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【
第303回目
(2025年3月)
HP俳句会 選句結果】
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【
松井徒歩
選 】 |
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特選:
ポケットに中也の詩集渡り漁夫
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石塚彩楓(埼玉県)
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親友もけふはライバル大試験
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貝田ひでを(大阪)
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風を切りひかりを切るや初燕
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みぃすてぃ(神奈川県)
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パンジーを指して正午の花時計
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康(東京)
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補助輪のとれし日曜山笑ふ
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大原女(京都)
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三番は歌へぬままに卒業す
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ようこ(神奈川県)
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武蔵野の風まだ硬し花辛夷
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まこと(さいたま市)
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金継ぎの器に京の春の菜
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石塚彩楓(埼玉県)
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軍服の若き日の父黄砂降る
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よりこ(愛知県)
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句会終へ香りひとしほ桜餅
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野津洋子(愛知県)
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【
関根切子
選 】 |
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特選:
パンジーを指して正午の花時計
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康(東京)
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補助輪のとれし日曜山笑ふ
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大原女(京都)
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熱き茶を両掌で包む余寒かな
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粗稲沖(埼玉県)
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春眠の夢に夫居てわれ若し
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百合乃(滋賀県)
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花辛夷足湯に揃ふ膝頭
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正憲(浜松市)
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卒業歌響く廊下を風抜けり
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比良山(大阪)
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三番は歌へぬままに卒業す
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ようこ(神奈川県)
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園庭の小さき足跡春の泥
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かれん(埼玉県)
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武蔵野の風まだ硬し花辛夷
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まこと(さいたま市)
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軍服の若き日の父黄砂降る
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よりこ(愛知県)
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【
国枝隆生
選 】 |
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特選:
風に舞ひ風と遊べり春の雪
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田中由美(愛知県)
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武蔵野の崖の湧き水馬酔木咲く
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康(東京)
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パンジーを指して正午の花時計
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康(東京)
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白梅の薄暮の枝に浮かびをり
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粗稲沖(埼玉県)
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花辛夷足湯に揃ふ膝頭
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正憲(浜松市)
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甲斐駒に名残の雪や龍太の忌
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美佐枝(千葉県)
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三番は歌へぬままに卒業す
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ようこ(神奈川県)
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武蔵野の風まだ硬し花辛夷
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まこと(さいたま市)
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軍服の若き日の父黄砂降る
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よりこ(愛知県)
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俎板に色残したる蓬かな
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戸口のふっこ(静岡県)
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【
玉井美智子
選 】 |
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特選:
花辛夷足湯に揃ふ膝頭
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正憲(浜松市)
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雛の夜や祖母ねんごろに琴磨く
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鷲津誠次(岐阜県)
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パンジーを指して正午の花時計
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康(東京)
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甲斐駒に名残の雪や龍太の忌
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美佐枝(千葉県)
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ほの暗き旧家の座敷吊るし雛
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ようこ(神奈川県)
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武蔵野の風まだ硬し花辛夷
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まこと(さいたま市)
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木の芽晴息子へ渡すレシピ集
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近江菫花(滋賀県)
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金継ぎの器に京の春の菜
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石塚彩楓(埼玉県)
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ポケットに中也の詩集渡り漁夫
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石塚彩楓(埼玉県)
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笑みさそふ馬面顔の内裏雛
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野津洋子(愛知県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、康さん(東京)でした。「伊吹嶺」三月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年3月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
沢山の御投句ありがとうございました。
1 天空に余る雪です地も余る
手に負えぬ大量の雪を<余る>で良いかどうか・・・。
2 深淵の救助隊群影長し
深淵の中の救助隊かと思ったのですが、深淵の中を救助する人たちのことだと解釈
しました。道路の大きな陥没事故を思い浮かべましたが、<深淵>が具体的でないので
分かりにくかったです。
3 落ち着かぬ座り心地や紙雛
俳味のある句ですね。紙雛のことだと思いますが、座り心地の悪いのは作者の方と
もとれますね。
4 引鶴や静寂となる観光池
<観光池>は<観光地>の変換ミスでしょうか、<引>と<静寂>に理屈を感じました。
5 親友もけふはライバル大試験
まさにそうですね。二人とも合格することを祈ります。
6 遅刻の子背中は春の泥まみれ
どうして泥まみれになったのか?転んで泥まみれになった?遊んでいたのか?省略
のし過ぎのような気がしました、
7 風を切りひかりを切るや初燕
綺麗に仕上がった句ですね。「初燕」を発見した感動が伝わってきます。
〈国枝評〉リフレインがよく効いた句で、印象的。ただ中七で「切るや」と切れ字で強
く切っているので、「切る」ことが主眼の句となってしまいます。この句の場合、
「初燕」が主人公だと思うので、「風を切りひかりを切りて初燕」とする方がリフレイ
ンを効かせつつ、「初燕」を主人公と思います。
8 夕暮れや風に乱るる雁のこゑ
形よく仕上がった句ですね。手練れの句という感じです。
9 風に舞ひ風と遊べり春の雪
風のリフレインが心地良いですね。
国枝隆生指標================================
今月はリフレインの句が多くありましたが、この句のリフレインは心地よく「春の雪」
にふさわしい風となりました。
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10 春の別れ船のあと追ふ白き波
<別れ>だから<あと追ふ>という理屈のようなものを感じました。
11 白梅の噴き出づるかな空の青
<噴き出づる>がよく分かりませんでした。梅の木を仰いだら青空から梅の花が噴
出したように見えたということでしょうか?
12 山門の雪解雫に清めらる
<清めらる>と答えを出して意味を付けてしまったのが俳句としては弱いような気
がしました。
13 モネ画集に指栞して春満月
一例ですが「春月やモネの画集に指栞」とすれば上六は解消されると思います。
13 雛の夜や祖母ねんごろに琴磨く
<ねんごろ>に琴への愛情が伺えます。
〈国枝評〉この句も「雛の夜や」とここで断絶の切れ字を使っているので、「雛の夜」
の句となってしまう。祖母が琴を磨くのが主役なので、「雛の夜祖母ねんごろに琴磨く」
として上五は「ひひなのよ」と読ませれば柔らかな祖母が主役として登場します。
15 炬燵取るや名残ここにももぐさ屑
<や>を付けて上六にしなくても、<炬燵とる>で十分だと思います。
16 久々の雪の富嶽に命伸ぶ
観念が勝りすぎているように思いました。
17 春の月つり舟ゆらり弧を描く
何か夢の中の光景のようで現実感が湧かない句のように感じました。
18 朧月藪に傾げた祠かな
<傾げた>と過去形にするよりも<傾げる>と現在形にしたほうが良いように思いま
したした。
19 武蔵野の崖の湧き水馬酔木咲く
多分小さな湧き水だと思いますが「馬酔木」が良い舞台装置になっていますね。
国枝隆生氏評================================
雪解け水だろうか。それと馬酔木の取り合わせがぴったりとくる句でした。
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20 パンジーを指して正午の花時計
「パンジー」が具体的で景が良く見えます。
国枝隆生氏評================================
花時計の文字盤に植えたパンジーが早春の光に満ちた明るさに共感しました。
======================================
21 南縁の日差しの温し母の部屋
南向きの部屋の説明のような気がしました。
22 日向ぼこ猫はピンクの舌出して
ピンクの舌が発見ですが、(日向ぼこと猫)の句はたくさん見てきましたのでもう
少しほかの場面を見たいです。
23 補助輪のとれし日曜山笑ふ
日曜日ですのでお父さんお母さんの姿も見えてきます。
24 草青む駆くる子跳ねる子寝転ぶ子
春らしい躍動感がありますが中八ですね。
〈国枝評〉今月はリフレインの句が多くありましたが、この句は子供の動作を動詞で三
つのリフレインを使ってリズム感を出していますが、句またがりの句としても基本的に
定型感の残るリズム感が見える句にしたいものです。
25 雨ふふみ色鮮らけき梅の蕊
予選で頂きましたが、<色>は要るでしょうか?
26 奥宮へ行くや新緑をんな坂
<行くや>は切れ字ではなく間投助詞として鑑賞しました。
27 白梅の薄暮の枝に浮かびをり
<浮かびをり>が詩的ですね。朧のような感じでしょうか。
国枝隆生氏評================================
夕暮れの明るさに浮き上がっている白が印象的。ただ下五を「浮かびをり」としている
が、「浮かびたり」と完了の句とすると、白梅が浮かび上がった時の印象を強く表現す
ることが出来ると思いました。
======================================
28 熱き茶を両掌で包む余寒かな
素直な描写で良いですね。予選で頂きました。
29 振り向けど己が影のみ春寒し
形よくできていて申し分ないのですが、寂しい景に「春寒し」と追い打ちをかけてい
るのでもう少し救いのある季語のほうが良いように思いました。
30 湿り持つ石の玄室春の闇
<持つ>にやや違和感があるので、素直に「湿りたる」ではどうでしょうか。石の
湿りと季語はよく合っていると思います。
31 春眠の夢に夫居てわれ若し
<夫居て>の措辞に目が止まったのですが、ご主人は先立たれたのでしょうか。そう
読みますと「春眠が」良く効いているように思いました。
32 春浅き含みて白湯の甘かりき
<春浅き>は連体形ですがどこに繋がるのでしょうか。<春浅し>と終止形にしたほう
が良いとおもいます。
33 蕗味噌や医者の忠言ほろ苦し
共感はできますが報告気味ですね。季語も効いているかどうか・・・。
34 一碗の飯きらきらと春立ちぬ
季語は上五に移したほうが良いように思いました。
35 花辛夷足湯に揃ふ膝頭
膝頭に注目した写生ですね。
国枝隆生氏評================================
足湯は必ず膝を出して入りますが、「揃ふ膝頭」の写生が面白くも、よく効いています。
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36 銃口に仕留めし記憶遠雪崩
良い句なのですが、銃口に記憶があるように読めてしまうのが気になりました。
37 お披露目の雛それぞれの矜持かな
<矜持>という言葉に共感できるかどうか・・・。
38 春闘や日比谷に集ふ組合旗
「春闘」の説明のような気がしました。
39 白妙の雲従へて椿山
「椿山」が曖昧すぎて景が見えてきませんでした。
40 甲斐駒に名残の雪や龍太の忌
予選で頂きました。写生の効いた龍太への挨拶句ですね。
国枝隆生氏評================================
甲斐駒ヶ岳の残雪が浮かび上がっているのが龍太へのリスペクトの気持ちが籠もってい
ると思いました。なお季重なりであるが、忌日自身に季節感はないので、このような季
重なりの句は構わないと思います。ただその場合、どちらに重点を置くかを考える必要
があります。どちらも強い季語であるが、作者は「雪や」とこちらを強調したいのであ
ろうから、むしろ「龍太の忌」は「龍太亡し」などと季語から外す工夫も必要かと思い
ます。
======================================
41 雛飾もう無き生家雛の日
雛の日なのに雛飾りがないという、多分確信的な季重なりだと思いますが、言いたい
気持ちを我慢するのも俳句だと思います。
42 ビルの雨夜雨となりぬ誓子の忌
俳句は短いですから<雨>の重なりがもったいないです。
〈国枝評〉「ビルの雨」と「夜雨」と状態の違う雨を重ねていると思いますが、「雨」
は一つに出来るような印象でした。
43 一輪のかぼそい香り梅の花
<かぼそい>の口語が気になりますがかえって寂しい感じが伝わってくるようにも思
いました。
44 四百年老木梅の吐息秘め
<四百年老木梅>が言葉が詰まっていますので何とかしてほしいです。<吐息秘め>
も言葉に酔っているように思えました。
45 春昼や輪袈裟(わげさ)の僧の月参り
できている句ですが季語にもう一工夫欲しいと思いました。
46 梅垂(しだ)る杖の夫婦のベンチまで
<ベンチまで>が説明のように思えます。
47 雛流し中止を知らぬ海と我
<我>は省略して<海>を描写してみてはどうでしょうか。
48 菜の花が先ず売り切れの無人市
説明の句になっていますので、売り切れた菜の花の名残などを描写してみてはどうで
しょうか。
49 春朝や暗渠の草の萌黄色
良い句なのですが、<草の萌黄色>が季語の「草萌え」を想起させるのが気になりま
した。
50 卒業歌響く廊下を風抜けり
卒業の一抹の寂しさを廊下を抜ける風に託したのでしょうか。
〈国枝評〉この句の意味を考えると「抜けり」は自動詞ですから、終止形の「抜く」は
下二段活用です。また完了・継続を表す「り」の助動詞は四段活用の已然形しかつなが
らないので、「抜けり」とは言いません。なお他動詞の「抜く」は四段活用ですから、
「抜けり」という言い方はあります。
51 菜園の鍬を休むる初音かな
鶯の声に今年の春を実感している作者が見えます。
52 継ぐ子なき農の一念春田打つ
作者の文字通りの一念が感じられました。
53 ほの暗き旧家の座敷吊るし雛
旧家の雰囲気が漂っていますね。
54 三番は歌へぬままに卒業す
校歌ですね。私は一番しか覚えられませんでしたが、ほのかな俳味を感じました。
国枝隆生氏評================================
卒業は中高大のいずれか分からないが、若干、作者の自戒の籠もった句となったのが面
白い。
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55 園庭の小さき足跡春の泥
素直な写生ですね。子供さんの足跡でしょうか。靴を洗うのが大変ですね。
〈国枝評〉園庭を登場させることにより、かわいらしい春泥の句となりました。
56 囀やベビーカーには双子の子
春にふさわしい幸せな風景ですね。
57 薇の風に乗りたる白い雲
「薇の風」が?でした。
58 摘み忘る土筆を足して夕餉かな
<摘み忘る>は終止形なのでここで切れてしまい、不自然な文体の句になっていまい
ます。
59 うららかや祖父と気の合ふ吾子と犬
<気の合ふ>が説明なのでここを何とかしてください。
60 草餅や笑い溶け合ふ昼の縁
和やかな気分は分かりますが<笑い溶け合ふ>がよく分かりませんでした。<笑い>
は<笑ひ>ですね。
61 春塵や大空にブルーインパレス
爽快なブルーインパレスに「春塵」は合わないような気がします。
62 受験生また初めから砂時計
何回も何回も問題を解いているのでしょうか。
63 車窓には煌めく海や麦の秋
「麦の秋」は時候の季語ですから良いのですが、どうしても初夏の麦畑を連想してし
まいますので、(車窓の海)で良いのかなあ?と思いました。でも気分の良い句ですね。
64 産着よりふわと白木蓮現るる
どういうことかよく分かりませんでした。
65 家出づる少年少女春の星
かろうじて季語が受け止めてくれますが、少年少女が外出しただけですと、詩として
鑑賞するのが難しいと思います。
66 穴出づる蛇に従ひ黄泉の坂
私には理解不能の句であります。
67 リハビリの口の運動卒業歌
「卒業歌」を作者が歌っているのか、聞こえてきたのかで迷いました。
68 武蔵野の風まだ硬し花辛夷
辛夷が咲きはじめたとはいえ。まだまだ早春の気分を地名が程よく受け止めているよ
うに思いました。
国枝隆生氏評================================
早春の季節感を「風まだ硬し」込めている。武蔵野らしい巧みさが感じられる句でした。
======================================
69 木の芽晴息子へ渡すレシピ集
始めは何のことか分からなったのですが、息子さんがレストランを継ぐのでしょうか。
親子の愛情が伝わってきました。選句を送ってしまいましたので、採り損なってしまっ
た句であります。
70 定食のお代わり無料蜆汁
素直に鑑賞できました。この句を読むと前句は町の大衆食堂という感じですね。
71 金継ぎの器に京の春の菜
贅沢な器に京の素朴な春菜が絵になります。
72 ポケットに中也の詩集渡り漁夫
「渡り漁夫荷に一冊の文庫本」近藤一鴻という句があり、類想感があるかもしれませ
んが、上手な句だなあと感心しました。こういう句に出会うと選者としての幸せを感じ
ます。
73 やがて地に還る身を置く春の山
<身を置く春の山>がよく分かりませんでした。こういう言葉を使うのならこの山に
特別な思いがあるのかもしれませんが、それが見えてきませんでした。
74 花杏延命措置は望みません
素直に受け止めることができる句ですね。
75 嵌め殺し窓より朝日春遅々と
< 嵌め殺し窓>が嘱目としても句の中で効いているかどうか。
76 軍服の若き日の父黄砂降る
季語から、中国大陸に出兵した人を想像しました。
国枝隆生氏評================================
季語の「黄砂降る」から父上は中国に出征されたことが分かる。私の父との共通点が見
えて頂きました。
======================================
77 花菜風シャターチャンス列車待つ
上五・中七と名詞で切れているので三段切れですね。
78 パズル解く時を忘れて春炬燵
素直に詠まれた句ですね。季語を上五に移して「春炬燵時を忘れてパズル解く」も良
いかもと思いました。
79 校庭に残る騒めき卒業子
いつまでも別れを惜しんでいる卒業生の様子でしょうか。
80 風光るガッツポーズのホームイン
春らしい元気のよい句ですね。
81 微睡みて気付く終点山笑ふ
<気付く>が理屈っぽいので<微睡の覚むる>ぐらいでどうでしょうか。
82 長閑なる浜辺の昼餉鳶の笛
<長閑なる>は季語にまかせて、美味しそうな昼餉を表現してみてはどうでしょうか。
83 句会終へ香りひとしほ桜餅
厳しい先生の緊張した句会を終えての桜餅、香りに注目したのが良かったと思います。
84 笑みさそふ馬面顔の内裏雛
<面>と<顔>が同義ですので<顔>は省略できると思います。
85 ものの芽や若き俳句の仲間たち
季語が若い俳人たちの夢や希望を受け止めていますね。
86 癒えぬまま厨に立てり水温む
春めいてきたので病もだんだん良くなるとおもいます。こういう句ですと「冴え返る」
のような季語を使う人がいますが、「水温む」で救いがあります。
〈国枝評〉「水温む」は歳時記では地理の項目にあります。そのためこの「水温む」は
自然界の水を言います。水道水などの人工の水には「水温む」とは言いません。「春の
水」「秋の水」なども同様です。
87 角砂糖シュワッと溶けて春の朝
<溶けて>の<て>が気になりますので、語順を入れ替えて「春朝やしゆわつと溶く
る角砂糖」などいかがでしょうか。
88 蓬摘む小さき背中の母老へり
<老ふ>ではなく老ゆ>ですから<老へり>という活用はありません。<老へり>
から推察すると<老いぬ>ぐらいでしょうか。
89 風除けし葉陰に一輪紅椿
<風除けし>は理屈のような主観を感じました。
90 雨の香の風やわらかし月朧
風に対する言葉が多すぎるように思いました、もっとシンプルにした方が良いと思い
ます。
91 俎板に色残したる蓬かな
俎板に残った色に注目したのが工夫ですね。
国枝隆生氏評================================
省略された「蓬」であるが、丁寧に「俎板に蓬刻みし色残る」としてもよいかとも思い
ました。
======================================
92 下萌や唐揚げの香を通り抜け
嘱目としても季語が合っていないように思いました。
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【
第302回目
(2025年2月)
HP俳句会 選句結果】
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【
酒井とし子
選 】 |
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特選:
寒紅やきりりと結ぶ博多帯
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美佐枝(松戸市)
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蒲公英や少年野球の声高し
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みのる(大阪)
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寄せ書きの如く花植へ卒業す
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大原女(京都)
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春遅々と潮のしぶける鵜の岬
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美佐枝(松戸市)
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コロッケの色よく揚り初音かな
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康(東京)
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予備校の窓煌々とぼたん雪
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鷲津誠次(岐阜県)
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四温晴れ家紋を印す蔵の壁
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田中由美(愛知県)
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墓碑拝む肩へ春雪降りやまず
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田中のびる(三重県)
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居残りの椅子整へて余寒なほ
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ようこ(神奈川県)
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足指の爪の桃色春浅し
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伊藤順女(船橋市)
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【
奥山ひろ子
選 】 |
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特選:
解氷や船の道開くオホーツク
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筆致俳句(岐阜市)
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蒲公英や少年野球の声高し
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みのる(大阪)
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寒紅やきりりと結ぶ博多帯
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美佐枝(松戸市)
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朝寒や喪の服入れし旅鞄
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近江菫花(滋賀県)
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予備校の窓煌々とぼたん雪
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鷲津誠次(岐阜県)
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賄の石蓴汁飲む帰漁かな
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比良山(大阪)
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蒼天の甘さ込め干す春大根
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比良山(大阪)
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春耕や畦のラジオのヴィバルディ
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櫻井 泰(千葉県)
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砂浜に増えし足跡日脚伸ぶ
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蝶子(福岡県)
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書き込みの多き教科書春隣
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美由紀(長野県)
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【
武藤光リ
選 】 |
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特選:
寒紅やきりりと結ぶ博多帯
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美佐枝(松戸市)
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蒲公英や少年野球の声高し
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みのる(大阪)
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波ふくらみ海女の磯笛春の海
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百合乃(滋賀県)
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村出でし人も戻りて花祭
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よりこ(愛知県)
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畝の菜に振り塩ほどの雪降れり
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雪絵(前橋市)
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冴返るうだつの町や和紙明かり
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筆致俳句(岐阜市)
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下校児の明るき声や木の芽道
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田中由美(愛知県)
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風光る大桟橋のクルーズ船
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かれん(埼玉県)
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山笑ふ角突き合はす若き山羊
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櫻井 泰(千葉県)
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書き込みの多き教科書春隣
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美由紀(長野県)
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【
渡辺慢房
選 】 |
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特選:
寄せ書きの如く花植へ卒業す
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大原女(京都)
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晴れ渡る海にどよめき鯨跳ぶ
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みぃすてぃ(神奈川県)
|
寒紅やきりりと結ぶ博多帯
|
美佐枝(松戸市)
|
春遅々と潮のしぶける鵜の岬
|
美佐枝(松戸市)
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雪嶺や蒸気たわわに洗濯屋
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鷲津誠次(岐阜県)
|
下校児の明るき声や木の芽道
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田中由美(愛知県)
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リハビリの窓に見上ぐる春の雲
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まこと(さいたま市)
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薄氷透けて草の葉ほの青し
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かれん(埼玉県)
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補助輪の風やはらかしクロッカス
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椋本望生(堺市)
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書き込みの多き教科書春隣
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美由紀(長野県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、美佐枝さん(松戸市)でした。「伊吹嶺」二月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年2月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 紅白の始まる前に蕎麦湯がく
状況はよくわかりますが、残念ながら切れが無く、事実・事柄を散文的に述べただけ
の「報告」と感じました。「紅白」という季語はありませんし、「蕎麦」も「年越し蕎
麦」「晦日蕎麦」としないと季語になりません。また、一般的に蕎麦は「茹でる」もの
だと思いますが、西日本では「茹でる」ことを「湯掻く」ということもあるようですね。
2 凍ての空工場シンボル警備室
「凍てる」は動詞ですので、「凍ての空」という名詞的な使い方ではなく「凍てし空」
とするか「凍空や」とした方が良いと思います。「凍ての空・工場・シンボル・警備室」
と、名詞が四つ並んだ四段切れで句意がよくわかりませんが、工場のシンボルが警備室
ということでしょうか?
3 早梅のはつかに二輪古戦場
「はつかに」を「二十日に」と読むと意味がわかりませんので、「僅かに」ですね。
ひそと咲く早梅が古戦場に似合っていますが、「僅かに」が説明的で作者の主観が強く
出過ぎる感じがします。「早梅」だけで、満開ではなくようやく綻び始めた梅の風情が
感じられますので、上五を「早梅や」と切って、中七下五で古戦場を写生しては如何で
しょうか?
4 待春の馬のいななき聞こへ来る
馬の嘶きに生命感の膨らみを感じます。よく言われることですが、雨は「降る」もの、
風は「吹く」もの、虹は「見える」もの・・・、嘶きは「聞こえる」もので、そういう
無駄な言葉は省くのが俳句のコツです。
5 過疎村の気概新たに餅の音
何となく言いたいことはわかりますが、「気概新たに」が観念的で具体的な景に欠け
るように思います。
6 大津絵の朱の際立つ寒の夜
きりりと引き締まった空気に引き立つ朱色が鮮やかです。「寒」は、寒の入りから立
春の前日までの約一か月間を言いますので、「寒の夜」だとこの期間の夜ずっとという
意味になります。「寒夜」にすれば、凍てつく寒い一夜の意味になりますので、下五は
「寒夜かな」とした方が良いと思いました。
7 寒林に男はたちの朝の口笛
「男はたちの」がよくわかりませんでした。「男二十歳の」?「男は、たちの」? 下
五の字余りも気になりました。
8 日脚伸ぶ八方ヶ原余光なほ
「八方ヶ原」という場所を知りませんが、字面・語感から広々とした景が浮かびまし
た。ただ、「余光なほ」が季語「日脚伸ぶ」の説明に感じられます。
9 晴れ渡る海にどよめき鯨跳ぶ
雄大な景ですね。どよめいているのは、ホエールウォッチングの船上客でしょうか?
10 日を曳きて西へ西へと雁の群
この雁の群れは、日本へ渡ってくるところか、北に帰ろうとしているところか良くわ
かりませんでした。「雁の群」という季語は見当たりませんでしたが、「雁の列(かり
のつら)」と同義と捉えると、雁が日本に渡って来る秋の句ということになりますね。
ただそれだと、「西へ西へ」が不思議な感じがします。
11 蒲公英や少年野球の声高し
長い冬が終わって野球に興じる少年たちの様子が浮かびます。季語から察するに、シ
リアスに野球に打ち込んでいるというより、ややのんびりとゲームを楽しんでいる感じ
ですね。
奥山ひろ子氏評===============================
素直な御句。季語と、「少年野球」が合っており、優しく見守る作者が見えまし
た。
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12 無人駅目鼻口なき雪だるま
雪玉を重ねただけの雪だるまですね。「目鼻口なき」は事実であり写生ですが、「のっ
ぺらぼうの」とすると、思慮が無くて間が抜けているという意味も含まれて俳味が増す
ような気もします。
13 冬夕焼ガラスに反射目の眩み
情景がすぐに浮かび、分かり易い句と思いました。ただ、三段切れで、報告的な点が
残念に思いました。
14 梅蕾ふくらみ蒼天指しており
春の訪れですね。梅の蕾は球形に近いのが普通だと思いますので、「蒼天を指す」と
いう形容がいま一つしっくり来ませんでした。辛夷の蕾等でしたら、そのような描写も
似合うと思いますが・・・。
15 寄せ書きの如く花植へ卒業す
卒業に寄せ書きは付き物だと思いますが、植えられた花を寄せ書きに見立てた着眼点
はユニークだと思いました。
16 春風へ児の逆のぼる滑り台
滑り台を普通に滑るだけでは句材として乏しいですが、こういうやんちゃな子を観察
すると句が拾えますね。季語が生き生きと感じられます。
17 波ふくらみ海女の磯笛春の海
「波ふくらみ」が字余りの効果もあって、ゆったりとした春の海を思わせます。「磯
笛」は、「海女の」と言わなくても海女の呼吸の音だとわかります。俳句では「海女の
笛」や「磯なげき」として春の季語になりますし、海女がいるところは海だとわかりま
すので、下五の「春の海」は推敲の余地がありますね。
18 ゆるゆると雪解わたしの脳は白
句意がよくわかりませんでしたが、融けて崩れてゆく雪のイメージが脳に重なり、ちょ
っと不気味な印象を受けました。
19 寒紅やきりりと結ぶ博多帯
できている句で、凛とした女性の姿が見えて来ます。更に欲を言えば、帯をきりりと
「結ぶ」とは言わなくてもわかりますので、例えば締めるときの絹鳴りなどを描写して
は如何でしょうか?
奥山ひろ子氏評===============================
締めた帯が緩みにくいと言われる博多帯。締める際「キュッ」と音がするそうで
すが、そんな博多帯と「寒紅」が鮮やかに響きあっていると思いました。
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武藤光リ氏評================================
美人の年増を感じさせてくれた。中七が良い。
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20 春遅々と潮のしぶける鵜の岬
鵜の岬は茨城県日立市にある岬です。断崖の上に日本で唯一のウミウの捕獲場があり、
捕獲が行われていない1〜3月は無料で一般公開されています。断崖に打ち付ける波を
見ていると、「春遅々と」が実感されます。
余談ですが、ここにある国民宿舎「鵜の岬」は、日本一予約が取れない宿として知ら
れています。
21 雪嶺や蒸気たわわに洗濯屋
雪嶺の清澄さと洗濯屋の蒸気の温かさが良いコントラストです。「たわわ」は本来、
実がたくさん生った枝や稲穂がたわむ様子で、蒸気などを形容する言葉ではありません
が、それを敢えて使ったところに独自性を感じました。
22 朝寒や喪の服入れし旅鞄
遠方の葬儀に出席するために家を出たところなのでしょう。できている句ですが、敢
えて欲を言えば上五の季語がやや付き過ぎに感じました。「寒」の字が葬儀に向かう心
情に直結しているように思えますので、例えば「薄氷(うすらい)や」等、もう少し季語
を離してみるのも一考かと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
旅は楽しいだけではないですね。季語が動かないと思います。
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23 牛曳の水汲む木下白椿
「牛曳の水汲む」は、牛を引くことを職業とする人が水を汲んでいるという意味なの
か、牛曳山の滝または川の水を作者が汲んでいるという意味なのかわかりませんでした。
24 女坂とりて初音と出会ひけり
急で短い男坂を行くか、緩くて長い女坂を行くか迷い、女坂を取ったところ思いがけ
ず鶯の初音が聞こえたのですね。ちょっとした驚きと嬉しさが伝わってきます。
25 コロッケの色よく揚り初音かな
意外な取り合わせの句で、面白く感じました。コロッケが美味しそうに揚ってほっこ
りした気持ちになったところに初音が聞こえ、より楽しい夕食になったことでしょう。
26 雪解川水の音聴く湯治宿
山懐の川端にある鄙びた湯治宿が浮かびました。「川」と「水」が重複した感じがし
ますので、「雪解の川の音聴く〜」では如何でしょうか。
27 春セーター伸びた背の丈手の長さ
一冬を過ごす間に体が成長して、セーターが小さくなったということでしょうね。季
語がうまく使われていると思います。三段切れに感じられるのと、「伸びた」が「長さ」
にも係っているように見えるのが気になりました。
28 切岸に城守られて寒に入る
寒さが冬将軍という具現化された姿となって攻めてくるようなイメージが浮かびまし
た。
29 村出でし人も戻りて花祭
花祭りは、四月八日の仏生会のことですね。この日に地元から出た人が戻る慣習があ
るのかどうかは知りませんでしたが、それをそのまま言うのは報告的に感じました。
30 ひとり街歩けば風花舞ひにけり
街を歩いている作者と風花だけでは、具体的な情景や作者の心情が浮かんできません
でした。「歩けば」「舞ひにけり」等は省略できますので、もう少し街の様子などを詠
みこんでみては如何でしょうか。
31 ピアノ曲流るゝカフエ春隣
ゆったりとカフェでくつろいでいる作者の様子が浮かびます。「カフェ」は二音です
ので、中七は「カフェや」としても良いかと思います。
32 哀しみに忘れてゐたる寒さかな
よほど哀しいことがあったのですね。「哀しみ」と心情を直接言う代わりに、哀しみ
の元となった事象を言う方が、気持ちがより深く読者に伝わると思います。
33 畝の菜に振り塩ほどの雪降れり
「振り塩」の比喩が面白いですね。「降れり」は省けますので、中七下五を「菜に振
り塩ほどの雪」として、上五で菜の具体的な景が浮かぶような描写をしてみては如何で
しょうか。
34 予備校の窓煌々とぼたん雪
雪の降る夜も予備校に通って受験勉強に勤しむ子供たち。作者は送迎のご家族でしょ
うか? 明るい春が望まれますね。
奥山ひろ子氏評===============================
いよいよ本番近く追い込みシーズンの景ですね。予備校の中の熱気を冷ますような
「ぼたん雪」が印象的です。
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35 賄の石蓴汁飲む帰漁かな
漁を終えて港に向かう船上で、漁師たちが石蓴汁に舌鼓を打っているのでしょうね。
「飲む」を「吹く」とすると、更に臨場感が出ると思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
作者は漁船に乗っておられるのだと拝察しました。船上での石蓴汁は、おいしいこと
でしょう。「賄」がいいですね。
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36 蒼天の甘さ込め干す春大根
「蒼天の甘さ込め干す」は、大根を干すことによって甘味・うま味が出ることを言っ
たのだと思いますが、ちょっと無理があるように感じました。また、春大根は一般に冬
の大根より辛みがあると言われます。大根を干して漬ける沢庵漬けは冬の季語となって
います。
奥山ひろ子氏評===============================
干すことで甘くなる大根。「蒼天」に干せば甘さも倍増ではないでしょうか。「蒼天
の甘さ」の表現が工夫だと思いました。
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37 冴返るうだつの町や和紙明かり
岐阜県美濃市の和紙あかりアート展を詠まれた句かと思いますが、10〜11月のイベン
トの句にしては季語の季節がずれると思いました。
38 解氷や船の道開くオホーツク
オホーツクにも春の訪れですね。「船の道開くオホーツク」で、海を埋めていた氷が
緩んだということがわかりますので、上五の季語はもう一工夫あると良いと思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
力強い北国の景ですね。氷が緩み船が航行できるようになったことを「船の道開く」
との表現がいいと思います。
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39 春の雷わが青春の春樹かな
「春」の字がたくさん目に飛び込んできました。「春樹」は作家の村上春樹のことか
と思いますが、ネットで検索するとラーメン屋が多くヒットしました。村上春樹は、初
期の頃は読んでいましたが、ノルウェイの森あたりから手が伸びなくなってしまったた
め、春の雷が村上春樹とどう絡むのかがよくわかりませんでした。
40 裏口で済む客ばかり花菜漬
ご近所さんが、自家製の花菜漬を勝手口に届けてくれたのですね。気取らずに近所付
き合いができる、落ち着いた日々の暮らしが浮かびました。
41 下校児の明るき声や木の芽道
子供の明るい声が季語の木の芽道に似合っています。更に欲を言えば、「明るき」と
いう作者の主観は季語に語らせて、もう少し客観的な写生とした方が深みが出ると思い
ます。例:「下校児の声の駆け行く木の芽道」
42 四温晴れ家紋を印す蔵の壁
春へ向かう陽光に、蔵壁の家紋が映えていますね。「印す」と「壁」は省けそうです
ので、例えば「家紋旧りたる」等とすれば、より具体的な景が見えてくると思います。
43 おのおのの色に着ぶくれ空地の子
昨今のカラフルな服を着こんだ子供たちが見えて微笑ましいですね。俳句では送り仮
名を省くことが多いですが、空地(くうち)という言葉がありますので、「あきち」と読
ませたいのであれば「空き地」と表記した方が良いと思います。「おのおのの色に着ぶ
くれ登校す」等とするのも、カラフルな列が浮かんで良いと思いました。
44 墓碑拝む肩へ春雪降りやまず
「降りやまず」のように時間の経過が感じられると、説明的になりがちですのでご注
意ください。「へ」と「に」の助詞の選択も重要です。「墓碑拝む肩に触れたる春の雪」
45 トーストのパン焦がしめく末黒かな
トーストの焦げも末黒も焼け焦げたものなので、比喩が比喩として機能していません。
「トーストのパン焦がし」は「トーストの焦げ」で良いと思いますが、「パン焦がし」
という何かがあるのでしょうか?(麦焦がしのような・・・)
46 居残りの椅子整へて余寒なほ
何となく寒々した空気感は伝わりますが、状況がよく見えませんでした。会社でしょ
うか?学校でしょうか? 余寒の「余」と「なほ」に重複感を覚えました。
47 針金のやうな小枝に雪積る
針金も小枝も細くて長いものですから、比喩が活きているとは思えませんでした。ま
た、木の枝や電線に雪が積もるのは珍しいことではないと思います。
48 救急車はらりと落つる枝の雪
救急車が通った時に雪が落ちたのはたまたまだと思いますが、なにかはっとするよう
な一瞬の緊迫感が伝わりました。
49 春寒し色付け遅遅と干支の馬
来年の干支の馬(午)の置物か何かの色付けをしているところでしょうか? 季語や
「遅遅と」の措辞等から、作者はあまり愉快でないように感じられました。
50 水脈広げ流れ上るや残る鴨
「残る鴨」は「春の鴨」の傍題ですが、この句の場合は「春の鴨」の方が上五中七に
合うように思いました。
51 リハビリの窓に見上ぐる春の雲
リハビリが順調に進んでいる明るい表情が浮かびます。
52 お日さまの大きな童画春めける
元気の良さが感じられる絵ですね。暖かい太陽の下で遊びたいと思って描いたのでしょ
う。
53 丹精し剪られし梅や白凛々し
丹精をしたのは人間、剪られたのは白梅だと思いますので、視点が定まらないような
感じを受けました。
54 紅白の濃きも淡きも梅なだり
「梅なだり」は「梅傾り」でしょうか? 水戸の偕楽園に句碑のある子規の句「崖急
に梅ことごとく斜めなり」が浮かびました。
55 春の陽にときめき紅を明るうす
春の浮き立つ心を詠まれました。「ときめき」と言わずにときめく心が伝わるように
詠むと、句に深みが出て、読者の心により伝わると思います。
56 水温む隠沼動く命生(あ)る
春の命の息吹を詠まれましたが、あまり具体的な景は浮かばず、頭で拵えたような印
象を受けました。
57 雪かきに追わるる夫のやつれ顔
雪国の過酷な暮らしですね。詠み方がちょっと直球過ぎる感じがしますので、例えば
「雪かきに追わるる夫の長湯かな」等、一ひねりあると良いと思いました。
58 撫で牛の眼に触れて春待てり
目がお悪いのでしょうか? 春までには快復してほしいという祈りですね。
59 永遠を生くる仏像梅真白
「永遠を生くる仏像」が観念的で、どういう情景・気持ちを伝えたいのかがよくわか
りませんでした。
60 薄氷透けて草の葉ほの青し
何気ない景ですが、草の青さに春の訪れを感じた作者の感性が良いと思いました。
61 風光る大桟橋のクルーズ船
これから乗船してクルーズに出るところでしょうか? 季語から旅への期待感が伝わ
ります。
62 足指の爪の桃色春浅し
意外な句材・取り合わせだと思いました。健康的な色の爪で、春に躍動できそうです
ね。
63 さよならの余韻のあとの風邪薬
さよならを言った後に余韻を感じて、さらにその後に風邪薬を飲んだのだと思います
が、状況や心情がよくわかりませんでした。
64 魚氷に上るヒールターンのふれあいに
ヒールターンは、スノーボードのターンの一種のことかと思いましたが、そうすると
「ヒールターンのふれあいに」の意味がわかりませんでした。
65 補助輪の風やはらかしクロッカス
補助輪の風は、幼児が乗る補助輪の付いた自転車に吹く風ですね。可愛らしいクロッ
カスが揺れる様子も浮かびます。
66 光る風小舟の水じわ立ちにけり
陽光の中で小舟が立てる小波が広がり、きらきらと光っている様子が浮かびます。
67 つり竿の半円描く春の月
「つり竿の半円描く」は、魚が掛かって強く引いているということでしょうか? の
んびり月を愛でている状況ではないように思いますが…。
68 節分や恵方巻き食ぶおちょぼ口
恵方巻は太いので、おちょぼ口では食べられないのでは?と思ってしまいましたが、
そこが狙いでしょうか? 恵方巻が一般化したのはここ20〜30年のことですので、季語
として載せている歳時記は少ない(無い?)と思いますが、季語として扱っても良いよう
な気がしますね。
69 カナッペに蕗味噌添へる薄みどり
蕗味噌は大好物で毎年自分で作りますが、カナッペに使うとは思いつきませんでした。
発酵食品のチーズと合わせても良さそうですね。そろそろ蕗の薹が出るころですので、
やってみたいと思います。句の方は前半のインパクトが強く、後半が蛇足的に感じまし
た。
70 玻璃越しの立春の陽のやはらかし
春の陽光の温かさが感じられますが、やや「季語の説明」的にも感じてしまいました。
71 膨らんだ花芽をかくし春の雪
浅い春の一コマですね。「膨らんだ花芽」は蕾と言うのでは?と思ってしまいました。
72 旧道の海見る坂の椿かな
海を望む古い街並みと椿の古木が似合っていますね。「海見る坂」は「海見ゆる坂」
とすべきかと思います。言葉を整理・工夫すればすっきり収まるようにできそうです。
73 烈風を聞きたる夕べ花菜漬
吹きすさぶ風音を聞きながら、食卓には春を感じさせる花菜漬があるという、その対
比が面白いですね。「聞きたる夕べ」は過去形ですので、「聞きをる夕べ」と現在形に
すると臨場感が増します。
74 春耕や畦のラジオのヴィバルディ
もちろん、四季の春の章ですね。ちょっと出来過ぎかな・・と思いました。(笑)
奥山ひろ子氏評===============================
ヴィバルデイと言えば「四季」が有名ですが、その中でも冒頭の「春」はよく聞きま
す。
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75 山笑ふ角突き合はす若き山羊
若山羊の生命力・躍動感が季語に合っています。
76 こながれの瀬音ひそかや春隣
まだ雪解け水が流れ出すまで季節が進んでいないのでしょう。「瀬音ひそかや」で小
さな流れであることはわかりますので、上五は工夫の余地がありそうです。
77 なまはげや泣く子いねがと泣かしをり
なまはげの説明になってしまいました。
78 ジャズコンサート手拍子打って春を待つ
上五が上七になっているのがまず気になりました。「ジャズライブ」とすれば五音に
収まります。しかし、ジャズのコンサートや手拍子に季節感と結びつくものを感じない
ため、季語が動くように思いました。
79 春寒し美濃焼皿を一つ欠く
揃いの皿の一枚を割ってしまった喪失感が季語から伝わります。中七下五が事柄で説
明的ですので、割れた(欠けた)皿そのものを詠むとさらに良くなるように思います。
80 春浅し欠席通知またひとり
学校か職場かわかりませんが、風邪やインフルエンザが流行っているのでしょうね。
中七下五を事柄で詠むのではなく、誰かが欠席した結果が見える物(出席簿とか)で詠
むと良いと思いました。
81 たこ焼きに青海苔かけて昼ご飯
美味しそうな昼ごはんですね。ビールが欲しくなりそうです。ただ、俳句としては切
れが無く、詩というよりは報告になってしまったと感じました。
82 砂浜に増えし足跡日脚伸ぶ
日が伸びて暖かくなってきたので、海岸に来る人が増えてきたという句意かと思いま
すが、そうだとすると理屈であり、説明的に感じられました。
奥山ひろ子氏評===============================
足跡が増えてきたことで春の訪れを感じた作者の目の付け所が面白いと思いました。
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83 鰐口の高き響きや春きざす
鰐口は寺社の軒下に一年中あるものですが、誰かが一際高く鳴らした音に作者は春を
感じられたのですね。そこに読者の共感が得られるかがポイントですね。
84 豆を煮る甘き匂ひや味噌仕込
懐かしい光景が浮かびましたが、季語(味噌仕込・味噌焚)の説明のようにも感じら
れました。子供の頃、味噌を仕込むときに、煮えた豆をお椀に貰って砂糖を掛けて食べ
ましたが、豆を煮る匂いが甘かったどうかは、思い出せませんでした。
85 引く波の煌めくばかり春の鴨
明るい春の海にゆったりと浮かんでいる鴨が浮かびます。「煌めくばかり」で、作者
が時を忘れてその景色を見ていることが伝わります。
86 書き込みの多き教科書春隣
一年間近く使った教科書。書き込みが多いのはよく勉強した証ですね。迫っている
「春」は季節の春でもあり、人生の春でもあるのでしょう。
奥山ひろ子氏評===============================
「書き込みが多い」=よく勉強しているということですね。受験生でしょうか。良き
春が迎えられることと思います。
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87 冴え返る月なき空の星の海
「月なき空の星の海」のことを言う「星月夜」という秋の季語がありますが、新月の
星空は季節を問わず見ることできます。寒が戻った早春の星空もきれいですね。
88 古民家の庭の鳥居へ春の雪
庭に鳥居のある古民家とは、どんな家なのだろうと思いました。鳥居があるというこ
とは、社もあるのかと思いますが、鳥居の方に着目したのが不思議に感じられました。
また、「古民家」は便利な言葉ですが、説明的で具体的な景が浮かびにくい言葉ですの
で、注意して使ってほしいと思います。
89 裸婦像の乳首の尖り冴返る
俳人は、いろいろなところに季節を探すものだと感心しました。
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