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選句結果
     
第257回目 (2020年11月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 蜜柑剥く喪中葉書を書き終へて 小川めぐる(大阪)
   小包に里の新聞暮れの秋 田中洋子(千葉市)
   裏畑へ葱抜きに出る月明り      雪絵(前橋市)
   若き日の文殻棄つる冬日和 稲福達也(沖縄県)
   バス停に並ぶシスター柿日和 うさの(愛媛県)
   縄跳びのひと跳びごとに暮るる空 とかき星(大阪)
   初時雨痛みを撮れぬレントゲン みのる(大阪)
   無事祈る妻の手術や神の留守 まこと(さいたま市)
   小春日や脚半のしかと老庭師 飴子(名古屋市)
   国境へ薄き毛布の夜行バス 小豆(和歌山市)
【  坪野洋子 選 】
  特選 裏畑へ葱抜きに出る月明り 雪絵(前橋市)
   遠く見る雄ライオンや秋あはれ 遊泉(名古屋市)
   帯解や切れ長の目の母に似る      貝田ひでを(熊本県)
   園児らの膝小僧照る今朝の冬 さいらく(京都)
   星々と交信中かちちろ虫 正文(湖南市)
   縄跳びのひと跳びごとに暮るる空 とかき星(大阪)
   じゃんけんで上る石段小春の日 康(東京)
   心まで染まるひと日や紅葉狩 みのる(大阪)
   湯豆腐やあまた佛に会うてきし きょうや(東京)
   国境へ薄き毛布の夜行バス 小豆(和歌山市)
【  高橋幸子 選 】
  特選 三陸の海静まりて月の道 櫻井 泰(千葉県)
   帯解や切れ長の目の母に似る 貝田ひでを(熊本県)
   若き日の文殻棄つる冬日和      稲福達也(沖縄県)
   外椅子に受診待ちゐる小六月 吉沢美佐枝(千葉県)
   縄跳びのひと跳びごとに暮るる空 とかき星(大阪)
   連結器切り離さるる枯野原 安来(さいたま市)
   黄落や古書店街の煉瓦道 康(東京)
   裏町に機織りの音冬ぬくし 石塚彩楓(埼玉県)
   退院の妻に腕貸す冬うらら まこと(さいたま市)
   国境へ薄き毛布の夜行バス 小豆(和歌山市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 三陸の海静まりて月の道 櫻井 泰(千葉県)
   切株の温みを去らず冬の蝶 暁孝(三重県)
   園児らの膝小僧照る今朝の冬      さいらく(京都)
   人気なき浜の波音冬めける ようこ(神奈川県)
   添水鳴り一瞬闇が崩れけり 茫々(和歌山市)
   つつぬけの空の碧さや冬雲雀 筆致俳句(岐阜市)
   じゃんけんで上る石段小春の日 康(東京)
   退院の妻に腕貸す冬うらら まこと(さいたま市)
   白味噌をすこし合はせて今朝の冬 和久(米原市)
   鈍色の空跳ね返す黄菊かな 美由紀(長野県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、櫻井 泰さん(千葉県)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2020年11月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	唇の寂しくなれば秋の歌

(国枝)この句の「秋の歌」とか「秋の卵」「秋沸騰」などの季語の使い方が気になりま
した。「歌」「卵」「沸騰」に季語をくっつけても詩情がなく、これらの季語は他の季節
でも通用するもので、季感が弱いと思いました。

2	日にひとつ真白き秋の卵割る

「秋の声」「秋の水」等、秋の季語として定まっているものは良いのですが、「秋の卵」
は季語として弱いと思います。

3	遠く見る雄ライオンや秋あはれ

坪野さんの選です。

 <遠く見る>が平原を思い出しているライオンを思わせて哀れを誘うのですが、
<あはれ>という直接の言葉は良いのかどうか迷いました。

4	富士はるか四方(よも)連山の秋沸騰

「秋沸騰」が季語として面白いかどうか?

5	小包に里の新聞暮れの秋

目にした里の新聞から故郷を思う作者の心情が伝わってきますね。

7	枯菊や刈られても尚香を放ち

(国枝)中7以降も菊のことを詠んでいるので、断絶の「や」に違和感がありました。
「枯れ菊の」でよいと思いました。

8	鐘の音の澄みて聞こゆ秋の夕

中六ですので<澄みて聞こゆる>の入力ミスでしょうか?それとも<音>は(おと)で
<の>を足して中七?

9	懸命の子らの呼び声赤い羽根

(国枝)昔よく赤い羽根の共同募金に出かけたことが思い出された。募金を呼びかける
声を「懸命」と詠んだところがよかった。

12 熱燗や酔うて手酌も愉しかり

出来ている句だと思いますが<愉しかり>は作者が述べずに読者に読み取ってもらう部
分だと思います。

13 熱燗や爺の手踊り面白き 

この句も<面白き>は読者に読み取ってもらう部分だと思います。

14 秋風にビ二一ル袋吹かれ来る

何でもない句ですがきちんと描写している句だと思います。

15 帯解や切れ長の目の母に似る

坪野さんの選です。

<切れ長の目>はお子さんの描写なのだと思いますが、母親の描写にも読み取れるのが
気になりました。

高橋幸子氏評================================

<帯解>は歳時記によると、今日の七五三の祝いの原型で、初めて帯を結んで晴れ着を
着せる7歳の女の子の祝いのこと。7歳ともなると女児もおしゃまなしぐさや表情とな
るものですが、母に似ている切れ長な目に焦点を当てたことが印象的で心に残ります。

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17 裏畑へ葱抜きに出る月明り

 坪野さんの特選です。

「月明り」の下、特別な場面ではなく、普段の生活を詠ったことに共感しました。

19 甕ひとつ映りて月の鏡かな

甕の水に月が映っているのでしょうか?月の鏡に甕が映っているように読みとれるの
で??でした。


21 若き日の文殻棄つる冬日和

<文殻>という難しい言葉を嫌う人もいるかもしれませんが、私も【目耕】などという
言葉を使ったことがありますので、素直にいただきました。

高橋幸子氏評================================

<文殻>とは、読み終わって用済みの手紙の事。若き日の手紙を、なかなか棄てきれず、
今まで持っていた作者が、思い切って棄てる心境が偲ばれます。季語「冬日和」が効果
的です。

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22 天空を遍く統ぶる鷹の舞

(国枝)下5を「鷹の舞」としたため、統べているのは「鷹の舞」のように取れました。統
べているのは鷹ではないでしょうか。「天空を遍く統べて鷹舞へり」なら分かります。

23 神々の齢は知らぬ星月夜

個人的には<知らず>と終止形にして切れを入れた方が良いと思いました。

24 切株の温みを去らず冬の蝶

 なかなか動かない冬の蝶をドラマの一場面のように描写。

国枝隆生氏評================================

 冬蝶の生態を見るよう。「切り株の温み」の具体性がよいと思います。

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25 鍋焼を食ひて老が身温めし

素直な表現で微笑ましく思いました。

27 園児らの膝小僧照る今朝の冬

坪野さんの選です。

膝小僧に焦点を絞って他は省略したのが良いですね。

国枝隆生氏評================================

「膝小僧照る」の発見がよかったと思います。園児の元気さが見えるよう。

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28 残月に濡るる自転車冬はじめ

<残月に濡るる>は結構強い表現なので「冬はじめ」との季重なりが気になりました。

29 ころころと鈴懸の実の走り行く

(国枝)「ころころと」の擬態語を使ったため、「ころころ」と「走り行く」のダブり表
現になりました。擬態語を止めて、他の写生が出来ると思いました。

30 唯じっと日の中に居る残る虫 

「残る虫」は虫の声ですので、日の中に居るのは作者ですね。それとも日の中に居るの
は「残る虫」?

31 葉の落ちし柿の実美人コンテスト

「柿の実」の品評のことか?それとも<美人コンテスト>は取り合わせなのか?

32 バス停に並ぶシスター柿日和

思わず注視してしまう壮観な景ですね。

(国枝) 一つの点景としてのどかな印象を受けます。「シスター」と「バス停」の取り合
わせがよかったと思います。

35 後の月鉄路は濡るゝごと光る

この風景ですと季語は「十三夜」の方が良いのではと思いました。

36 三陸の海静まりて月の道

<海静まりて>に「月の道」がよ良いですね。まして<三陸の海>ですから。

高橋幸子氏評================================

三陸の海といえば、3.11の惨禍が思われますが、それを内包しながらも、今は海が
静まって、満月が上がる時にできる<月の道>が美しい。鎮魂の景とも感じられ、胸を
うたれました。

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国枝隆生氏評================================

 「月の道」とは海面に月が上がると、一筋の月の光りが見えること。静かな海に現れた
「月の道」が印象的。どこかへ吸い込まれるようだ。「三陸」という固有名から震災地が想
定され、亡くなった人につながる月の道のようにも見える。

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37 安達良の智恵子の空よ濃竜胆

<空よ>と視線を上に誘導して、地面の花の季語ではやや不調和に感じました。

39 星々と交信中かちちろ虫

坪野さんの選です。

これくらいおおらかに飛躍されると気持ち良いですね。

40 池の亀メタセコイヤの紅葉晴れ

嘱目としても、亀とメタセコイヤが調和しているかどうか?

42 人気なき浜の波音冬めける

 省略を効かして殆ど波音と季語だけの句。

国枝隆生氏評================================

誰もいない浜辺に波音を聞いていると、いかにも冬が来た感じがよく出ている。私の近
くの海岸がこういう感じです。

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43 源流の落葉ひとひら旅に出る

<旅に出る>という擬人法が面白いかどうか?

44 二輪ほどの茶の花そつと歯科医院

<二輪ほどの>の<の>は省略できるように思いました。

45 笊にあふる黄菊の花をいただきぬ

<あふる>は終止形で(上五で)切れが生じますので、下五の<ぬ>という強い終止形
が気になりました。

46 ジーンズに縦横斜めゐのこづち

(国枝)「ゐのこづち」はどこにでもくっつくが、「縦横斜め」と特定化したのがよかっ
た。

47 白菜をぎしぎし洗ふ盥桶

オノマトペは余程効果的な言葉でないと平凡になってしまいますが、<ぎしぎし>と盥
桶が程よく合っていると思いました。

48 外椅子に受診待ちゐる小六月

レストランでは外椅子をよく見かけますが、幸子さんの選評で納得しました。

高橋幸子氏評================================

コロナ禍の三密を避けるための外椅子でしょうか。小六月なので、外も暖かいのでしょ
う。<受診待ちゐる>様子がよく分かります。

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49 しぐれては晴れては嵯峨の石仏

<ては>のリフレインのリズムが良く、中七の句跨りの調子も良いと思いました。

50 添水鳴り一瞬闇が崩れけり

(私の頭が固いのかもしれませんが)<添水の音に闇が崩れる>という感覚が分かりま
せんでした。

国枝隆生氏評================================

いわゆる庭園の鹿威しがよく見え、竹筒が鳴った瞬間を「闇が崩れた」という把握がよかっ
たと思います。

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51 城跡の野を分け来れば牛膝

(国枝)この「牛膝」は46番と違って作者自身の行動を詠んでいるのも好ましい。

53 縄跳びのひと跳びごとに暮るる空

坪野さんの選です。

<ひと跳びごと>では理屈では時間の経過が早すぎますが、暮早しの気分が出ています
ね。

 (国枝)最初、文庫本の歳時記で見たら、「縄跳び」の季語が見つからなかったので、
無季語かと思いましたが、詳しい歳時記には冬の季語とありました。改めてよい句だと
思います。子供の縄跳びの写生として「ひと跳びごとに暮るる空」がよかったと思いま
した。

高橋幸子氏評================================

学童の頃、下校後に近所の子たちと縄跳びに興じたことがよみがえってきました。今も
路地などで遊んでいるのでしょう。日暮が早い時期。<ひと跳びごとに暮るる空>がそ
の様子を端的に表していて、上手いなあと思いました。

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54 連結器切り離さるる枯野原

地方の引き込み線でしょうか。「枯野原」が効いていると思いました。

高橋幸子氏評================================

枯野原で連結器が切り離されるのは、貨物列車でしょうか。鉄道ファンならずとも連結
器が切り離されたり、繋がれたりする瞬間はわくわくするものだと思います。場所が
<枯野原>なので、田舎の停車場が思い浮かびました。

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56 息抜きの屈伸大事冬籠る

家で籠っているから息抜きが大事、と理屈のように感じました。

58 青北風に 光る噴水 洗濯物

<噴水>は一応夏の季語ですが、それを別にしても噴水のあとで切れていますので、
<洗濯物>が字余りも相まって唐突な感じを受けました。

60 冬晴や仁王の眼威を放つ

<威を放つ>は仁王の眼の説明気味ですね。

61 読み耽る頁にはらり木の葉髪

景は良く見えるのですが、<はらり>は「木の葉髪」に対して常套すぎるのではないで
しょうか。

62 つつぬけの空の碧さや冬雲雀

 冬の雲雀にふさわしい空を表現しましたね。

国枝隆生氏評================================

よくあるフレーズかもしれないが、気持ちのよい句。どこまでも晴れわたった空に鳴い
ている雲雀がよかった。冬であっても鳴いている生き物の命が見えてきます。

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63 じゃんけんで上る石段小春の日

坪野さんの選です。

子供たちの微笑ましい光景に惹かれました。

国枝隆生氏評================================

 石段でじゃんけんしながら登っていく子供の様子が印象的。「小春の日」の暖かさが和
ませてくれる

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64 黄落や古書店街の煉瓦道

究極までに言葉を削った句柄に好感を持ちました。

高橋幸子氏評================================

<黄落><古書店街><煉瓦道>が響き合い、情趣を醸し出しています。名詞と助詞の
みの句姿。句作の王道ですね

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66 秋空へ夫飛び立てり赤子見に

一瞬ご主人が亡くなられたのかと思いましたが、飛行機でお孫さんを見に行かれたので
すね。

68 川と湖あはひは何処鯔跳ぬる

<何処>は観念的な言葉ですので、目に見える描写をしてほしいと思いました。

69 コロナ過に見舞い叶わす帰り花

<叶わす>は<叶わず>だと思いますが、コロナ過に対して因果関係が勝っているよう
に思いました。

72 あと五つ山栗剥く手しびれをり

作者のお気持ちはよく分かりますし、どこが悪いということもないのですが、今一歩と
いう感じでしょうか。

73 初時雨痛みを撮れぬレントゲン

医学の文字通り痛いところを皮肉を効かして突きましたね。

74 心まで染まるひと日や紅葉狩

坪野さんの選です。

紅葉の美しさに〈心まで染まる〉という感覚に私も共感しました。

75 冬薔薇を咲かす園あり立ちどまる

<立ちどまる>が報告気味ですのでもう少し下五を吟味してほしいです。
 
76 湯豆腐やあまた佛に会うてきし

 坪野さんの選です。

(国枝)一日、仏像巡りしてきた安堵感が「湯豆腐」によく出ていると思いました。

77 寒晴やうだつの上がるなまこ壁

しっかりとできた句ですが、うだつの町並みの解説から抜け出ていないような感じがし
ました。

78 裏町に機織りの音冬ぬくし

類句の件は幸子さんと同じ意見ですが、すっきりとした句で京都の西陣を思いました。

高橋幸子氏評================================

やや類想句が多いのかなとも思いましたが、句の情趣に癒され、いただきました。

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79 庭の端の落葉に寝入る猫二匹

出来ている句で、景もしっかり見えるのですが、猫が寝ているというのはやや甘い状況
に思いました。

82 桜紅葉濃きひとひらを栞にと

「桜紅葉」は嘱目だと思いますので尊重しますが、私ですと五音に収めるため「柿紅葉」
にしてしまいます。でも<濃きひとひら>ですとやはり桜紅葉ですね。

84 飛行機の道ある多摩湖木の葉散る

湖に映る飛行機の影を<道>と表現したのは面白いと思いますが、<ある>が散文的で
すので何とかしたいですね

85 無事祈る妻の手術や神の留守
 
切実な祈りに神様が居ないとは何とも皮肉ですが、上五中七に対して大胆な季語の措辞
に惹かれました
。
86 退院の妻に腕貸す冬うらら

ほのぼのとした良い句だと思いますが、「冬うらら」が付きすぎかなと思いました。

高橋幸子氏評================================ 

仲の良いご夫婦の姿が髣髴としてきました。奥様が退院される時、さっと腕を貸す夫君
のしぐさや心持ちが、季語「冬うらら」にぴったりです。

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国枝隆生氏評================================

奥さんが退院したのであろうか、すっかり体力が弱ったのだろう。腕を貸して一緒に退
院した様子がほほえましい。老夫婦のありようが見える。

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88 秋深し母の形見のミシン踏む
 
類句があるかもしれませんが、しみじみとした良い句だと思いました。

90 朝寒に羽織るいちまい子の古着

お子様は成人して家を出てしまった家庭を想像しました。親の気持ちが色々と想像させ
られる句ですね。

91 初登校の銀杏落葉の栞かな

 (国枝)「初」を入れて上7にしなくてよいと思いました。上5はいくら長くてもよい
という方がいますが、5音に収まればそれに越したことはないと思います。この句の場
合「登校の」で十分分かると思います。

92 帰り花初登校を迎へをり

最初は児童を迎えに行ったのかと思いましたが、文字通り初登校の日が来たということ
ですね。

93 朝食の窓辺緊張小鳥来る

緊張しているのは作者?小鳥?それとも窓辺周辺に緊張感が漂っている感覚?いずれに
しても<緊張>という言葉が「小鳥来る」という季語に対して固い感じがしました。

95 吟行の句帳に挿む藍の花

「藍の花」の栞が、良い句を授かることへのお守りのような気がしてきますね。

98 尻立てて潜る水鳥二羽三羽

<尻立てて>が具体的な描写で良いのですが、<二羽三羽>が説明になってしまって惜
しいと思いました。

100 寒鰤の跳ぬる生簀や水しぶく

水がしぶくほど鰤が跳ねたことが主題なのですが、切れ字<や>が付いているので
<生簀>に焦点が行ってしまいます。語順を変えてみてはどうでしょうか。

102 帰り花ふと遠きの日の淡き恋

好きな句なのですが<ふと>が観念的ですので我慢したほうが良い言葉だと思います。

104 小春日や脚半のしかと老庭師

<脚半のしかと>が良いですね。腕のよい庭師の姿が見えてきます。
 
105 茶の花の盛りを祝ふ虻の音

<祝ふ>の見立てに好き嫌いが出るかもしれませんが、下五虻の<音>と断定したのが
良いですね。

107 日あたりに行かうぢやなゐか冬の蝶

あっけからんとして好感を持ちましたが、自信をもって頂くのには躊躇しました。ちな
みに<なゐか>は<ないか>だと思います。

110 蔦枯れて壁にうるさきもの残る

<うるさきもの>が見えてこないのが残念です。

111 紅葉晴白さ際立つ砂防ダム

山奥の砂防ダムは無粋な存在ですが災害予防策としては止むを得ないですね。<際立つ>
が説明的ですのでもう少し一考をお願いしたいです。

113 白味噌をすこし合はせて今朝の冬

 立冬の朝食にふさわしい静けさの句ですね。

国枝隆生氏評================================

いわゆる合わせ味噌で、味噌汁でも作っているのだろうか。立冬の今日は気分的に白味
噌を使いたい気分から季節感がよく出ている。

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114 短日や墳墓のやうな村となる

大御所の句と比べては申し訳ないのですが、飯田龍太の「露の村墓域とおもふばかりな
り」を思い出しました。

(国枝)具体的にどんな村か分かりませんが、「墳墓のやうな村」の発想がよかったと
思います。

116 国境へ薄き毛布の夜行バス

 坪野さんの選です。

色々と想像できる句で、私は東欧からの国境越えを(昔のスパイ映画を思い出し)何と
なく思い浮かべました。 

高橋幸子氏評================================ 

<国境へ>から、外国詠と分かります。国境越えの夜行バスがあるのですね。<薄き毛
布>が具体的で、少し居心地の悪い夜行バスの様子が伺われます。お仕事での夜行バス
利用でしょうか。想像が膨らみます。

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117 体操と走るにをはり運動会

<をはり>ではなく<をはる>の方が良いように思いました。

(国枝)「体操と走るにをはり」がよく分かりませんでした。体操と走ることだけで運
動会が終わったと言うことでしょうか。「体操と走るのみなる運動会」ということでしょ
うか。

120 居残りのティーバッティング冬に入る

頑張っている野球部員の姿が良く見えます。季語も良く合っていると思いました。正直
なところ、見逃してしまいました。申し訳ありません。

122 ちぎれ雲一家総出の小春空

<ちぎれ雲>と「小春空」の<空>が重なっていると思いました。

123 築四十年籠るに惜しき庭小春

「小春」だから籠るには惜しいのは分かるのですが、そこに<築四十年>がどう効いて
いるのか?

125 鈍色の空跳ね返す黄菊かな

国枝隆生氏評================================

秋も深まってくると、何となく冬が近づいて、気分的に弱って来る頃、黄菊がその憂鬱
さをはね返す様子がよく見える。「空跳ね返す」の中七の写生がよかった。

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126 彩残す落葉の海や涙雨

落葉の<海>、<涙>雨、と言葉を飾りすぎていると思いました。

127 蜜柑剥く喪中葉書を書き終へて

書信を書くということは緊張するものです。喪中葉書となれば尚更。書き終えた解放感
が「蜜柑剥く」という季語で伝わってきます。言葉と言葉の出会いにより、言葉が輝き
を得た佳句。

(国枝) 日常生活の一部をさりげなく詠んでいる。重い題材の「喪中葉書を書き終へ
て」に対して「蜜柑剥く」のさりげない取合せがよかったと思います。

130 歯科医院ロゴの変はりて冬うらら

<ロゴの変はりぬ>と終止形で切れを入れてはどうでしょうか。

132 再会の友のおもかげ返り花

 <再会>と「返り花」が付きすぎだと思いました。


第256回目 (2020年10月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 伊那谷は晴れて一村柿すだれ 康(東京)
   流星の音聞こえさう飛騨の闇 岩田遊泉(名古屋市)
   蕉風の碑文に映ゆる秋日かな      岩田 勇(名古屋市)
   身に入むや供花の置かるる交差点 いまいやすのり(埼玉県)
   独り居を照らす夕日や律の風 みぃすてぃ(神奈川県)
   一穴に四粒の種子や大根蒔く ひろこ(鹿児島県)
   小鳥来て木洩れ日をどる窓の朝 ふじこ(福岡県)
   秋晴や比良の稜線際やかに 百合乃(滋賀県)
   風凪て湖面に続く月の道 美由紀(長野県)
   行く秋や整地の済みし銭湯跡 幹弘(東京)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 新涼の筆ひと息に走らせり 雪絵(前橋市)
   この道を行けば法起寺鵙日和 康(東京)
   月待ちのかすかに狸囃子かな      うさの(愛媛県)
   対岸の灯青し雁渡し 直樹(埼玉県)
   聖堂に蜂蜜色の秋日差す 直樹(埼玉県)
   横たはる阿蘇の赤牛秋の草 貝田ひでを(熊本県)
   秋天や円柱高き博物館 ふじこ(福岡県)
   信州の旅の始まり走り蕎麦 町子(北名古屋市)
   夕映えの比叡をわたる鵙高音 和久(米原市)
   けふのこと告げ合ふ夕餉とろろ汁 惠啓(三鷹市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 巫女の吹くチャンポン清か放生会 紅さやか(福岡県)
   流星の音聞こえさう飛騨の闇 岩田遊泉(名古屋市)
   読み返す祖父の日記や葛の雨      うさの(愛媛県)
   秋惜しむ一筆箋の掠れ文字 安来(さいたま市)
   聖堂に蜂蜜色の秋日差す 直樹(埼玉県)
   行く秋や湯灌の母の頬拭ふ 隆昭(北名古屋市)
   初鮭のちやんちやん焼きの味噌の焦げ 町子(北名古屋市)
   小鳥来る閂かるき西教寺 百合乃(滋賀県)
   柿をもぐ一竿ごとに息止めて 椋本望生(堺市)
   指切りの淡き思い出赤のまま ときこ(名古屋市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 流星の音聞こえさう飛騨の闇 岩田遊泉(名古屋市)
   空からの便りのように桐一葉 田中洋子(千葉市)
   月待ちのかすかに狸囃子かな      うさの(愛媛県)
   新涼の筆ひと息に走らせり 雪絵(前橋市)
   温め酒だんだん軽くなる余生 正男(大津市)
   聖堂に蜂蜜色の秋日差す 直樹(埼玉県)
   横たはる阿蘇の赤牛秋の草 貝田ひでを(熊本県)
   小鳥来る人形劇の大団円 とかき星(大阪)
   野分来てラジオの赤き灯のひとつ 小夜子(神奈川県)
   けふのこと告げ合ふ夕餉とろろ汁 惠啓(三鷹市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、岩田遊泉さん(名古屋市)でした。「伊吹嶺」10月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


         2020年10月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	もぎ取りし袋のままに長十郎

 袋掛けされた状態のまま長十郎梨をもいだという意味かと思いますが、句を素直に読
むと、袋をもいだという意味に思えてしまいます。

2	秋晴やレンタルのチャリ見当らず

 レンタルした自転車を盗まれてしまったのでしょうか? 「チャリ」は、すでに市民
権を得た言葉になっていると思われますが、詩語として使う場合は慎重にされた方が良
いと思います。

3	欠番


4	障子貼る音痴はなべて音痴なり

 ご自分のことを自虐的に詠まれた句と捉えると、開き直った態度が面白いですね。

5	かなかなや会話つづかぬ父の見舞ひ

 ふと訪れた沈黙に、蜩の声だけが遠くで響いているのでしょう。下五の字余りが残念
です。

6	古書店街灯りの減つてちちろ鳴く

 コロナ禍もあって、さびれて行く街が多いようです。「ちちろ」と言えば「鳴く」と
言わなくても鳴いていることはわかりますので、下五は「ちちろかな」と詠嘆で切るの
も一考かと思います。

7	秋の暮知らぬ顔して集う猫

 「知らぬ顔」が、何に対しての「知らぬ顔」なのかが、よくわかりませんでした。

8	意地悪が顔に出てますいぼむしり

 この句は、カマキリ自体を詠んだのであれば、平凡でつまらない句ですが、作者に関
係する誰かのことと捉えると面白みがあります。ただ、季語がちょっと付き過ぎの感が
ありますので、一考の余地があるように思えます。

9	敬老の猿のローリーケーキ食ふ

 敬老の日、敬老日等は季語になりますが、「敬老」あるいは「敬老の猿」を季語とみ
なすのは無理があると思います。

10	流星の音聞こえさう飛騨の闇

 山の澄んだ空気と静かな闇が感じられます。「音聞こえさう」は作者の素直な感想と
思いますが、「流星の音轟ける飛騨の闇」位の誇張があっても良いように思いました。

 伊藤範子氏評================================

流れ星に音が聞こえることはないのですが、静かな山間の空間で俳人の耳ならば聞える
かもしれません。

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11	蕉風の碑文に映ゆる秋日かな

 「碑文に映ゆる秋日」に違和感を覚えました。「秋日に映ゆる碑文」ではないでしょ
うか? 映えるのが、碑なのか碑文なのかという点にも引っ掛かりましが。

12	もしかして正体は風秋の声

 「秋の声」は具体的な音声や物音ではなく、秋の気配を言う季語です。風もその一因
になることがあるかもしれませんが、それをそのまま言っても作者の独り言の範囲を超
えません。

13	空からの便りのように桐一葉

 桐の落ち葉は、高いところから不意に降ってきます。それをうまく表現されました。

14	秋風や机上の句集めくりをり

 「秋風や」と強く切れていますので、句集をめくっているのは風ではなく作者なのだ
と思いましたが、わざわざ「机上の」と言っているということは、やはり風によって句
集がめくられているのでしょうか? 風が本や句集をめくるだけでは平凡ですので、
「秋風のめくる句集やXXXXX」のような感じで推敲されてみてはいかがでしょうか?

15	おもてなし村のあちこち案山子立ち

 案山子で村おこしをしているのでしょうか? 説明的で、具体的な映像に乏しい句で
すので、一つの案山子に着目して、具体的な景を詠まれては如何でしょうか? 
例「XXXXの案山子微笑む村境」

16	町の顔トラムの窓に秋の風

 「トラムが町の顔だ」と言いたい気持ちはわかりますが、そう言わなくても俳句の読
者は、トラムが特徴の町だということは読み取ってくれます。

17	西陽差す南瓜の襞の深さかな

 西日(夏)と、南瓜(秋)の季重なりです。

18	縄文ならば野原の領主竈馬

 映像の伴わない、理屈っぽい句と感じましたが、その理屈の内容が、いまひとつ良く
わかりませんでした。

19	二階より園児の笑ひ竹の春

 「園児」とありますので、保育園か幼稚園の景でしょうか? 「笑い」は笑い声なの
か笑い顔なのか、なぜ二階からなのか??  「竹の春」という複雑なニュアンスを持つ
季語を活かし切れていないように思いました。

20	身に入むや供花の置かるる交差点

 悲しい事故があったのでしょうね。 やや季語が付き過ぎの印象を受けました。

21	秋麗やなにするとなく日を過ごし

 こういう秋の一日も良いですね。贅沢な一日です。

22	厚眼鏡の横笛は父秋まつり

 上五の字余りは、比較的受け入れられ易いものですが、安易に使うものではありませ
ん。この句は、他にお父さんの特徴を言うことはできなかったでしょうか? 「横笛」
は「笛」で十分だと思います。

23	稲架組めば大和平群は古代の香

 稲架を組んで稲を掛けるのは、今日でも日本中で行われています。古代を思わせる平
群町独特のものがあるのか、現地を知らないものでよくわかりませんでした。

24	弧状列島空爽涼と忠魂碑

 大きく爽やかな句ですが、大きすぎて具体的なイメージが湧きません。日本列島全体
が晴れの天気であるということは、天気予報などでもわかりますが、自分の目で実際に
見るとこはできませんので、自分の目で見えるものを写生されるとより臨場感のある句
となると思います。「空爽涼と」という表現にも、無理があるように思いました。

25	伊那谷は晴れて一村柿すだれ

 干し柿が名産の村なのでしょうか? 上五は、「伊那谷の〜」としたいところです。

 武藤光リ氏評================================

  伊那谷方面の柿は渋柿が多いようで、どこでも秋には
  軒に柿が干されているのを見た。一村はオーバーな気もするが
  この誇張が逆に適切に伊那の秋を表出している。

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26	この道を行けば法起寺鵙日和

 具体的な景の描写はありませんが、寺の名前や季語から、郊外の大和路が思い浮かび
ます。デイパックを背負った旅行者に道を聞かれた老人が、道案内をしている姿を思い
描きました。

 奥山ひろ子氏評===============================

<法起寺>は作者にとって慣れ親しんだ大切な古刹なのでしょう。<鵙日和>が句風を明る
くしていると思います。

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27	名月や浮かむ緋の鯉金の鯉

 月明りで、池の鯉が良く見えているのでしょう。揺れる池の面に散れる月の光が美し
いですね。

28	梵鐘一打大音聲の山紅葉

 句の意味がよくわかりませんでした。鐘の音を声に喩えたのでしょうか? それとも、
ヤマモミジが大音声を発しているという意味でしょうか?

29	法師蝉尽きる命を知るやうに

 作者の主観が述べられているのみです。その主観も、古くから言われている陳腐な内
容です。


30	棋譜残す宇宙の若し月初秋

 句の意味が分かりませんでした。三段切れかと思いましたが、どこで切れるのかも、
よくわかりませんでした。

31	寂し月雲無き君の光鋭利

 前の句と同様、意味がわかりませんでした。言葉を詰め込み過ぎの、いわゆる「腸詰
俳句」のように感じました。

32	蓑虫も一人暮らしの落葉樹

 「蓑虫も」とありますが、「作者も」独り暮らしであると言いたいのでしょうか? 
「落葉樹」の意味するところは??

33	この丘の風知り尽くし秋桜

 きれいな句ですが、類句が多いように思いました。コスモスと風は、相性が良すぎま
すので、オリジナリティーを出すのが難しいですね。

34	良夜とは月の雫を浴ぶること

 作者の主観を、ちょっと気取って表現した句という印象を受けました。「良夜」のイ
メージは、それぞれの読者が持っていますので、作者の主観でそれを定義して読者の共
感を得るのは難しいと思います。

35	月待ちのかすかに狸囃子かな

 狸囃子とは、タヌキの腹鼓のことではなく、夜に笛や太鼓の音が聞こえる怪現象のこ
とらしいですね。良夜には、いろいろなものが浮れ騒ぐのでしょうか? 落語の権兵衛
狸という噺を思い出しました。

 奥山ひろ子氏評===============================

絵本の中の景のようですね。月を待つ誰かが<狸囃子>を歌っていたのでしょう。月を楽
しみに待っている気持ちが感じられました。

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36	読み返す祖父の日記や葛の雨

 葛の花が咲く頃の雨の日、おじいさんの日記には、読み返すたびに新たな発見がある
のではないでしょうか。自分がおじいさんの年齢に近づいて行くと特に・・。

 伊藤範子氏評================================

お祖父さまの日記が残っていることに感銘を受けました。年代的に何度も戦争を体験し
た方でしょうか。明るい雨ではなく「葛の雨」によってそんな想像をしました。

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37	新涼の筆ひと息に走らせり

 書道の景でしょうか? 作者の心の在り方、作品の様子などを、季語がうまく表現し
ています。

 奥山ひろ子氏評===============================

<新涼の筆>の上5が新たな季節の清々しい気持ちが表れていると思いました。またその気
持ちを<一息に>という写生で詠みこみ、作者の引き締まった心境を感じました。書であ
ることは<筆>の一文字でわかりますが、句全体から墨の香りや筆を運ぶ音まで伝わり特
選とさせていただきました

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38	秋しぐれ昼を灯して書に耽る

 しぐれ(時雨)とは、冬の通り雨のことで、秋に降るものが秋時雨です。秋雨、秋霖
とは趣が異なります。この句の場合は、どちらが似合うでしょうか?

39	とりどりの小さき秋あり松花堂

 松花堂は、松花堂弁当のことでしょうか? 「小さい秋」というフレーズは、童謡で
有名になり過ぎて、どんな句であっても、この言葉だけで陳腐に思えてしまいます。

40	独り居を照らす夕日や律の風

 「独り居を照らす夕日」が、暑苦しい西日のように思えて、季語と似合わない印象を
受けてしまいました。

41	子等遠く妻と二人の月見かな

 家族全員でした月見をした、お子さん達が小さい頃のことを、思い出しているのでしょ
う。やや説明的なので、もう一工夫欲しいと思いました。

42	蛇笏忌や庭の柿の木牛二頭

 三段切れで、蛇笏忌、柿の木、牛の関係がよくわかりませんでした。

43	木下陰さやかに白き曼殊沙華

 「さやか」と「曼珠沙華」の季重なりです。

44	コロナ禍の回転木馬そぞろ寒

 「コロナ禍」と季語が付き過ぎなので、中七を他の物に替えても成り立つように思い
ました。

45	温め酒だんだん軽くなる余生

 「だんだん軽くなる余生」とは、面白い表現ですね。老いて行く先を思うと心が重く
なりますが、「余生が軽くなる」という見方をするとほっとします。心豊かな晩酌のひ
と時ですね。写生句ではなく、主観を述べた句ですが、共感できました。

46	秋惜しむ一筆箋の掠れ文字

 佳い句と思いますが、掠れ文字が秋を惜しんでいるようにも読めてしまいます。上五
は「逝く秋や」「秋深し」「冷まじや」等、推敲の余地があると思いました。

 伊藤範子氏評================================

誰が書いたものか何も言っていないのですが、鑑賞を読み手にゆだねる俳句の詩形のよ
さが伝わる一句です。

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47	田の神も山へ戻りし秋の霜

 上五中七が、秋の霜に関する主観的な解説で、具体的な情景が見えてきません。

48	馬籠より妻籠への道秋寂ぶる

 「秋寂ぶる」は具体的な映像を伴わない季語なので、報告的な句という印象を受けま
した。「馬籠より妻籠への道」は、中山道と記しても良いと思いますが、地名の印象・
面白さを活かすのであれば、もう一工夫欲しいと思います。

49	健啖におはす百歳食の秋

 食欲の秋という慣用句がありますが、「食の秋」は季語になるのか、疑問に思いまし
た。秋→食欲→健啖という発想も、ありきたりな気がします。

50	虫の声ほめて晩酌すすむ夫

 俳句で「虫の声」と言えば、その音を愛でていることはわかりますので、「ほめて」
と言う必要はありません。

51	畦道の刈り残されて曼珠沙華

 畔の草が刈られた後に残っている、丈の高い彼岸花はよく目立ちますね。田んぼのあ
る所では、よく見る光景です。

52	対岸の灯青し雁渡し

 「灯青し雁渡し」は、狙って韻を踏んだのでしょうか? そうでないとすると、季語
が動くように思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

<青し〜渡し>の韻を踏んでいるところが楽しいですね。大きな景の御句で、気持ちがい
いです

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53	聖堂に蜂蜜色の秋日差す

 「蜂蜜色の秋日」とは、良い表現ですね。優しさ、濃密さ、清らかさ等、イメージが
膨らみます。

 奥山ひろ子氏評===============================

秋日を<蜂蜜色>と詠まれた点が個性的でなるほどと感心いたしました。とろけそうな様
子も合っていますね。

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 伊藤範子氏評================================

秋の夕日を「蜂蜜色」と捉えた感覚が良いと思いました。

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54	故郷へ続く単線赤とんぼ

 ほのぼのとした良い句ですね。ただ、線路と望郷の句は、類想が多いように思います。
赤とんぼと来るとなおさらですので、季語を一工夫するのも一考かと思います。

55	横たはる阿蘇の赤牛秋の草

 大きな牛と、可憐な秋草の対比が良いですね。・阿蘇の・赤牛・秋の草という、韻を踏ん
だ言葉のリズムも良い感じです。

 奥山ひろ子氏評===============================

中七以降、「あ」の音が3つ重なり、リズムがいいですね。季語も動かないと思います。

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56	名月や夫より先に死を思ふ

 「夫よりも先に自分が死にたい」という句意でしょうか? 真剣にそういうことを考
えるお年なのだと思いますが、美しい名月にそういう思いを重ねることに、ある種の凄
味を感じました。

57	秋深く孤独楽しむ俳句かな

 俳句という友を得れば、孤独もまた楽しからずや・・ということですね。この句は一
種の楽屋オチですが、どんどん佳い句を作ってください。

58	母の庭下りれば近く赤蜻蛉

 お母さんの家を訪ね、縁側からちょっと庭に出てみたところ、すぐ近くまで赤とんぼ
が飛んで来たのでしょう。独居の母親を見守ってくれているようで、ちょっとほっとし
たのでしょうね。

59	ゑのころのきらきらとして風に沿ふ

 季語そのものを詠んだ句は、往々にして「季語の説明」になりがちなのですが、この
句では「きらきらとして」というのが、作者独自の見方・発見になっています。輝きを
感じるほど若くつややかなエノコログサが見えてきます。「風に沿ふ」は残念ながら、
やや陳腐な描写に思えました。

60	端欠けて久しき七輪サンマ焼く

 端が欠けていることを描写すれば、「久しき」の説明は不要と思います。また、七厘
とサンマと言えば、「焼く」も省略できそうですね。

61	缶蹴りや円の切れぎれ秋夕焼

 季語もあいまって懐かしい景が浮かんできますが、三段切れなので、読み下したとき
のリズムがたどたどしく感じられます。

62	鳥渡るいつも屋根なる風見鶏

 遠く渡って行く自由な渡り鳥と、屋根に固定されて動けない風見鶏の対比ですが、ちょ
っと狙いすぎと言うか、わざとらしさを感じてしまいました。

63	山粧ふ智恵子の村をその底に

 高村光太郎の妻の智恵子のことと思います。そうだとするとこの山は安達太良山で、
背景には「本当の空」が見えるのでしょうね。

64	屋敷林囲む黄金田豊の秋

 「屋敷林囲む黄金田」は、「豊の秋」の風景そのものですので、取り合わせとなる別
の季語を考えたいところです。「屋敷林囲む黄金田鰯雲」「屋敷林囲む黄金田曼珠沙華」
等々。

65	秋深し古城の床のきしみ鳴き

 静かな城内の秋冷な空気に響く床の軋みです。「きしむ」と「鳴く」が重複した意味
なのが気になりました。

66	門口に落葉散り敷く武家屋敷

 景は見えるのですが、写真で言うと、武家屋敷の全景を離れたところから写した一枚
という感じで、漠然とした風景写真のようです。「武家屋敷」と大づかみに言うよりも、
屋敷の各部位に絞って、作者が感動したこと、伝えたいことをもっとクローズアップし
ましょう。

67	棒稲架の並ぶ田圃や天は晴

 気持ちの良い景ですが、無駄な言葉が多い印象です。棒稲架と言えば「並ぶ」や「田
圃」は省けます。「天は晴」は「晴れ」で十分です。

68	秋の夜や曼荼羅アートてふ塗り絵

 秋の夜長に、幾何学的な塗り絵を楽しまれているのですね。「曼荼羅アート」と言え
ば、それを説明する「てふ塗り絵」は不要でしょう。「曼荼羅アートてふ塗り絵」と言っ
ても、知らない人にとっては、どんなものか想像がつかないと思います。(私はネット
で調べました。)

69	子規庵の風が綾なす九月かな

 子規の忌日が9月であることを踏まえた句と思います。俳句を嗜む者にとって、子規
庵は特別な地、9月は特別な月であり、そこに吹く風も何か特別な感じがするのでしょ
うね。

70	忘られし山田に稲架の暮れ残る

 寂しげな景です。「山田」を修飾する上五に、工夫の余地があると思いました。

71	秋の夜のふと眠気さすポアロかな

 秋の夜長に、推理小説を楽しまれている景ですが、「読書の秋」という言葉があまり
に一般化してしまっているので、秋=読書という連想がステレオタイプに思えてしまい
ます。

72	建売の幟ひらりといわし雲

 景は見えるのですが、作者が何に感動されたのかが伝わってきません。街中ではいろ
いろな幟を見かけますが、その中で「建売の幟」が何か特別な感慨につながったのでしょ
うか?

73	柴刈りや幹に入り込む葛を先ず

 柴刈りの実景ですが、作者の感動・心の動きを俳句として表現したというよりは、
作者の考えを独り言的に呟いたという印象です。

74	小鳥来る人形劇の大団円

 屋外での人形劇でしょうか? 目を輝かせて観ている子供たちの姿が思われます。
「大団円」は具体的な映像を持たない言葉ですが、「人形劇の大団円」となると、人形
たちが音楽に合わせて踊っている姿が浮かび上がってきます。

75	黄落やスワンボートのはぐれゐて

 スワンボートが一艘だけ湖面に浮いているのを「はぐれゐて」と表現されたのだと思
いますが、「はぐれる」には本来いるべきところを外れてしまったというニュアンスが
ありますので、季節外れのスワンボートに作者が抱いた場違い感が伝わって来ます。

76	古俳誌に亡き友の句秋惜しむ

 中六の字足らずは、是非解消しましょう。

77	はらわたを薬となめる初秋刀魚

 サンマの腸はうまいと思いますので、べつに薬と思わなくても・・・というのは、個
人的な感想です。最近は、漁法のせいか、腸にウロコが入っていることが多く、がっか
りします。

78	裏戸の灯届かぬ闇を虫の鳴く

 詠み方が一本調子で報告的ですので、切れが欲しいです。

79	門燈に翳る芝生や虫の声

 「門燈に翳る芝生」の景が浮かびませんでした。門燈がついたら、明るくなるのでは
ないかと思いますが・・・。

80	行く秋や湯灌の母の頬拭ふ

 作者の思いが伝わってきます。ただ、季語の選び方が、ちょっと安直なように感じて
しまいました。

 伊藤範子氏評================================

納棺前に心を籠めてお母様の頬を拭われ、ご自身の頬には涙が伝わったのではないかと
想像させていただきました。

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81	骨上げの箸に余熱や秋深し

 季語に思いを託されたのだと思いますが、「骨上げの箸に余熱」という、非常に臨場
感があって生々しいものに対して、「秋深し」という静謐な感じのする季語が、ちょっ
とミスマッチに思えました。

82	秋草の揺れて風道教えけり

 この句の具体的な景は、「秋草が揺れた」ということだけで、「風道教えけり」は作
者の主観です。草が揺れれば風が吹いたことはわかりますので、主観を排して写生する
ことにより、秋の風情を詠んでください。

83	色変へぬ虹の松原風分かつ

 「色変えぬ松」は秋の季語ですが、地名と合わせた「色変へぬ虹の松原」は季語には
ならないと思います。

84	コスモスの風にピントの定まりぬ

 カメラの焦点を合わせているところでしょうか? 風にピントが定まるとは??

85	龍淵に潜み四万十悠悠と

 珍しい季語に挑戦されました。「龍淵に潜む」は想像上の季語で、「水澄む」と近い
イメージですが、より神秘的な感じがしますね。四万十川を実際に見たことはありませ
んが、イメージが膨らみます。

86	台風来日本近海気触れをり

 「気触れ」は「かぶれ」と読みますが、そうすると句の意味がわかりません。

87	逃避行野分きの宿の偽名かな

 実体験ではなく、創作かと思いますが・・・。俳句というより、演歌の世界ですね。

88	月天心みささぎわたる風白し

 月(秋)と白風(秋)の季重なりです。

89	駒駆くや湖の朝霧はれそむる

 何となく幽玄な感じがします。「駒駆くや」が表現として窮屈で、まだ霧が残る中で
はその姿も見えないと思いますので、音を描写する等、工夫されてみては如何でしょう
か。また、「はれそむる」は、霧の状態の変化を時間の経過を意識して表現されていま
すが、句を捉えた一瞬に絞れば、「残る霧」等の瞬間の描写となると思います。

90	黄楽や補習授業の放物線

 「黄楽」をネットで検索してみたら、白菜の品種がヒットしました。「黄落」とした
かったのかと思います。「補習授業の放物線」は、意味が分かりませんでした。

91	青白きLEDの夜なべかな

 LED(発光ダイオード)が夜なべをしているように読めてしまいます。

92	旅の靴仕舞いて秋を惜しみけり

 秋を惜しむ頃は、ちょうど紅葉のシーズンでもあり、旅行に最適なのでは?という気
もしましたが、コロナ禍で今年は旅行を諦めたということでしょうか?

93	遠寺の鐘の音連れて秋の行く

 何となく深秋の感じは出ていますが、具体的な景が何一つ見えて来ません。鐘の音と
いう見えないものに対して「行く秋」という見えない季語を持ってくるのではなく、実
体のあるものを季語として使っては如何でしょうか。「遠寺の鐘の音」という表現も、
やや冗長に感じます。

94	秋の夜の落ちつづけゐる砂時計

 秋の夜と砂時計の取り合わせは、雰囲気があって良いと思います。ただ、「落ちつづ
けゐる」という描写はあまりに平凡で、言わなくてもわかるという気がしました。

95	憑きものの墜ちたるごとく秋の空

 秋の空のすっきりとした感じを「憑物が落ちた」と表現されたのは面白いですね。
「堕」の字を使われたのは意図してのことと思いますが、この字ですと、憑物が地獄な
どに墜ちた、あるいはどこかに堕落したという意味に感じてしまいます。

96	一穴に四粒の種子や大根蒔く

 「一穴に四粒の種子」が非常に具体的な描写ですが、詩として必然性があるでしょう
か? 写生というよりも、報告の域を出ないと感じました。

97	秋の夜や古きアルバム開きけり

 秋の夜長に、昔を偲ばれているのでしょうね。ただ、一句に「や」と「けり」のよう
に複数の切字を使うのは、「降る雪や〜」のような有名句の例もありますが、一般的に
は避けた方が無難です。

98	秋天や円柱高き博物館

 真っ青な空を背景にした、古代ギリシャの様式のような白亜の建物が見えて来ます。
もしかすると、海外の博物館でしょうか? 

 奥山ひろ子氏評===============================

神殿のような博物館なのでしょうか。<博物館>という建物は歴史や謎めいたところもあ
り、とても効いていると思います。季語との取り合わせもいいですね。この御句は「ん」
の音が3つあり、音読すると楽しくリズムがいいと思いました。

 ======================================

99	小鳥来て木洩れ日をどる窓の朝

 爽やかな句ですね。「朝の窓」ではなく「窓の朝」とされたところが特に良いと思い
ました。

100	考へる筋肉の像黄落期

 「考える筋肉」という像があるのでしょうか? それとも、筋肉の像が考えているの
でしょうか?

101	こぼれ萩踏みて車輪の止まりけり

 車輪に着目したところは、誓子の「夏草に機関車の車輪来て止まる」を思い出させま
す。ただ、こちらは何の車輪かわかりません。人力車などですと、雰囲気が出ると思い
ますが・・・。「こぼれ萩踏みてRikishaの止まりけり」とすれば、人力車に乗ってい
るのは外国人とわかります。

102	茶の花や和菓子店主は三代目

 「和菓子店主は三代目」は、何を言いたいのでしょうか? 歴史のある老舗?それと
も、まだ三代に過ぎない新興の店と言いたいのでしょうか? 茶と和菓子の取り合わせ
も、付き過ぎのように感じました。

103	秋日和大きな鯉の泳ぐ町

 「大きな鯉の泳ぐ町」は、大づかみ過ぎる描写に感じました。町全体の特徴を説明す
るのではなく、具体的に見えている鯉や水路の様子を写生して、町の様子を伝えましょ
う。

104	一ゆれゆれてローカル電車窓の月

 上五は、大幅な字余りにしてまで言わなくてはならないことには感じられませんでし
た。

105	姉からの最後の手紙秋の虹

 故人から最後に受け取った手紙を読み返しているのでしょうか。季語からは、悲壮感
等ではなく、静かに故人を偲ぶ、穏やかな気持ちがうかがえます。

106	陸奥の子供の頃の冬の星

 子供の頃には、星がどう見えたのか、当時に戻って現在形で詠みましょう。

107	今年は勝ちの予感や運動会

 どうしてそう思ったのか? 勝ちの予感を得た事象や風景をそのまま写生しましょう。

108	秋灯す窓それぞれに物語

 「窓それぞれに物語」は一般論そのままで、新鮮味の無い表現に思いました。

109	秋雨の降りみ降らずみ人遠し

 「秋雨の降りみ降らずみ」は語呂が良いですね。「人遠し」が誰のことを言っていて、
遠いことをどう感じているのかがわかりませんでした。

110	口開けて歯並の悪き石榴かな

 石榴の実の並びを、歯並びに喩えたのは面白いですね。上五の措辞がちょっと平凡な
感じがするのが残念です。

111	香に惹かれ覗くテラスの菊の鉢

 ちょっと説明的・報告的な印象を受けました。「菊の香」という季語で読者の連想は
膨らみますので、「惹かれ」などと言う必要はありません。

112	信州の旅の始まり走り蕎麦

 信州と蕎麦が付き過ぎのように感じました。「走り蕎麦」で旅の土地柄の想像はつき
ますので、上五を工夫すればもっと広がりのある句になると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

信州路はまずは蕎麦から。それも「走り蕎麦」とはいい季節に旅をなさいましたね。
<走り蕎麦>の季語に、これからの旅の期待や弾む気持ちが感じられました。

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113	初鮭のちやんちやん焼きの味噌の焦げ

 「ちやんちやん焼き」で鮭の料理ということはわかりますので、別の季語を合わせる
のも一考かと思います。

 伊藤範子氏評================================

香ばしく美味しそうな句になりました。

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114	小鳥来る閂かるき西教寺

 「閂かるき」が季語に似合っています。ただ、お寺の閂の重さ(軽さ)など、どうやっ
て知ったのだろうと、素朴な疑問が湧きました。

 伊藤範子氏評================================

明智一族の墓もある大寺院ですね。荘厳な寺の閂が軽かった意外性と、「小鳥来る」の
明るい季語が効いていると思いました。

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115	秋晴や比良の稜線際やかに

 気持ちの良い句ですが、晴れたから→稜線がはっきり見えるという因果関係があるの
で、理屈っぽい句の印象を受けます。

116	満満月遠き日思う母の所作

 「満満月」は、音数を合わせるために無理やり作り出した言葉のように思えます。遠
い日を思い出している母の所作がどうなのかということも、よくわかりません。

117	葉の落ちし柿はほわんと垂れ下がり

 柿が生っているいる様子を描写した「ほわんと」という擬態語は、いまひとつピンと
きませんでした。

118	名月や去年亡き友偲びけり

 「去年亡き友偲びけり」は、去年亡くなった友を偲んだという意味かと思いますが、
「去年亡き友」という表現に無理があるため、亡き友を偲んだのが去年だったという意
味に思えてしまいます。97の句でも書きましたが、一句に「や」と「けり」の切字を使
うのは、避けた方が無難です。

119	つる草を引っぱり上げる秋の空

 空がつる草を引っ張り上げるというのは、面白い発想ですね。空を擬人化するのはユ
ニークだと思いますが、無理があるようにも感じてしまいました。

120	鉛筆でしたたむ遺書や秋灯下

 長い秋の夜は、物思いに耽ることも多くなり、ふと思い立って遺書を書いてみたりし
たくなることもあるのでしょう。しかし「鉛筆で」というところが、まだ本気で書こう
という気にはなり切れていないことを窺わせます。

121	秋昼や白湯溢る魔法瓶

 「白湯溢る」は何と読むのでしょうか? 「さゆあふる」では字足らずですが、まさ
か「ぱいたんあふる」ではないと思います。

122	夕映えの比叡をわたる鵙高音

 情景が見え、聞こえて来る句ですね。「鵙高音」が言葉として寸詰まりで、やや説明
的ですので、ここは「鵙の声」で良いのではないでしょうか?

 奥山ひろ子氏評===============================

掲句は<比叡>という地名がポイントですね。聖地である比叡山を鵙がわたり、しかも夕
映えという場面がとても素晴らしく、美しいと思いました。

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123	月光や床に影あり尉と姥

 尉と姥は能の言葉かと思いますが、能を詠まれた句でしょうか? 三段切れで、言葉
の受け掛かりがよくわかりません。

124	一幅の絵にゐるやうにする根釣

 「一幅の絵にゐるやうに」とは、じっと動かないということを言いたいのでしょうか?
そうだとすると、「根釣」という季語で、すでにその景は見えると思います。

125	葉見ずとも種膨らみて曼珠沙華

 季語「曼珠沙華」の特徴を説明しただけの句と感じました。

126	野分来てラジオの赤き灯のひとつ

 ラジオで台風情報を聴いているのでしょう。「赤き灯のひとつ」で、小さな電源ラン
プにさえも頼りたい心細さが伝わってきます。

127	蓑虫の独り籠もりも飽きにけり

 作者自身が蓑虫の立場になってみて詠まれた句と思いますが、特にユニークな発想や
新鮮な視点は感じませんでした。

128	波音の間近き神社秋日濃し

 海に近い神社には、一年中波音が聞こえていると思いますが、特にこの季語を選ばれ
た理由は何でしょうか?

129	秋の潮戦を偲ぶ壇ノ浦

 壇ノ浦という地名だけで、「戦を偲ぶ」思いは読者に伝わると思います。

130	梧桐の実のおどろしき夕間暮

 「おどろしき」は作者の主観ですが、どれほど読者の共感を得られるでしょうか? 
私は、特にそうは思いませんでした。

131	樟の実の降る道黒き靴の底

 黒い樟の実を踏んだから靴の底が黒くなったという因果関係を言っており、報告になっ
てしまっています。

132	海を向く防人の墓鰯雲

 佳い句と思います。ただ、「海を向く防人の墓」という表現に、既視感をおぼえまし
た。

133	砂浜に白き流木秋思なり

 砂浜に晒された流木は寂しさを感じさせますが、「秋思なり」と断定してしまうのは
あまりに強引に感じました。

134	巫女の吹くチャンポン清か放生会

 ごめんなさい。チャンポンの実物も放生会も見たことがないので、実感が湧きません
でした。ただ、「清か」という主観的な言葉を使わずに、そういう様子を表現できれば
更に良いと思いました。

 伊藤範子氏評================================

ガラス細工の伝統工芸品ちゃんぽんは、筥崎宮放生会のため、一つ一つ巫女さんが絵付
けをするそうですね。先日、西日本新聞webサイトで職人の國井さんが昨年お亡くなり
になり、後継者を探していることを知りました。ちゃんぽんの伝統が続くことを願いつ
つ、優しく可愛い音色を聞いてみたいと思いました。

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135	周波数合わぬラジオや金木犀

 昔のラジオは、同調回路に機械式の可変コンデンサを使っていたので、聞いているう
ちに周波数がずれて音が歪んで来たりしましたね。金木犀の香る縁側で、そんなラジオ
の音を聞きながら縫物などをしているお婆さんがの姿が浮かんできます。

136	けふのこと告げ合ふ夕餉とろろ汁

 とろろ汁を作るのはけっこう大変で、たいていは夕飯の用意をしている母親の傍らで、
父親が胡坐の中にすり鉢を抱えて山芋を擂ります。疲れると子供たちに手伝わせたりと、
一家総出の感がありますね。できあがったとろろ汁を食べながら、家族の会話も弾むこ
とでしょう。

 奥山ひろ子氏評===============================

家族で食卓を囲み、メニューはとろろ汁という日常吟ですが、<けふのこと告げ合ふ>と
いう具体的な措辞に家族の和やかな様子を拝察いたしました。

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137	松茸の香が主役道の駅

 「松茸の香が主役」は言い過ぎです。「松茸」というだけで、その香りや存在感は読
者に伝わります。

138	一人居の友の聞き役長き夜

 季語が付き過ぎの感じを受けました。ちょっと離れた季語を置いて、所在の無い長い
夜の気分を表したいところです。

139	朝もやの護摩壇山のはぐれ鹿

 「護摩壇山」という、ちょっと変わった山の名前により、不思議な雰囲気が醸し出さ
れています。仙境に迷い込んだような気分ですね。

140	うそ寒の蛇口きりりと締まりけり

 蛇口が自分で締まったように思えました。

141	クリスタルタワー満たして鰯雲

 クリスタルタワーは、大阪の超高層ビルのことですね。ガラスの壁面一杯に映ってい
る鰯雲を、「満たして」と表現されたのがユニークだと思いました。ただ、その情景か
ら作者の気持ちが読み取れないのが残念です。

142	老いどめの妙薬はない吾亦紅

 観念的な句で、「まぁそうだね」という以上の感慨は湧きませんでした。

143	柿をもぐ一竿ごとに息止めて

 「一竿ごとに息止めて」を写生と見るか、柿もぎの説明と見るかで評価が分かれそう
な気がします。柿をもいでいる人物を描写することにより、「一竿ごとに息止めて」の
景も見えてくるように詠めると素晴らしいと思いました。

 伊藤範子氏評================================

集中して柿を採ろうとする様子が良く描けていると思いました。

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144	空青し飛蝗引き連れ墓参り

 「飛蝗」(秋)と「墓参」(秋)の季重なりです。

145	ひやつとす腕の柚子坊振り払ひ

 虫などが嫌いな人にとっては、芋虫が体につくとびっくりしてしまうのでしょうね。
ただ、それをそのまま言っても、報告の範疇を出ず、詩たる俳句としては物足りないと
いうことになります。

146	風凪て湖面に続く月の道

 幻想的で美しい景ですね。私も去年、松島に行ったときに、上ってくる月の光が海面
に道のように映っているのを見て感動しました。 「風凪て」は、風が止んだから湖面
が静かになって月の光が映ったと言いたいのだと思いますが、ちょっと言い過ぎで説明
的になってしまったと感じました。また、水面が鏡のように平らだと、月そのものがはっ
きりと映ってしまい、光が道のようには見えないのではないか?という気がしました。

147	朝日受けもみじ紅さす雨上がり

 この句の「もみじ」は、紅葉した葉のことではなく、植物の種類としてのモミジでしょ
うか? そうだとすると、季語がありません。(朝日を受けて赤く染まる葉は季語にはな
りません。) 紅葉のことだとすると、「紅葉紅さす」となり、おかしなことになりま
す。

148	燈火親しテレビドラマの大団円

 「テレビドラマの大団円」は、具体的な映像の無い言葉ですが、季語と組み合わさる
ことにより、TVを囲んで団らんしている家族の姿が見えてきます。「ありがとう」
「時間ですよ」などの、懐かしい昭和のTVドラマを思い出しました。

149	行く秋や整地の済みし銭湯跡

 また一つ、昭和の景が街から消えていった・・というところでしょうか? 「整地の
済みし」が説明的に感じられますので、整地が済んで今どんな状態なのかを、具体的に
詠んでみてはいかがでしょうか? そこに秋の草などがあれば、それを季語とすること
もできますね。

150	指切りの淡き思い出赤のまま

 ロマンティックな句ですが、作者以外には具体的な景が浮かびません。俳句の基本は、
「一人称現在形」です。思い出として詠むのではなく、指切りをした時に遡ってその場
の情景を詠めば、読者はそれを自分の思い出に反映できます。

 伊藤範子氏評================================

子どもの頃道草をしながら約束の指切りをした 誰にでも体験のある懐かしさ。「赤の
まま」の季語が効いています。

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151	一茎を誇る百花や菊花展

 「一茎を誇る百花」は、写生というよりも、「菊花展」の説明のような印象を受けてしまいました。

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