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【
第289回目
(2023年7月)
HP俳句会 選句結果】
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【
高橋幸子
選 】 |
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特選:
水遊びいま全身が好奇心
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大原女(京都)
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乳の香を残す産衣や夏の夕
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輝久(大分県)
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暴走音またぞろ響く熱帯夜
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岩田遊泉(愛知県)
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盛り塩の白き尖りや宵祭
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筆致俳句(岐阜市)
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水打つてより改札を始めけり
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正憲(浜松市)
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法事あと傘寿卒寿の縁涼み
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典子(赤磐市)
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早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ
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蒼鳩 薫(尾張旭市)
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紅薔薇の紅を離るる雫かな
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後藤允孝(三重県)
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試し堀り馬鈴薯五個のカレーかな
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りきお(秋田県)
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総会は満場一致日の盛
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櫻井 泰(千葉県)
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【
国枝隆生
選 】 |
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特選:
いつの間に水鉄砲の的になり
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ようこ(神奈川県)
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黄菖蒲や田水の匂う雨上がり
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素風(岩手県)
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水遊びいま全身が好奇心
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大原女(京都)
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信号を待つ間立ち入る片かげり
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美佐枝(松戸市)
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ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花
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雪絵(前橋市)
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止まり木のカフェの窓辺に水中花
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飴子(名古屋市)
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手花火のつきたる闇の匂ひかな
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みのる(大阪)
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母の家更地となりて迎盆
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隆昭(北名古屋市)
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コピー機の小さき唸りや梅雨のあけ
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町子(北名古屋市)
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青田風母の見送りいつまでも
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梦二(神奈川県)
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【
松井徒歩
選 】 |
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特選:
盛り塩の白き尖りや宵祭
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筆致俳句(岐阜市)
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乳の香を残す産衣や夏の夕
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輝久(大分県)
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薬師寺も唐招提寺も蝉時雨
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康(東京)
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今年竹風の重さをまだ知らず
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雪絵(前橋市)
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ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花
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雪絵(前橋市)
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手花火のつきたる闇の匂ひかな
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みのる(大阪)
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壁に描きし七夕竹に貼る願ひ
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まこと(さいたま市)
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ペディキュアや外反母趾の素足にも
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小豆(和歌山市)
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クレーム処理終へて一人の缶ビール
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櫻井 泰(千葉県)
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花筒に今日はひまわり娘の墓前
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野津洋子(瀬戸市)
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【
伊藤範子
選 】 |
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特選:
熱帯夜冷たきものに猫の耳
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康(東京)
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水遊びいま全身が好奇心
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大原女(京都)
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盛り塩の白き尖りや宵祭
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筆致俳句(岐阜市)
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水打つてより改札を始めけり
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正憲(浜松市)
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手花火のつきたる闇の匂ひかな
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みのる(大阪)
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立山を背に万葉の歌碑涼し
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隆昭(北名古屋市)
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尼寺の甍の照りへ白日傘
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小林土璃(神奈川県)
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早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ
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蒼鳩 薫(尾張旭市)
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見回りの農夫へ強き青田風
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蝶子(福岡県)
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クレーム処理終へて一人の缶ビール
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櫻井 泰(千葉県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、大原女さん(京都)、筆致俳句さん(岐阜市)でした。「伊吹嶺」7月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2023年7月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
沢山の御投句ありがとうございました。
今月は事情により選者が坪野洋子さんから伊藤範子さんに変更となっています。
1 良く生きてよろけて座る青田かな
お米を作られているのでしょうか。よくぞここまで従事できたなあという感慨が伝わっ
てきます。
3 一泊の帰郷や母と蛍狩
(国枝)久しぶりに帰った実家で蛍を見るのは懐かしいですね。ただ「一泊」「帰郷」
の言葉が固いようです。音読みでなく「ふるさとのひと夜は母と蛍狩」のように訓読み
で柔らかく詠むことも考えられます。
4 乳の香を残す産衣や夏の夕
中七は自動詞のほうが自然かなと思いましたが、季語が良い気分を出していますね。
高橋幸子氏評================================
季語「夏の夕」が一句に印象的な効果を与えています。昼間の暑さが弱まり、明るさが
残る夏の夕方は、香りが引き立って感じるのでしょう。乳を飲んで満ち足りた赤子の産
着に、乳の香が残っているのを捉えた佳句だと思います。
======================================
5 暴走音またぞろ響く熱帯夜
暴走族には「熱帯夜」が良く合いますね。
高橋幸子氏評================================
バイクをふかす音でしょうか。幾度も熱帯夜に響いてきて、暑苦しさがつのります。
<またぞろ響く>に作者の憤懣やるかたない気持ちが表れています。
======================================
6 何処までも見事な青田ことば無し
報告気味の句だと思います。
(国枝)見事な青田を言いたかったのでしょうが、「ことば無し」はその青田の結論を
言っているようでした。
8 息子来てかの日に戻る冷素麺
<かの日に>が抽象的で読み切れませんでした。
10 母連れて海辺ドライブ薄暑なり
報告の句だと思います。
11 黄菖蒲や田水の匂う雨上がり
時間をかけて田水の匂ひを発見したのでしょうか。根気の賜物ですね。
国枝隆夫氏評===============================
菖蒲田の水の匂いを雨上がりに感じたと言う感覚がよかったと思います。ただ中七以降
も菖蒲のことを詠んでいますので、上五は「や」で切らないで、「黄菖蒲の」と続ける
ところかと思います。
======================================
12 筒鳥や親のこころを啼く如く
<親のこころを啼く>が良く分かりませんでした。
13 水遊びいま全身が好奇心
できましたら好奇心一杯の様子を描写してほしいところですが、<全身>という表現が
良いですね。
(伊藤範子さんの選です)
高橋幸子氏評================================
具体的な描写がないのに、水遊びをしている幼子の様子が生き生きと脳裏に浮かんでき
ました。目の輝き、手足のぴちぴちした動き、水しぶき、笑い声等々。幼子は、興味が
あることを全身を使って表現しますが、水遊びはまさにそのもの。<いま全身が好奇心>
との措辞は、即物具象写生ではないので最後まで迷いましたが、景が鮮明に浮かんでく
ることから特選に取らせていただきました。
======================================
国枝隆夫氏評===============================
子供の水遊びを見ているのでしょうか。その子供が好奇心に満ちていることを発見した
のでしょう。いわゆる即物具象でなく、抽象名詞の「好奇心」が成功しています。
======================================
15 雷に怯え農守る老の部屋籠り
老人の様子を述べすぎていると思います。もう少し簡潔に述べてみてはどうでしょうか。
16 物言はず下ろすシャッター西日堰く
(国枝)「西日堰く」がよく分かりません。「西日急く」の変換ミスでしょうか。
18 ふと淋し夏至の落日川向かう
<ふと淋し>という生の心境ではなく、落日を描写したほうが良いと思います。
<寂し>終止形、<落日>体言で三段切れですね。
19 雷神の響みてみづうみ熱孕み
雷の光で湖が熱を孕むという感覚でしょうか?<響みて>の表現が句を分かりにくくし
ているように思います。
21 風死すや張子の虎は首を振る
中七下五は悪くないので、もう少し適切な季語が欲しいと思いました。
22 木下闇閻魔に上ぐる御賽銭
<上ぐる>は省略できるので余った三音でお賽銭を描写してみてはどうでしょうか。
23 越瓜やむかし大寺の伽藍跡
(国枝)「越瓜」がよく分かりません。
24 宅配便初蝉の声届けをり
受け取りのためドアを開けたら思いがけぬ蝉の声が聞こえたという景でしょうか。
25 いちにちをたたむ木槿の散華かな
< いちにちをたたむ>が面白い表現ですね。
(国枝)木槿のはかなさをきれいな言葉で詠んでいます。ただ全体が「木槿」の説明の
ように聞こえました。
26 信号を待つ間立ち入る片かげり
日常のひとこまを見逃さない俳人の目ですね。
国枝隆夫氏評===============================
誰もが経験する信号待ちです。平易な表現に共感しました。
======================================
28 草の波越へて筑波へ夏つばめ
うんと広い草の波でしょうか。美しい情景ですね。
29 熱帯夜冷たきものに猫の耳
面白い取り合わせですね。
(伊藤範子さんの特選です)
30 薬師寺も唐招提寺も蝉時雨
程良く離れた両寺を季語の力で上手く表現しましたね。
31 今年竹風の重さをまだ知らず
<知らず>はやや理屈っぽいかもしれませんが、<風の重さ>が上手ですね。
(国枝)言いたいことは分かりますが、一寸理知的に入ったような印象でした。
32 ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花
季語の斡旋が絶妙ですね。
国枝隆夫氏評===============================
うまれてからこの年になるまで、一歩もふるさとを出なかったのも一つの感慨だと思い
ます。私のようにふるさとを喪失した者にとって、詠めない題材です。
======================================
33 紫陽花に囲まれ眺む静寂かな
<眺む>が終止形ですのでここで切れています。下五かな止めですので連体形で下五に
繋げたいところです。
35 朝採れの鍬形もらひ仲直り
「鍬形」は昆虫のことですね。朝採れの野菜かと勘違いして<仲直り>が?でしたが、
納得いたしました。
37 盛り塩の白き尖りや宵祭
<白き尖り>と具体的に述べたのが良いと思います。季語も絶妙。
(伊藤範子さんの選です)
高橋幸子氏評================================
清めの塩を盛って宵祭の神事が行われたのでしょう。盛り塩の<白き尖り>を発見した
作者。宵祭の厳粛さや格調高さが想像されます。
======================================
38 止まり木のカフェの窓辺に水中花
スタバのようなところでなく個人営業のカフェですね。
国枝隆夫氏評===============================
カフェと言ってもスナックのような止まり木のある喫茶店でしょうか。そんな喫茶店に
は水中花が似合います。
======================================
39 白南風や柳腰なる松並木
松並木の例えに他の木を持ってくるのが気になりました。
40 万緑に呑まるる矢穴残す岩
(国枝)「呑まるる」が矢穴に掛かる連体形、「残す」が音に掛かる連体形でしょうか。
入れ子状態の連体形が分かりづらくしているような印象でした。
41 空蝉や児を探す声遠ざかり
季語だけが強調されて中七以降の状況が良く分かりませんでした。
42 水打つてより改札を始めけり
丁寧な文脈の句ですね。駅員の心配りが心地よいです。
(伊藤範子さんの選です)
(国枝)「92打ち水の駅舎より人吐き出され」どちらの句も駅舎に打ち水をしたところ
を詠んでいます。ひと時の安らぎが見えてきます。同じような句でしたので、どちらか
を優先して採ることは出来ませんでした。
高橋幸子氏評================================
暑い最中の駅員さんの心遣いが感じられます。一人で何役もする小さめな駅でしょうか。
水を打って清々しい駅舎。乗客もおなじみさんが多いのでしょう。実直な駅員さんとの
会話も弾みそうです。
======================================
44 短夜や鯉の寝顔が気になつて
<鯉の寝顔>が遊びすぎのような・・・。
47 夏の朝ノ―ゼンカズラ目に眩し
凌霄花を何故片仮名表記にするのか・・・?
(国枝)「ノーゼンカズラ」は「凌霄花」のことでしょうか。俳句では日本語は漢字
か、ひらがなで書きたいものです。
48 手花火のつきたる闇の匂ひかな
手花火が終わって匂いだけが残っている暗さを巧みに表現しています。
(伊藤範子さんの選です)
国枝隆夫氏評===============================
手花火が終わるところに闇の深さとはかなさが感じられました。そんな闇に匂いを感じ
たのでしょう。下5を「匂ひかな」と現在形で止めるか、「手花火のつきたる闇の匂ひ
けり」を過去形にして余韻を残す方法も考えられます。
======================================
49 白扇の陰に隠れて生欠伸
<隠れて>は省略できるのではと思いました。
51 片影の縁台将棋集る猫
<集る猫>がこの句の中で効いているかどうか?
52 御手洗の水琴窟や音涼し
水琴窟の音が涼しいのは常套すぎると思いました、
54 にんまりと笑顔で昼寝して居りし
<にんまり>と<笑顔>は重なりすぎていると思いましす。
56 立山を背に万葉の歌碑涼し
立山の大景を背に万葉歌。大らかな句ですね。
(伊藤範子さんの選です)
57 母の家更地となりて迎盆
お一人で暮らしていたお母さんでしょうか。一入の感慨ですね。
国枝隆夫氏評===============================
よくある詠み口ですが、素直な表現で共感します。
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58 尼寺の甍の照りへ白日傘
中七の助詞は<へ>で良いのかどうか? ここは切れを入れた方が良いように思いました。
(伊藤範子さんの選です)
60 いつの間に水鉄砲の的にな
庄野潤三の小説をやや明るくしたような感じを受けました。
国枝隆夫氏評===============================
作者と子供たちで水遊びをしているのでしょうか。遊んでいるうちに子供たちの水鉄砲
の的になった。その場面展開がうまいですね。
======================================
63 蟻地獄ここは誰にも内緒なり
<内緒なり>が観念的すぎるので共感できませんでした。
64 掃き残す破れガンザキ夏落葉
ガンザキは熊手のことですか?破れているので掃き残すという理屈を感じました。
(国枝) 「ガンザキ」がよく分かりませんでした。ネットでは熊手の方言ともありま
したが。
65 法事あと傘寿卒寿の縁涼み
良いご家族ですね。親戚とのお付き合いもほどほどというご時世。見習いたいです。
(国枝)面白い句です。高齢化社会とはこういうことなのですね。私もその年齢になっ
てしまいました。
高橋幸子氏評================================
七十歳や八十歳の方々が集う法事は何回忌なのでしょう。法事は旧家で行われたのか、
お寺で行われたのか定かではありませんが、法事が終わり、互いに語らいながら、<縁
涼み>をしている様子がよく伝わってきます。
======================================
66 病床の妹の鼻唄夏の蝶
鼻唄を口遊むほどですから余程回復したのですね。
67 早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ
丁寧に描写していますね。
(伊藤範子さんの選です)
高橋幸子氏評================================
この句の<早苗饗>は、田植え作業が終わってすぐ行われるのでしょう。植田のそばに
茣蓙を敷き、野良着のまま田植えの慰労会が行われているのだと想像しました。<茣蓙
に野良着の泥零れ>の具体的な景が、この早苗饗の様子を活写しています。
======================================
68 待ちゐれば玻璃の帯留め浴衣着て
<帯留め>は動詞ではなく体言だと思いますので送り仮名はないほうが良いと思います。
69 紅薔薇の紅を離るる雫かな
<紅>のリフレインが心地よいですね。
高橋幸子氏評================================
雨上り、紅薔薇の花びらにたまっていた雫が落ちるときの様子を凝視してできた句と思
われます。花びらの上にある時は、紅を映して紅色だった雫が、花びらを離れたとたん、
透明な雫となって落ちる映像が浮かんできました。
======================================
70 杖を突く妻に差掛く白日傘
<差掛く>は終止形ですがこの句では連体形で繋げた方がよいように思いました。<傾
ぐる>ではどうでしょうか。
71 風鈴の揺れてバスタオルの揺れる
風流の風鈴と俗のバスタオルの対比ですね。
73 蝉時雨混声合唱ほど響き
さほど不自然さはないとはいえ中八ですね。
74 コピー機の小さき唸りや梅雨のあけ
そつなく出来上がっていますね。
国枝隆夫氏評===============================
コピー機が唸っているときは、生きているようです。その生きている様子が感覚的に響
きます。ただそんな唸りに「梅雨の明け」がよいか、もう少し暗い感じの「梅雨の闇」
がよいか迷うところです。
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75 壁に描きし七夕竹に貼る願ひ
描かれている七夕竹という題材がとても良いと思いました。
77 重畳の夏嶺に流る姉の笛
(国枝)「重畳」がよく分かりません。「頂上」の変換ミス?
78 籐椅子に夢現聴く波の音
<夢現聴く>が分かりませんでした。夢現で波の音を聴いているということでしょうか。
79 老躯にも湧き出づ気力雲の峰
<出づ>は終止形ですのでここで切れが生じます。<気力>は体言ですのでここでも
切れて三段切れの句になっています。
80 故郷に戻り裸足の浜遊び
(国枝)ふるさとに海があるということはこういう句が出来るということですね。海な
し県の私にはうらやましい。
82 雨水の連鎖となりぬ蜘蛛の糸
<連鎖>は蜘蛛の糸に水滴がびっしりと付いているということでしょうか。良く観察さ
れていると思いますが、<連鎖>が少し硬い表現かなあと思いました。
84 若葉寒離れて父子の武将塚
<離れて>が哀れを誘いますね。寒いと言っても若葉ですから程良い季語だと思います。
85 青田風母の見送りいつまでも
施設に入っている私の母を思い、共感いたしました。
国枝隆夫氏評===============================
久しぶりにあった母と別れるときの切なさが「見送りいつまでも」によく込められてい
ます。
======================================
86 片陰り残し川原の土石流
<片陰り残し>が分かりませんでした。
88 盆踊りの稽古に笑顔戻り来ぬ
上六を何とか解消してほしいです。
89 夏休み孫は来るのか来ないのか
来てほしいのですが来れば疲れるので、達観した心境でしょうか。面白く読ませていた
だきました。
91 見回りの農夫へ強き青田風
青田風に強風が珍しいと思いました。
(伊藤範子さんの選です)
93 試し堀り馬鈴薯五個のカレーかな
農事には疎いので試し彫りの五個は多いのか少ないのか分かりませんが、、美味しそ
うですね。
高橋幸子氏評================================
我が家でも先日馬鈴薯の試し掘りをしました。土の付いた新じゃがの皮は、こそげばつ
るつるの馬鈴薯の肌が現れ、とても美味しいです。試し掘りした馬鈴薯五個のカレー、
新じゃがの香りと食感がたまりませんね。
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95 代わる代わる持ちて鬼灯市の帰り
上六、下六。せめてどちらかだけの字余りにしてください。
96 六畳を青き小暑の風抜けり
(国枝) 「青き小暑の風」が分かりづらく思いました。「青き」が「小暑」に掛かっ
ているようでした。「小暑の青き風」と詠むべきでしょうか。なお終止形の「抜く」は
自動詞でしょうか。他動詞でしょうか。この句の内容からは自動詞のように見えました。
そうすると下二段活用になりますので、この已然形に「り」はつながりません。
98 ペディキュアや外反母趾の素足にも
少し自虐的ですが即物的で面白く読みました。
99 総会は満場一致日の盛
目出度し目出度しの決着。俳味もあります。
高橋幸子氏評================================
六月は、株主総会の時期。この句の総会も株主総会でしょうか。この頃は<物言う株主>
の報もあり、総会ももめることが多いと聞きます。この総会も午前中は色々な意見が飛
び交ったのでしょうか。でも日の盛りの頃には、満場一致で締められたのでしょう。
<満場一致>と「日の盛」の取り合わせや、ひらがなが<は>と<の>だけの簡潔さが
魅力です。
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100 クレーム処理終へて一人の缶ビール
美味しいビールですね。
(伊藤範子さんの選です)
102 花筒に今日はひまわり娘の墓前
切ないですね。でも「ひまわり」でなんとなくほっとしました。表記は「ひまはり」と
してください。
103 入院す友送る朝茄子の花
入院すの<す>は終止形ですのでここで切れが生じます。<朝>は体言ですのでここで
も切れます。三段切れになるので句中の切れは一つだけにしてください。
(国枝)上五を「入院の」とすれば三段切れでなく、うまくつながると思いました。
105 雨上がり古木を包む苔青し
(国枝)初め、この句の「苔青し」が季語かどうか分かりませんでしたが、よく調べた
ら、「苔茂る」の副季語でありました。そうするとよい句だと思いました。
106 木曽古道旅人癒やす滝しぶき
上五で切れていますが、切れをなくして旅人に繋げた方が良いように思いました。
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【
第288回目
(2023年6月)
HP俳句会 選句結果】
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【
武藤光リ
選 】 |
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特選:
白南風やスパイス香るキッチンカー
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佐藤けい(神奈川県)
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茫々と大利根川の走り梅雨
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いまいやすのり(埼玉県)
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急降下のかはせみ沼へ瑠璃こぼす
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美佐枝(松戸市)
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立葵母子で唄ふ日暮れ道
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直樹(埼玉県)
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立葵田舎の家を継ぐ覚悟
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石塚彩楓(埼玉県)
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耳遠き駄菓子屋の婆濃紫陽花
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鷲津誠次(岐阜県)
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五月雨の庭石はねて踊りけり
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奥村僚一(甲賀市)
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黒南風や災害アラート響く朝
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かよ子(和歌山市)
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橋桁に水位の跡や青葉寒
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ときこ(名古屋市)
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夕映えを白く裁ちゆくヨットかな
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櫻井 泰(千葉県)
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【
奥山ひろ子
選 】 |
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特選:
少年はくるりと夏へ逆上がり
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大原女(京都)
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離職する五月の空へ始発ベル
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輝久(大分県)
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駅の名の見えないほどに濃紫陽花
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田中勝之(千葉市)
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ただいまの声に金魚の尾ひれ揺る
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いまいやすのり(埼玉県)
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立葵母子で唄ふ日暮れ道
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直樹(埼玉県)
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里帰り蛙迎える無人駅
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中島(横浜市)
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耳遠き駄菓子屋の婆濃紫陽花
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鷲津誠次(岐阜県)
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白南風やスパイス香るキッチンカー
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佐藤けい(神奈川県)
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蛍や笹の葉擦れの奥に浮く
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蝶子(福岡県)
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風青し歩幅の合わぬ丸木橋
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戸口のふつこ(静岡県)
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【
関根切子
選 】 |
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特選:
下駄音のいつしか郡上踊りかな
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正憲(浜松市)
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駅の名の見えないほどに濃紫陽花
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田中勝之(千葉市)
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茫々と大利根川の走り梅雨
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いまいやすのり(埼玉県)
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帆を上ぐる練習生の靴白し
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正憲(浜松市)
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山城にたつきの跡や栗の花
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蒼鳩 薫(尾張旭市)
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羽ばたきに力みなぎる夏の蝶
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蒼鳩 薫(尾張旭市)
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日盛りを洗ひざらしの綿のシャツ
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石塚彩楓(埼玉県)
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掘割を打つ雨激し花菖蒲
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筆致俳句(岐阜市)
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肥後守ポケットに入れ夏休み
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梦二(神奈川県)
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橋桁に水位の跡や青葉寒
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ときこ(名古屋市)
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【
渡辺慢房
選 】 |
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特選:
芍薬や母の運針なめらかに
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鷲津誠次(岐阜県)
|
駅の名の見えないほどに濃紫陽花
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田中勝之(千葉市)
|
少年はくるりと夏へ逆上がり
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大原女(京都)
|
帆を上ぐる練習生の靴白し
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正憲(浜松市)
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糠深く茄子を漬けこむ旅帰り
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百合乃(滋賀県)
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もともとの虚空戻りし蛍籠
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ぎんだら(さいたま市)
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厨窓開けたるままに烏賊釣火
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ぎんだら(さいたま市)
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辣韮漬け寝間までにほふ一日かな
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町子(北名古屋市)
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風音や空を透かして若楓
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伊藤順女(船橋市)
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鰻屋の幟隠せる夏柳
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幹弘(東京)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、佐藤けいさん(神奈川県)、大原女さん(京都)、田中勝之さん(千葉市)でした。同点が3名以上ですので、今月の入選賞は該当なしとなります。
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【講評】
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2023年6月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 鄙の駅へひとり降り立つ麦の秋
鄙の駅は作者の故郷の駅でしょうか? 初夏の帰省に物語を感じます。
2 見得を切る神楽の鬼に父涙
お父様の涙の意味がわかりませんでした。また、当句会は当季と限定はしていません
が、あまり季節外れの句は、読者に臨場感を与えにくくなると思います。
3 離職する五月の空へ始発ベル
始発電車で任地を去るところでしょうか? 五月の空に希望が感じられますが、早朝
の空には、まだ明るい光が足りないようにも思えました。
奥山ひろ子氏評===============================
〈離職〉というどちらかと言えば不穏な言葉が、〈五月〉というさわやかな季節の季
語により、前へ進むための〈離職〉であることを示唆し、しかも〈始発ベル〉という一
日の始まりの言葉に希望が感じられました。類句のない個性的な作品であると思います。
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4 小走りの上着合羽に小雨梅雨
「上着合羽」「小雨梅雨」等、意味が重複する無駄な言葉に感じます。
5 菖蒲田に続く小径の喫茶店
「菖蒲田に続く小径」ということは、菖蒲田はまだ先にあるということになり、菖蒲
が咲いている景が浮かんで来ません。
6 駅の名の見えないほどに濃紫陽花
ホームの駅名表示板の前に紫陽花が植えられているのでしょう。駅名が見えないのは
困りますが、駅員も見事に咲いている紫陽花を伐るのを躊躇っているのだと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
紫陽花の旺盛な咲きっぷりがうかがえました。駅員の方も、そのまま咲かせてくださっ
ているところがいいですね。
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7 手術あとやけに疼くや走梅雨
湿度や気圧の関係で、そういうこともあるのでしょうね。ご自愛ください。
8 手作りのレッグウォーマー梅雨に入る
梅雨寒・梅雨冷という言葉もある通り、梅雨の時期は冷えることもありますね。ただ
だからレッグウォーマーというのは、ちょっと付き過ぎに感じました。
9 茫々と大利根川の走り梅雨
茫洋とした景が浮かびます。関東平野にもいよいよ梅雨が近づいてきたという感慨で
すね。
10 ただいまの声に金魚の尾ひれ揺る
人語を解する金魚でしょうか?
奥山ひろ子氏評===============================
犬とは違うと思いながら、頂きました。本当なら素晴らしいですね。いえきっと本当
でしょう。
ユーモアの要素もあり、俳句を楽しんでいらっしゃる様子がとても伝わりました。
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11 少年はくるりと夏へ逆上がり
写生句ではなく技巧的ですが、明るく爽快な句です。夏休みの冒険やチャレンジのイ
ントロダクションですね。
奥山ひろ子氏評===============================
〈くるりと夏へ〉が詩的な表現だと思います。当初はできなかった逆上がりを〈くる
りと〉上手にできるようになった少年の成長、それが〈夏〉であることで生命力にあふ
れた元気な様子が感じられます。眩しい太陽、木々の青さなども〈夏〉という季語から
読み手の頭の中に広がり、少年を応援したくなる、楽しい作品です。
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12 翅閉じて蝶は平和を祈りけり
ユニークな見立てですが、作者の自己満足の域を出ないように感じてしまいました。
13 番台はけふはあんちやんラムネ飲む
ラムネを飲んでいるのは作者でしょうか?あんちゃんでしょうか?
14 ありますの手書きの絵文字淡竹の子
どんな絵文字なのか、イメージできませんでした。
15 梅雨入りて雨戸の軋み和みけり
雨が潤滑剤になって軋みが軽くなるということでしょうか? だとすると、理屈っぽ
い句と感じました。
16 北京の路端姫女苑姫女苑
北京は中国の首都で都会のイメージがありますが、姫女苑が生い茂るようなところも
あるのですね。作者はそこに驚きを感じたのでしょうか?
17 ごんぎつね茅花流しの奥深く
茅花流しは梅雨のころに吹く湿った南風のことで、「奥深く」という意味がよくわか
りませんでした。
18 白鷺の水張りし田に舞ひ来たり
オーソドックスな光景ですね。
19 過疎すすむされど変わらぬ不如帰
村は過疎化する一方だが、ホトトギスは変わらず鳴いているという意味かと思います。
俳句では意味のあることを言おうとせずに、物を描写することで作者の感動を読者に伝
えましょう。
20 鶯や目覚め促す向かい山
「目覚め促す向かい山」の意味がよくわかりませんでした。
21 芍薬や母の運針なめらかに
季語がお母様の様子や人柄を想像させます。
22 下闇に兄追ふ声の身近かなる
作者と兄弟(兄妹?)の位置関係がよく掴めません。木下闇にいるのは、作者でしょう
か?兄弟(兄妹?)でしょうか?
23 サングラス押し上げ笑ふ出会ひかな
「出会ひ」には、男女の密会という意味もあります。サングラスでの変装を解いた瞬
間でしょうか?
24 憂うかな音のみ聞こゆ遠花火
俳句では、喜怒哀楽の感情をそのまま言うと薄っぺらになってしまいます。「憂うか
な」と言わずに、その気分を読者に伝えるのがコツです。遠花火という季語には、愁い
や寂しさなどを感じさせる力がすでに備わっています。
25 真っ白な開襟シャツの老紳士
「真っ白な開襟シャツ」は「白シャツ」という季語で代替し、老紳士の様子がもっと
具体的に見えるようにしたいですね。
26 急降下のかはせみ沼へ瑠璃こぼす
瑠璃(鳥)は夏の季語ですが、この句の場合はカワセミの色を言っているのでしょうね。
急降下も瑠璃色も、カワセミの描写としては平凡に思います。
27 水無月の沖に重なる白帆かな
綺麗な句ですが、実景でしょうか? 複数の帆船が見える状況というと、ヨットレー
ス等かと思いました。
28 夕間暮れ舞おさめたる花菖蒲
「舞おさめたる」は比喩表現と思いますが、花菖蒲にどのような変化があったのか想
像できませんでした。
29 宿下駄の十歩に淡き河鹿笛
宿下駄を借りての散策かと思いますが、「十歩」にどういう意味が込められているの
でしょうか?
30 あの山に父と登りき青嵐
初夏の風が吹き渡る中で、お父様との登山を回想されているのでしょう。登山も夏の
季語ですので、こちらを主季語にして仕立てると、よりすっきりして、思い出もクリヤ
になると思います。
31 立葵母子で唄ふ日暮れ道
「母子で唄ふ日暮れ道」には、どうも秋の気配を感じてしまいました。
奥山ひろ子氏評===============================
〈母子〉〈唄ふ〉〈日暮れ道〉の措辞は、故郷の風景として多くの人の心の中にある
と思います。
この作品は〈立葵〉がポイントであるかと思いました。次々と花を咲かせ、高く成長
する立葵にお子さんの成長を願う母親の気持ちが込められていると思います。
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32 若葉風僧のつむりの清々し
若い僧の姿が浮かびます。「つむりの清々し」を「青つむり」とすると、僧の様子を
もう少し具体的に詠めると思います。
33 新樹光号泣の子を抱き受けし
季語が、泣く子のエネルギーを伝えてくれます。「抱き受ける」という複合動詞が耳
慣れない感じがしました。「抱き取る」の方が自然な感じがします。
34 葭切の葭に籠りて高音なる
「葭切」という季語を説明しているように感じました。
35 枇杷熟れて嫁ぎし家を懐かしむ
現在は、嫁いだ家には住んでいないのでしょうか?
36 山寺や十薬干して和尚留守
鄙びた山寺の住職の、質素な暮らしぶりが伺えます。
37 街囲む壁の銃眼麦の秋
銃眼を持つ城郭都市は日本では思い当たらないのですが、海外詠でしょうか? 申し
訳ありませんが、城郭都市に行ったことが無いので、壁の色や、麦畑が城郭の内側にあ
るのか外側にあるのか等、具体的なイメージが掴めませんでした。
38 帆を上ぐる練習生の靴白し
季語は白靴ですね。練習生の靴は特に夏用のものというわけではないでしょうが、洗
いあげられたデッキシューズに夏らしさを感じます。
39 下駄音のいつしか郡上踊りかな
下駄の音と郡上踊りはよく似合いますが、「いつしか郡上踊りかな」の意味がよくわ
かりませんでした。それぞればらばらに歩いていた下駄音が、だんだんと踊りの下駄音
として揃ってきたということでしょうか?
40 錆声で居並ぶ梅雨の鴉かな
複数のカラスが並んで鳴いているのでしょうね。 梅雨の鬱陶しさが増すようです。
41 山城にたつきの跡や栗の花
「たつき(活計)」は、「行商をたつきとする」のように、生活の手段という意味です
ので、「たつきの跡」という使い方は不自然に感じました。
42 羽ばたきに力みなぎる夏の蝶
夏の蝶らしい句で、逆に言うと季語の説明的に感じました。
43 日盛りを洗ひざらしの綿のシャツ
気持ちの良い句ですが、切れが無いので、散文の一部のように感じられます。上五を
「日盛や」と切るとすっきりして、形の良い句になります。
44 立葵田舎の家を継ぐ覚悟
すっくと咲き上がるタチアオイに、作者の覚悟が感じられます。
45 母の忌を二日後れて四葩咲く
お母様が好きだったアジサイを仏前に手向けてあげたかったのでしょう。作者の残念
な気持ちが伺えます。
46 掘割を打つ雨激し花菖蒲
「打つ」と「激し」は重複に感じます。
47 里帰り蛙迎える無人駅
「迎える(旧仮名遣いでは迎へる)」は比喩ですが、作者の気持ちがよく表れています。
場合によってはうるさいだけの蛙の声ですが、懐かしい故郷の地を踏んだ作者には、迎
えられているように感じるのでしょう。上五と下五が名詞のいわゆるキセル俳句なので
推敲の余地を感じます。
奥山ひろ子氏評===============================
小さな駅で、回りは田んぼ。蛙の声が作者を迎えてくれたのですね。幼い時から聞き
馴染んだ蛙の合唱で故郷に帰ってきたことをしみじみと感じられる作者に共感いたしま
した。
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48 夜蛙に眠れぬままの一夜かな
蛙がうるさいから→眠れないという理屈・因果関係が感じられます。
49 注連張りて祀りし巌や苔の花
「注連張る」と「苔の花」の季重なりです。
50 水口に束ね置かれし余り苗
良く見る光景ですね。
51 夏の蝶光の中へ吸い込まれ
蝶の生命力を感じます。上五を「夏蝶の」として、下五を「けり」で纏めるようにす
ると、より俳句らしくなると思います。
52 青梅の一つひとつの形かな
皆同じように見える梅の実ですが、よく見るとそれぞれ大きさや形、色などが違って
いることに気が付いたのですね。それも発見ですね。
53 糠深く茄子を漬けこむ旅帰り
生活の実感が出た句ですね。旅から帰って日常に戻る安堵感が感じられます。
54 貴船鮎夫は三口で食べつくし
俳句というより、川柳的に感じました。
55 緑蔭の市に兜の鍋売らる
フリーマーケットでしょうか?珍しいものが売られていますね。市と言えば、そこに
並んでいるのは売られている商品ですから、「売らる」は不要ですね。
56 命生む水惑星の水海月
巨大な天体と小さな生命体が水で一体化されているように感じました。
57 薫風や浚渫船の帰りくる
浚渫には泥臭いイメージがあり、季語といまいち似合わないように感じました。
58 指先の鳴らすグラスや梅雨に入る
「指先の鳴らすグラス」の意味がよくわかりませんでした。爪でグラスを弾いて音を
出しているのでしょうか?それとも、グラスの縁を指で擦って鳴らすグラスハープでしょ
うか?
59 ハイライトくゆらす父の日の窓辺
喫煙者は肩身が狭い昨今ですね。父の日でも吸うときには窓辺に行かなくてはならな
いのですね。
60 廃屋を我が家にせしか蝸牛
ちょっと穿ち過ぎの見立てに感じました。
61 もともとの虚空戻りし蛍籠
蛍を逃がした後でしょうか?考えてみると、蛍籠は空っぽである時間の方がはるかに
多いのですね。面白い視点だと思いました。
62 厨窓開けたるままに烏賊釣火
海の見える台所なのですね。涼しい夜風が感じられます。
63 耳遠き駄菓子屋の婆濃紫陽花
紫陽花は店の外で咲いているであろうということもあって、季語が動くように思いま
した。蚊遣り豚等の方が似合いそうです。
奥山ひろ子氏評===============================
駄菓子屋のお婆ちゃんの聞き返す様子が浮かびました。〈濃紫陽花〉が彩を添え、お
婆ちゃんを応援しているようです。
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64 葉桜や筆礼状の強き跳ね
力強い筆跡の礼状と、葉桜の余韻の取り合わせがしっくり来ないように感じました。
作者の視線がどこに向いているのかも疑問です。
65 噴泉や陽と水交わる星に生き
観念的なので、陽と水が交わる様子を具体的に写生して欲しいと思いました。
66 花柘榴弾けむばかり散りしけり
「弾けるばかりに散り敷く」という景が浮かびませんでした。どのような点に、散り
敷いた柘榴の花が弾けそうだと感じたのでしょうか?
67 手作りの丸太の小川鴨涼し
「手作りの丸太の小川」がよくわかりませんでした。丸太をくり抜いて樋のようにし
た小川でしょうか? それとも、両岸に丸太を置いた川でしょうか?
68 乱鶯の声谷に満つ村はずれ
「乱鶯のこゑ谷に満つ雨の日も 飯田蛇笏」の句を思い出しました。
69 五月雨の庭石はねて踊りけり
跳ねて踊ったのは五月雨の雨粒かと思いますが、一読、庭石が跳ねて踊ったように読
めました。
70 昼顔や流木朽ちて寄する浜
静かな昼の浜辺の様子が描かれています。流木と言えば、「朽ちる」「寄せる」
は省け、その分もっと具体的な写生ができるのではないかと思いました。
71 黒南風や災害アラート響く朝
梅雨の始めの頃の、雨を含んだ黒雲を連れて吹く黒南風と、災害アラートがちょっと
付き過ぎで、頭で拵えた句のように感じました。
72 背伸びして泰山木の花白し
タイサンボクは高いところに花を付けるので、作者は背伸びしてそれを見ているとい
う意味でしょうか? タイサンボクの花は白いことは分かっていますので、「白し」は
言わなくても良いと思います。
73 洋館の軒に身を寄せアマリリス
洋館とアマリリスの取り合わせが良いですね。「軒に身を寄せ」はアマリリスを擬人
化した描写だと思いますが、これを言う代わりに洋館の特徴などをもっと写生して欲し
いと思いました。
74 長靴の脱げて残るる田植かな
不慣れな方が不用意に田圃に入るとこうなるのでしょうね。
75 剣先のわずかな震え夜の雷
状況がよくわかりませんでした。夜に剣道の試合をしているのでしょうか?
76 踏まれたる日もあり今日の麦熟れる
「麦秋」「麦の秋」という季語の説明に感じました。
77 葉の下に住んでもみたき釣忍
釣忍はたいてい高いところに吊るしますので、言ってみれば住人はその下に住んでい
るということになると思います。
78 久方の逢ふ瀬に清がし古代蓮
「逢瀬(おうせ)」は、男女の密会のことを言うことが多いので、あまり清々しい感
じはしませんでした。
79 清流に白じろ散りぬえごの花
綺麗な景ですね。通常、えごの花は白ですので、「白じろ」は言う必要が無いと思い
ます。その分、清流の景を具体的に写生して欲しいと思いました。
80 ささくれし心を癒す立葵
作者の主観を押し付けても、読者は感動しません。
81 白南風やスパイス香るキッチンカー
梅雨が明けて行楽を楽しんでいるのでしょう。何を売っているキッチンカーなのか、
想像するのも楽しいです。
武藤光リ氏評================================
句材が新鮮である。カタカナが二つ使われているが、あまり気にならず、俳句の品格は
損なわれていない。季語も付かず離れず適切である。
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奥山ひろ子氏評===============================
現代ならではの景ですね。カレー屋さんでしょうか。白南風に乗って、おいしそうな
昼時の様子が伝わりました。
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82 甘噛みて子猫と走る梅雨晴間
甘噛みをするのは子猫だと思いますが、作者が甘噛みをして走っているように読めま
した。
83 辣韮漬け寝間までにほふ一日かな
家中が辣韭臭くなったのですね。「寝間までにほふ」が具体的で良いですね。
84 蝙蝠やいつしか点る街路灯
蝙蝠が飛び始めるのは夕方ですので、「いつしか点る街路灯」は付き過ぎの感じがし
ました。
85 糠雨や庭の緑に魅せらるる
季語は「緑」でしょうか? 「新緑」「緑さす」「緑夜」などは季語ですが、緑だけ
では季語にならないと思います。
86 草茂る古りゆくままの生家かな
住む人が絶えた私の生家も今そんな状態です。身につまされます。
87 風音や空を透かして若楓
音、色彩、皮膚感覚等、五感に訴える句です。
88 熟梅の柔き感触靴の裏
熟梅(うみうめ)を踏んづけたのですね。それだけでは句材としてどうでしょうか?
89 肥後守ポケットに入れ夏休み
昭和前半頃までの子どもですね。私も何本か持っていましたが、ボンナイフを使うこ
との方が多かったように思います。
90 傘持たぬ外つ国の人半夏雨
確かに、外国の方は傘を使う習慣が無い方が多いようですね。半夏雨は、降れば大雨
になると言われていますので、心配です。
91 早緑のまつぼつくりに緑雨かな
緑色の松ぼっくりを新松子(しんちぢり)と言います。秋の季語です。
92 明易し麻酔の覚めし母の手に
母の手にどうしたのか、気にかかります。
93 脚立に跨つて虫干の気分
面白い句ですね。ぼそっと呟いたような破調で、自分が虫干しされているという内容
も意外性があります。
94 それぞれの家庭の事情梅雨明ける
句意が掴めませんでした。家庭の事情と梅雨明けがどう響きあうのでしょうか?
95 鬼太鼓と名前を付けて開店す
季語は鬼太鼓(おんでこ)かと思いますが、この場合は店名ですので季語にはなりませ
ん。
96 梅雨寒や真夜中に鳴る着信音
何か不吉なものを感じます。
97 朝焼けやアマゾン大河めざめたり
海外詠ですね。朝焼け・目覚め、アマゾン・大河に重複を感じました。
98 青柿を蹴りて路地ゆく登校児
楽しそうに青柿を蹴とばしているのか、しょんぼりと蹴っているのか、子どもの様子・
気持ちがいま一つ伝わって来ないように感じました。「路地ゆく」がちょっと無駄なよ
うな気がしますので、整理して子供の様子がより見えるようになればと思います。
99 金魚掬ひ捕れずに二匹貰ふ子よ
「貰ふ子よ」と子どもに詠嘆されていますが、哀れに思っているのか呆れているのか、
作者の気持ちがいまいち伝わって来ませんでした。
100 蛍や笹の葉擦れの奥に浮く
蛍がふわふわと飛んでいる様子が描かれています。ただ、上五が「や」で強く切れて
いますので、中七下五は蛍のことを言うのではなく、別の事物を詠んで取り合わせの句
(二物衝撃)としたいところです。例えば「蛍や笹の葉擦れの音幽か」
奥山ひろ子氏評===============================
〈螢〉の光と、〈笹の葉擦れ〉の音と、映像的な作品。さらに〈奥に浮く〉と奥行き
もあり、臨場感がありますね。〈浮く〉という蛍の光の表現もいいと思います。
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101 白南風や客が手を振る定期船
島の港の光景を想像しました。季語から、楽しかった思い出をを胸に去って行く客の
様子が浮かびます。
102 響きあう大瑠璃の森風清し
一読、大瑠璃の森が響きあうという意味がわかりませんでしたが、大瑠璃の声が響き
あう森に吹く風が清々しいという句意かと思います。もう少しわかり易く工夫できれば
良いですね。
103 雨煙る木立に響くほととぎす
景が浮かびますが、「煙る」「響く」の動詞がちょっとうるさく感じました。俳句で
は、なるべく動詞を省いた方が句が締まります。
104 橋桁に水位の跡や青葉寒
句意はわかりますが、「水位の跡」という表現がひっかかりました。「橋桁に残る水
位や青葉寒」等、もう一工夫欲しいと思います。
105 句材にもせしドクダミの草を引く
楽屋落ち的ですね。ドクダミを句材にどんな句が出来たのか、見てみたいところです。
「ドクダミの草を引く」は、ドクダミを抜く・引くで良いと思います。
106 夕映えを白く裁ちゆくヨットかな
「白く裁ちゆく」が工夫されたところだと思いますが、裁つという比喩が活きていな
いように感じました。
107 見上れば皆の見てをり昼寝覚め
衆人環視の中で昼寝をしていたのでしょうか?どういうシチュエーションでしょう?
108 鰻屋の幟隠せる夏柳
鰻屋には匂いという看板がありますので、大丈夫なのでしょう。
109 スーツケース濡るるに任す慈雨の中
喜雨は夏の季語ですが、慈雨を季語として載せていない歳時記が多く、これを季語と
するかどうかは意見がわかれるようです。
110 風青し歩幅の合わぬ丸木橋
手元の広辞苑によると丸木橋は「一本の丸木を渡して橋としたもの。まるばし。引渡
橋。」となっており、「歩幅の合わぬ」の意味がよくわかりませんでした。
奥山ひろ子氏評===============================
林の中の川でしょうか。〈歩幅の合わぬ〉は面白い視点だと思いました。〈歩幅の合
はぬ〉で頂きました。
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111 黴拭ふ顔彩で藍の花びら
「顔彩で藍の花びら」の意味がわかりませんでした。伊万里焼などの陶器に描かれた
花びらでしょうか?
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