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選句結果
     
第237回目 (2019年3月) HP俳句会 選句結果
【  坪野洋子 選 】
  特選 春うらら猫は尻尾で返事する 妙子(東京)
   しょんなかは義母の口癖葱坊主 田中洋子(千葉県)
   飯炊ける甘き匂いや春温し      田中洋子(千葉県)
   針のとぶ古きレコード夜半の冬 加藤剛司(名古屋市)
   とりどりのマカロンを喰ふ荷風の忌 森元恵美子(津島市)
   春光や南淡路の瓦屋根  東 かつじ(神戸市)
   離島の子指絡ませて卒業歌 吉田正克(尾張旭市)
   ふらここのきしみ大空蹴り返す 暁孝(三重県)
   ポケットに方位磁石や蝶の昼 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   川挟む手話の挨拶山笑ふ 惠啓(三鷹市)
【  高橋幸子 選 】
  特選 陽炎へるジャンボ旅客機着陸す 筆致俳句(岐阜市)
   しょんなかは義母の口癖葱坊主 田中洋子(千葉県)
   針のとぶ古きレコード夜半の冬      加藤剛司(名古屋市)
   木々芽吹く東山背に露座仏 康(東京)
   土手うらら婆口ずさむ童歌 雪絵(前橋市)
   囀りやペンキの剥げた三輪車 伊藤順女(船橋市)
   春疾風向き定まらぬ風見鶏 暁孝(三重県)
   川挟む手話の挨拶山笑ふ 惠啓(三鷹市)
   鳶の輪の流されてをり春北風 勢以子(札幌市)
   留学へ発つ子のリュック桜まじ 幹弘(東京)
【  長崎眞由美 選 】
  特選 絵筆置き黙祷三月十一日 まこと(さいたま市)
   針のとぶ古きレコード夜半の冬 加藤剛司(名古屋市)
   離島の子指絡ませて卒業歌      吉田正克(尾張旭市)
   囀りやペンキの剥げた三輪車 伊藤順女(船橋市)
   ふらここのきしみ大空蹴り返す 暁孝(三重県)
   くり返す余震に震へシクラメン きょうや(東京)
   別珍のアルバム飽かず春炬燵 ふじこ(大牟田市)
   笏も失せ手元さびしき古雛 鈴木八重子(蒲郡市)
   ポケットに方位磁石や蝶の昼 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   川挟む手話の挨拶山笑ふ 惠啓(三鷹市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 逝きし子の部屋に今年も雛飾る 惠啓(三鷹市)
   針のとぶ古きレコード夜半の冬 加藤剛司(名古屋市)
   土手沿いにとびとび青む春の草      奥村僚一(滋賀県)
   物干のシャツの片寄る涅槃西風 うさぎ(愛知県)
   春光やきらりと妻の糸切り歯 みのる(大阪)
   ポケットに方位磁石や蝶の昼 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   川挟む手話の挨拶山笑ふ 惠啓(三鷹市)
   春北風や更地に錆し井戸ポンプ 蝶子(福岡県)
   着たきりの十二単の享保雛 ときこ(名古屋市)
   木片は骨片に似て雁供養 高橋 佳代(神奈川県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、加藤剛司さん(名古屋市)、惠啓さん(三鷹市)でした。「伊吹嶺」3月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2019年3月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

 今月もHP句会に多くの投句、ありがとうございます。今月の最高得点句は加藤剛司
さんと惠啓さんでした。以下複数の選者から選ばれた句を中心に見ていきたいと思いま
す。

針のとぶ古きレコード夜半の冬

 選者四名が全員採っていました。今時古いレコードで聞いている人がいるのかと疑問
に思う人もいらっしゃるかも知れません。そういう意味で回想句として考えてもかまい
ません。何度も聞いていると、レコードの溝がすり切れて針が飛んだことがよくありま
した。そういうノスタルジーを感じた句でした。全員が採ったということはこのノスタ
ルジーを感じたからでしょう。ちなみに最近鑑賞した句でレコードが登場した句に

冴返るLP古き傷拾ひ      行方 克巳

 があり、すり切れたレコードを「古き傷を拾ひ」と詠んだのがよいと思います。

高橋幸子さん選評――――――― 

 情景が浮かび情趣あり。類句がありそうな気もする。

長崎マユミさん選評――――――

 CDではなく、針がとんで、音楽がぶつ切れになるけども、レコード盤にこだわる作
者。冬の夜中にどんな曲を聴いているのでしょうか?懐かしさを感じる句ですね。

 
川挟む手話の挨拶山笑ふ

 この句も選者四名が全員採っていました。川を挟んで挨拶出来るのは手話で話してい
るからでしょう。「山笑ふ」の季語が明るくてよいですね。ところでこの挨拶が出来る
川幅はどのくらいでしょうか。そんな距離を感じさせないのが手話だから効いているの
でしょう。確か昨年のNHK朝ドラの「半分青い」では糸電話で川を挟んで話していた
シーンがありましたね。そんな情景も思い出しました。

高橋幸子さん選評――――――― 

 類想がなく、景のよく見える句。季語が場面を明るくしている。

長崎マユミさん選評――――――

 川を挟んでいて、声が届かなかったのでしょうか?お互いに手話で挨拶をしている
シーンが目に浮かびます。春の季語「山笑ふ」がぴったりですね。

ポケットに方位磁石や蝶の昼

 惜しくも最高得点句になりませんでしたが、三名の選者が採っています。いわゆる取
り合わせの句です。こういう場合はよく取り合わせが即かず離れずということが要求さ
れますが、この句の場合、「蝶の昼」と「方位磁石」との関係ですが、意表を突いた取
り合わせでしかも嫌みがありません。取り合わせが成功しています。ポケットの磁石が
出かける時のうきうきとした気分、そして蝶が飛んでいるような昼下がりの気分がマッ
チしています。

長崎マユミさん選評――――――

 ポケットに方位磁石を入れて、どこかにお出かけの作者。何か楽しそうなことが待っ
て居るような・・。季語「蝶の昼」に長閑さが呼応しているようです。

逝きし子の部屋に今年も雛飾る

 私の特選句です。一寸演技過剰かも知れませんが、作者の思いであれば亡くなられた
子に対する思いに溢れています。亡くなられた子の部屋はまだそのままにしてあるので
しょう。そこに毎年、雛を飾ることにしているのですね。「今年も」にやるせない思い
があります。

高橋幸子さん選評―――――――

 気持ちがすんなり良く分かる。


ふらここのきしみ大空蹴り返す

高橋幸子さん選評―――――――

<きしみ>が大空を蹴り返す?ブランコがきしんだ音を立ててから蹴った?整理すると
よい句になりそう。

 ふらここ(ぶらんこ)の題材はよく出てきます。そういう意味で類型がありそうです
が、それを気にすることはありません。自身で感じたままがよいと思います。この句の
場合は、空へ蹴り返すのがよかったと思います。高橋さんのコメントを考えると、「ふ
らここをきしませ空へ蹴り返す」と動詞の主語を合わせる方法もあります。

離島の子指絡ませて卒業歌

 二名の選者から採られています。「指絡ませて卒業歌」が眼目だと思います。「手を
繋いで」でないところが苦労したところでしょうか。ただ、選者の中で「<指絡ませて
卒業歌>の状況が今一つ分かりにくい」とのコメントもありました。

囀りやペンキの剥げた三輪車

 いわゆる「囀り」の季語と「三輪車」の取り合わせの句です。「ポケットの」句でも
言いましたように、取り合わせの距離感が読者に共感出来るかがポイントです。残され
た三輪車の周辺に鳥が囀っている情景がすんなりと入ってきます。

高橋幸子さん選評―――――――

 よく使われた三輪車。子供の成長がイメージされ、季語との映りがよかったと思いま
す。
長崎マユミさん選評――――――

 <ペンキの剥げた三輪車>、使い込んだ三輪車はお兄ちゃんのおさがりでしょうか?そ
んな三輪車を大事に乗っている子どもが見えて、季語の「囀り」がエールのように感じ
ました。

木片は骨片に似て雁供養

 私だけが頂きました。いわゆる見立ての句で、知的な句です。ただ季語の「雁供養」
自身が空想の季語ですから、実景ではありません。たまたま枝の切れ端を見て作られた
のでしょうか。そういう意味で純粋の写生句ではありません。
 ある選者から「頭で作ったような感じ。」とのコメントもありました。

絵筆置き黙祷三月十一日

 長崎マユミさんが特選で採っていらっしゃいます。

長崎マユミさん選評――――――

 絵手紙でも描いていたのでしょうか。「三月十一日」、未曾有の被害のあった東日本
大震で、句も沢山ありますが、この句は平明ながら、清心が伝わりました。

 「三月十一日」を季語として読み込むのは難しいですね。上5であっても下5であっ
てもなかなか据わりがよくなりません。どうしても定型に入りません。この句は5・8・
6となっています。あとは以下に定型感に入れるかです。皆さんも挑戦してみるのもよ
いかと思います。次の句は8・7・5ですが、定型感に入っています。東日本大震災も
東京空襲も忘れないため、いつまでも記憶に残したい句です。

  三月十日も十一日も鳥帰る     金子兜太


陽炎へるジャンボ旅客機着陸す

  高橋幸子さんが特選で採っていらっしゃいます。

高橋幸子さん選評―――――――

 鮮明にイメージされ堂々とした句。下五の言い切りが心地良い。


しょんなかは義母の口癖葱坊主

 坪野洋子さん、高橋幸子さんが採っていらっしゃいます。

高橋幸子さん選評―――――――

 上五・中七と、季語「葱坊主」の取り合わせが面白い。


土手うらら婆口ずさむ童歌

  高橋幸子さんが採っていらっしゃいます。

高橋幸子さん選評―――――――

 読んですぐ,私の母のことがイメージされ、共感しました。


別珍のアルバム飽かず春炬燵

 長崎マユミさんが採っていらっしゃいます。

長崎マユミさん選評――――――

 <別珍のアルバム>は卒業アルバムでしょうか?アルバムの表紙が別珍になっていると
は立派なアルバムなのでしょう。<別珍のアルバム>と表現したところに作者の工夫が見
えました。


着たきりの十二単の享保雛

 私だけが採っています。よく「着た切り雀」とは言いますが、「着たきりの十二単」
とは面白い発見でした。確かに雛は江戸時代から延々と同じ十二単を着ていますね。写
生句ではありませんが、一つの発見として面白いと思いました。


留学へ発つ子のリュック桜まじ

 高橋幸子さんが採っていらっしゃいます。

高橋幸子さん選評―――――――

 <桜まじ(桜が咲く時期に吹く暖かい南風)>が効果的。リュックに着目したことが
よかった思います。


以下気の付いたことをランダムに述べさせて頂きます。

笏も失せ手元さびしき古雛

 評価の分かれた句でした。採っていらしゃった方は、「古雛の説明のようにも思いま
したが、<笏も失せ手元さびしき>に惹かれました。」とあります。
 私ともう一名の選者は「も」が疑問との立場でした。
 いわゆる「も」は並列の「も」です。と言うことはあと別に並列させるものが気にな
ります。それが分かりづらくなると、採ることが出来ません。「も」だけで詠み、あと
は読者に任せるのは難しいことです。同様に「も」で疑問になった句には、

恋知りて艀の猫も鳴き交わす
春塵やオフィス街にも掲示板

などがあり、同様に疑問に思いました。

入るるたび振る貯金箱春の蠅
放蕩と母はいうやも蕗のたう
絵手紙の緑あふれて春帽子

 今月は取り合わせの句が多くありました。私が頂いた句もありました。確か藤田湘子
は取り合わせは離れれば、離れた方がよいとの発言もあったかと思います。ただ頂いた
時に述べましたが、取り合わせは即かず離れずが重要だと思います。今月頂いた句で、
「ポケットに方位磁石」は「蝶の昼」との距離感がよいと思いました。

 それに対して上に挙げた3句はどうでしょうか。「春の蝿」「蕗のたう」「春帽子」
など物との関係がしっくりきませんでした。1句目の「貯金箱」と「春の蝿」との関わ
り合いがよく分かりませんでした。2句目の「放蕩」という抽象語と「蕗のたう」との
関連も分かりませんでした。3句目の「絵手紙」と「春帽子」は室内と屋外との関連で
合わないと思いませんでした。いずれにしても取り合わせはあくまで感覚の問題ですか
ら、読者によってそれぞれだということだけを付け加えておきます。

歯科治療終へて晴れやか三鬼の忌
底深く動かぬ一尾多喜二の忌
とりどりのマカロンを喰ふ荷風の忌

 特に忌日との句の取り合わせはさらに難しくなります。上の3句も感覚的な取り合わ
せとして考えるしかありません。1句目は三鬼が一時歯科医をやっていたために「歯科
治療」を入れて取り合わせたのでしょうか。2句目の「多喜二の忌」の取り合わせの是
非は難しいですね。3句目の「荷風の忌」とマカロンの取り合わせは効果的でしょうか。
今月は取り合わせの例を挙げてみただけに留めます。

紺碧の空紅梅の染みるかな
はだれ野の草食む牛のよだれかな
花冷の無人の駅の鉄路かな

 もっと他にもありましたが、「かな」で止めている句を3句ほど挙げてみました。い
わゆる「かな」は一番強い詠嘆で止める切れ字です。その時、上5から続くすべての言
葉を受け止めて詠嘆させます。その「かな」の言葉は一句の中で感動が一番強い言葉を
持ってきます。そういう意味で1,2句目の「染みる」「よだれ」は感動が一番強いの
でしょうか。他にもっと強いフレーズがあったように思えました。また3句目の「鉄路」
は無難かと思いますが、すべて名詞だけで詠まれていますから、どれが一番の中心の言
葉かも分かりませんでした。

老木の気品備えし盆梅展
いつの日や北方領土鳥帰る
自然の摂理忘れいし雪なだれ
春星下子はそれぞれの道歩み

 今月は抽象語が含まれている句も多くありました。今人気番組である「プレバト」の
夏井いつき氏の俳句は面白くて見ている方も多いと思います。添削方法に句またがり、
上5の音数が多いなどは気になりますが、添削する時必ず強調されているのは、俳句は
「映像化」が大事だと言うことをおっしゃっています。これには全く賛成です。

 そういう意味で上に挙げた4句はどうでしょうか。1句目の「気品備えし」は盆梅の
ことでしょうが、どのような気品か具体性がありません。2句目の「いつの日や北方領
土」の意味は分かりますが、俳句として何を映像化したいのか分かりません。単なる願
望が見えるだけでした。3句目の「自然の摂理」が分かりません。「雪なだれ」はどん
なことを忘れているのでしょうか。4句目の「子はそれぞれの道歩み」も子はそれぞれ
の道を歩むだけで具体的なことが分かりません。子供がそれぞれの道を歩くのは子とし
ての役目であって当たり前のことのように思えます。

 以下個々の句についてコメントしたいと思います。

菜の花ライン心奪わる列車旅

 中7が「奪はる」で終止形となっていますから、3段切れですね。3段切れはリズム
を悪くしますので避けましょう。

初音聴き雨戸開けるを躊躇する

選者の中に、”雨戸を開けると鶯が逃げると思い、「開けるを躊躇?」少し回りくどい
と思います。“ともありました。

龍天に登るめでたき元の鞘

 「龍天に登る」の季語に挑戦されたのは、よかったのですが、中7以降は「龍天に登
る」の季語の説明のように思えました。

平成終わる平和を祈る内裏雛

 それぞれの動詞が終止形で終わっていますから、3段切れとなりました。

さざ波の煌めく川面初燕

 「煌めく川面」と言えば「さざ波」は要らないように思えました。いわゆるダブり言
葉ですね。

梅が香に碗とびたちぬ柄の鶴

 梅の匂いにお碗の鶴が飛び立ったということでしょうか。一寸理屈が勝っているよう
な印象を受けました。

薇の綿毛ほどきし小ぬか雨

 「ほどきし」の過去形がふさわしいのでしょうか。現在の情景だと思いました。「薇
の綿毛ほどくる小ぬか雨」で意味が通じると思います。

ダナエ梳く髪の金色春の雨

 「ダナエ」とはクリムトの描いた絵のことでしょうか。この絵には黄金の雨が降って
いるとありますから、春の雨も含めて全体に「ダナエ」の説明になっていると思いまし
た。

雀の巣見つけ嬉しくしゃべりたき

 よく動詞が多いと全体の印象が分散するといわれています。私は全面的にこれに賛成
ではありませんが、この句の場合は動詞3つが並列に並んでおり、確かに印象が分散し
ています。

一缶を買ひ足す灯油春寒し

 まだ春が寒いので、灯油を一缶買い足したのでしょうか。そうすると上5,中7は
「春寒し」の説明になっています。

茎立ちや精力余る畑のもの

 「精力余る畑のもの」は「茎立ち」そのものを説明しているようでした。

ソプラノの歌声響く春の水
 「ソプラノ」と言えば「歌声」は要らないと思いました。「ソプラノ響く」だけで十分に意味が分かると思いました。

水温む蹲踞の影動きけり

 「蹲踞の影」が動くとはどんな状態でしょうか。よく分かりませんでした。何の影が
動いたのでしょうか。

青き踏む赤き児の靴真新し

 「赤き児」とはどんな児でしょうか。字数の関係で「赤児」を「赤き児」と詠んだの
でしょうか。もしそうであれば、「新しき赤児の靴や青き踏む」でよいと思います。

 今月は以上です。また来月も佳句に会えることを楽しみにしています。

第236回目 (2019年2月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 嫁ぐ子の朝やかがよふ花ミモザ 伊奈川富真乃(新潟県)
   筆談の交じる会話や春隣 田中洋子(千葉県)
   春寒し体温計の電子音      康(東京)
   春大根引けば大地の香り立ち 暁孝(三重県)
   下萌ゆる杖つく道の先先に 筆致俳句(岐阜市)
   立春や槌音響む罹災地区 小林克己(総社市)
   金文字の古書肆の屋号風光る きょうや(東京)
   留袖の祖母の帯締め梅香る 徳(山梨県)
   閉ざしたる古墳の鉄扉春寒し 紅さやか(福岡県)
   風強き潮入川や猫柳 彩楓(さいふう)(埼玉県)
【  奥山 ひろ子 選 】
  特選 枕辺の句集に風邪の手をのばす 雪絵(前橋市)
   登り来るバスのメロディー春隣 とかき星(大阪)
   春寒し体温計の電子音      康(東京)
   手をさするのみの見舞ひや梅一輪 まこと(さいたま市)
   干鰈能登の風受け白く透け 町子(北名古屋市)
   万歳し春光つかむ幼の掌 みのる(大阪)
   一碗の飯きらきらと春立ちぬ みのる(大阪)
   傷痕の残る指先余寒なほ 小豆(和歌山市)
   半泣きも園児負けじと鬼は外 美由紀(長野県)
   古地図手に巡る大江戸日脚伸ぶ 惠啓(三鷹市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 縁側は妻の書斎や風信子 比々き(東京)
   ゆるびなき端山の落暉鳥渡る 吉沢美佐枝(松戸市)
   母見上げ幼の二拍初参り      高柳杜士(名古屋市)
   茫々と風が火を巻くお山焼き 暁孝(三重県)
   青空に昼の月なり石蓴掻く さいらく(京都)
   立春や槌音響む罹災地区 小林克己(総社市)
   寒明けやひときは高き鳥の声 小豆(和歌山市)
   風強き潮入川や猫柳 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   遅き日や木曽谷つつむうす茜 美由紀(長野県)
   枕辺の句集に風邪の手をのばす 雪絵(前橋市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 一碗の飯きらきらと春立ちぬ みのる(大阪)
   筆談の交じる会話や春隣 田中洋子(千葉県)
   手をさするのみの見舞ひや梅一輪      まこと(さいたま市)
   寒鯉を縁取る水も動かざる 正憲(浜松市)
   薄氷の螺鈿めきたる陽射かな ぐ(神奈川県)
   閉ざしたる古墳の鉄扉春寒し 紅さやか(福岡県)
   風強き潮入川や猫柳 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   浅春やヒマラヤの塩ほの紅く 小川めぐる(大阪)
   古地図手に巡る大江戸日脚伸ぶ 惠啓(三鷹市)
   枕辺の句集に風邪の手をのばす 雪絵(前橋市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、雪絵さん(前橋市)でした。「伊吹嶺」2月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



      2019年2月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房


1 帽押さえ伊吹颪に向かいけり 

 強い風に飛ばされないように帽子を押さえるのは普通のことで、そこから作者の気持
ちは見えて来ません。作者がどんな気持ちで伊吹颪に向かったのかが伝わるような言葉
を上五に置けると良いですね。

2 荒畑の野梅ほころぶニ三輪 

 上五を「荒畑や」と強く切った方が、背景の荒れた畑と、梅の花のクローズアップの
対比が明確となります。

3 猫三匹と二人の暮らし蕗の薹 

 穏やかな暮らしが感じられます。上五の字余りが気になりました。数字の取り合わせ
が面白いので、思い切って「三匹と二人の暮らし・・」として、猫か犬かは読者の想像
にお任せするのも良いかもしれません。

4 筆談の交じる会話や春隣 

 この句は、組み合わせる季語によっては印象が正反対にもなり得ます。この句は、季
語の力で、たいへん温かみのある句となりました。

5 春近し姉の教える自転車乗り 

 ほのぼのした句ですね。作者は、姉妹(姉弟?)から離れた視点で見て作句されてい
ますが、俳句は「一人称現在形」が基本です。姉自身あるいは妹(弟?)自身の立場に
なって作ってみると、より臨場感のある句になるかもしれません。

6 歩み来てまどろむ猫や日向ぼこ 

 情景はよく見えますが、よくある景で、発見や感動が感じられませんでした。

7 紅梅や庵主もてなす躙口 

 茶会においてのもてなしとは、準備から客を送り出すまでのすべてを指すのだと思い
ますので、もっと具体的な景や動作が見えるように詠むとさらに良くなると思います。

8 白梅のふふむ石段奥の院 

 下五で、人気の少ないひっそりとした雰囲気が伝わって来ます。静かな暖かさが感じ
られます。

9 躙りぐち侘助そつとお出迎へ 

 「侘助そつとお出迎へ 」は、作者の主観であり、説明です。俳句では、躙口に侘助
があるというだけで十分です。

10 石仏の微笑み誘ふ福寿草 

 前句と同様、「石仏の微笑み誘ふ」は余計な説明です。福寿草という季語が、温かさ
や可愛らしさをすべて語ってくれます。「物に託して気持ちを詠む」ようにしましょう。

11 賽銭を遠投したり初詣 

 すごい人混みが見えて来ますね。「〜する」という詠み方は句が散文的になりがちで
すので、「遠くより投ぐる賽銭初詣」等とすると、引き締まると思います。

12 受験生深夜零時のカップ麺 

 受験生が夜遅くまで勉強して、夜食にカップ麺を食べるというのは、句材として特に
新鮮味を感じませんでした。

13 聳え立つ水涸れの滝白光に 

 「聳え立つ」は、水涸れの滝の説明に感じました。また、「白光」が何を指すのかも
よくわかりませんでした。

14 鬼やらひ鳴弦の儀と篝火と 

 「鳴弦の儀と篝火と」が鬼やらひの説明の域を出ないように感じました。弦の鳴る音
や炎の色や様子を具体的に詠むと深みが出ると思います。

15 立春の虎の牙抜く調教師 

 季語が動くように思いました。

16 立春の河馬の歯磨く飼育員 

 こちらは、季語が活きているように感じます。作者は、坪内稔典の句を意識されてい
るのでしょうか? 河馬の歯を磨いてやるのが飼育員なのは当たり前ですので、ここを
たとえば「大ブラシ」や「デッキブラシ(字余り)」、あるいは「娘かな」等とすると、
より写生が活きると思います。

17 これくらいと両手で示す寒満月 

 先日、スーパームーンがありましたね。確かに大きく見えるように思いましたが、月
の大きさを両手で示すということに、あまり現実感がわきませんでした。

18 膝ほどの位置に苔生す梅一輪 

 句の意味が分かりにくく思いましたが、膝の高さほどに苔が生えている梅の古木に、
花が一輪咲いたという意味でしょうか? 

19 寒鴉足をすぼめて飛び去れり 

 よく観察されていると思いますが、いまひとつ発見に乏しいように感じました。

20 登り来るバスのメロディー春隣 

 なぜバスがメロディーを奏でているのかわかりませんが、季語も相まって楽しい気分
の句になりました。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 「メロディー」が流れるとは地域の福祉バスなどでしょうか。「登り来る」と「春隣」
はどちらも期待を感じさせる言葉で、作者の気持ちの明るさを感じました。おそらく作
者はこのバスに乗る予定なのでしょうね。
======================================

21 スパイクの重さも互角春の泥 

 スパイクの重さが何と互角なのかわかりませんでした。

22 早春の太陽川底にゆらぐ 

 切れが無く一本調子であり、破調でリズムが悪いのが気になりました。上五を「早春
や」と切り、下五を「川の底」と名詞止めにする等工夫すると、さらに良い句になるよ
うに思います。

23 防人の歌碑に冬の日濃かりけり 

 「冬の日」は「冬日の」の方がリズムよくなると思います。

24 ゆるびなき端山の落暉鳥渡る 

 「鳥渡る」は秋の季語です。当句会に出す句は必ず当季である決まりはありませんが、
あまり季節を外さない方が、読み手に臨場感を持って読んでもらえると思います。「鳥
帰る」だと春の季語になりますが、上五中七の厳格な雰囲気と、ややそぐわない気もし
ます。

25 園児らの戦々恐々鬼は外   

 「園児らの戦々恐々」は説明的です。もっと具体的なもの(表情、言葉、仕草など)
で表現できると良いですね。

26 星浴びる同好会のふぐと汁  

 「星浴びる同好会」とは、天文同好会のようなものでしょうか? 景がよくわかりま
せんでした。

27 こたつ猫アンモナイトになった夢 

 夢を見ているのは作者なのか猫なのか、よくわかりませんでした。

28 春陽向胎児五センチよく動く 

 三段切れなのが残念です。「五糎の胎児動くや春日向」等、切り方を工夫するとさら
に良くなると思います。

29 立春の白檀けぶる古畳 

 白檀を、「香る」ではなく「けぶる」としたところに面白さがあります。どこか、春
霞のイメージに通じるものを感じ、季語との距離感が良い感じに思いました。下五の
「古畳」は工夫の余地があるのではないでしょうか?

30 逡巡の褪せたベンチに春の風 

 「逡巡」とは、ぐずぐずすること、ためらうことです。「逡巡の褪せたベンチ」の意
味がよくわかりませんでした。

31 春寒し体温計の電子音 

 具体的な映像はありませんが、作者の心情が静かに伝わる句です。寒→風邪→体温
計と、ちょっとイメージの繋がりが濃すぎる感もありますので、上五を「料峭や」等
とすると、句に奥行きが出ると思います。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 掲句は、「春寒し」と「体温計」という体調がすぐれない様子を連想させます。し
かも「体温計」の「電子音」とは、か細く耳を澄まさなくては聞こえない音の大きさ
で、周囲が静かであることをうかがわせます。まだまだ寒くそして静かである…春は
まだ遠いという作者の思いが感じられました。
======================================

32 盆梅の香る玄関細格子 

 「盆梅の香る」が惜しいと思いました。野の梅も盆梅も同じ梅の香がします。わざわ
ざ盆梅と言うからには、視覚的な特徴を意識された方が良いと思います。「盆梅や磨き
込まれし細格子」等。

33 母見上げ幼の二拍初参り 

 二拍が具体的で可愛らしいですね。「母見上げ」で小さい子だということがわかりま
すので、「幼」を省く工夫の余地があるかもしれません。

34 かうべ垂れ鳥居くぐれる初鴉 

 実景かもしれませんが、ちょっと「狙った感」が強く感じられました。

35 田園の白き鏡や霜の朝 

 「田園の白き鏡」は、霜が降りた田んぼの比喩表現と思いますが、季語の説明に近い
印象を受けました。霜の景が見られるのは朝ですので、この句は「田園」と「霜」とい
う二つの言葉だけで、読者はこの句の景を思い浮かべることができます。

36 古庭に梅一輪の香りあり 

 庭に梅があるのも、梅が香るのも当たり前のことで、目新しさが感じられません。例
えば上五を「梅の香や」とすれば、今年初めて梅の香りを感じた喜びや驚きが表現でき、
中七下五でその喜びと響きあうものを詠むことができます。

37 春大根引けば大地の香り立ち 

 感覚の鋭い句ですが、「大地の香り立ち」は「土匂う」という季語と同義ですので、
季重なりの印象を受けました。

38 茫々と風が火を巻くお山焼き 

 句全体が、山焼きという季語の説明的に感じました。

39 元どほり夢見の如き冬の虹 

 冬の虹の儚さが伝わりますが、冬虹はもともと儚いイメージですので、この句も季語
の説明的です。

40 青空に昼の月なり石蓴掻く 

 上五中七と、下五の季語の距離感が良いと思いましたが、ひたすら下を見て行う石蓴
掻きと、青空の月の視線の違いが気になりました。

41 口開けて寒の日差しを喉にまで 

 面白い句ですね。具体的な行為を通して、日の光を求める作者の心情がよく伝わります。

42 手をさするのみの見舞ひや梅一輪 

 言葉にならない思いが伝わります。希望の梅一輪であって欲しいです。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 「手をさするのみ」の表現に、作者のやるせなさを感じます。あまりお話もできない
状態なのか、でもその行為には愛情を感じます。そして季語は「梅一輪」。回復を願う
気持ちが込められた清い梅の姿を思い浮かべました。
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43 回廊の底冷え沁むる蹠かな 

 底冷えした回廊に立って、足の裏に冷たさを感じるのは自然なことなので、目新しさ
が感じられませんでした。

44 下萌ゆる杖つく道の先先に 

 ふと感じた季節の喜びが感じられます。「下萌」「草萌」「草青む」「畦青む」等の
季語があり、どれも同じような意味ですが、「下萌」は「草萌」よりも地面を強く意識
したイメージがあります。その辺の微妙な違いを使い分けられると、より深い句となる
と思います。

45 寒見舞欠礼謝すと女文字 

 不幸があり、賀状を出さなかったことを詫びる寒見舞状だと思います。女文字という
情報だけでは、作者との関係も、作者の気持ちもわかりません。

46 火の奥の枯れ菊崩る久女の忌 

 蕪村の「火の奥に牡丹崩るる様を見つ」の句を思い出しました。「枯れ菊」は久女の
菊枕からの連想かと思いますが、季重なりなのが残念に思いました。

47 寒鯉を縁取る水も動かざる 

 面白い表現ですね。水を詠んだことで、じっとしている鯉の様子が写生できました。

48 揺らせしか揺れてをりしか春の鯉 

 この句も表現のユニークさを感じます。ちょっと言葉遊びが過ぎるような気もします
が・・。

49 檜香る木曽路の廁深雪晴 

 用を足しながら、トイレの小窓から明るい外を見ているのでしょうか。情景が良くわ
かり、意外性もある面白い句と思いました。

50 堂内の地蔵の顔や雪明り 

 地蔵の顔に何を感じたのかがわかると、より読者に訴える句となると思います。

51 歩道橋春たそがれの灯りかな 

 歩道橋に灯りが点ったという事実だけで、作者がそれに何を感じたのかが伝わりませ
ん。

52 春の雪野良に餌づけし話す女 

 季語が動くように思います。下五の字余りも気になりました。

53 鉄の靴馬に履かせて春の耕 

 鉄の靴とは、蹄鉄のことでしょうか? 馬に蹄鉄を履かせるのは当たり前だと思います。

54 盛り塩の濁り始めし春の塵 

 塵が舞ったから盛り塩が汚れて濁ったという、因果関係・説明に感じました。

55 春の浜テトラポットに潮溜り 

 テトラポットに潮溜りができるのかな?と疑問に思いましたが、それはそれとして、
潮溜りは春限ったことではないと思います。

56 古都フエのにぎわふ市場春隣 

 「春隣」という季語は、日本の厳しい冬を耐えた気持ちがあって、より活きてくる季
語だと思います。ベトナムにも四季はあるのでしょうが、亜熱帯のベトナムではその辺
が十分に感じられるかが気になりました。

57 薄氷や昼の月あり庭の甕 

 三段切れですので、中七を「昼の月ある」とした方が良いと思います。ただ、甕の氷
に月が映るのか、ちょっと疑問に思いました。

58 泥に降る雪の浄らにいさぎよく 

 「浄ら」は雪のイメージに含まれますし、「いさぎよく」は作者の主観です。こうし
た言葉は省き、事実や実物を詠んで気持ちが伝えられると良いですね。

59 雪しまく車窓に熱く缶コーヒー 

 旅情が感じられますね。ただ、雪の車窓とコーヒーはよくある発想ですので、作者独
自の感性が感じられるものがもう一つ加わると良いと思いました。

60 ヨーデル猫よ恋は曲者ですか 

 学生時代の寮で、少年漫画誌はもちろん、りぼんやなかよしといった少女誌まで、あ
るものは何でも読みましたが、その頃の少女漫画にヨーデル猫というキャラクターが出
てきたように思います。さて、この句?ですが、季語も切れも五七五のリズム感も無く、
17音であるということ以外、俳句との共通点はありません。この句?は俳句ではあり
ませんので、講評は差し控えます。

61 春立つや赤きランタン吊るす楼 

 立春と赤いランタンが良い感じですね。ただ、「吊るす楼」がちょっと取って付けた
感じですし、「吊るす」は言わなくてもわかります。

62 嫁ぐ子の朝やかがよふ花ミモザ 

 喜び・明るさに満ちた句ですね。「嫁ぐ子の朝」は、「子の嫁ぐ朝」の方が分かりや
すいのではないかと思いました。

== 武藤光リ氏評 =============================

 結婚式を迎えた親御さんの気持ちが、明るい花、ミモザの季語で良く読み手に伝わる。

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63 受験子も並ぶ撫で艶神の牛 

 「撫で艶神の牛」は、「撫で牛」で十分と思います。受験生が撫で牛を撫でる人の列
に並んだというだけでは句材として薄く、報告の域を出ない感じがします。

64 お供への草鞋と並ぶ受験絵馬 

 「物を詠んで心を伝える」という俳句の基本に添っていますが、残念ながら物の姿が
見えるだけで報告の域を出ず、作者の心が伝わって来ません。

65 立春や槌音響む罹災地区 

 力強い再興の希望が感じられる句ですね。「罹災地区」がちょっと説明的で具体的な
イメージに欠けますので、もっと具体的な景が見える「地震跡」「津波痕」等としては
どうでしょう?

66 頬ゆるぶ会陽のあとの男衆 

 会陽が済んだ景を詠まれていますが、男たちの表情が緩んだというだけでは、特に目
新しさがありません。一人の男の表情が目の前に見えるような写生ができると素晴らし
いですね。

67 比良八荒龍神止むる湖西線 

 比良八荒も湖西線も琵琶湖に関連したものと思いますが、茨城在住の私としてはここ
で「龍神」がどのような意味を持つのかが良くわからず、十分な鑑賞ができませんでし
た。申し訳ありません。

68 米朝の雪解けめくやハノイより 

 これは単なるニュースを見た(聞いた)感想で、詩ではありません。季語も季語とし
て働いていません。

69 干鰈能登の風受け白く透け 

 句材は悪くないのですが、詠み方で損をしていると思います。「能登の風受け白く透
く干鰈」「白く透きゆく干鰈能登の風」等、推敲してみてください。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 干鰈は能登以外でも食べられますが、「能登の風」と詠まれているところが厳しい寒
さを経て旨さの増した干鰈を連想させます。さらに「白く透け」の写生が具体的で共感
できます。
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70 手のひらに土鈴の雛カラと鳴る 

 「手のひらに」も「カラと鳴る」も土鈴の雛のイメージに含まれます。

71 二月早八十歳の誕生日 

 おめでとうございます。私も二月生まれ(魚座)です。

72 春の雪忘れた頃に二度三度 

 春の雪とはそういうものですね。

73 久米島の港の競りや春の風 

 久米島という固有名詞が生きていないように思いました。また、久米島のような南の
島だと、春の風のありがたみも薄れるような気がします。

74 節分会ちびっこ赤鬼現るる 

 「現るる」では、詩や物語になりません。読者がニヤリ・ホロリとするようにちびっ
こ赤鬼の様子を詠みましょう。

75 金文字の古書肆の屋号風光る 

 明るい句ですが、金文字→光るがややつき過ぎに感じました。むしろ、古びて褪せた
看板の方が、季語の新鮮さ・明るさが生きるのではないでしょうか?

76 ゆっくりと遮断機上がる街は春 

 遮断機の上がる速さがいつもより遅く感じられたところに季節を思った感性が素晴ら
しいと思いました。「街は春」と直球で攻めずに、春を感じるものをそっと置くと句の
深みが増すと思います。

77 山茶花の散りてハートの花弁かな 

 山茶花を説明した句にすぎません。

78 草の芽や鬼ごっこして児等駆くる 

 「鬼ごっこ」と言えば、「児等」「して(する)」「駆くる」は要りませんね。

79 給湯器の朝の余寒へ点火せり 

 「余寒」が正しい意味で使われていないように思います。

80 下萌えや兜埋まりし古戦場 

 古戦場に「兜埋まりし」では平凡です。むしろ、古戦場らしくないものを取り合わせ
た方が新鮮な句になると思います。

81 「ご自愛」が結びのことば寒見舞 

 詩となるほどのこととは思えませんでした。

82 うらうらら笑ふ門には福来ると 

 「うらら」「うららか」「うらうら」は春の季語ですが、「うらうらら」が季語にな
るのかどうか、疑問に思いました。いずれにしても、中七下五とは響かないと思います。

83 氷見線や駅舎の窓の梅一輪 

 「氷見線」という字面がいかにも寒そうなローカル線を思わせ、梅一輪の温かさが活
きています。

84 薄氷の螺鈿めきたる陽射かな 

 比喩の句は難しいですが、この句は色のない氷を色彩豊かな螺鈿に喩えたことで、意
外性と春らしさを感じさせる句になったと思います。

85 留袖の祖母の帯締め梅香る 

 言葉の受け掛かりがわかりにくいと思いました。祖母が留袖を着て帯締めを締めてい
るようにも読めますし、作者が祖母の帯締めをしているようにも取れます。また、「帯
締め」も、「帯を締めて」という意にも「帯締めの紐」と意にも取れます

86 縁談の話しになりぬ鶯餅 

 縁談と言えば「話」は不要ですね。下五の字余りは何とかしたいところです。

87 万歳し春光つかむ幼の掌 

 「春光つかむ」が作者の工夫されたところかと思いますが、無理に比喩表現にせず、
春光と子供の手を素直に写生した方が良いように思いました。万歳も、実際に万歳をし
ていたわけではなく、万歳をするときのように手を挙げたというこれも比喩と思います
ので、「春光や空に伸べたる幼の手」等、そのまま詠んでも良いと思います。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 赤ちゃんの句でしょうか、「春光つかむ」が可愛くもあり幸をつかんでほしいという
気持ちになります。また「万歳し」が子供の動作をよく見ている表現だと感じ入りまし
た。
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88 一碗の飯きらきらと春立ちぬ

 佳い句です。いつもと変わらないと思える日常の光景にも詩があり、季節があります。
季語が動きませんね。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 炊き立てのご飯はかがやいています。春の日差しの明るさと相まって、生命の源であ
る食欲をそそる句となりました。ご飯のかがやきで春を感じる作者の感覚の鋭さに感心
しました。
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89 薄氷の草の根確と噛みをりぬ 

 よく観察された句ですが、類想が多い気がしました。

90 麦踏の単調といふ一直線 

 季語「麦踏」の説明です。

91 日向ぼっこ戦争中の話など 

 日向ぼっこの取り留めのない会話に、戦争中の思い出話が出てもおかしくありません
が、もっと具体的に詠んだ方が良いと思います。例えば「昔飢へたる」「赤紙受けし」
「兵たる頃の」「復員の日の」等々

92 春光や出窓に記す福音書 

 福音書とは、聖書の一種ですでに書かれて(印刷されて)いるものだと思いますが、
それを記すというのがよくわかりませんでした。

93 一杯の二月の色の紅茶かな 

 「二月の色の紅茶」と言われても、まったくぴんと来ませんでした。

94 天元にそつと石置く二月かな 

 私は碁をやらず、碁のことを知らないせいかもしれませんが、「二月」という季語が
活きているようには感じませんでした。

95 棟上げの槌音そらへ冴返る 

 上五中七の明るさ、大らかさと、下五の鋭さ、硬さがミスマッチに思えました。

96 閉ざしたる古墳の鉄扉春寒し 

 季語の斡旋が良いですね。閉ざされた目の前の扉から、それが開かれる春を思う気持
ちも伝わって来ます。

97 寒明けやひときは高き鳥の声 

 具体的に何の鳥かは示されていないので、この句の「鳥の声」は、鶴の一声のような
特定の鳥の高らかな声ではなく、いろいろな鳥が鳴きかわしているのだと思いました。
そうすると、この句全体を「囀り」という一つの季語に置き換えられるような気がしま
した。

98 傷痕の残る指先余寒なほ 

 「傷痕」なのでもう治っているのでしょうが、指先の傷は痛そうです。「余寒なほ」
が切なさに追い討ちをかけてますね。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 切り傷かあかぎれの痕がなかなか治らない指先。水や風の冷たさを感じやすい指先は
まだまだ「余寒」が続いているのだと共感いたしました。
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99 風強き潮入川や猫柳 

 上五中七の、やや荒涼としたモノクロの景のなかに、ほっこりとした猫柳の新芽を見
つけた嬉しさが感じられます。

100 天秤の調節ねじや冴返る 

 上五中七と、下五の季語の響きあいが感じられませんでした。

101 春寒や真白き薄荷飴ひとつ 

 春寒と薄荷飴の取り合わせは、詠み方一つで面白い句になると思います。「真白き」
「ひとつ」は、薄荷飴の形容としてやや平凡で、工夫の余地があると思いました。

102 浅春やヒマラヤの塩ほの紅く 

 取り合わせが巧みです。春とはいえまだ寒い皮膚感覚に、ヒマラヤの岩塩の半透明の
赤が良く似合っています。

103 蕗味噌や明日は息子の門出の日 

 「明日は息子の門出の日」は作者の主観で、何の門出なのかもわかりませんので、読
者は感情を移入して句を鑑賞することができません。

104 内示受く夫の明日よ冴返る 

 前句と同じく、「内示受く夫の明日よ」は作者の主観であり、何の内示かもわかりま
せん。

105 春の旅女房同伴ロマンスカー 

 ほのぼのした句ですが、三段切れで、中七下五が上五の季語を説明する平凡な内容と
なってしまいました。

106 じじいへと手造りバレンタインの日 

 微笑ましい句ですが、女の子が父親や祖父にチョコレートをあげるのは、それほど珍
しいことではないと思います。「じじい」は作者自身のことで、謙遜を込めた言葉と思
いますが、女の子が祖父をそう呼んでいるとしたら、ちょっと嫌ですね。

107 山笑ふ観光バスよりどっと人 

 春の観光シーズンになったから、観光バスからどっと人が降りる様子が見られるよう
になった・・・という、理屈・因果関係が詠まれています。

108 冴返る塒となりて神の杜 

 句の意味が分かりにくいように思いました。神社で野宿されているのでしょうか?

109 麗かや宗派のちがふ寺ならぶ 

 宗派が違っても仲良くやっているのでしょうね。「それがどうした」的な中七下五が、
上五の季語で生きました。

110 縁側は妻の書斎や風信子 

 私の母も、よく日当たりの良い縁側で裁縫や読書をしていたのを思い出しました。ヒ
ヤシンスは水栽培のものを連想しましたが、最近あまり見かけなくなりましたね。

== 伊藤範子氏評 =============================

「ヒヤシンス」の別名「風信子」。「ヒヤシンス」の響きよりも、「風信子」の名前に
は春の訪れを感じさせる奥ゆかしい雰囲気があります。広い縁側なのでしょう。そこに
は奥様専用の書棚と文机もあり、趣味や習い事に集中できる幸せな空間なのでしょう。
そんな奥様を嬉しそうに見守る優しいご主人の姿も浮かんできました。
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111 蕗の薹摘むマニキュアのピンク色 

 素朴な蕗の薹と、おしゃれなピンクのマニキュアのミスマッチ感が面白いと思いまし
た。祖父母の家などに遊びに行った娘が、野遊びに誘われたような景でしょうか。

112 路地奥に高き槌音梅真白 

 路地の奥だと、狭さ・暗さ・湿っぽさ等のイメージが湧きます。この句は、上五の推
敲で、印象ががらりと変わると感じました。

113 うららかや河舟に乗す醤油樽 

 春ののどかな景を詠まれた句ですが、「河舟に乗す」の読み方がよくわかりませんで
した。かわぶねにのす? かしゅうにじょうす?

114 粗彫りの仏のおよび冴返る 

 「および」が「指」の意味か「お呼び」の意味かわかりませんでした。「冴返る」か
ら察して「お呼び」かと思いましたが、いまひとつ自信が持てませんでした。

115 電線の寒禽背を向き合へり 

 「背を向き合へり」は「背を向け合へり」でしょうか。鳥が電線にとまる場合、電線
と直角方向に向くと思いますので、背を向けあうということにはならないのではないか
と思いました。

116 風を読み棒をかかげし野火放つ  

 野火が棒を掲げているように読めます。

117 ウェディングドレスに乾杯花ミモザ 

 明るくおめでたい句ですが、ちょっと直球すぎるような気も・・・・。結婚式などで
贈る挨拶句としては喜ばれると思います。

118 早春の犬の遠吠え裏返る 

 季語が動くように思いました。

119 遅き日や木曽谷つつむうす茜 

 静かな木曽谷の空気が感じられます。「遅き日」は晩春の季語なので、春は名のみの
今頃よりも、もう少し後の句会に出句されると、読者に臨場感を持って貰いやすいと思
います。

120 半泣きも園児負けじと鬼は外 

 可愛らしい景ですが、新鮮味には欠け、詠み方も散文的に感じました。

121 古地図手に巡る大江戸日脚伸ぶ 

 ブラタモリのような散策、私も好きです。季語が良いですね。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 今は古地図ブームと聞いたことがありますが、「古地図」だからこそ「大江戸」とい
う表現がピッタリです。また「江戸」ではなく「大江戸」としたところが作者の今後の
展望を感じさせます。「日脚伸ぶ」季節になり、ますます大江戸巡りにまい進する前向
きな気持ちが読み取れました。
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122 轟を消すや袋田滝氷柱 

 氷結することでも有名な茨城の袋田の滝ですが、今年は凍ったのでしょうか? 滝が
凍ったから音がしなくなったという、説明・理屈が感じられる点が残念に思いました。

123 アスファルトの下にも土や春浅し 

 「アスファルトの下にも土や」は、観念的です。土が見えたのであれば、土そのもの
を写生すると具体的で景の見える句となります。

124 B5出口の青空や朝燕 

 「B5出口」の具体性を面白いと見るか、過剰と見るかですね。「地下街の出口横切る
朝燕」等と比べてどうでしょう?

125 春寒や花に埋もれし子の柩 

 悲しい春となってしまいました。季語に思いがこもっています。

126 枕辺の句集に風邪の手をのばす 

 よくわかります。風邪をひいて床に就くときには、退屈しないようにと枕元に本やDVD
を持って行きますが、体調がすぐれないとなかなか読む気になれず、ひたすらうつらう
つらと過ごしてしまうものです。やっと気分が良くなった時の気持ちと様子が良く表れ
ていますね。

== 奥山ひろ子氏評 ============================

 今冬はインフルエンザが大流行でした。長引く風邪も治りかけの頃は次第に本など読
みたくなります。「手をのばす」の措辞が作者の回復の兆しが感じられる表現で、句集
を読む意欲が湧いてきた感じが伝わってきました。また「枕辺」に句集を置いているこ
とも俳句が身近な存在であることの表れで素敵だと思います。。
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