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選句結果
     
第298回目 (2024年7月) HP俳句会 選句結果
【  松井徒歩 選 】
  特選 梱包を解く二十五歳の冷蔵庫 椋本望生(堺市)
   珈琲ふたつフラツペひとつ避暑名残 田中 のびる()
   竹林を吹きゆく風や夏料理      蒼鳩 薫(尾張旭市)
   満天の星に濡れたる青田かな 石塚彩楓(埼玉県)
   炎天の足場や湯気の立つ薬缶 比良山(大阪)
   日の匂ひ残す子の髪洗ひたり ようこ(神奈川県)
   神輿差す真暗闇の社殿前 櫻井 泰(千葉県)
   炎天に干す父と子のスニーカー 佐藤けい(神奈川県)
   九ちゃんのジェンカのリズム髪洗ふ 佐藤けい(神奈川県)
   夏草の色を映せり野猫の目 野津洋子(愛知県)
【  関根切子 選 】
  特選 炎天に干す父と子のスニーカー 佐藤けい(神奈川県)
   古書店の煙草の匂ひ街薄暑 みぃすてぃ(神奈川県)
   髪あげて祭化粧の少女かな      石塚彩楓(埼玉県)
   満天の星に濡れたる青田かな 石塚彩楓(埼玉県)
   人住まぬ家十薬の花盛り 正憲(浜松市)
   駅弁の輪ゴム跳ねたり缶ビール 正憲(浜松市)
   ほどほどに喋り上手やソーダ水 後藤允孝(三重県)
   梅雨明けを待たず球児の夏終はる 麻里代(和歌山市)
   日の匂ひ残す子の髪洗ひたり ようこ(神奈川県)
   不揃いの青田となりぬ学校田 蝶子(福岡県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 日の匂ひ残す子の髪洗ひたり ようこ(神奈川県)
   揚羽蝶風と来たりて風と行く みぃすてぃ(神奈川県)
   土砂降りに跳びはねてゆく白い靴      雪絵(前橋市)
   一村に水の香の立つ植田かな 原洋一(岡山県)
   竹林を吹きゆく風や夏料理 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   青年に変わる少年夏休み 岩田 勇(愛知県)
   炎天の移動図書館しづまれり 伊藤順女(船場市)
   不揃いの青田となりぬ学校田 蝶子(福岡県)
   板の間に先づは大の字帰省の子 惠啓(三鷹市)
   緑蔭の風は変わらぬ古道かな 美由紀(長野県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 古書店の煙草の匂ひ街薄暑 みぃすてぃ(神奈川県)
   一村に水の香の立つ植田かな 原洋一(岡山県)
   髪あげて祭化粧の少女かな      石塚彩楓(埼玉県)
   駅弁の輪ゴム跳ねたり缶ビール 正憲(浜松市)
   おんでこの島の鬼百合まつさかり 美佐枝(千葉県)
   炎天の移動図書館しづまれり 伊藤順女(船場市)
   裏庭は四葩の花や介護苑 りきお(秋田県)
   不揃いの青田となりぬ学校田 蝶子(福岡県)
   板の間に先づは大の字帰省の子 惠啓(三鷹市)
   夏草の色を映せり野猫の目 野津洋子(愛知県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、ようこさん(神奈川県)でした。「伊吹嶺」7月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2024年7月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありおがとうございました。7月HP句会の講評です。よろしくお願いいた
します。

1	揚羽蝶風と来たりて風と行く
 
<風>のリフレインが楽しそうですね。

国枝隆生氏評===============================

揚羽蝶の勢いを「風」のリフレインに感じました。

======================================

2	古書店の煙草の匂ひ街薄暑

たばこを吸える場所が殆どなくなってしまったご時世。ひょっとして古書店の店主が喫
煙者でしょうか。古い古書店ならありそうかなと思いました。

(国枝評)今どきは古書店でも禁煙だと思いますが、昭和の匂いのある古書店ですね。

3	冷奴何時しか吾も無音の徒

<無音の徒>が分かりませんでした。

4	夏掛けに身じろぐ爺の息遣ひ

 どういう環境の句なのかが分かりませんでした。介護状態の御老人でしょうか?

5	万緑にさても米寿の共白髪

<さても>という言葉が必要でしょうか?

6	更衣眼の合ふ猫の身づくろひ

季語が合っているかどうか。それとも「更衣」だから猫も身づくろいをしているので
しょうか?

7	襟足の小さき黒子や藍浴衣

色っぽい句ですね。

(国枝評)涼しげな浴衣に発見した黒子、上品な女性ですね。

8	土砂降りに跳びはねてゆく白い靴

雨降りに白い靴はやっかいですね。雨と分かっていれば他の靴にしたと思いますのでに
わか雨でしょうか。

国枝隆生氏評===============================

おろしたての白靴に泥が付いている様子に元気さを代表しています。

======================================

9	かたはらに 辞書と歳時記 床涼み

10	雲の峰 ひときは高き 鳥の声

9,10とも出来ている句だと思います。ただ分かち書きにどういう意味があるのか疑問に
思いました。

11	夏椿かくも咲く花落ちる花

リズムが良いですね。
 
12	優しさは紫陽花の葉の青さかな

観念がやや勝っているかもしれませんがそんな感じに思ったのでしょう。

13	短夜やすでに先客露天の湯

先客で切れているように思いますが勢いよく読めばセーフでしょうか。

14	身に馴染む昭和のわたし簡単服

(国枝評)「簡単な体・簡単服の中 櫂未知子」という句がありますが、簡単服は昭和
に似合いますね。ただ少し類想感を感じました。

15	客招く部屋に姫百合活けにけり

報告気味のように思いました。

16	ポロシャツの袖をたくして冷しそば

「ポロシャツ」と「冷しそば」のどちらが季語の扱いなのか迷いました。

17	きびきびと旗振る警備雲の峰

 文字通りきびきびと働いて気分が良いですね。ただ、俳句作品としてはきびきびとい
うオノマトペで満足して良いかどうか・・・。

18	あと継ぎの居ぬ田卯の花腐しかな

<あと継ぎの居ぬ>が説明気味ですが切ないですね。。
  
19	一村に水の香の立つ植田かな

小気味よくできた句ですね。

国枝隆生氏評===============================

「一村」がやや大げさですが、村全体が田植え時期に入っているのが「一村」によく
見えます。

======================================

20	日盛りやひたひた歩く夜の街

「日盛り」と<夜の街>が矛盾すると思います。

21	珈琲ふたつフラツペひとつ避暑名残

お二人でフラッペを別け合っているのでしょうか。季語が良いですね。 

22	竹林を吹きゆく風や夏料理

青々とした竹林の中美味しそうな食事ですね。

国枝隆生氏評===============================

竹林の中で食べる夏料理はいかにもおいしそうです。ただここは「夏料理」が主役で
すので、中七は切れ字の「や」で風の句としないで、「吹き抜くる風」と存在感を弱
くして、「夏料理」を強調したい

======================================

23	渺茫の湖に浮き寝の夏の霧

 <浮き寝>がよく分かりませんでした。

24	鮮やかに咲いても孤独百日紅

観念が勝りすぎているように思いました。

25	雨意の風河内風鈴けたたまし

必ずしも季語の本意に従う必要はないのですが、<けたたまし>では風鈴が可哀そうに
思いました。

26	故郷の 手紙届きて 秋の香

「秋の香」は(あきのこう)でしょうか?もう少し季語の扱いに吟味してほしいと思い
ました。

27	私の手に あなたの手あり 貧と言わぬ

無季ですが、短歌にした方が良いような内容ですね。

28	木下闇閻魔座す奥の院

 中五ですので「閻魔座したる」とすれば中七になります。

(国枝評)五・五・五の句ですが、中七は「閻魔像座す」としたかった入力ミスでしょ
うか。惜しいですね。

29	炎帝や尾を挑ね上ぐる金の鯱

 名古屋城の金の鯱でしょうか。まずまずの描写ですね。

30	髪あげて祭化粧の少女かな

<髪あげて>が大人びていますね。

31	満天の星に濡れたる青田かな

情感たっぷりの詩的表現ですが、中七に諸手を上げて〇を付ける自信はありませんでし
た。

32	炎天の足場や湯気の立つ薬缶

工事現場の足場でしょうか。氷を入れて冷やしてあった薬缶が暑さで湯気を上げている
光景を想像しました。 

33	白百合の花弁を花粉紅く染む

「白百合」を丹念に描写していますね。

34	青年に変わる少年夏休み

 人生の微妙な瞬間ですね。季語が効いていると思います。

国枝隆生氏評===============================

夏休みの間、しばらく見ないうちに子供は随分と成長するものです。少年から青年へ
の変身に作者は驚いています。

======================================

35	熱帯夜ものかは金のあればこそ

<ものかは>は辞書によれば、《活用語の連体形、一部の助詞に付く》とありますが、
この句の場合なんらかの助詞が省略されているのでしょうか?

(国枝評)中七以降がよく分かりませんでした。

36	瀬のしぶきすんでにかはす夏燕

燕の行動の瞬間を捉えた句ですね。<すんでに>がやや説明でしょうか。

37	目覚めれば百里四方の梅雨の底

 梅雨の表現としては大袈裟かなあと思いました。

38	盆帰省コンビナートの夜の景

<夜の景>がどんな景なのかを描写してみてはどうでしょうか。

39	駒草や流れる霧の音もなく

「駒草」に霧は良く似合いますね。霧に音の無いのは当たり前ですが、風の音もなく全
くの無音状態と解釈しました。

40	青田道風切り走る一畑よ

 作者が走ったのだと思いますが、何のために走ったのかよく分らないので唐突感のあ
る句のように感じました。

(国枝評)「青田」と「畑」をダブらせたのは、何か意図があったのでしょうか。

41	炎天に火輪貫くガリガリ君

 <火輪貫く>が分かりませんでした。そういう食べ方があるのですか?

42	縞蜥蜴乾きし蚯蚓くはへ消ゆ

 臨場感のある句ですね。

43	丸き背の老女の真珠サングラス

真珠とサングラスで目移りしてしまうので、物ではない季語の方が良いように思いまし
た。それとも「真珠サングラス」という一つの物ですか?

44	咲くよりも散るを愛でらる夏つばき

咲いているところを愛でてほしいとも思いますが。<散る>も俳句ですね 。

(国枝評)11番共々椿は咲くよりも、落ちたり、散ったりするものだと、夏椿の特性を
詠んで,面白い視点ですが、「山茶花は咲く花よりも散ってゐる 細見綾子」の先行句
があるので、気になりました。

45	梅雨晴間臭ふ犬小屋丸洗ひ

<臭ふ犬小屋>が身も蓋もないので他の表現を考えてみてはどうでしょうか。

46	絢爛と鉾練る都大路かな

出来ている句ですが、<絢爛と>で満足せずもう少し突っ込んだ写生が欲しいと思いま
した。

47	白日傘ゆく角館武家屋敷

「白日傘」と固有名詞だけの句ですのでこの句も今少し写生が欲しいです。

48	人住まぬ家十薬の花盛り

空き家に最も似合う花が十薬だと思いますが、その分やや即きすぎでしょうか。でも風
景は良く浮かびます。

49	駅弁の輪ゴム跳ねたり缶ビール

 飛んで行った輪ゴムにも乾杯ですね。

50	尾道や見晴らす寺の棚風鈴

尾道への挨拶ですね。

51	この部屋がほんに涼しと通さるる

ちょっと軽すぎる句では・・・。

52	一息に乾す一杓の石清水

美味しそうな清水ですね。<一息に乾す>が良いと思いました。

53	ほどほどに喋り上手やソーダ水

ご自分の事でしょうか?そうではないと俳味が消えてしまうと思いました。

54	来年は他人にまかす青田かな

老齢化で外注でしょうか。やや説明的のような気がしました。でも自分の生の感情を晒
していないのが良いですね。

55	寂れたる湯宿行きかふ夏燕

人気のない温泉街を健気に飛び交う燕が目に浮かびました。

56	梅雨明けを待たず球児の夏終はる

地区予選での敗北ですね。

(国枝評)季重なりですが、高校球児にとって,「梅雨明け」と「夏終はる」に季節感
の動きがぴったりです。

57	田水沸くカップラーメン食へるほど

(国枝評)一寸大げさの感じでした。

58	おんでこの島の鬼百合まつさかり

<まつさかり>では表現が浅いと思いました。

59	遠雷のいつしか消えて河鹿笛

因果関係のの句のように感じました。

(国枝評)この句の季重なりは「遠雷」「河鹿笛」とも強い季語でしたので、ダブり感
を感じました。

60	本堂で園児ひるねや木の葉擦れ

 「木の葉」は俳句では散り落ちた枯葉という意味で、冬の季語ですので「昼寝」の句
には合わないと思います。

61	子ら去りしプール夕焼けと語り初む

 夕焼けと語り合うのですか? 詩的な感じもしないではないですがやや観念がが勝っ
ているように思います。

(国枝評)「語り初む」の主語は「プール」の擬人化でしょうか

62	下駄の緒の真白きままや男梅雨

(国枝評)下ろし立ての下駄の鼻緒の白さと男梅雨のどしゃ降りのアンバランスに不思
議な存在感があります。

63	白南風や少女の被るヘルメット

訓練なのか、働いているのか、状況がよく分かりませんでした。

64	弱音吐くところもなしや梅雨の空

季語も相まって暗い心境の句ですね。弱音を吐く場所は少なくとも俳句にあるのですか
ら元気を出してください。

65	炎天の移動図書館しづまれり

あまりの暑さにお客さんも声が出ないのでしょうね。

国枝隆生氏評===============================

移動図書館はなかなか見られませんが、炎天に駐車していることにより、図書館の静
けさを発見したのがよかったと思います。

======================================

66	顔見せぬつばの深さや夏帽子 

日焼け防止のために皆さん目深に被っていますね。

67	裏庭は四葩の花や介護苑

丁寧な句ですね。

68	どうしても葉隠れ生づ胡瓜棚

<生づ>は<生ず>だと思いますが、葉に隠れてしまうということでしょうか? <ど
うしても>という作者の感情表現は俳句には合わないと思います。胡瓜棚を客観的に描
写してみてはどうでしょうか。

69	日の匂ひ残す子の髪洗ひたり

元気な子供さんが目に浮かびました。

国枝隆生氏評===============================

一日中遊んできた子の髪を洗うときに感じた「日の匂ひ」に親子の愛情を感じました。
健康的な日の匂いです。

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70	洗ひ立てモデル気取りのサンドレス

<洗ひ立て>と「サンドレス」が離れているのが気になりました。

71	水着脱ぐ太平洋をくねらせて

もう海から上がっているので<太平洋をくねらせて>には無理があると思います。

(国枝評) 「くねらせて」とはどんな状況で水着を脱いでいるのでしょうか?

72	梱包を解く二十五歳の冷蔵庫

今月の作品のなかでで一番独自性があると思い特選でいただきました。二十五歳にして
一人暮らしを始めたのですね。

73	神輿差す真暗闇の社殿前

ドラマの一場面のようですね。場面として<真暗闇>が良いと思いました。

74	湧きあがる螢の中を蛍舟

とてもきれいな光景ですが、蛍舟の説明をしすぎているように思いました。

75	ビル陰に半円のぞく遠花火

面白い発見ですね

76	プチプチと食めば故郷青山椒

故郷を思い出しているのでしょうか?<プチプチ>のオノマトペから故郷への連想には
共感できませんでした。

77	日焼子の鏡の前の力瘤

 男の子で鏡の前で力瘤とはナルシストのようで俳味を感じました。

78	不揃いの青田となりぬ学校田

学校の田ですので手植えなのですね。。

国枝隆生氏評===============================

学校ビオトープはよく見られますが、不揃いな青田を発見したのが、子供らしさであ
りながら、一生懸命なのがよく見えます。

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79	幼児のたまやの声や祭りの夜

松尾芭蕉は「俳諧は三尺の童にさせよ」と言ったそうですが、この子も花火の俳句を
作ったならばどんなでしょうね。

80	欠かさずに交す挨拶蟻の列

蟻はすれ違う時挨拶のような動作をしますね
。
81	板の間に先づは大の字帰省の子

昔ながらの田舎の家ですね。雰囲気がよく出ていると思います。

国枝隆生氏評===============================

久しぶりに帰ってきた帰省の子、畳より板の間で昼寝をしているところにかえって涼
しさを感じているのでしょうか。無防備な帰省子に元気さが見えます。

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82	炎天に干す父と子のスニーカー

大小のお揃いのスニーカーが目に浮かびます。

(国枝評)親子のスニーカーを干している状況から、ともに楽しんでいる夏休みが見え
てきました。

83	九ちゃんのジェンカのリズム髪洗ふ

坂本九の歌ですね。明るい句で季語も按配が良いと思いました。

84	今年早や苦瓜の蔓二階まで
 
<今年早や>は説明だと思います。

85	宣誓の球児の声や日の盛り

どんな声かまで描写しないと句としては弱いと思います。

86	お薄点て夫と「水無月」夏祓(水無月:和菓子)

材料が多いと思います。夫か和菓子どちらかを省略してはどうでしょうか。

87	夏草の色を映せり野猫の目

野良猫を優しい視点で観察しましたね。

88	久闊の友と語ひ明易し

<語ひ>の動詞で報告になってしまったと思います。

89	梅雨晴間敷布洗濯布団干

全部漢字で工夫をしたのですが、報告で終っています。

90	紫陽花や古刹を抜ける風清し

過不足なくできていると思いました。

91	緑蔭の風は変わらぬ古道かな

いつ来ても良い風が吹いているお気に入りの道なのですね。

国枝隆生氏評===============================

中山道あたりでしょうか。昔のままであることが「緑蔭の風」で実感しています。

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第297回目 (2024年6月) HP俳句会 選句結果
【  武藤光リ 選 】
  特選 繋がれて昼の鵜舟の静けさよ よりこ(愛知県)
   雉鳩の物憂き声や梅雨に入る 雪絵(前橋市)
   噴水に遊ぶ光の子となりて      田中由美(愛知県)
   己が描く輪より出られぬ水馬 康(東京)
   サングラスかけて五歳のVサイン 麻里代(和歌山市)
   握り飯分けて二人の田植かな ようこ(神奈川県)
   雨兆す芒種の土の匂ひかな 後藤允孝(三重県)
   ひと時も休むことなし夏つばめ 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   梅雨寒や法事の席の写真立て かよ子(和歌山市)
   ブラウスに雨のはりつく芙美子の忌 伊藤順子(船橋市)
【  酒井とし子 選 】
  特選 父の日や巻き戻したき古時計 水鏡(岐阜県)
   孑孑の浮沈や風の誘ひとも 大原女(京都)
   噴水に遊ぶ光の子となりて      田中由美(愛知県)
   曝涼や机に広ぐ古写真 梦二(神奈川県)
   己が描く輪より出られぬ水馬 康(東京)
   錆匂ふ蔵の錠前青しぐれ 美佐枝(千葉県)
   水音を山より曳けり花菖蒲 正憲(浜松市)
   玻璃越しのビルの夜景や梅雨に入る ようこ(神奈川県)
   亜麻色の髪に真紅の仏桑花 町子(北名古屋市)
   早苗田に立つさざ波や風渡る かよ子(和歌山市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 大鯉の背の盛り上がる立夏かな 正憲(浜松市)
   麦秋の空一文字飛機光る 井上悦男(倉敷市)
   夏の夕風呂の中より浪花節      水鏡(岐阜県)
   水鏡崩し田植機踏み込みぬ 雪絵(前橋市)
   腕からみ眠る兄弟夏の風邪 田中由美(愛知県)
   夜蛙や里の十戸の深眠り 貝田ひでを(熊本県)
   碁敵の角刈り凛と更衣 鷲津誠次(岐阜県)
   錆匂ふ蔵の錠前青しぐれ 美佐枝(千葉県)
   スキップで渚へ向かふ夏帽子 麻里代(和歌山市)
   握り飯分けて二人の田植かな ようこ(神奈川県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 自転車の子ら走り抜け夏来たる 直樹(埼玉県)
   前山の影深くしてホトトギス 典子(赤磐市)
   噴水に遊ぶ光の子となりて      田中由美(愛知県)
   バス降りて生家への路草いきれ 貝田ひでを(熊本県)
   夜蛙や里の十戸の深眠り 貝田ひでを(熊本県)
   己が描く輪より出られぬ水馬 康(東京)
   錆匂ふ蔵の錠前青しぐれ 美佐枝(千葉県)
   大鯉の背の盛り上がる立夏かな 正憲(浜松市)
   握り飯分けて二人の田植かな ようこ(神奈川県)
   薫風やパパンと打ちてシーツ干す 町子(北名古屋市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、田中由美さん(愛知県)、康さん(東京)、ようこさん(神奈川県)、美佐枝さん(千葉県)、正憲さん(浜松市)でした。最高得点者が3名以上となりましたので、今月の入選賞は該当なしとなります。

【講評】


       2024年6月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	麦秋の空一文字飛機光る

 黄金色の麦畑の上を横切って行く飛行機が光を弾いた一瞬を捉えましたね。印象鮮や
かです。飛行機を略した飛機という言葉は、俳句での使用例はありますが、個人的には
無理があるように感じます。飛行機を略した言葉として辞書に載っているのは「機」で
す。「飛機光る」と「機の光る」あるいは「翼光る」どちらが良いかは、意見の分かれ
るところだと思いますが…。

 奥山ひろ子氏評===============================

 高いところからの眺望でしょうか。地上は麦の実りの季節を迎え、空には飛行機雲。
広々とした景が気持ちがいいと思いました。

 ======================================

2	万緑や空をゆくもの地を這ふものも

 空をゆくもの、地を這ふものが何を指すのか? 上の句から察するに、飛行機と自動
車・電車でしょうか? それとも、鳥と動物(人間含む)でしょうか? 下五を字余りに
した意図もよくわかりませんでした。

3	父の日や巻き戻したき古時計

 時計という物を借りて、お父さんと一緒に過ごした彼の日に帰りたいという気持ちが
表現されています。古時計は、お父さんの遺愛のものと察せられます。

4	夏の夕風呂の中より浪花節

 風呂がより心地よいのは、夏よりもむしろもっと寒い季節では?・・ということで、
季語が動くように思いました。また、風呂で浪花節というのは、かなり古めかしいステ
レオタイプなイメージで、現在実際にそんなことをする人がいるのか疑問に思ってしま
いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 窓を開けていい気分でお風呂に入っているのでしょう。「浪花節」が面白いと感じま
した。

 ======================================

5	倫敦はけふも雨降り藤の花

 雨に濡れた藤の花と洋館の取り合わせに、異国のしっとりとした情緒が感じられます。
雨は「降る」と言わなくても良いので、「けふも雨なり」と切字を入れるのも良いので
はないかと思いました。

6	泣き濡れる日々は思ひ出濃紫陽花

 季語の選び方が良いと思いましたが、「泣き濡れる日々」が具体的にどういう状況な
のかを読者に想像してもらうのは無理があると感じました。

7	水鏡崩し田植機踏み込みぬ

 水鏡が崩れた瞬間に目を止めたのは良いと思いますが、切れが無いので報告的な印象
です。「田植機の入りて崩るる水鏡」のように、下五を体言止めにして水鏡の様子を強
調したいところです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 柔らかい「水鏡」に、機械である田植機が入っていく瞬間をとらえた作者。豊作を祈
ります。

 ======================================

8	雉鳩の物憂き声や梅雨に入る

 「物憂き」と「梅雨」が付き過ぎに感じます。「物憂き声」と言わなくても、雉鳩の
声、あるいは雉鳩だけでその声は読者に伝わります。

9	野良猫の定位置は車庫梅雨最中

 野良猫には格好の居場所なのでしょうね。「定位置は車庫」が説明的ですので、猫が
そこにいることだけを言えば十分と思います。我が車庫に居つく野良猫梅雨深し 等。

10	陋宅も葭簀の内は別世界

 「別世界」が具体的にどういうことを指すのかが、よくわかりませんでした。日陰で
涼しいと言いたいのでしょうか? 葭簀はもともと日よけのために使う物ですので、そ
れをいうだけでは句材として無理があると思います。

11	皮落ちて節の白さや今年竹

 今年竹をよく観察されています。・・・が、今年竹の特徴をそのまま言っただけの、
所謂「季語の説明」になってしまいました。

12	前山の影深くしてホトトギス

 日に日に緑の濃くなる山を「影深くして」と独自の感覚で捉えられています。ホトト
ギスの声に夏の到来を感じますね。

13	孑孑の浮沈や風の誘ひとも

 ぼうふらは風に誘われて浮き沈みしているということでしょうか? 水中のぼうふら
に風を感じることができるのか、不思議に思いました。また、「誘ひとも」の「とも」
の意味が掴めませんでした。

14	孑孑を見ていて親に刺されけり

 俳味のある句と思いましたが、ぼうふらのいるところに蚊がいるのは当たり前ですの
で、新鮮味や意外性は感じませんでした。

15	噴水に遊ぶ光の子となりて

 「光の子となりて」の捉え方・描写が良いですね。きらきら光る噴水と、そこではしゃ
ぐ子供の破顔が見えて来ます。「光の子となりて噴水に遊ぶ」では散文的ですが、倒置
したことで切れが生れて、韻文の風格が出ました。

16	腕からみ眠る兄弟夏の風邪

 年の近い幼い兄弟なのでしょう。しょっちゅう喧嘩もするけれど仲良しで、風邪をひ
くのも一緒、寝る布団も一緒なのですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 いとおしい光景ですね。「腕からみ」から、仲の良さがうかがえます。夏風邪はちょっ
と憂鬱ですが、成長の一過程ですね。

 ======================================

17	もう慣れた袖口かがる円座かな

 円座に座って誰かの服の袖口の綻びを縢っているのだと思いますが、「慣れた袖口」
がよくわかりませんでした。同じ服ばかり着て、しょっちゅう袖口が綻びているのでしょ
うか?

18	カメラ接写田道に稀のアロハかな

 普通「接写」と言えば、至近距離でカメラで何かを写すことですので、「カメラ」と
は言わなくてもわかります。この句は、田んぼ道で見かけるのは珍しいアロハを着た人
を近くから写したのか、アロハを来た人が何かを接写していたのか、よくわかりません
でした。

19	バス降りて生家への路草いきれ

 久しぶりの帰郷でしょうか? 荷物を手にバスを降りた瞬間のむっとした草いきれも、
懐かしく感じられるでしょうね。

20	夜蛙や里の十戸の深眠り

 初夏の山里の真夜中の景ですね。作者は眠れずに蛙の声を聞いているのでしょうか? 
「深眠り」で夜であることはわかりますので、上五は「遠蛙」などの選択肢もあると思
います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 民話の世界のような景ですね。「深眠り」から、文明的な物を排除した闇夜を想像し
ました。

 ======================================

21	懐かしき阿蘇の入日の青田風

 「懐かしき」というような主観的な言葉は、俳句ではあまり使わない方が良いです。
「懐かしき」と言わずに、読者にそう感じさせるような原風景を詠めると良いですね。

22	万緑の阿蘇の裾野に我育ち

 「我育ち」が説明的ですが、上五を「万緑や」と切ると、初夏の緑に感動して故郷を
回顧している作者の姿が見えてきます。

23	碁敵の角刈り凛と更衣


 「凛と」は主観的な言葉ですが、この場合は刈りたての角の立った頭髪が見えてきま
す。季語の斡旋も良いですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 着るものだけではなく、髪型も「更衣」というところでしょうか。「碁敵」の言葉か
ら、石を置く凛とした音も聞こえてきました。

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24	白雲を代田に映す棚田かな

 田植前の棚田の様子が浮かびます。代田と棚田は同じ田んぼのことを言っていますの
で、「白雲を映す棚田やXXXXX」のように、別の季語を合わせても良いかもしれません
ね。

25	無愛想な蝦蟇の木戸番勝手口

 勝手口に蝦蟇がいたことを詠んだ句ですが、不愛想という擬人化、木戸番という比喩
が効いているかどうかですね。

26	繋がれて昼の鵜舟の静けさよ

 鵜飼は夜の光景を詠まれることが多いですが、昼の深閑とした鵜舟を詠まれたのはユ
ニークですね。静けさよと言わずに、静かな様子が伝わると更に良いと思いました。

 武藤光リ氏評================================

 夜の豪華絢爛を思うと、翌日の長良川は真に静だ。その静けさの中に昨晩の華やかな
鵜飼いを深く思い出している作者。
 繋がれて、は舫はれて、或いは舫はるる、としては。

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27	一族を爺が引き連れ夏祓

 状況はよくわかりますが、「爺が引き連れ」には新鮮味・意外性を感じませんでした。
むしろ夏祓などには普段関心が無いような人物が引き連れた方が、意外性が出ると思い
ます。

28	待合室目高誘う竜宮城

 病院か何かの待合室に飼われているメダカでしょう。竜宮城は、水槽に入れられた
オーナメントでしょうか? それとも作者の空想か? その辺が判りやすいと良いと思
いました。

29	空き瓶に舶来塩詰め虹の帯

 舶来塩は岩塩でしょうか? それをなぜ空き瓶に詰めているのか、状況がよくわかり
ませんでした。虹の帯は、岩塩がそう見えたということではなく(それだと季語になり
ません)、実際に空に架かった虹のことと思いますが、その場合は「帯」と言う必要は
ありませんし、作者の視点はどこを向いているのか(塩の瓶? 窓外の虹?)よくわか
りませんでした。

30	バスタオル干してまぶしき五月富士

 富士の見えるところにお住まいなのですね。事実を詠まれたのかと思いますが、バス
タオルよりももっとこの季節の明るさを連想させるものは無かったでしょうか? その
辺をうまく詠むと、「まぶしき」と言わなくてもまぶしい富士山の様子が見えてきます。

31	曝涼や机に広ぐ古写真

 曝涼は虫干しのこと。机に古い写真を広げて風を当てるのは、虫干しそのものですの
で、これでは「季語の説明」になってしまいます。中七を工夫すれば、良い句になると
思いますので、推敲してみてください。

32	自転車の子ら走り抜け夏来たる

 日常の一瞬に感じた季節を捉えましたね。子供らの声や銀輪の輝きが見えてきます。

33	遠き日に初恋ありき夏蜜柑

 初恋はたいてい遠い日のことですね。初恋と柑橘類もちょっと付き過ぎに感じました。

34	直ぐ前に山門のある氷水

 寺の山門の前の茶店ですね。夏は氷水、冬は甘酒などを売るのでしょう。(甘酒は夏
の季語ですが、実際は冬に飲まれることが多いと思います。)

35	己が描く輪より出られぬ水馬

 面白い発見ですね! 確かに、水馬の移動よりも水輪の広がる方が早いでしょうから
水馬はいつも水輪の中にいることになりますね。

36	月涼し欄間を飾る七福神

 七福神が透かし彫りなっている欄間越しに、夏の月が見えているのですね。普段あま
り気にすることのない欄間飾りも新鮮に思えますね。

37	錆匂ふ蔵の錠前青しぐれ

 青時雨は、雨が去った後に青葉に溜まった雨が時雨のように落ちてくることを言いま
す。「錆匂ふ」は、実際ににおいが感じられたというよりも、錆びついた錠が濡れ光っ
ている様子の比喩とも感じられます。古びた蔵と雨上がりの明るい青葉の対比が鮮やか
ですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 俳諧味のあるモチーフで、青しぐれの湿っぽさをうまく表現なさっていると思います。

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38	生き生きと老いゆく二人苔の花

 四月に「生き生きと老いゆく夫婦花は葉に」という投句がありましたが、そちらの方
が共に季節の移ろいを過ごされている感じと、未来の明るさのようなものが感じられて
良いと思いました。

39	心身の軽き青葉の奈良路かな

 新緑の奈良路を心も足取りも軽く辿っている様子が浮かびますが、「心身の軽き」と
言わずに物を詠んでそれが感じられると更に良いですね。

40	女生徒の立ち漕きの風植田澄む

 明るい田中の道を元気よくペダルを踏んでゆく女子学生の姿が鮮やかです。ただ、
ちょっと言葉(情報)を詰め込み過ぎのような気もしました。

41	苔寺の庭をしとどに青葉梅雨

 青葉梅雨という季語はありそうですが、私の調べた範囲では見つかりませんでした。青葉雨、青葉時雨、青梅雨はありますが・・・。

42	四葩咲く母に見せたき一周忌

 昨年の、紫陽花が咲くころにお母さまが亡くなられたのですね。俳句では、花類は咲
いているものと解釈しますので、花が「咲く」とは言わなくても良いです。この句の場
合は、例えば「紫陽花や」とすれば、咲いた紫陽花に心を寄せていることが読者に伝わ
ります。また、「母に見せたき」と心情をそのまま言わずに、「物に託して」それを伝
えるようにすると良いですね。

43	水音を山より曳けり花菖蒲

 工夫が窺える句と思いますが、音を山から曳くという意味がわかりませんでした。
「曳く」は、引っぱって移動させる・引きずるという意味で使われます。

44	大鯉の背の盛り上がる立夏かな

 生命力が静かに湧き上がる感じがします。「盛り上がる」で、雲の峰の様子なども浮
かんできます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「背の盛り上がる」と、具体的に鯉の一部を写生したことにより、生命力や力強さが
浮き彫りになっていると感じました。「立夏」の季語にふさわしい、大胆な構図も良い
と思いました。

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45	夕焼空脊獣(せじゅう)連れ立つ屋根の反り

 脊獣は、中国建築で屋根の装飾に使われる陶製の動物だそうですね。「連れ立つ」は
一緒にどこかに行くという意味ですが、陶器の動物がどこかに行くことは無いと思いま
す。

46	鳬(けり)啼くや今日は私の誕生日

 まずは、おめでとうございます。句の方は、季語が動く・・というより、この中七下
五に合う季語は難しいと思いました。「四月馬鹿」等でしたら、俳味のある句になると
は思いますが・・。

47	海堡の砲台跡を打つ南風

 「打つ」に、海を吹く南風の荒さが出ていますね。

48	峰雲や係船柱の赤眩し

 雲の白、海の青、係船柱の赤の取り合わせが鮮やかです。

49	サングラスかけて五歳のVサイン

 顔からずり落ちそうな大きなサングラス。本人は大人になったつもりで得意気にVサ
インをしているのですね。

50	スキップで渚へ向かふ夏帽子

 砂浜でスキップをするのは、かなりやり難いのではないかな・・・と、大きなお世話
なことを思ってしまいました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 元気な子供に夏が来た!という明るい作品。読んで元気を頂きました。

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51	短夜や仕掛くる鼠捕り滾る

 これから仕掛ける鼠捕りが「滾る」とは、どういう意味でしょうか? スピード違反
の取り締まりのことではないと思いますが…。

52	路地裏のチアガールめく七変化

 紫陽花が、路地裏のチアガールのようなのか? チアガールのような紫陽花が路地裏
に咲いているのか??

53	丁寧な手書きの文字よ緑さす

 活字を丁寧な字とは通常言いませんので、丁寧な字と言えば手書きであることはわか
ると思います。上五中七からは、作者がどこで何に書かれた字を見ているのか全くわか
りませんので、もう少し状況が見えるようになると良いと思いました。

54	南風吹く棚田に空を写す水

 棚田に水が張られていて、その水に空が"映"っているというだけでは、句材として弱
いと思います。もう一つ突っ込んだ観察・写生が欲しいと思いました。

55	火の島へ航跡ますぐ大南風

 桜島でしょうか? 船から見ると、火の島の方向と航跡の方向は逆ですので、作者は
船に乗っているのではなく、夏の風の吹く中で真直ぐに島に向かって行く船を岸から見
送っているのだと思います。

56	老いてなほ金曜日好き生ビール

 私も長年会社勤めをして来ましたので、お気持ちわかります。休みの前に飲みに行く
という習慣が抜けないのでしょうね。

57	燕の巣代重ねけり我が家かな

 「けり」と「かな」、切字が二つ使われています。通常、一句に切字は一つにしない
と、句の焦点がぼやけます。この句の場合は、代々の燕の巣に詠嘆しているのか、我が
家に詠嘆しているのかわかりません。

58	紫陽花の今日は何色見つめおり

 紫陽花は七変化とも言われるように、咲き始めから徐々に色味が変化して行きます
ね。中には、咲いて直ぐは純白で、徐々に赤くなって行く品種もあります。(今ネット
で調べたら、「白寿紅(はくじゅこう)」という品種らしいです。)ただ、「今日は何
色見つめおり」は説明的なので、今日の色をよく観察し、写生・表現されては如何でしょ
うか?

59	握り飯分けて二人の田植かな

 昔は一族総出で田植えをしたものですが、今は機械を使っての一人か二人の作業が普
通ですね。多分ご夫婦でしょう。畔に腰を下ろして、持ってきたお握りを分け合っての
お昼ですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 ご夫婦のお昼ご飯でしょうか。きょうは忙しい田植ですが、ちょっとした安らぎが感
じられるひと時。食事は簡単に済ませて、また作業に戻られるのでしょう。

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60	玻璃越しのビルの夜景や梅雨に入る

 雨にけぶるビル街の灯に、梅雨の到来を実感したのでしょう。通勤もたいへんになり
ますね。

61	のそり来てひらりと交む蟇

 蟇の交尾は、オスがメスの背中に抱き着く形で行われます。のそり、ひらりのリズム
と対比が面白いですね。

62	雨兆す芒種の土の匂ひかな

 ふと感じた土の匂いに、雨の予兆を感じたのですね。感覚の鋭い句です。

63	大洋を一夜で渡り白鳥座

 スケールの大きな句ですね。すべての星座が、一日で天を一周するわけですが、白鳥
は渡り鳥であるだけに、「大洋を一夜で渡り」に説得力を感じました。

64	ひと時も休むことなし夏つばめ

 何羽もの夏燕が盛んに飛び交っているさまを「ひと時も休むことなし」と捉えたもの
と思います。実際は、個々の燕は永久に飛んでいるわけではありませんので、表層的な
捉え方と感じてしまいました。

65	蟻の巣に鍬のふれたる一大事

 「朝顔につるべ取られてもらひ水 千代女」の句を思い出しました。正岡子規はこの
句を、「もらひ水という趣向が、写生から離れて、俗極まりて蛇足」と評しています。

66	泪した覚えの確と昼寝覚

 悲しい夢でも見たのでしょうか? 意味がよくわかりませんでした。

67	亜麻色の髪に真紅の仏桑花

 フラを踊る女性でしょうか? あるいはハワイでの海外詠?

68	薫風やパパンと打ちてシーツ干す

 パパンが効いていますね。気持ちのよい風で、シーツもよく乾くでしょう。

69	早苗田に立つさざ波や風渡る

 さざ波は風によっておこるものですから、「風渡る」は言わなくてもわかります。

70	梅雨寒や法事の席の写真立て

 写真(遺影)ではなく、写真立てとしたのは何か狙いがあるのでしょうか?

71	二度三度めまいに惑う夏の朝

 季語が動くように思いますが、ともあれ、お大事になさってください。

72	鳥どりの闌ける万緑隙間空

 「鳥が闌ける」「隙間空」等、言葉に無理があるように思いました。

73	駆け上ぐる仮階段や小判草

 小判草が生えているようなところですから、あまり良く整地されていない屋外という
ことがわかります。何のための仮階段で、なぜ駆け上がるのかは、見えて来ませんでし
た。

74	花菖蒲水面に揺るる年尾句碑

 いわゆるキセル俳句で、「水面に揺るる」のが花菖蒲のようにも年尾句碑のようにも
読めます。

75	植田より眩しき朝日台所

 東側の田んぼから朝日が上がっていることはわかりますが、それを見ているのが台所
であることは、特に言わなくても良いような気がします。「眩しき」も朝日のイメージ
に含まれますので省略可で、推敲の余地があるように思いました。

76	ブラウスに雨のはりつく芙美子の忌

 「ブラウスに雨のはりつく」は工夫された表現かと思いますが、意味がよくわかりま
せんでした。「雨で濡れる」「雨が浸み込む」ではダメでしょうか? 濡れたブラウス
が肌(体)にはりつくのでしたらわかりますが…。

77	この世との涼しき別れあらまほし

 面白い「涼し」の使い方と思いましたが、俳句に主観や主義主張を持ち込むと、余韻
の無い底の浅い句になってしまいます。

78	入梅や繙き直す徒然草

 晴耕雨読のお暮しが察せられます。入梅→雨が続く→本を読んで過ごすという、理屈
がやや感じられました。

79	神将の喝を恐れず蠅止まる

 「神将の喝」の意味が分かりませんでした、作者あるいは家族の方が蠅を叩くことの
比喩でしょうか? 喝は大声を出すことで、叩くという意味はありません。

80	漸うに暮れて打寄す波涼し

 日暮れの渚を逍遥されているのでしょう。「漸うに」で、日中の暑さに辟易している
様子が伝わります。

81	よもやまの噂いつしか黴の花

 主観的な句ですが、不思議な比喩で何となく言いたいことはわかるような気がします。

82	 田植終へ里は一変水の国

 説明的かつ散文的に感じました。

83	 踏まぬやう歩く参道落とし文

 参道を踏まないように歩くという意味に取れます。

84	六月や山菜採りの話など

 六月は山菜採りにはちょっと遅いと思いますので、季語が動くように思います。二月
や三月のまだ寒い時期の方が、これから生えてくる山菜を採りに行くのを楽しみにして
いる気持ちがうかがえるのではないでしょうか。

85	薫風や貴女に重たき耳飾り

 「貴女」はあなたと読むと字余りになりますので、きじょと読み、身分の高い人のこ
とを言っているのだと思います。皇族の方が大きく派手なイヤリングを着けているのを
見たことがありませんので、海外の王室などの方でしょうか? 季語と相まって、薔薇
園のようなところを散策されている婦人の姿が浮かびました。

86	花嫁のティアラに似たり額の花

 同意しますが、比喩としての面白さ・意外さは無く、季語の説明的と感じました。

87	住職はもうすぐ五十枇杷熟るる

 「住職はもうすぐ五十」は事実なのでしょうが、それで読者に何を伝えたいのかがわ
かりませんでした。

88	清し朝ここは我のと杜鵑

 朝というだけで、清々しい気分は読者につたわります。「ここは我のと」は作者の主
観ですので、なぜそう感じたのかが読者に伝わるように、物に託して詠みたいところで
す。

89	郭公の声に誘われ行く山路

 郭公と言えば読者はその声を連想します。山路と言えば作者がそこを歩いていること
が伝わります。「誘われ」は主観ですので、もっと「物」を詠みましょう。例:郭公や
山路に開く握り飯

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