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選句結果
     
第283回目 (2023年1月) HP俳句会 選句結果
【  坪野洋子 選 】
  特選 雪吊りの縄百本の匂かな いまいやすのり(埼玉)
   ファの音の鳴らぬピアノや寒波来る 石塚彩楓(埼玉県)
   産土へ一本道や初詣      大野良一(岐阜県)
   振り向かぬ子らを見送る三日かな 椋本望生(堺市)
   背の伸びし子と並びをる初詣 蝶子(福岡県)
   元旦のエプロン新た厨妻 惠啓(三鷹市)
   年明くる我は傘寿に兄百寿 周桜(千葉県)
   勤行の声響き合ひ淑気満つ ようこ(神奈川県)
   冬菊を束ねて香り一つにす 櫻井 泰(千葉県)
   薄紅の御嶽山や淑気満つ 美由紀(長野県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 雪吊りの縄百本の匂かな いまいやすのり(埼玉)
   煤払終ふ一本の白檀香 水鏡(岐阜県)
   平安のときめきに触る歌留多      雪絵(前橋市)
   むささびの輝き飛べる伊吹山 正男(大津市)
   雪明り崩れし壁にバンクシー 戸口のふつこ(静岡県)
   戦争を語る父の手榾焼べて 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   煮具合を見る大根の穴二つ 奥村僚一(甲賀市)
   春近し仄かに白き手術痕 石塚彩楓(埼玉県)
   年用意リュックに覗く牛蒡二把 野津洋子(瀬戸市)
   冬菊を束ねて香り一つにす 櫻井 泰(千葉県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 冬菊を束ねて香り一つにす 櫻井 泰(千葉県)
   月青し童子と遊ぶ雪女 みぃすてぃ(神奈川県)
   雪吊りの縄百本の匂かな      いまいやすのり(埼玉)
   初霞足裏に山の響きあり 正男(大津市)
   煮具合を見る大根の穴二つ 奥村僚一(甲賀市)
   濁りなき空よ遠見の初筑波 美佐枝(松戸市)
   車椅子並ぶ中庭日向ぼこ 中島(横浜市)
   産土へ一本道や初詣 大野良一(岐阜県)
   振り向かぬ子らを見送る三日かな 椋本望生(堺市)
   カップ麺の器洗へる霜夜かな 幹弘(東京)
【  高橋幸子 選 】
  特選 千段の磴登りきり大旦 後藤允孝(四日市)
   雪吊りの縄百本の匂かな いまいやすのり(埼玉)
   久かたに揃ふ我家の雑煮かな      いまいやすのり(埼玉)
   はや四日神田古書街めぐりかな きょうや(東京)
   戦争を語る父の手榾焼べて 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   ファの音の鳴らぬピアノや寒波来る 石塚彩楓(埼玉県)
   塵一つ無き元日の青畳 正憲(浜松市)
   冬の水透けて柾目の桶の底 後藤允孝(四日市)
   年用意リュックに覗く牛蒡二把 野津洋子(瀬戸市)
   勤行の声響き合ひ淑気満つ ようこ(神奈川県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、いまいやすのりさん(埼玉)、次点は櫻井 泰さん(千葉県)でした。「伊吹嶺」1月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



2023年1月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

今年最初の句会です。今年もよろしくお願いいたします

1	カピパラは巨大なネズミ冬うらら

カピパラはネズミ目の動物なので説明の句だと思います。

(国枝)「カピパラは巨大なネズミ」はカピパラそのものの説明だと思いました。

3	枯葉ふむ その音聴きし 和むわれ

<聴きし>は過去形ですが、この句は現在形で詠んだ方が自然だと思います。また普通
に読めば和んでいるのは作者なので、<われ>は不要だと思います。

4	朝上り光始める庭の露 

 明るくなって、光始めるという、因果関係の句のように感じました

6	雪の降る静かな夜に君生れぬ

情緒満点ですが<君>が誰のことか? 

9	円陣組む一途な夢やラガーマン

上六が気になりました。「円陣の」では駄目でしょうか?

10	月青し童子と遊ぶ雪女

<月青し>も相まってちょっと怖い光景ですね。

国枝隆夫氏評===============================

あり得ない登場は想像であろうが、「月青し」から雪女の登場するのが面白い。

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12	霜柱崩る荘厳想ふべし

<荘厳>のイメージが分かりにくいです。まして<べし>と言われても・・・。

13	毛糸編む庭木をへだつ笑ひかな

<へだつ笑ひ>がよく分かりません。

14	雪吊りの縄百本の匂かな

理屈では百本全部の匂いを感じることは不可能なのですが、面白い表現だと思いました。

坪野さんの特選です。

高橋幸子氏評================================

<縄百本>は庭園の雪吊りの景でしょうか。作業を終えたばかりの時。新縄の香りが辺
りに匂い、雪吊りの見事な形状と相まって、清々しさが漂います。

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国枝隆夫氏評===============================

雪吊りの縄はただそれだけでなく、百本まとめることによって新たな匂いがする表現が
新しい発見。

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15	久かたに揃ふ我家の雑煮かな

 料理はは地方や家庭により個性があります。ましてやお雑煮。久かたの喜びですね。

高橋幸子氏評================================

<我が家の雑煮>に思いが込められています。子供たちが成長し、親元を離れてそれぞ
れに家庭を持ち、コロナで集う事の出来なかった日々。今年は久しぶりにお正月に揃い、
皆で雑煮膳を囲むことができた喜びが伝わってきます。

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16	煤払終ふ一本の白檀香

<一本の白檀香>に「煤払」の終った感慨が込められているように思いました。

17	公園のベンチ空きなし冬日和

上五中七が報告気味なので余程良い季語を持ってこないと入選は難しいと思います。

18	初風呂の腕の気泡のうつくしく

<うつくしく>が生の感想なので、読者に美しいと感じてもらえる描写をしてほしいで
す。

19	御降や硝子の未来科学館

安定した形の句ですが、「御降」が嘱目としても効いているかどうか?

20	華やかにマーチ近づく冬日和

ブラスバンドですね。<華やかに>がマーチにとってやや平凡な措辞だと思います。

22	冬木立茜雲ゆく梢かな

上五で切れていますので、<かな>止めは相応しくないように思いました。

23	葉牡丹に夜の置物光る玉

<夜の置物>がよく分かりません。

24	平安のときめきに触る歌留多

<ときめきに触る>という把握が上手ですね。

26	はや四日神田古書街めぐりかな

四日ともなれば正月行事を離れて自分の好きなことをしたくなります。そんなひとこま
でしょうか。

高橋幸子氏評================================

私も丁度四日に、神田古書街を巡り歩いたので、共感しました。三が日気分も抜け、興
味しんしんと古書街を巡り、古書との出会いを楽しむ作者が髣髴としてきます。

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27	冬暖か隣の犬に子の生まれ

お隣とはいえ目出たいことですね。

28	むささびの輝き飛べる伊吹山

<輝き飛べる>という把握に惹かれました。

29	初霞足裏に山の響きあり

 歩く足に感じた山の手ごたえを<山の響き>と捉えたのでしょうか。大胆な把握です
ね。

国枝隆夫氏評===============================

山を歩いていると、足裏に山の響きを感じた感性に感心した。

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31	雪明り崩れし壁にバンクシー

想念の句か実景の句かは分かりませんが、ウクライナの光景を思いました。「雪明り」
が効いていると思います。頂きましたが、<バンクシー>はどうでしょうか?このまま
では絵ではなく人のことになってしまいます。

32	日溜りの猫の微睡み日脚伸ぶ

<日溜り>と「日脚伸ぶ」が即きすぎかと思います。

33	初日の出テトラポットに波の花

(国枝)「テトラポットに波の花」というと結構厳しさを感じるが、これも初景色の一
つなのであろう。臨場感溢れた初日の出。

34	老いてなお達筆な師や年賀状

安定した形の句ですが、あえて言えば「年賀状」の説明のようにも見えました。

35	時雨虹街の真上の天守閣

理屈っぽい評かもしれませんが、<真上>という表現には無理があるように思いました。

36	びっしりと太陽パネル山眠る

<びっしりと>は説明だと思います。

37	戦争を語る父の手榾焼べて

お父さんの手の仕種に視線を持ってきたのが良かったと思います。季語も良い按配だと
思いました。

高橋幸子氏評================================

この戦争は、第二次世界大戦のことかと思われます。戦争の残虐さのゆえに、今までそ
の経験を語ってこなかった方々も、ご高齢になり少しずつ語り始めると聞きます。そん
な御父上がぽつりぽつりと榾を焼べながら語る様子に心を打たれました。手に焦点を当
てたことも印象深いです。

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39	うっすらと雪の情景鈴鹿山

非常識では勿論困るのですが、常識の範囲内に収まってしまった句だと思います。

40	煮具合を見る大根の穴二つ

 箸で刺した穴ですね。景が具体的で面白いと思いました。

国枝隆夫氏評===============================

穴二つに大根の煮具合が的確に捉えられている。観察の効いた句。

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42	病室で七草粥の味薄し

病院の食事で味が薄くても美味しいことはありますので、良い方向の句を味わいたい
です。

43	満天の星冴ゆる夜や伊良湖岬

<満天の星>ですから、<夜>は省略できると思います。

(国枝)きれいな情景ですが、「星冴ゆる」と来れば、「夜」は要らないような。その
分さらなる写生が出来そう。

44	みちのくの湯治の宿や雪深し

報告の句のように見えました。

45	春近し仄かに白き手術痕

手術の後が快復してきたのですね。季語で良く分かる良い句なのですが、分かりすぎる
分即きすぎかなとも思いました。。

(国枝)私も開腹手術痕がある。夜入浴中にしみじみと見ているのだろう。回復した安
堵感から春を待ち望む実感がする。

46	ファの音の鳴らぬピアノや寒波来る

<ファ>が鳴らない失望感が「寒波」で汲み取れます。ちょっとした皮肉な俳諧味も感
じました。

坪野さんの選です。

高橋幸子氏評================================

ピアノのファの音は、白鍵では、前のミの音の半音上で、やや不安定感があります。こ
の音が鳴らぬという事と<寒波来る>がよく響き合って、不協和音のような趣を醸し出
しています。

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47	塵一つ無き元日の青畳

 畳の上の淑気ですね。

(国枝)冬であっても青畳は気分のよいもの。まして元日であればなおさら淑気を感じ
る。

高橋幸子氏評================================

暮れの大掃除が隅々までいき渡っているのですね。しかも畳も張り替えたばかり。清々
しい座敷に年賀客が訪れるのを、心待ちにする作者の心も伝わってきます。

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49	賽銭で落葉留め置く地蔵の手

語順を変えたりして、もう少し調子を整えてみてはどうでしょうか。

51	泥に降る雪の白さよいさぎよし

<いさぎよし>は作者の感想ではなく、読者に読み取ってもらうことだと思います。

52	雨意ある日鬱忘れたり冬木の芽

上五・中七・下五と情感が噛み合っていないように感じました。

53	目覚めぬは子の胃袋や雑煮膳

<目覚めぬ子の胃袋>がよく分かりません。無理な言葉使いはやめた方が良いと思いま
す。

54	凍てつく夜覆うバケツの水栓柱

何が何処を覆うのかがよく分かりません。

55	濁りなき空よ遠見の初筑波

<濁りなき>に「初筑波」への思いがこもっていますね。

国枝隆夫氏評===============================

筑波山の初景色の様子を晴れ渡っているところに発見したのが、めでたい感じでよかっ
た。

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56	終相場ビルの谷間の煽ち風

「終相場」は荒れ模様だということでしょうか・・・。

57	冬の水透けて柾目の桶の底

 静かな写生句。底の柾目が清々しいですね。

(国枝)何の桶だろか。柾目がくっきりと見えるのは厳しくも清々しさを感じるのだろ
う。冬の水の冷たい透明感が見えてくる。

高橋幸子氏評================================

桶に水を張っているのですね。何のためか分かりませんが、桶の底の木の柾目が透ける
ほど、冷たく透き通る水が柾目と映り合って、透徹感があります。

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58	千段の磴登りきり大旦

大変な初詣ですね。御利益があると良いですね。

高橋幸子氏評================================ 

特選にいただきました。年越しの二年参りに行かれたのですね。神社あるいは寺の千段
もある石段を登って、初詣された様子が伝わってきます。調べが大変良く、<磴登り切
り大旦>との表現に、困難を乗りきって、新しい年を迎えた喜びが感じられます。

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60	暗黒に茜差し来て初明かり

<暗黒>にぎょっとしましたが、昨今の世相でしょうか。良い年にしたいですね。

61	ジルベスター聴き新年の星の下

<聴き>が報告なので臨場感に乏しい句に思えます。

63	車窓開け掬う風花郷を捨つ

寺山修司を思わせるような句ですが、陶酔感の濃さが気になりました。
。
64	冬紅葉透かせば老いた陽が独り

<老いた陽が独り>が良く分かりませんでした。

65	車椅子並ぶ中庭日向ぼこ

 養護施設でしょうか。冬の季節貴重な日差しを浴びている。

国枝隆夫氏評===============================

中庭と言うから介護施設のようなところだろうか。一様に日向ぼこしている車椅子が並
んでいるのを見ると、元気であってほしいと思う。

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67	初夢や中途半端に終りけり

 <や><けり>と切れ字を二つ使うのは、中村草田男の例はありますが、あまりお勧
めできません。

68	拍手の音響き合ふ初御空

正月らしくて気分の良い句ですね。

69	産土へ一本道や初詣

 私には産土のイメージがよく分からないので鑑賞しきれなかったです。

坪野さんの選です。

国枝隆夫氏評===============================

初詣はやはりふるさとがよい。確かこの神社は真っ直ぐな道を行けばたどり着ける。
ふるさとのことはよく分かっており、懐かしさを感じる初詣となる。

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70	大根の葉大根の泥掻き落す

大根の繰り返しに効果があるかどうか?

(国枝)定型に入れるためには、上5は「だいこのは」中七は「だいこんのどろ」と読
むのでしょうか。一句の中で大根の読みを変えるのに違和感がありました。

71	細り行く轍果てなし雪広野

雪国の景が見えてきますね。

72	御降りにスポットライトの街路灯

中八を解消する推敲を望みます。

73	筆まめな民生委員冬ぬくし

 <筆まめ>が面白いですね。熱心な民生委員を想像しました。

74	仕事始クレーンは今電波塔に

上六、下六の調べの悪さが気になりました。

75	天心に竜めく雲や寒の月

<天心>、<竜めく>とやや大袈裟な感じを受けました。「寒の月」も厳しい感じの季
語ですので、全て言い尽くしているように感じました。もう少し余情の句の方が良いよ
うに思います。

76	小正月背に抱き着きし子の余韻

<子の余韻>がよく分かりませんでした。

77	我が死後もかく在りなむや初景色

静かで厳かな初景色だったのですね。

78	初場所や大関孤軍奮闘す

報告気味の句のように感じました、

80	風花や雲くれなゐに富士の山

 素晴らしい風景ですね。

81	IH(アイ・エッチ)鍋の湯豆腐ゆるぎ初む

<IH鍋>に面白みがあるかどうか?

82	木々の間を炎立つごと寒暁

赤い情景を<炎>と見立てるのは常識すぎると思いました。

84	蝋燭と線香の香る冬座敷

<の>を省略すれば中八は解消されます。

85	豚カツで共通テスト木守柿

「木守柿」がどう効いているのかが分かりませんでした。<豚カツで>は勝負に勝つで
すか?

87	新之助の「毛抜」お見ごと初芝居

<お見事>と結論付けずに、感動した新之助の演技を描写してみてはどうでしょうか。

89	夫婦仲ちょつと考へ鯛焼を

奥さんのご機嫌を取るために鯛焼を買って帰る。私にも思い当たること多々です。

90	矢の射抜く弓道場の淑気かな

(国枝)弓始めだろう。私は三十三間堂の成人女子の弓始めを思いだした。乙女がきり
りと射貫くところに若さと淑気を感じた。

91	葉牡丹の渦全開にはや三日

「葉牡丹」「三日」と季重なりですが、<渦全開>が面白いかなと思いました。

92	餅二つ膨れてそつぽ向く夫

どうしてそっぽを向いたのかよく分りませんでした。私の思い違いかもしれませんが、
両頬が餅のように膨れたことを指しているのでしょうか? それでしたら餅を季語と見
なすには無理があると思います。

93	振り向かぬ子らを見送る三日かな

 何か切ないですね。

坪野さんの選です。

国枝隆夫氏評===============================

正月にせっかく我が家に来てくれたのだろう。帰るときに最後まで見送ったのに子供た
ちは振り向きもしないで帰ってしまった。そんな作者の思いと子供たちの行動の落差を
詠んだのが面白いし、悲しい。

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95	澄み渡る樹氷の峰の静けさや

<澄み渡る>で静けさは伝わりますので駄目押しの<静けさや>は省略してはどうで
しょうか。

96	背の伸びし子と並びをる初詣

何気ない光景ですが、感慨深いものがありますね。

坪野さんの選です。

99	元旦のエプロン新た厨妻

 主婦の心意気のようなものを感じました。

坪野さんの選です。

100	年明くる我は傘寿に兄百寿

 お歳の離れたお兄さんなのですね。お兄さんに負けないでください。

坪野さんの選です。

101	初孫の共通入試子は昔

<子は昔>は説明のような気がします。

103	開くには足らざる日ざし冬薔薇

 冬の日差しの弱さが「冬薔薇」を通じて描写されていますね。

105	峠より見遣るふるさと冬灯

この「冬灯」は遠景の建物の灯りですね。珍しい使い方だなと思いました。

(国枝)峠を歩いてふるさとを見下ろすと、実感がぴったりだと思うが、車で峠を越え
たときでも、ふるさとの冬の灯を見ると懐かしさがひとしお感じるのではないか。

106	年用意リュックに覗く牛蒡二把

色々なものが沢山入っているのか、余程長い牛蒡が覗いているのか、お正月への気持ち
が伝わってきました。

高橋幸子氏評================================

<リュックに覗く牛蒡二把>がいいですね。年用意の買い物。牛蒡は長いので、リュッ
クからはみ出しているのですね。これからきんぴらや肉巻きなど作るんだろうなあとつ
ぶやいている作者が見えてきました。

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108	カップ麺の器洗へる霜夜かな

最近のカップ麺は美味しいので、さほどの屈託はないと思いますが、もう少しましなも
のを食べたいなと言う気持ちが「霜夜」から伺えました。

国枝隆夫氏評===============================

一人暮らしだろうかまたは妻が不在なのだろうか。カップ麺で夜食をすませたのだが、
器を洗う動作に言いようのないさみしさが募ってくるのを共感した。

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110	ふらここの静かに垂るる月曜日

休日が終わって子供は学校で、ブランコは静かという理屈を感じました。

112	酔ひ覚ましの寒の水しむ夜更けかな

<酔ひ覚めの>とすれば五音に収まりますが・・・。

113	勤行の声響き合ひ淑気満つ

 大きなお寺を想像しました。壮観な勤行ですね。

坪野さんの選です。

高橋幸子氏評================================

<声響き合ひ>から、大きな寺で何人もの僧侶が勤行の経を上げている景だと思いま
す。正月のお朝事でしょうか。善光寺のお朝事のお経を聞いたことがありますが、お
正月ですと、まさに<淑気満つ>場面ですね。

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115	旅果てて死にどころ得し鯨かな

言い得て妙ですが、もう少し思い入れを抑えてもよいのかなと思いました。
 
116	冬菊を束ねて香り一つにす

理屈を超えた、なかなか面白い把握だと思いました。

坪野さんの選です。

118	薄紅の御嶽山や淑気満つ

夜明けでしょうか。御岳信仰のお山ならはの淑気ですね。

(国枝)長野県側から見た御嶽であろう。富士山の赤富士ほどではないが、初日の出に
薄紅の雪の御嶽が実にきれいに見えたことだろう。薄い赤にも凜とした寒さに淑気が見
える。

119	冬夕焼東の空に星ひとつ

視線が二つに分かれるという難しいところに挑戦しましたね。

120	初縫ひの針目の指のマニキュア

下四ですね。字足らずは絶対に避けてほしいです。

121	荒海の汐の香満てる水仙花

海岸に咲いている水仙ですね。良い風景ですが、水仙の香りと<汐の香>が折り合わ
ないのではと思いました。
 
第282回目 (2022年12月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 湾岸のコンビナートや冬深し ようこ(神奈川県)
   赴任地の天気予報は雪催 田中勝之(千葉市)
   冬麗や牛の鼻紋の大樹めく      小川めぐる(大阪)
   歳晩や骨董市の人だかり 水鏡(岐阜県)
   大川の光にまみれ百合鴎 まこと(さいたま市)
   銭湯の残る煙突冬の月 まこと(さいたま市)
   日の温み連れて取り込む干し布団 町子(北名古屋市)
   年の瀬やあてなくウインドショッピング きょうや(東京)
   駄菓子屋のあかり時雨の裏通り 石塚佳代子(埼む県)
   海鳴りや刃物の如き冬の月 櫻井 泰(千葉県)
【  伊藤範子 選 】
  特選 日の温み連れて取り込む干し布団 町子(北名古屋市)
   床店の裸灯に浮く大熊手 美佐枝(千葉県)
   赤蕎麦の咲きて連山遠くなり      中島(横浜市)
   親鸞忌灯明闇を深くして   隆昭(北名古屋市)
   えびせんの指を掠めて百合鴎 飴子(名古屋市)
   ポスターとなりて待伏す雪をんな 椋本望生(堺市)
   冬空の裾を刻んでビルの群れ ようこ(神奈川県)
   会へばまた昭和の話おでん酒 惠啓(三鷹市)
   マスクの色変へて休日出勤す 幹弘(東京)
   海鳴りや刃物の如き冬の月 櫻井 泰(千葉県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 ロボットが床を清める師走かな 東郷佳人(横浜市)
   石蕗咲いて今幸せと思ふなり 節彩(東京)
   水鳥の水尾緩やかに拡がりぬ      節彩(東京)
   アルパカの咀嚼してゐる小春かな 小川めぐる(大阪)
   床店の裸灯に浮く大熊手 美佐枝(千葉県)
   古里に友見舞う日よ枇杷の花 かよ子(和歌山市)
   会へばまた昭和の話おでん酒 惠啓(三鷹市)
   青空に冬桜映へ兄逝けり 佐藤けい(神奈川県)
   亡き母の文庫の朱線漱石忌 鷲津誠次(岐阜県)
   風花や天仰ぐこと多くなり 櫻井 泰(千葉県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 ポインセチア抱へ乗り込むエレベーター 康(東京)
   初雪の寝間に漏れくる明かりかな りきお(秋田県)
   アルパカの咀嚼してゐる小春かな      小川めぐる(大阪)
   雪催いパンタグラフに火花散る 神長誉夫(神奈川県)
   床店の裸灯に浮く大熊手 美佐枝(千葉県)
   古里に友見舞う日よ枇杷の花 かよ子(和歌山市)
   湾岸のコンビナートや冬深し ようこ(神奈川県)
   会へばまた昭和の話おでん酒 惠啓(三鷹市)
   亡き母の文庫の朱線漱石忌 鷲津誠次(岐阜県)
   海鳴りや刃物の如き冬の月 櫻井 泰(千葉県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、ようこさん(神奈川県)、町子さん(北名古屋市)、櫻井 泰さん(千葉県)、美佐枝さん(千葉県)、惠啓さん(三鷹市)でした。最高得点者が3名以上ですので、最多得点賞は該当者無しとなります。

【講評】


               2022年12月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	一葉落ちまた一葉落ち行く秋ぞ

 季重なりの句です。季重なりがすべて悪いとは言いませんが、「一葉落つ」は、桐の
葉がふわりと落ちることで秋の到来を知るというのが本意の季語です。秋の終わりを言
う「行く秋」との季重なりは無理があります。

2	出雲へは徒歩にてまゐる神の旅

 「神の旅」は想像上の季語ですが、その様子を空想すると楽しいですね。私は、神々
は高速で空を飛ぶか、瞬間移動などの方法で出雲へ行くのかと思っていましたが、徒歩
であるという伝承でもあるのでしょうか? 出雲から遠いところの神様だと、神無月の
間に往復をするのは難しいように思ってしまいました。

3	日溜りや小さき花を愛しむ秋

 上五の「や」は切字ではなく、並立を示す助詞でしょうね。作者の、身の周りの自然
と睦み合う暮らしが見えて来ます。

4	倒れても存在あるや葉鶏頭

 「存在ある」は「存在感がある」の意だと思いますが、それは作者の主観(思ったこ
と)です。俳句では、主観をそのまま述べるのではなく、物や現象を詠むことで、その
気持ちを読者に伝えましょう。

5	石蕗咲いて今幸せと思ふなり

 主観的な句ですが、冬に咲く石蕗の花に幸せを感じるというところが、しみじみとし
て良いですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈緩やかに〉が水鳥の水尾のゆったりしている様をうまく表現されていると思いまし
た。 

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6	水鳥の水尾緩やかに拡がりぬ

 「緩やかに」の措辞で、穏やかな小春日の様子と、それを見ている作者の心境が伝わっ
て来ます。

 奥山ひろ子氏評===============================


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7	如才なき接客技や冬温し

 何か買い物をされたとき、店員の親身な接客に心が温まったのでしょう。ただ、「如
才なき接客技」はちょっと漠然とし過ぎていて、具体的な買い物の様子や店員の振る舞
いが浮かんで来ませんでした。

8	野仏はいつも穏やか冬うらら

 「冬うらら」という季語が、温かさや穏やかさを伝えてくれますので、「いつも穏や
か」と言う必要はありません。そう見える具体的な点、例えば目鼻の形、表情、姿勢な
どを描写した方が良いと思います。

9	病棟にも聖樹の灯りまたたきぬ

 俳句では、「も」の使い方には注意が必要です。あれ「も」これ「も」と言いたくな
りますが、目の前の一点に焦点を絞った方が、読者に感動が伝わりやすくなります。こ
の句は、上五を「病棟に」とすれば、字余りも解消し、患者や医療スタッフの心を慰め
る聖樹の輝きがより鮮明に見えて来ます。

10	赴任地の天気予報は雪催

 新しい赴任地に行くことに、あまり気乗りがしていないのでしょうか? 「天気予報
は雪催」はやや冗長な感じの表現ですので、「雪の予報」「予報は雪」等とすると、推
敲の余地が生まれると思います。

11	冬ざるる京の一筋見失ふ

 「京の一筋見失ふ」の意味がよく分かりませんでした。「京の一筋」は京都の通りの
ことと思いますが、「見失ふ」は道に迷ったということでしょうか?

12	冬温し人生苦似た人と居て

 同じような人生経験を積んできた人と一緒にいる時の心の安らぎを詠まれた句と思い
ます。ただ、中七の「人生苦似た」は、無理やりに詰め込み過ぎた表現に感じました。

13	色とりどり桜葉落ちし道楽し

 「桜紅葉(さくらもみじ)」という季語はありますが、「桜葉落つ」という季語があ
るのか、疑問に思いました。

14	柿光る枝先に一人ぼっちで

 一つだけ、わざと取らずに残しておく「木守柿(きもりがき・こもりがき)」を詠ま
れたものと思いますが、木守柿自体が季語になっていますので、所謂「季語の説明」的
な印象を受けました。

15	門鎖して静もる午後の冬安居

 「門鎖して静もる」が、「午後」に係るようにも「冬安居」に係るようにも読めると
思いました。

16	冬ざくら鬼石の里に楚楚と咲く

 ネットで調べて、群馬県藤岡市の桜山公園のこととわかりました。「楚々と咲く」は
すでに冬桜のイメージに含まれているので、「季語の説明」的に感じました。

17	冬麗や牛の鼻紋の大樹めく

 面白い句材・着眼点です。季語も活きています。

18	アルパカの咀嚼してゐる小春かな

 この句は、「遠山に日の当たりたる枯野かな」と、まったく同じ構成です。文法的に
は中七と下五が繋がっていますが、意味的には中七に切れがあると解釈して、取り合わ
せの句として鑑賞したいところです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 楽しい作品ですね。たしかに咀嚼している姿は、のんびりしていて、「小春」の季語
がぴったりだと感じました。

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19	一張羅の絹の紋付初時雨

 一番上等の着物を着て、雨の中をどこに行くのでしょう?

20	歳晩や骨董市の人だかり

 年の瀬の様子が描かれています。年末の骨董市と言うだけで、人が多い様子が浮かん
できますので、もう少しユニークな着眼点があると、更に良くなると思いました。

21	地吹雪に咆える恐竜駅広場

 福井駅の恐竜広場でしょうか? 地吹雪の中で見る恐竜の像やトリックアートは、迫
力があるでしょうね。

22	鯛焼やむっと渋面つくりをり

 上五が「や」で強く切れていますので、「むっと渋面つくりをり」は鯛焼きのことを
言っているのではないと思いますが、誰なのでしょう?

23	懸命に生きる足音年の暮

 一年中、街中にはいろいろな足音が聞こえます。年の瀬には、それぞれの足音が、よ
り懸命に生きているように思えるのですね。

24	鮟鱇鍋今食べごろと湯気立てる

 じっと鍋を見て食べごろを待っていると、そんな風に見えるのでしょうね。

25	畳屋の電話途切れぬ年の暮

 腕の良い畳屋なのでしょうね。ただ、「畳替え」が冬の季語であるように、新年を迎
える前に畳替えをするのは当たり前に感じます。

26	海鳴りや吊るさる鱈の吼ゆるよに

 海鳴りの音を、干されている鱈の声と聞いたところがユニークです。

27	雪催いパンタグラフに火花散る

 陰鬱な天気を切り裂くように飛び散る火花が鮮烈です。

28	湯上りの幼児追ふ婆雪時雨

 上五中七の賑やかで元気な様子と、下五の季語がかみ合っていないように感じました。

29	終ひ湯に干菜袋と沈没す

 干菜風呂(干菜湯)ですね。沈没するとは、頭の先まで湯に沈んだということでしょ
うか?

30	ポインセチア抱へ乗り込むエレベーター

 ポインセチアは、クリスマスを連想させる冬の植物ですが、それを持ってどんな建物
を訪れたのでしょうか? 恋人の住むマンション等だと思うと、作者の高揚感が伝わっ
て来ます。

31	顔見世の客は誰しもマスクして

 コロナ禍の世相ですね。顔見世もマスクも冬の季語ですが、この場合のマスクはコロ
ナ対策ということで、季感は無いとみなして良いと思います。

32	甲高き鳥のひと声冬日燦

 冬日は、冬の一日という意味と冬の太陽という意味がありますが、この場合は太陽の
方でしょうね。日が射して温かみがある中にも、引き締まった冬の空気を感じます。

33	それぞれの思ひを酒に年忘

 年忘(忘年会)という季語の説明に感じました。

34	大学の坂木枯らしのまともなる

 木枯らしに負けずに、マントを着て大学の坂を上って行く昔の学生の姿を想像しまし
た。

35	俳諧味と切れが命や冬の虹

 俳句のことを言っているのだと思いますが、今更・・という気がしました。季語も唐
突に感じます。

36	味噌だれに火の粉貼り付く寒さかな

 五平餅等を炭火で炙っているのでしょうね。その景に寒さを感じたというのが、いま
ひとつピンと来ませんでした。

37	塵取りに掃きて山茶花日和かな

 「山茶花日和」で、散った花弁を掃除することも楽しんでいる作者の気分が伝わって
来ます。

38	点灯式終えて樅ノ木聖樹へと

 点灯を見守る人たちの表情が見えて来ます。

39	冬鷺立つ橋を境に一羽づつ

 橋の上流側と下流側に一羽ずつ鷺が立っているということでしょうか? それだけで
は句材としてあまり面白くないように思いました。

40	大川の光にまみれ百合鴎

 百合鴎は都鳥とも呼ばれます。都鳥と隅田川(大川)は切っても切れないイメージで
すので、ここは都鳥と思いました。

41	銭湯の残る煙突冬の月

 「残る煙突」の意味がわかりませんでした。銭湯は廃業して、煙突だけが残っている
ということでしょうか?

42	年逝くやいつ果つるとも疫の波

 本当に、いつになったらマスクをせずに外出できるようになるのでしょうか?

43	民話より出でて顔出す雪女

 雪女が実際に顔を出すことは無いと思うのですが…。

44	床店の裸灯に浮く大熊手

 「裸灯に浮く」で、夜の屋台店の様子が浮かんで来ますね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 酉の市の熊手を商うお店の句だと思いました。簡単な造りのお店の様子と、立派な熊
手とのギャップが面白いと思いました。

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45	影絵めく山は墨色山眠る

 「影絵めく」と「山は墨色」は、同じことを言っているように感じました。

46	園児つれ背広の上にちやんちやんこ

 なんとも珍妙な服装ですね。どういうシチュエーションなのでしょうか?

47	包丁を研いて白菜真二ぞ

 研いて→研いででしょうか?

48	赤蕎麦の咲きて連山遠くなり

 赤蕎麦(あかそば)は、長野県箕輪町のご当地蕎麦で、高嶺ルビーと呼ばれる品種ら
しいですね。蕎麦の花が咲く頃は、だんだん空気が澄んできて遠くの山が良く見えるよ
うになるのではないかと思うのですが…。

49	障子貼るバトンタッチをして指図

 障子貼りは重労働ですね。作業を誰かに替わってもらって指図する側になった作者。
詠み方が説明的なのが気になりました。

50	小気味よく昔ながらに稲を刈る

 鎌を使っての手刈りでしょうか? 「小気味よく」「昔ながら」を、もっと具体的な
景が見えるように詠むと更に良くなると思います。

51	老二人寡黙なままに夜は長し

 特に話すこともなく過ごす時間は長く感じられますね。季語としては、「夜長」「長
き夜」が一般的なので、「老二人寡黙なままの夜長かな」等でも良いように思いました。

52	吹く風に飛花落葉の村はずれ

 飛花落葉は季語にならないと思います。

53	落葉の目の前ひらり寂しけり

 落葉に寂しさを感じるというのは、句材としては平凡すぎるように思いました。

54	介護士と秋天探すインパルス

 一読、介護士とインパルスが秋天を探しているというように読めてしまいました。

55	親鸞忌灯明闇を深くして  

 灯りがあることで、闇がますます暗く感じられるのですね。

56	交差する飛行機雲や冬茜

 寂しい感じもする冬の夕焼けですが、こうした発見があると心にちょっとだけ温かみ
を感じますね。

57	木枯の止みて竹林寂となる

 木枯しそのものではなく、それが止んだ時の静寂に着目したのがユニークですね。

58	えびせんの指を掠めて百合鴎

 人に慣れている百合鴎なのですね。私もずっと昔、松島の遊覧船で、同じようなこと
をしたことがありますが、数年前に再訪したところ、カモメに餌をやるのは禁止されて
いました。

59	白墨の路地に絵遊び花八手

 懐かしい景ですね。「白墨の路地」という表現がちょっと不自然なので、「路地裏に
残るチョーク絵花八手」等、推敲してみてはどうでしょうか?

60	福の神めく猫写生漱石忌

 猫と漱石忌は付き過ぎに思えます。

61	喝采の手のひら銀杏落葉かな

 「喝采の手のひら」とは、どのような状態なのでしょう? 拍手をしているのであれ
ば、そこに銀杏の葉が乗ってくることはないと思いますが…。

62	青空を裂けて柘榴や粒光る

 空の青さと柘榴のルビー色の対比が良いですね。ただ、「青空を裂けて」という言い
回しが、よくわかりませんでした。

63	毛並み美し轢死の鹿の冬銀河

 「轢死の鹿の冬銀河」という表現がよく理解できませんでした。銀河を死んだ鹿に喩
えたのでしょうか? ちなみに、鹿は秋の季語です。

64	寄せ鍋のたぎち激しや魚の眼

 下五に意表を突かれました。魚の頭も入った鍋なのですね。

65	晩歳や言葉少なの案内所

 晩歳は歳晩の誤りでしょうか? 晩歳という言葉もありますが、年老いた時・晩年と
いう意味です。歳晩は年末を表す季語です。

66	鳥居抜け一歩ためらふ敷紅葉

 鳥居を境に、踏むのをためらうほどの紅葉が散っていたのですね。敷紅葉という季語
があるかどうか、ちょっと疑問に思いましたが、季感は十分に感じられます。

67	駅階段端に空列今朝の冬

 意味がよくわかりませんでした。急ぐ人のためにエスカレーターの片側を空けて立つ
こととは違うと思いますが…。

68	凩や遠に鈴鹿嶺誓子句碑

 三段切れですので、中七は「鈴鹿嶺望む」等、切れずに下五に繋がるようにした方が
良いと思います。

69	蒼鷹の鴉仕留むる鉤の爪

 鷹が烏を襲う瞬間を目撃されたのですね。鉤の爪は、鷹の描写としては少々平凡に感
じました。

70	古里に友見舞う日よ枇杷の花

 季語に作者の気持ちがよく表れていると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 同級生でしょうか。回復を祈る気持ちが、華やかさはあまりないですが、たくさん咲
いて、実もつける「枇杷の花」に託されていますね。

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71	降り始むけはひの聞こゆ小夜時雨

 「けはひの聞こゆ」は矛盾した表現に感じました。聞こえたのであれば、それはもう
気配では無いのでは?

72	初雪に子を想ふ身と子等の距離   

 降り出した雪に、遠くに住んでいる子を案じているのでしょうか? 「子を想ふ身」
は作者自身のことを言っているのだと思いますが、ちょっと分かりにくく感じました。

73	妣知らぬ今年の初雪村の夜

 通常、初雪と言えば「今年の」は不要ですが、敢えて「今年の」と付けているのは、
昨年の初雪が降った時には、お母様はまだご存命だったということでしょう。下五が
ちょっと取って付けた感がありますので、もう一工夫あると良いと思いました。

74	両腕に荷物一杯師走かな

 年末の買い出しですね。いかにも師走らしいですが、「いかにも」感が強すぎるよう
に思いました。

75	炭焼や釜に入りし兄のこと

 お兄様のことを回想されているのだと思いますが、「釜に入りし兄のこと」で何を言いたいのかがよく分かりませんでした。釜は窯かと思います。

76	一茶忌の雀ことづてありさうな

 「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」「われと来て遊べや親のない雀」等の句を踏
まえた句ですね。

77	ポスターとなりて待伏す雪をんな

 何かの喩えでしょうか?意味がよく分かりませんでした。「待伏す」という活用が可
能なのかも、疑問に感じます。

78	流行り病おさまりかけて年の暮

 第8波の声が聞こえてきますが、なんとか早く終息し欲しいですね。

79	牡蠣鍋や一人欠けたるメンバーで

 毎年決まったメンバーで牡蠣鍋を囲んでいるのでしょう。ところが、今年は一人欠け
ている・・。どうされたのか気にかかります。

80	初雪の寝間に漏れくる明かりかな

 雪明かりですね。風情があります。

81	冬雀一目百羽の遅れなし

 「遅れなし」の意味がよく分かりませんでした。

82	日の温み連れて取り込む干し布団

 若干、「季語の説明」的な感じもしますが、上手な表現で、布団の温みや太陽の匂い
も感じられます。今夜は気持ちよく眠れますね。

83	風呂吹きに息吹きかけて児に渡す

 情景が良く見えますが、句材としてやや平凡なのと、詠み方が一本調子な点が気にな
りました。

84	湾岸のコンビナートや冬深し

 冬ざれの工業地帯の様子が浮かんで来ます。一見句材にはならなそうな上五中七です
が、季語の斡旋が良いと佳句に仕上がる例ですね。

 武藤光リ氏評================================

    何の説明もないが、コンビナートを目にすることにより、寒々とした冬を実感でき
  る。心象の風景とも取れ、現代文明への警鐘とも受け取れた。

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85	冬空の裾を刻んでビルの群れ

 遠景のビルが林立している様子を、「冬空の裾を刻んで」と表現されたのでしょうか?
ちょっと分かりにくく思いました。

86	会へばまた昭和の話おでん酒

 私もその一人です。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈昭和の話〉と「おでん酒」が合いますね。流行った音楽、見たアニメ、読んだ本な
どでしょうか。

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87	風邪に臥し夢は枯野を彷徨へり

 「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 芭蕉」を下敷きにした句でしょうね。有名な句を参
考・下敷きにして句を作るのは良いですが、消化が不十分だとパクリの域を出なくなって
しまいます。

88	いくたりも遮断機くぐる年の暮

 年の瀬の慌ただしい様子が伝わりますが、危ないですね。

89	年の瀬やあてなくウインドショッピング

 中七の字余りを嫌ってのことと思いますが、「ウインドショッピング」は無理があり
ます。ウィンドーと書かないと別の意味になってしまいます。

90	冬空へ槌音高し屋根普請

 春の季語として、「屋根葺く」「屋根繕ふ」等があります。私の歳時記には載ってい
ませんが、「屋根普請」もその範疇となると思います。

91	思ひをば言ひ表はせず葱刻む

 どんな思いでしょう? 「言へず」ではなく「言ひ表はせず」としたのは、自分の語
彙では思いを表現できないということを言いたかったのでしょうか?

92	駄菓子屋のあかり時雨の裏通り

 陰鬱な天気の中で、ちょっとホッとする瞬間ですね。

93	捲れたるフェンスの破れ竜の玉

 「捲れたるフェンスの破れ」は、「破れたるフェンスの捲れ」ではないでしょうか?

94	対岸のぽつんぽつんと冬灯

 季語が動くように思います。春ともし、夏ともし、秋ともし・・・。

95	青空に冬桜映へ兄逝けり

 鮮やかな景に、より哀しみが募ります。

 奥山ひろ子氏評===============================

 すっきりとした冬空に冬桜。お兄様を慕う気持ち、弔う心が表れていますね。

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96	亡き母の文庫の朱線漱石忌

 忌日の句は距離感が難しいのですが、程好い距離に仕上がったと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 〈文庫の朱線〉が具体的で目に浮かびます。漱石好なお母様だったのですね。

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97	ロボットが床を清める師走かな

 面白い着眼点ですね。一年中活躍するロボット掃除機ですが、年末の大掃除にはより
重宝されるでしょう。

 奥山ひろ子氏評===============================

 現代の景を切り取った作品。私も見たことがありますが、句に詠むまでは至りません
でした。季語も効いていますね。新しい句材で時代をつかんでおられる印象を受けまし
た。
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98	古暦死に近づきし標しかな

 「門松は冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし 一休宗純」を思い出しま
した。

99	数へ日の街に流るる第九かな

 日本では、年末に第九が演奏されるのが慣例となっていますね。もともとは、オーケ
ストラやコーラス員の餅代稼ぎだったそうです。句材としては、ちょっと平凡に思いま
した。

100	軍配を煤竹にかへ武将隊

 武将隊というのがよくわからなかったのですが、ネットで調べたところ、PR大使とし
て全国各地にあるもののようですね。頼めば、大掃除の手伝いもしてくれるのでしょう
か?

101	クリスマスケーキ迷ふナイフの入れ処

 デコレーションを取り除いて、エイヤと切りましょう。デコレーションは、子どもた
ちの取り合いになります。

102	餌を撒きて鯉呼び寄せる冬日向

 鯉を主体として、「餌を撒けば鯉の寄り来る冬日向」とした方が、池の面に反射する
日の光も感じられるようになると思います。

103	冬ぬくし笑まふか山羊の四方の眼

 四方の眼の意味がよくわかりませんでした。

104	味噌開く香りはなやぐ蕪汁

 味噌開くとは、仕込んだ味噌を初めて開けることを言うのでしょうか? 私も良い香
りの味噌汁を食べたくなりました。

105	かいつぶり光溢るる水面へと

 作者の視点が、水中にあるように感じました。

106	堂裏は明るし石蕗の花盛り

 薄暗い感じのお堂の裏も、石蕗の黄色い花のおかげで明るく見えるのですね。「花盛
り」とは言わなくても良いように思います。

107	赦免請ふ俊寛の声虎落笛

 上手に作られた句と思いましたが、頭で作った感が拭えませんでした。

108	冬の蝶たどり着きたる隠れ里

 隠れ里の様子が具体的に見えてくると良いと思いました。

109	マスクの色変へて休日出勤す

 休日はちょっと気分を変えて・・・ですね。生活の中、そういうメリハリも大切です
ね。

110	着膨れて路上ライブに足を止め

 寒い中ですが、懸命に演奏する音に、思わず立ち止まってしまったのですね。

111	鴨描く静かな湖面のV(ブイ)の文字

 景は見えますが、「鴨の水尾」の一言で済んでしまうのではないでしょうか?

112	庭先に残る冬薔薇赤一輪

 花が少ない季節、一輪の真っ赤な薔薇は目を惹きますね。

113	海鳴りや刃物の如き冬の月

 句形も句材も良い句と思いました。

114	風花や天仰ぐこと多くなり

 雪(風花)と天仰ぐが、ちょっと付き過ぎに感じました。天を仰ぐことが多くなった
ということよりも、なぜ天を仰ぐのかがわかると、作者の気持ちがつかみやすいように
思います。


 奥山ひろ子氏評===============================

作者はなぜ天を仰ぐことが多くなったのか……。何か心に重いものを抱えているような
印象を受けます。でも〈風花〉という優しい季語により、作者には明日があるという希
望が感じられました。季節は師走。一年を振り返って、自分を顧みての作品と感じまし
た。
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