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選句結果
     
第224回目 (2018年2月) HP俳句会 選句結果
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 波が波追ふ玄海の朧月 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   寒禽の遥かに鳴きて湖昏るる 雄一郎(滋賀県)
   神宮の日あたるところ地虫出づ      正男(滋賀県)
   ビニールで囲む屋台やおでん酒 鶴翔 (ツルショウ)(福岡県)
   反論の吐息閉じこめ月凍つる ぐ(神奈川県)
   顔寄せてのぞく茶柱春きざす きょうや(東京)
   嬰あやす百面相や春の縁 雪絵(前橋市)
   着膨れの妻と肩寄せ皆既蝕 吉田正克(尾張旭市)
   山頂は国境とや深雪晴れ 蝶子(福岡県)
   せせらぎに流るる日差し蕗の薹 蝶子(福岡県)
【  武藤光リ 選 】
  特選 板塀は猫の通ひ路春浅し 暁孝(三重県)
   新調の眼鏡に蒼き雪の朝 岩田遊泉(名古屋市)
   ビニールで囲む屋台やおでん酒      鶴翔 (ツルショウ)(福岡県)
   クロスワード埋まらぬままに春炬燵 典子(岡山県)
   三井寺の響む時鐘や冴返る 筆致俳句(岐阜市)
   暇とひま繋ぎ合はせてセータ編む 清風(鳥取)
   春泥の道に耳標の落ちてゐし 正憲(浜松市)
   マスチフの太き首輪や春寒し 小川めぐる(大阪)
   春色やよちよち歩む嬰の笑み 鈴木八重子(蒲郡市)
   山里に響く除雪車夜明け前 美由紀(長野県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 新しい靴と帽子と春の雪 皆空 眞而(川崎市)
   ビニールで囲む屋台やおでん酒 鶴翔 (ツルショウ)(福岡県)
   荒行の寺に春待つ水の音      吉沢美佐枝(千葉県)
   顔寄せてのぞく茶柱春きざす きょうや(東京)
   小人たち飛び交ひさうな花八手 節彩(東京)
   うららかや出窓に犬のぬひぐるみ 眞人(さいたま市)
   梅東風やぼろを被りてゴリラ坐し 眞人(さいたま市)
   ピンポンの軽き玉音春隣 周桜(千葉県)
   山頂は国境とや深雪晴れ 蝶子(福岡県)
   受験子の鉛筆尖らせて丸む 幹弘(愛知県)
【  伊藤範子 選 】
  特選 空あをし鈴の音こぼすごと木華 勢以子(札幌市)
   寒禽の遥かに鳴きて湖昏るる 雄一郎(滋賀県)
   嘘ついてふっと軽くなる春愁      正男(滋賀県)
   春泥の道に耳標の落ちてゐし 正憲(浜松市)
   ピンポンの軽き玉音春隣 周桜(千葉県)
   梅が香や少しずらして無双窓 ときこ(名古屋市)
   せせらぎに流るる日差し蕗の薹 蝶子(福岡県)
   晩鐘に背伸びの農夫鳥帰る 惠啓(三鷹市)
   鍵盤の指のつまづき春浅し 小春(神戸市)
   風を背にバス待つ朝や冴返る 幹弘(愛知県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、鶴翔 (ツルショウ)さん(福岡県)でした。「伊吹嶺」2月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



         2018年2月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1  釣り眺む里山の池日脚伸ぶ  

 上五がやや観念的に感じました。「浮き睨む」「当り待つ」「竿を振る」等、具体的
な動作や、実際の景を詠んでみてはいかがでしょうか。

2  新調の眼鏡に蒼き雪の朝  

 新しい眼鏡で見る雪の朝は、より清新なものに感じられたのですね。きらきらとした
雪景色の様子が伝わります。

3  草萌や妣のかたみの杖と行く  

 杖といえば、歩いていることはわかりますので、「行く」は要りませんね。「草萌や
母の形見のXXX杖」等とすると、取り合わせの句として安定します。「形見」と言えば、
「妣」字を使わなくても良いと思います。(使って悪いということはありませんが、意
味が分からないまま読み飛ばされたりすると損ですから・・)

4  下萌や赤子の一っ歩見守りぬ  

 これは、見守っている作者のことを詠むのではなく、赤ちゃんをよく見て具体的な様
子を写生しましょう。そうすれば、作者が赤ちゃんを見守っていることは読者に伝わり
ます。「一っ歩」は「一歩」でいいですよ。

5  草青む洗車の水の光立つ  

 上五と下五の二か所で切れているため、リズムがぎこちない感じがします。「光立つ」
という言葉は、「光る」を強めたのだと思いますが、こういう言い方があるのかどうか、
疑問に思いました。「草萌に洗車の水の耀よへり」等とすると、これらが解消します。

6  風光るラッピングバスはピンク色  

 中七の字余りは、よほどのことが無い限り避けましょう。「ラッピングバスはピンク
や風光る」等、推敲すれば可能です。

7  初雪や歩幅等しき吾子と犬  

 初雪に喜んでいる子供と犬の様子が見えますね。中七は「歩幅揃へし」とすると柔ら
かくなり、お互いに歩く速さを合わせている様子が浮かびます。

8  鍵穴に入らぬ鍵や凍る夜  

 雰囲気のある句ですが、凍てる夜と鍵の取り合わせはよくあるように思いました。

9  耐えられぬストーブ負かすよ今年の寒気  

 今年は本当に寒いですね。いつもは凍らない湖が凍って、白鳥が餌を採れなくて困っ
ているとニュースでやっていました。
 ところで、俳句は詩であり、韻文です。寒いことを寒いと言っても、詩情は湧きませ
ん。この句会で選に入った句と、御自分の句がどのように違うか、良く味わってみてく
ださい。

10  こんにちわ寒気飛ばすよ孫きたる  

 元気な子供を見ると、こちらも元気になりますね。
 ただ、もちろん例外はあるでしょうが、俳句では「孫・子俳句に名句無し」と言われ
ます。孫を可愛いと思う気持ちを、詩になるまで昇華させるのは難しいということでしょ
うね。孫を詠みたい気持ちはよくわかりますが、一歩引いた視点で、その気持ちがどう
読者に伝わるか考えてみましょう。

11  春風といつしよに歩く通学路  

 素直で微笑ましい句ですね。作者が小学生でしたら花丸です。作者が大人の場合は、
残念ながら類句・類想が非常に多い句と言わざるを得ません。ただそれは、俳句らしい、
人気のある句が作れたということでもあります。

12  畳紙を広ぐ座敷や梅日和  

 景が見え、季語も合っている佳句と思います。「広ぐ」は「広ぐる」に訂正して推敲
されると良いと思います。

13  ぬくそうな服着た犬が歩きけり  

 「暖か」「ぬくし」は春の季語ですが、「ぬくそうな服」が季語になるかは疑問です。
また、犬が立ったり逆立ちをしたりすれば珍しいですが、「歩きけり」では当たり前だ
と思ってしまいます。

14  配達の足跡深し今朝の雪  

 深い足跡は、配達のものに限ったことではないと思いますし、何の配達なのかもわか
りませんので、「配達」の言葉はまったく利いていません。読者のイメージには、雪に
足跡が付いている景しか浮かびませんので、もう一工夫欲しいです。

15  寒禽の遥かに鳴きて湖昏るる  

 景が見え、調べも良い佳句と思います。

16  幼子の所構わぬ年の豆  

 微笑ましいですが、類句が多いように思います。孫・子俳句は難しいです。

17  食われたる寒月や梅干しひとつ  

 しばらく考えて、先日の皆既月食を梅干しに喩えたのだとわかりました。比喩が成功
しているかどうかは、選句結果に表れると思います。(これを書いている時点では、ま
だ選句結果が出ていません。)

18  ブラッドムーン食われつ火照る冬の月  

 こちらの句も「火照る」という比喩が用いられています。成功したでしょうか?

19  竹山の十三の砂山雪起し   

 インターネットで、竹山の十三の砂山(とさのすなやま)を聞いてみました。津軽三
味線にしてはやや哀愁を帯びた雰囲気で、雷(雪起し)には似合わないような気がしま
した。もともと十三の砂山は、盆踊り歌らしいですね。

20  豆を撒くたびに生き生き考の声

 申し訳ありませんが、浅学にして「考の声」の意味が分かりませんでした。「孝の声」
かとも思いましたが・・・。

21  冬帝へ別れの噴煙桜島  

 作者が、なぜ桜島の噴煙を冬帝への別れと感じたか、それが作者に伝わると良いです
ね。

22  鬼やらひ鬼は内てふ歌舞伎町(鬼王神社の追儺式)  

 私もTVで見たような気がします。珍しいですが、それをそのまま詠んでも表面的な
句で終わってしまいます。ちなみに、私は渡辺性なので鬼は来ないとのことですが、豆
まきはしています。

23  嘘ついてふっと軽くなる春愁  

 完全に主観的な句で、具体的な景はまったくありませんが、共感する読者もいるかと
思います。この季語ゆえに生まれた句ですね。

24  神宮の日あたるところ地虫出づ  

 「地虫出づ」は「啓蟄」の傍題で、実際に虫が這い出して来ることを言っている季語
ではありませんので、写生のように詠むのはちょっと難しいと思います。この句は、選
者の奥山ひろ子氏より、「地虫を春の妖精のようなものと捉えると、神宮という神聖な
場所と響きあって面白い」とのご意見を得、なるほどと思いました。

25  韓国へ旅発つ埠頭春北風  

 オリンピック観戦に行かれるのでしょうか? 季語の春北風(はるならい)がそこは
なとなく、不穏な政治情勢や国どうしのしがらみなどを連絡させますね。

26  ビニールで囲む屋台やおでん酒  

 好きな句です。それだけに、もう一歩、推敲して戴きたかった句です。例えば、「ビ
ニールの曇る屋台やおでん酒」とすれば、説明臭さが無くなって作者の位置もわかり、
ビニールの中の温かさや湿り気なども感じられると思います。

27  牛の子の親を恋ふ声寒月光  

 寒々とした月に照らされた牛舎の景が浮かびますね。「仔」の字を使うと、より「動
物の子」のイメージが出ると思います。(どちらを使っても間違いではないようですが
・・)

28  春日傘影を水面に太鼓橋  

 上五と下五を入れ替えても成り立ってしまう句、いわゆる観音開きで、水面に影が映っ
ているのが日傘なのか橋なのかがよくわかりません。

29  妬み嫉み僻みプッとしやぼん玉  

 妬みや嫉みや僻みというような感情をシャボン玉に込めるという発想は、ある意味新
鮮でした。ただ、あまり健全ではないような気も・・・・(笑)

30  反論の吐息閉じこめ月凍つる  

 一読、月が吐息を閉じ込めて凍るという意味に読めてしまいましたが、作者がため息
とともに言いたいことをぐっと堪えているということなのでしょう。この後に七七を続
けて短歌に仕上げると物語が見えて来るような気がしました。

31  梅が香の風の中押すベビーカー  

 梅の香りとベビーカーの取り合わせは、類想があるようにも思えましたが、なかなか
良いと思いました。「風の中」と「押す」は無くても大丈夫ですので、推敲されてみて
は如何でしょうか? 良い句になったら、また来月のHP句会に出してみてください。

32  女子大に青邨の句碑梅日和  

 上五中七は報告的に思いました。作者がその句碑から何を読者に伝えたいかが感じら
れません。

33  紅梅に羨む色のなほ濃くす  

 作者は、きっといろいろなことをこの句で言いたいのだと思います。しかし、おそら
くは詰め込みすぎで、日本語が破綻しています。
 「俳句では物が言えない(言おうとしてはいけない)」ということを、改めて言わせ
て戴きます。言いたいことが言えないから、物に託し、切れで広げるのです。

34  下萌や聞こゆ跫音母校跡  

 三句切れです・・と言う前に、この句も詰め込み過ぎです。

35  水照りの矢切の渡し葦枯るる  

 「水照り」は辞書に見当たらない言葉ですが、造語でしょうか? 明るい景が思い浮
かび、「葦枯るる」とミスマッチの感じがしました。また、「矢切の渡し」という、演
歌で有名になった固有名詞が、活きていないように思いました。

36  荒行の寺に春待つ水の音  

 「春待つ水の音」は、耳を澄まさなければ聞こえない、微かなものと思われます。あ
る時は非常に厳しく勇壮な修行が行われる寺も、静謐な一時があるのですね。

37  早暁の蜆船待つ漁師妻  

 漁師のおかみさんの姿が、朝焼けの湖を背景にした影絵のように見えてきました。な
んとなく、落語の「芝浜」の冒頭のシーンを思い出しました。

38  板塀は猫の通ひ路春浅し  

 猫が通るところはいろいろある中で、なぜ板塀を取り上げたのか、また、それが季語
とどう響きあうのかがわかりませんでした。

39  春待つや緩り取りあう綾の色  

 綾取りを詠んだ句かと思いますが、「綾の色」の意味がよくわかりませんでした。綾
取りの糸の色の意味でしょうか?

40  黙座する妻を包して彼岸の陽  

 「包して」は「ほうして」と読むのでしょうか? 私の辞書には無く、あまり一般的
ではない日本語かと思いましたが、太陽の光は、あらゆるものを包みますので、わざわ
ざ言う必要は無いと思います。

41  笹鳴や少し小振りの母の鍬  

 中七がこの句のポイントですね。女性の鍬が少し小さ目というのでは、ややありきた
りです。お母様の鍬、またはお母様ご自身を修飾し、季語と響きあうもっと良い中七を
いろいろと考えてみてください。

42  春寒く婆の渚に藻を拾ふ  

 墨絵のような光景を思いました。上五は「春寒し」と強く切りましょう。何度も声に
出して言い比べると、俳句での切れの大切さがお分かり戴けると思います。

43  午後3時背に春日受く山路かな  

 上五の時刻に意味があるでしょうか? 音数の問題は別として、午前十時や午後二時
の春日でも同じように思いました。

44  クロスワード埋まらぬままに春炬燵  

 未完成のままのクロスワードと春炬燵の取り合わせは、面白い句材と思いました。調
べが散文的ですので、切れを意識して推敲されると、さらに良くなると思います。

45  顔寄せてのぞく茶柱春きざす  

 心が温かくなる句です。上五を「額寄せ」とすると、二人は向かい合わせに座ってい
ることになり、「頬寄せて」とすると、並んで座っている様子が見えてきますね。

46  街路樹の樹液流るる春日かな  

 下五に切れ字があるため、中七を文法的には切らず、意味的には切れを入れるという
技法が使われています。街中の些細なことに季節を感じる感覚の鋭さがうかがえます。

47  寒戻り鴨の夫婦の石と成り  

 「また寒くなった」→「鴨がじっとしている」という因果関係が見えるため、理屈っ
ぽい句となっています。動かない様子を石に喩える比喩もありきたりに感じました。

48  湯の里に淡雪舞ふや夢千代記  

 この句の解釈には迷いました。単に夢千代日記の再放送などを見て詠まれたのであれ
ば陳腐ですが、昨年暮れに亡くなられた早坂暁氏を悼んでの句であれば、また違う鑑賞
となります。ただ、その場合は、もう少し哀悼の気持ちが感じられると良いと思いまし
た。

49  たたむやうに降る雪の降る雪の降る  

 リフレインは、成功すると効果の大きなテクニックですが、使える音数の少ない俳句
でうまく使いこなすのは難しいです。この句は、ちょっと奇を衒い過ぎた感じを受けま
した。

50  小人たち飛び交ひさうな花八手  

 ユニークな発想の、かわいらしい句だと思いました。ただ、アイデアの一発勝負的な
面があるので、王道の俳句らしい俳句にも取り組んで行ってください。

51  頬張るはサクマドロップ春の土手  

 サクマドロップは色とりどりで、春の明るさを連想させますね。ドロップ→頬張るで
はちょっと平凡ですので、「ドロップの缶鳴らし行く春の土手」等としても楽しいと思
います。

52  噴火して火の国残る余寒かな  

 噴火の結果、火の国に余寒が残ったのか、火の国が残り、余寒が訪れたのか、どちら
ともとれるように思いましが。余寒を「残る」という必要はないので、後者かと思いま
したが・・・。

53  かはたれの郷の川原に小鴨五羽  

 切れが無く散文的です。鴨という季語は入っていますが、俳句らしくないと感じまし
た

54  老いの身に冬将軍のつきまとふ  

 前の句と同じく、切れが無く散文的です。。俳句は、報告や説明ではなく、心情を物
に託して詠むものです。

55  三井寺の響む時鐘や冴返る  

 季語が動くように思いました。また、時鐘に「響む」という形容は陳腐と思います。

56  散髪のあとの襟足春寒し  

 「散髪した」→「襟足が寒い」という因果関係を報告した句になってしまいました。

57  春の水受けし音羽の長柄杓  

 清水寺の音羽の滝は、一年を通して水が落ちていますが、特に今日は春の水と感じら
れたのですね。「長柄杓」で、明るく弾ける水の様子が見えてきます。「受けし」は「受
くる」と現在形にした方が、臨場感が増すと思います。

58  底知れぬ海へ放たる春の川  

 季語が動くように思いました。むしろ夏や冬の方が、前半の雰囲気と似合うと思いま
す。

59  暇とひま繋ぎ合はせてセータ編む  

 「暇とひま繋ぎ合はせて」の意味がわかりませんでした。セータはセーターで4音と
しましょう。字余りを機にされるようでしたら、「毛糸編む」でも良いと思います。

60  抗ふるもの無き砂丘北風の舞ふ  

 「北風の砂丘」で景はわかりますので、残りの音数で「物」を写生し、気持ちを込め
ましょう。

61  嬰あやす百面相や春の縁  

 微笑ましく温かい句ですが、孫・子俳句の域を出ないように思いました。また、普通
の名詞に「春の」などの季節を付けて季語的に使うことには疑問を感じます。

62  峡の灯を消して積りぬ雪の嵩  

 火を消したのは誰(何)かがわかりませんでした。また、中七で切れていますが、そう
すると句全体の意味も分かりません。

63  この先はウラジオストック冬かもめ  

 最果て感が出ており、旅愁が感じられますね。中七はウラジオストクとして、7音に
収めて良いと思います。

64  春泥の道に耳標の落ちてゐし  

 耳標とは、家畜などの耳につける標識ですが、それが道に落ちているということは、
冬の間畜舎にいた動物が、屋外で動き出したということでしょう。何気ないことにも、
季節を見出す感性を感じました。詠み方がやや一本調子ですので、一工夫あると良いと
思いました。

65  猫のごと好きな時間の日向ぼこ  

 猫になりたいですね。具体性のない句ですが、たまにはこういう緩い感じも良いのか
な?と、ふと思いました。

66  待春や癒ゆる足裏むず痒き  

 足を怪我されたのでしょうか? 春よ来いの童謡を思い出しました。ご快癒をお祈り
いたします。「待春や足裏むず痒く癒ゆる」とすると、破調になりますが句として座り
が良くなると思います。

67  白梅の白匂ひ立つ宵の口  

 夕方に、白い梅の花がそこだけ暮れ残ったように浮かんで見えたのですね。ただ、
「匂う」には、色が映えるという意味がありますが、白という色に用いてよいのか、
ちょっと疑問に思いました。辞書によると、「ニは丹で赤色、ホは穂・秀の意で外に
現れること、すなわち赤などの色にくっきり色づくのが原義。」とあります。

68  薄氷やわづかに川の動きをり  

 上五が「や」で強く切れていますが、中七下五でも薄氷に関連したことを言っており、
「氷が張った」→「川の流れが遅くなった」という因果関係になっています。因果関係
の感じられる句は、説明的・報告的になってしまいます。

69  元庵に坐す頬に風春遠し  

 季語が動きます。「春兆す」や「涼新た」あるいは「蕗の薹」等でも句が成立します。

70  冴返る浜より続く神の道  

 この句も季語が動くように思いました。上五は、浜を修飾する季語を入れると、収ま
りが良くなると思います。

71  しゃぼん玉をさなの夢を飛ばしけり  

 微笑ましい句で、好きです。ただ、類想が多く、しゃぼん玉という季語の説明に近い
ように思いました。

72  冬鳥や庭の赤き実食べつくし  

 南天や千両・万両の実が鳥に食べられたというのは、類想が多いですね。

73  料峭の山門を出る老夫婦  

 季語が動きます。山門の様子、ご夫婦の様子が具体的に見えると良いですね。

74  麗日や塔を切り取るカメラマン  

 季語が動きます。「塔を切り取る」は、構図を決めていることの比喩と思いますが、
カメラマンがどのような構図を決めているかを見ることができるのでしょうか?

75  白梅や形見の時計磨く夜  

 屋外の白梅と、夜の室内の時計磨きがちぐはぐに感じました。上五を「梅の香や」と
すれば、解消すると思います。

76  一番星砂場に残る春ショール  

 小さな子のお母さんの忘れ物でしょうか? 上五の字余りは解消したいですね。ちな
みに、夕星(ゆふづつ)という、宵の明星(西空に見える金星)を指す言葉があります。
これを使って「ゆふづつや」としても良いのではないでしょうか?

77  るりるりと踏む玉砂利や寒明くる  

 工夫された玉砂利の擬音が、季語と合ってるでしょうか? 選句結果は? (これを書
いている時点では、まだ選句結果が出ていません。)

78  マスチフの太き首輪や春寒し  

 季語が動きます。

79  着膨れの妻と肩寄せ皆既蝕  

 微笑ましい句ですね。ただ、皆既蝕は日食にも月食にもありますので、昼なのか夜な
のかがわかりません。下五は皆既と言わずとも、「蝕の月」等でも良いのではないでしょ
うか?

80  冬ぬくし目を見て話す老主治医  

 良いお医者さんなのでしょうね。中七下五がちょっと説明的な感じがしますので、例
えば「脈を取る医師は酒好き冬ぬくし」等とすると、老主治医と言わなくても、医師の
様子や作者との間柄も見えてくると思います。

81  土手草の冴え冴えひかる霜の朝  

 上五中七は、下五の説明に近いように思いました。

82  冬ざれや動きを閉じし過疎の村  

 「動きを閉じる」の意味が分かりませんでした。また、「過疎の村」は概念的な言葉
ですので、過疎の村であることがわかる、具体的なものが詠めると良いと思います。

83  凍みわたる空の青さよ春遠し  

 「凍みわたる」「凍みる」と「染みわたる」が混ざってしまったものと思います。

84  雪の中五輪歓声こたつ部屋  

 四句切れで、雪と炬燵の季重なりです。。

85  凍返る初体験の救急車  

 作者自身が救急車で搬送されたのでしょうか?それとも、誰かに付き添って乗車され
たのでしょうか? いずれにしても、俳句を作っている場合か?と心配になってしまい
ました。

86  音もなく輪を描く大鳥春の浜  

 揚げ足を取るようですが、鳥が輪を描くときに音を立てるということはないのではな
いかと思ってしまいました。中七の字余りは、俳句のリズムを破綻させます。極力避け
るよう推敲しましょう。

87  春の水城跡に建つ母校かな   

 上五に切れがあるので、「かな」で切っている中七下五とばらばらになっています。
「かな」を用いる場合は、途中に切れを入れず、一句一章で読むのが原則です。(当然
例外はあります。)

88  白梅を鉄鉢で享く大師像  

 このような一句一章の句の場合、下五を「大師かな」とすると、作者の感動が伝わり、
俳句としての完成度がぐっと高くなります。(像と言わなくても像ということはわかり
ます。)

89  うららかや出窓に犬のぬひぐるみ  

 どこかの家の窓際に一年中置いてあるぬいぐるみなのでしょうが、春の日の散歩の途
中などに、ふと目に入ったのでしょうね。ほっこりした気分が伝わります。

90  梅東風やぼろを被りてゴリラ坐し  

 季語の距離感が良いと思いました。動詞を減らして「梅東風やゴリラの被る襤褸毛布」
等とすると、よりすっきりすると思います。

91  年の豆かりかり食ぶる母息災  

 年を召されても、丈夫な歯をお持ちなのですね。ただ、「年の豆を食べる」→「息災」
まで言ったのでは、言い過ぎです。

92  紫の外皮ほころぶ蕗の薹  

 「蕗の薹」と言うだけで、そのような景が浮かんできます。季語の説明です。

93  雪催書店はしごの街暮るる  

 季語が動きます。

94  カーテンと干し竿買ひて巣立ちの子  

 「巣立ち」は、成長した鳥の子が巣から飛び去ることで、これから転じて人間の子供
が親の元を離れて実社会に出ることも言います。後者の意味で使った場合、季語として
成り立つのか、やや疑問に思いました。人の子の巣立ちも、卒業のシーズンである春で
あることが多いので、良いのかな?
 親元を離れて一人暮らしをする子が、カーテンや物干し竿を買うというのは、特に意
外性もなく、句材としては弱いように思います。

95  家猫の戸惑ふ声や春の雪  

 童謡でも猫は雪が好きではないということになっていますので、戸惑う声(どんな声
でしょう?)を出すのは、春の雪に限ったことではないのではないかと思いました。

96  麦踏や忍びの者の行くごとく  

 面白い比喩ですね。そう言われてみれば、小刻みに横歩きする動作は、TVなどで見る
忍者が駆ける姿と似ている部分があるような気がします。

97  室の花小さき雫に蜜の艶  

 蜜が雫になって垂れているような花を見たことが無いので、どのような花かイメージ
できませんでした。

98  風邪癒へて果汁の旨さ腹に浸む  

 切れが無く報告的で、韻文の俳句というよりは、散文的な独り言という印象を受けま
した。

99  教会の粗末な机春近し  

 「粗末」を具体的に写生すると良いと思いました。

100  亀鳴くやはだらに剥ぐる和算絵馬  

 「亀鳴く」は空想上の季語で、使い方が難しいですね。この句の場合、もっと良い季
語があるような気がします。(季語が動くということですね。)

101  立春のギコギコと開く農機小屋  

 擬音の使い方がちょっと安直に思いました。

102  薄氷の皹に走れる朝日かな  

 皹は手足にできるひび・あかぎれのことで、物の亀裂の場合は罅の字を用います。

103  ピンポンの軽き玉音春隣  

 軽妙な句ですね。上五を卓球とせずにピンポンとしたので、競技的な深刻さよりも、
娯楽としての楽しさが出ました。

104  春雪の七段帽子庭の柘植  

 「七段帽子」に特別な意味があるのかと思い、ネット等で調べてみましたが、特にそ
ういうことは無いようですね。庭の柘植に雪が積もったというだけでは、句材として弱
いです。もうひと工夫あると良いと思いました。

105  万の灯の綾なす水面冬運河  

 万の灯は、水面に映った銀河のことでしょうか? 流れや波がなく、銀河が映るほど
広い水面というものを、具体的にイメージできませんでした。

106  空あをし鈴の音こぼすごと木華  

 空が青いのは当たり前ですが、それを敢えて書くことで、作者が空の青さ明るさに感
動していることが伝わります。「鈴の音こぼすごと」の比喩がこの句のポイントで、読
者がどのような鈴の音を思い浮かべるかで鑑賞が大きく変わります。私の場合、寺社に
参拝する際に鳴らすガラガラという鈴がまず浮かんでしまったので、樹氷(木華)の輝き
がいまひとつピンと来ませんでした。ウインドチャイムの様な音を思えば良かったので
しょうね。

107  春一番絵馬一斉に嘶けり  

 比喩に工夫を感じますが、ちょっと無理があるように思いました。

108  海明や広ごる沖へ漁師船  

 流氷が融けて出漁が可能となる「海明」という季語の説明です。

109  厄落し母校耐震工事中  

 厄落としは寺社で行うものですが、そこに工事中の学校がどう絡んでくるのかがよく
わかりませんでした。

110  春塵や近鉄猛牛のユニフォーム  

 ユニフォームを誰かが着ているのか、あるいは干されているのか、具体的な景がまっ
たく見えません。近鉄猛牛はプロ野球チームのことと思いますが、字余りを押してこの
チーム名を入れた意図もわかりませんでした。

111  梅が香や少しずらして無双窓

 雰囲気のある句ですが、「梅の香を入れるために無双窓を少し開けた」という理屈が
感じられますので、上五と中七下五を、もう少し「離す」方が良いように思いました。
例:「梅が香や明かり漏れ来る無双窓」
  
112  陸奥に土の匂ひや春隣  

 上五を、「みちのくの」とすると、説明的な感じが無くなり、より句が締まると思い
ます。

113  来し電話の合格報せ春の月  

 季語が動きます。また、「来し」は無くても良いですね。


114  春色やよちよち歩む嬰の笑み  

 小さな子が歩く様子を「よちよち」と、最初に喩えた人はすごいと思います。ただ、
今ではすっかり陳腐な言い回しとなっており、こういう言葉を安易に使ってしまうと、
深みのある句にはなりません。上でも書きましたが、孫・子俳句を詠む場合は、可愛い
と思う気持ちをぐっと押し殺して詠まないと、作者の独りよがりの句になってしまいま
す。

115  山頂は国境とや深雪晴れ  

 天候に恵まれた冬山登山の雄大さや爽快感が溢れています。

116  せせらぎに流るる日差し蕗の薹  

 明るく清らかな句ですね。「せせらぎ」で「流れ」が出ていますので、もう一工夫あ
ると良いと思いました。

117  晩鐘に背伸びの農夫鳥帰る  

 ミレーの絵画を思わせる一句ですね。俳句の原則は、「一人称現在形」です。作者が
農夫になって詠んでみると、より実感の湧く句となると思います。例:「晩鐘に止める
鍬の手鳥帰る」

118  繰り返し計る血圧春炬燵  

 冬の寒い時期の方が血圧が高くなると思うのですが、春になっても下がらないのでしょ
うか? ちょっと心配ですね。

119  正装の正座鶯餅のまへ  

 鴬餅の前で畏まって何をしているのか、わかりませんでした。

120  公魚の前後のこして元他人  

 公魚の前や後ろとは何を指すのでしょうか? 元他人も意味がわかりませんでした。

121  陽だまりや細身の影の雪だるま  

 「日当たりが良い」→「雪だるまが融けて細い」という因果関係があると、理屈っぽ
く深みの無い句となってしまいます。

122  バス待つやベンチに一人梅香り  

 三句切れで、調べが良くありません。上五を「や」で強く切った場合は、中七下五は
上五とは関係のないことを詠む、いわゆる「取り合わせ」「配合の句」とすると、上五
の「や」が活きることが多いです。

123  愛の日の赤い銀紙剥がしけり  

 「愛の日」はバレンタインデーの傍題ですが、まだ載っている歳時記は少ないと思い
ます。赤い銀紙はチョコレートの包み紙でしょうか? そうだとすると、ちょっと安直
ですね。銀紙を剥がしている人の人物像が見えると良いと思いました。

124  雛売場売約済と予約済  

 何が言いたい句なのか、よくわかりませんでした。

125  鍵盤の指のつまづき春浅し  

 楽器の鍵盤のことと思います。新しい曲に取り組んでおられるのでしょうか?季語が
活きていると思いました。

126  風の透く古巣こずゑに残りをり  

 季語「古巣」の説明です。俳人は、「古巣」という季語だけで、この句のような景を
イメージします。

127  五ヶ月の背ばひの嬰や春を待つ  

 「背ばひの嬰」と言えば、上五の「五ヶ月の」は無くても、その位の月齢の子という
ことはわかりますね。春を待っているのは、子供?作者?

128  本堂に活くる仏花の梅匂ふ  

 「活くる」か「仏花」はどちらかがあれば良いですね。上五中七は、下五の「梅」を
修飾していますので、この句を要約すると、「梅が匂う」ということになり、目新しさ
がありません。

129  照りかへる和布神事の大篝火  

 「和布神事」は「和布刈神事(めかりしんじ)」のことかと思います。篝火が何に照り
返っているのかがわかると良いと思いました。

130  白杖に猫のぶつかる春の夜  

 季語が動きます。

131  黒豆の艶良く炊くる雨水かな  

 鑑賞の難しい句です。中七「炊くる」は連体形で文法上は下五と切れていませんが、
意味的にはここで切って鑑賞すると、黒豆の艶に春を感じた喜びが湧き上がって来ます。
この形の句で有名なものに、「遠山に日の当たりたる枯野かな」があります。この句も、
中七に切れがあるように読まないと、感動が薄っぺらになりますね。

132  路地裏の猫の遊び場春近し  

 「路地裏の猫の遊び場」は説明的で、具体的な景が見えません。春が近いと感じた、
具体的な物や景色を詠みましょう。

133  波が波追ふ玄海の朧月  

 奥山ひろ子氏の特選句です。この句は、上五中七の動きがあり荒々しいイメージと、
下五の優しく艶めかしいイメージの対比をどう捉えるかで評価が分かれると思います。
 私の場合は、二枚の絵を切って貼り付けたような違和感を覚えてしまったのですが、
奥山氏はそこに、ある種の調和と新鮮さを見出されました。鑑賞力の差が出たものと思
います。勉強させられた一句でした。

134  徒に行く病院までの春の風  

 上五は「あだにゆく」と読ませるのだと思いました。その、やや投げやりな気持ちと、
春の風の取り合わせが、ちょっとちぐはぐな感じを受けました。

135  新しい靴と帽子と春の雪  

 一見、季語が離れすぎているように思いましたが、よく味わうと、旅立ちを感じさせ
る句に思えてきました。イルカ(伊勢正三)の「なごり雪」を思い出しました。

136  春の雪むぎせんべいはほの甘く  

 季語が活きています。語順を変えて、「ほの甘き麦煎餅や春の雪」と、切字を使い、
名詞止とすると、句がより安定します。

137  受験子の鉛筆尖らせて丸む  

 気が散らないように、一心に試験を受ける準備をしているのでしょう。鉛筆をよく研
いだ後に、芯の先を丁寧に丸めているところを、鋭く写生されました。

138  風を背にバス待つ朝や冴返る  

 実感から詠まれた句ですが、「風が吹いている」→「寒い」という理屈がやや感じら
れました。「冴返る」は、実際に体感する温度のことも言いますが、心情的なものを表
現するのによく使われますね。

139  月明り蒼き凍瀧より青し  

 「青」が強調されていますが、実際に月が青く見えるのはかなり珍しい現象だそうで
す。昔、「月がとっても青いから」という歌がありましたが、月を「青い」と形容する
のは日本だけで、英語では逆に「あり得ないこと」という意味で「once in a blue moon」
という言い回しがあるそうです。
 ジャズのスタンダードナンバーになっているブルームーンは、ひと月に満月が二回あ
る場合の二回目の満月のことで、珍しく、見ると幸せになるという言い伝えがあるとの
ことです。

140  山里に響く除雪車夜明け前  

 夜明け前に除雪車の音を聞いている作者は、おそらく寝床の中にいるのだと思います。
すると、上五は屋外の景を詠むよりも、作者のいる部屋の中を詠んだ方が、より具体的
で臨場感のある句になります。

第223回目 (2018年1月) HP俳句会 選句結果
【  坪野洋子 選 】
  特選 母の座はいつも日溜り毛糸繰る まこ(埼玉県)
   春めきて軒の滴の早きかな 輝久(大分県)
   寒月のあまねく照らす鳥観図      正男(滋賀県)
   初旅や島の大きな握り鮨 田村幸之助(三日市)
   冬晴れのスカイツリーの細身かな 松永(静岡市)
   息白く飴の兎の生まれけり 正憲(浜松市)
   水底に立つ立春の泥煙 正憲(浜松市)
   老妻と反戦談義置炬燵 きょうや(東京)
   毛繕ふ猫の尻尾に日脚伸ぶ 町子(北名古屋市)
   雪しまく中へ駆け行くランドセル 蝶子(福岡県)
【  橋幸子 選 】
  特選 ペン先の確と撓ふや初日記 小春(神戸市)
   底冷えの足もと暗し大落暉 妙子(東京)
   寒風や路面電車の薄明かり      松永(静岡市)
   ごまめ噛む八十路半ばのひとり酒 さよこ(神奈川県)
   おんぶの子覗けば小さきくさめかな 吉田正克(尾張旭市)
   疵あとのくろぐろ寒し漆の木 勢以子(札幌市)
   初凪や湾に光の波頭 蝶子(福岡県)
    教会へ陽のあたる坂冬薔薇 うさぎ(愛知県)
   突堤に釣り人起立初日の出 惠啓(三鷹市)
   風花や巫女振り零す鈴の音 青木秋桜(名古屋市)
【  長崎眞由美 選 】
  特選 あんぱんの胡麻をこぼして寒の入り 百合乃(滋賀県)
   レノンの忌募金箱持つ女学生 加藤剛司(名古屋市)
   老いてなほ気合の拳寒稽古      康(東京)
   叡山の水ほとばしる若菜摘 正男(滋賀県)
   楢山の肩越しに見る寒の月 明珍(埼玉県)
   春待つや鉄瓶の湯のたぎる音 田中勝之(千葉県)
   警笛を山に響かせ初列車 清風(鳥取)
   裸木に風の重さの加はりて 北村和久(滋賀県)
   初凪や湾に光の波頭 蝶子(福岡県)
   屋根神の残る町並初景色 青木秋桜(名古屋市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 裸木に風の重さの加はりて 北村和久(滋賀県)
   鈍色の空にうづむる冬桜 垣内孝雄(栃木県)
   あんぱんの胡麻をこぼして寒の入り      百合乃(滋賀県)
   冴ゆる夜の水音硬き厨かな 須藤曉風(前橋市)
   断面を見せて白菜売られけり 松村洗耳(三重県)
   ガラス戸の開け閉め軽き年迎ふ とみえ(愛知県)
   母の座はいつも日溜り毛糸繰る まこ(埼玉県)
   陽だまりに母の床寄す寒の入り 宇駱駄(名古屋市)
   どんど火の龍の如くに猛りけり 小林克己(総社市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、まこさん(埼玉県)、百合乃さん(滋賀県)、北村和久さん(滋賀県)でした。おめでとうございます。なお、同点句(3点)が三名以上ですので、今月の最多入選賞は無しとなります!

【講評】



       2018年1月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

 今月は最高得点句が3名で、残念ながら最多入選賞はありませんでした。しかしどの
句もよい句ばかりで、選句するのに苦労しました。まず入選句から見ていきたいと思い
ます。

裸木に風の重さの加はりて

 今月の最高得点句で、私は特選でいただきました。この句には、切れがありません。
形だけを見ると、短歌のように次の七七がない上句だけのようです。短歌であれば、そ
の後に続く七七に「裸木」と「風の重さ」から触発される心情を直接述べるのが本意で
すが、俳句は心情を直接述べるわけにはいきません。

従って俳句はこれで十分です。読者が「裸木」と「風の重さ」から触発されるものを感
じ取ればよいのです。私は「風の重さ」を受け止めた「裸木」の本質を感じるようでし
た。風は目には見えませんが、風音に重さを感じたのでしょう。その重さを詠んだ感性
に共感しました。

母の座はいつも日溜り毛糸繰る

 このお母さんはかなりな年配の方でしょうか。年老いると自然にご自分の生活にきま
ったリズムがあるようで、この句の場合、座る位置が決まっていることが生活のリズム
なのでしょう。しかもその座は日だまりで、それこそ母親の座なのです。上五,中七の
半ば説明的な出だしから「毛糸繰る」の季語が全体の句柄を高めています。

あんぱんの胡麻をこぼして寒の入り

 きわめて感覚の効いた句です。「あんぱんの胡麻」に着目したのは一種の些末主義か
も知れませんが、作者はあえて些細なものに着目して、そこに寒さを感じたのです。そ
こには理屈はありません。あんぱんの胡麻がこぼれたことから、季節の進行を感じて、
「寒の入り」と詠んだのでしょう。

春待つや鉄瓶の湯のたぎる音

 この句も前句と同様に季節感を鉄瓶の湯が沸騰する音から感じたのでしょう。俳句は
季節感を生活の中から発見するのも一つの手法で、この句のように激しく沸騰する音の
勢いに待春の気持ちが表れたものと思います。どちらも日常生活の中に季節を感じる感
覚的な句です。

冴ゆる夜の水音硬き厨かな

 奇しくもこの句も台所にある生活の中に寒さを感じたものです。そしてその季節感を
「冴ゆる夜の水音硬き」を発見したところに感覚のさえが見られます。ただ「水音硬き」
というフレーズにやや類想感があるように思えました。そしてこの句は一句一章の句で、
前二句の取り合わせの句とは違っていますが、感覚を詠むにはどちらもあり得ることを
証明しています。

断面を見せて白菜売られけり

 私は事柄の面白さを詠んだいわゆる事柄俳句はあまり好きではありません。この句は
昨今の野菜の高騰現象を詠んでいますが、事柄俳句に陥っていません。それは白菜を丹
念に写生しているからです。半分に切った白菜を「断面を見せて」と即物的に把握して
いるのがよかったと思います。

寒月のあまねく照らす鳥観図

 「鳥観図」は一般的には「鳥瞰図」とも言いますが、昨今の現象で言えば、あたかも
ドローンの視線を感じます。この句の「鳥瞰図」は鳥瞰したその見下ろした町並みと解
釈するのがよいでしょう。その町並みを見下ろす視野に寒月の光が至るところに差し込
んでいる大景を詠んでいます。

 ヨーロッパでは鳥瞰図による市街図がよく作成されていたとありますが、この句は京
都の洛中洛外図を見ているようでその視線と「あまねく」の表現から寒月がまんべんな
く差し込んでいるのが見えて、適切な表現だと思います。

*一時新聞などで「鳥観」が代用語として使われていましたが、現在は「鳥瞰」にルビ
を振るのが一般的なようです。

 以下気のついたことを述べます。最初に個々の表現を見ていきたいと思います。

歩くとは世間知ること初山河

寒蜆これから嘘を吐くつもり 

蝋梅の香り目覚むる吾の余白

ごまめ噛む八十路半ばのひとり酒

 これらの句はいずれも一句として成り立っていますし、作者の言いたいことは分かり
ます。いずれも作者の感慨、境涯とか自分自身の思いを直接述べています。ただそれが
読者に強く働きかけるかどうかは一考を要します。

 1句目、「歩くとは世間知ること初山河」

「歩くこと」は「世間知ること」と言っていますが、作者の感慨は読者には伝わったの
でしょうか。

 2句目、「寒蜆これから嘘を吐くつもり」

「これから嘘を吐くつもり」は「寒蜆」を一種の擬人化として借用して、現実には作者
の感慨を詠んでいます。これも成り立ち得ると思いますし、理解出来ます。ただ具体的
な物を写生して、このような感慨につながる句となればさらによくなったと思います。
他の結社ではよい評価を受けたことと思います。

 3句目、「蝋梅の香り目覚むる吾の余白」

香りに「目覚むる」ことが自分自身の余白と言っていますが、「余白」とは作者のこれ
からの人生のことでしょうか。私にはよく分かりませんでした。

 4句目、「ごまめ噛む八十路半ばのひとり酒」

この句も「ごまめ噛む」ことから自分自身の80代半ばの境涯を「ひとり酒」で詠んでい
ますが、その必然性が作者しか分からない思います。中7説明でなく、具体的な自分自
身の写生で詠むとよくなったと思います。

笛の音と獅子の歯音の二重奏

 この句の季語は何でしょうか。「獅子」だけで季語となるのでしょうか。「獅子舞」
「獅子頭」は季語となりそうですが、歳時記には獅子単独で季語は出てきませんでした。
ただネットをすべて調べればあるかも知れませんが。次に「笛の音」と「歯音」が二
重奏だという比喩には表面的なものを感じました。

灯さねば奈落の如し冬座敷

 外出から帰った枕闇の部屋はこういう感じでしょう。この比喩も面白いのですが、一
寸大げさのように感じました。

万物の生まるる兆し初日の出

 この句も比喩でしょうか。「初日の出」にはすべてのものを新しく感じるものですが、
それを「万物生まるる兆し」と詠むのは一寸安易のように感じました。日の出に対して、
何か物で写生して間接的に万物が生まれるよな印象を与える表現があれば、読者に共感
されると思いました。

日ごと減る粘着シート木の葉髪

 上五,中七の意味がよく分かりませんでした。それと「木の葉髪」との関連も分かり
ませんでした。

 最後に文法的なところを見ていきたいと思います。

 いつも言っていることですが、一句を口語で詠むか、文語で読むかは作者の自由です
が、今日これから述べることは、前後の言葉から文語を使っていることが分かりますの
で、文語表現として考えます。

止みそうな素振りに帰る雪明り

下京や谺のような除夜の鐘

何やらと話してさふや冬芽立つ

 「そうな」「ような」は「さうな」「やうな」ですね。また3句目は文語を意識しす
ぎでしょうか。「さうや」であるべきところを「さふや」としてしまいました。

孫ら付き添うストレッチャ−の初詣

老眼の拾う活字や春の昼

 それぞれ「添う」「拾う」は「添ふ」「拾ふ」ですね。

春光や鬼で数ゆる十の声

 「数ゆる」という言い方はあるのでしょうか。終止形は「数ふ」ですから、連体形は
「数ふる」ですね。

書初や先ずは試しの新聞紙

 「先ずは」は「先づは」ですね。

松明けて日差し広がる客間かな

 「広がる」は「広ごる」ですね。

お見舞いは紙に包まる寒卵

 「お見舞い」は「お見舞ひ」ですね。ただ近代になって、「お見舞ひ」のイ音便とし
て「お見舞い」も考えられます。イ音便が次第に現代仮名遣いに繋がってきているよう
です。

明けゆきて雪の嶺線きわ立ちぬ

 「きわ立ちぬ」は「きは立ちぬ」ですね。

初夢やふと目覚れば忘れおり

 「忘れおり」は「忘れをり」ですね。ただこの句の場合、中7,下5も夢のことを詠ん
でいるので、「初夢や」と断絶の「や」で切るところではないですね。「初夢の」ぐら
いでしょうか。
 
以上です。また来月も佳句に会えることを楽しみにしています。

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