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選句結果
     
第310回目 (2025年10月) HP俳句会 選句結果
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 酌み交す羅漢の盃に木の実落つ 惠啓(三鷹市)
   土色の帆布のリュック秋遍路 田村幸之助(和歌山県)
   鰯雲園児の競ふ竹とんぼ      康(東京)
   穂芒の寄せては返す野の光 雪絵(前橋市)
   秋灯や内緒話の子ら笑ふ 直樹(埼玉県)
   夕映えの赤城連山雁渡る 美佐枝(千葉県)
   相槌もいつか寝息の夜長かな 原 洋一(岡山県)
   下町のアパートの窓吊柿 まこと(さいたま市)
   天の川過りて夜間飛行の灯 伊藤順女(船橋市)
   鷹柱長谷の大仏下に見て 梦二(神奈川県)
【  武藤光リ 選 】
  特選 相槌もいつか寝息の夜長かな 原 洋一(岡山県)
   鰯雲園児の競ふ竹とんぼ 康(東京)
   穂芒の寄せては返す野の光      雪絵(前橋市)
   木の実降る音ころころとアンダンテ 百合乃(滋賀県)
   秋雨や白壁つづく寺内町 水鏡(岐阜県)
   夕映えの赤城連山雁渡る 美佐枝(千葉県)
   湖に映る青空蓼の花 石塚彩楓(埼玉県)
   宗祇水噛んで味はふ水の秋 筆致俳句(岐阜市)
   郷の土纏うて届く落花生 惠啓(三鷹市)
   松手入れ切られし枝の匂ひ立つ 蝶子(福岡県)
【  酒井とし子 選 】
  特選 鰯雲園児の競ふ竹とんぼ 康(東京)
   土色の帆布のリュック秋遍路 田村幸之助(和歌山県)
   どこからも城見ゆる街鳥渡る      康(東京)
   穂芒の寄せては返す野の光 雪絵(前橋市)
   長き夜や寂聴源氏を明石まで 原 洋一(岡山県)
   相槌もいつか寝息の夜長かな 原 洋一(岡山県)
   百円の無人販売柿の秋 筆致俳句(岐阜市)
   枯れてなほ道標なり花カンナ 比良山(大阪)
   独り居の葉擦れの音も夜寒かな 小豆(和歌山市)
   手づれ著きスペースキーや秋の声 櫻井 泰(千葉県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 下町のアパートの窓吊柿 まこと(さいたま市)
   土色の帆布のリュック秋遍路 田村幸之助(和歌山県)
   どこからも城見ゆる街鳥渡る      康(東京)
   穂芒の寄せては返す野の光 雪絵(前橋市)
   夕映えの赤城連山雁渡る 美佐枝(千葉県)
   水尾を引く海しろがねの良夜かな 素風(i岩手県)
   百円の無人販売柿の秋 筆致俳句(岐阜市)
   大地まで枝を撓らせ富有柿 麻里代(和歌山市)
   若かりし吾の一張羅着る案山子 かよ子(和歌山市)
   酌み交す羅漢の盃に木の実落つ 惠啓(三鷹市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、康さん(東京)、雪絵さん(前橋市)、原 洋一さん(岡山県)でした。最高得点者が3名以上となりましたので、今月の入選賞は該当者なしとなります。

【講評】


        2025年10月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	口開けて我を忘れた大花火

 幼い頃の回想句でしょうか? 共感する読者が多いと思いますが、ポカンと口を開け
るのも、我を忘れてしまうのも、花火に見とれる様子としては平凡な描写に感じました。

2	葉桜の無常に透ける木漏れ日や

 日に透けた葉桜は生命感に満ちて美しく、夏の訪れを感じさせますが、そこに無常を
感じられたというのが不思議な感じがしました。中七で切れて、下五の木漏れ日との取
り合わせになるのだと思いますが、「や」の切字が不自然に思われます。

3	秋灯や外国人のミシン工

 縫製工場での残業でしょうか? 秋は日暮れが早く、夕方は灯りを点けないとならな
いのでしょうね。ミシン工の国籍も年齢も性別も容姿もわかりませんが(もちろん、俳
句でこれらを全部言うことはできませんが)、作者は遠い日本で遅くまで働くミシン工
を見て、何かを感じられたのでしょう。

4	土色の帆布のリュック秋遍路

 土色も帆布も、秋のお遍路さんの背負うリュックにふさわしい感じがします。山道で
は、色づいた葉に溶け込みそうですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

  「土色」が素朴でいい色の表現ですね。

  リュックを背負う現代の姿お遍路さんの姿ですね。

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5	どこからも城見ゆる街鳥渡る

 城が町のシンボルなのですね。視線が上向きに定まって景が浮かびます。

6	鰯雲園児の競ふ竹とんぼ

 爽やかな秋空に勢いよく舞い上がる竹とんぼが浮かびます。掲句のままでも上五が切
れていますが、より強く切字を入れて、例えば「鯖雲や」としたいと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

  竹とんぼを高く高く飛ばし、鰯雲の空へ揚る景が清々しいと思いました。

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7	長き夜や覚めて読み継ぐ一書有り

 状況は良くわかりますが、「読書の秋」を説明したようにも感じてしまいました。

8	パン屋さん繁盛させて燕去ぬ

 燕が軒に巣を作るのを吉兆とする言い伝えは全国にあるようですね。ただ、それをそ
のまま俳句としたのでは、理屈・説明になってしまいます。「パン屋さん」というさん
付けも句を弛緩させます。

9	老いぼれの赤ん坊あやす稲刈月

 最初は、作者が「老いぼれの赤ん坊」をあやすと言う意味で、認知症を詠んだ句かと
思いましたが、九月は稲刈りで皆忙しく、赤ん坊の世話は老人に任されるという句意で
しょうね。ちょっと説明的に感じました。

10	キッチンの牛蒡サラダに入日かな

 季語は牛蒡サラダでしょうか? 入日でしょうか? おそらく牛蒡サラダを季語とし
ている歳時記は無いと思います。 入日は、春入日、秋入日のようにしないと季語とし
て用いるのは難しいと私的には思います。

11	穂芒の寄せては返す野の光

 「寄せては返す」で、波と言わなくても波のように戦ぐ様子が浮かんできます。

 奥山ひろ子氏評===============================

  「野の光」の措辞が秀逸だと感じました。

  芒の句は既視感がある句になりがちですが、この作品は作者の個性が感じられまし
た。

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12	海原の月に真向ふ大玻璃戸

 私も松島のホテルに泊まった時に、このような景を見た記憶があります。

13	堰堤や塩辛蜻蛉は石のうへ

 堰堤にも大小いろいろありますが、どのような堰堤でしょうか? 中七下五は、あま
り珍しくない景のように思いました。

14	秋灯や内緒話の子ら笑ふ

 一つの秋ともしの下で、家族がそれぞれ過ごしているのですね。子供らには子供らの
楽しい話があるのでしょう。

 奥山ひろ子氏評===============================

   無邪気な子供の様子がかわいらしいです。

   何をお話ししておかしかったのか気になります。

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15	木の実降る音ころころとアンダンテ

 速度を示す音楽用語がお洒落ですが、ころころは物が転がる様子を表す擬態語で、木
の実が降る音には思えませんでした。

16	秋霜や時刻表より遅きバス

 早朝のバス停でバスを待っているのでしょうか? 「時刻表より遅きバス」は、少々
冗長な言い回しに感じました。

17	父と子の増える口数鯊日和

 親子で鯊釣りですね。日頃はあまり話をしない父親と息子も、のんびりと気持ちの良
い日和で話が盛り上がるのでしょう。釣果の方は??でしょうか?

18	色変えぬ松 松陰の辞世の句

 吉田松陰の辞世の句は、松のようにいつまでも緑(古びない)という句意かと思います
が、そういう作者の主観は、なかなか読者の感動を呼びません。

19	秋雨や白壁つづく寺内町

 秋霖の寺内町、風情がありますね。

20	鰯雲沖に釣舟あまたなり

 良い釣り日和なのですね。海も凪いでいるのでしょう。鰯雲と釣舟がやや即き過ぎな
感じも受けました。

21	隣室の荷造り始む無月かな

 状況が良く分かりませんでした。隣室は、自宅の自分が今いる部屋の隣の部屋のこと
なのか? 集合住宅のお隣さんなのか? 中七が終止形で切れていますが、荷造りと無
月を取り合わせた意図も掴めませんでした。

22	月光げが生み落としたる一番星

 「月光げ」がわかりませんでした。タイプミスでしょうか?「月影」でしょうか?

23	名札にはルビを振りをり新松子

 句意がわかりませんでした。「新松子」という珍しい姓の方がいて、その人の名札を
ルビ付きで書いているのでしょうか?

24	耳底に沁みつく音や桐一葉

 桐一葉や一葉落つは、俳人にとっては特別な景ですが、実際にその瞬間を見たことが
ある人はどれくらいいるでしょうか? 実は私も、実際に桐の葉が落ちるところを見た
ことはありません。実際にその瞬間に遇えて、葉の落ちる音を聞いたら、このような感
慨が湧くかもしれないと思いました。

25	夕映えの赤城連山雁渡る

 雄大で風情のある景ですね。冬が近いことを感じさせます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 大きな景で、秋の夕暮れの素晴らしい景色を歯切れよく詠まれていると思いました。

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26	爽やかやバス停でチョコ二つ三つ

 バスを待つ間に・・・ですね。季語から、楽しいお出かけであることが察せられます。

27	田植え機の道蘇る刈田かな

 意味が良くわかりませんでした。田植え機の道とは? 蘇るとは?

28	稲妻や光と闇の割符めく

 言いたいことはわかりますが、季語の説明的に感じました。

29	遠伊吹山(とおいぶき)絵筆に拾ふ愁思かな

 愁思は秋思の誤変換でしょうか?

30	金木犀隣家ほどよく離れをり

 「隣家ほどよく離れをり」の意味がつかめませんでした。隣の家の金木犀が、あまり
強過ぎず程よく匂ってくるということでしょうか?

31	菊切って掌に残り香のある日かな

 感性の鋭い句と感じました。「残り香」は誰かが去った後に残っている香りのことを
言いますので、漢字は同じですが「残香(ざんこう)」または「移り香」の方が良いよう
に思いました。

32	爽籟やパステル色の空柔し

 触覚、聴覚、視覚に訴える句ですね。金木犀の香りも感じられます。「パステル色」
で柔らかい色合いが感じられますので、下五は工夫の余地があるように思いました。

33	編隊の無事みおくりぬ渡り鳥

 編隊は渡り鳥のことを言っているのだと思いますが、句を読む限りでは編隊が渡り鳥
を見送ったように思えます。

34	湖に映る青空蓼の花

 空と蓼の花の色合いが奇麗ですね。ただ、もうちょっと作者独自の視点や発見がある
と良いと思いました。

35	シャラシャンと巫女舞ひの鈴秋高し

 上五の擬音は言わずに、巫女舞の鈴とだけ言ってあとは読者の想像に任せた方が句に
広がりが生まれ、音数も節約できます。

36	名月やスマホの中の小宇宙

 「スマホの中の小宇宙」の意味が分かりませんでした。スマートフォンの多彩な機能
を宇宙になぞらえているのでしょうか?

37	藤袴咲かせて待つやワタリチョウ

 藤袴はアサギマダラが好むことで有名ですね。ワタリチョウは漢字表記の渡り蝶で良
いように思いました。

38	長き夜や寂聴源氏を明石まで

 夜長だから源氏物語を読みふけってしまったという理屈も感じられますが、「明石」
の字面が夜明けを連想させるところが巧みだと思いました。

39	相槌もいつか寝息の夜長かな

 しゃべる相手がいて、しゃべることがあるのはうらやましいことです。

 奥山ひろ子氏評===============================

  作者の話を誰かに聞いてもらっていたのだと思いました。その相槌も寝息に変わっ
て、一人眠れない作者は夜長を物思いにふけっているのでしょう。句材が面白いですね。

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 武藤光リ氏評================================

  お孫さんを寝かし付けているのだろう。疲れた身ではあろうが、
  微笑ましい、ほっこりする夜長だ。

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40	檸檬噛むしかめつ面の幼かな

 可愛らしいですが、檸檬を齧って顔をしかめるのは珍しい景ではないと思いました。

41	わだかまり消へし再会鰯雲

 主観的・抽象的な句ですが、晴れ晴れと爽やかな気持ちは伝わります。

42	水尾を引く海しろがねの良夜かな

 月夜の海に一本の航跡、絵画のようですね。

43	新蕎麦や礫土拓きし山畑

 作者の父祖が拓いた畑でしょうか? 今年も故郷の新蕎麦が戴ける喜びですね。

44	永眠の増えて会報身に入むる

 何かの会報の、会員の消息欄か訃音の記事ですね。お気持ちはよくわかりますが、表
現がやや直截的な気もしました。

45	秋霖の肺腑抉るやひもすがら

 「秋の雨が肺腑を抉る」とはどのような状況でしょうか? 霖は長雨のことですので、
「ひもすがら」は言わなくても良いように思いました。

46	秋灯下亡き人増えし句集読む

 多くの人の句が載っている合同句集でしょうか? 句形が散文の様で報告的に感じま
すので、「読む」のような動詞を使わずにまとめたいと思いました。

47	戦禍なきこの地を遊べ稲雀

 失礼ながら、格好良いことを言おうとしているように感じてしまいました。また、人
間間で戦争があっても、雀にはあまり関係が無いのでは?とも・・・

48	新涼の川風に浮く河童橋

 上高地ですね。上五の「新涼の」がかかるのが川風なのか河童橋なのかわかりにくい
ので、もう一工夫あると良いと思いました。

49	行合の空へ大橋架かりをり

 橋を下から見上げているのでしょうか? 橋に対して「架かりをり」は言わなくても
良い言葉だと感じました。

50	宗祇水噛んで味はふ水の秋

 宗祇水は郡上八幡の湧水ですね。「噛んで味はふ」は実感がこもっていて良いと思い
ましたが、季語が即き過ぎに感じました。

51	百円の無人販売柿の秋

 どれも一品百円の無人販売店の傍らに、実がたわわに生っている柿の木があるのでしょ
う。私は今朝某所の朝市に行って、3個で100円の柿の実を買って来ました。

52	墓洗ふ肩にとまるや赤とんぼ

 「墓洗ふ(秋)」と「赤とんぼ(秋)」の季重なりです。

53	寝静まる遊具の影や天の川

 屋外の遊具の影が映るような月夜には、天の川は良く見えないと思います。また、影
が映るのは地面、天の川は天上で、視線の向きも気になりました。

54	下町のアパートの窓吊柿

 吊し柿や柿簾というと、郊外の農家のの軒下を思い浮かべますが、下町の、それもア
パートの窓というのもある種の風情がありますね。市井の人の暮らしが思われます。

 奥山ひろ子氏評===============================

  田舎町ではなく「下町のアパート」に柿が吊るされているところが意外性があると
思いました。どんな人が住んでいるのかも気になります。

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55	何もなき刈田の道やとんびの輪

 「何もなき」とわざわざ言った意図は何でしょうか? 広々とした地上の景を言いた
かったのであれば、もっと別の表現があるように思いました。

56	しんしんと夜の深さや鉦叩

 鉦叩の密やかな音を聞くと、夜の深さが身に入むようですね。「しんしんと」が夜の
形容としては平凡な感じもしましたが、鉦叩の音を連想させる効果もあると思いました。

57	密やかに白曼珠沙華一隅に

 白い彼岸花も、時折見かけますね。「密やかに」と「一隅に」にやや重複感を覚えま
した。

58	コスモスを羽状複葉守りをり

 説明的に感じました。また、羽状複葉も含めてコスモスだと思います。

59	枯れてなほ道標なり花カンナ

 主観的で理屈っぽさを感じました。

60	野に摘みし萩一括り壺に活く

 「一括り」が萩の束のボリュームを感じさせますね。句が動詞で終わっているので散
文的に感じられます。下五を名詞にするように工夫するとさらに良くなるのではないで
しょうか?

61	秋灯や田園てふ喫茶店

 「てふ」の読み方は「ちょう」で2音ですので、中七が字足らずになってしまいまし
た。「田園といふ」とすれば7音となります。

62	負け試合子は語らずに金木犀

 季語の斡旋が良いですね。何の試合かはわかりませんが、悔しさに耐えている子の姿
と、その背を優しく見守る親の視線が感じられます。

63	秋晴や風に揺れたる針の音

 意味が分かりませんでした。秋晴れの下、風に揺れて音を立てている針とは何でしょ
う?

64	泣き止まぬ児にふれ落つる柿紅葉

 柿の葉は厚くて大きいので、子供がびっくりしてますます泣きそうですね。

65	秋袷妻は女となりにけり

 単衣や夏用の袷を召されていた時には、女性らしさを感じなかったのでしょうか?

66	桐一葉再会の人待ちにけり

 桐の木の下での待ち合わせですね。桐一葉は、「一葉落ちて天下の秋を知る」から来
ていますので、あまり良い兆候ではない気がします。

67	刈草の乾く匂ひや秋うらら

 「刈草の乾く」は、干草(草干す)という夏の季語と同義であるように思いました。

68	天の川過りて夜間飛行の灯

 作者は地上から夜空を見上げているのですね。両翼の赤と緑のランプが夜空を滑る様子が浮かびます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 秋の夜空を見上げての、風情ある景ですね。

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69	大地まで枝を撓らせ富有柿

 生り年ですね。秋空を背景にたわわに実る柿は、いかにも「豊の秋」という感じです。

70	追伸のあとの余白へ小鳥来る

 雰囲気のある句ですが、本当に手紙の上に小鳥が来たのではないと思います。中七は
「余白や」と切ると、作者の視線が机上の手紙から窓の外に移った感じが出ると思いま
す。

71	秋桜や町内仲間のバスツアー

 「町内仲間のバスツアー」が説明的で景が漠然としているように感じられました。
季語も動くと思います。

72	天高しソーラン節の流れ来る

 「流れ来る」ですから、遠くの方から聞こえるのでしょうね。何をしているのかを見
に行って、それを句にして欲しいと思いました。

73	もみぢ宿朝の厠の尿の音

 敢えてこうした句材を選ばれたかもしれませんが、私には響きませんでした。

74	鷹柱長谷の大仏下に見て

 鷹の視点で詠まれたところがユニークですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

   大変よい景色をご覧になりましたね。

 旋回しながら上昇する鷹の群れと、大仏の取り合わせが、力強い物同士でいいと思い
ました。

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75	若かりし吾の一張羅着る案山子

 もう着ない(着られない?)若いころの服の、良い使い道ですね。俳味があります。

76	出窓には野の花二輪秋ふかし

 季語が動くように思いました。晩秋の花を具体的に示して、秋が深まった感慨を伝え
る方法もあると思います。

77	軽トラに載せて真っ赤な稲刈り機

 「真っ赤な」で往年の小林旭の歌を思い出しました。

78	蕎麦啜る日吉社(ひえしゃ)門前秋日和

 参拝の後の新蕎麦、良いですね。酒を冷やで一杯やりたいところです。

79	独り居の葉擦れの音も夜寒かな

 侘しさが伝わります。「も」の使い方が少々気になりました。

80	何処へと風に吹かれて赤とんぼ

 作者の心情・主観が出過ぎたように感じました。風に吹かれた赤とんぼの様子を写生
して、「どこへ行くのだろう?」と思った感じを読者に伝えたいですね。

81	郷の土纏うて届く落花生

 掘ったまま、土を落としていない落花生。塩茹でで鄙びた味を楽しみたいですね。

82	酌み交す羅漢の盃に木の実落つ

 呑兵衛の石の羅漢も、降って来た木の実に驚いたことでしょう。俳味があります。

 奥山ひろ子氏評===============================

  面白い瞬間をご覧になり、自然から授かった句ですね。「羅漢の盃に」としっかり
写生し得難い瞬間をうまく詠まれていると思います。

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83	突堤のひねもす人出鯊日和

 良い天気だから→鯊釣りの人が多い・・という理屈を感じました。

84	採られずに空き家の柿の熟れたまま

 空き家の柿の木の実が誰にも採られないということに意外性は無いので、もう一工夫
欲しいと思いました。

85	秋潮へ向かう船団みあれ祭

 みあれ祭の説明的に感じました。

86	松手入れ切られし枝の匂ひ立つ

 感覚的で良いと思いましたが、やや季語の説明的とも感じました。

87	手づれ著きスペースキーや秋の声

 「手づれ」は「手擦れ」でしょうか?スペースキーには何も書かれていないので、擦
れてもあまり変わらないのでは?と思いました。

88	生きていれば良いこともある冬の蝶

 小主観を詠んだ句は、作者の自己満足になりがちです。

89	うそ寒し一人娘を嫁がせて

 季語の選択がステレオタイプ的に感じてしまいました。

90	爽やかや富田木歩の土手歩く

 墨堤を逍遥されているのですね。富田木歩の生涯に爽やかさを感じられるかどうかが
この句の鑑賞のポイントですが、意見がわかれるように思いました。

91	山嶺を染める夕紅曼珠沙華

 夕焼と彼岸花の競演ですね。

92	金木犀時を違えぬ優しき香

 金木犀が決まった時期に咲くのは当たり前ですし、その香りも周知です。句全体が季
語の説明に感じました。

第309回目 (2025年9月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ 近江菫花(滋賀県)
   敬老日元理髪師の母の指 田村幸之助(和歌山県)
   秋暑し竹百幹の身じろかず      雪絵(前橋市)
   酒蔵の仕込み水呑む秋の旅 雪絵(前橋市)
   指先に鎖骨の凹み夏終る 伊藤順女(船橋市)
   一つもぎ三つこぼるる零余子かな 康(東京)
   羅は銀鼠色に釣香炉 石塚彩楓(埼玉県)
   沢庵の歯切れ良きかな敬老日 みのる(大阪)
   木曽駒の眸にそよぐ蕎麦の花 筆致俳句(岐阜市)
   兄の忌や備前の壺に式部の実 *町子(北名古屋市)
【  関根切子 選 】
  特選 道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ ようこ(神奈川県)
   敬老日元理髪師の母の指 田村幸之助(和歌山県)
   酒蔵の仕込み水呑む秋の旅      雪絵(前橋市)
   空くじの多き駄菓子屋昼の虫 鷲津誠次(岐阜県)
   連れションの友も鬼籍や秋の雲 貝田ひでを(大阪)
   指先に鎖骨の凹み夏終る 伊藤順女(船橋市)
   一つもぎ三つこぼるる零余子かな 康(東京)
   登山口閉ざし波打つ芒の穂 のりこ(赤磐市)
   かなかなの声のかさなる七七忌 美佐枝(千葉県)
   夕かなかな父の残せし小引き出し よりこ(名古屋市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 やすらぎの二人の夕餉胡瓜もみ 小豆(和歌山市)
   空くじの多き駄菓子屋昼の虫 鷲津誠次(岐阜県)
   いくたびも出でて愛でけり今日の月      筆致俳句(岐阜市)
   色違へ高さ違へて草の花 かれん(春日部市)
   雲流れ風の囁く花野かな かれん(春日部市)
   道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ ようこ(神奈川県)
   兄の忌や備前の壺に式部の実 *町子(北名古屋市)
   爽やかに握手の別れ始発駅 惠啓(三鷹市)
   アルプスを望む安曇野水澄めり 蝶子(福岡県)
   曇天の切れ間に望む空高し 美由紀(長野県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 埴輪の眸(め)濡らす夜霧や百舌鳥古墳 光雲2(千葉県)
   空くじの多き駄菓子屋昼の虫 鷲津誠次(岐阜県)
   指先に鎖骨の凹み夏終る      伊藤順女(船橋市)
   ハザードマップ車中に残る秋出水 比良山(大阪)
   兄の忌や備前の壺に式部の実 *町子(北名古屋市)
   時計なき腕に気づくや秋の風 淳平(〒834-0047 八女市)
   ハンターに母を撃たれし鹿の声 麻里代(和歌山市)
   ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ 近江菫花(滋賀県)
   アルプスを望む安曇野水澄めり 蝶子(福岡県)
   湯屋の窓全開で浴ぶ虫時雨 櫻井 泰(千葉県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、近江菫花さん(滋賀県)、伊藤順女さん(船橋市)、*町子さん(北名古屋市)、ようこさん(神奈川県)、鷲津誠次さん(岐阜県)でした。最高得点者が3名以上となりましたので、今月の入選賞は該当者なしとなります。

【講評】


       2025年9月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	夜勤明けバックトップの日傘かな

「バックトップ」が?でしたが、バックパックのことでしょうか? 夜勤明けの疲労と
解放感という現実と日傘を背中にさす姿に俳味を感じました。

2	歎異抄完読は無理桜咲く

親鸞に興味はあるものの、その書物の理解はとても無理と思ったのですね。今年も桜が
咲くのを見て「南無阿弥陀仏」の六文字だけで十分と思ったのでしょうか。

3	捨身の行伊崎の竿はいと細き

8月1日の琵琶湖の伊崎の棹飛びですね。確かに辿っていくには狭い幅ですが「いと細
き」で良いのかなあ?と思いました。

4	蜩や飯盒炊飯焚き付ける

良い情景なのですが、「焚き付ける」という行為ではなく、ご飯の匂いなど実感のある
描写の方が良いと思いました。

5	父の背に兄弟草矢当て競う

父親の背中に、親子の愛情と兄弟の無邪気な競争を感じました。

6	浴衣男子四人照れ合いふざけ合い

浴衣姿の男子4人という、非日常の無邪気な照れと高揚感が伝わってきますが、「照れ
合いふざけ合い」よりも。具体的にどんなことをしていたかを描写すればもっと良くなっ
たと思います。

7	百日紅門球場は休暇なり

「門球場」は固有名詞なのか球場の門なのか迷いましたが後者として鑑賞します。「百
日紅」が去り行く夏の雰囲気を出していますので、門の様子を描写してみてはどうでしょ
うか。「休暇なり」は報告だと思います。

8	秋暑し不器男の里の喫茶店

愛媛県松野町ですね。秋とはいえまだまだ暑い日、芝不器男を思いながら涼しい喫茶店
で憩う作者。至福のひとときですが、今ひとつ景色が見えてこないのが残念です。

9	敬老日元理髪師の母の指

母親の年を重ねた指には、数々の人の髪を整えてきた歴史と、一人づつのお客の記憶が
刻まれています。私も現役の理容師ですので今自分の指を見つめています 
。
10	秋暑し竹百幹の身じろかず 

「百幹」の言葉から整然とした竹林を想像しました。その竹がそよりともしない残暑な
んですね。でもそろそろ竹も青くなり秋らしくなることでしょう

11	酒蔵の仕込み水呑む秋の旅

出来上がる酒の味も想像しながら仕込み水を味わうのでしょうね。

12	空くじの多き駄菓子屋昼の虫

時間がゆっくりと流れる昭和の風景ですね。

国枝隆生氏選================================

今は少なくなった駄菓子屋の一風景を穏やかに詠まれている。「昼の虫」がややわび
しい駄菓子屋を象徴している。

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13	埴輪の眸(め)濡らす夜霧や百舌鳥古墳

夜霧に包まれて埴輪に命が宿ったような気配ですね。

14	御裳濯川(みもすそかわ)みそぎ見守る真如月

「見守る」という見立てが気になりましたが、信仰の奥深さを感じました、

15	蜩の短い命鳴きしきる

蜩の説明のように感じられました。

16	ため息の止まぬ残暑の日となりぬ

全部を言い切っていますので、今一つ余韻がほしいと思いました。

17	涼新たすうっと喉を通るお茶

気分の良い句ですが、「すうっと」と「通る」の意味が被さっているので、「通る」は
省略できると思います。

18	さらさらと木の葉鳴り出す九月かな

九月の風が爽やかなのですが、「さらさら」が適切かどうか?

19	夜長かなチェンマイ旅の娘のメール

娘さんからの海外からのメールを何度も読み返しているのですね。

20	板の間の灯下晴れやか茸筵

晴れやかな顔とは言いますが、板の間の「晴れやか」がイメージできませんでした。
 
21	日焼していたずら盛り食べざかり

夏に負けない健康的で行動的な子供さんが目に浮かびました。

22	連れションの友も鬼籍や秋の雲

友人に対するお気持ちは十分に読み取れますが、「連れション」には少し引いてしまい
ました。

23	赤とんぼ野に還りし生家跡

中六ですか?

〈国枝評〉生家跡に赤とんぼを見つけた懐かしさのみえる句。ただ中六の字足らずが気
になりました。中七は極力七音にしたいと思いました。この句の場合は「赤とんぼ野に
還りたる生家跡」でよいと思います。

24	鈴虫の声に混じりし寝息かな

「混じりし」は現在形のほうが良いように思います。

25	三角の三切れの西瓜セルフレジ

「三」の連続が狙いかもしれませんが、「三切れ」にさほどのインパクトは感じられま
せんでした。

26	指先に鎖骨の凹み夏終る

「指先に」は「指先の」の方が良いように思いました。

27	夏痩と答へし人の浅き笑み

夏痩せの人の佇まいが下五で分かれば良いのですが・・・。重篤な病の自嘲的な笑みか
とも思いましたが、「浅き笑み」は想像が途中で止まってしまいました。

28	蜩や明治の老舗店じまひ

「店じまひ」は報告気味のように想いました。

29	コスモスの風の絵筆の描く詩篇

言葉が多くて纏まりが悪いように思いました。

30	すがれゆく風を纏ふや破蓮

「すがれゆく」と「破蓮」が即きすぎのように感じました。

〈国枝評〉わびしさのみえる句で,思いのある句ですが、「すがれゆく」のは「敗蓮」
でしょうから、離れすぎの印象でした。順序を変えて「敗蓮のすがれて風を纏ひたり」
とすれば分かりやすいと思いました。

31	がやがやと人渡り来る月の橋

静かな月とにぎやかな橋の対比が面白いですね。橋のこちら側には何があるのだろうか
と想像しました。

32	一つもぎ三つこぼるる零余子かな

零余子を一つ取ろうとしたら、三つもこぼれてしまったという瞬間を捉えて、余計な言
葉を排し、事実だけを淡々と述べることで、かえって情景が鮮やかに浮かび上がってく
る。省略の効いた句ですね。

〈国枝評〉零余子の様子をよく捉えている。本当に零余子は一寸触れるとすぐに零れて
しまう。

33	雨上がりあきつの翅に玻璃の糸

「玻璃の糸」は玻璃のような透明な糸のことだと思いますが、「玻璃」と言い切っても
良いのかどうか自信がありません。

〈国枝評〉「あきつの翅に玻璃の糸」がよく分かりませんでした。

34	掛け軸の古木にとまる秋の蝶

「古木」は掛け軸に描かれた木のことでしょうか? よく分かりませんでした。

〈国枝評〉「掛け軸の古木」に止まっているのは絵である蝶でしょうか。季語の「秋の
蝶」の季語としての鮮度が薄いと思いました。

35	登山口閉ざし波打つ芒の穂

 芒の穂が登山シーズンが終わった寂しさを象徴していますね。

36	秋薔薇咲いて痛しや棘あらは

棘が痛いのは当たり前なので、薔薇をよく見て写生してください。

37	わだつみのひかり浴びつつ秋燕

広大な海の光を浴びて帰ってゆく燕が目に浮かびました。

38	かなかなの声のかさなる七七忌

夏の終わりの静けさの中、蜩の声を聴きながら故人を偲んでいる姿が目に浮かびました。

39	洗い場を各戸に備え花藻かな

醒ヶ井の風景を思いましたが。「備え」は省略して推敲してみてはいかがでしょうか。

40	夕かなかな父の残せし小引き出し

良い句ですので上六を解消してほしいです。

〈国枝評〉父に対する思いのある句ですが、「夕かなかな」と上六とした効果がどこに
あるか分かりませんでした。リズム的にも「かなかなや」や「蜩や」などと上五にすれ
ばよかったと思いました。

41	落陽や脇本陣の忍草

「忍草」がかつての脇本陣の賑わいを知るかのようですね。

42	生盆や語り尽くせぬ戦中談

戦地に行っていれば百才以上の人でしょうか。戦争体験は語る人と語らない人がいます
が、語らざるを得ない体験があるのでしょうね。

43	夕立の砂場に赤き鳩車

寡黙な写生に好感を持ちました

44	羅は銀鼠色に釣香炉

視覚も臭覚も涼し気ですが、穏やかな風情の句ですね。

45	沢庵の歯切れ良きかな敬老日

敬老日といえど、歯の丈夫な人ですね。いかにも美味しそうです。

46	曼殊沙華地球の芯は燃えてをり

「曼殊沙華」と「燃えてをり」に即きすぎ感を覚えました。

47	木曽駒の眸にそよぐ蕎麦の花

木曽駒の眸と蕎麦の花のクローズアップが素敵ですね。

(国枝評)馬の目は大きいので,よく目に映った物を写生する句が多いが、目にに蕎麦
の花が揺れているというよく見ている写生である。

48	いくたびも出でて愛でけり今日の月

月見の喜びを素直に表現しましたね。

国枝隆生氏選================================

中秋の名月でしかもよく晴れている夜。こんな時の名月は何度見ても見飽きない。そ
んな様子がよく見える。ただ「今日の月」は現在の月であろうから、中七は「愛でた
り」と現在の様子で表現した方がよいと思いました。

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49	自慢せし父の金ペン秋ともし

多分お父さんがかつて自慢していたのだと思いますが。誰が?というところで迷いまし
た。でも秋の灯りに金が光っているのが見えます、
 
50	街の灯の散らばるジュエリー登高す

街の灯りが宝石に映っているのかと思いましたが、街の沢山の灯りが宝石のようだ、と
いう風景ですね。「灯の」を「灯は」にすれば分かりやすいと思いました。中八も何と
かしたいです。

51	搦手やぎょっと出くわす鬼やんま

出くわしたびっくり感がそれほど伝わってこないのが残念です。

52	秋暑しまう死ぬるまで続きさう

死にそうな暑さとは言いますが、強烈な残暑の感想のような感じがしました。「まう」
は旧仮名使いでも「もう」ですね。辞書には「まう」という説もあり、とありました
が・・・。

53	竹の春同期の友と加賀の旅

青々とした竹林が、同期の友との旅に清々しさを与え、心地よい情景が目に浮かびます。

54	秋茜八幡堀の陽は斜め

水面を舞う秋茜の群れが夕日と良く調和しています。

55	 若き日の谺と会ひぬ大花野

若い日の谺と会うとは、どういうことかよく分かりません。若いころのころの谺の記憶
が蘇ったということですか?

56	標本の虫ピンの数夏終わる

標本の昆虫を留めたのピンの数に夏の思い出が凝縮されています。

57	ハザードマップ車中に残る秋出水

災害に会った車でしょうか? もしそうだったら「ハザードマップ」が随分と皮肉な残
り物ですね。

(国枝評)台風シーズンであろうか。いつも車の中にハザードマップを入れている。ハ
ザードマップに着目したのが面白い。なおこの句はハザードマップが車の中にあるのだ
から、語順を変えて「秋出水車中に残るハザードアップ」の方が分かりやすいと思った。

58	色違へ高さ違へて草の花

丁寧に写生していますね。

国枝隆生氏選================================

見ている秋の草は実に様々なのであろう。「色違へ」「高さ違へ」とリフレインが効
果的。

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59	雲流れ風の囁く花野かな

作者が眼前の花野と一体化しているような趣があります。

国枝隆生氏選================================

前句に引き続き、この句も花野の美しさの背景を「句も流れ」「風の囁く」をリフレ
インで写生しているのが心地よい。

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60	パンダゐぬ動物園や秋の風

パンダのいなくなった動物園に寂しい秋の風がふいている、という説明のように感じま
した。

61	風呂あとのビール一杯敬老日

普段から時々ビールを飲んでいるのだけど、ああ今日は敬老日だと気づき、自らを労っ
ている姿が伺えます。

62	秋澄むや羽衣のごと雲流る

ゆったりと流れる雲が目に浮かびます。

63	道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ

 ささやかな風景をユーモラスに切り取っていますね。

国枝隆生氏選================================

下校時の道草であろうか。いつものように道草して歩いていると、飛蝗がつきまとう
ように飛んでいる。あたかも道草につきあってくれるように。

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64	背をつけて手足を伸ばす喜雨の朝

「背をつけて」が分かりませんでした、

65	つつく窓やつと目の合ふ今日の菊

「つつく窓やつと目の合ふ」が分かりませんでした。

〈国枝評〉つつく窓」がよく分かりません。それが中七以降にどうつながっているので
しょうか。

66	稲雀互いの声を呼び合へり

声を呼び合うという把握に共感ができませんでした。

67	兄の忌や備前の壺に式部の実

兄の忌日に、備前の壺に式部の実を行けて兄を偲ぶ。即物的表現が良いですね。

国枝隆生氏選================================

毎年やって来る兄の忌には毎年同じように秋の好きな備前の壺で活けることにしてい
る。しかも毎年同じ紫式部で。毎年同じように供養することは兄を忘れないための儀
式なのである。

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68	街路樹に帰る燕と残る鳥

「街路樹」が場所の説明ですので、燕と烏の様子を写生してほしいです。

69	乾し草を濡らし一滴朝の露

「濡らし」は自明ですので省略したほうが良いと思います。

70	せーのーで食べる飛蝗の塩炒め

さほど食べたくないものを掛け声で勢いよく食べるという俳味を感じました。

71	棚田守減つて増えたか曼珠沙華

因果関係を感じました。

72	ひとりゐや秋の簾の夜の部屋

「部屋」は省略できるような気がします。

73	時計なき腕に気づくや秋の風

この「秋の風」は寂しい風なのか爽やかな風なのかで句の内容が全く変わるのでどちら
だろうかと悩みました。

74	聞き役の婆の縁側吾亦紅

 歳月を重ねた者が持つ優しさを感じました。

75	茸山黒きパネルの下となり

ソーラーパネルだと思いますが、茸山との位置関係がよく分かりませんでした。

76	ハンターに母を撃たれし鹿の声

季語「鹿の声」の本意と離れすぎているのが気になりました。

77	ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ

「ペン胼胝」は、日々の努力が形となった証。休暇が終わり、指先に触れるその窪みに、
仕事に戻るという現実をそっと確かめているようです。

78	新調の黒燕尾服秋気充つ

新調の燕尾服に袖を通す人の心の高揚と緊張、そして期待を季語「秋気充つ」が心地よ
く受け止めています。

79	送り火の妙の我が名や燃え尽きる

五山の「妙」が自分の名にあるという羨ましい偶然。

〈国枝評〉京都五山の送り火の一つに「妙」の字もある。この「妙」が自分の名前の文
字の一つであることから,毎年見ているのであろう。それをなつかしく見て、なつかし
みを込めて詠んでいるのであろう。

80	やすらぎの二人の夕餉胡瓜もみ

夏の夕暮れの穏やかで満ち足りた時間ですね。

国枝隆生氏特選================================

日常生活の穏やかな情景を「胡瓜もみ」を題材に詠まれている。二人居の生活がよく見
える。我が家の生活を見ているよう。

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81	爽やかに握手の別れ始発駅

始発駅での別れは、終わりではなく新たな始まり。未来へと向かう二人の人生を、季語
「爽やかに」が清々しく彩っています。

国枝隆生氏選================================

久しぶりに友と一緒に過ごしたあとの別れる時の握手などといろいろなことを想像さ
せてくれる。握手して別れるのは始発駅は東京の新幹線も該当するが、この句は爽や
かな様子が見える。田舎の始発駅であろう。

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82	富士望む花野の昼餉鳶の笛

広々とした自然の中で、富士山を望み、鳶の鳴き声を聞きながらの昼食。視覚と聴覚が
織りなす満ち足りた情景ですね。

83	産直の生き生きトマト朝の市

 朝の光に輝くトマト。その日の始まりにふさわしい、瑞々しい活力を象徴しているよ
うです。

84	秋を待つ人それぞれに来る日暮れ

 「秋を待つ」期待と、「日暮れ」の寂しさが混在する句。秋という季節が持つ、爽や
かさと哀愁が同居する複雑な感情ですね。

85	アルプスを望む安曇野水澄めり

 山から流れる澄みきった沢水に心洗われますね。

国枝隆生氏選================================

回想句であろうか。安曇野の川か小流れか分からないが、澄んでいる水が心地よい。
多分空も山も見るものすべて澄んでいるのであろう。気分のよい句。

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86	岨道の萩に触れゐて休みをり

 歩き疲れた体に、そっと触れた萩の花が、静かに癒しを与えてくれる。はらはらと花
が零れ落ちる情景まで目に浮かぶようです。

87	湯屋の窓全開で浴ぶ虫時雨

 私は入浴時に虫の声を聴くのが好きです。「浴ぶ」という措辞から盛んな虫の声を想
像しました。

〈国枝評〉銭湯であろうか、窓を開けたら一面の虫時雨に浴びる。田舎の銭湯の爽やか
さを感じる句。

88	地球一周四万キロとふ雁渡し

  雁が地球を一周する、というように読めてしまうので、?の句でした。

89	秋の空塗装の知らせ明日からと

 外壁の塗装だと思いますが言葉が足らないように思いました。

90	曇天の切れ間に望む空高し

 憂鬱な気持ちを晴れやかにしてくれるような句ですね。

国枝隆生氏選================================

雲っていても雲の切れ間から見える空はよく澄んでいるのであろう。わずかに見える
空から田舎の空気がよく澄んでいるところが見える。

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91	夕焼けに染まる薄雲散歩道

 「散歩道」が場所の説明のように想いました。


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