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選句結果
     
第302回目 (2025年2月) HP俳句会 選句結果
【  酒井とし子 選 】
  特選 寒紅やきりりと結ぶ博多帯 美佐枝(松戸市)
   蒲公英や少年野球の声高し みのる(大阪)
   寄せ書きの如く花植へ卒業す      大原女(京都)
   春遅々と潮のしぶける鵜の岬 美佐枝(松戸市)
   コロッケの色よく揚り初音かな 康(東京)
   予備校の窓煌々とぼたん雪 鷲津誠次(岐阜県)
   四温晴れ家紋を印す蔵の壁 田中由美(愛知県)
   墓碑拝む肩へ春雪降りやまず 田中のびる(三重県)
   居残りの椅子整へて余寒なほ ようこ(神奈川県)
   足指の爪の桃色春浅し 伊藤順女(船橋市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 解氷や船の道開くオホーツク 筆致俳句(岐阜市)
   蒲公英や少年野球の声高し みのる(大阪)
   寒紅やきりりと結ぶ博多帯      美佐枝(松戸市)
   朝寒や喪の服入れし旅鞄 近江菫花(滋賀県)
   予備校の窓煌々とぼたん雪 鷲津誠次(岐阜県)
   賄の石蓴汁飲む帰漁かな 比良山(大阪)
   蒼天の甘さ込め干す春大根 比良山(大阪)
   春耕や畦のラジオのヴィバルディ 櫻井 泰(千葉県)
   砂浜に増えし足跡日脚伸ぶ 蝶子(福岡県)
   書き込みの多き教科書春隣 美由紀(長野県)
【  武藤光リ 選 】
  特選 寒紅やきりりと結ぶ博多帯 美佐枝(松戸市)
   蒲公英や少年野球の声高し みのる(大阪)
   波ふくらみ海女の磯笛春の海      百合乃(滋賀県)
   村出でし人も戻りて花祭 よりこ(愛知県)
   畝の菜に振り塩ほどの雪降れり 雪絵(前橋市)
   冴返るうだつの町や和紙明かり 筆致俳句(岐阜市)
   下校児の明るき声や木の芽道 田中由美(愛知県)
   風光る大桟橋のクルーズ船 かれん(埼玉県)
   山笑ふ角突き合はす若き山羊 櫻井 泰(千葉県)
   書き込みの多き教科書春隣 美由紀(長野県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 寄せ書きの如く花植へ卒業す 大原女(京都)
   晴れ渡る海にどよめき鯨跳ぶ みぃすてぃ(神奈川県)
   寒紅やきりりと結ぶ博多帯      美佐枝(松戸市)
   春遅々と潮のしぶける鵜の岬 美佐枝(松戸市)
   雪嶺や蒸気たわわに洗濯屋 鷲津誠次(岐阜県)
   下校児の明るき声や木の芽道 田中由美(愛知県)
   リハビリの窓に見上ぐる春の雲 まこと(さいたま市)
   薄氷透けて草の葉ほの青し かれん(埼玉県)
   補助輪の風やはらかしクロッカス 椋本望生(堺市)
   書き込みの多き教科書春隣 美由紀(長野県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、美佐枝さん(松戸市)でした。「伊吹嶺」二月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2025年2月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	紅白の始まる前に蕎麦湯がく

 状況はよくわかりますが、残念ながら切れが無く、事実・事柄を散文的に述べただけ
の「報告」と感じました。「紅白」という季語はありませんし、「蕎麦」も「年越し蕎
麦」「晦日蕎麦」としないと季語になりません。また、一般的に蕎麦は「茹でる」もの
だと思いますが、西日本では「茹でる」ことを「湯掻く」ということもあるようですね。

2	凍ての空工場シンボル警備室

 「凍てる」は動詞ですので、「凍ての空」という名詞的な使い方ではなく「凍てし空」
とするか「凍空や」とした方が良いと思います。「凍ての空・工場・シンボル・警備室」
と、名詞が四つ並んだ四段切れで句意がよくわかりませんが、工場のシンボルが警備室
ということでしょうか?

3	早梅のはつかに二輪古戦場

 「はつかに」を「二十日に」と読むと意味がわかりませんので、「僅かに」ですね。
ひそと咲く早梅が古戦場に似合っていますが、「僅かに」が説明的で作者の主観が強く
出過ぎる感じがします。「早梅」だけで、満開ではなくようやく綻び始めた梅の風情が
感じられますので、上五を「早梅や」と切って、中七下五で古戦場を写生しては如何で
しょうか?

4	待春の馬のいななき聞こへ来る

 馬の嘶きに生命感の膨らみを感じます。よく言われることですが、雨は「降る」もの、
風は「吹く」もの、虹は「見える」もの・・・、嘶きは「聞こえる」もので、そういう
無駄な言葉は省くのが俳句のコツです。

5	過疎村の気概新たに餅の音

 何となく言いたいことはわかりますが、「気概新たに」が観念的で具体的な景に欠け
るように思います。

6	大津絵の朱の際立つ寒の夜

 きりりと引き締まった空気に引き立つ朱色が鮮やかです。「寒」は、寒の入りから立
春の前日までの約一か月間を言いますので、「寒の夜」だとこの期間の夜ずっとという
意味になります。「寒夜」にすれば、凍てつく寒い一夜の意味になりますので、下五は
「寒夜かな」とした方が良いと思いました。

7	寒林に男はたちの朝の口笛

 「男はたちの」がよくわかりませんでした。「男二十歳の」?「男は、たちの」? 下
五の字余りも気になりました。

8	日脚伸ぶ八方ヶ原余光なほ

 「八方ヶ原」という場所を知りませんが、字面・語感から広々とした景が浮かびまし
た。ただ、「余光なほ」が季語「日脚伸ぶ」の説明に感じられます。

9	晴れ渡る海にどよめき鯨跳ぶ

 雄大な景ですね。どよめいているのは、ホエールウォッチングの船上客でしょうか?

10	日を曳きて西へ西へと雁の群

 この雁の群れは、日本へ渡ってくるところか、北に帰ろうとしているところか良くわ
かりませんでした。「雁の群」という季語は見当たりませんでしたが、「雁の列(かり
のつら)」と同義と捉えると、雁が日本に渡って来る秋の句ということになりますね。
ただそれだと、「西へ西へ」が不思議な感じがします。

11	蒲公英や少年野球の声高し

 長い冬が終わって野球に興じる少年たちの様子が浮かびます。季語から察するに、シ
リアスに野球に打ち込んでいるというより、ややのんびりとゲームを楽しんでいる感じ
ですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

   素直な御句。季語と、「少年野球」が合っており、優しく見守る作者が見えまし
た。

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12	無人駅目鼻口なき雪だるま

 雪玉を重ねただけの雪だるまですね。「目鼻口なき」は事実であり写生ですが、「のっ
ぺらぼうの」とすると、思慮が無くて間が抜けているという意味も含まれて俳味が増す
ような気もします。

13	冬夕焼ガラスに反射目の眩み

 情景がすぐに浮かび、分かり易い句と思いました。ただ、三段切れで、報告的な点が
残念に思いました。

14	梅蕾ふくらみ蒼天指しており

 春の訪れですね。梅の蕾は球形に近いのが普通だと思いますので、「蒼天を指す」と
いう形容がいま一つしっくり来ませんでした。辛夷の蕾等でしたら、そのような描写も
似合うと思いますが・・・。

15	寄せ書きの如く花植へ卒業す

 卒業に寄せ書きは付き物だと思いますが、植えられた花を寄せ書きに見立てた着眼点
はユニークだと思いました。

16	春風へ児の逆のぼる滑り台

 滑り台を普通に滑るだけでは句材として乏しいですが、こういうやんちゃな子を観察
すると句が拾えますね。季語が生き生きと感じられます。

17	波ふくらみ海女の磯笛春の海

 「波ふくらみ」が字余りの効果もあって、ゆったりとした春の海を思わせます。「磯
笛」は、「海女の」と言わなくても海女の呼吸の音だとわかります。俳句では「海女の
笛」や「磯なげき」として春の季語になりますし、海女がいるところは海だとわかりま
すので、下五の「春の海」は推敲の余地がありますね。

18	ゆるゆると雪解わたしの脳は白

 句意がよくわかりませんでしたが、融けて崩れてゆく雪のイメージが脳に重なり、ちょ
っと不気味な印象を受けました。

19	寒紅やきりりと結ぶ博多帯

 できている句で、凛とした女性の姿が見えて来ます。更に欲を言えば、帯をきりりと
「結ぶ」とは言わなくてもわかりますので、例えば締めるときの絹鳴りなどを描写して
は如何でしょうか?

 奥山ひろ子氏評===============================

   締めた帯が緩みにくいと言われる博多帯。締める際「キュッ」と音がするそうで
すが、そんな博多帯と「寒紅」が鮮やかに響きあっていると思いました。

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 武藤光リ氏評================================

 美人の年増を感じさせてくれた。中七が良い。

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20	春遅々と潮のしぶける鵜の岬

 鵜の岬は茨城県日立市にある岬です。断崖の上に日本で唯一のウミウの捕獲場があり、
捕獲が行われていない1〜3月は無料で一般公開されています。断崖に打ち付ける波を
見ていると、「春遅々と」が実感されます。
 余談ですが、ここにある国民宿舎「鵜の岬」は、日本一予約が取れない宿として知ら
れています。

21	雪嶺や蒸気たわわに洗濯屋

 雪嶺の清澄さと洗濯屋の蒸気の温かさが良いコントラストです。「たわわ」は本来、
実がたくさん生った枝や稲穂がたわむ様子で、蒸気などを形容する言葉ではありません
が、それを敢えて使ったところに独自性を感じました。

22	朝寒や喪の服入れし旅鞄

 遠方の葬儀に出席するために家を出たところなのでしょう。できている句ですが、敢
えて欲を言えば上五の季語がやや付き過ぎに感じました。「寒」の字が葬儀に向かう心
情に直結しているように思えますので、例えば「薄氷(うすらい)や」等、もう少し季語
を離してみるのも一考かと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

  旅は楽しいだけではないですね。季語が動かないと思います。

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23	牛曳の水汲む木下白椿

 「牛曳の水汲む」は、牛を引くことを職業とする人が水を汲んでいるという意味なの
か、牛曳山の滝または川の水を作者が汲んでいるという意味なのかわかりませんでした。

24	女坂とりて初音と出会ひけり

 急で短い男坂を行くか、緩くて長い女坂を行くか迷い、女坂を取ったところ思いがけ
ず鶯の初音が聞こえたのですね。ちょっとした驚きと嬉しさが伝わってきます。

25	コロッケの色よく揚り初音かな

 意外な取り合わせの句で、面白く感じました。コロッケが美味しそうに揚ってほっこ
りした気持ちになったところに初音が聞こえ、より楽しい夕食になったことでしょう。

26	雪解川水の音聴く湯治宿

 山懐の川端にある鄙びた湯治宿が浮かびました。「川」と「水」が重複した感じがし
ますので、「雪解の川の音聴く〜」では如何でしょうか。

27	春セーター伸びた背の丈手の長さ

 一冬を過ごす間に体が成長して、セーターが小さくなったということでしょうね。季
語がうまく使われていると思います。三段切れに感じられるのと、「伸びた」が「長さ」
にも係っているように見えるのが気になりました。

28	切岸に城守られて寒に入る

 寒さが冬将軍という具現化された姿となって攻めてくるようなイメージが浮かびまし
た。

29	村出でし人も戻りて花祭

 花祭りは、四月八日の仏生会のことですね。この日に地元から出た人が戻る慣習があ
るのかどうかは知りませんでしたが、それをそのまま言うのは報告的に感じました。

30	ひとり街歩けば風花舞ひにけり

 街を歩いている作者と風花だけでは、具体的な情景や作者の心情が浮かんできません
でした。「歩けば」「舞ひにけり」等は省略できますので、もう少し街の様子などを詠
みこんでみては如何でしょうか。

31	ピアノ曲流るゝカフエ春隣

 ゆったりとカフェでくつろいでいる作者の様子が浮かびます。「カフェ」は二音です
ので、中七は「カフェや」としても良いかと思います。

32	哀しみに忘れてゐたる寒さかな

 よほど哀しいことがあったのですね。「哀しみ」と心情を直接言う代わりに、哀しみ
の元となった事象を言う方が、気持ちがより深く読者に伝わると思います。

33	畝の菜に振り塩ほどの雪降れり

 「振り塩」の比喩が面白いですね。「降れり」は省けますので、中七下五を「菜に振
り塩ほどの雪」として、上五で菜の具体的な景が浮かぶような描写をしてみては如何で
しょうか。

34	予備校の窓煌々とぼたん雪

 雪の降る夜も予備校に通って受験勉強に勤しむ子供たち。作者は送迎のご家族でしょ
うか? 明るい春が望まれますね。

 奥山ひろ子氏評===============================

  いよいよ本番近く追い込みシーズンの景ですね。予備校の中の熱気を冷ますような
「ぼたん雪」が印象的です。

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35	賄の石蓴汁飲む帰漁かな

 漁を終えて港に向かう船上で、漁師たちが石蓴汁に舌鼓を打っているのでしょうね。
「飲む」を「吹く」とすると、更に臨場感が出ると思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 作者は漁船に乗っておられるのだと拝察しました。船上での石蓴汁は、おいしいこと
でしょう。「賄」がいいですね。

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36	蒼天の甘さ込め干す春大根

 「蒼天の甘さ込め干す」は、大根を干すことによって甘味・うま味が出ることを言っ
たのだと思いますが、ちょっと無理があるように感じました。また、春大根は一般に冬
の大根より辛みがあると言われます。大根を干して漬ける沢庵漬けは冬の季語となって
います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 干すことで甘くなる大根。「蒼天」に干せば甘さも倍増ではないでしょうか。「蒼天
の甘さ」の表現が工夫だと思いました。

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37	冴返るうだつの町や和紙明かり

 岐阜県美濃市の和紙あかりアート展を詠まれた句かと思いますが、10〜11月のイベン
トの句にしては季語の季節がずれると思いました。

38	解氷や船の道開くオホーツク

 オホーツクにも春の訪れですね。「船の道開くオホーツク」で、海を埋めていた氷が
緩んだということがわかりますので、上五の季語はもう一工夫あると良いと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 力強い北国の景ですね。氷が緩み船が航行できるようになったことを「船の道開く」
との表現がいいと思います。

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39	春の雷わが青春の春樹かな

 「春」の字がたくさん目に飛び込んできました。「春樹」は作家の村上春樹のことか
と思いますが、ネットで検索するとラーメン屋が多くヒットしました。村上春樹は、初
期の頃は読んでいましたが、ノルウェイの森あたりから手が伸びなくなってしまったた
め、春の雷が村上春樹とどう絡むのかがよくわかりませんでした。

40	裏口で済む客ばかり花菜漬

 ご近所さんが、自家製の花菜漬を勝手口に届けてくれたのですね。気取らずに近所付
き合いができる、落ち着いた日々の暮らしが浮かびました。

41	下校児の明るき声や木の芽道

 子供の明るい声が季語の木の芽道に似合っています。更に欲を言えば、「明るき」と
いう作者の主観は季語に語らせて、もう少し客観的な写生とした方が深みが出ると思い
ます。例:「下校児の声の駆け行く木の芽道」

42	四温晴れ家紋を印す蔵の壁

 春へ向かう陽光に、蔵壁の家紋が映えていますね。「印す」と「壁」は省けそうです
ので、例えば「家紋旧りたる」等とすれば、より具体的な景が見えてくると思います。

43	おのおのの色に着ぶくれ空地の子

 昨今のカラフルな服を着こんだ子供たちが見えて微笑ましいですね。俳句では送り仮
名を省くことが多いですが、空地(くうち)という言葉がありますので、「あきち」と読
ませたいのであれば「空き地」と表記した方が良いと思います。「おのおのの色に着ぶ
くれ登校す」等とするのも、カラフルな列が浮かんで良いと思いました。

44	墓碑拝む肩へ春雪降りやまず

 「降りやまず」のように時間の経過が感じられると、説明的になりがちですのでご注
意ください。「へ」と「に」の助詞の選択も重要です。「墓碑拝む肩に触れたる春の雪」

45	トーストのパン焦がしめく末黒かな

 トーストの焦げも末黒も焼け焦げたものなので、比喩が比喩として機能していません。
「トーストのパン焦がし」は「トーストの焦げ」で良いと思いますが、「パン焦がし」
という何かがあるのでしょうか?(麦焦がしのような・・・)


46	居残りの椅子整へて余寒なほ

 何となく寒々した空気感は伝わりますが、状況がよく見えませんでした。会社でしょ
うか?学校でしょうか? 余寒の「余」と「なほ」に重複感を覚えました。

47	針金のやうな小枝に雪積る

 針金も小枝も細くて長いものですから、比喩が活きているとは思えませんでした。ま
た、木の枝や電線に雪が積もるのは珍しいことではないと思います。

48	救急車はらりと落つる枝の雪

 救急車が通った時に雪が落ちたのはたまたまだと思いますが、なにかはっとするよう
な一瞬の緊迫感が伝わりました。

49	春寒し色付け遅遅と干支の馬

 来年の干支の馬(午)の置物か何かの色付けをしているところでしょうか? 季語や
「遅遅と」の措辞等から、作者はあまり愉快でないように感じられました。

50	水脈広げ流れ上るや残る鴨

 「残る鴨」は「春の鴨」の傍題ですが、この句の場合は「春の鴨」の方が上五中七に
合うように思いました。

51	リハビリの窓に見上ぐる春の雲

 リハビリが順調に進んでいる明るい表情が浮かびます。

52	お日さまの大きな童画春めける

 元気の良さが感じられる絵ですね。暖かい太陽の下で遊びたいと思って描いたのでしょ
う。

53	丹精し剪られし梅や白凛々し

 丹精をしたのは人間、剪られたのは白梅だと思いますので、視点が定まらないような
感じを受けました。

54	紅白の濃きも淡きも梅なだり

 「梅なだり」は「梅傾り」でしょうか? 水戸の偕楽園に句碑のある子規の句「崖急
に梅ことごとく斜めなり」が浮かびました。

55	春の陽にときめき紅を明るうす

 春の浮き立つ心を詠まれました。「ときめき」と言わずにときめく心が伝わるように
詠むと、句に深みが出て、読者の心により伝わると思います。

56	水温む隠沼動く命生(あ)る

 春の命の息吹を詠まれましたが、あまり具体的な景は浮かばず、頭で拵えたような印
象を受けました。

57	雪かきに追わるる夫のやつれ顔

 雪国の過酷な暮らしですね。詠み方がちょっと直球過ぎる感じがしますので、例えば
「雪かきに追わるる夫の長湯かな」等、一ひねりあると良いと思いました。

58	撫で牛の眼に触れて春待てり

 目がお悪いのでしょうか? 春までには快復してほしいという祈りですね。

59	永遠を生くる仏像梅真白

 「永遠を生くる仏像」が観念的で、どういう情景・気持ちを伝えたいのかがよくわか
りませんでした。

60	薄氷透けて草の葉ほの青し

 何気ない景ですが、草の青さに春の訪れを感じた作者の感性が良いと思いました。

61	風光る大桟橋のクルーズ船

 これから乗船してクルーズに出るところでしょうか? 季語から旅への期待感が伝わ
ります。

62	足指の爪の桃色春浅し

 意外な句材・取り合わせだと思いました。健康的な色の爪で、春に躍動できそうです
ね。

63	さよならの余韻のあとの風邪薬

 さよならを言った後に余韻を感じて、さらにその後に風邪薬を飲んだのだと思います
が、状況や心情がよくわかりませんでした。

64	魚氷に上るヒールターンのふれあいに

 ヒールターンは、スノーボードのターンの一種のことかと思いましたが、そうすると
「ヒールターンのふれあいに」の意味がわかりませんでした。

65	補助輪の風やはらかしクロッカス

 補助輪の風は、幼児が乗る補助輪の付いた自転車に吹く風ですね。可愛らしいクロッ
カスが揺れる様子も浮かびます。

66	光る風小舟の水じわ立ちにけり

 陽光の中で小舟が立てる小波が広がり、きらきらと光っている様子が浮かびます。

67	つり竿の半円描く春の月

 「つり竿の半円描く」は、魚が掛かって強く引いているということでしょうか? の
んびり月を愛でている状況ではないように思いますが…。


68	節分や恵方巻き食ぶおちょぼ口

 恵方巻は太いので、おちょぼ口では食べられないのでは?と思ってしまいましたが、
そこが狙いでしょうか? 恵方巻が一般化したのはここ20〜30年のことですので、季語
として載せている歳時記は少ない(無い?)と思いますが、季語として扱っても良いよう
な気がしますね。

69	カナッペに蕗味噌添へる薄みどり

 蕗味噌は大好物で毎年自分で作りますが、カナッペに使うとは思いつきませんでした。
発酵食品のチーズと合わせても良さそうですね。そろそろ蕗の薹が出るころですので、
やってみたいと思います。句の方は前半のインパクトが強く、後半が蛇足的に感じまし
た。

70	玻璃越しの立春の陽のやはらかし

 春の陽光の温かさが感じられますが、やや「季語の説明」的にも感じてしまいました。

71	膨らんだ花芽をかくし春の雪

 浅い春の一コマですね。「膨らんだ花芽」は蕾と言うのでは?と思ってしまいました。

72	旧道の海見る坂の椿かな

 海を望む古い街並みと椿の古木が似合っていますね。「海見る坂」は「海見ゆる坂」
とすべきかと思います。言葉を整理・工夫すればすっきり収まるようにできそうです。

73	烈風を聞きたる夕べ花菜漬

 吹きすさぶ風音を聞きながら、食卓には春を感じさせる花菜漬があるという、その対
比が面白いですね。「聞きたる夕べ」は過去形ですので、「聞きをる夕べ」と現在形に
すると臨場感が増します。

74	春耕や畦のラジオのヴィバルディ

 もちろん、四季の春の章ですね。ちょっと出来過ぎかな・・と思いました。(笑)

 奥山ひろ子氏評===============================

 ヴィバルデイと言えば「四季」が有名ですが、その中でも冒頭の「春」はよく聞きま
す。

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75	山笑ふ角突き合はす若き山羊

 若山羊の生命力・躍動感が季語に合っています。

76	こながれの瀬音ひそかや春隣

 まだ雪解け水が流れ出すまで季節が進んでいないのでしょう。「瀬音ひそかや」で小
さな流れであることはわかりますので、上五は工夫の余地がありそうです。

77	なまはげや泣く子いねがと泣かしをり

 なまはげの説明になってしまいました。

78	ジャズコンサート手拍子打って春を待つ

 上五が上七になっているのがまず気になりました。「ジャズライブ」とすれば五音に
収まります。しかし、ジャズのコンサートや手拍子に季節感と結びつくものを感じない
ため、季語が動くように思いました。

79	春寒し美濃焼皿を一つ欠く

 揃いの皿の一枚を割ってしまった喪失感が季語から伝わります。中七下五が事柄で説
明的ですので、割れた(欠けた)皿そのものを詠むとさらに良くなるように思います。

80	春浅し欠席通知またひとり

 学校か職場かわかりませんが、風邪やインフルエンザが流行っているのでしょうね。
中七下五を事柄で詠むのではなく、誰かが欠席した結果が見える物(出席簿とか)で詠
むと良いと思いました。

81	たこ焼きに青海苔かけて昼ご飯

 美味しそうな昼ごはんですね。ビールが欲しくなりそうです。ただ、俳句としては切
れが無く、詩というよりは報告になってしまったと感じました。

82	砂浜に増えし足跡日脚伸ぶ

 日が伸びて暖かくなってきたので、海岸に来る人が増えてきたという句意かと思いま
すが、そうだとすると理屈であり、説明的に感じられました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 足跡が増えてきたことで春の訪れを感じた作者の目の付け所が面白いと思いました。

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83	鰐口の高き響きや春きざす

 鰐口は寺社の軒下に一年中あるものですが、誰かが一際高く鳴らした音に作者は春を
感じられたのですね。そこに読者の共感が得られるかがポイントですね。

84	豆を煮る甘き匂ひや味噌仕込

 懐かしい光景が浮かびましたが、季語(味噌仕込・味噌焚)の説明のようにも感じら
れました。子供の頃、味噌を仕込むときに、煮えた豆をお椀に貰って砂糖を掛けて食べ
ましたが、豆を煮る匂いが甘かったどうかは、思い出せませんでした。

85	引く波の煌めくばかり春の鴨

 明るい春の海にゆったりと浮かんでいる鴨が浮かびます。「煌めくばかり」で、作者
が時を忘れてその景色を見ていることが伝わります。

86	書き込みの多き教科書春隣

 一年間近く使った教科書。書き込みが多いのはよく勉強した証ですね。迫っている
「春」は季節の春でもあり、人生の春でもあるのでしょう。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「書き込みが多い」=よく勉強しているということですね。受験生でしょうか。良き
春が迎えられることと思います。

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87	冴え返る月なき空の星の海

 「月なき空の星の海」のことを言う「星月夜」という秋の季語がありますが、新月の
星空は季節を問わず見ることできます。寒が戻った早春の星空もきれいですね。

88	古民家の庭の鳥居へ春の雪

 庭に鳥居のある古民家とは、どんな家なのだろうと思いました。鳥居があるというこ
とは、社もあるのかと思いますが、鳥居の方に着目したのが不思議に感じられました。
また、「古民家」は便利な言葉ですが、説明的で具体的な景が浮かびにくい言葉ですの
で、注意して使ってほしいと思います。

89	裸婦像の乳首の尖り冴返る

 俳人は、いろいろなところに季節を探すものだと感心しました。


第301回目 (2025年1月) HP俳句会 選句結果
【  国枝隆生 選 】
  特選 青竹の跳ねてどんどの子ら散らす 雪絵(前橋市)
   味噌蔵の石の白さも寒の内 岩田 勇(愛知県)
   寒月や切絵のごとき大阪城      みのる(八尾市)
   読みさしの本かたはらに去年今年 粗稲沖(埼玉県)
   寒に入る利休鼠の雲迅し 百合乃(滋賀県)
   木蓮の冬芽蒼天指してをり 田中由美(愛知県)
   七種の青き湯気立つ厨かな 筆致俳句(岐阜市)
   竹刀持つ握りこぶしや淑気満つ ようこ(神奈川県)
   ふる里の空は鈍色寒鴉 ぽっぽ(東京)
   おしゃべりの止まらぬ朝や寒雀 美由紀(長野県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 喪の友へ薫香贈る寒の入 近江菫花(滋賀県)
   味噌蔵の石の白さも寒の内 岩田 勇(愛知県)
   少年の一途な瞳初稽古      大原女(京都)
   冬ざれや鍋洗ひをる修行僧 粗稲沖(埼玉県)
   廃村に樹齢百年冬桜 近江菫花(滋賀県)
   寒に入る利休鼠の雲迅し 百合乃(滋賀県)
   一杓の寒九の水や肚に沁む 後藤允孝(三重県)
   若水や透けて柾目の樽の底 後藤允孝(三重県)
   買初めや吾子に小さきイヤリング のりこ(赤磐市)
   一すじの汽笛を残し山眠る 櫻井 泰(千葉県)
【  関根切子 選 】
  特選 青竹の跳ねてどんどの子ら散らす 雪絵(前橋市)
   悴む手包む掌もまた悴めり 原洋一(岡山県)
   帰る子にひと間空けをく年の夜      原洋一(岡山県)
   読みさしの本かたはらに去年今年 粗稲沖(埼玉県)
   鍵かけぬ里の暮らしや日向ぼこ 石塚彩楓(埼玉県)
   木蓮の冬芽蒼天指してをり 田中由美(愛知県)
   七種の青き湯気立つ厨かな 筆致俳句(岐阜市)
   大漁旗掲ぐ港や初明り かれん(埼玉県)
   筆初留学生の書く平和 麻里代(和歌山市)
   カラフルな留学生の雪だるま 麻里代(和歌山市)
【  玉井美智子 選 】
  特選 寒月や切絵のごとき大阪城 みのる(八尾市)
   帰る子にひと間空けをく年の夜 原洋一(岡山県)
   まどろみに薺打つ音聞きゐたり      康(東京)
   喪の友へ薫香贈る寒の入 近江菫花(滋賀県)
   白波の煙る海原野水仙 石塚彩楓(埼玉県)
   大漁旗掲ぐ港や初明り かれん(埼玉県)
   日向ぼこ出窓に三毛と玉さぼてん 小林土璃(神奈川県)
   足に猿縋らせて去る猿回し 櫻井 泰(千葉県)
   石段に連なる人や除夜詣 伊藤順女(船橋市)
   タイマーの音にほほ笑む初写真 野津洋子(愛知県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、雪絵さん(前橋市)でした。「伊吹嶺」1月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2025年1月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

今年もよろしくお願いいたします。


1	秋風や浄護院てふ朱き門

点は入っていませんができている句ですね。

2	投句選妻と味わう温め酒

投句と選ということだと思いますが<投句選>と詰めてしまうのが気になりました。

3	つつがなき巳年をねがふ明けの春

 できている句ですが、賀春の説明のように思えました。

(国枝評)「つつがなき巳年をねがふ」は誰しも思うことで、結論というか、スローガ
ンのように感じました。

4	初時雨傘の華さく駅出口

 「駅に西口東口」を思い出しました。こちらは改札口の人々の描写ですね。

5	味噌蔵の石の白さも寒の内

 中七の<も>の使い方は俳句雑誌の作品でよく見かけますね。

国枝隆生氏評================================

石の白さから寒さを表現するのはシンプルだが、感覚的に共感できる句。

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6	うたた寝の覚めて空ろな冬の暮

 <空ろな>が言い尽くしているように思えますがどうでしょうか? 俳句の形として
は前句同様完成していると思います。

7	老いもまた新しきかな初鏡

 老いも新しいというのが漠然としているように思いました。

8	懐しき街の記憶や初日の出

 懐かしいという記憶も漠然としていると思います。

(国枝評)やや抽象的だが、「懐しき街」は昔訪れた街であろうか、「初日の出」から
思い出す記憶に本当に懐かしさを感じたのだと思います。

9	一人居や手早自賛の三ヶ日

 <手早自賛>が分かりませんでした。何でもてきぱきとこなすという意でしょうか。

10	残照に磨ぎ水ぎらり冬至かな

 <ぎらり>が飾り言葉のようで大袈裟かなと思いました。かな止めですので中七の切
れも気になりました。

(国枝評)下五の「かな」は上五、中七を大きく受け止めて感動を述べる切れ字なので、
一般に切れを入れないで、一本調子で詠むものなので、中七を「ぎらり」と切るとリズ
ムが悪くなると思います。

11	それとなく一句を添へて初日記

 今年も良い年で願いたいですね。どんな句でしょうかね?

12	少年の一途な瞳初稽古

上五中七は良いのですが、何の稽古か想像したほうが良いのか、分かっていたほうが良
いのか迷うところであります。

13	息白きブーツ履く娘の急ぎ足

<白き><履く>と二つ<娘>に掛かっていますので、上五は<息白し>として切れを
入れてはどうでしょうか。

14	     悴む手包む掌もまた悴めり

予選でいただきました。頷きながら読ませていただきました。

(国枝評)動詞が三つもあると、印象が分散することが多いのですが、この句は「悴む」
だけを詠んでいるので、違和感はありませんでした。

15	    帰る子にひと間空けをく年の夜
  
これから帰る子とも読めますが、中七を読めば実家へ帰ってくる子のことですね。

(国枝評)大晦日に我が子が帰ってくるのだろう。空けておくひと間は昔子供が使って
いた部屋で、いつも空けてあって、いつ帰ってきてもよいようにしているのだと思いま
した。

16	    膨やかに着こなし上手初詣

 <上手>は要らないように思いました。

17	初夢や夢みる夢に夢のあり

俳味を通り越してややこし過ぎるように思いました。 

18	寒月や切絵のごとき大阪城

大阪城でなくても良いような気もしますが、影となった城郭はそんな感じですね。

国枝隆生氏評================================

寒月に浮かんでいる大阪城を「切り絵のごとき」と捉えた感覚がよかったと思います。

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19	煮凝りの白き眼玉に睨まれる

魚の目玉に睨まれるという感慨はよくあることなのでさほど面白いとは思えませんでし
た。

20	青竹の跳ねてどんどの子ら散らす

 元気な子供たちの声も聞こえてきそうです。

国枝隆生氏評================================

どんどの状態をよく観察して、素直な写生句で好ましいと思いました。

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21	川岸に流れ片寄せ蘆枯るる

 丹念に観察した結果だとは思いますが、動詞が三つ続くのが気になりました。

22	まどろみに薺打つ音聞きゐたり

 奥様が朝早くから薺を打っているのですね。

23	初場所の贔屓力士の初日かな

 相撲ファンとして気持ちが逸るのはわかりますがやや報告でしょうか。

24	身ごもりの濃き赤マルや初暦

  <赤マル>は<赤丸>のほうが良いと思います。

(国枝評)今年、我が娘が出産する日を赤丸で印したのであろう。やや類型的だが、心
が籠もった句。

25	冬ざれや鍋洗ひをる修行僧

 修行僧の厳しさが季語で一層伝わってきます。<鍋洗ひをる>と具体的に述べたのも
良いと思います。

26	読みさしの本かたはらに去年今年

 読書好きの作者が見えてきます。

国枝隆生氏評================================

年越しの様子を「読みさしの本」に託して詠んでいるのが共感できた。ただ「かたはら
に」の一寸あいまいなところを具体的に詠むと臨場感が出てくると思いました。例えば
「読みさしの本枕辺に去年今年」など。

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27	正月の位に日輪の上がりけり

 <正月の位>がよく分かりませんでした。

28	垂直に上がるドローン初伊吹

 実景としても「初伊吹」という季語と合っているようには思えませんでした。

29	喪の友へ薫香贈る寒の入

 元日から数日過ぎた「寒の入」がよく効いていますね。ご友人も喜ばれたことでしょ
う。

30	廃村に樹齢百年冬桜

 廃村となってしまったが桜は健在。でも寂しい光景ですね。

31	寒に入る利休鼠の雲迅し

 雲の色を<利休鼠>としたのが面白いですね。

国枝隆生氏評================================

「城ヶ島の雨」など「利休鼠」色の雨は有名ですので、これで納得いきます。ただ現実
には利休鼠色は灰色にやや緑がかっている色なので、雲にふさわしいかどうか確認して
から詠みたいものです。

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32	寒の梅一輪さえも匂い濃し

 <さえも>が主観ですので、そのあたりは読者に読み取ってもらう描写をしてくださ
い。

33	ひとりふたり帰りて冬ざれの砂場

 上六ですが、語順を変えるなどして推敲すれば定型に収まると思います。中七以下の
破調も調べを悪くして散文調になっています。

34	小夜時雨君を遣らじとカーラジオ

 <君を遣らじと>が分かりませんでした。

35	年老いて涙湧きくるおでん酒

 年を取って涙もろくなったということでしょうか?よく分かりませんでした。

36	音立てて追いくる枯葉足速む

 枯葉が追いかけてくるから足を速めたわけではないと思いますが、そういう理屈のよ
うな表記が気になりました。

37	うらぶれし借家の木札枇杷の花

 <うらぶれし>という説明調ではなくそう見えるような借家の描写(写生)をしてほ
しいです。

38	三河しぐれて縞木綿見本帳

 七五五の冒険句ですね。地域団体商標『三河木綿(R)』というのがあるのですね。

39	道も狭に銀杏落葉のひかりかな

 <道も狭に>の措辞がこの句でどれだけ効いているのか?

40	胸底に除夜の汽笛の余韻なほ

(国枝評)この汽笛は船だろうか。「胸底」とあるので、昔聞いた余韻を思い出してい
るのだろうか。それこそ余韻のある句。

41	白波の煙る海原野水仙

 しっかりと形のできた句ですね。

42	鍵かけぬ里の暮らしや日向ぼこ

 田舎の方は地域のつながりが強くて鍵の心配はいらないのですね。

43	桜木の幹艶やかや淑気満つ

 ほどよく出来上がっていると思います。

44	木蓮の冬芽蒼天指してをり

 こちらも上々ではないかと思います。

国枝隆生氏評================================

木蓮の冬芽の一物写生に力強さを感じる句でよいと思いました。ただ「蒼天」と固い表
現で詠んでいますが、その分中七が窮屈になったと思います。「木蓮の冬芽空へと指し
てをり」と助詞を入れて、単純に詠んでもよいかと思いました。

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45	七種の青き湯気立つ厨かな

 <青き湯気立つ>で厨の光景が鮮明になりまいた。

国枝隆生氏評================================

七草粥を茹でている様子でしょうが、あえて湯気も青いと捉えた感覚が捨て難いと思い
ました。

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46	庭の松雪の重さに耐へてをり
 
 実直な句ですがやや報告気味でしょうか。

47	はしゃぐ子にシャッタ決めれぬ初旦(あした)

 <決めれぬ>ではなく<決められぬ>だと思います。

48	新春の結ぶ神籤や杜の花

 結んである御籤が<杜の花>という意味ですか?

(国枝評)「杜の花」は神社のお神籤が花のようだと言うことでしょうか。比喩に一寸引っ
かかりました。

49	百年の夢を託せり宝船

 決まっている句ですが、「宝舟」以外に物が描写されればもっと良いですね。

(国枝評)宝船はまさに「百年の夢を託せり」のような感じなので、宝船の説明のよう
に思えました。

50	大漁旗掲ぐ港や初明り

 良い風景ですが<掲ぐ>は終止形ですので、三段切れが気になりました。

51	人は消え花野は枯野に移ろひぬ

 よく分かる句ですが、花野と枯野の両方の景色が目に入りますのでどうかなと思いま
した。

(国枝評)この句は秋から冬にかけた時間の経過を詠んでいます。俳句は短いので、瞬
間を詠んでこそ活きてくると思います。

52	日向ぼこ出窓に三毛と玉さぼてん

 「日向ぼこ」に猫の句は山とありますのでどう差別化を付けるかが難しいです。

53	一杓の寒九の水や肚に沁む

 「寒九の水}を上手く表現していますね。

54	若水や透けて柾目の樽の底

 上品な写生句ですね。

(国枝評)「若水」は元旦に桶に汲んで料理や福茶に使うなどする水。元旦らしさが出
てよい句だと思いますが、中七に「透けて」があるので、中七以降も若水のことを読ん
でいますので、上5を「若水の」などと切れがない方が分かりやすいと思いました。

55	人はみな黙して行かむ三日かな

 嘱目の句としても季語が合っていないような気がします。

56	振り返るひとみな美しき冬の雷

 雷で振り返ったのなら理屈っぽいし、全く関係のない取り合わせでは季語が離れすぎ
ているように思いました。

57	楪や負けず嫌ひは親ゆずり

 できるならば実感のある事柄や物を詠んでほしいのですが、自己紹介の句としてこれ
も良いのかなあと思いました。

58	竹刀持つ握りこぶしや淑気満つ

 初稽古の以外な所に注目しましたね。

国枝隆生氏評================================

「握りこぶし」に子供の力強さをよく表していると思いました。

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59	ベンチ寝の目と耳覆ふ冬帽子

 嘱目としても寒い冬にどうしてベンチで横になっているのでしょうか? 変形の日向
ぼこの句ですかね。

60	さつそうと撒き餌掠むやゆりかもめ

 <さっそう>が説明なので、さっそうと見えるゆりかもめの動作を描写してほしいで
す。

61	片付けの残る宴や去年今年

 大晦日から年明けまで宴が続いたのでしょうか。だとすると季語の説明のような感じ
がします。

62	買初めや吾子に小さきイヤリング

 おしゃめな女の子が目に浮かびました。

63	ふる里の空は鈍色寒鴉

 日本海側の町の古里でしょうか。厳しい生活が伺えます。

国枝隆生氏評================================

「ふるさと」を「空の鈍色」と「寒鴉」と取り合わせから思い出している様子に説得力
があるように思えました。

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64	マリア像冬暖かな腕かな

 <腕>ですが、マリア像の腕なのか作者の腕なのか迷いました。

65	お洒落して心に秘めて初句会

 <心に秘めて>がよく分からないのですが、ひょっとして恋の句ですか?

66	若隆の横綱に土初場所や

 「初場所や」は上五に据えたほうがよいように思います。

67	風の戸は昭和のねぐら嫁が君

 昭和の古い家が作者の家で、ネズミまで天井で走り回っている、という句でしょうか?
 上五と中七が同じことのように思えました。

68	ハルカスウォーク春着の声高し

 破調はともかくとしても、報告のように思えます。。

69	筆初留学生の書く平和

 散文調なのが不満なのですが、良い場面ですね、「書初や平和と太く留学生」などど
うでしょうか。

70	カラフルな留学生の雪だるま

 カラフルなのは留学生なのか?雪だるまなのか?雪だるまなら面白いと思いました。

71	一すじの汽笛を残し山眠る

 観光の蒸気機関車でしょうか。山が汽笛を残したと読めるのが気になりますが、それ
も不思議な光景として流してしまえば絵になる句だと思いました、

72	足に猿縋らせて去る猿回し

 良く調教されたというよりも家族の関係のような後ろ姿ですね。選を済ませたあとで
「しまった、採り損ねた」と思いました。

73	石段に連なる人や除夜詣

 「除夜詣」の報告のように思えました。

74	松光る昭和の団地初日の出

<松光る>が終止形ですと三段切れ。連体形にしても浮いているような感じです。

(国枝評)典型的な三段切れの俳句だと思います。

75	流木に骨ごとき音冴る月

 骨のような流木なら分かりますが、骨のような音が分かりませんでした。

76	富士の山隙なき縄の冬かもめ

 <隙なき縄>が分かりませんでした。

77	薄紅のマニキュア指に冬うらら

「冬うらら」が句を甘くしているように思います。もう少し引き締まった季語のほうが
良いと思います。

78	朝の市大根の葉の瑞瑞し

 瑞瑞しく見える大根の葉を具体的に描写してほしいです。

79	度忘れの名前に苦笑初日記

 私も人の名が出てこなくなりました。日記では先に進まないので困りますね。

80	嘴を向けあひもして初鴉

 番でしょうか。<あひもして>の<も>はいらないように思いますが、仲が良さそう
ですね。

81	柏手を一人響かせ初詣

 お一人ですから小さな神社なのでしょうか。凛とした姿が伺えます。

82	庇無き無人販売雪催

 ほぼ野ざらしの無人販売なのですね。「雪催」が寂しさを誘っています。

83	救急車はるかに聞こゆ寒夜かな

 かな止めですので、<聞こゆ>は連体形にしてほしいです。

(国枝評)この句も10番と同様に下五を「かな」の切れ字で強く止めています。従っ
て中七が「聞こゆ」の終止形で切れているのが「寒夜かな」が浮いた感じです。「救急車は
るか聞こゆる寒夜かな」とすればリズム的にもよくなり、実感のある句となると思いま
した。

84	凜として白き一輪冬薔薇

<凜として>は作者が述べるのではなく、読者に読み取ってもらうものだと思います。

85	タイマーの音にほほ笑む初写真

 先日集合写真を撮ったのですが、微笑むタイミングが分からず苦労しました。

86	身震ひに空気ふるはす大くさめ

身震いしてくしゃみをするのだと思いますので<身震ひに>の<に>が?でした。

87	蒼穹に富岳泰然淑気満つ

 正に淑気に満ち満ちているのですが、<蒼穹><泰然>と胸を張った言葉が並びすぎ
ているように感じました。

(国枝評)この句は「淑気」で格調高い句ですが、さらに「蒼穹」「富岳」「泰然」と固
い飾り言葉が続くのが気になりました。

88	息災を喜び合うて若菜粥

 こちらは身辺の穏やかな場面でですね。形よくできていると思いました。

89	寒月や見つめる先はスマートフォン

 季語が効いているように思えませんでした。

90	おしゃべりの止まらぬ朝や寒雀

 家族のおしゃべりでは景が見えてこないので、雀の鳴き声として解釈しました。

国枝隆生氏評================================

「おしゃべりの止まらぬ」が人間か寒雀かが問題になりますが、ここは寒雀の鳴き声を
「おしゃべりの止まらぬ」と見たのだと思います。その方が説得力のある句となりまし
た。ただ中七の「や」が気になりますので、「朝の」とすれば分かりやすいと思いまし
た。

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