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選句結果
     
第235回目 (2019年1月) HP俳句会 選句結果
【  長崎眞由美 選 】
  特選 銭湯の番台小さき鏡餅 伊藤順女(船橋市)
   青竹のお猪口で賜ふお屠蘇かな 鶴翔(福岡市)
   寒梅や磴駆け上る柔道部      康(東京)
   賀状来て声聴きたくて長電話 磐空(神奈川県)
   初富士のうすくれなゐに染まる朝 伊奈川富真乃(新潟県)
   転職サイトボタン一つや鳥渡る 遊学(広島市)
   鉛筆を先ず削りけり初日記 梦二(神奈川県)
   ロケットの挙がる岬に冬の虹 きょうや(東京)
   夫起きる前の粧ひ初鏡 惠啓(三鷹市)
   鏡割禰宜より一片賜りぬ ときこ(名古屋市)
【  高橋幸子 選 】
  特選 焚火の輪嬶見初めし話など 吉田正克(尾張旭市)
   ファンデーション明るめにして初鏡 田中洋子(千葉県)
   凍空へパンタグラフの火花爆ず      ふじこ(福岡県)
   寒梅や磴駆け上る柔道部 康(東京)
   女正月友と囲みし地図の旅 雪絵(前橋市)
   大雪の電線伝ふ猿の列 比良山(大阪)
   冬ざるる田の面に深き轍跡 清風(鳥取)
   病室に小さき寝息や毛糸編む 蝶子(福岡県)
   寒風をつきて歩むやアイメート 和久(米原市)
   富士山へ続く鉄路や初明かり ぐ(神奈川県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 凍空へパンタグラフの火花爆ず ふじこ(福岡県)
   被せ藁の色やわらかに寒牡丹 田中勝之(千葉県)
   水仙の香る日溜り風溜り      吉沢美佐枝(千葉県)
   牛日の午後の各駅停車かな 小川めぐる(大阪)
   一条の水の光や寒の瀧 さいらく(京都)
   女正月友と囲みし地図の旅 雪絵(前橋市)
   東雲を背負ふ稜線初鴉 小林克己(総社市)
   初孫をてのひらに乗せ初湯かな きょうや(東京)
   薄明かり残す稜線月冴ゆる 美由紀(長野県)
   元朝や霊山雲を寄せ付けず 蝶子(福岡県)
【  坪野洋子 選 】
  特選 賀状来て声聴きたくて長電話 磐空(神奈川県)
   玉せせる競り子の裸身湯気のたつ 鶴翔(福岡市)
   水仙の香る日溜り風溜り      吉沢美佐枝(千葉県)
   珈琲にミルクの渦の三日かな 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   寒梅や磴駆け上る柔道部 康(東京)
   銭湯の番台小さき鏡餅 伊藤順女(船橋市)
   お持たせの風呂敷ほどく女正月 うさぎ(愛知県)
   糸程の絆となりし賀状かな さよこ (神奈川県)
   病室に小さき寝息や毛糸編む 蝶子(福岡県)
   笹鳴きや散歩の靴の紐を締む 和久(米原市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、伊藤順女さん(船橋市)、康さん(東京)、磐空さん(神奈川県)、ふじこさん(福岡県)でした。同点が3名以上なので、今月の最多得点者賞は無しとなります。

【講評】



      2019年1月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

 今月のHP句会の講評をアップするのに、大変遅れて申し訳ありません。全く私の個
人的な理由で皆さんにご迷惑をおかけしました。今月は最高得点句がなくて、横一線で
した。以下複数の選者から選ばれた句を中心に見ていきたいと思います。

凍空へパンタグラフの火花爆ず

 私の特選句で、最高得点に至らず横一線の句でした。

パンタグラフは電車のことでしょう。速く走るほど火花を出して走ります。寒々とした
空に放つ火花は実に感覚的な句だと思います。近代的な素材にも詩情が出てきます。パ
ンタグラフの句ではないですが、近代的な素材から発想した次の句があります。

  狐火が送電塔の辺に燃ゆる   能村研三

 この句も近代的な送電鉄塔で見ることがある火花から、「狐火」に発想を飛ばしていま
す。現代にもありそうな狐火が何とも不思議な現実感のある句に仕上がりました。この
ような句の感覚も感じて頂きたいと思います。

高橋幸子さん選評――――――― 

 季語の「凍空」がよく効いていると思います。芥川龍之介のエッセィにある描写のよう
です。
 

銭湯の番台小さき鏡餅

 最近、銭湯を見なくなりました。もしかしたら回想句でしょうか。昔は正月になると、
家中のどこにも鏡餅を飾ったものでした。その一つが番台に見つけた鏡餅です。これは
私の子供の頃の回想にもつながります。長崎マユミさんの特選句です。

長崎マユミさん選評――――――

 今でも営業している銭湯はきっと儲けなどを度外視して、細々やっているのでは?と
推測します。きっと働いている人もご高齢の方ではないでしょうか?そんな番台に小さ
な鏡餅が供えてあるのを見た作者は「いつまでも銭湯を続けてほしい」ときっと願った
ことでしょう。

高橋幸子さん選評―――――――

 景がよく見え、調べもいいですが、ただ類句がありそうです。


賀状来て声聴きたくて長電話

 日頃の友人であっても、年賀状のやりとりは欠かさない方も多いと思います。この句
は毎年年賀状のやりとりしている友人であってもすぐ会えない友人でしょうか。年賀状
をきっかけに長電話をしたところに友情の深さを感じます。女性らしい句だと思いまし
た。坪野洋子さんの特選句です。

坪野洋子さん選評―――――――

 上5中7の畳みかける調べに嬉しさや懐かしさがあり惹かれました。


寒梅や磴駆け上る柔道部

 私以外の選者3名とも採っています。この寒さの中、階段を駆け上る様子がよく見え
ます。多分白息を吐いて頑張っていることでしょう。

長崎マユミさん選評――――――

 柔道部のごつい一団が神社の磴を息弾ませて駆け上っているそばに寒梅が咲いている
景を想像しました。寒中に咲く梅の花、厳しい気候の中での花を咲かせる「寒梅」に柔
道部を持ってきたのが面白いと思いました。

高橋幸子さん選評―――――――

 柔道部の若者の鍛錬の白息が見えます。磴の傍らの寒梅が見守っているようです。

と皆さん好意的に解釈しています。私は一寸厳密に考えました。というのは駆け上がっ
ているのは柔道部でしょうか。組織ですね。駆け上がるのは人間の部員ではないでしょ
うか。そのあたりが気になりました。でも下5を「柔道部員」とすると、下7になって
しまいます。このあたりはもう少し工夫すれば、定型に入ると思いました。例えば下5
を柔道部員に限らず他のメンバーにすることで定型に収まる可能性があります。あとは
下5をいろいろ考えて下さい。


女正月友と囲みし地図の旅

 1月15日を「女正月」と言います。女性が集まるといろいろなおしゃべりが始まります
が、旅の話に飛んだ時の地図を囲んでおしゃべりしている様子がよく見えます。

高橋幸子さん選評――――――― 

「女正月」から、忙しさから解放されて集う仲のいい主婦達が思われます。
わいわいと地図を囲んで、世界旅行を話し合っていたのでしょうか。<囲みし>は過去
形ですが、<友と囲める>と現在完了形にした方が、臨場感が出ると思いました。


水仙の香る日溜り風溜り

 この句も複数の選者が採っています。「水仙」の匂いの在り処を「日溜まり」「風溜まり」
との重ね言葉としたところがよく効いています。水仙の匂いが日に当たっていて、風の
吹き溜まりにあるのが、よく匂ってきそうです。


病室に小さき寝息や毛糸編む

 高橋幸子さんと坪野洋子さんが採っています。高橋幸子さんの選評があります。

高橋幸子さん選評―――――――

 小さいお子さんが入院なさっているのですね。看病しているのは、お母様かお祖母様。
寝息を立てているのは快方に向かっているのでしょう。「毛糸編む」から、傍らに付き
添っている様子がよく表れています。


 以下一人だけの選者が採っている句を見ていきます。


牛日の午後の各駅停車かな

 私だけが頂きました。「牛日」は1月5日のことです。正月気分がいささか薄れてくる
頃の季語です。正月の時候の季語で「二日」〜「四日」などはよく使われますが、実は松の
内の季語には一日から始まってそれぞれ、「鶏日」「狗日」「猪日」「羊日」「牛日」「馬
日」そして七日は「人日」となります。「人日」はよく使われますが、他の日はほとんど
「〇日」と日数で詠んでいます。この句は正月気分が薄れて、本格的に仕事が始まった気
分がよく出ています。


焚火の輪嬶見初めし話など

 高橋幸子さんが特選に採っています。

高橋幸子さん選評―――――――

 「焚火の輪」が上手いですね。中七・下五から、男衆が焚火を囲んで談笑している様
子が見えます。嬶(かかあ)自慢を聞いてみたいものです。


ファンデーション明るめにして初鏡

高橋幸子さん選評―――――――

 女性らしい御句。上五・中七が新しい年への希望を感じさせます。


富士山へ続く鉄路や初明かり

高橋幸子さん選評―――――――

 新年を寿ぐにふさわしい御句としていただきました。<富士山へ続く鉄路>が「初明
かり」に神々しくイメージされます。


青竹のお猪口で賜ふお屠蘇かな

長崎マユミさん選評――――――

 青竹のお猪口でお屠蘇をいただくなんて、洒落ているなあと思い、いただきました。
青竹の匂いも感じられます。しかし、<お猪口><お屠蘇>の二つの〈お〉が気になり
ました。また、「賜ふ」を頂戴すると取れば、「青竹の猪口で賜はるお屠蘇かな」です
ね。


転職サイトボタン一つや鳥渡る

長崎マユミさん選評――――――

 終身雇用がもてはやされた時代から世の中は変わり、自分の可能性を求めて転職を希
望する人が増えています。それも転職サイトのボタンを押すだけで簡単に入っていける
時代、「ビズリーチ」と笑うコマーシャルが浮かびました。季語「鳥渡る」が響きまし
た。


ロケットの挙がる岬に冬の虹

 長崎マユミさんが採っています。

長崎マユミさん選評――――――

ロケットの挙がる岬は鹿児島?最近、金属球を落として人工的に流れ星を作るためのロ
ケットが打ち上げられました。そんな近代的な事象に儚く美しい「冬の虹」の季語が効
いていると思いました。なお「ロケットの挙がる岬や冬の虹」と切れを入れるとより二
物が際立つのではないでしょうか?


初孫をてのひらに乗せ初湯かな

 初めて我が子が生まれた時、おそるおそる風呂に入れたことがあり、それを思い出し
ました。「てのひらに乗せ」がその経験の不十分な様子が見えてきます。いわゆる孫俳
句は甘くなりますが、詠む題材としては豊富です。私の句で恐縮ですが、〈子の臀を胡
坐にいれて西瓜食ぶ〉という句も作りました。


冬ざるる田の面に深き轍跡

 高橋幸子さんが採っていますが、私も取りたかった句でした。地味ですが、写生がよ
く効いています。ただこの時期、田んぼに轍があることを詠んだのは良くあるかも知れ
ません。

高橋幸子さん選評―――――――

「冬ざるる」と<深き轍跡>が映り合って感慨を呼びます。<深き轍跡>はコンバイン
かトラクター。雨が続き乾かぬ田での作業が思われます。


寒風をつきて歩むやアイメート

「アイメート」は盲導犬のことです。高橋幸子さんが採っています。

高橋幸子さん選評―――――――

「アイメート」は、盲導犬のこと。長い訓練を積み、盲目の主人を安全に導く盲導犬。
<寒風をつきて歩むや>から、主人を守る堂々たる盲導犬の風格に、感動している作者
が見えます。


以下気の付いたことを投句順に述べさせて頂きます。

しんしんと積もりゆく雪音も無く

 「しんしんと」は一種の擬態語ですが、こういう場合、言葉のダブりに注意したいも
のです。「しんしんと」には「雪」を連想し、「音も無く」に言葉のダブり感を感じました。

灰色の濃さの増しつつ時雨雲

 「灰色の濃さ」の雲はまさに「時雨雲」です。と言うことは「灰色の濃さ」は「時雨雲」の
説明になっています。


正月の茅の輪潜れる共白髪

高橋幸子さんコメント―――――――

 <潜れる>が気になりました。<茅の輪を潜る共白髪>では。


珈琲にミルクの渦の三日かな

 坪野洋子さんが採っていますが、次のようなコメントを頂きました。

坪野洋子さんコメント―――――――

 頂きましたが、中7の説明的な「ミルクの渦の」が見えるような言葉「ミルク渦なす」
だったら特選で頂きました。


池に映ゆ初雪まとふ金閣寺

 上5の「池に映ゆ」は終止形ですから浮いた感じでした。この上5は中7の「初雪」にか
かっていますので、本来は「池に映ゆる」ですが、上6となるので、「池に映ゆ」としたの
でしょうか。また中7の「まとふ」は連体形であることは承知していますが、全体的に
三段切れの印象を受けました。これに対して、高橋幸子さんが選評を寄せています。

高橋幸子さんコメント―――――――

順番を入れ替えるとすっきりすると思います。<金閣寺初雪まとひ池に映ゆ>


丹波路の闇深ければ牡丹鍋

 「闇深ければ牡丹鍋」は因果関係を詠んでいるようでしたが、この因果関係が結構飛躍
しているので、面白かったと思います。


初雀今日は愛しき声なるや

 新年の雀は「愛しき声」だろうとの理屈が見えるようでした。


室の花耳鼻科に待つや盲導犬

 この句も三段切れの印象を受けました。中7の「や」を止めればうまくつながると思い
ました。「室の花耳鼻科に待てる盲導犬」なら普通につながりますが、平凡なところを
避けたかったのでしょうか。


福袋満足そうに両手かな

 「かな」は上5,中7の全体を受けて感動を大きく受け止める切れ字です。と言うこと
は一連の流れを受け止めますが、このとき途中で切れを入れない場合がほとんどです。
この句では「満足そうに」と切れがありますので、「かな」が浮いた感じです。「福袋満足
そうな両手かな」とすれば「かな」が効いてきます。


散つてなほ花くれないの寒椿

 「寒椿」は「散つて」がありますので、花のことですので、中7にある「花くれないの」の
「花」は要らないと思いました。「散つてなほくれない色の寒椿」あるいは「散つてなほ
色くれないの寒椿」とすれば問題ないと思います。


妙齢の人と相席初電車

「妙齢の人」というと、若い女性と言うことは分かりますが、「妙齢」が抽象的なので、
もう少しこの女性を具体的に写生すればよかったと思いました。


無医村の双子の産声初茜

 上5などは時に字余りが見られますが、中7は極力7音に収めたいものです。ここで
は中8音になっています。


鉛筆を先ず削りけり初日記

 実感のある句です。鉛筆を削ることによる気構えが見えます。ただ「けり」の過去形が
よいか、現在鉛筆を削っている様子ですから、現在形がよいかと思います。また「けり」
という文語で述べるなら「先づ」ですね。ということで「鉛筆を先づ削りをり初日記」な
ら問題ないと思います。


ロケットの挙がる岬に冬の虹

 高橋幸子さんと長崎マユミさんがそれぞれ選評されています。

高橋幸子さんコメント―――――――

 <挙がる>は<上がる>ですね。

長崎マユミさん選評――――――

 ロケットの挙がる岬は鹿児島?最近、金属球を落として人工的に流れ星を作るための
ロケットが打ち上げられました。そんな近代的な事象に儚く美しい「冬の虹」の季語が
効いていると思いました。ただ「ロケットの挙がる岬や冬の虹」と切れを入れると、よ
り二物が際立つのではないでしょうか?


夫起きる前の粧ひ初鏡

 長崎マユミさんが採っていますが、こんな奥さんがいれば幸せですね。私には縁が
ないです。


初場所の桝席からの土俵入り

 「桝席からの土俵入り」の位置関係がよく分かりませんでした。


元日やほのかに仏花香りけり

 よほどのことがない限り「や」「けり」の強い切れ字は1つにしたいものです。中村
草田男の「降る雪や」は特別の場合と考えて下さい。


水仙の黄色い口やぽっかりと

 この句の「や」の切れ字は場面展開でしょうか。それとも強調の「や」ですか。一般に
「や」の強い切れは場面展開に使われます。試しに中7を「黄色い口の」と変えてみて
も意味は通じますから、この「や」の切れ字に戸惑いを感じました。


探梅や机の奥の地球ゴマ

 「探梅」と「地球ゴマ」の気の利いた取り合わせだと思いましたが、一方は屋外、一方は
室内を詠んでいますから、視線の違いに違和感を持ちました。


投扇興袖添ふ指の白さかな

 「投扇興」とは随分雅な遊びですね。やったことがないので分かりませんが、「袖添
ふ指」の状況がよく分かりませんでした。それは「袖添ふ」と終止形で切れているからで
しょうか。


鏡割禰宜より一片賜りぬ

 「鏡割」は行事、「賜りぬ」は餅のことですから、ちぐはぐで分かりませんでした。行事
を貰う訳ではありませんので、上5は「鏡餅」でよいかと思いました。


松真の仏花作れり年用意

 「松真」はよく分かりませんでした。仏花を作るのですから、「松の芯」の間違いです
か。

 今月は以上です。また来月も佳句に会えるのを楽しみにしています。

第234回目 (2018年12月) HP俳句会 選句結果
【  伊藤範子 選 】
  特選 立ちかけて転ぶ牛の仔深雪晴 きょうや(東京)
   一軒の銭湯灯る霜夜かな 森元恵美子(愛知県)
   ここだけのことと夜咄盛り上がり      筆致俳句(岐阜市)
   慣れぬ手へ稚わたしたる柚子湯かな 伊奈川富真乃(新潟県)
   街騒のしづむ一隅聖夜弥撒 伊奈川富真乃(新潟県)
   山あひに唸る試走のラッセル車 小林克己(総社市)
   秩父夜祭白き腕を見せて曳く 正憲(浜松市)
   暮れ早し一人を拾う路線バス 小夜子(神奈川県)
   編み上げしセーター胸にそつと当て 町子(北名古屋市)
   初富士や母の柏手たからかに まどん(東京)
【  武藤光リ 選 】
  特選 時雨るるや指先欠けし仁王像 ときこ(名古屋市)
   茶柱の白磁にすくと冬の朝 遊泉(名古屋市)
   一軒の銭湯灯る霜夜かな      森元恵美子(愛知県)
   ここだけのことと夜咄盛り上がり 筆致俳句(岐阜市)
   その中にギリシャ文字めく枯蓮 正憲(浜松市)
   立ちかけて転ぶ牛の仔深雪晴 きょうや(東京)
   炊出しの湯気のかたはら落葉舞ふ 長谷川妙好(名古屋市)
   手袋を咥えて結ぶ御籤かな 安来(埼玉県)
   ぼろ市や右足のみの靴木型 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   哀楽も喜怒も包みて日記果つ 清風(鳥取)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 立ちかけて転ぶ牛の仔深雪晴 きょうや(東京)
   入荷本並べ切り傷年の暮 田中勝之(千葉県)
   声色を変ふる車掌や渓紅葉      加藤剛司(名古屋市)
   母いまだ麻酔の床に小夜時雨 加藤剛司(名古屋市)
   冬ぬくし路面電車のみかん色 小川めぐる(大阪)
   薄日さす障子赤子の深眠り 康(東京)
   年の瀬や爆ぜる薬缶の注ぎ口 とかき星(大阪)
   ムンク展の余韻や冬の大落暉 妙子(東京)
   手袋を咥えて結ぶ御籤かな 安来(埼玉県)
   遠ざかる夜汽車のランプ息白し    じゃすみん(新潟県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 立ちかけて転ぶ牛の仔深雪晴 きょうや(東京)
   母いまだ麻酔の床に小夜時雨 加藤剛司(名古屋市)
   冬濤や訪ふ人もなき曾良の墓      鶴翔(福岡市)
   一軒の銭湯灯る霜夜かな 森元恵美子(愛知県)
   冬ぬくし路面電車のみかん色 小川めぐる(大阪)
   蹲に落葉ほとびる日暮れかな 小川めぐる(大阪)
   薄日さす障子赤子の深眠り 康(東京)
   街騒のしづむ一隅聖夜弥撒 伊奈川富真乃(新潟県)
   手袋を咥えて結ぶ御籤かな 安来(埼玉県)
   笹鳴や数へて上る石の段 小春(神戸市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、きょうやさん(東京)でした。「伊吹嶺」12月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2018年12HP句会講評        渡辺 慢房

1 仙台の言葉おっとりりんご着く 

 仙台に居る作者のところに林檎が届いたのか、仙台からの林檎が作者のところに届い
たのか?? 仙台の言葉は、語尾に「だっちゃ」が付くのが特徴ですね。 私も仙台に
住んでいた学生時代には、「んだっちゃ」(そうですよ)などと言っていたのを懐かし
く思い出しました。

2 茶柱の白磁にすくと冬の朝 

 茶柱の凛とした感じ、白磁の茶碗の輝きや温みを、季語が引き立てています。ただ、
「茶柱」だけで、読者はその様子を思い浮かべることができますから、「すくと」は説
明過剰かと思いました。

3 枇杷の花近くにあらば軽く噎せ 

 アレルギーでしょうか? 内容が事柄の説明で、散文的なのが気になりました。

4 塗装屋の段取り八分冬晴るる 

 さぁこれから仕事にかかるぞという、ペインターの顔が見えて来ます。「段取り八分」
が、写真に写せるような具体的な景で表現できると更に良いですね。

5 入荷本並べ切り傷年の暮 

 本のカバーなどのエッジで手を切ってしまったのでしょうか? 年末のせわしさが感
じられます。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 暮はお正月の休刊もあってたくさんの雑誌が入荷しますが、そんな忙しさの中本の紙
で指を切ってしまったのでしょうか。乾燥した空気とあわただしいお仕事ぶりが感じら
れました。

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6 手に馴染むこま板手入れ年の暮 

 こま板は、蕎麦などを切るのに使う当て板ですね。年の暮→年越し蕎麦→こま板と、
季語がやや付き過ぎに感じました。

7 高木の柿はもげずにカラス餌 

 俳句というよりは、ありきたりのことをそのまま述べた散文です。

8 公園の色衰えて山粧ふ 

 「公園の色」が具体的に何を指すのか? また、その色が衰えるとはどういうことな
のかがよくわかりませんでした。「衰えて」は現代仮名遣い、「装ふ」は歴史的仮名遣
いですので、一句に混在させるのは良くありません。

9 声色を変ふる車掌や渓紅葉 

 いつもの事務的な口調から、ぱっと明るい声の調子に変わったのでしょうね。「声色」
という表現が、物まねなどを連想させる点が少々気になりました。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 電車かロープウエイの車掌さんでしょうか。抑揚をつけて渓紅葉をガイドしているの
かと思いました。楽しい観光気分がうかがえました。

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10 母いまだ麻酔の床に小夜時雨 

 季語が、作者の安堵と不安が入り混じった複雑な気持ちを物語っています。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 術後のお母さまに対する少し不安な気持ちが「時雨」から感じられました。早く目覚
めて回復の希望を見出したいとの作者のもどかしいお気持ちが「いまだ」の措辞から伝
わってきました。

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11 飛翔鶴待つカメラマン落葉径 

 「鶴」と「落葉」の季重なりです。どちらも強く効いていますので句の焦点がぼやけ
てしまいました。

12 素朴さの深む竹筒冬薔薇 

 「竹筒に活けられた冬薔薇の素朴さが深まる」という意味でしょうか? 句をそのま
ま読むと、竹筒の素朴さが深まって、それとは別に冬薔薇があるように思えます。

13 ぼたん鍋花背鞍馬は雪催 

 「牡丹鍋」と「雪催」の季重なりです。

14 熱燗や鬼籍となりし父と母 

 「鬼籍に入る(いる)」という慣用表現はよく聞きますが、「鬼籍となる」や「鬼籍
になる」という言い方はあまり聞き覚えが無く、違和感を覚えました。

15 筑波嶺の裾廻の冬田打ち返す 

 山が「筑波」でなくても良いように感じました。「冬田打ち返す」は、「冬耕」とい
う一季語で言えます。

16 冬田道あふぐ筑波の嶺二つ 

 中七下五は、一年中変わらない景で、季語が動くように思いました。

17 海を向く「はらほげ」地蔵冬夕焼け 

 最近は、知らない地名なども簡単にネットで調べられますので便利ですね。はらほげ
地蔵は、満潮時には海に浸かってしまう六地蔵のこととわかりました。「海を向く」で
すと、いつもは違う方に向いていたりする地蔵が、たまたまその時は海の方を向いてい
たというように思えます。「海へ向く」あるいは「海に向く」の方がしっくり来るので
はないでしょうか。

18 冬濤や訪ふ人もなき曾良の墓

 壱岐の島で亡くなった河合曽良の墓は、観光スポットといえど、訪れる人は少ないの
でしょうね。季語の冬濤が効いています。

19 大津絵の鬼踊り出す師走かな 

 「大津絵の鬼踊り出す」というのが、師走の様子や雰囲気を表すために作者が考えた
比喩表現なのか、それとも別な特別な意味を持つのかがわかりませんでした。いずれに
しても、なぜ描かれた鬼が踊るのでしょう?

20 たく鉢の僧練り歩く町師走 

 托鉢を「たく鉢」と表記されたのには、特別な意図があるのでしょうか? 托鉢僧が
歩くのは師走に限ったことではないと思いますので、冬や年末の雰囲気が感じられるよ
うな、托鉢僧の様子が具体的に見えると良いと思いました。

21 一軒の銭湯灯る霜夜かな 

 寒い夜に向かう銭湯の明かりは、ひときわ恋しく温かく感じられるでしょうね。

22 ぞろぞろと猫の寝そべる冬うらら 

 「ぞろぞろと猫の寝そべる」というのは、面白い表現ですね。冬麗で暖かい日なので
猫が寝そべっているという理屈が感じられるのが、ちょっと気になりました。

23 連絡船三等室の毛布かな 

 「毛布かな」と詠嘆されていますが、毛布に何を感じられたのかが句から読み取れま
せん。

24 残されし離婚届や木の葉髪 
25 調停の帰路の街並み鉢叩

 24と併せて読まないと25の意味がわかりませんので、一緒にさせて戴きました。どち
らも季語の斡旋が巧みで、感情を直接言う言葉が無くても、作者の心情が伝わってきま
す。これ以上、何を申し上げたら良いのかわかりませんが・・・。

26 叱られて猫そそくさと炬燵入る 

 「そそくさと」に猫の表情まで見えるようですね。切れが無く、散文的なところが気
になりました。

27 ここだけのことと夜咄盛り上がり 

 散文的で、季語の説明になっているような感じを受けました。

28 冬ぬくし路面電車のみかん色 

 「みかん色」が、何とも言えない温かみを感じさせ、季語を引き立てています。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 みかん色=オレンジなのでしょうか。可愛らしい色ですね。こんな色の電車が走って
いる町は、雰囲気が明るいと思います。そんな明るい雰囲気が「冬ぬくし」の季語に表
れていると思いました。

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29 蹲に落葉ほとびる日暮れかな 

 詫び寂び匂う句ですね。中七を連体形として文法上は切らずに、意味的には切って下
五の「かな」を響かせるというテクニックです。

30 薄日さす障子赤子の深眠り 

 静謐な和室の赤ちゃんの寝息と、それを見守る作者の視線が感じられます。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 よーく眠っている赤ちゃんのいる部屋は、和室で明るい障子があるという平和な場面
に共感いたしました。癒されますね。

=================================

31 綿虫や道幅広き屋敷町 

 形の良い句ですが、「道幅広き」が屋敷町の説明的に感じられます。もう一歩踏み込
んだ観察が欲しいと思いました。

32 慣れぬ手へ稚わたしたる柚子湯かな 

 慣れぬ手の主は誰? 稚が渡したのは何? と、句の意味が良く取れませんでした。

33 街騒のしづむ一隅聖夜弥撒 

 街騒と聖夜弥撒の対比が印象的です。映画のワンカットのようですね。

34 「株下落」凍雨の電光掲示板 

 季語の凍雨は、作者の心象でもあるのだと思いますが、株下落という事象に対して付
き過ぎで、説明的に感じました。

35 行員の俯きがちに冬の雨 

 冬の冷たい雨は、人々を俯きがちにさせるという点には同感ですが、特に銀行員を詠
み込まれた理由がわかりませんでした。

36 愉しきを書き置くための日記買ふ 

 作者のポジティブな生き方が伝わります。

37 大木に雀群れきし時雨かな 

 時雨が降ってきたので、雀が大木に雨宿りに集まってきたという因果関係・理屈が感
じられます。中七で切って、たとえば「神木に群るる雀や村時雨」のようにすると、理
屈っぽさが軽減されると思います。

38 三つ指の頬を火照らす紅ずわい 

 紅ズワイ蟹が自分の頬を火照らしているのか、誰かの頬を紅ズワイ蟹が火照らしてい
るのか? そもそも三つ指の頬とは?? 句の意味がよく分かりませんでした。

39 脱ぎ散らす星の抜け殻下紅葉 

 「脱ぎ散らす星の抜け殻」の意味が分かりませんでした。

40 穢れなき日の香を宿す冬紅葉 

 ぱっと見は、高尚で詩的に見えますが、「穢れた日の香」というものがあるのかな?
と考えると、内容が薄いように思えてしまいました。

41 山あひに唸る試走のラッセル車 

 冬に備えての風景の一つですね。「山あひ」「唸る」「試走」等の言葉は、具体的な
映像に乏しく、説明的な感じがしますので、より具体的な「物」を詠まれると臨場感が
増すと思います。

42 年の瀬や爆ぜる薬缶の注ぎ口 

 年の瀬のせわしさを感じるものを、面白いところに見つけましたね。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 「年の瀬」「爆ぜる」の何となく気ぜわしい追い立てられるような言葉の重なりが、
面白いと思いました。「薬缶の注ぎ口」という具体的な部分の写生の手法も巧みだと感
じました。

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43 冬波や萩の城下は対岸に 

 中七下五で説明をせず、萩の町の具体的な描写に徹すると更に良くなると思います。

44 介護食薄味にせりおでん鍋 

 介護食だから→薄味にした という説明とせずに、おでんを食べている人の様子を具
体的に写生しましょう。食べている人が介護を受けていることがわかれば、おでんの味
付けなども読者が想像してくれます。

45 着ぶくれて長々待つや受診日 

 下五の字足らずは、句のリズムを壊滅的にします。よほどのことが無い限り避けましょ
う。

46 秩父夜祭白き腕を見せて曳く 

 一般的な祭りは夏の季語ですが、秩父夜祭は12月に行われ、冬の季語となっていま
す。寒い中で、女性が着物の袖を捲り上げて山車を曳く姿は、見ている人たちにとって
はひときわ印象的でしょうね。

47 その中にギリシャ文字めく枯蓮 

 「その」は枯蓮のことを指しているのでしょうか? そうだとすると、「枯蓮の中に
ギリシャ文字めく枯蓮」となり、意味がわかりませんでした。

48 お向ひは一人住居や枇杷の花 

 「お向ひ」「一人住居」など、言葉が練られていないような印象を受けました。隣人
の人物像が具体的に見えるように詠むと良いと思います。たとえば、「一人居の庭の箒
目枇杷の花」

49 工事現場覗く子二人冬夕焼

 「工事現場覗く」を、もっとリアルな景が見えるようにしたいですね。「崩されしビ
ル見遣る子や冬夕焼け」

50 椋の群庁舎の森の闇覚ます 

 都会でも、椋鳥はねぐらを求めてやってくるのですね。暗いうちからうるさく鳴き始
める様子が良く描けていると思います。

51 磨ぎ汁の鉢をうるほす去年今年 

 鉢植えの植物に、米の研ぎ汁をやっているのでしょうか? 季語が動くように思いま
した。

52 また一人逝ってしまった十二月 

 作者に近い方がお亡くなりになったのだと思いますが、人が死ぬのは師走と限っては
いませんので、季語が動くように思います。

53 立ちかけて転ぶ牛の仔深雪晴 

 選者全員が戴いている句です。「立ちかけて転ぶ」仔牛も最終的には立ったのでしょ
うから、「転びつつ立つ牛の仔や」「転びつつ立ちし牛の仔」等とした方が、より季語
が活きるように思いました。

■伊藤範子氏評 =========================

仕草が愛らしく、〈深雪晴〉の美しい大自然の中で仔牛の命が輝いてみえました。

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■奥山ひろ子氏評 ========================

 特選に頂きました。生まれたばかりの仔牛が必死に立とうとしている…それだけでも
詩になる景ですが、季語の「深雪晴」がさらに外の明るさや土地の様子を語り、情景が
わかりました。牧場全体で仔牛の誕生を喜び、応援しているあたたかさが伝わってきま
した。
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54 寒月や世には動じぬ盧遮那仏 

 中七が、下五の写生というよりは、説明になってしまっているように思いました。

55 細雪石段に足音ひとつ 

 何の石段かがわからないため、具体的な景が見えませんでした。

56 深閑や巨樹の降り敷く銀杏黄葉 

 「深閑」のような副詞に切字の「や」を付けるのには違和感を感じます。「静寂や」
のように名詞に付けるのであれば自然に思うのですが・・・。「巨樹の降り敷く」も、
日本語として不自然さを感じます。

57 ムンク展の余韻や冬の大落暉 

 「余韻や」は不要です。それを言わずに、余韻に浸っている気持ちを伝えるのが俳句
です。「冬の大落暉」は「冬落暉」で十分ですので、その分言葉がつかえますね。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 「ムンク展」はきっと刺激的なのでしょうね。その「余韻」に負けないくらいの「大
落暉」が作者の眼前に…。「ムンク」と「大落暉」の響きが印象的でした。

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58 茶の花や地鳴きの声のちらばりて 

 地鳴と言えば「声」は不要です。「散らばりて」も地鳴の説明に感じられます。

59 冬鷺の飛び立つ姿われ忘る 

 「我を忘れる」と説明をせずに、その気持ちを「物」に托して伝えるのが俳句です。

60 ベストセラー棚に師走のキン肉マン 

 キン肉マンはかなり古い漫画ですが、最近またリバイバルで流行しているのでしょう
か? いずれにしても、季語がまったく利いていません。

61 一葉忌糠床返す朝厨 

 糠床を誰かに返却したのでしょうか? 底からかき混ぜるという意味でしたら「反す」
とした方が良いと思います。

62 道端に暗き骸の手袋よ 

 手袋の落とし物だと思います。「暗き骸」という比喩が、五本の指があたかも手足の
ように見えて、なるほどと思いました。

63 折りかけの鶴の朱色や置炬燵 

 鶴が折りかけであること、またそれが朱色であることに、どんな感慨を感じておられ
るのかが伝わってきませんでした。

64 燗瓶の熱きを渡し神楽宿 

 燗瓶を、誰が誰に渡しているのか? 句を通して人々の姿や表情が見えると良いですね。

65 炊出しの湯気のかたはら落葉舞ふ 

 良い句ですが、やや散文的なのが気になりました。「傍ら」「舞う」などの言葉を整理して、炊き出しをする人、受ける人の姿が見えるようになると良いですね。

66 露天湯の湯気にかすむや冬の月 

 周りが寒いので湯気が濃いのでしょう。手足を伸ばして至福の一時ですね。

67 腕つぷし強き街路の冬木立 

 「腕つぷし強き」が「街路」に係っているようにも思えますが、「冬木立」の方に係
るのでしょうね。葉を落とした冬の木は寒々として、「腕つぷし強き」がぴんと来ませ
んでした。

68 手袋を咥えて結ぶ御籤かな 

 着眼点が良いですね。句姿もきれいです。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 御籤は「大吉」だったのでしょうか?よかったときは「結ぶ」で、凶のような悪かっ
たときは縛るのだと聞いたことがあります。「手袋を咥えて」の動作の写生がいいと思
いました。

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69 佐渡島や雨後に溶けゆく冬夕焼 

 作者は佐渡島に居るのか、それとも佐渡島を望んでいるのか、立ち位置がよくわかり
ませんでした。「雨後に溶けゆく冬夕焼」も、意味を取りにくく感じました。

70 漂着の瓶のラベルや冬の月 

 季語が動きます。

71 鼻先に柊の香り朝の香り 

 意地悪するわけではありませんが、突っ込みどころ満載の句です。柊だけでは季語に
ならず、柊の花としなければなりません。柊の香で、花の意味とするのは少々無理があ
ります。匂いを鼻先で感じるのは当たり前ですし、「朝の香り」は具体性がありません
ので、句を整理すると「柊(の花)の香」だけになってしまいます。中七下五の字余り
も戴けません。

72 北風や洋弓の矢的逸らす 

 風が吹いたので矢が逸れたという、因果関係を言っている理屈の句です。中七の字足
らずもいけません。

73 雛僧の経唱えつつ落葉掻く 

 今ではなかなか見られない景でしょうね。懐かしい感じがします。

74 図書室のガラス戸越しに冬日ふと 

 下五を「冬日ふと」とした意図が分かりませんでした。「〜の冬日かな」で良いと思
いますが…。

75 暮れ早し一人を拾う路線バス 

 普段の街角の普段の光景ですが、どこか懐かしさを感じさせる句ですね。「暮れ早し」
は「暮早し」と表記した方が俳句らしく、締まった感じがします。

76 下校児は逢魔が時や暮れ早し 

 日暮れが早いから、下校時にとっては物騒だという理屈であり、説明的です。

77 遠ざかる夜汽車のランプ息白し

 雰囲気のある句ですね。ただ、「遠ざかる夜汽車のランプ」は、昭和の歌謡曲的な、
やや使い古された言い回しの感じがしました。

■奥山ひろ子氏評 ========================

 映画のワンシーンのようですね。「遠ざか」って行くものが「夜汽車」でなく「夜汽
車のランプ」である点が焦点が絞られていてはっきり浮かびます。
「息白し」の季語も、寒さを感じさせ雄弁に効いていると感じました。

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78 貸切の公園猫と寒昴 

 夜の公園に猫だけがいるのを、「貸切」と表現することには、あまり新鮮味を感じま
せんでした。また、寒昴が見えているということは、オリオンや寒北斗などの、他の星々
も見えているのではないでしょうか?

79 門跡を覆ふ大楠懸かる月 

 季語は月でしょうか? 本句会は当季という決まりはありませんが、12月に秋の季
語を見るのはやや違和感があります。また、月は空にあるのに決まっていますので、
「懸かる」は不要と思います。

80 瑠璃色の泉石に映ゆ下紅葉 

 泉石は泉水と庭石のことで、それをひっくるめて瑠璃色とはどういうことなのだろう?
と、疑問に思いました。また、「映える」というような、作者の主観が出る言葉は、俳
句ではできるだけ使わない方が良いです。

81 讃美歌の澄みし歌声聖夜弥撒 

 綺麗な句ですが、句全体が「聖夜弥撒」という季語の説明に感じられます。

82 編み上げしセーター胸にそつと当て 

 誰のためのセーターか、想像が膨らみます。切れが無いのが気になりますが、この句
の場合はそれで良いのかな?という気もします。

83 冬来る白湯味はひて出るあいき 

 「あいき」は曖気(げっぷ)でしょうか? げっぷが出るほど白湯をたくさん飲んだ
のでしょうか? 白湯を「味わう」というのも、ちょっと変な感じを受けました。

84 大寒のアルプス眺め小水す 

 下ネタですが、雄大な景ですね。「小水」よりも「放尿」の方がより大らかな感じが
すると思います。「大寒のアルプスに向け放尿す」「大寒やアルプス眺め放尿す」等で
は如何でしょう?

85 焼藷屋の風に乗る声呼び止める 

 冬の風物詩的な景ですね。切れが無く散文的なのが残念です。

86 挿し替へて色まだ美しき冬の菊 

 「色まだ美しき」が観念的ですので、もっと具体的な映像が見えるように詠むと良い
と思います。

87 下駄箱に小さな小さな聖樹かな 

 我が家の下駄箱の上にも、松ぼっくりを緑に塗ったクリスマスツリーとドングリのサ
ンタが乗っています。下駄箱に乗っているのであれば、小さいということはわかります
から、中七は工夫の余地がありそうですね。

88 病窓のカーテン拡げ流星待つ 

 カーテンを拡げたら外が見えなくなってしまいます。「カーテンを開け」でしょうか?

89 ぼろ市や右足のみの靴木型 

 いかにもぼろ市にありそうな物ですが、それが逆に意外性が無く、残念に思いました。

90 老猫に目薬点すも年の暮 

 下五、「春の暮」「秋の暮」「神の留守」「霊迎え」等、季語が動くように思いました。

91 こめかみを噛みしめ雪を掻く朝  

 「こめかみを噛みしめる」という言い方があるのか、疑問に思いました。

92 雪兎母が居たなら喜ぶに  

 俳句というより、散文的な独り言です。

93 日記買ふ妻と同じや五年もの 

 三段切れでリズムが良くありません。内容も報告的・説明的です。

94 病院のバス待つ人や冬帽子 

 人が冬帽子を被っているというだけでは、句材として新鮮味がありません。

95 万物の息吹きを止めし霜の朝 

 霜の朝に万物が息吹きを止めているとも、霜の朝が万物の息吹きを止めているとも解
釈できます。いずれにしても、上五中七が観念的です。

96 冬帽のじっと見つめる田んぼかな 

 「じっと」と「見つめる」は意味が重複していますので、整理できます。「田んぼ」
を「田」として推敲されると、更に良い句になるように思います。

97 さげて行く泥付きままの深谷葱 

 「泥付きままの」は無理があります。

98 日を受けて銀杏黄葉の散る小道 

 全体的に一本調子なのと、「受ける」「散る」と動詞が多い(二つですが)点がちょっ
と気になりました。上五を「午後の陽や」等とすると、解消すると思います。

99 買ひ物の袋に余る葱の剣 

 よく見かける風景で、新鮮味がありませんね。

100 大皿を拭き重ねたる年用意 

 正月には親戚が集まったりするので、大皿を出しているのでしょうね。・・・とわかっ
てしまうということは、句としてちょっと新鮮味に欠けるように思いました。

101 捨て切れぬ物と闘ふ煤払 

 写生句ではありませんが、共感する人が多いのではないかと思いました。私は最初か
ら戦闘放棄ですが・・・。

102 年の瀬やアメ横丁の京ことば 

 京都にアメ横丁というところがあるのかと思ってネットで探してみましたが、見つか
りませんでした。東京上野のアメ横はアメヤ横丁で、アメ横丁という言い方は聞いたこ
とがありません。香港にアメ横丁というところがあるようですが、いずれにしても、年
の瀬、アメ横丁、京ことばの関連がよくわかりませんでした。

103 竹林の小径を抜けて実万両 

 薄暗い小径を抜けたところで、万両の実の赤が目に飛び込んで来た瞬間が感じられま
す。印象鮮やかな句です。

104 冬紅葉少しくすみてしよつぱいか 

 冬紅葉の味など考えたことも無かったので、斬新な発想と思いました。次回はぜひ、
実際に舐めてみた味を句にしてください。

105 笹鳴や数へて上る石の段 

 派手さはありませんが、形のしっかりとした落ち着きのある句と思いました。

106 イーゼルの絵の具の跡や冬の蝿 

 季語が動くように思いました。

107 掌にいのちの重み寒卵 

 教訓的なことや、格好の良いことを言おうとすると、独善的で読者には共感されない
句となってしまいます。

108 メモあまた棄つるに惜しき古暦 

 「棄つるに惜しき」だと作者の主観、「棄てかねてゐる」だと客観的な事実となります。

109 縁側に光集めて日向ぼこ 

 日向ぼこからまず連想されるのが縁側だと思います。もう少し発想を飛ばさないと、
面白みのある句にはなりません。

110 容赦なく散る山茶花の踏まれけり 

 「容赦なく散る」なのか「容赦なく踏まれけり」なのか? いずれにしても、散った
花が踏まれるというだけでは、句材として面白みに欠けると思いました。

111 小寒や老母の口のミント臭 

 フリスクでも口に含まれているのでしょうか? 季語が動くように思いました。

112 着ぶくれてヒートテックを買ひに行く 

 着ぶくれ→寒い→ヒートテックを買うという説明で、詩になっていません。詠み方も
切れが無く散文的です。

113 冬の灯や明日オープの洋食屋 

 「明日オープンの洋食屋」に何を感じたのか、この句からは読み取れませんでした。

114 鉢溢れ師走の町へオープンす 

 句の意味が分かりませんでした。「オープン」という言葉が二句続きましたが、俳句
では漢字→平仮名→カタカナの順に言葉の重みが無くなります。安易にカタカナを使わ
ずに、慎重に言葉を選びましょう。オープンは、開店等と言い換えられますね。

115 冬ざれの畑に転がる突支棒

 突支棒(つっかいぼう)は、何かを支えているから突支棒なのであって、転がってい
たらそれはもう突支棒ではないのではないか??などと、変な方向に思考が行ってしま
いました。

116 時雨るるや指先欠けし仁王像 

 良い句ですが、中七を「指の欠けたる」としたいと思いました。

117 味噌おでん介護の食堂和ませり 

 「和ませり」と言わずに、和んでいる様子がわかるように詠みましょう。

118 石狩の冬田に伸びる鉄路かな 

 この場合は、「伸びる」ではなく「延びる」とした方が良いと思います。

119 哀楽も喜怒も包みて日記果つ 

 日記とはそういうものですね。

120 電線の邪魔せぬところ寒の月 

 電線に邪魔されずに月が見えたというだけでは、句材として薄い感があります。

121 待ち合ひの小窓濡らせり冬の雨 

 冬以外の雨も、小窓を濡らします。「雨」と言えば「濡らせり」は省けますので、そ
の分で冬の雨と響きあう何かを詠めると良いですね。

122 トレモロで旋律奏で冬うらら 

 どんな楽器でどんな旋律が奏でられたのかがわかると、季語が活きてくると思います。
123 湯に入れる柚子の香りや手に久し 

 「柚子湯」という季語の説明に近いです。

124 行き違ふ羽子板市の人に酔ふ 

 人ごみに酔ったというだけでは、単なる報告です。

125 風花やタクシー待ちの長き列 

 寒そうな人たちが見えてきますね。

126 空港島浮かべ眠れる冬の海 

 関西空港でしょうか? 空港島も冬の海も、かなり大きな景で漠然としており、具体
的な映像が浮かびにくいように思いました。

127 金色の寒三日月や御嶽山 

 下五の固有名詞が動くように思いました。

128 首すくめカーテン閉める冬入日 

 冬の夕べの一こまですね。やや説明的な感じがしました。

129 引越して終のすみかや賀状書く 

 いろいろな思いのこもった賀状でしょうね。俳句よりも短歌などに向いたテーマとい
う感じがしました。

130 冬ざれに重機あやつる異邦人 

 句材は良いと思いますが、詠み方が切れが無く一本調子です。

■武藤光リ氏評 =========================

もし、添削しての選句が可能であれば、上五「冬ざれに」を「冬ざれや」と切れを入れ
させて頂いた上で特選とさせて頂きます。切れを入れることにより、重機に携わる異邦
人の景までも冬の蕭条とした景となります。
「に」では、その場所が寂しいだけです。
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131 初富士や母の柏手たからかに 

 おめでたく清々しい句です。ただ、「初富士」等の新年の季語には、すでにめでたさ
が含まれていますので、「柏手たからかに」のようなめでたいものと取り合わせると、
平板な句になってしまいがちです。

132 福寿草ひとりはいまだ起きて来ず 

 「ひとり」は家族等なのか、それとも福寿草の蕾の比喩なのか、解釈に迷いました。

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