながら

 好きなスイングジャズを聴きながらの年越し、良いですね。揺れながらというところ
に、リラックスした様子が感じられます。

101	吸入器充て発声の歌手気取り

 意味がよく分かりませんでした。発声練習をする歌手は、吸入器をあてるのが一般的
なのでしょうか? 吸入器を口にあてる場合は、「充てる」ではなく「当てる」と書き
ます。

102	休校の庭木の鵯の歓呼かな

 校庭の木を庭木と言うでしょうか? また、鵯の鳴き声が、なぜ歓呼と感じられたの
でしょうか?

103	冬の夜の母の手仕事ラヂオ添ふ

 手仕事をするときには、テレビよりもラジオが良いですね。「夜なべ」等の季語を使っ
て、秋の句として仕立てても良いかもしれません。

104	朱も金も今朝は落ち葉と名を変へぬ

 頭で拵えた理屈っぽい句と感じました。

105	雪はげし水漬きし舟の内外に

 舟が水に漬かるのは当たり前に思います。また、船室がある舟(船)であれば、その
内側に雪が降るというのが変ですし、船室の無い小さな舟でしたら、舟の内外という言
い方はそぐわないように感じます。

106	鴨の陣一羽抜け出て解かれけり

 纏まっていた鴨の群れが乱れる様子を描写されました。「解かれけり」が、鴨が本当
に陣形を組んでいたようで、ユーモラスです。

107	短か日や富士漆黒にシルエット

 私の調べた限りでは、短歌には「短か日」という言葉の使用例はありますが、「短か
日」という季語は無いようです。また、シルエットは黒いものですから、「漆黒に」は
不要と思います。

108	ちろちろと囲炉裏なつかし山の宿

 ちろちろは、囲炉裏の火が燃える様子の描写でしょうが、平凡なので無くても良いよ
うに感じました。また、「なつかし」は作者の主観ですが、そう言わなくても、囲炉裏
と言うだけで懐かしさは読者に伝わります。

109	漣の彩なす水面紅葉川

 綺麗な景ですが、残念ながら季語の説明を出ていないように感じました。

110	散りやまぬ五色の紅葉マリア像

 紅葉の微妙な色合いを言いたいのだと思いますが、五色だとどうしても青・黄・赤・
白・黒の五色を思い浮かべてしまいます。

111	欠航の報せ受けたる虎落笛

 欠航の知らせを受けたのは、虎落笛ではなく作者でしょうから、中七は「受けたり」
と切った方が良いと思います。

112	雨音に毛糸編む棒止まりけり

 急に強い雨音が聞こえてきたのでしょうか? もっと静かな方が、毛糸編みの景に似
合うような気がします。毛糸編む手を止めて聴く雨の音

113	朝光に花びらの如散る樹氷

 花弁のように樹氷が散るというシーンが、想像できませんでした。朝光は、「あさか
げ」と読ませるのでしたら、「朝影」と表記された方が良いと思います。

114	蒼天に樹氷の峰の聳え立つ

 樹氷の峰は、樹氷がある山の峰という意味と思いますが、樹氷は近景、峰は遠景で、
作者がどちらを見ているのか不思議に思いました。

115	迷ひ込むうだつの路地や暮早し

 どちらで詠まれた句でしょうか? 吟行句会で出されると高評価となりそうに思いま
した。

116	ぼつぼつとわづかを重ね年用意

 見習いたい心がけですが、具体的な映像が無く、ちょっと理屈っぽい句と感じました。

117	あくびして口閉ずる間に去年今年

 面白い句ですね。年が変わる瞬間にジャンプするというのが、ちょっと前に流行った
のを思い出しました。

118	冬日向沓脱ぎ石に鳩のゐて

 穏やかな景ですね。鳩と書けばそこにいることはわかりますので、「ゐて」は省いて
推敲したいところです。

119	茶の花や庭より覗く武家屋敷

 観光地でしょうか? 「庭より覗く」という具体的な動作が、季語と相まって、作者
の立ち位置や周りの雰囲気も伝わります。

120	バス停のベンチに残る冬帽子

 小さな子の、毛糸の帽子を想像しました。なんとか、落とし主のところに戻ると良い
ですね。

121	廃線のバス停跡を枇杷の花

 鉄道が廃線となると同時に、駅前のバス停も無くなってしまったのでしょうね。「バ
ス停跡を」の「を」の意図がよくわかりませんでした。

122	寄鍋や愚痴と本音のこぼし合ひ

 鍋を囲みながらの忌憚のない会話ですね。ちょっと川柳的に感じました。

123	口遊む昭和歌謡や落葉掻

 情景が見えますが、「昭和歌謡」がやや漠然とした感じですので、もうちょっと具体
的に絞れればと思いました。最近は、落葉を集めても、焚火をして芋を焼いたりするの
は難しくなってしまいましたね。

124	クリスマス近し独りのサラダバー

 句意がよくわかりませんでした。一人で飲食店等のサラダバーを利用するのは、私に
とってはごく普通のことなのですが、作者は特別な感慨をお持ちなのでしょうか?

125	水鳥の波紋広がる凪の湖面

 水鳥がじっとしていれば波紋はできないので、波紋を起こした水鳥の動きがわかると
良いと思います。切れを入れて下五の字余りも解消したいですね。「凪の湖面」は「湖
(うみ)」の一言で大丈夫と思います。

126	清き空日蔭に残る霜柱

 日陰に霜柱が残っているというだけでは、句材として物足りなく感じました。


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