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選句結果
     
第255回目 (2020年9月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 カンナ咲く小さき折り目の時刻表 いまいやすのり(埼玉県)
   空青しもろこしの畝地平まで 伊奈川富真乃(新潟県)
   鰯雲牛舎の屋根に猫眠る      康(東京)
   星月夜影くろぐろとピラミツド まこと(さいたま市)
   らんちゅうのあとからついてくる尾ひれ うさの(愛媛県)
   直筆のバッハの楽譜秋気澄む 蝶子(福岡県)
   砂浜に破れしTシャツ秋の声 小豆(和歌山市)
   鉄橋の影みだれ無き秋の水 和久(米原市)
   新涼やブックカバーのジャワ更紗 小川めぐる(大阪)
   AIに勝てぬ駒音なき夜長 幹弘(東京)
【  高橋幸子 選 】
  特選 鰯雲牛舎の屋根に猫眠る 康(東京)
   軒低き職人町や秋の蝉 直樹(埼玉県)
   秋晴や駒音高く王手飛車      とかき星(大阪)
   火取虫闇を背負ひて現れぬ 茫々(和歌山市)
   息詰めて番蜻蛉にレンズ寄す 野津洋子(愛知県)
   直筆のバッハの楽譜秋気澄む 蝶子(福岡県)
   コスモスを縫うて介護の車椅子 惠啓(三鷹市)
   鉄橋の影みだれ無き秋の水 和久(米原市)
   雨音にまじる虫の音眠りつく 美由紀(長野県)
   ジャグリングボール七色天高し 小川めぐる(大阪)
【  国枝隆生 選 】
  特選 星空の近寄って来るキャンプの夜 清風(鳥取)
   一鍬に生臭き風落し水 伊奈川富真乃(新潟県)
   芒野は昏れ銀色の風の渦       石塚彩楓(埼玉県)
   月光のそそぐ三和土のひとところ 筆致俳句(岐阜市)
   釣堀に父子黙して鰯雲 伊藤順女(船橋市)
   火取虫闇を背負ひて現れぬ 茫々(和歌山市)
   玄海の潮風甘く烏賊を吊る ふじこ(福岡県)
   コスモスを縫うて介護の車椅子 惠啓(三鷹市)
   鉄橋の影みだれ無き秋の水 和久(米原市)
   新涼やブックカバーのジャワ更紗 小川めぐる(大阪)
【  坪野洋子 選 】
  特選 落蝉の鳴きおさめたる骸かな みのる(大阪)
   灯を落とし虫に渡しぬ庭の闇 雪絵(前橋市)
   病む友に逢はぬも情け風は秋      雪絵(前橋市)
   鰯雲牛舎の屋根に猫眠る 康(東京)
   さやけしや書肆にヘッセの処女詩集 椋本望生(堺市)
   農小屋の端(つま)に置き去る夕月夜 椋本望生(堺市)
   星空の近寄って来るキャンプの夜 清風(鳥取)
   火取虫闇を背負ひて現れぬ 茫々(和歌山市)
   薄紅葉摩周ブルーの水と空 みつぐ(札幌市)
   新涼やブックカバーのジャワ更紗 小川めぐる(大阪)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、康さん(東京)でした。「伊吹嶺」9月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


         2020年9月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

1	待ちに待つ秋刀魚攻めなどほど遠き

<秋刀魚攻め>とは昔は嫌というほど秋刀魚を食べたということでしょうか?

2 久々の深夜放送すがれ虫

懐かしいラジオ番組「ジェットストリーム」を思ったのですが、今でも放送しているそ
うですね。作者の主観のことですから余計なお世話ですが、「すがれ虫」では屈託感が
強すぎるように思いました。「ちちろ虫」ですと常套的ですので、季語は難しいですね。

3 苦も楽も乗り越えて今敬老日

上五中七はお気持ちは分かりますが、感動としての共感を得るのは難しいと思います。
何か一つモノを描写すれば随分良くなると思います。

5 露けしや朝刊のやや湿りあり
 
(国枝)93番とともに秋の湿りを詠んでいる。それが「朝刊」であれ、「庭げた」で
あれ、作者の感性で詠んでいる。微かな湿りを発見したのがよかった。ただともに季語
が「露」に関していることが一寸つき過ぎか。

6 対岸の灯のまたたきや秋の海

 静かでよい景色ですね。

8 カンナ咲く小さき折り目の時刻表

 必要な頁を小さく折る。時刻表を大事に使いたいという細やかな気遣いをさりげなく
表現して、後は季語「カンナ咲く」に託す。何も主張しない静かな句柄に惹かれました。

9 西日差すここもあそこも綿埃

10番と共に 如何にも遣り句という感じで、こういう俳句は中々入選は難しいと思い
ます。

10 新さんま我はわれなりいわし買ふ

11 路地裏の行ったり来たり赤とんぼ

 (国枝)些細なことですが、「路地裏を行ったり来たり」なら分かりやすかったと思
います。「路地裏の」だと赤とんぼに掛かるのでしょうが、離れすぎています。

12 枯ひまわり落武者のやうにうな垂れて

 六・八・五と定型を崩したことによる効果があるかどうか?〈やうに〉と旧仮名を使
うのでしたら、「ひまわり」は「ひまはり」ですね。

13 軒低き職人町や秋の蝉

 予選でいただきました。<軒低き>にそれらしい雰囲気が出ていますね。

高橋幸子氏評================================

<軒低き>がいかにも職人町らしく、景が浮かんできました。「秋の蝉」との映り合い
も、しみじみとした情趣が感じられます。

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14 ハモニカの旋律初秋の風に乗る

 中八ですので中七になるように工夫してください。例えば<旋律>を<調べ>とすれ
ば中七になります。

 (国枝)定型感を大事にしたいと思います。中8はどうしてもリズムを悪くします

15 群れて咲く距離感どこか曼珠沙華

<距離感どこか>が曖昧な言葉でもどかしく感じました。

17 すぢ雲とライトブルーの空は秋

 素直に秋の空を詠んでいますね。

19 空青しもろこしの畝地平まで

 壮大な景色で気分が良くなりました。

20 一鍬に生臭き風落し水

国枝隆生氏評================================

「生臭き風」が気になったが、作者の実感であろう。「落し水」の一面の真実を伝えて
いる。

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21 灯を落とし虫に渡しぬ庭の闇

 坪野さんの選です。落とした灯りが、庭とも部屋ともとれるのが気になりました。

22 病む友に逢はぬも情け風は秋

 坪野さんの選です。よほど重症なんでしょうか。心情のこもった句です。

23 重そうに形ととのえ稲穂垂る

 素直に表現されていますが全体的に「稲穂」の説明に思えます。

24 蟋蟀のりんりん鳴いて若やかに

 (国枝)蟋蟀が「りんりん鳴いて」は当たり前で、もったいない。中7を具体的な他
の写生で詠めばよかったと思います。

25 鰯雲牛舎の屋根に猫眠る

ほのぼのと心癒される句ですね。「鰯雲」が平穏な風景を際立てています。坪野さんも
採っています。

高橋幸子氏評================================

大景「鰯雲」の下、牛舎の屋根に眠る猫にズームインした景が巧みだと思いました。大
自然の中の動物の様子がほほえましく、牛舎の中の牛の鳴き声も聞こえそうです。

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27 流れなき疎水にはまる秋の蝶

 「秋の蝶」に対して〈はまる〉が的確な言葉かどうか。

28 蚯蚓鳴く小学校の相撲場

 (国枝)「相撲場」に「蚯蚓」を取り合わせたところ意外性がよかった。ただこうい
う取合せは読者の感性に訴えるものなので、普遍的な句かどうかは読者次第。

30 星月夜影くろぐろとピラミツド

 <影くろぐろと>はごく平凡な言葉ですがピラミッドの影ともなれば雄大ですね。
「星月夜」も効いているように思います。

31 色草や父のバンコに生活あり

(国枝)「バンコ」がよく分かりません。カタカナですから外来語でしょうか。いろい
ろ調べましたが、この句にふさわしい言葉が見つかりませんでした。もし日本語ならカ
タカナは止めた方がよいと思いました。
 
34 螽斯の眼で分け入りぬ草の中
 
 自分が「螽斯」の目で見てゐるような気がしてきましたが、(ばった)(きりぎり
す)?何と読むのでしょうか?

36 月光の直き平皿とて琵琶湖
 
 琵琶湖を平皿と称しているのか、平皿を琵琶湖に見立てているのかよく分かりません
でした。それとも平皿は月のこと?

(国枝)「直き平皿」がよく分かりませんでした。

37 芒野は昏れ銀色の風の渦

国枝隆生氏評================================

夕暮れの芒野の実感に触れた句。風によって銀色に渦まいている様子が芒を美しく見せ
ていると思った。

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38 抱くほどの薄を活けて星の真夜

 生け花については全く知識がありませんが、意外な活け方?にびっくりしました。

39 これからは過ごし易くに虫の声

 「虫の声」が聞こえるようになって、<過ごし易く>では理屈だと思います。

40 重陽の長安の民集ふかな

 <長安の民集ふ>が漠然すぎると思いました。

41 野分来ると重たき空の告げており

 この句も理屈っぽく感じました。

42 何処にて鳴くや蟋蟀外の闇

 作者の心の内の感慨が読者に共有されるかというと、この句の場合なかなか難しいと
思います。それと切れが句中に二つあるようにも見えます。

43 月光のそそぐ三和土のひとところ

国枝隆生氏評================================

月の光が家の中まで差していることはよくあるが、それが三和土の一個所に集中してい
ると、焦点を合わせたのがよかったと思う。

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44 六人の孫に囲まれ敬老日
 
 6人もお孫さんが一堂に会するとは幸せですね。

45 釣堀に父子黙して鰯雲

国枝隆生氏評================================

こういう親子はよくある。二人とも黙して釣に熱中しているが、「鰯雲」の即かず離れ
ずの取合せがよかった。父子の微妙な関係を表しているよう。

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46 新酒酌む人の溢るる立飲屋
 
残念がら報告の域に止まっているように思われます。

47 さやけしや書肆にヘッセの処女詩集

 坪野さんの選です。
この句の中で本屋の存在が意味があるかどうか?
 
(国枝)好きな句でしたが、「ヘッセの詩集」を「さやけしや」に合うかどうかはこれ
も28と同様に読者次第。

48 農小屋の端(つま)に置き去る夕月夜

 坪野さんの選です。
何を置き去るのかが分かりませんでした。

49 山奥に夫婦裸の座敷かな

 山奥とはいえ、ちょっとぎょっとしてしまいました。

50 鶺鴒と目が合う動悸久しぶり

(国枝)「動悸久しぶり」とは大げさに感じました。

52 月天心問はず語りの老ふたり

 中七が漠然とした内容なのでもう少し具体的な描写を。

54 秋耕のふたりの間合い年重ね

 ご夫婦でしょうか。<年重ね>に実感がありますが、もう少しお二人の描写が欲しい
と思いました。

55 ランタンを吊るし夜長のはじまりぬ

(国枝)「ランタン」と山小屋やレトロな感じだが、その感じが「夜長」にマッチして
いる。「ランタン」から始まる「夜長」を感じたのがよかった

56 らんちゅうのあとからついてくる尾ひれ

 けむに巻かれた感じもしますが、こういわれると成程と思いました。

57 秋晴や駒音高く王手飛車

公園での青空将棋でしょうか。<王手飛車>が「秋晴れ」と呼応して気持爽快ですね。

高橋幸子氏評================================

藤井聡太棋士の王位戦の景かもしれませんが、一般化しても充分に鑑賞に値する句だと
思いました。中七・下五の躍動感が、「秋晴や」とマッチして、清々しく心をとらえま
す。

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58 突つ掛けの色とりどりや大西瓜

 <色とりどり>に強い切れ字<や>が付いているのでここに視点が集中します。
「西瓜」も緑のイメージですので、色がごちゃごちゃしている感じがしました。。

59 カーテンに燃える日のいろ鬼城忌

 「鬼城忌」は(きじょうき)と読みますので字足らずです。「鬼城の忌」としてはど
うでしょうか。

60 雨に日に蕊にささやく秋の蝶

 (国枝)「ささやく」の擬人化が一寸オーバーかもしれないが、秋の蝶が蕊にささや
くシチュエーションがよかったと思いました。繊細な句です。

61 珊瑚礁の海掻きまはす大野分

 (国枝)今年の台風9号と10号との関係を詠んでいるのでしょうか。台風10号が
思ったよりひどくなかったのは、9号が海水をかき混ぜたからと言われています。今年
でないと分からない詠みだと思いました。

64 垂直に石積む棚田出穂期

 季語「出穂期」が嘱目だとしても説明のように置かれているので、(上五も固い言葉
ですし)もう少し柔らかい言葉の季語を選んでみてはどうでしょうか。

65 Tシャツの際立つ白さ秋の空

 <Tシャツ>は真夏のイメージが強いので「秋の空」が合うかどうか?

66 葡萄干す仕上げ上々さながらに

 (国枝)葡萄をうまく干せたことを言っているのでしょうか。「仕上げ上々」とくれ
ば「さながらに」は要らないと思いました。どちらをか削って具体的なもので写生して
見てはいかがですか。

67 新涼や仔牛の瞳青く澄む

 (国枝)「仔牛の瞳」に着目してその青さを詠んだのがよかったと思います。つき過
ぎかも知れませんが、「新涼」に「青く澄む」がよかったと思いました。

70 すすきすすき空まですすきうしろすすき

 大胆な句ですが、<うしろすすき>は述べすぎていると思いました。

71 涼新た施設に母の髪を切る

 季語も良く思いはこもっていますが、<母の髪を切る>が報告的に見えます。

72 秋出水産湯の一滴廻るやも

 申し訳ありませんが、句意が分かりませんでした。

74 星空の近寄って来るキャンプの夜

 坪野さんの選です。

国枝隆生氏評================================

キャンプしている夜、一面の星を空が近よってくるとの表現がよかったと思います。こ
こに単なる写生にとどまらず、さらに感覚的な冴えが見えます。なお下5の「キャンプ
の夜」ですが、上5で星空と詠んでおり、夜ということは分かっているので、下5は
「キャンプ場」などでも十分通用すると思います。
  
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75 オカリナや秋三尺の水の音

「三尺秋水」とは言いますが・・・。でも面白い使い方ですね。

76 砂浜に寄せては返す秋思かな

 波を<秋思>と捉えたわけですが、面白い把握だと思いました。

77 火取虫闇を背負ひて現れぬ

 <闇を背負ひて>を大胆な表現とみるか、大げさな表現とみるかで評価は変ってくる
と思います。坪野さんも採っています。」

高橋幸子氏評================================

<闇を背負ひて>にドキッとしました。我が家は中山間地にあるので、闇間から玄関灯
に急に大きな蛾が現れてびっくりします。鱗粉も沢山まき散らします。そんな景を即座
に思い浮かべました。少々不穏な感じもします。

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国枝隆生氏評================================

「火取虫」と言っても、闇の中ではよく見えない。灯りによって姿を現すのに、「闇を
背負ひて」と言ったことに臨場感が出ていると思った。

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78 破れ家の歳月眩し灸花

<歳月眩し>がよく分かりませんでした。

79 吸ひ思案葡萄の皮の捨て所

 <吸ひ>は葡萄のことだと思いますが、字数の問題で<吸ひ思案>となったのでしょ
うね。でも無理のある表現だと思います。意味が分かっても俳句作品としては点数が下
がると思います。

80 秋朝や挨拶和む遊歩道

素直な俳句ですが、報告で止まっていると思います。

81 蟷螂の後手必勝の構へかな

どういう姿が<後手必勝の構へ>なのか?その姿を描写してほしいです。

83 惜しみなく残照に映へ芒原

 (国枝)「惜しみなく」が大げさかもしれませんが、一面の芒原が夕日に浮かびあ
がっている様子から色が見えます。

84 草蹴って影もろともに競走馬

賀茂の競馬の「競べ馬/きそひ馬」(初夏)という季語はありますが、<競走馬>が季
語になるかどうか?<草>も「草いきれ」なら季語ですが。

85 河馬の目の乾いてしまふ猛暑の日

 今年の猛暑は何もかも乾いてしまいますが・・・。

87 落蝉の鳴きおさめたる骸かな

 <骸>まではいわないほうが良いと思いました。

坪野洋子氏評================================

「鳴き納めたる」の潔さ、迷わず特選でいただきました。洋子

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88 古酒に酔うずしりと第九交響曲

 (国枝)「ずしりと」は「古酒」のことでしょうか、「第九交響曲」のことでしょう
か。意味的には前者でしょうし、言葉のつながりで言えば後者になりますので、よく分
かりません。

90 玄海の潮風甘く烏賊を吊る

 潮風が甘いという把握が新鮮に思えました。

国枝隆生氏評================================

この烏賊は「釣る」でなく、「吊る」ことに着目すれば穏やかな潮風が見えてくる。

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91 一木の蝉時雨止み夕支度

 中七の調べが滑らかではないので、もう少し言葉の運びを工夫してみてはいかがで
しょうか。

92 薄紅葉摩周ブルーの水と空

 <紅><ブルー>と色の文字が二つあるので落ち着きのない句に感じました。

 坪野さんの選です。

93 庭げたの微かな湿り朝の露

94 おひねりの飛ぶ村芝居見得を切る

 「村芝居」に<おひねり><見得>と材料を並べただけの感があります。

 (国枝)「おひねり」「見得を切る」「村芝居」と来れば、類型感を強く感じまし
た。「村芝居」以外はどちらかを削って、作者しかない視点を期待したいと思います。

95 秘湯への道は渋滞薄もみぢ

 報告っぽいです。

96 彼岸花火の手のやうな山の裾

 季語「彼岸花」で赤のイメージで作ってはいわゆる付きすぎの俳句になります。

 (国枝)「火の手のやうな」の比喩が平凡でよくあると思いました。作者しか言えな
い比喩を詠みたいものです

98 入り組みて隙間だらけの秋の草

<入り組みて隙間だらけ>が秋の草の本質を捉えているかどうか? 注文が厳しすぎま
すが、どういうことかというと、いわゆる「出来た句」のちょっと手前の句のような感
じがします。

100 小面の切れ長の目に秋思ふと

<切れ長の目>と小面を描写していて出来ている句ですが<ふと>が今一歩でしょう
か。予選でいただきました。

(国枝)能面の切れ長の目を見ているとしみじみとした感慨が浮かびます。結論が「秋
思」ですから、それを物で写生して、物の写生から作者の秋思を感じさせるようだと、
頂いていました。それが即物具象の難しさです。

101 カレー屋のドアノブに居る飛蝗かな

面白いところに目を止めましたが、カレー屋でなくてもそう変わらないような気がしま
した。

104 息詰めて番蜻蛉にレンズ寄す

予選でいただきました。<息詰めて>に実感があります。

高橋幸子氏評================================

我が家の周りでも番蜻蛉や番蝶をよく見かけます。そんな一瞬を撮ろうとしている作
者。<息詰めて〜寄す>に臨場感があり、景がはっきり見えます。

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106 直筆のバッハの楽譜秋気澄む

バッハ直筆でしょうか。「秋気澄む」が直筆への驚きと感動に呼応していると思います。

(国枝)旅行吟か回想句でしょうか。コロナ禍の今年ではなかなか詠めません。この句
は「バッハの直筆の楽譜」を見て、爽やかさを感じたのがよかったと思います。

高橋幸子氏評================================

バッハの直筆というだけで魅力的で、バッハ作曲のチェンバロやパイプオルガンの音色
が聞こえてきそうです。「秋気澄む」が音色の透明感と相乗効果を上げています。

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107 書肆出でて急ぐ家路の月明かり

 (国枝)情景が目に浮かびます。書肆を出た後の月明かりがきれいだったと思います。
ただ「急ぐ」「家路」の事柄を入れますと、月明かりの見事さがそがれるような気がし
ました。このどちらかを止めて、さらに「月明かり」の情景を具体的に詠めばもっとよ
くなったと思います

108 砂浜に破れしTシャツ秋の声

砂浜の破れたTシャツという<モノ>に夏の終わりを語らせた佳句。

109 コスモスを縫うて介護の車椅子

<縫うて>で広いコスモス畑だということが分かります。

高橋幸子氏評================================

<縫うて>で、車椅子の動きがよく分かります。車椅子の方も車椅子を押しておられる
方もコスモスの揺れる中、幸せなひとときをお過ごしですね。

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国枝隆生氏評================================

介護している方の思いやりが伝わってくるよう。なるべくコスモスを見せた気遣いから
「縫うて」の言葉が出た。車椅子の方の喜んでいる様子も見える。

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110 巣ごもりの一日の仕上げ衣被

良い句ですが<巣ごもり>という言葉がが時が経つと色褪せてくるような気がしました

111 野紺菊たわわに活くる無人駅

 地元の人が活けたのでしょうか、良い風景ですね。

113 鉄橋の影みだれ無き秋の水

澄みきった秋の川が見えてきて良いと思いました。

高橋幸子氏評================================

鉄橋がかかるのは、湖の様に流れのない水面。鉄橋の色は赤でしょうか、青でしょう
か。風も吹いていないのでくっきりと水面に映り、一時の乱れもないのです。「秋の
水」が効果的です。

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国枝隆生氏評================================

普通鉄橋の下は結構川波があるように思われるが、この句は影がくっきりと映ってい
る様子の写生がよかった。

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115 雨音にまじる虫の音眠りつく

 上五中七でほぼ完成しているので、(私にもよくありますが)下五で困ってしまった
句のように見えます。

 (国枝)秋の雨のしみじみとした情緒が出ていてよかったと思います。ここは「眠り
つく」が詰まった言い方で、「閨に聞く雨に紛るる虫の声」なら分かりやすかったと思
います。

高橋幸子氏評================================

虫の音が聞こえるのは、雨の音が静かだからですね。そんな雨音と虫の音を聞きなが
ら、眠りにつく様子が浮かんできました。

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117 新涼やブックカバーのジャワ更紗

ブックカバーの俳句は山ほどあるし、掲句のような型の俳句も山ほどありますが、
<ジャワ更紗>に惹かれました。坪野さんも採っています。

国枝隆生氏評=================================

作者の発言したいことが伝わってくる。「ジャワ更紗」こそ「新涼」にふさわしいと主
張している。それが物だけで写生した力だと思う。

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118 ジャグリングボール七色天高し

 ボールの数を<七色>と表したのがお上手ですね。

高橋幸子氏評================================

ジャグリングボールを7個使うとは、相当の腕前ですね。曲芸師でしょうか。空高く上
がる七色のボール、「天高し」が効果的です。

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120 AIに勝てぬ駒音なき夜長

 <駒音なき夜長>でウェブサイトでの将棋の様子が良く表現されています。

 (国枝)「駒音なき夜長」が分かりませんでした。AIだから駒の音がしないというこ
とでしょうか。「駒音なきAI」なら分かりますが、「駒音なき夜長」だから分かりませ
んでした。

第254回目 (2020年8月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 秘めごとの有るかに拾ふ落し文 雪絵(前橋市)
   母の家の音柔らかき扇風機 加藤剛司(名古屋市)
   風鈴や風の吐息を見逃さず      大原女(城陽市)
   空蝉や傾ぐ被爆の大銀杏 小林克己(総社市)
   火の帯となる紀ノ川の夕焼けかな みのる(大阪)
   旧式の扇風機置く牛舎かな 妙好(名古屋市)
   エプロンを外し合掌原爆忌 町子(北名古屋市)
   畳這ふ蜈蚣の足のよく揃ひ 野津洋子(愛知県)
   梅雨湿り天井の染み動き出す みつぐ(札幌市)
   ミンミンや工事現場の社旗なびく 美由紀(長野県)
【  奥山 ひろ子 選 】
  特選 少年の日の向日葵は茎太く 直樹(埼玉県)
   音立てて噛る氷菓は空の色 加藤剛司(名古屋市)
   新涼の波打ち寄する舟屋口      吉沢美佐枝(千葉県)
   古代蓮甕に咲かせて札所守 康(東京)
   いつまでも付いて来るらし夏満月 いまいやすのり(埼玉県)
   鮎釣るや半身荒瀬に浸りおり 岩田 勇(名古屋市)
   かぶと虫スケッチの子の眉太し 鷲津誠次(岐阜県)
   讀み解けぬ古文書厚し熱帯夜 きょうや(東京)
   歩荷の荷晩夏の山に影のばす 暁孝(三重県)
   エプロンを外し合掌原爆忌 町子(北名古屋市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 何処からか布団出てくる盆の夜 幹弘(東京)
   新涼の波打ち寄する舟屋口 吉沢美佐枝(千葉県)
   古代蓮甕に咲かせて札所守      康(東京)
   たまご割るリズムこここん涼新た 小川めぐる(大阪)
   水母うく運河入り組む船溜り 容市(横浜市)
   歩荷の荷晩夏の山に影のばす 暁孝(三重県)
   畳這ふ蜈蚣の足のよく揃ひ 野津洋子(愛知県)
   真ん中に父ゐる気配夏座敷 ひろこ(鹿児島県)
   はなやかに朝日さし来る蓮の花 山瀬杜朗(愛知県)
   ミンミンや工事現場の社旗なびく 美由紀(長野県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 ガス欠の車を押して夏の果 とかき星(大阪)
   母の家の音柔らかき扇風機 加藤剛司(名古屋市)
   新涼の波打ち寄する舟屋口      吉沢美佐枝(千葉県)
   古代蓮甕に咲かせて札所守 康(東京)
   炎昼の白きグランド犬よぎる 直樹(埼玉県)
   歩荷の荷晩夏の山に影のばす 暁孝(三重県)
   鳴きやまぬみんみんミシン掛けをへり 節彩(東京)
   珈琲に終はる旅路や秋の薔薇 伊奈川富真乃(新潟県)
   エプロンを外し合掌原爆忌 町子(北名古屋市)
   打ち水の駅舎に風の生まれたる 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、町子(北名古屋市)さん、吉沢美佐枝(千葉県)さん、康(東京)さん、暁孝(三重県)でした。4名同点(3点)ですので、最多得点賞は無しとなります。

【講評】


       2020年8月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房


1 瀧音やはやる心を小走りに

 有名な滝を見に来たわくわく感が出ていますね。「小走りに」ではやる心は伝わりま
すので、道の様子などを写生されると更に良い句になると思います。

2 滝しぶきマイナスイオンあふれ満つ

 頭の中の知識で作った理屈っぽい句の印象を受けてしまいました。マイナスイオンは
目に見えませんが、それを感じた周りの様子を写生されると良いと思います。

3 滝つぼを出れば流れの素直なる

 荒々しい滝の正面から、ちょっと目を移した写生が新鮮です。「出れば」がちょっと
説明的ですので、「出でて」等、推敲されては如何でしょうか。

4 黒部ダムしぶきを浴びて夏帽子

 昔の映画のシーンを思い出しました。人間の証明だったでしょうか? 句のリズムが
ちょっとぎこちない感じがしますので、上五を敢えて字余りの「黒部ダムの」とするの
も一案かと思います。

5 母の家の音柔らかき扇風機

 作者が幼いころから馴染んだ、実家の古い扇風機の音なのでしょうね。「音柔らかき」
に、多くの思いが込められています。

6 音立てて噛る氷菓は空の色

 ガリガリくんでしょうか? 氷菓をかじっている子の未来を、その色が示しているよ
うです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈音立てて〉の措辞が最近の猛暑に対抗?する感じでよい表現であると思いました。
また〈空の色〉が涼し気で爽やかに感じました。

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7 地球沸騰のアラームか油蝉

 本当に、そう言いたくなるときがありますね。ただ、「油蝉」と言えば読者はそのよ
うな感慨を連想することができますので、この句は「季語の説明」に近いという印象を
受けました。

8 空蝉や壊れたままの腕時計

 空蝉も壊れた腕時計も、形はちゃんとしていても中身が無いという点で、響きあうも
のがあります。「壊れしまま」と文語にせず「壊れたまま」と口語で詠まれている点も、
現実の日常に密着している感があり、リアリティが感じられます。

9 風鈴や風の吐息を見逃さず

 きれいな言い回しですが、ちょっと気取って理屈に走り過ぎた印象を受けました。

10 熟れてゆく熟れすぎて行く桃一夜

 句の意味はよくわかりませんが、艶めかしい独特の世界観のある句ですね。

11 自販機に銭落つる音溽暑

 季節を捉える感覚の冴えた句と思いました。下五が三音の字足らずと思いますが、意
図されてのことでしょうか?

12 気を失ふほどの溽暑や外厠

 今時、外厠とは珍しいですね。「溽暑」だけで、ひどい暑さであることはわかります
ので、「気を失ふほどの」は、季語の説明であり、不要です。

13 他愛ない会話を交はす茄子畑

 事実に基づいた句と思いますが、「茄子畑」で「他愛ない会話を交はす」ことは、そ
れほど面白い句材とは感じられず、報告の域を出ないように感じました。

14 夏草のはびこる畑雨上がり

 雨上がりは、雑草の伸びが顕著ですね。この句も事実に基づいた句と思いますが、事
実の報告以上の詩情が感じられませんでした。

15 秘めごとの有るかに拾ふ落し文

 「秘めごとの有るかに拾ふ」は、「内緒のことが書いてあるかと思って拾う」という
意味かと思いますが、日本語を無理やり詰め込んだような印象を受けました。また、虫
の卵が産み付けられた葉に秘め事を感じたというのは、ちょっと作り過ぎの感じがしま
す。

 武藤光リ氏評================================

  落し文を初めて拾ったのだろう。誰かにこれが落し文だと教えられ、恋文でも
  開くように、大事にそっと開いている。季語をよくモディファイしている。

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16 嬰児の眼差しいづこ合歓の花

 ふんわりと、やさしい句ですね。とろんと眠そうな子供の顔が見えてきます。

17 新涼の波打ち寄する舟屋口

 「新涼」は、具体的な景を持たない季語ですが、「新涼の波」とすることで、具体的
な波の色や形、音などが感じられるようになりました。京都の夏は暑いと思いますが、
舟屋があるあたりは、一足先に秋が感じられるのでしょうね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 基本の整った句だと思います。季語の「新涼」が効いていると思いました。

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 伊藤範子氏評================================

伊根の舟屋は新涼がぴったりですね。

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18 朝鈴の鈴ふる声に出つ会す

 「鈴ふる声」は、草雲雀の声の説明ですね。思いがけず聞いた草雲雀の声を、「出っ
くわす」と表現されていますが、その驚きや感動は、「朝鈴や」と詠むことで表現でき
ます。

19 律の風はやくも砕く湖の蒼

 涼しい風が立ち、静かだった湖面が揺れた瞬間かと思いますが、「はやくも」の解釈
が難しく思いました。

20	味噌汁が昼餉の卓に残暑かな

 昼食の味噌汁と、残暑の関係がよくわかりませんでした。

21 古代蓮甕に咲かせて札所守

 巡拝者に少しでも涼を感じてもらいたいという、札所守の気持ちが込められているの
でしょうね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈古代蓮〉と〈札所守〉が合っていますね。〈甕に咲かせて〉で〈甕〉が強調されて
いて、どんな甕なのか興味が湧きました。

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 伊藤範子氏評================================

古代蓮を育てているとは、床しく由緒のある札所のイメージが湧いてきました。

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22 見返りの弥陀の御目の涼しさよ

 ネットで検索し、永観堂のみかえり阿弥陀の写真を見ました。確かに、切れ長で涼し
気な目をされていますね。仏像の様子を、上手に俳句に仕立てられたと思いました。

23 診察終えタクシーを待つ夏の果て

 多分、定期的な診察なのだと思いますが、今回はとりわけ、過酷な夏をどうにか乗り
切ったという安堵感を覚えつつ、帰りのタクシーを待っているのでしょうね。

24 隣席のカチカチ鳴らすペン溽暑

 実は私もこの悪癖があります。隣の人にとっては非常にうるさく気に障り、暑苦しさ
がいっそう増すのでしょうね。反省します。

25 いつまでも付いて来るらし夏満月

 車や電車で移動して周りの景色が変わっても、月は常に一定方向に見えるのが不思議
という感覚は、多くの人が子供の頃に感じたことがあると思います。ただ、それは夏の
月に限ったことではなく、季語が今一つ活きていないように感じました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 8月の満月、私も見ました。大きなまるで生きているような力強さがありました。

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26 髪切つて風の満ち来る秋一日

 髪を切ったために、うなじや首の周りに風を感じやすくなったのでしょう。それを、
「風の満ち来る」と表現された感覚を、鋭いと思いました。「秋一日」はちょっと取っ
てつけたような感じもしますので、「秋風」等の季語を使ってみるのも一案かと思いま
す。

27 鮎釣るや半身荒瀬に浸りおり

 「半身」は、読みが「はんしん」か「はんみ」かで意味が変わってきます。この句は
「はんしん」だと思いますが、そうすると中八の字余りとなります。また、「半身荒瀬
に浸りおり」は、「鮎釣り」という季語の説明に近いように感じました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 中七以降の写生が臨場感があり、状況が浮かびました。

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28 鮎釣るや一瞬二尾の空を舞ふ

 友釣りで鮎を釣り上げた瞬間ですね。この句も「鮎釣り」の説明である印象が強いで
す。「二尾の空を舞ふ」と言う代わりに、目に入った空の印象を写生されると、そこに
鮎の姿も浮かんでくると思います。

29 草叢の熊蝉少し疲れたか

 なぜクマゼミが疲れたと感じられたのか、読者の疑問は晴れません。作者が、疲れた
と感じたクマゼミの様子を写生されると、読者に具体的な景が伝わると思います。

30 蚯蚓行く伸びてちぢんでまた伸びて

 蚯蚓の様子を写生されましたが、どこかで聞いたような言い回しで、作者独特の視点
や表現が感じられません。

31 滝落ちて目出度き顔といふ風に 

 句の意味がよくわかりませんでした。上五の「滝落ちて」は、秋櫻子の有名な句があ
り、読者はどうしてもそのイメージに引っ張られますので、それを振り切るのは難しい
ですね。

32 鬼灯を鳴らしデマンドバスを待つ

 デマンドバスという、新しいカタカナ語が使われていますが、この句での必然性があ
るか、疑問に思いました。また、鬼灯を鳴らしながらバスを待つというシチュエーショ
ンが、リアルな景としてなかなか浮かんできませんでした。

33 藍色のインク清しく夏見舞

 涼やかな暑中見舞いですね。「清しく」という主観的な言葉を使わずに、清しさを読
者に伝えるのが俳句のコツです。

34 炎天の黙祷八時十五分

 広島原爆忌ですね。毎年行われている黙祷ですが、表面的な事実の説明にとどまって
いるのが残念に思いました。

35 炎昼の白きグランド犬よぎる

 「白きグランド」が、乾き切って人気の無い様子を連想させます。濃い影を曳きなが
ら歩く、うなだれた犬の様子が見えてきます。現在は、野良犬はほとんどいないと思い
ますが、この句の場合は、人に引かれていない野良犬と思いたいところです。

36 少年の日の向日葵は茎太く

 そう言われると、子供の頃に見た向日葵は、たくましい太い茎をしていたように思い
ます。回想句ですが、少年時代に戻った視点で詠んでみると、さらに生き生きと実感あ
ふれる句になると思います。俳句の基本は、「一人称現在形」です。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈少年〉と〈茎太く〉が響き合っていると思いました。季語の「向日葵」が、少年の
ひと夏の成長を思わせ、たくましさを増していく生命力を感じ、特選とさせていただき
ました。

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37 とんび舞ふ浜に波乗り禁止札

 「波乗」は夏の季語ですが、「波乗り禁止札」は季語になるのかどうか、疑問に思い
ました。

38 緑陰の木椅子にふたり猫だきて

 「ふたり」が、老夫婦なのか、若いカップルなのか、幼い姉妹なのか・・・? 猫は、
緑陰よりも、日向ぼっこなどの方がより似合うように思いました。

39 爽涼やバトントワラー二回転

 回転する演技といえば、バレエやスケート、体操などが思い浮かびますが、バトント
ワラーも自分が(バトンでなく)回ったりするのですね。 そのどのあたりに涼しさが
感じられたのか、申し訳ありませんが、いまひとつピンと来ませんでした。

40 たまご割るリズムこここん涼新た

 面白い句ですね。新感覚というのでしょうか? 季語の使い方も新鮮です。

 伊藤範子氏評================================

擬音の用い方は難しいですが「こここん」のリズムよくが楽しそうで良いと思いました。
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41 疫神を祓ふ花火や空覆ふ

 隅田川の花火大会の由来の説明と感じました。下五も、花火の描写というより、安直
な説明にとどまってしまった感があります。

42 部屋暗し梅雨前線停滞す

 「五月闇」「梅雨闇」「夏闇」等の季語の説明に感じました。

43 銀漢の手に取る近さ上高地

 一度見てみたい景です。上高地であれば、「手に取る近さ」と説明しなくても、「銀
漢や」と詠嘆するだけで、その凄さは伝わると思います。

44 エンジンの音に秋の蚊現れにけり

 何のエンジン音なのか? また、エンジン音がすると蚊が寄ってくるものなのか? 疑
問に感じました。

45	一瞬の高速道の夾竹桃

 夾竹桃の花は鮮やかな色なので、高速道路を走りながら一瞬目にしただけでも印象に
残りますね。「高速道」で、夾竹桃が見えたのは「一瞬」であることはわかるように思
いますの、もう一工夫欲しい気がしました。

46	急坂の家路の空や合歓の花

 同じ道でも、ある人にとっては「家路」であり、別の人にとってはたまたま通りかかっ
た道となります。この句で、「家路」と特定した効果はあるでしょうか?

47	さつそうと甚平を着て読むカフカ

 甚平とカフカの関連性がよくわかりませんでした。また、甚平はリラックスをすると
きなどに着るイメージがあり、作者がどのような点がさっそう(颯爽)としていると感
じたのか、ちょっと不思議に思いました。

48	かぶと虫スケッチの子の眉太し

 「眉太し」は、作者が見て感じた通りなのでしょうが、それがどのような感慨につな
がったのかが伝わって来ません。子供の表情などが伝わると、より生き生きした句にな
ると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 真剣に鉛筆を走らせる子供の眼差しが「眉太し」から伺えました。36の句と同様、少
年を連想しました。

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49	友逝くの一筆箋や夜の秋

 共通の友人の訃報でしょうか。一筆箋で届くというのは、珍しいですね。

50	モノクロの妣の微笑み原爆忌

 お母様は被爆されたのでしょうか? 当時の写真であれば、当然モノクロでしょうか
ら、表情など、もっと特徴的なものを詠まれるとさらに良いと思いました。

51	新涼や田んぼ道にも右左

 なんとなく、安住敦の「しぐるるや駅に西口東口」の句を思い出しました。「しぐる
るや・・」の方は、情景が浮かんできますが、「新涼」は具体的な映像に乏しいため、
いまひとつ情景が浮かびませんでした。

52	チェーンソーの間近かにはつと梅雨上がる

 句の意味や情景が、いまひとつ伝わってきませんでした。チェーンソーを使用してい
る人の近くに、作者はいるのでしょうか?

53	鳴き龍の画の下にをり蚊遣香

 「鳴き龍」と言えば、東照宮のそれということはわかり、作者はそこに居ることは自
明ですので、「画の下にをり」は不要ですね。

54	水母うく運河入り組む船溜り

 「水母うく」が係るのが「運河」なのか「船溜り」なのかがわかりにくく思いました。
また、「運河入り組む船溜り」ですと、船溜りの中で運河が入り組んでいるようです。

 伊藤範子氏評================================

確かにそういうところに多く漂っているようで、情景が目に浮かびます。

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55	雷鳴や行きつ戻りつ鳴止まぬ

 上五を「雷鳴や」と切っていますが、意味的には切れずに中七下五につながっており、
全体で雷鳴の様子の報告となっています。

56	群れ蜻蛉右往左往も束の間に

 「右往左往も束の間に」の意味が今一つ良くつかめませんでしたが、全体的に「群れ
蜻蛉」の説明になっているように思いました。

57	少年のうなじの焦げて夏終る

 うなじが焦げるという表現が面白いですね。本当に子どものうなじは、焦げたように
みごとに真っ黒に日焼けしますね。上五中七を「少年の焦げし項や」とすると、下五に
いろいろな季語を合わせられそうですね。

58	讀み解けぬ古文書厚し熱帯夜

 体感的な暑苦しさと心理的なものとが、相乗効果で攻めてくるようですね。中七は、
「厚き古文書」と名詞で切る方が、下五の「熱帯夜」との対比がはっきりすると思いま
す。
 奥山ひろ子氏評===============================

 古文書との格闘ですね。季語の「熱帯夜」の斡旋が巧みで、肌で感じる暑さと、根を
詰めた時の頭が熱くなる感じを表現していると受け取りました。

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59	風鈴の音色でわかる風の向き

 そういうこともあるのですね。なるほどと思いました。ただ、句としてはちょっと説
明的ですので、どんな風でどんな音が鳴ったかを、具体的に詠むと良いと思いました。

60	歩荷の荷晩夏の山に影のばす

 歩荷の休憩でしょうか。いつの間にか日暮れが早くなり、おろした荷の影が長く伸び
ているのに気が付いて、季節のうつろいを感じたのですね。季節感がよく出ていると思
います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 歩荷ではなく、〈歩荷の荷〉の影を詠まれた点が面白いと思いました。少なくない荷
物の大きさも連想できました。

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 伊藤範子氏評================================

「歩荷」は夏の季語に採録されていることもありますが、影の伸びるところに晩夏らし
さがあって良いと思いました。

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61	鳴きやまぬみんみんミシン掛けをへり

 みんみんで切れていますが、読み下すリズムは「みんみんミシン」とリズミカルです。
夏の白昼、やりきれなさの中に、仕事が一区切りした安堵感が描けました。

62	昭和二十年生まれや終戦日

 終戦の年に生まれた方にとって、8月15日は特に感慨深いものがあるのだと思いま
す。ただ、それをそのまま言うだけではちょっと物足りなく、俳句としてのリズム的に
も残念に思いました。

63	夕凪のセピア色した港町

 セピア色というと、古い写真を言うのによく使われる言葉ですが、この句の場合は、
薄らいだ夕焼が街を染めている景だと思います。夕凪の安堵感もあり、知らない街であっ
ても、どこか懐かしい感じしますね。

64	空蝉や傾ぐ被爆の大銀杏

 広島の被爆樹を詠まれたものと思います。空蝉と原爆ドームの空虚さがダブって感じ
られ、季語の斡旋がうまいと思いました。

65	水色のマイナスイオン滝しぶき

 滝=マイナスイオンという発想は、安易で理屈っぽいと感じました。

66	滝上の水にも助走らしきもの

 なるほど、と思いました。「助走」だけですと、陳腐な比喩という印象ですが、「ら
しきもの」としたことで、作者の表現者としてのスタンスがはっきりしました。

67	法師蝉名のほか知らぬ祖父の墓

 作者が生まれる前に亡くなった祖父なのでしょう。直接会ったことがなくても、父祖
を敬い墓参を欠かさない作者の静かな気持ちを、季語が伝えています。

68	喜寿の我息子と紹介生身魂

 喜寿を迎えて親御さんがご健在とは、おめでたいことです。まさしく生身魂とお呼び
するのにふさわしいですね。

69	ガス欠の車を押して夏の果

 今は、保険に付帯しているロードサービスなどもあり、こういう景は見なくなりまし
たが、昔ボロ車でガス欠を心配しながら、どこまでもドライブをしたことなど思い出し
ました。季語が、抽象的な意味でも効果的に使われていると思います。

70	炎天やドローンの吐く除草剤

 近年ならではの光景ですね。ちょっとSF的な感じも受けました。

71	秋の雷恐れ恐るのゴルフかな

 「恐れ恐るの」という言い回しがよくわかりませんでした。また、「秋の雷」という
季語を使う場合は、夏の季語である「雷」との違いを意識する必要があります。

72	コロナ禍や心潰れて夏休み

 そういう子供たちがたくさんいるのでしょうね。ただ、時事的なことをそのまま言う
だけでは、詩として物足りません。短い夏休みの子供たちの様子を、具体的に写生され
ると良いと思います。

73	友描く俳画に魅入る今朝の秋

 ご友人の描かれた俳画の様子が読者にはわかりませんので、「友描く俳画に魅入る」
は事柄の報告に思えてしまいます。また、この場合の「みいる」は「見入る」の表記の
方が適切です。

74	野分来る進路はいづこ地図なぞる

 この句も、事柄の報告を出ていない印象です。また、三段切れで、リズムが分断され
ています。

75	水中花歴代校長写真かな

 水中花と歴代校長の写真がどうかかわってくるのか、よくわかりませんでした。

76	向日葵に寝ぐせ立っても追い越せぬ

 句の意味が良くわかりませんでしたが、「寝ぐせで髪の毛が立っても、向日葵の丈に
届かない」という句意かとも思いましたが、そう理解するのも困難と感じました。

77	珈琲に終はる旅路や秋の薔薇

 秋薔薇は、春・夏の薔薇とはまた違った風情で、旅を終えようとする安堵感・寂寥感
と響きあうものがあります。明日は帰国という日に、異国のカフェでコーヒーを楽しま
れている状況を想像しました。

78	薄墨にしたたむる恋酔芙蓉

 「薄墨にしたたむる恋」は、古典等に取材されているのかと思いましたが、浅学にし
てよくわかりませんでした。申し訳ありません。

79	畦道を風と走った終戦日

 終戦日は毎年8月15日ですが、この句の場合は昭和20年のその日のことと思いま
す。どういう気持ちで畔を駆けたのか、伺ってみたい気がします。

80	雲の峰茅葺屋根の宿を発つ

 古民家の宿に宿泊し、今日はまた次の旅の目的地を目指すのでしょう。早くも峯雲が
湧き上がる、気持ちの良い夏の朝ですね。

81	火の帯となる紀ノ川の夕焼けかな

 一度は見てみたい景だと思いました。投句の語順だと、火の帯となるのが紀ノ川なの
か夕焼なのかわかりにくいので、「紀ノ川の火の帯となる夕焼かな」「紀ノ川を火の帯
と化す夕焼かな」等、語順・助詞を推敲されるとより良くなるように思います。

82	水かけて灼けし墓石を鎮めけり

 この句の季語は「灼けし」ですが、句全体として、「墓洗う」という季語の説明のよ
うに感じました。

83	早起きの蝉は窓辺のホルトノキ

 早朝より、蝉が窓際のホルトノキにとまって鳴いているという意味と思いますが、こ
こで、蝉がとまっている木の種類を具体的に言う必要があるでしょうか?

84	底紅や母の手なれの舞扇

 句形もリズムも良いですね。ただ、槿の花と舞扇の関連がよくわからず、季語が動く
ように思いました。

85	炎天や殊に鴉の黒びかり

 炎天の感じ、烏の感じが良くでており、上手な句と思いました。ただ、原石鼎の「頂
上や殊に野菊の吹かれ居り」が頭に浮かんでしまったため、戴くのがためらわれました。

86	扇風機やや遅れ飛ぶメモ用紙

 着眼点がユニークで、「あるある」と言いたくなります。事実の報告にとどまらず、
詩情が入ると良いですね。

87	松の木のねじまく声や油蝉

 句の意味がよくわかりませんでした。蝉の声によって松の木がねじまくのか、松の木
にとまっている蝉の声がねじまいているのか?

88	草露の生まれし蜻蛉翅ぬらし

 羽化したばかりのトンボの翅が、草の露で濡れているという句意かと思いますが、な
かなかすんなりとは、そう読み取れないと思います。露と蜻蛉の季重なりでもあります。


89	建前の掛矢にあはや秋の雲

 「あはや」の意味がよくわかりませんでした。

90	秋の蚊を払ひてゆるり車椅子

 「ゆるり」の意味がよくわかりませんでした。

91	風の色探して歩く路地の秋

 秋風は、「素風」や「色なき風」とも言われますが、どのような風の色が見つかった
でしょうか?

92	此秋はコロナころなと暮れてゆく

 春も夏もそうですね。多分冬も・・。

93	ご先祖の享年若し磨き盆

 父祖を偲びながら仏具を磨いているのでしょうね。「ご先祖」全員の享年が若いわけ
ではないでしょうから、もっと具体的に詠まれては如何でしょうか?

94	旧式の扇風機置く牛舎かな

 長い間牛を飼われているのでしょうね。「旧式」は説明的な言葉で、具体的な映像に
結び付きません。新型の扇風機と異なる点を具体的に表すと良いと思います。「置く」
は言わなくても、扇風機と言えばそこにあることはわかります。

95	会見のトルーマン笑み原爆忌

 原爆忌の日のTVの特集番組でしょうか? 状況がよくわかりませんでした。

96	日帰り帰省の息子いつまで手を振りて

 「いつまで手を振りて」は、「いつまでも手を振りて」を縮めてしまったのかと思い
ますが、おかしな日本語になっています。上五の大きな字余りも気になります。

97	夕されば路地に打水敗戦日

 「打水」と「敗戦日」の季重なりです。

98	作物に恵みの雨やはたた神

 「作物に恵みの雨」は、作者の主観です。乾いた畑や作物の様子、そこに降り出した
雨の様子・音・匂いなどを具体的に詠むことで、作者の安堵した気持ちが読者に伝わり
ます。

99	エプロンを外し合掌原爆忌

 多分、どこにでもある原爆忌のひとこまだと思いますが、さりげない動作に、慰霊の
気持ちが込められています。

 奥山ひろ子氏評===============================

 記念式典などに行かずとも日常の中で「原爆」を考える一瞬があることが大切だと思
わせて頂ける一句です。〈エプロンを外し〉が具体的で共感が持てます。

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100	海月の手タクト振るよな泳ぎして

 面白い比喩ですね。そう言われれば、そのようにも思えます。

101	藪蘭や紅差す母の参観日

 「紅差す母の参観日」は、言葉の係り受けが分かりにくく思いましたが、子供の参観
日に母親が口紅を付けているという意味かと思います。珍しい季語を使われていますが、
もっと良い季語があるような気もします。

102	網ならぬスマホ手に追ふ揚羽蝶

 意味がよくわかりませんが、スマホで蝶の写真を撮ろうとしているのでしょうか? 
そうであるならば、それだけでは句材として物足りないと思います。

103	雨上がり空気揺るがす蝉時雨

 「空気揺るがす」は、「蝉時雨」に含まれるイメージであり、季語の説明のように感
じられました。

104	畳這ふ蜈蚣の足のよく揃ひ

 「足のよく揃ひ」は、蜈蚣に含まれるイメージと思います。

 伊藤範子氏評================================

蜈蚣の足の運びはもつれることもなく、言われてみれば「あるある」と共感しました。

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105	声かけた耳に補聴器アマリリス

 補聴器をしているのは、声をかけた人でしょうか? 声をかけられた人のようにも思
え、状況がよくわかりませんでした。

106	秋の蝉管理を頼む祖父の家

 「管理を頼む祖父の家」は、おじい様がご存命なのか、逝去されて空き家になってい
るのか不明です。家の様子を具体的に(目に見えるように)詠まれるとわかりやすくな
ると思います。

107	大門てふ遺りし地名大西日

 私の知っている大門は、東京の浜松町の近くですが、同じ地名が全国に多くあるよう
に思います。「遺りし地名」とわざわざ記されている意図がよくわかりませんでした。
地名はたいてい、昔から今に伝わって来たものと思いますが…。

108	献血の心算なけれど腕の蚊

 腕を蚊に刺されたことを句にされましたが、献血になぞらえるだけでは詩として深み
が無く、面白みにも欠けるように思いました。

109	はつ秋のグラスにあをき花の茎

 青い花の茎がグラスに挿してあるのか、何かの花の青い(緑色)茎が挿してあるのか、
よくわかりませんでした。植物の茎はほとんどが青(緑)ですから、わざわざそれを言う
必要は無いように思いますが・・。

110	熟睡子の抱き重りして夕端居

 眠ってしまった子を抱いているのはたいへんですが、それでも一日を終えた母親の安
堵感と幸福感が伝わります。不勉強にして、「熟睡子」の読み方がよくわかりませんで
した。

111	野に帰する田畑ばかり盆用意

 御実家のある故郷に帰られての盆用意でしょうか? 「野に帰する田畑ばかり」と総
括的に詠まれていますが、一つの畑に着目して、荒れている様子などを具体的に詠まれ
ると、より臨場感が出ると思います。

112	見透かしてゐるかに見詰む祈り虫

 「見透かしてゐるかに見詰む」は、作者の実感でしょうか? カマキリは複眼なので、
どこを見ているのかよくわからないという感じがするのですが・・・。

113	アルバムの父の軍服終戦日

 「父の軍服」は「軍服の父」でしょうか? 季語が付き過ぎの感じがします。

114	真ん中に父ゐる気配夏座敷

 御実家に帰り、亡くなったお父さんを偲んでおられるのかと思いますが、「〜父のい
そうな〜」等では如何でしょうか? 「〜父ゐる気配」ですと、オカルトめくような気
がします。

 伊藤範子氏評================================

この一年以内にお亡くなりになられたのでしょうか。いつもお父様を中心に集まってい
たことをふっと思い出されたことが伝わりました。

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115	梅雨湿り天井の染み動き出す

 「天井の染み動き出す」が現実なのか、何かの比喩なのかよくわかりませんでした。

116	夏草にまだらの背見せ牛座する

 「夏草に」は、「牛座する」に係るのだと思いますが、離れているので、牛が夏草に
背中を見せているように思えてしまいました。

117	はなやかに朝日さし来る蓮の花

 きれいな句ですが、蓮の花と朝日という清浄なイメージに対し、「はなやか」という
派手な表現がやや似つかわしくないように感じました。

 伊藤範子氏評================================

「華やかに朝日さしくる」が良いと思いました。朝の蓮の花の美しさが際立つように思います。

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118	原子雲のような気がする雲の峰

 どうしてそう思われたのでしょうか?

119	洗車するふんだんの水原爆忌

 原爆に遭った人たちに、このふんだんな水を分けてあげられたら・・・という思いな
のでしょう。「〜する」という言い方はできるだけ避けた方が句が締まります。「ふん
だんな洗車の水や〜」等、推敲されてはいかがでしょうか?

120	帰省の荷着払にて届きけり

 子供の帰省あるあるだと思いますが、句材として深みに欠けるように思いました。

121	藪蘭に応援さるる出勤路

 「応援さるる」まで言っては言い過ぎです。そう言わずに、物に託してその気持ちを
伝えましょう。

122	鳩吹くや父の手に二羽くつたりと

 句の意味がわかりませんでした。鳩吹くために組んだ父の両手を、二羽の鳩に喩えて
いるのでしょうか?

123	打ち水の駅舎に風の生まれたる

 打ち水をしたことで風が生まれることはありませんが、打ち水を渡った風は涼しく感
じ、新しく生まれたように思われたのでしょうね。

124	町中に黙祷の鐘酷暑なる

 酷暑の頃の黙祷というと、原爆忌かと思いますが、いまひとつよくわかりませんでし
た。

125	おもひやりの距離たもちをり片かげり

 最近は、日陰に入るにもソーシャルディスタンシングが必要なのですね。面倒くさい
世の中になったものです。

126	ひとしきり鳴いて何処へ法師蝉

 法師蝉が鳴きやんだということだけでは、句材として物足りないですね。

127	紅黄草浮世の色を詰込めり 

 「浮世の色を詰込めり」が概念的でよくわかりませんでした。

128	地より出で鎧重たき蝉歩む 

 羽化する前の蝉の幼虫でしょうか? 鎧は蝉の殻(空蝉)のことかと思いますが、空
蝉は軽く空虚なものの象徴のような気がします。

129	焼け焦げし小さき制服原爆忌

 原爆の痕跡そのものを詠むのは、季語と付き過ぎてしまうと思います。

130	パラグァイの奥地に漫漫大豆畑

 「大豆蒔く」「大豆引く」「大豆干す」等の季語はありますが、「大豆畑」は季語に
ならないと思います。

131	緑陰の風にまどろむ午後3時

 気持ちよさそうですね。午後三時というのが、昼食後の三尺寝でもなく、夕食間近と
いうわけでもない、ちょうどリラックスできる時間なのかもしれません。3時は三時と
表記された方が良いと思います。

132	ミンミンや工事現場の社旗なびく

 炎天下の工事現場なのでしょうが、風はありそうなのが救いですね。

 伊藤範子氏評================================

街の中ではなく 海や山の風の来る開発地でしょうか。これ以上樹木を伐採しないでほ
しいとみんみん鳴いているように聞こえたのかもしれません。「みんみん」がは平仮名
が良いと思いました。

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133	何処からか布団出てくる盆の夜

 実家への帰省あるあるですね。

 伊藤範子氏評================================

田舎の広い家が想像できます。帰省の家族のため何枚も運ばれた布団を見て、何処にこ
んなに沢山布団が収納してあるのかと驚いた作者の気持ちが素直に伝わりました。

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134	原つぱは空き地にあらず鬼やんま

 原っぱと空き地の違いをよく認識しておらず、辞書を引いてみましたが、やはりよく
わかりませんでした。

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