トップページへ戻る
TOPページへ戻る HP俳句会 投句フォーム 投句一覧 選句結果
選句結果
     
第298回目 (2024年9月) HP俳句会 選句結果
【  国枝隆生 選 】
  特選 土ぼこり匂ふ残暑の通り雨 後藤允孝(三重県)
   児の影の家路に弾む秋夕焼 雪絵(前橋市)
   1.抽斗に覚えなき鍵蚯蚓鳴く      原洋一(岡山県)
   コスモスの群れ咲くところ風生まる 康(東京)
   新調の補聴器拾ふ虫の声 筆致俳句(岐阜市)
   睡蓮の隙間を動く鯉の鰭 まこと(さいたま市)
   首筋に夕日貼り付く残暑かな 粗稲沖(埼玉県)
   秋深し米寿の母の舞扇 隆昭(北名古屋市)
   涼新たシーツに糊の匂ひして 石塚彩楓(埼玉県)
   終農を決めし最後の落し水 ようこ(神奈川県)
【  酒井とし子選 選 】
  特選 最終のバスは満席天の川 伊藤順女(船橋市)
   あきつ飛ぶ小町塚てふ丸き石 みぃすてぃ(神奈川県)
   1.抽斗に覚えなき鍵蚯蚓鳴く      原洋一(岡山県)
   ネオンの灯映し無月の高瀬川 康(東京)
   羽広げ動かぬ川鵜処暑の朝 田中由美(愛知県)
   首筋に夕日貼り付く残暑かな 粗稲沖(埼玉県)
   秋深し米寿の母の舞扇 隆昭(北名古屋市)
   廃校の長き廊下や去ぬ燕 水鏡(岐阜市)
   終農を決めし最後の落し水 ようこ(神奈川県)
   針山に待ち針戻し夜なべ了ふ 惠啓(三鷹市)
【  松井徒歩 選 】
  特選 仮名文字の墨の流れや秋涼し 佐藤けい(神奈川県)
   あきつ飛ぶ小町塚てふ丸き石 みぃすてぃ(神奈川県)
   新涼の書肆に目次を拾ひをり      雪絵(前橋市)
   児の影の家路に弾む秋夕焼 雪絵(前橋市)
   秋澄めり厨窓より鳶の笛 田中由美(愛知県)
   継ぎ接ぎの縄文土器や晩夏光 隆昭(北名古屋市)
   秋深し米寿の母の舞扇 隆昭(北名古屋市)
   涼新たシーツに糊の匂ひして 石塚彩楓(埼玉県)
   針山に待ち針戻し夜なべ了ふ 惠啓(三鷹市)
   朴葉打つかすかな音や秋の雨 野津洋子(瀬戸市)
【  関根切子 選 】
  特選 コスモスの群れ咲くところ風生まる 康(東京)
   法師蝉鳴く夕暮れの砦跡 岩田 勇(愛知県)
   あきつ飛ぶ小町塚てふ丸き石      みぃすてぃ(神奈川県)
   虫時雨ひとりのコインランドリー 正憲(浜松市)
   畦行けば蝗飛び交う音ばかり のりこ(赤磐市)
   睡蓮の隙間を動く鯉の鰭 まこと(さいたま市)
   秋澄めり厨窓より鳶の笛 田中由美(愛知県)
   継ぎ接ぎの縄文土器や晩夏光 隆昭(北名古屋市)
   廃校の長き廊下や去ぬ燕 水鏡(岐阜市)
   針山に待ち針戻し夜なべ了ふ 惠啓(三鷹市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、康さん(東京)、隆昭さん(北名古屋市)、みぃすてぃさん(神奈川県)、惠啓(三鷹市)さんでした。最高得点者が3名以上ですので、今月の入選賞は該当なしとなります。

【講評】


        2024年9月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。9月HP句会の講評です。よろしくお願いいたし
ます。

1	高楼のけぶる終日秋の雨

終日ではなく目の前の時の高楼の景を描写したほうが良いように思いました。

2	法師蝉鳴く夕暮れの砦跡

夏も終った落日の砦跡。法師蝉が似合いますね。

(国枝評)今頃は法師蝉がよく鳴きます。砦跡の法師蝉というと私の近所にもあります。
取り合わせがよいですね。ただ「鳴く」は言わないでその分、もっと写生が出来るよう
な気がしました。

3	虫すだく古き戦場おおふ闇

闇に覆われているので何も見えないのですが、かえって戦死者の屍が見えるようです。

4	あきつ飛ぶ小町塚てふ丸き石

 小野小町の塚でしょうか。丸い石が小町に相応しいような気がしました。

5	新涼の書肆に目次を拾ひをり

立ち読みではなく、<目次を>と具体的に述べたのが良いと思います。

6	児の影の家路に弾む秋夕焼

長い影から子供。その先の夕焼けと、構図が良いですね。

国枝隆生氏評===============================

子供が帰る様子を「児の影の弾む」と写生したところに、元気よさをうまく写生して
います。

======================================

7	切株に蜻蛉とまれば子らの声

<とまれば>の<ば>が因果関係を孕むような気がします。

8	竜胆の風にさらさる遭難碑

「竜胆」は主に山地に生息するので山の遭難碑でしょうか。

(国枝評)竜胆の可憐さに「風にさらさる」という厳しさの取り合わせは「遭難碑」に
ふさわしいのでしょうね。
 
9	池の藻のにほひ厳しき秋暑かな

「秋暑」が厳しいのは良いのですが、藻の匂いの<厳しい>という表記はやや不自然な
気がしました。

10	赤蜻蛉今年は少し疲れ気味

日記に留めるには良いのですが、句会に出す句としては作者の感慨だけで終っています
ので、具体的な物か行動の表現が欲しいですね。

(国枝評)今年の猛暑のことを詠んでいるのでしょうか。一寸主観的な印象を受けまし
た。

11	趣味の良いワインの眠る良夜かな

中七下五は良いのですが上五が説明だと思います。

12	名月やゆっくりと効く葛根湯

中七が意味的な説明なので、それは止めて「葛根湯」が目に浮かぶような句にしみては
どうでしょうか。

13	公園に虫放つ気の子の虫籠

中七一杯に使った表現ですが、子供の仕種が見えてきませんでした。

14	ガーベラの鉢妹に嫁ぎ行く

<嫁ぎ行く>という見立ての表現ですが、好みは別れるかもしれませんが私には賛成票
は出せませんでした。

15	光太郎読みて台風前夜なり

報告気味の句のように思えました。季語も余り効いていないように思います。

16	曼殊沙華地球の芯は燃えてをり

芯ではありませんが、地球内部にはマグマがありますので理屈を感じました。

17	秘めごとのひとつふたつや草の花

面白い取り合わせですが、上五中七はよくあるフレーズのように感じました。

18	三十回咀嚼に釣瓶落としかな

釣瓶落としと咀嚼をどう捉えたら良いのか分かりませんでした。

19	我もまた露けきひとり杖を曳く
 
芭蕉を思わせるような句ですね。

20	秋うらら見入る垣内の伸子張り

<見入る>は省略できるように思いました。

21	なほざりの灼けたるサドル炎熱忌

<灼けたる>と「炎熱忌」が即きすぎのようにに思いました。

(国枝評)「なほざりの」は「サドル」にかかるのですね。一寸離れているようでした。
「なほざりのサドル灼けゐて炎熱忌」なら分かりやすいと思いました。

22	誰が為に忍ばせてをり秋扇

主観が勝っているのでどう鑑賞したらよいのか迷いました。

23	長命の家系に生まれ零余子飯

季語が上手く付いていますね。作者の姿が見えてくればもっと良いのですが・・・。

24	1.抽斗に覚えなき鍵蚯蚓鳴く

私にもそういう鍵があります。

国枝隆生氏評===============================

机に鍵が付いていたとはの驚きがよく出ています。ただその印象を「蚯蚓鳴く」の季
語でよいかは評価の分かれるところです。

======================================

25	2.路地裏の糸瓜の日除け獺祭忌

出来ている句ですが、糸瓜と子規の忌日は即きすぎのような気がします。

26	郷土史家の小さき文机ちんちろりん

 上五になるように推敲してください。

27	秋茄子を食ぶ時嫁に妻になり

「秋茄子は嫁に食わすな」を念頭に置いた句だと思いますが、<嫁に妻になり>がよ
く分かりませんでした。秋茄子を食べるときは嫁ではなく妻であるということでしょ
うか?

(国枝評)「食ぶ時」は本来「食ぶる時」だと思いました。また「嫁になり妻になり」
とダブらせる必要があるかどうか気になりました。

28	久闊をよろこぶ影や虫時雨

<影>がよく分かりませんでした。

29	あきつ舞い潮風通る船溜まり

動詞が二つあって二つの光景になっていますので、動詞を一つにして推敲してみては
どうでしょうか。潮風の<通る>は省略できると思います。

30	膝をだく少女痩身秋の風

寂しそうな光景に「秋の風」が追い打ちをかけているように感じました。

31	伊吹嶺にうかぶ残月明け鴉

「残月」と<明け>。状況が被っていると思いました。

32	コスモスの群れ咲くところ風生まる

沢山のコスモスが風に揺れている。風を視覚で捉えることが出来たので<風生まる>
という言葉を掴んだのでしょうか。

国枝隆生氏評===============================

コスモスは揺れやすい花です。一寸した風にすぐ揺れます。しかしこの句はコスモス
が揺れたところに風が生まれたと逆説的に詠んでいます。それも面白い趣向かと思い
ます。

======================================

33	ネオンの灯映し無月の高瀬川

無月とネオンの灯の対比に俳味がありますね

34	天の川川面にうつる星掬い

「天の川」と現実の川の対比でしょうか?<星掬い>とまで言うのでしたら季語は「天
の川」以外の方が良いと思います。

35	黒種子や白きくちびる夕化粧

上五と中七で切れて(くちびるに夕化粧とも解釈できますが)三段切れのような気がし
ます。

36	柴栗やきつちり編目の背の籠

(あみめ)ではなく(みめ)と読むのですね。あやうく八音と勘違いするところでした。

37	秋の雷終了キーを泡の指

<泡の指>が分かりませんでした。手を洗っていて雷が鳴ったので慌てて終了キーを押
したのでしょうか?

(国枝評)「泡の指」が分かりませんでした。

38	虫時雨ひとりのコインランドリー

独り身の寂しさを感じる句ですね。

39	海流のぶつかる力秋燕

<海流のぶつかる>というフレーズは既視感がありますが。季語の付け方も良く上手に
できた句ですね。

40	新調の補聴器拾ふ虫の声

国枝隆生氏評===============================

「補聴器拾ふ」とは一寸理が勝った詠みぶりですが、新しい補聴器で虫の声を聞いた
とのシチュエーションは面白い着眼点です。

======================================

41	五箇山の集落映ゆる月明り

(国枝評)きちっと出来上がっている写生で、美しさを素直に詠んでいると思いました。

42	巷には数多の噂稲穂垂れ

巷に今少し具体性が欲しいですね。

43	畦行けば蝗飛び交う音ばかり

秋の無常を感じます。

44	睡蓮の隙間を動く鯉の鰭

上五中七は普通ですが、鯉の<鰭>まで言ったところが差別化でしょうか。

国枝隆生氏評===============================

よくある場面だと思いますが、素直な写生だと思います。

======================================

45	コスモスも人の心も揺れ易し

 コスモスの揺れは常道ですが、人の心を対比させたのが上手いですね。でも主観が
やや勝っているように思いました。。

46	羽広げ動かぬ川鵜処暑の朝

まずまず纏まっている句ですね。動かない川鵜が羽を広げているのが発見でしょうか。

47	秋澄めり厨窓より鳶の笛

身近なところで捉えた句。気分の良い句ですね。

48	朝立ちの家族四人や雲の峰

朝から早くも大きな入道雲。盛夏ですね。

49	踊り子の玉手一途に月を向く

盆踊りでしょうか。季重なりかもしれませんが盆の月の句ということですね。

(国枝評)「玉手一途に」がよく分かりません。盆踊りの子がきれいな手で一途に踊っ
ていることでしょうか。「踊り子の手のひら返し月へ向く」なら分かりやすいと思いま
した。

50	鳥泳ぐ水面のゆれや菱紅葉

素直な描写ですね。

51	にぎやかに散りて膨らむ稲雀

こちらも素直な描写ですが<にぎやか>が説明でしょうか。

52	皆来たれ玉蜀黍の甘き湯気

玉蜀黍がもうすぐ茹で上がるから皆集まれと言っているのですね。<甘き湯気>が美味
しそうです。

53	首筋に夕日貼り付く残暑かな

残暑を体感的に捉えた句ですね。

国枝隆生氏評===============================

首筋に夕日が貼り付くとは感覚的な描写です。その印象と「残暑」の季語がうまくは
まっています。

======================================

54	空の隅芥子粒ほどの渡り鳥

(国枝評)「芥子粒ほどの渡り鳥」の比喩はよかったと思います。ただ「空の隅」は
なくても分かる印象でした。例えば「渡り鳥みるみるわれの小さくなり 上田五千石」
のように空を意識させても「空」を入れていません。

55	木を囲むカメラ見下ろす子ふくろう

子ふくろうがカメラを見下ろしているのですが、<カメラ見下ろす子ふくろう>の言
葉の流れで良いのかなあと疑問に思いました。

56   風に乗る光と影の九月かな

何の<光と影>かが分かりませんでした。秋の諸々だとは思いましが・・・。

57	         種も皮も食み出す葡萄のマナーかな

葡萄の食べ方のマナーですか?

58	         捩花を残し草取る庭掃除

<草取る>と<庭掃除>が重複していると思います。

59	         担げぬも触れて爽やか力石

「爽やか」が?でした。他の季語の方がよさそうな・・・。

60	       土ぼこり匂ふ残暑の通り雨
 
暑いさなかの俄雨はこんな感じですね。

国枝隆生氏評===============================

通り雨など突然の雨には土をたたきつけるような勢いがあります。それを「土ぼこり
匂ふ」と写生したところに臨場感があります。

======================================

61	       虫の秋一楽章に眠りたる
 
すぐに眠ってしまったということでしょうか。

62	老いの身の汗ばむ体を労われり

<体>は(からだ)ですと中八になるので(たい)あるいは(てい)と読むのでしょ
うか?

63	旬なれどぐんと小ぶりの秋刀魚かな

秋刀魚の説明のような感じです。

65	継ぎ接ぎの縄文土器や晩夏光

<継ぎ接ぎ>で景が鮮明になりました

(国枝評)よく観察している句だと思いました。「晩夏光」の季語が縄文土器のわび
しさを詠んでいる感じでした。


66	秋深し米寿の母の舞扇

安定した姿の句ですね。老いて益々元気なお母さん。

国枝隆生氏評===============================

この句は米寿の母が扇で舞っているのか、たまたま母の舞扇を見つけたのか両方に解
釈出来ますが、「秋深し」から後者だと思いました。その発見にしみじみとした感慨を
感じました。

======================================

67	朝顔の青さ極立つ朝上がり

 朝顔だから朝には〜という理屈を感じました。

68	廃校の長き廊下や去ぬ燕

 燕も去ってしまい寂しさも極まっていますね。

69	とことはの時への飛翔白鳥座

何万光年も離れた星座から白鳥が飛び立つということでしょうか?

(国枝評)「とことはの時への飛翔」は白鳥座のことを説明しているのでしょうか。
一寸観念を感じました。

70	はぐるるはひとつも無しや鰯雲

 鰯雲が整然と並んでいる景色でしょうか。

71	涼新たシーツに糊の匂ひして

初秋らしい感覚の句ですね

国枝隆生氏評===============================

我が家では今こんなに丁寧に洗濯はしませんが、どこか旅館に泊まったときの真新し
いシーツを感じさせ、爽やかな印象を受けます。

======================================

72	入水せし海峡滾る星月夜

誰が入水したのか分からないので読み切れませんでした。

73	土砂降りの匂ひ漂ふ秋の夕
 
<漂ふ>は省略できるように思いました。

74	鎮魂の乾かぬやうに水引草

<鎮魂>に具体性が無いので読み切れませんでした
。
75	最終のバスは満席天の川

 何とか乗ることが出来た最終バス。乗る直前に天の川に気付いたのでしょうか。

(国枝評)最近は光害などにより空が明るくて滅多に天の川が見えません。満員バス
が走っているような明るい町から天の川が見えるのでしょうか?

酒井とし子===============================

夜のバスの旅が「天の川」の季語の斡旋によりロマンチックな句になっていると思い
ます。

======================================

6	うろこ雲坂の途中の人形館

<人形館>がどんななのか今一つ見えて来ませんでした。

77	野菊摘む万葉集の相聞歌

季語が合っているかというよりも、<万葉集の相聞歌>がこの句の中でどういう役割
を担っているのかが分かりませんでした。

78	終農を決めし最後の落し水

最後の落し水に万感極まったでしょうね。私にも家業の理容椅子を何時か処分する日
が来ます。

国枝隆生氏評===============================

頂きましたが、「決めし」の過去形でなく、「収納を決めて最後の落し水」と現在の
景にするとよいかと思いました。この句には農業を止めた決断したときの「落し水」
に切なさを感じます。

======================================

79	老いの手に白きゴーヤがひかりおり

<ゴーヤが>は<ゴーヤの>のほうが良いように思いました。

80	風の夜やケバブサンドとどぶろくと

秋の風の夜にざっくりとした食事とお酒。一人酒のように感じました。

81	鷹柱一万尺の風に消ゆ
 
風の長さというのがよく分かりませんでした。一万尺の先に消えたということでしょ
うか?

82	墓守のように空蝉へばりつき

(国枝評)空蝉が墓守とは面白い発想です。

83	新米や産地の競ふネーミング

お米の名を競っているのか、産地の名を競っているのかよく分りませんでした。

84	秋湿り母は大姉になり給ふ

悲しみに対して季語が湿っぽくすぎて相応しくないと思いました。

85	月光の山間にあるピザの窯

ピザの窯が戸外にあるのですか?

86	夕されば涼風に胸ひらきけり

夕方になれば涼風という理屈を感じました。

87	また一軒空き家となりし秋の暮れ

秋の暮に空き家になったように読めるのが気になりました。

88	八ヶ岳影の遠くに天の川

<影>は黒い輪郭の八ヶ岳の事だと思いますが、八ヶ岳で切れていますので文脈が気に
なりました。

(国枝評)きれいな句ですが、作者の立ち位置がよく分かりませんでした。八ヶ岳の先
に見える「影の遠くに」と言うことは,作者は山頂から見ているのでしょうか。それが
分かりづらく感じました。

89	スクイズを決めハイタッチ秋高し

スクイズの喜びが季語から伺えますね。

(国枝評)草野球でしょうか。スクイズの成功と「秋高し」の取り合わせが爽やかさを
感じさせます。

90	針山に待ち針戻し夜なべ了ふ

<戻し>と<了ふ>が意味的に重なっているようにも見えますが、<待ち針戻し>が良
い措辞ですね。

91	鄙村となりたる郷や柿熟す

<鄙村>がネットでも出てこないので苦労しましたが「ひなむら」でしょうか。熟した
柿の光景が際立っていますね。

92	「いじめには負けぬ」子が言ひ曼殊沙華

健気な子供の姿に「曼殊沙華」という季語がどう効いているのかよく分りませんでした。
分からなくても感覚的に合う季語はあるのですが・・・。

(国枝評)冒頭の話し言葉がよく効いている印象でした。ただ話し言葉の次に助詞がな
いので,2行詩の感じでした。〈「いじめには負けぬ」と言ひて曼珠沙華〉とすれば、
すんなりと続き,定型に収まっています。「子」はなくても分かると思います。

93	横笛は雨を呼びけり秋祭

<雨を呼びけり>が詩的な措辞ですが、雨が降っては秋祭りが大変なので、連作の中の
一句でしたら◎もありかなあと思いました。

94	待ちかねし新米ならび人の列

<待ちかねし>と<人の列>が意味的に重なっていると思いました。

95	秋茄子をギュッと塩もみ一夜漬

<ギュッと塩もみ>が「一夜漬」の説明のような気がしました。

96	仮名文字の墨の流れや秋涼し

紫式部の筆捌きを見ているような気がしました。

97	水を打つ秋の宿坊善光寺

善光寺の宿坊の佇まいが伺えますね。

98	二交代向かふ玄関昼の虫

何の二交代なのか分かりませんでした。

99	団栗や山谷ブルース聞き流し

 どういう場面なのか分かりませんでした
。
100	朴葉打つかすかな音や秋の雨

寂し気な秋の風情を感じました。

101	我と来てみるみる増ゆる赤とんぼ

<我と来て>がよく分かりませんでした。

102	履歴書の投函の帰路ばつた跳ぶ 

 帰路ではなく投函の場所の句の方が良いように思いました。

103	雨上がり時を得たりと法師蝉

<時を得たりと>が主観的な理屈を感じました。

104	初月や茜を残す山の峰

きれいな光景ですね。月の出が早い時刻の景色ですね。

「初月」は三日月よりもっと細い二日月でしょうか。暮れかねている様子がきれいに
詠まれています。



==
第298回目 (2024年8月) HP俳句会 選句結果
【  酒井とし子 選 】
  特選 螺子を巻く二百十日の鳩時計 石塚彩楓(埼玉県)
   父母と暮らせる日々や盆の月 垣内孝雄(栃木県)
   角打ちをあがる場末や星月夜      垣内孝雄(栃木県)
   逝く夏や石舟瓦の一軒家 淳平(〒834-0047 八女市)
   淀みなき米屋の水車秋立てり 鷲津誠次(岐阜県)
   新涼のインクと紙の匂ひかな 石塚彩楓(埼玉県)
   国後の島の稜線今朝の秋 正憲(浜松市)
   白鷺の抜き足差し足して止まる まこと(さいたま市)
   三世代揃ひ額づく墓参かな 筆致俳句(岐阜市)
   色褪せし昭和の母の秋日傘 ようこ(神奈川県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 よき米になれと声かけ青田かな 奥村僚一(甲賀市)
   駆け込みて仁王と夕立やり過ごす 雪絵(前橋市)
   駅ホーム貨車に手をふる夏帽子      百合乃(滋賀県)
   子ら叫ぶ水鉄砲の光散る 粗稲沖(341-0018 埼玉県)
   淀みなき米屋の水車秋立てり 鷲津誠次(岐阜県)
   新涼のインクと紙の匂ひかな 石塚彩楓(埼玉県)
   夏帽子パフェのクリーム鼻につけ 康(東京)
   宙を舞ふスケートボード巴里の夏 康(東京)
   桜島の噴煙混じる雲の峰 まこと(さいたま市)
   事の無きことの安堵や稲の花 後藤允孝(三重県)
【  武藤光リ 選 】
  特選 青田波八海山を呑むごとし 正憲(浜松市)
   ちろろ鳴く軒へ薪積む山の宿 原洋一(岡山県)
   抽斗の聖書のほこり晩夏光      梦二(神奈川県)
   子ら叫ぶ水鉄砲の光散る 粗稲沖(341-0018 埼玉県)
   淀みなき米屋の水車秋立てり 鷲津誠次(岐阜県)
   螺子を巻く二百十日の鳩時計 石塚彩楓(埼玉県)
   集落に残る夜叉面秋暑し 水鏡(岐阜県)
   白鷺の抜き足差し足して止まる まこと(さいたま市)
   三世代揃ひ額づく墓参かな 筆致俳句(岐阜市)
   事の無きことの安堵や稲の花 後藤允孝(三重県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 作業着の汗の重さを脱ぎ捨てる みのる(大阪)
   駆け込みて仁王と夕立やり過ごす 雪絵(前橋市)
   父母と暮らせる日々や盆の月      垣内孝雄(栃木県)
   抽斗の聖書のほこり晩夏光 梦二(神奈川県)
   淀みなき米屋の水車秋立てり 鷲津誠次(岐阜県)
   荒海や岩場色へる透百合 美佐枝(千葉県)
   新涼のインクと紙の匂ひかな 石塚彩楓(埼玉県)
   集落に残る夜叉面秋暑し 水鏡(岐阜県)
   半熟の黄身の色濃き今朝の秋 ようこ(神奈川県)
   会釈して過ぎる女生徒白日傘 野津洋子(瀬戸市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、鷲津誠次さん(岐阜県)でした。「伊吹嶺」8月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2024年8月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	よき米になれと声かけ青田かな

 朝に夕に、田の水の様子を見に行く度に心から念じて声をかけているのでしょう。そ
の甲斐があって、見事な青田に育った稲を見守る作者の、優しい視線が感じられます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「よき米になれ」と、声に出しての願いは、生産者ならではの切実な思いだと思いま
した。青田を見る時の心持も、人により様々なのだと、感じ入り特選といたしました。

 ======================================

2	一直線休みを知らぬ夏つばめ

 6月の投句に「ひと時も休むことなし夏つばめ」という句がありました。燕は、他の
鳥のように頻繁にあちこちに止まったりはしませんが、一羽の燕がまったく休むこと無
しに飛ぶことは有り得ませんので、「休みを知らぬ」というのは、表層的な捉え方に感
じました。

3	本堂で園児ひるねや木の葉擦れ

 寺院に併設されている幼稚園で、法事・法要が無いときには、涼しい本堂を昼寝用に
開放しているのでしょうか? 葉擦れの音が心地良いですが、「木の葉擦れ」という表
現が良いのか、ちょっと疑問に思いました。

4	子ら去りしプール夕焼けと語り初む

 プール(夏)と夕焼け(夏)の季重なりになります。また、夕焼けと語り初むのは作者か
プールかわかりませんでした。

5	裏店に子らの喚声水遊び

 下町の夏の風物詩という感じですね。

6	こんこんと眠る植田や月に雲

 苗が植えられた田んぼは、生命力にあふれて、夜でも眠っているという感じはしませ
んが、「寝る子は育つ」という発想でしょうか? 植田の初夏の季感と、月に雲の秋の
季感がぶつかってしまっている印象もあります。

7	友釣りの見事な所作に見惚れけり

 詩というよりも、報告に感じました。釣り人の「見事な所作」を具体的に描けば、そ
れに見惚れている作者の様子も自ずと読者に伝わります。

8	ゴキブリといふ曲者に出くわしぬ

 「ゴキブリがいた」という報告に過ぎません。

9	夏休み 童が跳ねる 海山へ

 「童が跳ねる海や山へ作者が行く」のか、「海や山へ行こうと童が跳ねる」のか? 
夏休みと、子供たちが海や山へ行くという発想は、やや安易に感じました。

10	自販機で 売切れ表示 汗拭う

 自販機で買おうと思っていたものが買えず、汗を拭っているというシチュエーション
かと思います。「自販機で売切れ表示」は「自販機の売切れ表示」の方が良いですが、
「自販機の水は売切れ」等とすると、もっと具体的な様子が見えて来ます。
 なお、俳句は五七五を分けて書かずに、続けて書いてください。

11	踊る手のなごり尽きない家路かな

 私の母もそうでしたが、盆踊りがお好きなのでしょうね。後ろからまだ聞こえる踊り
歌や拍子に思わず手を動かしながら帰る様子が浮かびます。

12	ちろろ鳴く軒へ薪積む山の宿

 ちろろはちちろ(蟋蟀)ですね。冬を越すための準備を進めている山の宿の様子が描か
れています。惜しむらくは、もう少し後、晩秋の頃に投句されると、読者により臨場感
を伝えられると思います。

 武藤光リ氏評================================

 ちろろは、ちちろの打ち間違いとして、頂く。仲間内の勉強句会だから許されるが、十
分に注意して投句する習慣を付けたい。

 ======================================

13	食卓の書を寄せ座る帰省の子

 食卓の子供の席だったところに、今は本が置かれており、帰省した子はその本を隅に
寄せて自分の席を確保するということでしょうか? リアルな感じがしますが、うちの
場合だったら、本を置きっぱなしにしている私が妻に叱られて、片づけさせられるな・
・・などということを思ってしまいました。

14	バス待ちの老婆がしゃがむ黒日傘

 黒日傘(の人)が来たために、老婆がしゃがんだという意味でしょうか?

15	広重の舟に乗りたや夕涼み

 「広重の舟」と言われて、「ああ、あれね」とすぐにイメージが浮かぶほど、歌川広
重に詳しくありませんでした。すみません。

16	炎天下しゃがみ込ませる肥満猫

 炎天下に肥満猫をしゃがませて放置?動物虐待か??・・と思いましたが、作者が肥
満猫を撫でるためにしゃがんだということでしょうか?

17	洩る灯り七夕竹の駐在所

 住民に親しまれている駐在さんのいる駐在所なのでしょう。上五は「灯の洩るる」と
した方が良いと思いました。「洩る」は液体などに使うイメージです。

18	わくら葉やわづかな風に逆らはず

 上五を「や」で切ると、そこで意味やリズムが途切れます。「わづかな風に逆らはず」
が病葉のことを言っているのでしたら、上五は切らない方が良いと思います。

19	駆け込みて仁王と夕立やり過ごす

 夕立に降られたところに、ちょうど寺門があったのですね。怖い仁王も、しばしの雨
宿りの連れと思うと、なんとなく可笑しみも感じます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 俳諧味がある、楽しい作品ですね。仁王を擬人化して、作者に近しい関係に詠まれた
点が、面白いと感じました。

 ======================================

20	貼り絵めく闇に一瞬遠花火

 音が聞こえずに見える遠花火の、ちょっと現実感が薄い感じが「貼り絵めく」に表れ
ているように思いました。山下清の花火の絵なども連想しました。

21	再婚をさらり姉告げ庭花火

 お姉さんは敢えてさらりと言ったのでしょうね。花火に浮かぶお姉さんの横顔を見つ
める作者のちょっと複雑な心情が察せられます。

22	駅ホーム貨車に手をふる夏帽子

 夏帽子の子は、誰かを見送りに駅に来たのではなく、自分がホームで列車を待ってい
て、通過する貨物列車に手を振っているところでしょうね?

 奥山ひろ子氏評===============================

 子供らしい無邪気さを感じました。貨車はだれも乗ってはいないけれど、子供にとっ
てはヒーローなのでしょう。

 ======================================

23	滾り立つ滝に阿吽の間合かな

 「滾り立つ」「阿吽の間合」という日本語に違和感を覚えました。

24	狗尾草に遊ぶ雀や秋津洲

 狗尾草(えのころぐさ)は別名猫じゃらしと言われますので、猫がこの草で遊ぶのは
イメージできるのですが、雀の場合はピンと来ませんでした。狗尾草の穂は雀の身長よ
りずっと高いところにありますし、かといって雀がとまれるほど狗尾草の茎は太くあり
ません。また、狗尾草、雀という近景に対して秋津洲(あきつしま)は大景過ぎるように
思いました。

25	空蝉の乾く大地を転げゆく

 空蝉が乾いて大地を転げ行くのか? 空蝉が乾いた大地を転げ行くのか? 

26	父母と暮らせる日々や盆の月

 「暮らせる」は、「暮らすことができる」「暮らしている」のどちらの意味にも解せ
ますが、季語から、盆の帰省の時に「あとどれくらいこうして父母と一緒に過ごせるの
だろう?」と思っているシーンだと解釈しました。

27	角打ちをあがる場末や星月夜

 角打ちは、酒屋の一杯売りで買った酒をその場で飲むこと。私が子供の頃は、もっき
り(盛切りの意?)と言っていました。角打ちは「あがる」と言うのですね。知りません
でした。角打ちができる酒屋があるようなところは、たいてい場末ですから、「場末や」
は要らないように思います。

28	逝く夏や石舟瓦の一軒家

 作者が石舟瓦の一軒家のどんなところに晩夏の感慨を覚えたのか、今一つ伝わって来
ませんでした。

29	黙祷のサイレン遠き夾竹桃

 その土地で、何か大きな災害・事故などがあった日なのでしょう。「遠き夾竹桃」は
その時に作者が見たもので、特に思い入れがあるのかと思いますが、その気持ちがうま
く読者と共有できると良いですね。

30	寝椅子より昼寝の鼾だんだんに

 「寝椅子」「昼寝」「鼾」に重複感を覚えました。また、切れが無いので散文的に感
じられます。

31	抽斗の聖書のほこり晩夏光

 抽斗の聖書というと、ホテルを連想します。出張先で、ちょっとうらぶれたホテルに
泊まったときのことを思い出しました。

32	浮き人形葉陰を落とす翠かな

 句意が分かりませんでした。「浮人形が葉陰を落とす」のか、「葉陰を落とす翠」な
のか、どちらにしても、意味がつかめませんでした。「葉陰を落とす」は、「葉が影を
落とす」と言いたかったのでしょうか?

33	病床の母の部屋射る西日かな

 お母様が今この部屋に居るようにも、お母様は入院されていて、今この部屋には誰も
いないようにも読めました。後者の方が、カーテンを閉める人がいないやるせなさのよ
うなものが感じられます。

34	夏休ハワイアルプス夢の夢

 自虐的な愚痴を五七五にしただけでは、俳句になりません。むしろ、川柳とした方が
世相を感じられて良いと思いました。

35	マイアミのプールで読書の白昼夢

 上の句と同様、川柳的に感じました。

36	睡蓮やいま一陣の雨過ぎぬ

 雨中の睡蓮の様子が浮かびます。ただ、「一陣の雨」は、手元にある歳時記には載っ
ていませんが、驟雨・白雨・夕立等と同じ意味と思いますので、やや季重なり感を覚え
ました。

37	子ら叫ぶ水鉄砲の光散る

 元気に水遊びをする子供たちの様子が浮かびますが、上五と下五が動詞の終止形で切
れており、ぶつ切れ感がありますので、上五の切れは無くした方が良いと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「叫ぶ」と「光散る」に子供のエネルギーを感じました。夏はこれくらい元気を感じ
られると気持ちがいいですね。

 ======================================

 武藤光リ氏評================================

  良い風景として頂く。作者は説明調を避けたのだろうが、出来事の順に「水鉄砲光
放ちて子ら騒ぐ」とすれば、と思った。

 ======================================

38	土灼けて顔ぬぐうごと墓を拭く

 「顔ぬぐうごと墓を拭く」様子を思い浮かべようとしてみましたが、ただ「墓を拭く」
のとどう違うのかよくわかりませんでした。季語は「灼けて」だと思いますが、「墓を
拭く」も「墓洗う」や「掃苔」と同義で季重なりに感じました。

39	児は巨峰ふたつ両手で口へ詰め

 巨峰が大好きな児童なのですね。切れが無く散文的かつ説明的なのが気になりました。
「両手もて巨峰頬張る童かな」等、推敲してみてください。

40	妻目覚め梅雨の晴間の光なす

 奥様は、どこで目覚められたのでしょう? 日常の朝の目覚めなのか、意識不明だっ
た人が目覚めたのか、状況がつかめませんでした。

41	見晴るかす異世界涼し摩天楼

 「見晴るかす異世界」は、摩天楼から見下ろしている現実世界とは違うのでしょうか?

42	地上への出口は暗し蝉の穴

 出口が暗いのではなく、穴の中が暗いのでは?

43	作業着の汗の重さを脱ぎ捨てる

 一日の労働を終え、汗でずっしりと濡れた作業着を脱ぎ捨てた開放感・安堵感が伝わ
ります。汗そのものを詠むのではなく、汗の重さに言及されたのが新鮮だと思いました。

44	淀みなき米屋の水車秋立てり

 水車精米を行っている米穀店なのですね。いつも同じように動く水車の仕掛けですが、
秋という言葉を聞くと一際滑らかに動いているように思われます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 これから新米の季節です。そんな米屋の「淀みなき」水車が、お米のおいしさを物語っ
ています。

 ======================================

45	透百合あかねの空と色ひとつ

 透百合の花にはいろいろな色がありますが、この場合はオレンジ系なのでしょう。
「あかねの空」は季語ではないと思いますが、夕焼けと同義で、やや季重なり感を覚え
ました。

46	荒海や岩場色へる透百合

 雄々しい海と、可憐な百合の対比が鮮やかです。「岩場色へる」は、「岩場彩へる」
か「岩に色へる」の方が良いように思いました。

47	螺子を巻く二百十日の鳩時計

 鳩時計のねじを巻くことと二百十日の関係・響き合いがよくわかりませんでした。

48	新涼のインクと紙の匂ひかな

 手紙を書こうとしているシーンを思い描きました。なぜか青い便箋が浮かんでくるの
は、心もよう(井上陽水)や水色の手紙(あべ静江)等の古い歌のせいでしょうか?

 奥山ひろ子氏評===============================

 暑さが去り、少し感受性が戻ってくる季節。「インクと紙の匂ひ」にも気が付く秋の
始まりですね。

 ======================================

49	梧桐や広島の日をこの地より

 梧桐(夏)と広島の日=広島忌(夏)の季重なりと思います。

50	新涼や小さき窓より小さき風

 少しの風にもふと秋を感じたりしますね。小さきのリフレインがちょっと「狙いすぎ」
にも感じました。

51	集落に残る夜叉面秋暑し

 奉納太鼓等で使われる面でしょうか? 季語から、その圧が伝わってくるような気が
します。

52	ごんぎつねにひょつこり会いそ曼珠沙華

 彼岸花の美しくも寂しげな様子が、哀しい童話に似合います。字余りが惜しい感じで
す。

53	夏帽子パフェのクリーム鼻につけ

 微笑ましい可愛らしさですね。ただ、広辞苑によるとパフェとは「アイスクリームに
種々の果物やチョコレートなどを添えたもの。」とありますので、「パフェのクリーム」
がやや季重なり的にも感じました。クリームと言わなくても、「鼻先にパフェを付けた
る夏帽子」でわかるのではないかと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 夏帽子の下の鼻に付けたクリーム。パフェがおいしそうで、またかわいらしさも感じ
ました。

 ======================================

54	宙を舞ふスケートボード巴里の夏

 オリンピックの句ですね。上五中七は、どうにでも変えられそうな気がします。

 奥山ひろ子氏評===============================

 まさに現代の一瞬を詠まれました。このような時宜を得た句材にもどんどんチャレン
ジしたいものです。

 ======================================

55	ウオーキング励む老婆の熱帯夜

 ウォーキングに励むご高齢者を「老婆」と言うのはちょっと申し訳ないような気がし
てしまいました。夜とはいえ、熱中症に気を付けて戴きたいものです。

56	雲の峰俺ならこの城どふ攻めぬ

 状況がよくわかりませんでした。峰雲を城に見立てているのでしょうか?

57	国後の島の稜線今朝の秋

 「国後の島の稜線」は、「国後の稜線」で良いと思います。

58	青田波八海山を呑むごとし

 青田波は、風で稲が揺れて波のように見えることであり、怒涛のように立ち上がるわ
けではありませんから、「山を呑む」の比喩は大げさに思えましたが、魚沼の稲が揺れ
るのを見て、日本酒の「八海山」を呑むようだという、ダブルミーニングが面白いと思
いました。

 武藤光リ氏評================================

 中七下五の措辞で、雄大な青田となった。

 ======================================


59	白鷺の抜き足差し足して止まる

 白鷺の歩き方は、確かにそのような感じがしますね。

60	桜島の噴煙混じる雲の峰

 噴煙が積乱雲の高さまで届くことがあるのですね。見てみたいものです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 生きている火の山桜島。「噴煙混じる」が具体的で、しかも「雲の峰」にも負けない
エネルギーに、自然の脅威を感じました。

 ======================================

61	爆心のドーム黙の訴広島忌

 上五中七に主観・理屈を感じますが、作者の思いは伝わって来ます。下五はもっと離
した季語を置いた方が、ひたひたと思いが感じられるような気がします。

62	三世代揃ひ額づく墓参かな

 良くある景ですね。

63	薄闇をよぎる一瞬火食鳥

 火食鳥はニューギニアやオーストラリアに棲む飛べない鳥ですが、季語にはなってい
ないと思います。蚊喰鳥(蝙蝠)の間違いでしょうか?

64	蠅叩見透かされては逃げられし

 蠅を叩こうと思ったが逃げられたと・・・これだけでは句材としてきびしいと思いま
す。

65	色褪せし昭和の母の秋日傘

 読解が難しい句です。色褪せているのは昭和でしょうか? 昭和の母でしょうか? 
秋日傘でしょうか? 昭和が係るのは母(昭和生まれの母)でしょうか? 秋日傘(母が
昭和時代に買った日傘)でしょうか? 秋日傘とは秋専用の日傘ではなく、秋に差す日
傘または日傘を秋に差すことですので、猶更いろいろな解釈が生まれます。

66	半熟の黄身の色濃き今朝の秋

 玉子の黄身の色の濃さに秋を感じられたというのが、私には無い感性だと思いました。

67	立秋の少年の貌なほ黒く

 立秋と言っても、夏休みはまだ半分以上残っている時期ですから、まだまだ日焼けは
褪めないでしょうね。

68	事の無きことの安堵や稲の花

 事が無ければ安堵するのはわかりますが、そもそも「事」とは何なのか、読者には全
くわかりません。

 奥山ひろ子氏評===============================

 何か心配事がおありだったのでしょうか。「安堵」されて良かったです。「稲の花」
がそれほど華やかでなく、生活圏の中に普通にある花である点が、良いと思いました。

 ======================================

69	湧水の溢るる桶に水まんじゆう(大垣城下)

 ネットで検索して画像を見てみましたが、本当に水の中に入っているのですね。中七
を「桶や」と切った方が、説明臭さが無くなると思います。

70	会釈して過ぎる女生徒白日傘

 最近は、中学生が日傘を使っているのを見ることがありますね。「会釈して過ぎる」
楚々とした感じが、白日傘に似合っています。

71	小窓にも打ち揚げ花火拡がりて

 「小窓"にも"」ということは、小窓以外にも花火が見えているのだと思いますが、同
じ壁面に二つ以上窓が付いているというのは珍しいですね。

72	音頭取る青年うらじゃ輪の中で

 うらじゃとは、ウィキペディアによりますと「「おかやま桃太郎まつり」のメインイ
ベントとして、8月の第1日曜日とその前日の土曜日に岡山市中心市街地で開催されてい
る。」とありますので、盆踊りとは違うもののようですね。そうすると、この場合の
「音頭取る」は季語にならないと思います。

73	上向きの空蝉吾の姿勢正す

 句意がよくわかりませんでした。向上心などの、精神的・教訓的なことを言われてい
るのでしょうか?

74	炎昼や薬缶頭沸騰中

 無理に句またがりの破調として読めば17音になりますが、中六の字足らずの感が強い
です。また、炎昼で暑いから&"薬缶"頭だから→沸騰中というシャレは、俳句には似つ
かわしくないように思いました。

75	台風の去りたる朝のけだるさよ

 台風の恐怖や緊張で、よく眠れぬ一夜を過ごされたのでしょうか?

76	広島忌厨に一人手を合はす

 その気持ちは、世界中の人が忘れてはならないものです。ただ、俳句に詠む場合は、
広島忌だから手を合わすというのは、ただの説明・報告になってしまいます。物に託し
て気持ちを伝えるようにすれば、例えばコップ一杯の水にも当時の人々を偲ぶことがで
きると思います。

77	正信偈経本に添ひ盂蘭盆絵

 日本仏教学院のホームページによると、正信偈(しょうしんげ)とは「浄土真宗の勤行
や葬儀で拝読される正信偈は、親鸞聖人の書かれたものですのでお経ではありません。
親鸞聖人の教えが圧縮されて記されたものです。」とあります。
 盂蘭盆は、「盂蘭盆経の目連(もくれん)説話に基づき、祖霊を死後の苦しみの世界か
ら救済するための仏事。」(広辞苑)ですので、本句は浄土真宗の方のお盆のやり方の説
明のように感じました。

78	食卓に熟れつつ匂ふ真夜の桃

 夜の桃というと、「中年や遠くみのれる夜の桃 三鬼」の句を思い出します。本句も
上五を工夫すると、面白い句になるように思いました。

79	浮き出たる赤き俗名秋の声

 墓の文字が浮き彫りになっているのを見たことはありませんので、この場合の「浮き
出たる」は、赤い色が目立って見えるという意味かと思います。この赤い俗名は、作者
ご自身のものでしょうか? そうだとすると、そこに秋の気配を感じられた作者の思い
が察せられるような気がします。

80	砂漠とは異なる砂丘に秋の風

 「砂漠とは異なる砂丘」は、何を言いたいのでしょうか? 砂漠とは乾燥気候で植物
の育成が難しい土地ですので、乾燥していないという意味でしょうか?

81	音沙汰の途絶へて久し蝉時雨

 夏の終わりに、音信の途絶えた人のことを思っているのでしょう。季語が複雑な心情
を伝えます。「途絶へて」は「無き」に、「久し」を省略するなどして、誰の音沙汰な
のかが分かるようにすると良いと思いました。

82	歯ブラシ立に歯ブラシ二本夏惜しむ

 物語のありそうな句ですね。歯ブラシが歯ブラシ立に入っているのは当たり前ですの
で、上五を工夫して同時に字余りも解消されると良いと思いました。

83	帰省子の二人の歌うアニメ曲

 兄弟でしょうか? 幼いころ一緒に歌っていたアニメソングなのでしょうね。

84	油照チョコで鼻血といふ虚言

 昔は、そのような俗説がありましたね。面白い取り合わせの句と思いました。

85	老老の介護の果の盂蘭盆会

 えっ?と思ってしまいました。お二人ともお亡くなりになったということでしょうか?

86	パーパット僅かに逸れし雲の峰

 上五、下五が名詞のいわゆる「キセル俳句」で、中七が連体形なので、雲の峰がパー
パットを打ったように思えてしまいました。

87	炎天へ高く足場を押し上ぐる

 足場というと、家やビルの外壁工事のときに組む単管パイプの構造物かと思いますが
、通常は下から順に組んで行くものと思います。今は、下から押し上げて組むような工
法があるのでしょうか? ネットで調べてみましたが、よくわかりませんでした。

88	老二人昼餉は今日も冷さうめん

 暑い時期には、ついついそうなりがちですが、事実をそのまま言っただけでは報告に
なってしまいます。切れを入れて表現を工夫するなどしてみてください。例えば、
「冷索麺同じ器に同じ箸」等とすると、連日索麺を食べている様子が浮かびます。

89	ねむごろに選ぶ白桃病む友に

 お見舞いに持参する白桃ですね。「ねむごろ」と古語を使うのであれば、「選ぶ」は
「選む」と合わせた方が良いと思います。

90	風青しジャックの塔の赤煉瓦

 「ジャックの塔」が分からなかったので調べてみました。横浜市開港記念会館とのこ
とで、煉瓦造りなのですね。初夏の海風に吹かれての横浜散策も良さそうですね。

91	知らぬ人と片陰分かつ交差点

 皆日陰に入りたがりますね。

92	夫を待つガレのランプや秋涼し

 夫君が好きな(好きだった?)ガレのランプでしょうか? 季語にもう少し語って欲
しいと思いました。

93	初秋やはぐれた夫の墓ぢまひ

 「はぐれた夫」の意味がわかりませんでした。夫が墓仕舞いをするのか? 夫の墓を
作者が墓仕舞いするのか?


copyright(c)2003-2007 IBUKINE All Right Reserved.