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選句結果
     
第300回目 (2024年11月) HP俳句会 選句結果
【  関根切子 選 】
  特選 我もまた父似の頑固吾亦紅 よりこ(愛知県)
   秋晴や白く輝く科学館 岩田 勇(愛知県)
   縁先に移す物干し冬隣り      雪絵(前橋市)
   築地塀続く寺町冬に入る 康(東京)
   夕映の川に水鳥影落とす 田中由美(愛知県)
   柿をもぐ吾を烏の見てをりぬ 後藤允孝(三重県)
   茶の花の蕊に溢るる雨雫 かれん(埼玉県)
   箒目に霜うつすらと今朝の庭 町子(北名古屋市)
   古民家の錆びし農具や石蕗の花 水鏡(岐阜県)
   白菜の尻美しき朝日差 まこと(さいたま市)
【  松井徒歩 選 】
  特選 新酒酌む二人に過ぐる二合かな りきお(秋田県)
   秋晴や白く輝く科学館 岩田 勇(愛知県)
   北山に踊る風神冬間近      福山三歩(栃木県)
   不来方の宿の湯けむり冬隣 粗稲沖(埼玉県)
   水甕に一つ水の輪照紅葉 百合乃(滋賀県)
   銀黒の瓦眩しや冬日差 のりこ(赤磐市)
   黒猫の金の瞳や秋の暮 伊藤順女(船橋市)
   長坂へ紅葉かつ散る仁王門 蝶子(福岡県)
   燭一つ揺るる札所や冬に入る 蝶子(福岡県)
   一病の米寿ことほぐ栗の飯 惠啓(三鷹市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 リハビリにつき合う散歩石蕗の花 佐藤けい(神奈川県)
   我もまた父似の頑固吾亦紅 よりこ(愛知県)
   さざ波は湖の微笑み番い鴨      みのる(大阪)
   鯔飛んで空にも海のあるごとし 正憲(浜松市)
   行く秋や地蔵にもらす独り言 後藤允孝(三重県)
   星屑のごとき花殻金木犀 ようこ(神奈川県)
   子の悩み聞く湯豆腐の箸止めて 原洋一(岡山県)
   ときどきは句集に栞大根煮る 町子(北名古屋市)
   口切やすっと抜けたるしつけ糸 伊藤順女(船橋市)
   小春日や螺子の緩みし置き時計 小豆(和歌山市)
【  玉井美智子. 選 】
  特選 行く秋や地蔵にもらす独り言 後藤允孝(三重県)
   築地塀続く寺町冬に入る 康(東京)
   手水舎の柄杓あたらし神迎      ようこ(神奈川県)
   子の悩み聞く湯豆腐の箸止めて 原洋一(岡山県)
   箒目に霜うつすらと今朝の庭 町子(北名古屋市)
   カレンダーのアルプスを這ふ冬の蠅 櫻井 泰(千葉県)
   小春日や螺子の緩みし置き時計 小豆(和歌山市)
   菊の雨白寿の喪主の声掠れ 麻里代(和歌山市)
   燭一つ揺るる札所や冬に入る 蝶子(福岡県)
   蔓曳けば零余子ぽろぽろ顔を打つ 野津洋子(愛知県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、よりこさん(愛知県)、後藤允孝さん(三重県)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


         2024年11月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	秋夕焼刈田起しにカラス付く

<カラス付く>がどういう状況なのか分かりませんでした。

2	夕暮れに遅れて沈む金木犀

<沈む金木犀>とはどういうことでしょうか?暗くなって見えなくなったということで
すか?

3	翁面見詰めてふつと秋あはれ

もの思う秋でしょうか。作者の心象がやや抽象的だと思いました。

(国枝評)「ふつと」のあいまいな表現、また「秋あはれ」の主観も気になりました。
客観的でもので写生したいと思います。そこにはあいまいな主観はないと思います。

4	秋晴や白く輝く科学館

<輝く>に科学の希望を感じました。

5	心地よき風に障子を洗ひをり
 
<心地よき>が生の感想のように思います。

6	手に採れば思はぬ軽さ鬼柚子黄

 やや感想気味でしょうか。

7	火恋し人も恋しや風の音

「火恋し」の説明の句のように感じました。

8	ファクシミリ淡くひかるや虫の声

受信ランプの点滅でしょうか?季語が程よく効いているように思いました。

9	天高し金の鯱千代美草

<千代美草>の検索で苦労しました。<千代見草>というのもあって、植物、菊と松の
別名、どれなのかよく分りませんでした。それとは別に上五と中七で切れますので三段
切れですね。

10	冷まじや闇のバイトのいかるまへ

<いかるまへ>が分かりませんでした。漢字の方が良いのでは・・・。

11	北山に踊る風神冬間近

京都の北山だと思いますが、風神が踊るという見立てが京都らしくて面白いと思いまし
た。

12	衰えし節々たぐる掛蒲団

布団を手繰るのですから、<節々>の後に助詞が必要だと思いました。

13	秋蝶の何処にも仲間見当たらず

秋の蝶の孤独ですがやや説明でしょうか。

1 4          秋灯り点らぬ日々の両隣

灯りの点かない両隣が心配なのは分かりますが報告気味の句のように思えます。

15	古里離れず逝く父母よ星流る

亡くなられた人に「星流る」は即きすぎだと思います・

16	雁渡し金管楽器の音冴える

中八ですので中七に直してください。

17	野良猫に餌やる老婆枯木立

 よく見かける光景をそのまま句にしていますね。こういう句は季語が何よりも大事に
なりますが、老婆に「枯木立」は近すぎるように思います。

18	ご贔屓の松茸届く相撲部屋

<ご贔屓>は後援者のことだと思いますが、省略のしすぎのような気がしました。

19	公園のスワンボートを漕ぐ小春

まとまっている句なのですが、もう少し季語を冒険してみてはどうでしょうか。

20	縁先に移す物干し冬隣り

二階のベランダまで行くのが大変になったのでしょうか。身につまされますね。

21	風出てさざ波の解く鴨の陣

 <風出て>に因果関係を感じますが<さざ波の解く>は良いですね。

22	佳句成つて秋の日の暮れ易き

六・五・五の句ですか?

23	柏手を高らかに打ち七五三

報告気味の句のように思えます。

24	秋天へクレーンの先の伸びるのびる

元気の良さは分かりますが、五七五の定型に収めてください。<先の>の<の>を省略
すれば何とかなるように思いますが。

(国枝評)「伸びるのびる」とリフレインとしたのはぐんぐんと伸びることを言いたかっ
たのだと思いましたが、やはり5・8・6と破調にしたのは気になりました。定型で詠
めるような気がしました。

25	我もまた父似の頑固吾亦紅

季語の収め方が巧みですね。

国枝隆生氏評===============================

自画像に「吾亦紅」が効いていると思います。

======================================

26	初時雨湖に寝息のありにけり

 ロマンチックな表現ですが湖の寝息が分かりませんでした。

27	さざ波は湖の微笑み番い鴨

 <微笑み>ですが、前句よりは分かるような気がしました

国枝隆生氏評===============================

「さざ波」の見立てがユニーク。「番い鴨」をやさしく見ているようです。

======================================

28	築地塀続く寺町冬に入る

形のしっかりとした句ですね。

(国枝評)いかにも寺町らしく穏やかな写生の句。

29	木枯やテロを伝へる手話ニュース

 <手話ニュース>がややぞんざいな言葉のように感じました。
	
30	秋灯昏し信玄の隠し湯の

語順を変えてもう少しすっきりとした句にしてはどうでしょうか。

(国枝評)下五を「に」の所有格で言いさした表現を時々見かけます。上五へ戻る意図
があると思いますが、やはり言いさした形で止めるのは気になりました。

31	築山や紅葉かつ散る宵フェスタ

築山のある庭園で色々な出店の出ている光景でしょうか?面白そうですが、しっかりと
した景が浮かびませんでした。

32	@二日目のカレーぐつぐつ秋惜しむ
	
カレーの<ぐつぐつ>は常識ですので、香とか色とか他の所に目を付けてみてはどうで
しょうか。でも二日目のカレーは美味しいですよね。

33	A林檎剥く面会用のパイプ椅子

 入院中の誰かの横で林檎を剥いているのでしょうか?

34	右手掲ぐクラーク像や鰯雲

<掲ぐ>は終止形ですので、中七でも<や>で切れていますから三段切れになると思い
ます。

35	うどん屋の出汁の香りや秋の暮

美味しそうですね。季語の効果もあって益々食欲が湧きます。

36	夕映の川に水鳥影落とす

 素直に水鳥の姿を描写していますね。

37	単線の踏切越ゆる秋の暮

 前句と同じ感想です。

38	散髪を終へて出でればはや月夜

 <出でれば>は省略できると思いました。

39	不来方の宿の湯けむり冬隣

 <不来方>は岩手県の盛岡市のことだそうですね。始めて知りました。季語も効いて
いて良い句だと思います。

40	風の盆粧へる汝と見惚れゐる

 <粧へる>の措辞でどんな人かな?と相方の女性?に注目が行きます。そして<見惚
れゐる>で「風の盆」にも注目が行く。注目すべきは一つだけにしたほうが良いと思い
ます。

41	秋風や月の砂漠のあらき砂

 <月の砂漠>は本物の月か、作者の心象風景かどちらでしょうか?

42	水甕に一つ水の輪照紅葉

静かな描写でよろしいかと思います。

43	かんたんに大根ぬけて大吉かな

下六を五音に推敲してください。

44	片隅の任侠の墓雁渡し

どんな人なのか分かると良いですね。

45	鯔飛んで空にも海のあるごとし

 言われてみればればそうかなあ、という句。

国枝隆生氏評===============================

空に海があるはずがないことを一つの見立てとして面白い句。

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46	小春日の在りどころ知る野猫かな

 <小春日の在りどころ>がよく分かりませんでした。小春日の良い場所を心得ている
というようなことでしたら、もっとすっきりとした言回しがあるように思います。

47	湖小春余呉を称ふる句碑二つ

 路通と誓子の句碑でしょうか。余呉湖は上のほうから見下ろしたことがありますが、
静かで良い所のようですね。

48	行く秋や地蔵にもらす独り言

 今少し掴みどころが見えてこない、という感じでした

国枝隆生氏評===============================

地蔵を相手に独り言をもらすのも秋の終わりらしい句。

======================================

49	柿をもぐ吾を烏の見てをりぬ

鳥も柿を狙っている様子でしょうか。

50	秋気澄む焼場の職員骨を褒む

中八を直してほしいです。

51	墨の香をしたたむる書や秋澄めり

 <したたむる>を省略して<墨の香>がもっと際立つ描写をしてはどうでしょうか。

52	コンビニのレジ湯気立ちぬ冬立ちぬ

 <立ちぬ>のリフレインがややうるさく感じました。

53	冬雲の空の波頭の如く立ち

 冬雲と空が言葉として被さっているように思いました。

54	冬浅しああそれは讃美歌だよね

 誰か相手がいてその人が何か口遊んだ。それを作者が「讃美歌だよね」と言ったので
しょうか?

55	里山の姿出しけり濃霧晴れ

 霧が晴れて姿を表したという因果関係の句のように思えます。

56	九十の老いで止めたる菊づくり

 九十歳まで菊づくりをなさっていたことは尊敬に値しますが、俳句作品としては報告
気味のように思えます。

57	過疎の村紅葉祭りや冬はじめ

「紅葉祭り」「冬始め」と秋と冬の季語が混ざっています。どちらか一つにしたほうが
良いと思います。

58	銀黒の瓦眩しや冬日差

 手堅くまとまった句だと思います。

59	研ぎ過ぎた鉛筆のごとき冬来る

 中八ですので「研ぎ過ぎた鉛筆のごと冬来る」としてはどうでしょうか。

60	茶の花の蕊に溢るる雨雫

(国枝評)細かい観察の行き届いた句。

61	ひざ掛けに伸ばす足首テレワーク

「膝掛け」は膝の上にあるのだと思いますが、助詞は<に>で良いでしょうか?

62	手水舎の柄杓あたらし神迎

「神迎」に相応しい景ですね。

63	星屑のごとき花殻金木犀

国枝隆生氏評===============================

金木犀を星屑と見立てたのが分かりやすい比喩の句。

======================================

64	子の悩み聞く湯豆腐の箸止めて

 季語から察するにそこそこの年代のお子さんのようですね。しかも<箸止めて>です
とそこそこ真剣な悩みでしょうか。

国枝隆生氏評===============================

父親と息子だろうか。夕食時に子の悩みを聞いている場面がほのぼのとした句。「湯豆
腐」を食べている時がさりげなくてよいと思いました

======================================

65	人はみな背負ふものあり冬の星

調べよくできていますが、こういう教訓めいた句は余程「はっと」させる句でないと成
功しないと思います。
 
66	雨だれの止まりて進む神の留守

 雨垂れが進むという表現が?でした。

67	教会の屋根に一式干す蒲団

 面白い句ですが<一式>は他の言葉に替えた方が良いように思います。

68	箒目に霜うつすらと今朝の庭

 素直な写生の句ですね。

69	ときどきは句集に栞大根煮る

 句集を読みながら時々大根の様子を見るのですね。

国枝隆生氏評===============================

大根を煮ながら句集を読んでいるのだろうか。ときどき句集に栞を挟みながらの厨仕
事に戻るのが実感の句。

======================================

70	早足の冬の訪れ今朝の風

 朝の風に冬の気配を感じたのですね、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音に
ぞおどろかれぬる」を思い起こしました。

71	古民家の錆びし農具や石蕗の花

 寂しげな「石蕗の花」が似合っていますね。

72	月影に踊り明かせや曼殊沙華

 踊り明かすのは「曼殊沙華」?
 
73	大蟷螂に無沙汰を詫びて墓参

私の頭が固いのかもしれませんが、こういう擬人化の句は付いて行けません。

(国枝評)「蟷螂」にわざわざ「大」をつけて,上七にした意図がよく分かりませんで
した。

74	スマートフォンのそと小春日和かな

ヴァーチャルではない現実世界を<スマートフォンのそと>と捉えたのが面白いと思い
ます。

75	まゑがきのやう冬の風伝おろし

<まゑがき>が分かりませんでした。

76	寒オリオン神々は人争はす

 争いの本質を捉えていない主観的な句だと思います。

77	カレンダーのアルプスを這ふ冬の蠅

 カレンダーのアルプスに「冬の蠅」という素っ気ない句ですが、そこはかとない俳味
を感じますね。

78	黒猫の金の瞳や秋の暮

 <金>が当たり前かもしれませんが、何の主張もなくすっきりとした句でよろしいか
と思いました。

79	口切やすっと抜けたるしつけ糸

 季語との関連に悩みましたが国枝さんのコメントで納得しました。

国枝隆生氏評=============================== 

「口切」は炉開きの日に新茶の茶壺の封を切ることで,冬の季語。口切りの特別な日
に特別な装いをしたのであろうか。しつけ糸を抜いた新調の着物を着た喜びが見える
ようです。

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80	落鮎の簗小走りの男達

 <小走りの男達>がどういうものなのか判然としませんでした。

81	白菜の尻美しき朝日差

(国枝評)白菜の尻という面白いところに美を発見した句で、これも写生に忠実な句。

82	小春日や螺子の緩みし置き時計

国枝隆生氏評===============================

使い古した置き時計のゆるんだ螺子に着目したのがいかにも冬の暖かい様子にぴったり。

======================================

83	七五三いつしか子等は中高生

 意味はよく分かるのですが・・・。お子さんたちの具体的な様子を描写して欲しいで
す。

84	富有柿齧り一服警備員

 <一服>が説明だと思います。

85	菊の雨白寿の喪主の声掠れ

九十九才ですと逆縁でしょうか。それでなくてもご夫婦でしたら長く連れ添ってきたの
ですから悲しいでしょうね。

86	新酒酌む二人に過ぐる二合かな

ご夫婦でしょうか。幸せそうですね。

87	彩りに魔法をかけし秋日かな

主観の勝った句のように思いました。

88	長坂へ紅葉かつ散る仁王門

長坂が長い坂なのか地名なのか迷いましたが、よく分る光景ですね。

89	燭一つ揺るる札所や冬に入る

しっかりとした写生の句だと思います。

(国枝評)穏やかな写生句。素直な発見がよいと思いました。

90	蔕つけて熟柿ぽたりと草の上

<ぽたり>に熟柿の雰囲気が出ていますね。

91	蔓曳けば零余子ぽろぽろ顔を打つ

 前句もそうですが落ちるという動詞を省略しているのが良いと思います。

92	電車待つスマホの列やそぞろ寒
 
今時の風景ですね。もう少し風刺が効いていると良いのですが。

93	凪の湖面ひかり色増す照紅葉

音数以上に言葉の数が多いように感じました。

94	リハビリにつき合う散歩石蕗の花

何処となく寂しい花の季語が効いていますね。

国枝隆生氏特選評===============================

身につまされる句です。丁度私も体調がよくなく、体力維持のためウオーキングしてお
り、妻につきあって貰っています。「石蕗の花」の取り合わせが冬らしさとともに効い
ています。

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95	秋の風コンビニとなる生家跡

生家の跡が再利用されれば結構なことですが、やはり少し寂しいですね。

96	一病の米寿ことほぐ栗の飯

完全な健康ではなくともとりあえず米寿を祝う。季語から事足りた気分が伺えます。

97	庭先に雀群れ来る小春の日

平和で心が和らぐ句ですね。

98	天地を切り裂くごとく鹿の声

必ずしも季語の本意に添うのが必須ではありませんが、比喩が大袈裟かなと思いました。

99	道神の餅押すこゆび鰯雲

小指で押すのが可愛くもあり滑稽でもありますね。


第299回目 (2024年10月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 束の間の夕日捉へて零余子落つ 後藤允孝(三重県)
   色褪せてあはれ外なき吾亦紅 岩田 勇(愛知県)
   シャッターに移転の知らせ虫すだく      大原女(京都)
   線刻の馬頭観音夕芒 康(東京)
   あつあつに卵ぶつかけ今年米 原洋一(岡山県)
   新米の粥を病の妻に炊く みのる(大阪)
   菊切って掌に残り香のある日かな みのる(大阪)
   人形の硝子の瞳そぞろ寒 石塚彩楓(埼玉県)
   揺れ易き人の心や秋桜 小豆(和歌山市)
   郷望む墓の法要柿紅葉 惠啓(三鷹市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 あつあつに卵ぶつかけ今年米 原洋一(岡山県)
   点々と残る十軒峰の月 福山三歩(栃木県)
   投句箱隠す古刹の乱れ萩      雪絵(前橋市)
   秋の暮胸張つて鳴く鳩時計 近江菫花(滋賀県)
   蒼穹や荻の葉さやぐ古戦場 みぃすてぃ(神奈川県)
   西塔の跡は石文いわし雲 みぃすてぃ(神奈川県)
   ペダル漕ぐ坂軽やかに鰯雲 のりこ(赤磐市)
   新米の粥を病の妻に炊く みのる(大阪)
   笑い声漏れて診察室も秋 中村汗駄句(福岡県)
   虫の闇ほのかに照らす街路灯 美由紀(長野県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 密室のトリック解けず夜食とる ようこ(神奈川県)
   投句箱隠す古刹の乱れ萩 雪絵(前橋市)
   蒼穹や荻の葉さやぐ古戦場      みぃすてぃ(神奈川県)
   西塔の跡は石文いわし雲 みぃすてぃ(神奈川県)
   シャッターに移転の知らせ虫すだく 大原女(京都)
   道草の好きな少年木の実落つ 大原女(京都)
   定年なき庭師の夫に秋刀魚焼く 鷲津誠次(岐阜県)
   新米の粥を病の妻に炊く みのる(大阪)
   英会話学ぶ七十路新松子 小豆(和歌山市)
   店先に石臼回る走り蕎麦 町子(北名古屋市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 野葡萄や降りみ降らずみ山の雨 美佐枝(千葉県)
   道草の好きな少年木の実落つ 大原女(京都)
   線刻の馬頭観音夕芒      康(東京)
   あつあつに卵ぶつかけ今年米 原洋一(岡山県)
   秘密基地秋空もつと高き頃 粗稲沖(埼玉県)
   新米の粥を病の妻に炊く みのる(大阪)
   菊切って掌に残り香のある日かな みのる(大阪)
   紅葉且つ散る石畳馬籠宿 筆致俳句(岐阜市)
   英会話学ぶ七十路新松子 小豆(和歌山市)
   十六夜の闇にきらりと白銅貨 野津洋子(瀬戸市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、原洋一さん(岡山県)とみのるさん(大阪)でした。「伊吹嶺」10月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2024年10月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	白秋の遠き峰々うす紫

 白秋は五行説を元にした秋の異称です。白と薄紫がまことに爽やかですが、下五が字
余りなのが残念です。

2	色褪せてあはれ外なき吾亦紅

 「あはれ外なき」が主観で、説明的な句に感じました。

3	点々と残る十軒峰の月

 奥山ひろ子氏評===============================

 小さな村の光景だと思いました。街灯が少なく、街の明かりがない、漆黒の闇が想像
され、こうこうとした月が稜線を照らしていて美しいと思いました。    

 ======================================

 山の峰にかかる月ですから、夜の早いうちに見える三日月でしょう。以前はもっとた
くさん灯っていた家々の明かりも、今や十軒ほどになってしまった。寂しい山里の秋で
す。

4	燈火親し子が写メールのカテドラル

 子供さんが旅行先から送ってきた画像を、秋灯下で見ているところでしょうか? 遠
藤周作の秋のカテドラルという初期の作品を思い出しました。ちなみに、「写メール」
はJ-Phone(現ソフトバンク)の登録商標です。

5	秋桜風の喝采浴びにけり

 コスモスと言えば、風に揺れる様が浮かびますね。コスモスが喝采を浴びるというよ
り、コスモスが喝采しているようです。

6	投句箱隠す古刹の乱れ萩

 奥山ひろ子氏評===============================

 あまり手入れされていない萩のようですね。投句箱をも隠すほどあれた状態で荒涼と
した印象をうまく表現なさっていると感じました。

 ======================================

 寺社などに、自治体などが募集している俳句の投句箱が置かれていることがあります
が、いつの間にか萩が茂って、それが隠れてしまったのですね。投句する人が少ないの
でしょうか?

7	秋の暮胸張つて鳴く鳩時計

 奥山ひろ子氏評===============================

 面白い句材ですね。季節はいつでもよさそうですが、「秋の暮」で少し涼しくなって
きて、時計の鳩も元気を回復したかのようです。

 ======================================

 鳩胸という言葉があるくらいですから、鳩が胸を張ったように見えるのは当たり前な
のですが、改めて言われるとなるほどと思います。ちょっと季語が動くように感じまし
た。

8	遠回りした帰り道蚯蚓鳴く

 「蚯蚓鳴く」は架空の季語ですが、秋の帰り道の寂しげで心細い様子が感じられます。

9	蒼穹や荻の葉さやぐ古戦場

 奥山ひろ子氏評===============================

 秋の青空の下の古戦場。荻の風が吹いていて、風情があります。

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 無季の句でしょうか?「萩若葉」は春の季語ですが、「萩の葉」は手元の歳時記を見
た限りでは載っていませんでした。「蒼穹」も「さやぐ」も季語ではないと思います。

追記:申し訳ありません。萩ではなく荻でしたね。見間違いました。「荻」が季語です
   ね。

10	西塔の跡は石文いわし雲

 奥山ひろ子氏評===============================

 大きなお寺の西塔跡を詠まれたのですね。今は石文しかない西塔跡から視点が上に向
き、「いわし雲」の季語で景が広がりました。広々とした気持ちの良い御句だと感じま
した。     

 ======================================

 現存しない西塔の跡に石碑が建っているのですね。碑文を読んで空を仰ぎ、昔に思い
を馳せている作者の様子が浮かびました。

11	蓑虫を見つく夕暮れ雨後の枝

 蓑虫は鬼の捨て子で「父よ父よ」と鳴くと言われています。(実際は鳴きませんが・
・) 秋の夕暮れに濡れそぼつ蓑虫は哀れみを誘いますね。

12	赤とんぼ覗きて庭の稲荷様

 赤蜻蛉が稲荷の祠の前に浮かんでいるのを、祠を覗いていると見立てたものと思いますが、稲荷が赤蜻蛉を覗いているようにも読めます。

13	シャッターに移転の知らせ虫すだく

 移転したことを知らず、久しぶりに行ってみたレストランか何かでしょうか? うる
さいほどの虫の声が、かえって寂しさと落胆を増幅させます。でもまぁ、廃業ではない
ようですから、移転先に行く楽しみが出来ましたね。

14	道草の好きな少年木の実落つ

 「木の実降る」だと、木の実がひっきりなしに落ちてくる様ですが、「木の実落つ」
だと、突然一粒の木の実が落ちて来た感じですね。驚きと興味の尽きない少年の輝く眼
が浮かんできます。

15	猛残暑名月やけた令和六

 確かに今年の春から秋にかけての暑さは異常なほどでしたが、残暑のために中秋の名
月が焼けたというのは、季重なりでもあり、理屈っぽい見立てに感じました。下五も無
理やり感があり説明的です。

16	天高し句作推敲止めにけり

 気持ちの良い秋天下、句作や推敲を止めてしまう理由がわかりませんでした。

17	修復の塔の相輪鰯雲

 修復されているのが相輪であれば「塔の相輪」と言う必要はありませんので、修復さ
れているのは塔そのものなのでしょう。作者の視点が明確で、相輪の上に広がる鰯雲が
見えて来ます。

18	線刻の馬頭観音夕芒

 馬の守護神である馬頭観音が祀られていることから、かつての街道筋であると思われ
ます。しかし、立派な彫刻ではなく線刻ですから、あまり栄えた場所ではなかったので
しょう。日暮れの色に染まる芒が寂しげです。

19	秋茄子けさも糠床よき加減

 生活に密着した句で、丸々とした美味しそうな秋茄子が浮かびます。程よく漬かった
糠漬けで一杯やりたいですね。上五は、「秋茄子や」と切字を使うのも良いと思いまし
た。

20	壬生屯所長押に秋思刀傷

 芹沢鴨が暗殺されたのは九月。そこに秋思を感じたのでしょうか? ちょっと、八木
邸の観光案内的にも感じました。

21	句を学び文字を習いて吾亦紅

 いくつになっても新しいことを学ぶのは楽しく、希望が湧きますね。季語は、心に
ぽっちりと点いた紅い灯か、「われもこうありたい」という願いか?

22	ペダル漕ぐ坂軽やかに鰯雲

 奥山ひろ子氏評===============================

 「坂軽やかに」とは余裕ですね。電動自転車でしょうか?「鰯雲」の季語が、気持ち
よい天候を語っていていいと思いました。

 ======================================

 下り坂であればペダルを漕がなくても良いし、視線も下を向いてしまうので、上り坂
でしょうね。電動アシスト自転車を試乗したことがありますが、後ろから誰かに押され
ているように軽やかなのに新鮮な驚きを覚えました。鰯雲も軽やかに秋空に浮かんでい
ます。

23	あつあつに卵ぶつかけ今年米

 奥山ひろ子氏評===============================

 「ぶつかけ」の措辞はぶっきらぼうな表現のようですが、おそらく食べている人が腹
ペコでぶっきらぼうではないかと推察しました。何ともおいしそうです。

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 炊き立て新米の卵かけご飯、最高ですね。鶏卵を生食する習慣のある国は少ないそう
ですが、この国に生まれた幸せを感じます。

24	柿のれん燃え立ちさうな日和かな

 軒下に吊るされた干し柿を指す柿簾(かきすだれ)という季語はありますが、柿のれん
という季語は無いようです。辞書によると、柿のれんは柿色の暖簾または、それを良く
用いた下級の遊女のことを言うそうです。

25	秋の日や庭師の訛りわが豊後

 来てもらった庭師が、偶然同郷だったのですね。話が盛り上がったことでしょう。季
語にもう一工夫欲しいような気がしました。また、「わが豊後」と土地を限定するよりも、「わが故郷」や「同郷」などとした方が、共感を得られる読者の幅が広がると思います。

26	新米を食ぶ幸せよ箸の国

 同感です!! ただ、「幸せ」と言わずに幸せな気持ちを伝えるのが俳句です。

27	今年米炊いて越後の酒を酌む

 もちろん米も越後産でしょうね。実は私も、御飯物で酒を飲むのが大好きで、寿司や
丼物はもちろん、卵掛け御飯やおにぎり(おにぎらず)なども良い肴になります。

28	真夜までも踊る阿呆の下駄の音

 この場合、「阿呆」はほめ言葉でしょうね。下駄の音とありますので、女踊りと思い
ます。「真夜までも」がやや説明的ですので、夜中であることが分かるような具体的な
景に工夫すると更に良くなると思いました。

29	雲疾し雨のけはひの花野道

 最近は天気が急変することが多く、油断できません。天気が良いからと思って出かけ
たピクニックも、急に降られたりしますね。不安そうに雲の行方を見上げながら、野道
を急ぐ様子が窺えます。

30	秘密基地秋空もつと高き頃

 そう言われてみれば、子供の頃に見上げた空は、もっと高く感じたかもしれません。
私も子供の頃は秘密基地をたくさんたくさん作りました。今も、時折缶ビールを持って
出掛ける河川敷の土手の片隅を、秘密基地と称しています。

31	定年なき庭師の夫に秋刀魚焼く

 定年なき庭師の夫君は、いつまでも働けて幸せと思っているのか?働かなくてはなら
なくてうんざり・・と思っているのか?? いずれにしても、今日も働いてくれている
夫君に感謝しつつ、やっと値が落ち着いてきた秋刀魚を焼いて、今日の労をねぎらうの
ですね。

32	野葡萄や降りみ降らずみ山の雨

 古語がうまく使われ、素朴さと格調を併せ持つ一句となったと思います。

33	引き算の余生となりぬ菊の酒

 引き算の余生とは、ゴールを決めて、そこから年齢をマイナスして行くということで
しょうか? 昨年私の父が亡くなったときに友人が、「戦争で死んだはずの少年兵(父)
が、その後80年も生きたんだから大儲けだっぺ(福島弁)」と言ってたのを思い出しまし
た。こういう足し算の考えもありますね。

34	鷹渡る羽満帆の海の風

 海風に乗って渡る鷹の様子が描かれています。上昇気流を捉えて高度を稼ぐ鷹の飛び
方と、追い風を受けて膨らんだ帆の様子を言う「満帆」という表現が、ちょっとそぐわ
ない気もしました。

35	秋冷の海へ翔びゆく斑蝶

 秋冷(秋)と斑蝶(春)の季重なりが気になりました。

36	死ぬ振りす小さき虫にも生くる術

 天敵をやり過ごすために死んだふりをするということでしょうが、理屈が勝ってしま
い、詩的でなくなってしまいました。

37	コスモスの停止ゆるさぬ河原風

 理屈っぽい句に感じました。風に揺れる様子は、すでにコスモスという季語に含まれ
ています。

38	年長けてもどる故郷青田風

 故郷に帰った感慨が詠まれていますが、春夏秋冬どの季節の様子を詠んでもそれなり
の句になる、いわゆる「季語が動く」ようにも感じました。

39	夕映えに色ます紅葉多宝塔

 紅葉に囲まれた多宝塔が夕日に照り映えて綺麗ですね。

40	新米の粥を病の妻に炊く

 奥山ひろ子氏評===============================

 奥様へのやさしさにあふれた一句。

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 お粥に込める奥様への思いが伝わって来ます。切れが無く散文的なのが惜しいと思い
ました。

41	菊切って掌に残り香のある日かな

 「ある日かな」に、その日に特別感を覚えていることが表現されていますね。

42	大陸の風に包まれ色鳥来

 「大陸の風に包まれ」は具体的な景が浮かばず、頭で拵えた句のような感じを受けま
した。

43	星月夜なんとにぎやかなる静寂(しじま)

 「にぎやかなる静寂」は面白い表現ですね。ただ、それを狙い過ぎているような感じ
も受けてしまいました。

44	豆腐屋の水船に揺れ十日月

 豆腐屋の水が船に揺れているのか? 豆腐屋が水船に揺れているのか? と悩みまし
たが、豆腐屋の水船に十日月が映って揺れているということですね。屋内の水船の水は
風で揺れたりしないでしょうし、月が映るというのも難しいでしょうから、屋外にある
水船でしょうか?

45	秋天へ鏝を盛り上げなまこ壁

 「秋天へ鏝を盛り上げ」だと、たくさんの鏝を積み重ねているようです。鏝で漆喰を
盛り上げているという意味かとも思いましたが、そうすると「秋天へ」の意味がわかり
ませんでした。

46	モザイクの積み木の先や月天心

 景がよくわかりませんでした。モザイク柄の積み木を夜の屋外で積んでいるのでしょ
うか? それとも、「モザイクの積み木」は何かの比喩でしょうか?

47	一通の遺書に添えけり曼珠沙華

 状況がよくわかりませんでした。作者御自身が遺書を書いたのか、誰か他の人の遺書
なのか? 誰か宛ての遺書が何通もあるということは通常無いでしょうから、「一通の」
の代わりに誰の遺書かわかるような言葉を入れては如何でしょうか?

48	尉鶲まだ翔ぶ空を決めかねて

 「まだ翔ぶ空を決めかねて」とは、具体的にどんな様子なのか? 作者はなぜそのよ
うに思ったのかがわかりませんでした。

49	竜胆の手水の誘ふ人の笑み

 手水にはいろいろな意味がありますが、「竜胆の手水」がどんな景を指し、それが何
故人の笑みを誘うのかがわかりませんでした。

50	遅咲きの曼珠沙華枯るるは早し

 事実かもしれませんが、その事象のどこに作者が感動したのかが伝わって来ませんで
した。

51	手の平をふはり秋天薊の毛

 掌に乗せた薊の綿毛(冠毛)が、秋天に飛んだということかと思いますが、意味が取り
にくく思いました。

52	曼珠沙華咲いて咲いても子帰らず

 季語から察するに、お子さんは亡くなったのでしょうか? 「咲いて咲いても」が、
音数を合わせるために無理をしているように感じました。

53	男らしさ吾も乞うなり吾亦紅

 ワレモコウの名称の由来には諸説あるようですが、特に男らしさを乞うという説は見
当たらないようです。

54	束の間の夕日捉へて零余子落つ

 武藤光リ氏評================================

  さりげない晩秋の情景であるが、季節の移ろい、自然と人間の関わり、生者必滅の
真理など、一七文字に集結させた。

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 零余子が「夕日を捉えて落ちる」というのがよくわかりませんでした。風によって落
ちるならば理解できますが、夕日にはそういう力は無いと思います。

55	窓ガラス拭きあぐる朝獺祭忌

 忌日の句は距離感が難しいものですが、この句はなんとなくしっくり来るように思い
ました。

56	コンバイン響く晴間や豊の秋

 コンバインによる米の収穫と「豊の秋」では、季語がやや付き過ぎに感じました。

57	落葉踏み季の味わえる道となり

 「季の味わえる道となり」は、主観であり理屈であると感じました。俳句は自分の思っ
たこと(主観)をそのまま言うのではなく、物に託して思いを伝えましょう。

58	秋茄子漬けて旨さの分かる人

 句意がよくわかりませんでした。旨さの分かる人に食べてもらいたいということでしょ
うか?

59	金風に乗りてノーベル平和賞

 日本被団協の受賞ですね。時事的なことは俳句にそぐわないとも言われますが、季語
の選択がお上手だと思いました。

60	秋の暮君とイヤホン半分こ

 人恋しい季節に肩を寄せ合って・・・・。昔はコードがあったで必然的に寄り添う形
になりましたが、最近はワイヤレスが主流ですから、くっつく理由が無くなってしまっ
た?

61	密室のトリック解けず夜食とる

 読書の秋、ミステリー小説を繙いているのですね。このままでは眠れそうになく、夜
食を取ってまたじっくりと考えるのでしょう。

62	水平線北半球の秋の空

 北半球であることで何を伝えたいのかがわかりませんでした。

63	紅葉且つ散る石畳馬籠宿

 難しい季語がすんなり収まって、馬籠宿の情緒が感じられます。

64	EEZためらはず越え鳥渡る

 鳥には国境もEEZも関係ありません。もっとも、EEZは他国の経済活動が禁じら
れているのであって、船や飛行機の通過は可能です。

65	秋の雨つめたしアスファルトへ消ゆ

 秋の雨が冷たく感じるのは当たり前の範疇で、わざわざ言う必要は無いように思いま
した。

66	隣り家の幼馴染の夜学の灯

 角川合本俳句歳時記によると、「夜学には夜間に開かれる学校と夜間に勉強するとい
う双方の意味があるが、季語としては、前者をいう。」とあります。

67	肩に背に而して禿頭赤蜻蛉

 「而して禿頭」は「そしてとくとう」と読むのでしょうか? 禿げ頭にトンボがとまっ
ているというのは、俳味がありますね。

68	修繕の完璧なるや蜘蛛の網

 報告的で詩情に乏しいように思いました。完璧に修繕された蜘蛛の巣に、作者は何を
思ったのでしょうか?

69	グラシンに模様は透けて秋涼し

 グラシン紙に包まれている物は何なのでしょう?

70	人形の硝子の瞳そぞろ寒

 季語から察するに、作者はこの人形があまり好きではないのかな?と思いました。

71	水音を集めて落とす崩れ梁

 崩れ簗が「水音を集めて落とす」とは、どんな様子なのかがよくわかりませんでした。
梁も「やな」と読みますが、「はり」とも読みますので、簗の字を用いた方が良いと思
います。

72	ドリトル先生の謂れ聞く秋思

 ドリトル先生の謂れをネットで調べてみました。作者が軍用馬の殺処分の現場を見て
ドリトル先生の着想を得たとのことですね。17音に納まっていますが、中七の最初が
「ん」になるので字足らず感があります。

73	笑い声漏れて診察室も秋

 奥山ひろ子氏評===============================

暑さが過ぎ、過ごしやすくなり、診察室からは世間話?も聞こえるといった、町の病院
の様子が感じられました。

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 笑い声と秋のつながりがよくわかりませんでした。どのようなところに秋を感じたの
でしょうか?

74	庭木より聞き慣れぬ声小鳥来る

 聞き慣れぬ鳥の声にハッとした様子が浮かびます。ただ、それも含めての「小鳥来る」
の季語という気もします。

75	利酒やあまり飲むなと言はれても

 酒飲みとして、気持ちはよくわかります。どうせなら利酒などと言わず、ちゃんと飲
んでしまっては如何?

76	コスモスや町の駐在こぢんまり

 大事件などには縁のない小さな町の駐在所ですね。「町の」は無くても良いと思いま
す。また、「こぢんまり」は主観的な言葉ですので、代わりに、駐在所の佇まいを具体
的に写生しては如何でしょうか?

77	渡り鳥翠の湖に小さき空

 名詞が三つだけ提示されていますが、鳥、湖、空がどのような位置関係にあって、作
者はどのような景色を見ているのかがよくわかりませんでした。

78	不夜城の空は危ふし渡り鳥

 不夜城が何を指すのか?また、その空は何故危ういのかがわかりませんでした。

79	畦道に行倒れをる案山子翁

 「行倒れをる」の比喩が眼目かと思いますが、案山子は自分で歩くことはありません
ので、行き倒れという表現はしっくり来ないように感じました。また、この句全体が、
「捨案山子」という季語の説明に感じました。

80	英会話学ぶ七十路新松子

 いくつになっても新しいことにチャレンジする心は素晴らしいですね。季語の斡旋が
お上手です。

81	揺れ易き人の心や秋桜

 警句や小主観は俳句には向きません。また、「揺れる」と「秋桜」はつき過ぎに感じ
ました。

82	苔庭に泛ぶ日の斑や散紅葉

 静かな晩秋の庭園の様子かと思いますが、木漏れ日が作る日の斑と、散紅葉が同時に
存在するのがちょっと不思議に思えました。

83	曼殊沙華の雨のしずくに曼殊沙華

 句の意味がわかりませんでした。或る曼殊沙華から滴る雨のしずくが、下の背の低い
曼殊沙華に落ちているということでしょうか?

84	診療を終え深呼吸いわし雲

 診療を終えたのは医師ではなく患者の方でしょうね。澄んだ秋空にたなびくいわし雲
は、安堵の深呼吸であることを示しています。

85	郷望む墓の法要柿紅葉

 墓じまいのための魂抜きの法要でしょうか? 古木の柿の紅葉が美しくも寂しげです。

86	一掴み重しと言う子稲を刈る

 この子は、稲穂のありがたみを「重い」と言ったのか? 一掴みの稲が重く感じるほ
ど軟弱なのか? どうも後者のような気がしてしまいました。

87	木犀の香の中にあり忘れ数珠

 「忘れ数珠」というものがあるのかと思い、調べてみましたが、特にそういうものが
あるわけでは無いようですね。誰かが忘れた数珠のことでしょう。「木犀の香の中にあ
り」は「木犀や」と省略できますので、もう少し数珠のことを写生しては如何でしょう
か?

88	豊の秋お不動様も笑み浮かべ

 不動明王は憤怒の形相であるものが多く、笑っている不動明王が実際にあるのかどう
かはわかりませんが、豊作だから→不動明王も喜ぶだろうというのは、単純な思いつき
に感じました。

89	対岸のちらちら灯る秋の暮

 対岸の灯は、よく俳句に詠まれるものの一つです。「ちらちら灯る」は描写として工
夫が無いように感じました。

90	杖突きて歩くしかなき冬間近

 「冬間近」という季語は無いと思いますので、「冬近し」「冬隣」等の季語を使って
みては如何でしょうか?

91	被団協平和賞受く秋深し

 ノーベル賞の審査は、「疎にして漏らさず」という感じですね。事柄の句で報告的な
感じもしますが、季語に作者の思いが込められている気がしました。

92	店先に石臼回る走り蕎麦

 「回す」ではなく「回る」ですので、手で回しているのではなく、電気などの動力で
常に回っている石臼で蕎麦粉を挽いているのでしょうね。一年中同じように回っていま
すが、やはりこの季節の新蕎麦は堪えられません。中七を「回る石臼」と切った方が句
が締まると思います。

93	石段に足掬はるる虫の闇

 暗いから足元が良く見えなくて石段に躓いたということを、「足をすくわれた」と擬
人化されました。闇は闇でも「虫の闇」である点が、作者がそれを楽しんでいると感じ
させます。

94	十六夜の闇にきらりと白銅貨

 状況がよくわかりませんが、なにか童話のようなメルヘンを感じる句です。「一粒の
真珠ころがる夏座敷 原裕 」を思い出しました。

95	風を蹴り赤いパンプス秋の朝

 普段は履かない赤いパンプスを履いて、風を蹴るような勢いで向かうのはデートでしょ
うか? 爽やかな秋の一日がどうなるのか、期待が膨らみます。

96	釣り糸のふはりと水に秋澄めり

 水も空気も澄んだ中での釣り。フライフィッシングでしょうね。

97	風涼し工事現場の昼休み

 作業員の方たちが木陰で涼を取っている姿が浮かびます。上五は「涼風や」とした方
が、説明臭さが消え、涼しさが際立つと思います。

98	虫の闇ほのかに照らす街路灯

 奥山ひろ子氏評===============================

 夜は虫たちの世界ですが、ほのかに灯る街路灯。虫という生き物と、人間の作った街
路灯との響き合いが、面白いと思いました。

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 街灯が照らしているところは闇ではありませんが、その奥に虫が集く闇が消されずに
残っているのですね。

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