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選句結果
     
第226回目 (2018年4月) HP俳句会 選句結果
【  伊藤範子 選 】
  特選 葉桜や生徒を浚ふ始業ベル 小林克己(総社市)
   子の数の風船上げて閉校す 松村洗耳(三重県)
   漕ぐほどに身を乗り出して半仙戯      暁孝(三重県)
   木苺や父母へ小昼の登り坂 輝久(大分県)
   飴色の竿の撓りや春の鮒 加藤剛司(名古屋市)
   初ひばり鍬の手止めて深呼吸 長谷川妙好(名古屋市)
   江ノ電の揺れにまかせる目借時 筆致俳句(岐阜市)
   爛漫の御苑に春を惜しみけり 吉沢美佐枝(千葉県)
   夏隣スワンボートの屋根ひらく 小川めぐる(大阪)
    麦青む背丈の伸びて五年生 シロー(柏市)
【  武藤光リ 選 】
  特選 保証人欄に判押す啄木忌 嵩美(名古屋市)
   坂おほき京の七口やまざくら 垣内孝雄(栃木県)
   子の数の風船上げて閉校す      松村洗耳(三重県)
   地球儀の海に止まれり春の蠅 きょうや(東京)
   七度の仮設を郷の桜かな 輝久(大分県)
   のどけしや流木を切るチェーンソー   三泊みなと(北海道)
   あたたかし波郷遺品の丸眼鏡 眞人(さいたま市)
   園児描くゆがむ笑顔のゴム風船 隆昭(北名古屋市)
   金婚の青春切符山笑ふ 惠啓(三鷹市)
   新学期兄が手を引く下校道 サトコ(北名古屋市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 観覧車黄砂の空に止まりをり 田中勝之(千葉県)
   自動ドア開けば入りくる花の塵 田中洋子(千葉県)
   啓蟄の園庭ならぶ泥だんご      伊奈川富真乃(新潟県)
   子の数の風船上げて閉校す 松村洗耳(三重県)
   花並木上を見たまますれ違う 里子(名古屋市)
   地球儀の海に止まれり春の蠅 きょうや(東京)
   春風や触るると開く自動ドア 康(東京)
   飴色の竿の撓りや春の鮒 加藤剛司(名古屋市)
   腕広げ一輪車の子蝶の昼 町子(北名古屋市)
   富士山に尻向けてゐる潮干狩 和久(滋賀県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 遺されし歪な湯呑さくら冷え  三泊みなと(北海道)
   木曽馬の孕むや牧の風光る 岩田遊泉(名古屋市)
   子の数の風船上げて閉校す      松村洗耳(三重県)
   地球儀の海に止まれり春の蠅 きょうや(東京)
   弁天のくちびるの紅春満月 康(東京)
   飴色の竿の撓りや春の鮒 加藤剛司(名古屋市)
   江ノ電の揺れにまかせる目借時 筆致俳句(岐阜市)
   青空や水面に揺るる花の影 宇駱駄(名古屋市)
   金婚の青春切符山笑ふ 惠啓(三鷹市)
   菜の花や島より島を眺めをる 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、松村洗耳さん(三重県)でした。「伊吹嶺」4月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



         2018年4月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

 1  濡れそぼる二つの傘に猫柳  

 そぼる(戯る)は「たわむれる」「ふざける」などの意味です。上五は「濡れそぼつ」
と言いたかったのではないでしょうか?

 傘が濡れるのは当たり前ですし、猫柳が傘にどう絡んでくるのかが見えませんので、
もう一つ工夫がほしいと思いました。

2  ひれ黒き龍天に昇る昼の夢  

 難しい季語に挑戦されました。ただ残念ながら、「龍天に昇る」という想像上の季語
を、夢で決着させるのは、少々安易に思いました。

3  筍の重たき今日の背負ひ籠  

 たくさん採れたのですね。下五を「背負ひ籠」で止めていますが、ここを「重さかな」
と止めるように工夫すると、読者の意識が重さの方に集中し、たくさん採れた嬉しさも
より伝わると思います。

4  杉の花散らせて風の戯れり  

 静かな景の句ですが、やや報告的に思いました。「風が吹いて杉の花が散った」とい
うだけでなく、作者の発見が込められると良いですね。

5  木曽馬の孕むや牧の風光る  

 生命感に満ちた明るい句ですね。

6  梅桜桃の花まで咲き競ふ  

 福島県に三春(みはる)という地名があります。滝桜という名木で有名ですが、ここ
は春の訪れが遅く、梅と桜と桃が同時に咲くことから三春と名付けられたそうです。

 この句は、三つの花が咲いている景を「遅き春」等の言葉で表し、その春の景の中で
特に目が惹かれたものを取り合わせるなどしてはいかがでしょうか。

7  春の口紅マニキュアのごとつややかに  

 一般名詞に季節を付けた「春の口紅」のような言葉を季語とすることには、少々疑問
を感じます。「マニキュアのごと」という直喩も、新鮮さが感じられませんでした。

8  自動ドア開けば入りくる花の塵  

 類想があるようにも思いますが、良い着眼点と思います。「開けば入りくる」が物事
の因果関係を言っていてちょっと説明的なのが気になりました。「自動ドアより舞ひ来
たる花の塵」等、推敲してみてください。


9  従軍の子規の鞄や春しぐれ  

 時雨は冬のもので、春時雨となるとどこかほのぼのというか、ある意味間の抜けた感
じがします。従軍記者として遼東半島に渡ったもののタイミングが悪く、ほぼ何もせず
にすぐに帰国してしまった子規の鞄との取り合わせが良いですね。

10  陽炎をまとひし黄金(きん)の避雷針  

 避雷針があるような孤立した高い場所に陽炎が立つのかな?と、疑問に思ってしまい
ました。

11  啓蟄の園庭ならぶ泥だんご  

 微笑ましいですね。私も幼稚園の頃に、泥団子を作って遊んだ記憶があります。啓蟄
と泥(土)のイメージがやや付きすぎなのと、並んでいるのが園庭であるようにも読め
るのが少々気になりました。

12  躙り口出でて花の香徒の音  

 徒の音はかちのおとと読むのでしょうか? 読み方、意味ともに良くわかりませんで
した。

13  穴を出て蛇のびて行く山路かな  

 「のびて行く」が、蛇がだんだん長くなってゆくように思えてしまいました。山道に
蛇がいるのは珍しくありませんので、一工夫欲しいと感じました。

14  汐干狩ぬれたるままの忘れ物  

 「忘れ物」が抽象的かつ説明的です。具体的な物を詠んで、それが誰かの忘れ物であ
ると読者に伝わるように工夫してください。

15  坂おほき京の七口やまざくら  

 声に出して読んでみると、この句のリズムの良さに気が付きます。ただ、「 坂おほ
き京の七口」は具体的な景ではなく、一般論ですので、今一つ具体的な景がイメージで
きませんでした。

16  大町を抜けて小町や花の径  

 大町、小町という表現は抽象的で、具体的な景が見えて来ません。

17  弥生尽子の指なぞる字画数  

 「子の指なぞる字画数」は、子の指が字画数をなぞるのか、それとも字画数が子の指
をなぞるのか? いずれにしても意味がわかりませんでした。

18  節分草読めぬ地名の案内図  

 地名が読めないというのは作者の主観的なことですね。地名を具体的に書いた方が、
場合によっては面白い句になるかもしれません。

19  薄月の卵のごとき蕗の薹  

 薄月(秋)と蕗の薹(春)の季重なりです。

20  木の芽時すずめの首はよく回る  

 雀の首の回り方は季節によって変わるわけではないでしょうが、特にこの季節にそう
感じられたのですね。季語が活きています。

21  花桃やあるなしの風枝揺らす  

 桃の花は春の季語ですが、花桃は桃の種類を指すものであり、季語にはなっていない
と思います。

22  蚕豆の同じ莢なる笑顔かな  

 笑顔というのは、蚕豆の実の比喩かと思いますが、今一つピンと来ませんでした。

23  子の数の風船上げて閉校す  

 「子の数の風船」で、子供達がそれぞれ一つずつ風船を持っている景が具体的に見え
ますね。風船を「上げる」「飛ばす」「放つ」・・・どれが良いでしょう?

24  こでまりの静かな揺れを活けにけり 

 揺れを活けたというのが、ユニークな捉え方ですね。

25  竹の秋かはらぬ里の鳥の声  

 日本の原風景のような、懷かしい鄙びた景が浮かびますが、「かはらぬ」が係るのが
里なのか鳥の声なのかがわかりませんでした。

26  漕ぐほどに身を乗り出して半仙戯  

 ぶらんこを漕ぐ様子を写生されています。ただ、今一つ目新しさ・発見が感じられま
せんでした。

27  見納めと皆で笑いし花の下  

 良くある発想・光景に思えてしまいました。

28  花並木上を見たまますれ違う  

 桜並木とは言いますが、花並木という言い方はあるのか、ちょっと疑問に思いました。
この句、すれ違う相手が誰なのかが気になります。単なる行きずりの人なのか、それと
ももっと深い関係の人なのか・・・。すれ違うのは体なのか心なのか・・・。ちょっと
深読みしすぎでしょうか?

29  入相の鐘突く僧や月朧  

 「突く」でも間違いではありませんが、鐘の場合は「撞く」の方がより似合うと思い
ます。

30  失言の取り消しつかぬところてん  

 取り合わせに捻りのある面白い句ですね。中七の切れが弱いので、「取り消しつかぬ」
が「ところてん」に係っているようにも読めてしまいます。上五中七を「取り消しのつ
かぬ失言」としては如何でしょうか。

31  保証人欄に判押す啄木忌  

 ユーモアとペーソスの漂う面白い句ですね。ただ、啄木=借金のイメージが強いので、
季語がつき過ぎに感じました。

32  風光る金管五重奏の乙女  

 せっかく明るく軽快な季語を使っているのに、下五の字余りが句全体をもたつかせて
しまっているのが残念に思いました。

33  寄り添うをそっと堀くる春筍  

 「堀くる」は「掘り来る」でしょうか?

34  とく癒えよ車椅子ひく花見かな  

 上五と下五で切れているので、句がばらばらな感じがします。上五を、字余りとなっ
ても「疾く癒えよと」とするか、「治癒願い」等とし、切れずに中七につながるように
しましょう。

35  霾るや戦地映像重ね見る  

 土埃に、戦地の映像を(心の中で)重ねて見ているということかと思いますが、今一
つよくわかりませんでした。

36  観覧車黄砂の空に止まりをり  

 「止まりをり」ですから、観覧車がしばらく止まった状態であることがわかります。
事故なのか、黄砂の影響で観覧車の営業を見合わせているのか、状況がよくわかりませ
んが、不穏な雰囲気に季語が合っていると思います。

37  春暁の漁場へと急ぐ夫婦舟  

 夫婦舟という言葉は辞書に載っておらず、多分演歌などのために作られた造語ではな
いかと思います。こういう言葉を安易につかうと、句に格調が無くなるように思います。

38  地球儀の海に止まれり春の蠅  

 単に地球儀というのではなく、地球儀の海に止まったというところを見定めているの
に感心しました。中七に切れを入れるのが良いか、推敲の余地があるかもしれません。

39  七度の仮設を郷の桜かな  

 福島第一原発の事故で住民が住めなくなった福島県の富岡地区のことでしょうか?
今一つ句の意味がわかりませんでした。

40  木苺や父母へ小昼の登り坂  

 住まいよりも高いところにある畑で野良仕事をしている両親に、休憩用のお茶などを
持って行くところかと思います。季語から、明るくのどかな景が見えてきます。

41  源流の山遥かなり春の河  

 上五中七の雰囲気と、ほのぼのとした春の河の感じがいまいち合わないように感じま
した。むしろ冬の方が、空気が澄んで遠くの雪を頂いた山々がよく見え、あの雪がここ
まで流れてくるのだな…という感慨が湧くように思いました。

42  木々芽吹く校塔高き日章旗  

 季語が動くように思いました。

43  醍醐寺の太閤誑す櫻かな  

 「醍醐の花見」の説明です。

44  相撲道人道逸るる落花かな  

 どこで切れるのかわかりませんでした。俳句で教訓的なことや主義主張などを言おう
としても、主観的で底の浅いものにしかなりません。

45  春風や触るると開く自動ドア  

 一読、中七下五が当たり前すぎると思いましたが、季語の軽快さとは合っていると思
います。

46  弁天のくちびるの紅春満月  

 この句の弁天様は実景ではなく、春の満月から導かれたイメージと解釈すると、独特
の世界観が見えてきます。

47  のどけしや流木を切るチェーンソー    

 チェーンソーはかなり騒々しく、危険でもあるので、あまりのどかな感じはしません
が・・・。

48  遺されし歪な湯呑さくら冷え   

 「歪な湯呑」から、元の持ち主の姿や気性について、想像が広がります。そして、季
語からは作者の複雑な想いが伝わりますね。

49  沼尻に命蠢く蝌蚪の紐  

 「蝌蚪の紐」の説明です。

50  風渡り芽柳の糸解きほぐす  

 柳に風は似合いすぎる取り合わせで、これで新鮮な句を詠むのは難しいと思います。

51  ひこばえや風に吹かれて遊びゐる  

 ひこばえが風に揺れているのを「遊んでいる」と喩えただけでは、句材として面白い
とは言えません。

52  つばくらめ川面すれすれ又空へ  

 燕の飛翔の様子を詠まれていますが、説明・報告の域を出ていないと感じました。

53  あたたかし波郷遺品の丸眼鏡  

 波郷といえば眼鏡のイメージですね。一読、季語が動くように思えたのですが、何
度も読むうちに絶妙な距離感に思えてきました。

54  春の風開け放たれし大方丈  

 春の暖かな風が吹いた→窓や戸を開けて風を通した・・・という、理屈・因果関係が
感じられるため、説明的に思えました。

55  葉桜や木洩れ日頬に脈うちて  

 「脈うちて」が工夫点かと思いますが、いまいちピンときませんでした。

56  新茶汲み母となる娘と児のはなし  娘(こ)  

 漢字を、本来の読み方には無い読み方で読ませるのは、最近のキラキラネームのよう
で、俳句の品格が落ちるように思います。この句の場合「子」と書いても娘であること
はわかりますね。

57  飴色の竿の撓りや春の鮒  

 よく手入れして使い込んだ和竿なのでしょう。釣りは鮒に始まり鮒に終わると言うそ
うで、お好きな人には嬉しい季節到来ということですね。

58  城周る女子ランナーや朝霞  

 「城周る」も「女子ランナー」も、具体的な景の浮かびにくい抽象的な言葉と思いま
す。朝霞という季語と相まって、全体的にぼんやりした印象を得ました。

59  曲線の影の動きや春ともし  

 上五中七は、もう少し具体的に言って戴かないと、意味がわかりません。

60  春愁の吾の映りこむ眼かな  

 「春愁」が「吾」に係るのか「眼」に係るのかがわからず、全体的にも、意味が取り
にくく思いました。

61  桜餅銜へ駈けだす童かな  

 やんちゃ坊主でしょうか? この景だけでは、何が起こったのか読者にはわかりませ
んので、もう一工夫欲しいと思いました。

62  華鬘草ハートの揺るるネックレス  

 季語華鬘草の説明に感じました。

63  葱坊主園児散歩の白帽子  

 季語が付き過ぎに思いました。

64  飲み友のほしき堤や花万だ  

 「ほしき」が、作者の気持ちをそのまま言う言葉なので、深みが無くなっています。
例えば、「飲み友のおらぬ堤や花万朶」とすると、事実をそのまま述べて、なおかつ飲
み仲間が欲しいという作者の心情が伝わると思います。

65  ビバルディ流るる牛舎春の虹  

 ビバルディといえば、四季の中でも春が特に有名ですね。屋内外の位置関係もあり、
季語にもう一工夫欲しいと思いました。

66  年表の初めの余白亀鳴けり  

 難しい季語に挑戦されました。上五中七の意味がはっきりわかると良いと思いました。

67  春愁の空をひろげて鳶の笛  

 「春愁」は、何となく雰囲気の良い言葉で、よく使われる割には、実は使い方が難し
い季語だと思います。この句には、空以外に目に見えるものが詠まれていないので、読
者はわかったようなわからないような気分になります。

68  幹穿つ嘴のリズムや寒もどり  

 上五中七の明るい躍動感と、下五の季語がかみ合わない印象を受けました。

69  両の手に買い物袋青葉風  

 買い物は一年を通してするものですから、買ったものを具体的に示すなどして、下五
の季語ともっと響きあうようにすると良いと思います。

70  筍の地表を破り角伸ばす  

 季語「筍」の説明です。

71  蔵町を人力車行く春が行く  

 春が行くことを、目に見えるもので言えると良いですね。

72  時の鐘見上ぐる人に春の風  

 「時の鐘」は、普通その音のことを言います。

73  初ひばり鍬の手止めて深呼吸  

 様子がよくわかりますが、「深呼吸」まで言わなくても良いのではないでしょうか?
その代わりに、この人物像や周囲の光景などを写生するともっと良くなると思います。

74  皺の手で牡丹餅作るお中日  

 牡丹餅と言えば、お中日(彼岸)は言わなくても良いですね。言うとかえって説明・
理屈になってしまいます。

75  御園座のこけら落しや風光る  

 名古屋の御園座のこけら落としが四月にありましたね。喜び・嬉しさの満ちた句です
が、屋内演劇に対しての、「風光る」いう季語が若干気になりました。

76  江ノ電の揺れにまかせる目借時  

 句には具体的に詠まれていませんが、車窓外の光景や車内の様子、作者の姿までもが
目に浮かびます。さり気ないですが、お上手な句と思いました。

77  花冷えの苑に禽鳥しき鳴きぬ  

 一本調子で報告的な句と感じました。

78  爛漫の御苑に春を惜しみけり  

 内容に目新しさや発見は感じられませんが、衒いの無い素直な詠み方の句と思いまし
た。

79  岬への道は一すじ金盞花  

 中七、「道は一すじ」だと説明的になります。「一筋の道」とすると景がはっきと見
えてきます。

80  孫の摘む苺の今朝は二つ三つ  

 毎回のように書きますが、子や孫を句材にして、佳い句を作るのは難しいです。子孫
俳句がいけないとは言いませんが、難しさを覚悟して挑戦する必要があります。

81  大木をゆたゆたゆらし百千鳥  

 「ゆたゆた」というオノマトペと、大木が揺れる様が結び付きませんでした。

82  春光をちらし女生徒ペダル漕ぐ  

 「春光をちらし」は、自転車の金属部に光が反射している様子でしょうか? 全体的
に一本調子で報告的ですので、上五を「春光や」と切って推敲してみてはいかがでしょ
うか?

83  O. 風光る部員募集の文芸部  

 新学期の光景ですね。下五は、別の部活動でも収まってしまうような気がしました。

84  O. 桃色のちびた鉛筆鳥の恋  

 上五中七と、下五の季語がかみ合っていないように感じました。「ちびた」は「禿び
た」と表記された方が良いと思います。

85  庭石の隙をくねらせ春の草  

 「隙をくねらせる」という言葉の意味が分かりませんでした。

86  すずめ来て花を丸ごと落としをり  

 「花を丸ごと」とは、どういうことなのかよくわかりませんでした。一輪丸ごと?
 一本の木の花を丸ごと? 「落としをり」とありますので、ずっとその動作を続けて
いるのでしょうか?

87  号外とあるスーパーの苺買ふ  

 俳句というより、報告的な散文という印象を受けました。

88  タクシーもバスも通らぬ昼蛙  

 中七の切れが弱いので、上五中七が、下五の昼蛙を修飾しているように読めました。

89  春休み駐輪場にヘルメット  

 最近の子(大人も)は、自転車用のヘルメットを使うことが多いので、駐輪場にヘル
メットがあるのは珍しいことではなく、春休みに限らないのでは?と思いました。

90  青空や水面に揺るる花の影  

 きれいな句ですね。句の形も良いです。

91  寄する波返えす刹那やさくら貝  

 引く波の下から桜貝が現れた瞬間を詠まれたのですね。上五は冗長で無くても良いよ
うに感じました。「返えす」の送り仮名は「返す」です。

92  園児描くゆがむ笑顔のゴム風船  

 幼稚園児が、風船に顔を描いたのですね? ちょっと言葉がごちゃごちゃしている感
じを受けました。言葉を整理して推敲されてはいかがでしょうか。

93  黒板の文語文法目借時  

 良くわかりますが、季語が付き過ぎに思いました。

94  背ナの子の握りしめたるゴム風船  

 おんぶされた子が風船の紐を握っているというのはよくある光景で、目新しさに欠け
るように思いました。

95  瓦斯灯の蒼き鉄柱八重桜  

 色彩が美しいですね。夜桜である点が、また良いと思います。

96  夏隣スワンボートの屋根ひらく  

 夏が近いから→屋根を開いたという理屈が感じられるのが気になりました。「屋根開
きしスワンボートや夏隣」のように語順を変えると、理屈っぽさが気にならなくなりま
す。

97  花屑を分けて浮上の鯉に餌  

 切れが無く一本調子で、散文的です。

98  木蓮の花びら踏んで行く径  

 径は「こみち」と読むのでしょうか? 「踏む」「行く」「道」は、言葉が整理できる
のではないかと思いました。

99  さざ波の子守歌聞く桜貝  

 上五中七の比喩が、よくある言い回しで、うわべの綺麗ごとのように感じました。

100  腕広げ一輪車の子蝶の昼  

 景が良く見える明るい句ですね。ただ、「腕を広げて一輪車」は、非常に多い類句が
あります。

101  見下ろせば蔵王堂まで花の竜  

 「蔵王堂まで」と言っても、読者には遠いのか近いのかわかりませんので、花の様子
がいま一つイメージしにくいと思います。

102  春光や豆苗百本Sの字に  

 豆苗の一本一本がSの字なのか、百本の豆苗が全体としてSの字になっているのかがわ
かりませんでした。

103  満開の桜花かこめる過疎の村  

 桜花が囲むのか、桜花を囲むのかがわかりませんでした。「満開の桜花」は「花」と
言えば十分です。

104  枝ごとに揃えつ木の芽生い始る  

 「枝ごとに揃えつ」の意味がわかりませんでしたが、全体として季語「木の芽」の説
明的な印象を受けました。

105  葉桜や生徒を浚ふ始業ベル  

 この句については、選者の伊藤範子氏から戴いたコメントを掲載しますj。

−−−−−−−−−−−−
 学校にも慣れてきた葉桜の季節、ベルの音によって児童が教室へサッと戻る情景が目
に浮かぶようです。
−−−−−−−−−−−−

106  少年に還る漢の半仙戯  

 ブランコで童心に返るというのは、類想が多いと思います。また、漢はおとこと読ま
せるのだと思いますが、娘を「こ」、女を「ひと」と読ませるのと同じように、本来無
い漢字の読み方をさせるのは、句の品格を下げるように思います。

107  清水の舞台を覗く春の月  

 月が舞台を覗くというのは、舞台の下から月が顔を出すように上ってくる様なのかと
思います。ただ、そういう景が見られる時間に、清水寺に入れるのか?という、無粋な
疑問を感じてしまいました。

108  春の宵そぞろに歩く京の街  

 中七下五が、上五の季語に合っていると思います。全体としてぼんやりした景で、具
体的なものが見えてきませんが、それもまた春の宵に似合っているのでしょう。

109  読経の風ゆきわたる村のどか  

 読経の声とせず、読経の風としたところに、作者の力量を感じます。ただ、読経は普通はのどかなものではないので、それをのどかと感じさせるもう一工夫がきっとできると思いました。

110  石垣に響く水音老柳  

 城または城跡のお堀の景かと思いましたが、普通お堀の水は響くような音を立てて流
れたりはしないと思いますので、景がイメージできなくなりました。

111   春風や猫は眼を閉じてをり  

 猫も気持ちよさそうですね。「猫は眼を閉じてをり」を「猫眠る」とすれば、あと七
音使えますね。

112   麦青む背丈の伸びて五年生  

 子供はあっという間に大きくなりますね。毎日見ていると気が付きませんが、新学期
になってふと改めて見ると、ずいぶん大きくなったと感じます。小学校の上級生と呼ば
れる年でも、まだ最年長の六年生でないところが良いですね。

113  溝浚え水を待つかな苗代田  

 溝浚えと苗代田の季重なりになってしまいました。

114  片目閉じ日にかざしてや桜貝  

 具体的な動作が詠まれており、作者の横顔が見えるようです。中七の「や」の使い方
が、かなりの手練れであると感じました。

115  金婚の青春切符山笑ふ  

 まずは、おめでとうございます。青春18切符は、その名称からも学生などの貧乏旅
行のイメージがありますが、こういう使い方も良いですね。ローカル線のレトロな列車
で、冷凍蜜柑など向いているお二人の姿が浮かびました。省略の良く利いた句です。

116  初蝶にしばし手の止む庭掃除  

 長閑な景ですね。初蝶に気が付いたので→掃除の手を止めた という因果関係がやや
気になりました。

117  野遊びの手作りプリン初デート  

 若々しい句ですが、「初デート」まで言うと説明になってしまいます。それを言わず
にその様子・気持ちを表すのが俳句です。

118  夜半の春灯火漏るる夫の部屋  

 夜半の春というややなまめかしい季語に対し、それぞれ別に過ごしているらしい夫婦
の様子が、ちょっとアンバランスに感じました。

119  菜の花や島より島を眺めをる  

 島と島の間には、当然春の海があるわけで、その青色と菜の花の色が鮮やかです。

120  山水に口湿らせば花菫  

 山歩きの途中だと思います。ほっとした瞬間がうまく切り取られていますね。山水
は、山清水や岩清水と同義だと思いますので、季重なりにならないかな?と思いまし
たが、この句では花菫が主季語であることが明確ですから、問題ないでしょうね。

121  虎杖をぽくぽく折つて集金す  

 下五に意外性があって、面白い句と思いました。「ぽくぽく折つて」の表現に、決し
て面白いとは言えない集金作業に勤しむ気持ちが表れています。

122  流す湯の湯気こそにほふ蓬かな  

 実感でしょうね。蓬を茹でた湯を捨てたときに、蓬の匂いが台所中に広がったので
しょう。私も匂いが感じられるような気がしました。

123  春蘭や松の根方に根付きたり  

 上五と下五に切れがあるので、句がばらばらになっている印象を受けました。

124  新学期兄が手を引く下校道  

 微笑ましいですが、類想の多い句と思いました。

125  会話には遠慮の無くて蓬餅  

 上五中七が観念的なことなので、下五の季語が動くように思います。桜餅、心太、
チューリップ・・・。

126  見なかった事にしやうかサイネリア  

 この句も上と同じです。俳句は「物に托して心情を述べる」ということを、再認識し
てください。

127  雨水の走る山路や花筏  

 濡れた山道の土の色と、その上を流れる花びらの色の対比が鮮やかです。

128  富士山に尻向けてゐる潮干狩  

 作者は、少し離れたところから潮干狩りの様子を見ているのだと思います。広い干潟
の彼方に富士が見える、雄大な光景ですね。

129  篝火の照らす小路の花見かな  

 「花篝」という季語だけで、この句のような景が見えてきます。小路の様子などが写
生できると良いですね。

130  春霖や胃カメラ待てる胃の辺り  

 春霖が、胃のあたりに降っているという意味でしょうか? 句の意味が良くわかりま
せんでした。

131  停車する駅の朧へ人降ろす  

 人を降ろすのは何でしょうか? 句の意味が良くわかりませんでした。

132  春泥の子山羊の蹄乾きゐる  

 春泥が乾いているということを言いたいのだと思いますが、この句では、乾いている
のは泥ではなくて蹄のように読めます。

133  春の日や弾ける笑顔とランドセル  

 明るさに満ちた句ですが、「弾ける笑顔」のような決まりきった言い回しは、安易に
使わないようにした方が良いと思います。

134  月明り浮かぶ枝垂れの花かんざし  

 花簪は、仲春の季語になっている植物ですが、枝垂れはしないと思います。髪に挿す
花簪は造花などをあしらった簪で、季語にはなっていないと思います。

135  破れ目のひとつふたつや春障子  

 春障子は、春の日差しをいっぱいに浴びた明るい障子のことで、単に障子に春という
季節をかぶせたものではありません。そういう気持ちで、破れ目から漏れる光などを詠
んでみると、生き生きとした句になると思います。

136  落ち椿拾うことなき掃除ロボ  

 屋外用の掃除ロボットができたのか?それとも室内に飾った椿の花が落ちたのか、今
一つ景が浮かびませんでした。室内の掃除ロボットでしたら、椿の花を拾う(吸い込む?)
のは無理のような気がしますね。


第225回目 (2018年3月) HP俳句会 選句結果
【  橋幸子 選 】
  特選 春雨や傘をたたみて恋御籤 蝶子(福岡県)
   出稼ぎの手荷物二つ遅桜 輝久(大分県)
   蘖や亡き夫のこと遠くなり      澤木淳枝(京都)
   清明や朱の色深き野点傘 須藤曉風(前橋市)
   梅が香や辻曲がりくるベビーカー 康(東京)
   独り身を貫く兄よ紫木蓮 小川めぐる(大阪)
   鴨の子の一呼吸して潜りけり 松村洗耳(三重県)
   滝壺をしばらく出でず落椿 松村洗耳(三重県)
   鶴帰る玄界灘の朝なぎに 眞人(さいたま市)
   千年の大楠に幣風光る ときこ(名古屋市)
【  坪野洋子 選 】
  特選 黒板消たたく校庭蝶の昼 じゃすみん(新潟県)
   春の川光のつつむ水の音 垣内孝雄(栃木県)
   ポケットにつくしの顔ののぞきをり      田中勝之(千葉県)
   出稼ぎの手荷物二つ遅桜 輝久(大分県)
   草餅やお茶濃く淹れて母のこと 妙子(東京)
   春の暮回廊奥の魚板鳴る 須藤曉風(前橋市)
   風生の句碑に降り積む桜蘂 吉沢美佐枝(千葉県)
   引き揚げの碑の空高く鳥帰る 鶴翔 (ツルショウ)(福岡県)
   春泥の靴散らかるや児童館 筆致俳句(岐阜市)
   滝壺をしばらく出でず落椿 松村洗耳(三重県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 煌めける海に真向かふ金盞花 三泊みなと(北海道)
   春の暮回廊奥の魚板鳴る 須藤曉風(前橋市)
   土のいのち虫の命や青き踏む      雄一郎(彦根市)
   散る花のしろがねびかり西行忌 吉沢美佐枝(千葉県)
   桜餅埴輪の口は楕円形 正憲(浜松市)
   滝壺をしばらく出でず落椿 松村洗耳(三重県)
   水温む米研ぐ音の軽やかさ さよこ(神奈川県)
   黒板消たたく校庭蝶の昼 じゃすみん(新潟県)
   鶴帰る玄界灘の朝なぎに 眞人(さいたま市)
   千年の大楠に幣風光る ときこ(名古屋市)
【  長崎 眞由美 選 】
  特選 ふらここを漕いで地球を回しけり 有瀬こうこ(大阪)
   草餅やお茶濃く淹れて母のこと 妙子(東京)
   紙雛貰ひて爺の聞き上手      節彩(東京)
   書き掛けの終活ノート春夕焼 小林克己(総社市)
   桜餅埴輪の口は楕円形 正憲(浜松市)
   春泥の靴散らかるや児童館 筆致俳句(岐阜市)
   春光や舳に金の女神像 小川めぐる(大阪)
   春寒や平和託して巨星墜つ 鈴木八重子(蒲郡市)
   黒板消たたく校庭蝶の昼 じゃすみん(新潟県)
   福耳に内緒話を花衣 有瀬こうこ(大阪)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、じゃすみんさん(新潟県)でした。「伊吹嶺」3月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2018年3月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

黒板消たたく校庭蝶の昼

 今月の最高得点句で、私も頂きました。昔懐かしい光景です。小学生の頃、当番が先
生の使った黒板消しを叩いた思い出があります。ただ黒板消しと言えば学校に決まって
いますので、「校庭」は要らないかも知れません。いずれにしてもこの句は「蝶の昼」
がよく効いています。この季語から穏やかな午後を感じさせます。選者の皆さんもこの
季語で採られたことでしょう。

煌めける海に真向かふ金盞花

 私が特選で頂いた句です。よく情景の見える句です。最近、テレビでプレバトの俳句
が人気を呼んでいるようですが、選者の夏井いつき氏は映像化出来る句を推奨している
ようです。そういう点でこの句は房総半島の突端の情景が浮かんできます。一面の金盞
花が咲いている先は光りまぶしい太平洋につながっています。写生に忠実で明るい句です。

滝壺をしばらく出でず落椿

 水に落ちる「落椿」の句と言えば「落椿われならば急流へ落つ 狩行」が有名ですが、
狩行の句が動であれば、この句は静を詠んでいるのでしょうか。本来は滝に落ちる椿で
あれば同じく動の句となるところですが、滝壺にしばらく漂っている様子を「しばらく
出でず」と静かに詠んだ見たところに落椿の本情を詠んでいます。

桜餅埴輪の口は楕円形

 「埴輪の口は楕円形」と言われてみれば確かにその通りです。改めて埴輪の写真を見
てみると、どちらかと言うと縦型の楕円形のようです。ネット検索すると、この埴輪は
歌っているのか、あるいは踊っている埴輪との説明もあります。しかしこの句の作者は
「桜餅」との取り合わせで詠んでいますので、この埴輪の楕円形は食べている口と認識
したのでしょう。そんな解釈で十分俳諧性があります。

土のいのち虫の命や青き踏む

 この句は私だけが頂いています。「伊吹嶺」の俳句に対する基本姿勢は即物具象です。
いわゆる物で捉えて、物を写生するという俳句を目指しています。しかし私はこの句に
は、季語の本情を詠んでいるような気がして頂きました。春の踏青には万物の命が目を
覚ます躍動感を感じさせます。その万物の命に土と虫を登場させてうまく詠み込まれた
と思います。「木々のこゑ石ころのこゑ終戦日 狩行」と同じ命を追求するような印象
を受けました。

水温む米研ぐ音の軽やかさ

 この句を頂くにあたっては少し迷いがありました。もう一句に「米を研ぐ音軽やかや
水温む」もありました。両句とも「水温む」「米を研ぐ」「音軽やか」と素材は全く同
じです。ここまで似てくると気になりましたが、どちらも入選としてもよかったと思い
ます。ただ最終的に掲句の「水温む」と「音の軽やかさ」と2つの素材を並列的に詠ん
だもので頂きました。もう一句の方は、「音軽やかや」と強い切れを入れていますので、
こちらは「音」の句となっています。それだけの違いです。

 以下気のついたことを述べます。

緞帳の天女の舞ふも春かなし

日々のことできるしあわせ感ずる春

城跡に建てる母校や春動く

 今月は春の句が満載でした。「春」が付いた季語は数え切れないほどありますが、「春
かなし」「感ずる春」「春動く」の季語はどうでしょうか。「春」に動詞、形容詞など
の用言を付けたのも季語としてあり得ると思いますし、歳時記にない季語として挑戦す
る意義は大事だと思います。ただ季語は季節感を大事にして一句の中に機能させたいも
のです。そういう意味でこの3句については季節感がいまいちだと思いました。1句目は、
中7「天女の舞ふも」に「悲しい」こととして季語の「春かなし」を取り入れたため、
季節感がなくなりました。2句目も、「幸せ感ずる」と「感ずる春」を関連づけてしまっ
ています。3句目は、「春動く」の意味が分かりませんでした。いずれも季節感がとぼ
しいと思いました。

 例えば今月の投句には「春寒し」など季節感をしっかりと捉えた句もありましたので、
残念です。

つらきことしばし忘れし深雪かな

若き日の恋の思い出春の雪

幾つもの願ひをこめてしやぼんだま

 毎回言っていることですが、「つらきことしばし忘れ」「若き日の恋の思い出」「幾
つもの願ひをこめて」などのフレーズは読者にどんな内容で、どんな感動を伝えるので
しょうか。これらの内容は作者だけのものであって、読者には伝わりません。忘れたこ
と、恋の思い出、幾つもの願い、などそれぞれ作者の心の中のことです。仮にそれらを
理解して貰うには俳句の17音では足りません。やはり物に託して、その物を写生するこ
とから間接的に作者の感性を表現することが一番です。しかしこれらは非常に難しいこ
とですが、そのような俳句を追求していきたいと思います。

鴨の子の一呼吸して潜りけり

 非常に写生の行き届いた写生句です。「一呼吸して潜りけり」がよいですね。でも今
の時期の鴨ですから、春の鴨のことでしょうか。まもなく鴨は引き鴨となって、北へ帰
ることになりますので、子鴨は産まないと思います。私の勘違いでしょうか。ただ通し
鴨やカルガモなどはそのまま日本に生息して、子鴨を産むことになるでしょう。と言う
ことで一般的に「鴨の子」は夏の季語です。この句が夏に詠まれていたなら、私も頂い
たと思います。それとも掲句の「鴨の子」はカイツブリのことを詠んだのでしょうか。
それなら上5を「にほ鳥の」とすれば、潜ることも納得出来ます。

薇ののの字もうすぐ旅立ちだ

薇やひとり書斎に籠る父

 1句目は、面白いところに着目した句だと思います。でも薇がほぐれることから旅立
ちことを発想したなら、一寸浅い比喩だと思いました。

 一方2句目は、薇と父の取り合わせの句で、問題ありません。ただ屋外の薇と書斎の
父の屋内の取り合わせにいまいち納得出来ませんでした。

 以下文法的なこと、俳句の形式上のことについて見ていきたいと思います。

獣道人も通ふていぬふぐり

 「通ふて」は「通って」という意味でしょうか。よくある間違いです。動詞に助詞の
「て」がつながるときは連用形からつながります。「通ふ」の連用形は「通ひ」ですか
ら、「通ひて」となります。そしてウ音便となれば「通うて」が正しい用法です。「通
ふ+て」のように終止形に「て」はつながりません。なお促音便の「通つて」も正しい
用法です。

春の塵スタインベック夫の書架

初蝶や高速道路島またぐ

悠久を黙して埴輪山笑う

 いずれも3句切れの印象を受けました。1句目は、物を3つ並べた句ですが、こういう
名詞だけの句は切れに注意したいと思います。よく物を写生するときは、動詞を極力少
なくして詠めと言うような方もいらっしゃいますが、物を1つに絞り込んで動詞で写生
することも必要だと思います。丁度別の場で、今月鑑賞した句に「凍てつくを拒みて迅
し冬の滝 山崎ひさを」という動詞3つで写生した素晴らしい句もあることを紹介しま
す。

 2句目は、上5が強い切れでさらに中7でも切れていますので、3句切れの印象を受けま
した。

 3句目は、そんなに強い3句切れではありませんが、「悠久を黙して」の「て」には軽
い切れがありますので、一寸3句切れの印象を受けました。ただこのような句は「埴輪」
だけに切れがあると考えてもそんなに違和感はありません。

 毎回書いていることですが、以下の投句はいずれも歴史かな遣いで詠まれたものと考
えた場合、歴史かな遣いとしての用法に引っかかりました。

花冷や木々を掠める風の声

 「掠める」は「掠むる」ですね。

悠久を黙して埴輪山笑う
水温む菜の束洗う外流し

 「山笑う」「束笑う」は「山笑ふ」「束笑ふ」ですね。

今開く辛夷の音の聞けそうな

 「聞けそうな」は「聞けさうな」ですね。

母の忌の供花に添えにし桃の花

 「添えにし」は「添へにし」ですね。

城跡に建てる母校や春動く

 「建てる」は「建つる」ですね。

雨粒をつけて菫の運ばれる

 「運ばれる」は「運ばるる」ですね。

湾という大きな耳に牡蛎の声

 「湾という」は「湾といふ」ですね。

子の婚を墓前に告げる紫羅欄花

 「告げる」は「告ぐる」ですね。

囀りの染み込みそうな空の蒼

 「そうな」は「さうな」ですね。

以上です。また来月も佳句に会えることを楽しみにしています。

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