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選句結果
     
第305回目 (2025年5月) HP俳句会 選句結果
【  国枝隆生 選 】
  特選 献血を終へ初夏の風の街 正憲(浜松市)
   藍深き切子の皿や葛桜 みぃすてぃ(神奈川県)
   英虞湾を染めゆく夕日花海桐      水鏡(岐阜県)
   万緑や金平糖の瓶光る のりこ(赤磐市)
   啄木忌駅にもろこし焼く匂ひ よりこ(愛知県)
   炊き立ての湯気に塩の香豆ご飯 原洋一(岡山県)
   雑事みな忘れて子らとしやぼんだま 惠啓(三鷹市)
   芝に座し手話の語らひ新樹光 惠啓(三鷹市)
   花は葉に黄のランドセル一列に かよ子(和歌山市)
   柿若葉制服馴染む一年生 美由紀(長野県)
【  関根切子 選 】
  特選 甲矢中る的の響きや緑さす 淳平(〒834-0047 八女市)
   藍深き切子の皿や葛桜 みぃすてぃ(神奈川県)
   遊ぶ子に道を譲られ夕遍路      百合乃(滋賀県)
   隧道の出口まぶしき山若葉 田中由美(愛知県)
   園庭に泣く子駆ける子鯉のぼり 隆昭(北名古屋市)
   歩く巾残し波止場に鹿尾菜干す よりこ(愛知県)
   炊き立ての湯気に塩の香豆ご飯 原洋一(岡山県)
   聖五月ママに内緒が増えてをり 麻里代(和歌山市)
   一笛の澄みたる響き薪能 町子(北名古屋市)
   自治会の健康講座夏来る 佐藤けい(神奈川県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 背伸びして戻る教室花は葉に かれん(春日部市)
   古伊万里や明石の蛸の薄造 みぃすてぃ(神奈川県)
   藍深き切子の皿や葛桜      みぃすてぃ(神奈川県)
   菖蒲湯に児の暗唱の後戻り 雪絵(前橋市)
   啄木忌駅にもろこし焼く匂ひ よりこ(愛知県)
   炊き立ての湯気に塩の香豆ご飯 原洋一(岡山県)
   甲矢中る的の響きや緑さす 淳平(〒834-0047 八女市)
   褪せてなを力強さの鯉のぼり 蝶子(福岡県)
   芝に座し手話の語らひ新樹光 惠啓(三鷹市)
   棟上げの槌音高し若葉風 佐藤けい(神奈川県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 遊ぶ子に道を譲られ夕遍路 百合乃(滋賀県)
   薫風や被災地からのキッチンカー 鷲津誠次(岐阜県)
   一礼し鐘撞く僧や夕牡丹      康(東京)
   万緑や金平糖の瓶光る のりこ(赤磐市)
   頂上に集ふ仲間の日焼顔 貝田ひでを(大阪)
   新前の巫女の千早や若葉風 筆致俳句(岐阜市)
   啄木忌駅にもろこし焼く匂ひ よりこ(愛知県)
   甲矢中る的の響きや緑さす 淳平(〒834-0047 八女市)
   芝に座し手話の語らひ新樹光 惠啓(三鷹市)
   自治会の健康講座夏来る 佐藤けい(神奈川県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、淳平さん(八女市)でした。「伊吹嶺」5月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


     2025年5月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	廃線の噂も遠く山桜
 
 一時は廃線の噂が立った鉄道。その噂も最近は聞こえてこなくなった。今年も桜が咲
き、まだまだ鉄道は大丈夫なようだ。

2	ひなたぼこ意識なくして目が覚めた

深刻な病なのか、居眠りを大袈裟に言っているのかどちらなのか悩みました。

3	音拒絶桜ひらひら空広し
 
難解俳句に挑戦しているのでしょうか? <音拒絶>がよく分かりませんでした。

4	亀鳴くや行方知れずの放出米

亀も不思議がって鳴いているような面白さを感じました。 

〈国枝評〉こういう句も時事俳句と言うのでしょう。得てして報告の句になりやすいで
すね。

5	春愁や湖北の浦の昼下がり

湖北は寂しいところかもしれませんが「春愁」とは少し違うような気がしました。

6	古伊万里や明石の蛸の薄造

蛸の刺身ですね。良い器で美味しそうです。

7	藍深き切子の皿や葛桜

こちらも涼しげで美味しそうです。

国枝隆生氏標================================

切子の藍色が葛桜をおいしく見せていると思います。取り合わせが明るい感じです。

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8	遊ぶ子に道を譲られ夕遍路

「遍路」の句は沢山ありますがこの句は類句が無いように感じられました。

9	豆ご飯お櫃にたんとさあお食べ

話し言葉の句ですが不自然なくいただけました。豆ご飯を作った人の真心が感じられま
す。

10	薫風や被災地からのキッチンカー

 被災地の人のキッチンカーが作者の町にやってきて、頑張っているなあ、という句で
しょうか?

11	従軍碑躑躅ヶ丘にひそかなる

先の大戦に従軍された人たちの鎮魂碑でしょうか。華やかな躑躅とは対照的に手を合わ
せる人は少ないのでしょうね。「躑躅ヶ丘」ですと地名のような感じですので季語とし
ては弱いように思いました。

12	庭掃いて縁に寛ぐ今朝の夏

日常の平和なひと時ですが、大事にしたいひと時です。

13	玉虫の一閃の影色残す

 「色遺す」が独特の表現ですね。

〈国枝評〉艶のある緑色が羽を広げて飛んだその余韻の色を「影」「色残す」で旨く詠んで
います。

14	英虞湾を染めゆく夕日花海桐

大きな景色に「花海桐」がほどよく収まっていますね、

国枝隆生氏標================================

夕日の色が海桐花の花の白さを引き立てているようです。

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15	行く春や青空映すにはたづみ

季語も決まっていて良いけれど、水たまりに何かが映っていれば俳人は真っ先に注目し
ますので類句さえなければ良いのですが。

16	葉桜や鞄ひとつで吾子巣立つ

「吾子巣立つ」がどの年代なのかで迷いました。「鞄ひとつ」なので社会人になったと
いうことででしょうか?

17	絵日記は家より高しチュウリップ

絵日記のチューリップが家より高く描いてあるという意味だと思いますが、このままで
すと絵日記が家より高いと読めてしまいます。

18	用もなき所に落ちて柿の花

「用もなき所」が説明で、どんな場所なのかイメージが湧きませんでした。

19	菖蒲湯に児の暗唱の後戻り

一生懸命暗記した文章か歌で躓いてしまい、やり直しているのでしょうか。微笑ましい
ですね。

20	久に逢ふ友も白髪里若葉

前句ともども安心して読める作品です。

21	山城に抜ける細道ほととぎす

中七の写生がやや弱いように思いました。

22	一礼し鐘撞く僧や夕牡丹

「一礼し」が確かな描写で、季語も相まって景の良く見える作品。

〈国枝評〉「一礼」が僧侶にとって当たり前の動作かもしれませんが、外から見ると、敬
虔な僧侶に見えることと思います。夕時の刻を知らせているのも落ち着いた様子が見え
ます。

23	一弁を欠いて芍薬散り初むる

「一弁を欠いて」が分かりにくかったのですが、まず一弁が散ったということでしょう
か?

24	潦 蝌蚪の身揺らぎ手から手へ

蝌蚪を魅力的に表現していますが、「潦」で良いのかなと少し疑問を感じました。

25	燕来る高階の窓明日退院

燕が退院をお祝いしているようですね。

26	献血を終へ初夏の風の街

献血を終えての清々しい気分が伝わってくる句ですね。

国枝隆生氏特選================================

献血を終えたすがすがしさを「風の街」と類型のないフレーズで捉えているのがおしゃれ
ですね。
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27	若葉雨河畔の竹林折れ伏して

竹林の句で季語は雨とはいえ木々の若葉ですので、木々以外の季語の方が良いように思
います。

28	万緑や金平糖の瓶光る

 金平糖の瓶に「万緑」は大胆な斡旋ですね。

国枝隆生氏標================================

この瓶は金平糖が見えるのですから、透明なのでしょう。その透明感による万緑が瓶に
映えているようです。

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29	ゆったりとくねりゆく川谷若葉

 素直な描写ですが今一つインパクトに欠けるように思いました。

30	隧道の出口まぶしき山若葉

眩しさにいっそう若葉が鮮やかに感じますね。

〈国枝評〉愛知県の愛岐トンネルが浮かびます。このトンネルの中は一切照明がないの
で、出口は本当にまぶしすぎるくらいです。

31	ただ一竿鯉のぼり見ゆ過疎の村

「見ゆ」は省略できるように思いました。

〈国枝評〉雰囲気のある句ですが、それぞれ名詞、動詞の終止形で切れている三段切れ
ですね。リズムが悪くなります。もし三段切れを直すなら、「過疎の村一竿のみの鯉の
ぼり」

32	山沿いの大木のぼる藤の花  

「山沿い」の措辞がやや甘いと感じました。

33	山旅の早発ちは常水芭蕉

山旅の早発ちは季語が水芭蕉ですので山での早発ちだと思いますが、家からの早発ちの
ようにも読めるのが気になりました。

34	頂上に集ふ仲間の日焼顔

「集ふ」は省略できるように思いました。

35	流木や骨散るごとき夏河原

中七は流木のことですので切れは上五ではなく「夏河原」の前のほうが良いように思い
ました。

36	園庭に泣く子駆ける子鯉のぼり

元気な子供たちが目に浮かびます。

〈国枝評〉幼稚園か保育園でしょうか。鯉のぼりを前にして賑やかな様子が見えます。

37	新前の巫女の千早や若葉風

「新前」は「神前」の転換ミスかと思いましたが、新参の意ですね。即きすぎかもしれ
ませんが「若葉風」が上手く収まっていると思いました。

38	フレンチのあとのカフェオレ若葉冷
 
「若葉冷」では食事の満足感が伝わらないのでは?

39	相席の声掛け合ふや初鰹

他人との相席で気を使い合っているのでしょうか? 状況がよく分かりませんでした。

40	客待ちの人力車夫や走り梅雨

「客待ち」で終わらず、車夫の様子をもう少し写生してほしいです。

41	畳なはる千枚の田や風青し

大きな景色で気分が良いですね。 

〈国枝評〉 「畳なはる」の古語と「風青し」の新鮮な季語がよくコラボしています。

42	上げ潮のふくらむ荒磯風青し

 海の景色ですので青葉を連想する「風青し」はそぐわないと思いました。

43	啄木忌駅にもろこし焼く匂ひ

 「啄木忌」に駅は即きすぎかもしれませんが、もろこしの匂いは良い塩梅ですね。

国枝隆生氏標================================

啄木というとふるさとを出たあとの彷徨が駅につながっている印象です。駅との取り合
わせがよかったと思います。

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44	歩く巾残し波止場に鹿尾菜干す

 説明のようで説明ではない面白さを感じました。

45	綿菓子の雲浮く村の代田かな

 「綿菓子のような」の比喩ではなく、「綿菓子」の断定にやや戸惑いました。

46	炊き立ての湯気に塩の香豆ご飯

 「湯気に塩の香」が的確な描写ですね。

国枝隆生氏標================================

本来湯気に塩味などないはずがいのに、豆御飯の湯気塩味までも感じているようです。

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47	背伸びして戻る教室花は葉に

学校での何気ない仕草が俳句になる素晴らしさ。春から初夏への移り変わりの「花は葉
に」の斡旋も適格だと思います。

48	草笛を吹きて少年ヒーローに

何も取り柄がなさそうな子が、草笛を吹いたら余りにも上手なのでヒーローになった。
というようなことを想像してみました。

49	風評に右往左往の糸柳

50	ふるさとは雲追ふ風に辛夷咲く

49番50番と、言葉遊びがやや過ぎたように思いました。

51	ルッカ咲く島はふるさと風の島

島のリフレインが心地よいですね。

〈国枝評〉 「ルッカ」はオリーブに似た花とありますが、このふるさとはどこでしょう
か。そのふるさとは「風の島」と断定したのが効いていますね。

52	詩心の兆すときまで薔薇のみち

 上手くまとまった句ですが、季語が動くような気がしました。

53	甲矢中る的の響きや緑さす

 普通の矢ではなく「甲矢」という具体的な矢の措辞で成功しましたね。今の時期、
「緑さす」が案全牌気味ではありますが引き立てています。

〈国枝評〉「甲矢」の一の矢の新鮮さが響いてきます。

54	手の内を探る少年若葉光

 少年の表情とか仕草の具体的なものが見えてきませんでした。

55	柏餅吾子の額の葉の兜

葉の兜の姿がどのようなものか想像できませんでした。

56	ひろげたる葉を吹く吾子や柏餅

 ただ吹いているだけ?

57	校庭の真中降り継ぐ花樗

校庭の真ん中に木。何かの記念樹でしょうか?

58	夏きざすチリ産葡萄皮かたし

チリのワインは良く知られていますが、食用葡萄もあるのですね。

59	聖五月ママに内緒が増えてをり

 取り合わせの句は好きな方ですが、この季語は(即きすぎの季語よりは良いですが)
今一つピンと来ませんでした。

60	母の日を祝ふ子として母として

 面白い視点の句ですね。

61	知らせ来る姉の入院別れ霜

 季語が別れという暗い連想をさせますのでもっと相応しいのを探した方がよいように
思いました。

62	一笛の澄みたる響き薪能

 良くできた句だと思います。

63	褪せてなを力強さの鯉のぼり

 「褪せてなを」で力強さが生きてきますね。

64	病窓に微睡む午後や新樹光

 ご本人が入院しているのか付き添いでいるのか? いずれにしても季語から想像すれ
ば深刻な病ではないようですね。

65	雑事みな忘れて子らとしやぼんだま

 国枝隆生氏標================================

母親でしょうか。日常生活の憂さを晴らすように子供達と遊んでいる様子に屈託を忘れ
ているようです。

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66	芝に座し手話の語らひ新樹光

 和気あいあいの姿を季語が引き立てていますね。

国枝隆生氏標================================

野遊びをしているのでしょうか。手話をしながら芝生に座っている様子がキラキラ光っ
ているようです。ただ背景としての芝生と新樹にダブり感を若干感じました。

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67	青海波丘一面に花蜜柑

 「青海波」は色々な意味があるようですが、どういう意味で使ったのか良く分かりま
せんでした。

68	マンゴーや手触り硬き手榴弾

 マンゴーは形が手榴弾と似ていますので理屈を感じました。

69	売る家の更地となりて花は葉に

 理屈っぽい評で申し訳ありませんが、更地になったのでしたら売る家ではなく売る土
地なのでは?

〈国枝評〉「売る家」はこれから売るのでしょうか。「売りし家更地となりて」ではないで
しょうか。

70	人待つや葉桜の影まだらなる

 葉桜ともなれば暑い日もありますので木陰は過ごしやすいですね。

71	花水木シニア集いて英会話

 楽しそうな英会話の集まりを「花水木」が引き立てていますね。

72	心ひく色鮮やかに豆の飯

 「心ひく」が主観ですので句を弱くしているように思います。

73	花は葉に黄のランドセル一列に

 入学してひと月。少しは学校に慣れてきた子供たちですね。

国枝隆生氏標================================

登下校のどちらかの様子でしょう。子供達のランドセルの黄が葉桜の緑に引き立てられ
ているようです。そうするとこの明るさから下校時の明るさを感じました。

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74	白鷺や片足立ちの小川の瀬

 丁寧に写生していると思います。

75	大ぶりのトロ箱に咲く葱の花

 花ですから「咲く」は省略できるように思います。

76	藤棚に羽音せはしや真昼時

 上五中七でほぼ完結しているので下五が難しいですね。

77	柿若葉制服馴染む一年生

桜の時期に入学した一年生。若葉の頃には制服にも馴染んできます。

国枝隆生氏標================================

「柿若葉」と「一年生」の季重なりですが、この句は「柿若葉」が季語でしょう。柿の葉の艶
めく照りに一年生が光っているようです。

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78	遠慮なき夜半の蛙の大合唱

 やや俗になり過ぎたような気がしました。

79	棟上げの槌音高し若葉風

 小気味よく完成した作品ですね。槌音が棟上げを祝福しています。

80	自治会の健康講座夏来る

  初夏は一番良い気候。さあこれから頑張るぞという気合を感じます。


第304回目 (2025年4月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 囀りや孫は四人の女の子 後藤允孝(三重県)
   二月堂へ向かふ坂道花馬酔木 よりこ(愛知県)
   のどけしやおくるみの子のおおあくび      原洋一(岡山県)
   水郷を行き交ふ舟や柳絮とぶ 水鏡(岐阜市)
   芽吹き山遠州灘の波光る 田中由美(愛知県)
   初蝶を見んと幼の忍び足 雪絵(前橋市)
   蔵元の黒き板塀八重桜 康(東京)
   ママなしで初の登校風光る 麻里代(和歌山市)
   春暁や散歩をねだる犬の声 ようこ(神奈川県)
   朧なる瀬戸大橋に尾灯消ゆ 隆昭(北名古屋市)
【  酒井とし子 選 】
  特選 花冷や祖父の名刻む開墾碑 鷲津誠次(岐阜県)
   小流れにあせびの影の揺れどほし 美佐枝(千葉県)
   花冷や免許返納かと問はれ      比良山(大阪)
   水郷を行き交ふ舟や柳絮とぶ 水鏡(岐阜市)
   夕東風や海を見下ろす千枚田 水鏡(岐阜市)
   入学の日の靴紐の固結び 近江菫花(滋賀県)
   木の芽和え習ひし母の仏前に かよ子(和歌山市)
   花の昼牙の欠けたる仁王像 蝶子(福岡県)
   うららかや連子格子に猫の影 野津洋子(愛知県)
   花冷えやスープカレーの匂ふ夜 佐藤けい(神奈川県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 初蝶を見んと幼の忍び足 雪絵(前橋市)
   松葉杖路傍に小さきすみれ草 みぃすてぃ(神奈川県)
   波音を近くに聴きて誓子の忌      よりこ(愛知県)
   靴の番母に任せて磯あそび 貝田ひでを(大阪)
   のどけしやおくるみの子のおおあくび 原洋一(岡山県)
   花冷や免許返納かと問はれ 比良山(大阪)
   水郷を行き交ふ舟や柳絮とぶ 水鏡(岐阜市)
   夕東風や海を見下ろす千枚田 水鏡(岐阜市)
   入学の日の靴紐の固結び 近江菫花(滋賀県)
   花の昼牙の欠けたる仁王像 蝶子(福岡県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 花の昼牙の欠けたる仁王像 蝶子(福岡県)
   松葉杖路傍に小さきすみれ草 みぃすてぃ(神奈川県)
   花冷や祖父の名刻む開墾碑      鷲津誠次(岐阜県)
   仮免許練習中や風光る 比良山(大阪)
   水郷を行き交ふ舟や柳絮とぶ 水鏡(岐阜市)
   夕東風や海を見下ろす千枚田 水鏡(岐阜市)
   芽吹き山遠州灘の波光る 田中由美(愛知県)
   入学の日の靴紐の固結び 近江菫花(滋賀県)
   ふつかめのフリー切符や里うらら 戸口のふっこ(静岡県)
   花冷えやスープカレーの匂ふ夜 佐藤けい(神奈川県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、水鏡さん(岐阜市)、蝶子さん(福岡県)でした。「伊吹嶺」4月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2025年4月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	待合の行き交う看護師春浅し

 文脈から「待合」は病院の「待合室」だということはわかりますが、私は一読「待合
茶屋」だと思い、最初句意がわかりませんでした。「行き交う看護師」で病院にいるこ
とはわかりますので、もう少し季語に合う写生があると良いと思いました。

2	雛飾る狭き我が家の食卓に

 食卓にしかお雛様を飾るところが無いということで、家が狭いことは言わなくてもわ
かりますが、敢えてそう言ったことで、微笑ましく、エノケンの歌う「私の青空」が頭
の中に流れてきました。

5	直木賞窓の日永に浸りけり

 直木賞の本が窓際に置かれているようにも、作者が窓際で直木賞の本を読んでいるよ
うにも読めました。

6	球春のペナントレース始まり

 「始まり」は「始まりぬ」の誤記かと思います。この場合のペナントレースはプロ野
球公式戦のことと思いますので、球春と重複感があります。

7	バス待ちの爺屈伸山笑う

 季語の取り合わせが上手だと思いました。「爺」は「おやじ」または「じじい」と読
ませるのかと思いますが、「爺(じじ・じい)の屈伸」とした方が収まりが良いように思
います。

8	目薬の残り見透かす春灯

 こちらも季語の斡旋がうまいですね。「目病み女に風邪ひき男」などという昔の言葉
を思い出しました。

9	囀りや人の影なき文机

 具体的な人物ではなく「人」とされていますので、作者に近い方が愛用されている
(されていた)文机ではないのかな?と思いました。いずれにしても寂しさや空虚さを
感じさせる中七下五に、上五の季語がやや不似合いのような感じを受けました。

10	松葉杖路傍に小さきすみれ草

 松葉杖のゆっくりとした歩みだからこそ、小さな菫に気づくのですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「松葉杖」ということは、けがをなさったのでしょう。災難に見舞われた作者に
「すみれ草」が優しく寄り添っています。


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11	幼き子木の芽の同じ枝を摘む

 「木の芽の同じ枝」の意味がわかりませんでした。切れがなく散文的なところも気に
なりました。

12	囀の知らない鳥に名をつける

 そういうことをするのも面白いですね。こちらも、切れがなく報告的なのが残念に思
いました。

13	二月堂へ向かふ坂道花馬酔木

 お水取りの頃は、ちょうど馬酔木の花が咲くのですね。「続く」ではなく「向かふ」
とされたので、坂道を歩いている僧や参拝者の姿も見えてきます。

14	波音を近くに聴きて誓子の忌

 誓子忌は3月26日で木枯らしの季節ではありませんが、「海に出て木枯らし帰るとこ
ろなし」を踏まえた句かと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 誓子忌は3月26日。京都生まれだが病気療養などで海岸近くでの生活が多かった誓子
へ思いを馳せられたのか。誓子への思い入れを感じました。

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15	靴の番母に任せて磯あそび

 やや報告的な感じもうけましたが、楽しそうに磯遊びをする子供達を見守る母親の視
線が感じられます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 磯遊びの句なのだが、実は母を詠まれた句と思いました。きっとお母様は靴の番をな
さりながら、楽しく遊ぶ作者をやさしい眼差しで眺めておられることでしょう。

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16	潮干狩り大混雑の無人駅

 潮干狩り場の最寄り駅なのでしょうが、報告的に感じました。

17	かくれんぼ鬼の眼となる春の風

 「鬼の眼となる春の風」の意味がわかりませんでした。春の風が鬼役の子の目の代わ
りになるのか? 春の風が鬼の眼(形相)となるのか??

18	折りたたみ椅子を開きて落花舞う

 落花が折りたたみ椅子を開いたように読めました。また、落花と言えば「舞う」は不
要と思います。

19	春うららおほり巡りの屋形船

 のどかで旅情を感じる句ですが、「春うらら」が気になりました。歌のタイトルなど
にもなっていますので、つい使いたくなりますが、「うらら」「麗らか」だけで春の季
語になります。また、「お堀」「お城」「お茶」などのように名詞に「お」を付けると、
句が締まらない感じになる場合があります。「麗らかや堀に手漕ぎの屋形船」等、推敲
の余地があるように思いました。

20	団子屋の小さき湯呑みもさくら冷え

 空気が冷えるので、湯呑みの茶も冷えて(冷めて)しまったという句意かと思いますが、
それだと説明・理屈になります。「団子屋の小さき湯呑みや」と切りましょう。「さく
ら冷え(桜冷え)」という季語は無いとは断言できませんが、あまり一般的ではないと思
いますので、「花の冷え」が良いと思います。

21	散る花の余白へ風のひとりごと

 きれいな句と思いましたが、意味がよくわからず、いわゆる「ポエム」的に感じまし
た。

22	のどけしやおくるみの子のおおあくび

 長閑な感じが良く出ていますが、「のどか」と「あくび」がややつき過ぎに感じられ
ました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 まだまだ小さな嬰であろう「子」の「おおあくび」との対比がほほえましく、のどか
です。

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23	花冷や祖父の名刻む開墾碑

 できている句ですね。季語に、祖父が生きた決して楽ではなかった時代を偲ぶ気持ち
が窺えます。

24	リハビリや春告鳥に顔上げる

 順調なリハビリの様子が窺えますね。

25	新しき自転車光る四月かな

 新しい自転車で通学する新入生の姿が見えて来ます。良い句と思いますが、欲を言え
ば「光る」「四月」で自転車が新しいことは読み取れますので、上五を工夫すると更に
良くなると思いました。

26	どこまでも菜の花やどこまでも海

 破調ですが17音に収まっています。山村暮鳥の「いちめんのなのはな・・」の詩を思
い出しました。

27	どくだみをむしれば強き怒りの香

 臭いを擬人化したところがユニークですが、どくだみの臭いは誰でも知っているもの
ですので、それだけでは句材として弱いと思いました。

28	三月の朝のスープの淡き湯気

 淡い湯気が春の朝に似合っていますね。上五は「三月や」と切りたいところです。

29	土筆萌ゆ野の前方後円墳

 土筆と言えば「萌ゆ」や「野」は言わなくても良いと思います。また、「前方後円
墳」は「古墳」としても読者に景は伝わると思います。言葉を整理して仕立て直すと、
さらに良くなる句と思いました。

30	花時の百選の道匂ひ立つ

 「百選の道」は説明的で具体的な景に欠けるように思います。また、花時の花は桜の
ことですが、桜の花は「匂ひ立つ」と言うほど強い匂いはしないと思います。

31	小流れにあせびの影の揺れどほし

 「あせび(馬酔木)」は、「花馬酔木」「馬酔木の花」「馬酔木咲く」等、花が咲いて
いることを言わないと季語にならないと思います。

32	わが家系に放蕩おらず花筵

 謹厳実直な御一家の花見でしょうか? 花見の時くらい、もうちょっと膝を崩しても
良いのではないかと思ってしまいました。


34	街路樹の花雪洞に火の入る

 「街路樹の花雪洞」がよくわかりませんでした。街路樹に括りつけられた雪洞でしょ
うか? 季語の花雪洞は、灯っていることが前提ですので、「火の入る」は言わずもが
なと感じました。

35	初蝶の翔んで狭庭の賑やかに

 「賑やかに」と言ってしまうと、主観・説明になってしまいます。そう言わずに賑や
かに感じた気持ちが読者に伝わるように詠むのが俳句のコツだと思います。また、初蝶
と言えば、「翔んで」と言う必要はありません。「初蝶や」で、蝶が飛んでいる様子や
それを見た作者の気持ちが読者に伝わります。

36	花冷や免許返納かと問はれ

 季節が巡ることは楽しみでもありますが、同時に自分が年を重ねたということでもあ
ります。免許返納を問われる齢になったという心のありようが季語に反映されています。
 奥山ひろ子氏評===============================

 事柄句でありますが、季語が効いている。

返納しようか少し迷っておられる気持ちも伺えます。


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37	仮免許練習中や風光る

 前句と対照的ですね。車を運転する楽しさ、心の高ぶりが伝わります。

38	囀りや孫は四人の女の子

 女三人寄ると姦しいなどと言いますが、四人だとどうなるのか?・・などと思ってし
まうような楽しい季語の選択ですね。

 武藤光リ氏評================================

  四人の孫娘なら、さぞかしにぎやかなことだろう。季語の斡旋がよく
  作者の、楽しい愛情も愛情も窺われる。

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39	石鹸玉生まれしままに風に乗り

 石鹸玉と風の句は類句が多すぎて、よほど工夫が無いと読者の気持ちを捉えるのは難
しいと思います。

40	春光の水面耀よふ鳰の湖

 春光(春)と鳰(冬)の季重なりです。

41	どこか春娘の咲かす爪の花

 春(春)と瓜の花(夏)の季重なりです。句を作ったら、句の中のすべての語句を歳時記
で調べてみるという位の慎重さが欲しいところです。

42	水郷を行き交ふ舟や柳絮とぶ

 昔から変わらぬ風景が静かに詠まれています。季語から白秋の故郷柳川を連想させる
のが巧みですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 美しい景ですね。春らんまんの景を真正面から捉えておられると感じました。

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43	夕東風や海を見下ろす千枚田

 東風が吹くころですから、まだ苗が植えられていない千枚田なのでしょう。風に吹か
れながら、夕照を映す千枚田を見下ろしている作者が浮かびます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 海へ向く田植前の千枚田でしょう。暖かい風が吹く千枚田に、これから植田、青田、
稔田と、季節ごとの美しい姿を想起しました。

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44	芽吹き山遠州灘の波光る

 新緑の山上からの海上七十五里の眺望ですね。晴れ晴れとして雄大です。

45	背鰭立て青龍飛ぶや春怒濤

 「背鰭立て青龍飛ぶ」は、怒涛の比喩・形容でしょうか? 「春怒涛」を詠む場合は、
「夏怒涛」「冬怒涛」との違いを出すことが一つのポイントとなります。

46	恋猫の修羅を真似てる斜向かひ

 句意が取れませんでした。斜向かいの家の猫が発情して、阿修羅のように見えるとい
うことでしょうか? また、「真似てる」は敢えて口語にされたのでしょうか?

47	初蝶を見んと幼の忍び足

 「初蝶を見ん(む)」ということは、幼子にはまだ初蝶が見えていないのだと思います
が、そうしますと、どうやって初蝶がいることを知ったのだろう?と思ってしまいまし
た。

 奥山ひろ子氏評===============================

 こんな幼子が身近にいる幸福感。子供の姿を巧みに捉えてあると感じました。句のリ
ズムもいいですね。


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48	藤房のゆれを映して亀の池

 亀が甲羅干しをしている池の面に、藤の花が映っている。微かな風が吹き、花房が揺
れると同時に水面にさざ波が立ち、映っている景がわずかに乱れる。静かで長閑な春の
光景ですね。

49	蔵元の黒き板塀八重桜

 黒い塀に八重桜が映えますね。「蔵元」だと、酒や醤油を醸造する人や組織を言う場
合もありますので、「酒蔵」「酒店」等のより即物的な表現にした方が良いと思いまし
た。

50	婚礼の朝の仏間に桜の湯

 婚礼の席に桜湯は付き物ですので、句材として陳腐と思います。また、桜湯は独立し
た名詞ですので、それを分解して「桜の湯」と言うことはできません。花火を「花の火」
と言えないのと同じです。

51	ママなしで初の登校風光る

 入学したての登校には親が付き添っていたのが、初めて付き添い無しで一人で行くよ
うになったのですね。うれしさと寂しさ、期待と不安の複雑な心境が伺えます。

52	白梅よ花を散らすな香を散らせ

 梅の木への呼びかけという形に工夫が伺えますが、「花を散らすな香を散らせ」とい
う発想は平凡に感じました。

53	四年ぶり祭り太鼓の音高し

 四年に一度の祭りなのか? 作者が四年ぶりに祭りに行ったのか? 「音高し」に作者
の高揚感が込められているのかと思いますが、静かに打つ祭り太鼓はありませんので、
「音高し」は季語の説明に感じられます。

54	鏡筒の真珠星消へ夏近し

 おとめ座のスピカ(真珠星)を望遠鏡で見ているのだと思います。この星は春から夏
にかけてよく見えますので、「夏近し」はその通りなのですが、「真珠星消へ」がよく
わかりませんでした。朝が来て見えなくなったのか? 赤道儀で追尾しないため望遠鏡
の視野から消えたのか?

55	曇天を斜めに翔けて鳥帰る

 「斜めに翔けて」が面白く、不思議に感じました。何を基準にしての「斜め」なので
しょうか?

56	蓬餅外つ国の人や足を組み

 外国の方が足を組みながら蓬餅を食べたのが珍しかったのでしょうか? 三段切れと
中八は何とかしたいところです。例:碧眼の脚組み食ぶる蓬餅

57	採血の静脈浮いて花曇

 あまり愉快でない採血、青く見える静脈。なんとなく季語と似合っているように思い
ました。

58	能弁な湯宿の女将花疲れ

 女将のおしゃべりに疲れてしまったといのもあるのでしょうね? 「能弁」だととう
とうと演説でもする感じですので、「饒舌」「長舌」あたりでは如何でしょうか?

59	春暁や散歩をねだる犬の声

 「春眠不覚暁」は犬には通用しないのでしょうか? 犬と御自分の健康のために頑張っ
て早起きなさってください。

60	残る鴨水辺に古き木のベンチ

 ベンチに掛けて春の鴨を見ている作者。「水辺に古き」を「水辺に旧りし」あるいは
「池頭に旧りし」とすると、何年にもわたって鴨の行き来を見てきた年月の重なりのよ
うなものが感じられると思いました。

61	桟橋の波へ枝垂るる柳かな

 桟橋、波、枝垂れ柳と、とりたてて珍しくない取り合わせに思えますが、何か懐かし
くほっとするような感じを受けました。

62	春雨や背広の襟の濡れてをり

 雨に降られて服が濡れるのは当たり前なのですが、特に襟のことを言ったのは理由が
あるのでしょうか? 背広の肩や身頃は濡れなかったのでしょうか?

63	カーテンを開ければ奈落春落暉

 作者がどこにいて、どんな景を見ているのかよく分かりませんでした。また、春落暉
が季語になるのかも、疑問に思いました。

64	花散るや歯削る音にBGM

 歯医者の治療室に流れているBGMでしょうか? 治療室の窓から桜が散っていると
ころが実際に見えるのかもしれませんが、上五の季語と中七下五が合っていないように
感じました。

65	朧なる瀬戸大橋に尾灯消ゆ

 何か物語を感じるように思いました。

66	花筏縫ふて小舟の暗き水脈

 花筏を崩さぬように、小舟が花筏を避けながら通ったということでしょうか? 水脈
が暗いというのもよくわかりませんでした。「縫ふて」は「縫ひて」ですね。

67	日の匂ひふわり取り込む藤の昼

 「日の匂ひふわり取り込む」がよく分かりませんでした。もしかして、干した布団を
取り込んだということでしょうか?

68	おちこちの山の膨らみ桜咲く

 「おちこちの山の膨らみ」は「山笑う」という季語で言い換えられるように思いました。

69	啼き声は空に残りて落雲雀

 「啼き声は空に残りて」だと、雲雀は下に降りたのに声だけが空に残っているという、
よくわからない状況が浮かびます。「啼き声の」とすることにより、それが作者の心象
風景であることが伝わるように思います。なお、雲雀の明るい声は「啼き声」よりも
「鳴き声」の方が似合うような気がします。

70	花冷えや花屋なくなりお菓子屋に

 花屋もお菓子屋も街を明るくするお店だと思いますが、作者は花屋がお菓子屋に変わっ
たことで寂しさや憂いのようなものを感じたのでしょうか? 「花」の繰り返しだけを
意識して季語を選んだようにも思えました。

71	子の黄帽黄嘴の雀の子

 人間の子と雀の子を黄色で繋いでいますが、駄洒落のように感じてしまいました。中
七が字足らずなのも残念です。

72	入学の日の靴紐の固結び

 解けないようにきつく締めた靴紐に、全身のきちんとした身なりと緊張感が象徴され
ています。「固結び」は本結びの別称で、通常靴紐には使われない結び方ですが、この
句では固く締めた結び目という意味でしょうね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「靴紐の固結び」は見かける表現ですが、「入学の日の」の措辞がとても効いていま
す。志を感じました。

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73	雨蛙震へる喉の鳴き袋

 雄の雨蛙は喉に鳴嚢を持っています。それをそのまま言うだけでは単なる報告であり、
季語の説明です。

74	木の芽和え習ひし母の仏前に

 お母様の味を受け継がれたのですね。現代仮名遣い(和え)と歴史的仮名遣い(習ひし)
の混在は避けましょう。

75	黄砂降る中を老夫の耕耘機

 切れが無く散文的なのが気になりました。「黄砂降る」あるいは「つちふるや」と言
えば、その中の光景だということがわかりますので、「中の」は不要と思います。

76	終の地と決めて閉ぢたる小灰蝶

 小灰蝶が、そこを終の地と決めて翅を閉じた・・という意味でしょうか? 作者には
なぜ小灰蝶の思いが分かったのでしょうか? ちょっと見立てや気取りが感じられるよ
うに思いました。

77	大の字に転べば動く春の空

 「大の字に転ぶ」という表現に無理を感じました。また、春の空が動くという表現も、
具体的な景が浮かびませんでした。

78	もし生まれ変われるならばヒヤシンス

 ヒヤシンスがチューリップでも鳳仙花でも、読者は「そうですか・・」と言うしかあ
りません。

79	迷走も進歩のうちよ蜷の道

 教訓や小主観を俳句に盛り込むと、いわゆる「月並み俳句」になりがちです。残念な
がらこの句もそのように感じられました。

80	ガザの子に届かぬ祈り春よ来い

 川柳として鑑賞すると良い作品だと思いますが、人間模様や社会風刺、時事問題など
は俳句という器には似合わないと感じました。

81	仮名文字の流るる運び桃の花

 「仮名文字の流るる運び」の意味が分かりませんでした。

82	揚ひばり気づけば鬱の失せにけり

 主観的な句ではありますが、確かに雲雀の声を聴いていると気が晴れますね。「愁あ
り歩き慰む蝶の昼 松本たかし」の句を思い出しました。

83	春泥の更地となれり我が家跡

 我が家跡がぬかるんでいたのは実景だと思いますが、作者の思いを読者に伝えるため
に敢えて別の季語を選んでみる等の「創作」は有りだと思います。

84	花の昼牙の欠けたる仁王像

 阿形の像でしょうね。季語の選び方が巧みだと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「花の昼」のやわらかい措辞と、「牙」「仁王像」のいかめしい物の取り合わせがい
いですね。

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85	ベランダの飛花一片を仏前に

 桜が好きだった故人でしょうか? 作者と故人の関係に想像が膨らみます。

86	うららかや連子格子に猫の影

 「うららか」には陽ざしや日なたを詠みたくなりますが、影と合わせたところが巧み
だと思いました。

87	春の雹ドラムロールのトタン屋根

 比喩が陳腐に感じました。

88	廃農の茶の木伐る音落し角

 鹿の食害で茶の栽培をやめざるを得なかったのでしょうか?

89	ふつかめのフリー切符や里うらら

 何日かにわたって使えるフリー切符なのでしょう。気の向いたところで列車を降りて
みる気ままな鈍行の旅を想像します。

90	花冷えやスープカレーの匂ふ夜

 スープカレーというものを食したことはありませんが、なんとなく普通のカレーより
もスパイスが効いて体が温まりそうなイメージを持ちました。花冷えの夜に良さそうで
す。

91	囀りに励まされ行く坂の家

 「励まされ行く」と主観的に言わず、励まされた気持ちが伝わるように物に託せると
良いですね。

92	花の塵夜半の嵐の置き土産

 理屈を感じました。

93	地下街に風の届けし花一枚

 地下街に花(花びら?)があることに興味を引かれた点が面白いと思いました。た
だ、花は自分で移動しませんので、「風の届けし」は説明であり発想が平凡な印象を
受けました。


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