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選句結果
     
第293回目 (2024年2月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光晴 選 】
  特選 倒壊の黒き瓦に雪椿 佐藤けい(神奈川県)
   スキップでいつも通る子山笑ふ 大原女(京都)
   家家の屋根白き朝寒椿      みぃすてぃ(神奈川県)
   春立つや鼬の筆の跳ね強く 鷲津誠次(岐阜県)
   春立ちぬ木槌の音の高らかに ようこ(神奈川県)
   妻炙る海苔の香仄と朝厨 筆致俳句(岐阜市)
   カフェラテの似顔そつくり春隣 麻里代(和歌山市)
   岬より望む端島や水仙花 蝶子(福岡県)
   対岸と手話の語らひ春の川 惠啓(三鷹市)
   うすらひに透けて見えたり鯉の緋 野津洋子(瀬戸市)
【  酒井とし子 選 】
  特選 スキップでいつも通る子山笑ふ 大原女(京都)
   竹林に光一条春立つ日 康(東京)
   春立つや鼬の筆の跳ね強く      鷲津誠次(岐阜県)
   春立ちぬ木槌の音の高らかに ようこ(神奈川県)
   天平の匂ひを今に梅の花 後藤允孝(三重県)
   ヒマラヤの塩の桃色春浅し 伊藤順女(船橋市)
   真青なる空を賜り寒ひと日 りきお(秋田県)
   対岸と手話の語らひ春の川 惠啓(三鷹市)
   辰の字の大凧宙を席巻す 惠啓(三鷹市)
   太陽のかけら鏤め蜜柑山 小林土璃(神奈川県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 妻炙る海苔の香仄と朝厨 筆致俳句(岐阜市)
   竹林に光一条春立つ日 康(東京)
   カーテンを透けくる光り朝寝覚め      梦二(神奈川県)
   吊橋は谷の揺り籠冬日和 みのる(大阪)
   二ン月や「早春賦」弾く駅ピアノ 筆致俳句(岐阜市)
   朝刊のポストはみ出す初日かな 奥村僚一(甲賀市)
   カフェラテの似顔そつくり春隣 麻里代(和歌山市)
   春うらら朝ドラの唄口元に 隆昭(北名古屋市)
   ヒマラヤの塩の桃色春浅し 伊藤順女(船橋市)
   立春の音なきままの夜の雨 郁乎(〒834-0047 八女市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 竹林に光一条春立つ日 康(東京)
   スキップでいつも通る子山笑ふ 大原女(京都)
   風花や故郷の友の遺品来る      直樹(341-0018 埼玉県)
   カフェラテの似顔そつくり春隣 麻里代(和歌山市)
   水際の鳥の足跡春寒し 正憲(浜松市)
   保護犬の目玉黒ぐろ春の風 伊藤順女(船橋市)
   ヒマラヤの塩の桃色春浅し 伊藤順女(船橋市)
   倒壊の黒き瓦に雪椿 佐藤けい(神奈川県)
   カントリーダンスジーパンきめて春兆す 佐藤けい(神奈川県)
   岬より望む端島や水仙花 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、大原女さん(京都)、康さん(東京)でした。「伊吹嶺」2月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2024年2月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	懸崖に鳶が波濤と戯れぬ

 季語は鳶でしょうか?

2	日永なる獣の声の遠くから

 「日永なる獣の声」がよくわかりませんでした。上五を「日永なり」と切ると、取り
合わせの句として鑑賞できます。

3	ネット中暫し微睡む四温かな

 ネット中は、インターネットを使って何かしている間という意味かと思いますが、詩
語として少々無理を感じました。また、温かいから→眠くなるという因果関係・理屈が
感じられます。

4	抱く児の素足やわらか春萌す

 上五中七が感覚的で良いと思いましたが、「春萌す」という季語があるのでしょう
か? ここは「春兆す」で良いように思います。

5	スキップでいつも通る子山笑ふ

 春らしい明るさ、軽快さが感じられますね。

 酒井とし子氏評===============================

<いつも走る子>なので近所の子供なのでしょう。元気な子の様子を微笑ましく見てい
る作者が見えます。

 ======================================

6	メモの数増ゆ如月のカレンダー

 何故、二月はカレンダーにメモを書き込むことが多くなるのか? よくわかりません
でした。

7	予後の身の春一番によろめけり

 「予後の身」というのが、日本語として正しいのかどうか疑問に思いました。「予後」
は広辞苑には次のように載っています。
(1)〔医〕(Prognose ドイツ) 罹病した場合、その病気のたどる経過についての医学上の見通し。(2)俗に、病後の経過。「―不良」

8	まんさく咲く見晴台にパンの屑

 「まんさく咲く」は「まんさくや」で良いですね。通常、花は「咲く」と言わなくて
も、その名前を言うだけで咲いていることになります。

9	春寒の天日にぬくと大いちょう

 春寒は春が立った後に残る寒さ、天日は太陽の光や熱のことですので、暖かいのか寒
いのかよくわかりませんでした。

10	あの空は隣の国や鳥帰る

 島国日本では、よほど領海ぎりぎりまで行かないと、隣国の空は見えないと思います。

11	家家の屋根白き朝寒椿

 屋根が白いのは、雪が積もっているということでしょうか? そうだとすると、季重
なりを避けたいのはわかりますが、回りくどい謎かけのように感じられます。「家々に
雪積む朝や寒椿」とすると、主季語の寒椿の色彩が際立つと思います。

12	竹林に光一条春立つ日

 竹林に射しこんだ光に春の訪れを感じたのですね。静かに湧き上がる喜びが感じられ
ます。

 酒井とし子氏評===============================

竹林のすがすがしさが<光一条>により際立っている。

 ======================================

 奥山ひろ子氏評===============================

 「光一条」の措辞が「竹林」と合っていて美しいと思いました。

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13	飴舐めて無口な人と梅見かな

 飴を舐めているのは作者でしょうか?無口な人でしょうか?

14	春立つや鼬の筆の跳ね強く

 イタチの毛の筆は弾力があり、穂先が良くまとまるそうですね。春らしい力強い字が
書けそうです。

15	やはらかに丸餅まろくふくれけり

 餅を焼いている景が浮かびますが、やわらかいのも丸く膨れるのも餅として当たり前
に思いました。

16	カーテンを透けくる光り朝寝覚め

 光りが射して明るくなった→目が覚めたという理屈が感じられます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 春日の眩しさと、まだ眠い春の朝の取り合わせが面白いです。

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17	このままに国危うきや大雪崩

 句意がわかりませんでしが。本当の雪崩のことを言っているのか?世相を比喩的に
言っているのか?

18	吊橋は谷の揺り籠冬日和

 揺れるという点で吊り橋を揺り籠に喩えたのだと思いますが、同じ揺れるのでも、揺
り籠は心地よい揺れ、吊り橋はどちらかというと恐怖を感じますので、あまりうまい喩
えとは思えませんでした。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「谷の揺り籠」に作者の個性と工夫を感じます。

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19	冬鴎波は埠頭に絶へ間なく

 冬鴎と波は似合いますが、波の形容として「埠頭に絶へ間なく」は陳腐に感じました。

20	風花や故郷の友の遺品来る

 形見分けの品が送られて来たのでしょうか? 風花が美しくも悲しいですね。

21	いつの間に梅見となりし散歩かな

 「探梅」という季語を使いたいと思いました。「探梅の心携ふ散歩かな」等。

22	春立ちぬ木槌の音の高らかに

 春らしさを感じますね。上五は「春立つや」と詠嘆を感じられるようにしたいところ
です。ただ、立春と槌音というのは、類句が多いように思いました。

23	二ン月や「早春賦」弾く駅ピアノ

 二月と早春賦は付きすぎに感じました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 春を感じる代表的な曲ですね。「駅ピアノ」で現代の俳句という感じです。

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24	妻炙る海苔の香仄と朝厨

 焼き海苔は日本の朝食の定番ですね。かなり強い芳香がするので、「仄」という形容
にちょっと違和感を覚えました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 日常句を味わい深く詠まれました。「海苔の香」が鼻に漂うようです。平和な朝のありがたさを痛感し、特選といたしました。

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25	青びかる薄氷の面ほまち田に

 「ほまち田」を使った俳句を時折見かけますが、ほまち田かどうかは見た目ではわか
らず、田んぼは田んぼです。ほまち田であるということが重要な意味を持つ場合以外は、
注意して使った方が良いと思います。

26	ほまち田に薄紙ほどの薄氷

 「薄紙ほどの」は、薄氷の形容としてほとんど無意味に感じました。

27	朝刊のポストはみ出す初日かな

 元日の朝刊は分厚く、ポストに入りきらないのですね。中七に切れがあります。

 奥山ひろ子氏評===============================

 広告や記事が多い元旦の新聞。「ポストはみ出す」が具体的でいいと思います。

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28	大根の次に竹輪のおでん鍋

 大根も竹輪もおでん種では人気の品ですね。句としては、季語の説明です。

29	カフェラテの似顔そつくり春隣

 ラテアートですね。似顔絵なのでそっくりなのは当たり前ですから、もう一工夫ある
と良いと思いました。むしろ、「カフェラテの似てない似顔春隣」等の方が俳諧味があ
ると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 句材が新鮮で、季語がわくわくした気持ちを表しています。

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30	歩き出す時期はそれぞれ春よ来い

 「春よ来い」は季語になりません。

31	太陽のかけら鏤め蜜柑山

 「太陽のかけら鏤め」の意味がよくわかりませんでした。蜜柑を太陽のかけらに喩え
ているのでしょうか?

32	黒塗りの門閉ざしあり春の塵

 句意がよくわかりませんでした。春の塵や埃が入らないように、門を閉ざしていると
いうことでしたら、説明的な句となります。

33	水際の鳥の足跡春寒し

 ふとした物に季節を感じることがありますね。感覚の鋭い句と思いました。

34	公園のキリンの遊具春待てり

 春を待っているのは作者?遊具?

35	旅帰り水注す吐息室の花

 意味がわかりませんでした。旅帰りの心に水を差すような吐息を誰かがついたので
しょうか?

36	雛の家上がり框や黒光り

 黒光りしているのは上がり框だと思いますので、中七は「や」で切らない方が良いで
すね。

37	眼に凍つるなゐといくさの連写かな

 「眼に凍つる」は一種の比喩表現と思いますが、これが季語となるかどうか、疑問に
思いました。また、「連写」は写真を連続して撮ることで、TV等で連続して何かが映る
ことではありません。

38	ブロッコリーこの木なんの木亜星の木

 ブロッコリーが、日立のCMのモンキーポッドの木に似ているということでしょうか?
 あの曲の作曲家は小林亜星ですが、それを言う必要があるか疑問に思いました。むし
ろ、日立の樹と言った方が分かりやすいと思います。

39	あなた食べる?皮つき林檎口元へ

 セリフをそのまま句に取り入れた冒険的な句ですね。でも、皮を剥いていない丸ごと
の林檎を口元に突き付けられても、ぎょっとしてしまうのではないかと思ってしまいま
した。

40	春うらら朝ドラの唄口元に

 思わず歌を口ずさんでしまうような麗らかな陽気なのでしょうね。残念ながら私は朝
ドラを見ておらず、主題歌がどんなものなのか知りませんでした。

 奥山ひろ子氏評===============================

 スズ子のブギでしょうか?元気な一日の始まりで、こちらも明るい気分になります。

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41	如月の怒涛巌に綺羅まとふ

 「怒涛巌に綺羅まとふ」は、怒涛が巌のところで綺羅(美しい衣装)を纏うという意味
なのか、怒涛が巌に綺羅を纏わせるという意味なのかわかりませんでした。どちらにし
ても、不自然に感じます。

42	鈴鹿嶺の蒼き冠雪誓子の忌

 誓子忌は3月26日で、鈴鹿の峰々にはまだ雪が残っているのでしょうね。「蒼き」
は具体的描写ですが、作者の心理描写にもなっていると思いました。

43	春来る盆栽松の目覚めかな

 「盆栽松の目覚め」とはどのようなことでしょう? 新芽が出たということでした
ら、「若緑」や「緑立つ」として、それ自体季語になります。

44	天平の匂ひを今に梅の花

 格調を感じる句ですが、作者の主観による季語の説明的にも感じました。

 酒井とし子氏評===============================

<天平>という時代と「梅の花」がマッチしています

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45	雪激し能登の天気を思ひけり

 作者の窓の外に降る雪を見て、地震の被災地に思いを馳せ、案じているのでしょうね。

46	丹頂の番啼き合ふ息白し

 鶴が息を吐いた瞬間の映像・音が浮かんできます。丹頂も冬の季語ですが、主季語は
息白しですね。

47	保護犬の目玉黒ぐろ春の風

 目のくりっとした仔犬でしょうか? 保護犬を見守る作者の優しい眼差しが見えて来
ます。

48	ヒマラヤの塩の桃色春浅し

 ピンクの岩塩には独特の硬質さが感じられます。季語からそれが伺えますね。

 酒井とし子氏評===============================

「春浅し」の季語が効いている。

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 奥山ひろ子氏評===============================

 「ヒマラヤ」の地名が思い切った感じでいいですね。「桃色」という色も具体的でい
いと思いました。

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49	リンクなき指の現れたる春手套

 リンクはリング(指輪)でしょうか?

50	立春の音なきままの夜の雨

 立春の音とは何でしょうか?

 奥山ひろ子氏評===============================

 春の雨の静かな情景が浮かびます。静かな春の味わいを感じました。

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51	木の根明く内緒話を聴くやうに

 「内緒話を聴くやうに」の直喩がぴんときませんでした。

52	雪解けて後ろ歩きに見る未来

 申し訳ありませんが、句意がまったくわかりませんでした

53	残雪や能登の仮設にまだらなる

 上五が「や」で強く切れているにもかかわらず、中七下五で残雪の説明をしています
ので、上五の切れが意味を成していません。また、まだらな残雪は斑雪(はだれゆき)
と言い、それ自体季語になっています。

55	余寒なり雨冷やしゆく畑の土

 余寒であればもともと土は冷たくて、雨が降ったからといってそれ以上冷えることは
無いのでは?・・と思ってしまいました。

56	恋猫の木戸にちんまり朝帰り

 「ちんまり」で、猫が帰って来なくて一晩中案じていた作者の安堵感と拍子抜けした
感じが伝わります。

57	延々とメタセコイアの冬並木

 冬並木という季語があるでしょうか? また、「延々と」と「並木」の重複感が気に
なりました。

58	倒壊の黒き瓦に雪椿

 能登の地震の句と思います。 中七を「や」で切れば、取り合わせの句として、情景
が浮かんできます。

 武藤光リ氏評================================

  「瓦に」を「瓦や」となおさせて頂き、特選とします。
能登地震で倒れた家屋の能登瓦を「や」で強調したい。
能登瓦の家並は、黒く光って真に美しかった。それが今は砕けて
地に散乱している。能登にも多い雪椿は健気にも赤い花を付けて
今年も咲いている。早い復興を祈るばかりだ。

 ======================================

59	カントリーダンスジーパンきめて春兆す

 普段は履かないジーパンを、ダンスのために履いてみた作者。姿見に写った自分の姿
にときめいている作者の気持ちが伝わります。

60	岬より望む端島や水仙花

 端島はいわゆる軍艦島ですね。島の威容と水仙の花の対比が鮮やかです。

61	海峡を五分の渡船春の色

 季語が動くように思いました。「海峡」と「渡船」の重複感も気になりました。

62	水仙や媚びるとこなし清々し

 主観的で、季語の説明です。

63	ときめきも何事もなしバレンタインデー

 報告・説明的な句と感じました。字余りも気になります。

64	真青なる空を賜り寒ひと日

 句意は分かりますが、「寒晴」という一語の季語で済んでしまうと思いました。

65	見えぬ風地吹雪と化す広野かな

 風は見えないのが当たり前、それが雪を巻き上げると地吹雪となって見えてくるとい
うことですね。全体的に「地吹雪」の説明という感じを受けました。

66	対岸と手話の語らひ春の川

 暖かい感じは伝わりますが、どういうシチュエーションなのでしょう?

 酒井とし子氏評===============================

「春の川」の季語により楽しい会話なのだろうと察します。

 ======================================

67	辰の字の大凧宙を席巻す

 席巻は、「圧倒的に自分の勢力範囲に収めること。」とあります。大空を舞っている
凧にこの表現は無理があると思ってしまいました。

68	うすらひに透けて見えたり鯉の緋

 氷の下でも魚は生きているんですね。「鯉の緋」は「こいのあか」と読ませるのでしょうか?

69	幾筋も雪花のチェーン蜘蛛の囲に

 雪花と蜘蛛の囲の季重なりです。

70	うつ田姫わずかにゆるむ樹々の先

 珍しい季語に挑戦されました。いわゆるキセル俳句になっており、わずかにゆるむの
が、うつ田姫なのか樹々の先なのか、わかり難くなっています。

71	葉隠れの空を虚ろに落椿

 句意がわかり難く思いましたが、椿が落ちた跡に見える空が虚ろに思えるということ
でしょうか?

72	幾千の星の瞬き春隣

 星が鮮明に見えるのは冬で、春の星はにじんだ風情があるものとされています。そう
すると、季語が今一つ噛みあわない気がします。

73	春夕鞄にしまうチョコレート

 バレンタインデーでしょうね。中七を工夫して、もっと物語が感じられると良いです
ね。
第292回目 (2024年1月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 浅草にあふるる力車明の春 美佐枝(千葉県)
   火消壺父の背中を思ひ出し みぃすてぃ(川崎市)
   年越しの想ひ秘蔵の酒にかな      岩田 勇(愛知県)
   寒泳を果たす少年Vサイン 大原女(京都)
   福笹の千両箱の軽きかな 康(東京)
   倒壊の屋根とも知らず寒雀 正憲(浜松市)
   霜除けのファンゆるゆると明けの空  石塚彩楓(埼玉県)
   避難所のピアノの音色なゐ七日 比良山(大阪)
   夫起きる前の粧ひ初鏡 惠啓(三鷹市)
   太箸や太く濃く書く男の子の名 小豆(和歌山市)
【  関根切子 選 】
  特選 海光に白き巨船や初景色 みのる(大阪)
   火消壺父の背中を思ひ出し みぃすてぃ(川崎市)
   漱石忌書棚の空きに漢方薬      福山三歩(栃木県)
   探梅や山のなだりに日の座して 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   荒涼の野に鳴き交はす寒鴉 雪絵(前橋市)
   寒泳を果たす少年Vサイン 大原女(京都)
   尼僧らの清楚な靴や冬薔薇 小林土璃(神奈川県)
   青空へ蝋梅の黄の極みけり みのる(大阪)
   福笹の千両箱の軽きかな 康(東京)
   雪霏々となほも余震の続く地に 康(東京)
【  玉井美智子 選 】
  特選 獣らの息吹抱きて山眠る 後藤允孝(三重県)
   漱石忌書棚の空きに漢方薬 福山三歩(栃木県)
   荒涼の野に鳴き交はす寒鴉      雪絵(前橋市)
   浅草にあふるる力車明の春 美佐枝(千葉県)
   雪霏々となほも余震の続く地に 康(東京)
   一月の真白き日記地震から 町子(北名古屋市)
   夫起きる前の粧ひ初鏡 惠啓(三鷹市)
   七種や余生は二人恙なく 小豆(和歌山市)
   凍て土に打ち返さるる片手鍬 野津洋子(愛知県)
   巫女舞の金の鈴の音春兆す 櫻井 泰(千葉県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 漱石忌書棚の空きに漢方薬 福山三歩(栃木県)
   寒泳を果たす少年Vサイン 大原女(京都)
   海光に白き巨船や初景色      みのる(大阪)
   雪霏々となほも余震の続く地に 康(東京)
   置物と見紛ふ猫の日向ぼこ 隆昭(北名古屋市)
   鉄橋の風を尖らせ寒に入る 椋本望生(堺市)
   初日受く狭庭に遺る父の杖 鷲津誠次(岐阜県)
   冬菊の生き生きとして辻仏 蝶子(福岡県)
   日溜りの養蜂箱や花菜風 櫻井 泰(千葉県)
   巫女舞の金の鈴の音春兆す 櫻井 泰(千葉県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、福山三歩さん(栃木県)でした。「伊吹嶺」1月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


  2024年1月伊吹嶺HP句会講評        国枝隆生
 
2	火消壺父の背中を思ひ出し

 松井徒歩(以下徒歩)さんと関根切子(以下切子)さんの入選句です。中7以降は回
想のようですが、上5の火消壺は現役でしょうか。それとも火消し壺も回想でしょう
か。一寸戸惑いました。

3	年越しの想ひ秘蔵の酒にかな

 徒歩さんの入選句です。年越しにあたり、秘蔵の酒に思いを託しているのですね。俳
句の入門書では「かな」は名詞または活用形の終止形に繋がると書いてあります。ただ
昭和時代、高浜虚子が「にかな」などと使った例があり、それ以降流行したようですが。
例えば「白粉の花落ち横に縦にかな 虚子」など。

5	庭焚火老母引取る娘ら見入る

 一寸物を詰め込みすぎのような印象でした。

6	漱石忌書棚の空きに漢方薬

 玉井美智子(以下美智子)さん、切子さんの入選句で、国枝隆生(以下隆生)が特選
で頂きました。漱石はいつも身体が弱かったそうです。その漱石を回想して、「漢方薬」
と詠まれたのがマッチしました。

美智子さん評=====================
 漱石忌をご自分のことに引き付けて詠んでおられますのでいいと思います。
===========================

切子さん評=====================
 下六が気になります。〈空きに〉は〈隙に〉でもよいかと思いました。
===========================

9	血塊を海へ垂らして冬落暉

 切子さんの入選句です。「冬落暉」の比喩として夕日をやや大げさに「血塊」と詠ま
れたのでしょうか。

10	探梅や山のなだりに日の座して

  切子さんの入選句です。「なだり」はいわゆる「傾り」で傾斜のことですね。よく
「なぞへ」とも言われています。

11	荒涼の野に鳴き交はす寒鴉

 美智子さん、切子さんの入選句です。

美智子さん評=====================
餌を求めて歩く烏がなんとなく哀れですね。寒々としています。
==========================
 
15	寒泳を果たす少年Vサイン

 徒歩さん、切子さん、隆生の入選句です。「Vサイン」で少年のうれしそうな様子が
よく見えます。

切子さん評=====================
 〈果たす少年〉は〈果たし少年〉では?
===========================

16	浅草にあふるる力車明の春

 徒歩さんの特選、美智子さんの入選句です。「あふるる力車」で賑わいがよく見えま
す。浅草はインバウンド需要に溢れていますね。

美智子さん評=====================
 海外の方に人気の浅草、新年から人力車が忙しく走って賑わいを感じます。
==========================

18	縁むすぶ三寺まいり雪明かり

 飛騨古川の三寺参りですね。よく分かりますが、「縁むすぶ」が三寺参りの説明になっ
ている感じでした。

19	鎌倉へ江ノ電走る実朝忌

 分かりやすい句ですが、固有名詞が3つとは多い感じでした。例えば固有名詞は「実
朝忌」の1つにして、その他の部分で写生すれば具体的な情景が見えてくると思いまし
た。

20	尼僧らの清楚な靴や冬薔薇

 切子さんの入選句です。まさに清楚な感じですが、「清楚」は慣用句の印象を受けま
した。

切子さん評=====================
 清楚な靴はどんな靴か写生できるとよいと思いました。
===========================

21	足場をたどり届ける蜜柑午後三時

 上5はいくら長くても構わないという方もいらっしゃいますが、やはり定型で収めた
いと思いました。

22	青空へ蝋梅の黄の極みけり

 切子さんの入選句です。

切子さん評=====================
 青空と蝋梅の取り合わせが美しいです。〈黄を極む〉をもっと具体的に蝋梅の美しさ
を詠んで欲しいと思いました。
===========================

23	海光に白き巨船や初景色
 切子さんの特選句と隆生の入選句です。白い巨船というとタンカーでなく、豪華客船
でしょうか。初景色にふさわしい取り合わせだと思いました。

切子さん評=====================
 大きな景で初景色に相応しいと思いました。
===========================

24	福笹の千両箱の軽きかな

 徒歩さん、切子さんの入選句です。この句の場合の「かな」で収めるとき、「軽きか
な」と「軽さかな」のどちらがリズム感がよいでしょうか。

25	雪霏々となほも余震の続く地に

 切子さん、美智子さん、隆生の入選句です。今月は能登地震を詠まれた句が多く見ら
れました。こういう時に注意したいことはテレビを見て、臨場感を詠む句がありますが、
作者自身の感動となっているかどうかだと思います。そういう点でこの句はテレビを見
て詠んだ句のように見えますが、「雪霏々と」に作者の実感があると思いましたので、
頂きました。

美智子さん評=====================
 厳しい避難生活をしておられるなか凍えるような寒さと余震。復興を願うばかりです。
==========================

26	倒壊の屋根とも知らず寒雀

 徒歩さんの入選句です。この句も「倒壊の屋根」で能登地震を詠んだ句でしょうか。
一般的な自然災害と寒雀の実態の取り合わせと解釈しました。

27	石を積み死者と語らふ冬雲雀

 「語らふ」は終止形も連体形もありますが、どちらでしょうか。雲雀ではないでしょ
う。終止形として、作者が語らっているのでしょう。そうすると作者が地震の現場にい
ることになりますね。

29	置物と見紛ふ猫の日向ぼこ

 隆生の入選句です。何でもない情景ですが、穏やかな写生だと思いました。

30	振り向けば量の増したる年始酒

 「振り向けば量の増したる」がよく分かりませんでした。

31	具墨色の苑池の黙や蓮の骨

 「具墨色」と難しい言葉を使われていますが、枯蓮の池の色というと、大体想像がつ
くのですが、あえて「具墨色」と詠まれたのは何か意図があったのでしょうか。

32	獣らの息吹抱きて山眠る

 美智子さんの特選句です。

美智子さんの評====================
 生息している猿や鹿などの<息吹抱きて>と山が眠っているという大きくとらえたと
ころがいいと思った。
===========================

33	天平の甍にそそぐ寒月光

 「天平の甍」と言えば井上靖の小説の題名ですが、「天平」だけで十分意味が伝わり
ますので、「甍」を他の写生で出来るような気がしました。

34	霜除けのファンゆるゆると明けの空 

 徒歩さんの入選句です。エアコンでしょうか。朝まだ寒いときにファンの動きを詠ま
れたのだと思いますが、「ゆるゆると」などとこういうときのオノマトペは難しいです
ね。

37	日溜りに七草粥の湯気立ちぬ

 最初、「日溜り」というと屋外を想像しましたが、室内の窓際で七草粥を食べている
のですね。

38	鍵穴を覗く目玉の冷めたけり

 「冷めたけり」と活用するのでしょうか。「けり」は活用の連用形につながります。
一方、「冷めた」は「冷たし」が終止形で、「く・かり活用」ですね。そうするとここ
は「冷たかり」ではないかと思いました。

40	濁音の潮騒聞きつ若菜摘

 「濁音の潮騒」とはどんな音でしょうか。よく分かりませんでした。

41	鯨飲馬食の胃腸へ若菜粥

 「鯨飲馬食」は「飲み過ぎ、食べ過ぎ」を比喩で詠まれたのだと思いましたが、これ
は一つの慣用句ですから、具体的な写生で詠まれれば良かったと思いました。

42	避難所のピアノの音色なゐ七日

 徒歩さんの入選句です。避難所にピアノがあるのを発見したのでしょうか?ただ「な
ゐ七日」に実感がありました。

45	初日の出光もらひて今日生きる

 「今日生きる」のようなフレーズは作者の実感だと思いますが、やや観念的なものを
感じました。

46	鉄橋の風を尖らせ寒に入る

 隆生の入選句です。見たままの写生句ですが、「風を尖らせ」の把握がよかったと思
います。

49	一月の真白き日記地震から

 美智子さんの入選句です。

美智子さんの評====================
 一年の計を書くこともなく倒壊した家の中から見つかった日記帳でしょうか。
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53	夫起きる前の粧ひ初鏡

 徒歩さん、美智子さんの入選句です。新年ですから、夫が起きる前に身だしなみを整
えたのでしょうか。我が家では妻は一年中すっぴんです。

美智子さんの評====================
 女性の鏡みたいでこうありたいですね。
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54	初日受く狭庭に遺る父の杖

 隆生の入選句です。「遺る」と詠まれていますので、父上は亡くなられているのでしょ
うか。新年にしみじみと父上を偲んでいる様子が見えました。ただ「狭庭」と卑下しな
くても普通の「庭」でよいと思いました。

57	はなやかに風花義母の柩逝く

 義母の葬儀の寂しさにあえて風花を「はなやか」と詠むことにより、臨場感を出され
たのではないかと思います。

59	冬菊の生き生きとして辻仏

 隆生の入選句です。普通冬の菊は衰えた感じだが、あえて「生き生きとして」と詠ん
で、辻仏にエールを送られたのでしょうか。

61	七種や余生は二人恙なく

 美智子さんの入選句です。

美智子さんの評====================
 清らかな緑の粥を食べながら無病息災の余生を願っておられるのでしょう。
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62	太箸や太く濃く書く男の子の名

 徒歩さんの入選句です。「太く濃く書く」に新年のお子さんの成長を願っているので
すね。

63	凍て土に打ち返さるる片手鍬

 美智子さんの入選句です。

美智子さんの評====================
 水分が凍結した土に鍬を入れられた時のことが素直に詠まれています。
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65	日溜りの養蜂箱や花菜風

 隆生の入選句です。物だけで動詞を使わない写生から力強さがあると思います。「花
菜風」に早くも春が見えてきました。

66	巫女舞の金の鈴の音春兆す

 美智子さん、隆生の入選句です。音から春が来る兆しを捉えたところがいわゆる音の
即物具象です。

美智子さんの評====================
 春兆すには<金の鈴の音>がよく合っていますね。
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68	冬茜ほっとひと息缶コーヒー

 一日の仕事の終わりを缶コーヒーで締めている安らぎが見えます。ただ「ほっと」と
「ひと息」にややダブりが見えました。

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