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選句結果
     
第233回目 (2018年11月) HP俳句会 選句結果
【  長崎眞由美 選 】
  特選 コスモスを牛乳瓶に駐在所 加藤剛司(名古屋市)
   雪虫や磔像にある涙あと 伊奈川富真乃(新潟県)
   海人長(あまおさ)の墳墓の供花や石蕗の花      鶴翔(福岡市)
   古墳守る埴輪の馬に落葉舞ふ 雪絵(前橋市)
   秋うらら神社に外貨両替機 眞人(さいたま市)
   甘露煮の錆鮎の腹ふくふくと 西尾桃太郎(小牧市)
   眼前を鼬突っ切る素早さよ あけみ(北名古屋市)
   枝たはむ石榴一顆の重さかな ユミ子(尾張旭市)
   廃校に残る記念樹返り花 惠啓(三鷹市)
   紅葉且つ散る寺町に破れ塀 ときこ(名古屋市)
【  橋幸子 選 】
  特選 阿波藍をのせゆく船や時雨虹 伊奈川富真乃(新潟県)
   コスモスを牛乳瓶に駐在所 加藤剛司(名古屋市)
   オリオンを弧に囲ひたるループ橋      ぐ(神奈川県)
   秋うらら神社に外貨両替機 眞人(さいたま市)
   菜園をほめて大根もらひけり 眞人(さいたま市)
   閉ざされし雨戸に触るる実南天 小夜子(神奈川県)
   小春日や五分遅れの地域バス 小豆(和歌山市)
   御顔の欠けたる地蔵蕎麦の花 吉田正克(尾張旭市)
   名も聞かず一期一会の芋煮会 惠啓(三鷹市)
   袋菓子頬ばってゐる着袴の子 ときこ(名古屋市)
【  坪野洋子 選 】
  特選 千年の塔へ沈む日秋刀魚焼く とかき星(大阪)
   紫苑活け部屋に野の風生まれけり 田中洋子(千葉県)
   コスモスを牛乳瓶に駐在所      加藤剛司(名古屋市)
   雪虫や磔像にある涙あと 伊奈川富真乃(新潟県)
   通し土間抜けて裏庭石蕗明り 暁孝(三重県)
   オリオンを弧に囲ひたるループ橋 ぐ(神奈川県)
   秋うらら神社に外貨両替機 眞人(さいたま市)
   菜園をほめて大根もらひけり 眞人(さいたま市)
   立冬のひかりの中へ跳ぶ義足 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   小春日や五分遅れの地域バス 小豆(和歌山市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 紫苑活け部屋に野の風生まれけり 田中洋子(千葉県)
   コスモスを牛乳瓶に駐在所 加藤剛司(名古屋市)
   虫の声地球の叫びかも知れぬ      原馬正文(滋賀県)
   雪虫や磔像にある涙あと 伊奈川富真乃(新潟県)
   柿たわわ空の蒼さを引き寄せて 雪絵(前橋市)
   菜園をほめて大根もらひけり 眞人(さいたま市)
   さざなみは潟の微笑み番い鴨 みのる(大阪)
   頬映ゆる木彫りの聖母照り紅葉 和江(名古屋市)
   絵手紙に虫くひ穴の柿落葉 町子(北名古屋市)
   小春日や湾に尾を引く鳶の笛 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、加藤剛司さん(名古屋市)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


       2018年11月伊吹嶺HP句会講評        国枝 隆生

コスモスを牛乳瓶に駐在所

 最近は多くの方からの投句があり、今月も多くの佳句に出会うことが出来ました。

 掲句が今月の最高得点句でした。まずこの句から見ていきたいと思います。

 さりげない情景から温かみのある句です。こういう動詞のない句も味わいがあります。
そこには情景の基となる「コスモス」「牛乳瓶」「駐在所」と過不足なく物が提示され
ています。特選に採られた長崎眞由美さんの選評は、

 長崎眞由美さん選評―――――――

名詞が並ぶシンプルな句ですが、味わい深い句だと思いました。可憐なコスモスを牛乳
瓶に活けてあるのが、男警官がいる駐在所という意外性が面白いです。きっと優しいお
巡りさんでしょうね。


 高橋幸子さん選評――――――――
 牛乳瓶が庶民的でいいです。駐在所の雰囲気がよく分かります。

紫苑活け部屋に野の風生まれけり

 以下複数の選者から採られた句を中心に見ていきたいと思います。

 この句は私の特選句です。紫苑は9月頃から野に見えますし、栽培もされているよう
です。その自然に咲いている紫苑を剪って、ご自分の部屋に活けられたのでしょう。そ
うするとたちまち室内に野に吹く風と同じ風が吹いたのでしょう。場面展開が見事です。
雪虫や磔像にある涙あと

 一般に歳時記では、「雪虫」は「早春に雪の上に現れ、動き回る虫」のことを言って
います。春の季語です。しかし広辞苑では「晩秋に飛ぶのを雪片に見立て、あるいは降
雪の季節が近いという意味で「雪虫」と名付けられた。」とあります。いわゆる私たち
が「綿虫」「雪蛍」と呼んでいるものです。そこでここでは「綿虫」「雪蛍」として読
みました。その雪虫と磔像の涙あとの取り合わせが的確だと思いました。

 もう一つの解釈として雪虫は少しでも物に触れるとはかなく壊れますから、雪虫が磔
像に触れたとたん粉々に散った様子を涙あとと詠んだのでしょうか。これも詩情がある
と思いました。

 長崎眞由美さん選評―――――――

どなたの磔像でしょうか?キリスト像でしょうか?この季節でしたら、「綿虫」「雪蛍」
が良いのかも?「雪虫」は2,3月の雪が融ける頃、雪の上にわく小さな昆虫とのこと。

菜園をほめて大根もらひけり

 いわゆる事柄俳句ですが、ユーモアのある句です。その場の情景がよく見えます。こ
ういう自然体が採られた理由でしょう。選者3人から採られていました。

 高橋幸子さん選評――――――――

よくあるような句ですが、落語のようで惹かれました。

オリオンを弧に囲ひたるループ橋

 いわゆるループ橋の弧を描いている中にオリオン座が見えたのでしょう。発見の句で
す。
 高橋幸子さん選評――――――――

ループ橋の下から見上げた景。ループ橋の弧に囲まれたオリオン星座が見えるようです。

千年の塔へ沈む日秋刀魚焼く

 坪野洋子さんが特選に採られています。

 坪野洋子さん選評―――――――

千年の都と言われている都の景でしょうか。五重の塔へ夕日が沈むのが見える小路に七
輪を出しているのでしょうね。取り合わせの妙が良かったです。

阿波藍をのせゆく船や時雨虹

 阿波特産の染料のことでしょうか。江戸時代、紅花とならんで阿波藍は代表的な染料
でした。この景は現在のものでしょうか。それとも江戸時代を想定して詠んだのでしょ
うか。何か時代絵巻を見ているようでした。高橋幸子さんの特選です。

 高橋幸子さん選評――――――――

今は伝統産業の阿波藍。のせていく船の行く手に時雨虹が出ている情趣が、素敵です。
 
秋うらら神社に外貨両替機

 3名の選者が採っています。今時の神社は知りませんが、実景であれば面白いところ
に着目したと思っています。

 高橋幸子さん選評――――――――

今どきの神社は、外国の観光客も多いのですね。お賽銭やおみくじなどに使うのでしょ
うか。季語が効いています。

 長崎眞由美さん選評―――――――

外国人観光客が増えて、特に京都の神社は外国人で溢れていますね。その神社に外貨両
替機が置いてあったという発見が季語「秋うらら」に響いていると思いました。

虫の声地球の叫びかも知れぬ

 私だけが採りました。日頃私の選句の好みを知っている句友から異論が出るかも知れ
ません。このような直接的な言葉の断片は韻文に似合わないと思います。それでもあえ
て私が頂いた根底には、私自身この地球を大事にしたい、地球の環境を守ることが重要
だとの思いを常に持っているからです。そういう点で本当は、この句は地上で鳴いてい
る虫の声が単に地球の叫びと大げさに述べただけかも知れませんが、この虫の声は地球
を破壊し続けている人間に対する警告の叫びとして捉えることが出来ると読み、頂きま
した。もしそうであれば具体的なメッセージが見えるとよかったと思います。

 最近の総合俳誌で見た句に、「激震ののち邯鄲のこゑ聞かず 高橋千草」がありまし
た。虫が鳴くのと鳴かないの違いは別に、邯鄲の声から地震に対するメッセージ性がは
っきりとしています。

 以下気の付いたことを投句順に述べさせて頂きます。

身のこなしひらりと鳶の爽やかさ

 軽やかさと爽やかさの混じった気分のよい句です。「身のこなし」のご自身のことと
「鳶の爽やかさ」の鳶のこととの取り合わせの句でしょうか。それともどちらも鳶のこ
とを詠んだのでしょうか。どちらか分かりませんでした。表現上から後者の意味に取れ
ますが、もしそうであれば、「身のこなしひらり」が鳶の写生として適切かどうか躊躇
しました。

毛糸編むまだふくらまぬビスケット

 毛糸を編むこととビスケットを焼いていることの取り合わせの句でしょうか。穏やか
な情景を的確に詠んでいます。ただ上5の切れの効果が今ひとつ弱いかなと思いました。

北山の杉匂い立つ秋しぐれ

 坪野洋子さんが予選で採りましたとのコメントを頂きました。

 坪野洋子さん選評―――――――

感覚の優れた句で予選では頂いています。「杉匂い立つ」を「杉匂ひ立つ」と文語表記
だったら文句なくいただいている句です。

秋寂ぶや小面まなこ翳らせて

 「小面まなこ」は能面のことでしょうか。このあたりをもう少し分かり易く表現すれ
ばもっとよくなったと思います。例えば「能面のまなこ翳らせ秋の暮」としてさらに下
5の季語の適切性をもっと考えればよくなると思いました。

水鳥の五羽と見えしが七羽かな

 観察のよく効いた句だと思いましたが、「落花枝にかへると見れば胡蝶哉 荒木田守
武」と同じ視点を感じました。

雪降ると杜の捩れの戻りけり

 雪が降るとなぜ杜の捩れが戻るのかよく分かりませんでした。

爽やかにあさぎまだらの来てをりぬ

 「アサギマダラ」は渡り蝶で秋になると日本国内を南下し、果ては台湾まで渡ってい
くと言われています。私は9月に山形で、10月に我が家で、12月に沖縄で見ました。
一般に本州では秋に多く見られます。「蝶」は春の季語ですが、「アサギマダラ」ある
いは「渡り蝶」は秋の季語にならないのでしょうか。この句は季語として「爽やかに」
を使っていますが、今後「渡り蝶」が季語になるかどうかは多くの俳人の実作の積み重
ねによるでしょう。

終刊の一誌となりて秋惜む

 最近の高齢化に伴い、俳句界でも結社誌の廃刊が続いています。この句は「終刊誌」
あるいは「終刊号」との表現だけにすれば、さらにその周辺の状況も分かるフレーズの
余地が出てくると思いました。

秋高し競馬と競うハットかな

 「ハット」がよく分かりませんでした。それとも「競馬と競う」ですから、凱旋門賞
などの競馬場で、会場内を彩る優美な帽子たちの競演のことを詠んだのでしょうか。私
は見に行ったことがありませんので、分かりませんでした。

後れ毛をかき上げ熊手選ぶ指

 若い女性が酉の市の熊手を買う情景でしょうか。予選で頂きました。ただ女性の演技
過剰も気になりましたが、「後れ毛をかき上げ」と言えば「指」は要らないと思いまし
た。「熊手選ぶ」だけで十分だと思いました。

色鳥や太極拳の群の空

 「色鳥や」で強く切って場面展開を図っていますが、「太極拳の群れの空」が分かり
ませんでした。太極拳が空に群がっているように読めてしました。

濡れ縁に爪切る母の小春かな

 「母の小春」がよく分かりませんでした。母が爪を切っていることを詠みたいなら、
「濡れ縁に爪切る母や〇〇」と中七に切れを入れて、それにふさわしい季語を置けばよ
いと思いました。

奇絶峡磨崖大仏照る紅葉

 「奇絶峡」とはどんな断崖なのでしょうか。大げさのように感じました。

カッターの刃をひとつ折る冬隣

 予選で頂いた句です。カッターの刃を折るという日常の動作にふと冬が近づいてくる
のを実感した感性には共感します。高橋幸子さんも選評を寄せています。

 高橋幸子さん選評――――――――

刃の折れる音と季語が合っていると思います。また「一つ折るカッターの刃や冬隣」
も考えられます。

賽銭の音も澄まして小春の日

 「賽銭の音も」の「も」が気になりました。「も」はいわゆる並列言葉ですから、賽
銭以外に何の音が澄ましているのか分かりません。「も」を使う時は効果的な並列言葉
にしたいものです。

大根畑超へて向かふへ園児達

 この句は文語体を使っているようです。まず「超えて」は場所を越えるのですから
「越えて」ではないでしょうか。そして「向かふへ」は名詞だと思います。そうすると
「向かう」ですね。

見渡して何もなき海秋晴るる

 一般に広々とした海を見渡すと「何もない」のが普通ではないでしょうか。

山際の朝霧晴れしもみじ谷

 この情景は現在の朝霧を見ているのではないでしょうか。「晴れし」と過去形にする
と、どんな情景か一呼吸置いて考えなければなりません。現在形の「晴るる」でよいの
ではと思います。

古里は荒れ放題や威銃

 ふるさとは荒れ放題と見ていますが、「脅銃」はいわば豊作の印として雀を追い払う
ために鳴らしているのですから、荒れ放題と合わないと思いました。

さざなみは潟の微笑み番い鴨

 10句選に頂きました。潟は遠浅の海とも解釈出来ますが、ここは一般的な湖、沼と見
てよいでしょう。そこにさざ波が立っているのを「潟の微笑み」と捉えたところが作者
自身の観察眼が見えてよい句だと思いました。

雲ひくく列車の音か山眠る

 「雲ひくく」「列車の音」「山眠る」と物が3つ出てきて、それぞれ印象が分散して
おり、情景を描くことが出来ませんでした。

茶の花や山の廃墟と犬小屋と

 この句も「茶の花」に「山の廃墟」と「犬小屋」を取り合わせた句だと思いますが、
取り合わせる物が多いと印象が分散します。ここは季語の「茶の花」と物を1つにした
取り合わせがよかったと思いました。

立冬のひかりの中へ跳ぶ義足

 坪野洋子さんが採っています。陸上競技場の走り幅跳びを想定しました。跳んだ瞬間、
立冬のひかりが印象的です。義足であろうとなかろうと、競技者が光って見えます。

花好きの母は施設や石蕗の花

「母は施設や」でなく、「母は施設に」の方が分かり易いと思いました。原句だと
母=施設と誤解されかねない表現だと思いました。

枝たはむ石榴一顆の重さかな

 長崎眞由美さんが採っています。わずか一顆の石榴に重さを存在させることを発見し
たことがよかったと思います。

廃校に残る記念樹返り花

 長崎眞由美さんが採っています。学校が廃校になっても記念の樹はそのまま校庭に
残っているのでしょう。そこに桜の返り花も咲いているなど印象的です。

 長崎眞由美さん選評―――――――

 代々の卒業生が植えていった記念樹が廃校に残っている・・その一抹の淋しさを季語
の「返り花」が紛れさせてくれるような感覚、取り合わせが良いと思いました。

母親をうむ十月の胎児かな

 意味がよく分かりませんでした。「母親をうむ」とありますから、胎児が母を産んだ
のでしょうか。そんなはずはないので、表現を見直して頂きたいと思います。また季語
の「十月」も動くような気がしました。

照紅葉ダム湖に映る御嶽山

 きれいな情景を詠んでいます。この句では、ダム湖に映っているのは「照紅葉」も
「御嶽山」も両方映っていると思います。ダム湖に映るのはどちらか1つにして表現す
ると焦点が絞られて、さらによくなると思います。例えば「紅葉晴ダム湖に映る御嶽山」
と季語を空に向けて詠むなど。

 今月は以上です。今月は特に佳句が多かったと思いました。また来月も佳句に会える
のを楽しみにしています。

第232回目 (2018年10月) HP俳句会 選句結果
【  伊藤範子 選 】
  特選 太刀魚の背鰭靡かせ釣られけり 加藤剛司(名古屋市)
   上弦の月を持ち上げ踊りの手 原馬正文(滋賀県)
   始発待つ二番ホームや残る月      加藤剛司(名古屋市)
   うねりくる煌めき風の芒原 伊奈川富真乃(新潟県)
   サバンナの吸いこんでゆく天の川 きょうや(東京)
   祝ひ着の袂に遊ぶ秋の風 雪絵(前橋市)
   木犀の丸く刈られて丸く咲き 典子(赤磐市)
   短冊の消しゴムの屑獺祭忌 正憲(浜松市)
   鵙鳴くや栞がはりの飴袋 うさぎ(愛知県)
   天高し湾へせり出す観覧車 蝶子(福岡県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 路いっぱい子等繋がりて秋祭 節彩(東京)
   謝りのひとこと言へず月仰ぐ 小豆(和歌山市)
   無月かな抹茶の碗に泡の月      ぐ(神奈川県)
   後の月凛として雲寄せつけず 暁孝(三重県)
   掌の中の踏張り強きばつたかな 康(東京)
   台風の唸り押しやる救急車 雪絵(前橋市)
   太刀魚を闇の海より引き抜けり みのる(大阪)
   大クレーン伸び切る空に鰯雲 小夜子(神奈川県)
   鵙鳴くや栞がはりの飴袋 うさぎ(愛知県)
   天高し湾へせり出す観覧車 蝶子(福岡県)
【  武藤光リ 選 】
  特選 鵙高音一刀彫りの仁王像 彩楓(さいふう)(埼玉県)
   少年のたちしょうべんやねこじゃらし 原馬正文(滋賀県)
   安達太良山(あだたら)の無垢なる空や鳥渡る      伊奈川富真乃(新潟県)
   夫癒ゆる法被姿の秋祭 鈴木八重子(愛知県)
   鳥居のみ遺る社や秋の風  三泊みなと(北海道)
   野菊咲く鯖街道の峠越ゆ 正木次郎(愛知県)
   薄紅葉映して静かなる湖面 清風(鳥取)
   東雲のゲイトブリッジ鳥渡る 眞人(さいたま市)
   悲しみを燃やしたやうに曼珠沙華 夏柿(岐阜県)
   秋寂ぶや掃除ロボット足元に 小春(神戸市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 うねりくる煌めき風の芒原 伊奈川富真乃(新潟県)
   履歴書に定年しるす鵙日和 佐東亜阿介(青森県)
   野路菊を活けて一日の終はりけり      小川めぐる(大阪)
   色白の叔母の再婚野菊咲く 徳(山梨県)
   サバンナの吸いこんでゆく天の川 きょうや(東京)
   台風の唸り押しやる救急車 雪絵(前橋市)
   東雲のゲイトブリッジ鳥渡る 眞人(さいたま市)
   五重塔仰げば鵙のこゑ一つ 梦二(神奈川県)
   枕辺の林檎擂る香や雨の午後 じゃすみん(新潟県)
   秋灯やゆっくり回る糸車 ときこ(名古屋市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、伊奈川富真乃さん(新潟県)でした。「伊吹嶺」10月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2018年10HP句会講評        渡辺 慢房


1 謝りのひとこと言へず月仰ぐ 

 鬱屈した気持ちを月に慰めてもらっているのですね。作者自身か相手のことがもう少
しだけわかると、より深く鑑賞できると思いました。

2 路地裏のカレーの匂ひ秋暑し 

 路地裏と言えばカレーの匂い、カレーの匂いと言えば路地裏という位によくある句材
です。もう一工夫無いと季語が定まりません。

3 愁思ふと無人ホームに眼鏡拭く 

 「愁思」は季語ではありません。「秋思」の間違いでしょうか?

4 結果待つ妻励ますや秋ともし 

 何の結果でしょうか? がん検診? 日本語検定? 俳句コンテスト? 文学賞?? そ
れによって、思い描く景や心情が変わってきますね。

5 観覧車吸い込まれゆく秋の空 

 さわやかな句ですね。観覧車と秋の空がやや付き過ぎに感じました。

6 野仏の笑顔に出会う秋うらら 

 季語が効いていますね。周りの景色や作者の心情が伝わります。

7 黄落や無駄な皺などありはせぬ 

 道徳観や警句などを俳句にしようとしても、作者の自己満足の域からなかなか抜け出
せません。

8 平成の最後の年の木の実落つ 

 「平成最後の年」は、最近よく耳にする言い回しですね。「木の実落つ」以外の事象
でも、皆「平成最後」ですから、季語が動いてしまいます。

9 履歴書に定年しるす鵙日和 

 定年後の再就職のための履歴書でしょうか? 長い勤めを終えて、また新しい世界に
踏み出そうとする作者の気持ちを、季語が語っています。

10 禅僧のごと身動がぬ囮かな 

 「身動き」という名詞を「見動く」と活用することに違和感を感じました。「身動き
せぬ」が自然な日本語ではないでしょうか? あるいは、「身じろがぬ」とすると、音
数も合うと思います。

11 無花果を好むをみなごおそれけり 

 「をみなご」は「女子」のことと思います。無花果を好きな女性が何かを恐れている
のか、あるいは女性を誰かが恐れているのか?? 句の意味が捉えられませんでした。

12 野路菊を活けて一日の終はりけり 

 野路菊を活けた一瞬を詠まれていますが、そこから作者が過ごした一日が見えて来ま
す。作者はこの日、ちょっと遠出をして屋外の散策を楽しみ、野路菊が生えているのを
見かけ、その何本かを切って来たのでしょう。家に帰ってそれを活けて、一日を振り返
っている安堵感が伝わります。

13 夢に顕つ妣は百歳秋彼岸 

 彼岸に亡くなったお母様の夢を見るというのは、ちょっと出来過ぎた話のような気が
しました。

14 カピバラも埋もれし落葉日の温み 

 カピバラというと、温泉に入っているシーンを思い出しますが、落ち葉に埋もれて暖
をとることもあるのでしょうか。「カピバラも」と言うと、あれもこれも言いたい気持
ちが表に出てしまいます。「カピバラの」とすることで、目の前の景だけに気持ちを集
中させましょう。

15 旧友の一献腸へと星月夜 

 季語が動くように思いました。また、「星月夜」は屋外の景ですので、どこで酒を酌
み交わしているのか、疑問に感じました。

16 遠目にも妻と子の丈秋灯 

 秋灯は屋外の明かりも言うのかもしれませんが、「灯火親しむ」や「灯火近し」と使
われるように、通常は屋内の明かりをイメージすると思いますので、上五中七の屋外の
景とかみ合わないように感じました。

17 秋じめり曲見妖しき薪能 

 「秋湿り」と「薪能」の季重なりです。

18 ぼつぜんとゴリラめきたる秋思かな 

 「遠山に日の当たりたる枯野かな」と同じく、中七が連体形で下五につながっていま
す。「遠山に」の句は、文法上は中七と下五が切れず、句末の「かな」の切字が活きる
ようになっていますが、意味上は中七で切れており、二物衝撃の効果を出しています。
掲句は、中七に切れがあると見ると何がゴリラめいたのか不明ですし、「ゴリラめきた
る秋思」というのも、意味がわかりません。

19 選定や高さの揃う秋薔薇 

 秋薔薇を選んで高さを揃えたのでしょうか? 剪定かとも思いましたが、そうすると
剪定と秋薔薇の季重なりとなります。

20 遅くするシャッタースピード芒原 

 上五中七より、光量の乏しい夕暮れの芒原かと思いましたが、今一つ具体的な景が見
えません。芒原の景を直接描写された方が良いと思います。中七は字余りになっていま
すが、例えば「シャッター速度」とすれば解消します。五七五のリズムは俳句の命です
ので、おろそかにしないようにしましょう。

21 無月かな抹茶の碗に泡の月 

 名月が見えないので、点てた茶の泡を月に見立てるというのは風流ですね。ただ俳句
の場合、あまり風流すぎるのも気取りが感じられ、句が作り事めいて来ますので、手加
減が難しいですね。

22 いびつなる坊主頭や菊供養 

 「いびつなる坊主頭」は、菊の花の比喩でしょうか? そうだとすると、やや安直で
あり、菊供養の景が描けていないと思いました。

23  異国語の飛び交ふ木曽路色鳥来  

 木曽路にも害人観光客が増えてきたということでしょう。ただ、この詠み方ですと、
「木曽路に外国人が多い」という説明にはなりますが、具体的な光景が見えません。俳
句は、写真を撮るように詠みましょう。

24  狭き田の四角き空を蜻蛉群る  

 この句は、中七を「や」で切るとぐっと良い句になりますね。

25  上弦の月を持ち上げ踊りの手  

 面白い描写ですが、上弦の月とは、太陰暦で毎月七日・八日頃の半月を言い、「踊り」
とは、盆の満月の下で踊る「盆踊り」のことを指しますので、矛盾してしまいます。上
五を推敲されると良いですね。

26  少年のたちしょうべんやねこじゃらし  

 意外性のある句材ですが、意外性を狙っただけのレベルにとどまり、俳句としての品
格が感じられませんでした。

27  霧雨や傘に滴る粒の艶  
28  霧雨や傘に染み入る粒の音  

 芭蕉の「閑かさや」や「古池や」の句を彷彿とさせますが、推敲途中の句をそのまま
投句されたという印象を受けました。練って練って、これ以上研げないという一句に昇
華させた句の御投句をお待ちします。

29  太刀魚の背鰭靡かせ釣られけり  

 伊藤範子氏の特選句です。「太刀魚が釣られた」だけですと単なる報告であり、中七
の「背鰭靡かせ」という描写が効いているかどうかがポイントとなります。太刀魚の背
鰭は頭の後ろから尻尾まで細長く付いていますが、それほど幅広ではありませんので、
「靡く」という表現が私にはいま一つピンと来ませんでしたが、体と一緒にくねくねす
る様子を「靡く」と言えないことも無いと思いました。そう考えると、太刀魚独特の様
子が浮かんできますね。

30  始発待つ二番ホームや残る月  

 「二番ホーム」が具体的ですが、この具体性は必要でしょうか? 始発を待っていると
いうことで、ホームにいることは容易に想像できますので、読者に映像としての具体的
なイメージが伝わる景を写生されると良いと思いました。

31  猛々し草伸び切って秋彼岸  

 日頃の手入れを怠ってしまったお墓の様子でしょうか?上五が切れていますので、秋
彼岸が猛々しいというように読めてしまいます。

32  高速道虫はピロピロ楽しげに  

 突っ込みどころの多い句です。「ピロピロ」という虫の描写は独特ですが、擬音語か
擬態語かわかりません。「楽し気に」というのは作者の主観であり、俳句ではそれを直
接言わずに、情景を描写することにより読者に伝えます。何よりも、高速道路は車で走
行するしかなく、徒歩で散歩などできませんので、虫の様子を観察したり鳴き声を聞い
たりすることはできないと思います。

33  残照や荒れたる庭の鶏頭花  

 暮れ行く空に残る赤い光と、鶏頭の紅の印象が鮮やかです。この庭のある家と作者と
の関係に想像が膨らみます。

34  参道の巨大南瓜の連座かな 

 どこかの寺社の参道に、地元でとれた巨大南瓜が展示してあったのでしょうか? そ
れを句材に一句ものしたい作者の気持ちはわかりますが、残念ながら発見に乏しく、報
告的な句と感じました。

35  安達太良山(あだたら)の無垢なる空や鳥渡る  

 渡り鳥は日本中で見ることができますが、安達太良山で見た鳥の渡る空は、作者にとっ
て特別な物に感じられたのでしょう。胸の中では、智恵子抄の一節をつぶやかれていた
と思います。

36  うねりくる煌めき風の芒原  

 作者の感動が、一気に句となってほとばしり出たような迫力を感じました。

37  遮断機に貨車過ぐまでの秋思かな  

 踏切で電車が通り過ぎる間の短い時間に、ふと何かの思いにふけったのでしょう。上
五の「遮断機に」がどこに係るのかわかりにくいので、「踏切を」等とされた方が良い
ように思いました。

38  鍵穴に合わぬ合鍵神の留守  

 俳句を作り馴れている方の句で、下五の季語に合うように、上五中七をこしらえた感
じがしてしまいました。

39  後の月凛として雲寄せつけず  

 月を擬人化して詠まれていますが、擬人法は安易に使うと、作者の気取った意図が透
けて見えてしまいます。また、似たような発想になりがちで、陳腐な句になりやすいと
いう面もありますので、擬人法を使う場合は十分に用心してください。

40  新藁の香の流れ来る風の道  

 この句は、「新藁の匂いがした」という内容しかありません。中七下五で、もっとい
ろいろなことが写生できます。

41  四阿に友待ちをれば小鳥来る  

 どんなご友人かがわかると、より深い鑑賞ができると思います。「四阿に待つ句仇や
〜」等・・。

42  掌の中の踏張り強きばつたかな  

 触感を詠まれており臨場感がありますが、ばったの一般的なイメージを出ておらず、
いわゆる「季語の説明」に近い感じも受けました。

43  色白の叔母の再婚野菊咲く  

 季語が活きて、叔母さんの人となりを語っていますね。おめでとうございます。

44  今宵なら雲を掃けぬか芒の穂  

 風流ぶったことを詠もうとすると、いわゆる「月並み句」に陥りがちです。作者の
「気取り」が感じられないように風流な句を詠むのは難しいですね。

45  秋夕焼け「ミ」の音鳴らぬ古風琴  

 「「ミ」の音鳴らぬ」が具体的ですが、鳴らない音がミであることに特別な意味があ
るのでしょうか? 「鳴らぬ音ある」等の措辞の方が自然なように思いました。

46  夫癒ゆる法被姿の秋祭  

 作者の嬉しい気持ちが伝わってきます。上五に切れがありますが、意味的には切れて
いませんので、「夫癒えて」で良いと思います。

47  サバンナの吸いこんでゆく天の川  

 雄大な景ですね。サバンナの地平まではっきりと天の川が見えるので、サバンナに吸
い込まれて行くように見えたのですね。

48  秋深し牛刀研げば底光る  

 「底光り」を「底光る」と活用することはできるのでしょうか? 「底光りする」が
自然な言い方なのではないかと思います。「秋深し」の枯れた感じと、研がれて凄みを
増した牛刀のミスマッチな感じも気になりました。

49  あれこれと弱音吐き出す冬用意  

 「あれこれと弱音吐き出す」からは、読者に映像が伝わりません。「あれこれ」の
内容も不明です。

50  長き夜や岬に隠れ岩置きて  

 季語が動くように思いました。

51  鳥居のみ遺る社や秋の風   

 寂しい感じがよく出ており、このままでも良いと思いますが、「鳥居のみ遺る社」は
社と呼べるのかな?と、ちょっと疑問に思いました。「秋風や褪せし鳥居の社跡」等と
すると、そこが昔社だったところで、鳥居が残っていることがわかると思います。

52  今宵泊つ雨のにかほ市温め酒   

 「にかほ市」は、秋田県の旧仁加保町ですね。調べればどのような土地かわかります
が、句を読んだだけではその土地のイメージがつかめず、鑑賞するのが難しく思いまし
た。

53  新酒酌み交してテニス反省会  

 切れが無いので、散文的に感じました。俳句は切れによって、書かれている言葉以上
の余韻・広がり・感動を表現することができることを意識してください。

54  柿剥くやオリンピックの話など  

 季語を含めた上五が動きます。

55  夕焼より先に暮るるや草紅葉  

 句の意味が分かりませんでした。中七が切れていますが意味的には切れず、草紅葉が
夕焼けより先に暮れると解釈しても、意味が通じません。

56  退院の朝の窓辺や秋日入る  

 季語が晴れ晴れとした気持ちを語っていますね。

57  十月や暦の残り数へをり  

 十月になり今年も残り少なくなった→暦を数える・・と、因果関係が見えるので、理
屈っぽい句になってしまいました。

58  サキソフォンの遠慮がちなる小春かな  

 どんなところに「遠慮がち」と感じたのでしょう? それを具体的に書くと読者によ
りはっきりした景が伝わると思います。「小春」は陰暦十月ですから、まだちょっと早
いですね。投句は必ずしも当季でなくても構いませんが、できるだけ季節に合った句と
された方が、読者に訴求しやすいと思います。

59  台風の唸り押しやる救急車  

 中七が、台風をものともせず活動する救急車の力強さ・頼もしさを表現しています。
映像的ではありませんが、風の音にかぶさってくる救急車の音が聞こえる気がします。

60  祝ひ着の袂に遊ぶ秋の風  

 ちょっと早いですが、七五三でしょうか? 何の祝いかはっきりした方が読者に具体
的な景が伝わりやすいので、季語を秋の風から七五三に換えて詠むのも良いかもしれま
せんね。

61  おしろいや疲れ果てたる夫帰宅  

 何につかれたのか、どのような夫婦なのかが具体的にわかると良いですね。このよう
な場合、「疲れ果てたる」と大掴みにしないで、それが感じられる具体的な「物」に絞
ると良いと思います。なお、白粉花と書けば、俳句の読者は「おしろい」と読んでくれ
ます。

62  太刀魚を闇の海より引き抜けり  

 「引き抜く」という措辞が、太刀魚の長い魚体を良く表していますね。中七、「闇の
海」と「海の闇」のどちらが良いでしょうか?

63  木犀の丸く刈られて丸く咲き  

 丸く刈られるというのはよくわかりますが、丸く咲くというのは、言葉遊びの域を出
ないように思いました。

64  曼珠沙華弾けて空の青かりし  

 曼珠沙華が「弾ける」という表現は、ありそうであまり見たことが無く、新鮮に思い
ました。ただ、曼珠沙華と空の青との取り合わせはよくあります。

65  養老線野菊の花の真つ盛り  

 「野菊の花の真つ盛り」俳句では、「野菊」の一言でこの景が表せます。

66  野菊咲く鯖街道の峠越ゆ  

 良く言われますが、雨は「降る」もの。風は「吹く」ものです。野菊は「咲く」もの
ですし、峠は「越える」ものですね。俳句では、動詞はできるだけ少なくした方が、説
明的な感じが無くなり、句が引き締まります。

67  パレットに絵筆の運ぶ秋の色  

 「秋の色」は象徴的な意味合いが強い季語なので、実際の色彩の意味で使うと、具体
性に欠け、深みが乏しく感じられがちです。

68  短冊の消しゴムの屑獺祭忌  

 子規に、消しゴムに関する逸話などがあるのでしょうか? 短冊に残る消しゴム屑を、
鉛筆で下書きをする丁寧さと取るか、ちゃんと屑を払わないズボラさと取るかで、句の
解釈が変わりますね。

69  細き身に艶めき映えし彼岸花  

 季語の説明に感じました。

70  雑草の朝日に光る露の玉  

 清らかな景です。草、朝日、露の句は多いので、もう一工夫・一観察が欲しいと思い
ました。

71 尼の切る弾ける柘榴瓶に詰め 

 切れが無く散文的なのが気になりました。果実酒を作っているのかと思いましたが、
尼僧が出てるくのでそうではないのかとも・・・。

72 芭蕉庵小さき池にこぼれ萩 

 芭蕉庵らしさが出た句と思います。ただ、芭蕉庵などを句材として詠むと、皆似たよ
うな絵葉書的な句になりがちです。この句も、作者独特の視点や発見には乏しいように
感じました。

73 運動会赤玉ふあり篭を越ゆ 

 「ふあり」は意図的でしょうか?「ふわり」を歴史的仮名遣いで書きたかったのであ
れば「ふはり」です。玉入れの玉が籠を越えるのは、運動会ではごく普通の光景だと思
います。

74 運動会校旗入場胸反りて 

 三段切れで、リズムが切れぎれです。こちらも、運動会には珍しくない景ですね。

75 錆鮎は枯れて明日への命継ぐ 

 小主観や倫理観、道徳観、あるいは警句などを俳句に持ち込むと、作者の自己満足の
底の浅い句になってしまいます。この句に書かれていることは、俳人には「錆鮎」とい
う季語一つで感じてもらえます。

76 新蕎麦やふるさと自慢で締め括る 

 上五の切れが生きておらず散文的で、やや説明的にも感じました。

77 綴れさす糸目揃ひて秋黴雨 

 雨の日に針仕事に精を出されているのですね。中七は「揃ふや」と切ると、縫物に集
中していた視線が、窓の外の雨に移る場面転換が鮮やかになります。

78 路いっぱい子等繋がりて秋祭 

 奥山ひろ子氏の特選句です。子供らが山車を曳いているのでしょうか? 秋晴れの下、
賑やかに行われている祭りの様子や音が想像されます。


79 鵙高音一刀彫りの仁王像 

 武藤光リ氏の特選句です。

武藤氏評−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 作者がご自分で渾身の仁王様を彫った。完成の時、高らかに鵙が啼いたのだ。命を宿
した像の完成だ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

80 岬にはかもめ食堂鰯雲 

 食堂の固有名詞が良い味となっています。岬−かもめ−鰯と、ちょっと付き過ぎな感
じもしますが、まとまりが良くなっているとも言えますね。

81 秋燕や翔つとき漣ざわめきて 

 「漣」は、細かい波のことなのか、琵琶湖畔の地名なのか?この句の場合、どちらに
も取れるように思いました。 形では秋燕やで切れていますが、意味的には切れずに中七
につながっていますので、ここは意味的にもはっきりと切って、秋燕と漣の対比の句と
した方が良いと思います。

82 新米や喰ぶしあわせよ箸の国 

 三段切れで、季語「新米」の説明に近いです。

83 散り敷きて木犀の香の下からも 

 景は良く見えますが、切れが無く散文的です。

84 薄紅葉映して静かなる湖面 

 美しい景ですが、紅葉が映っていることで、湖面は静かであることは言わなくてもわ
かりますね。

85 大クレーン伸び切る空に鰯雲 

 大らかで気持ちの良い句ですが、クレーン−空−鰯雲がやや付き過ぎに感じました。

86 実の色と同じ色して柿紅葉 

 柿紅葉と言えば、その色は読者に伝わります。個人的には、柿紅葉は朱が強く、柿の
実は黄色がかったオレンジで、熟し切ると柿紅葉の色に近くなるという印象です。

87 耳遠の母のおしやべり鉦叩 

 おしゃべりの相手(作者?)は、大声を張り上げてしゃべっているのでしょうね。そ
こに微かな鉦叩きの鳴き声が・・・。これを諧謔と取るかミスマッチと取るか、微妙な
ところですね。

88 異国語の乱れ飛ぶてふ夜学かな 

 「てふ」は「ちょう」と読み、「〜という」という意味です。作者は、誰かから外国
語が乱れ飛んでいる夜学の様子を聞いたのでしょうか?

89 磐梯の山裾白し蕎麦の花 

 気持ちの良い景ですが、蕎麦の花は白が多いので、「白し」は言わなくても良いよう
に思いました。

90 東雲のゲイトブリッジ鳥渡る 

 大きな景で、潮の匂いがしてくるようです。東京ゲートブリッジのことと思いますの
で、表記は「ゲートブリッジ」となります。(英語の発音はゲイトの方が近いですが・
・)

91 恵那山に筋雲一つ天高し 

 恵那山を別の山に換えても句が成り立つように思いました。筋雲は、一つ二つと数え
られるような形状でしょうか?

92 金柑を甘く煮含め熱の子にに 

 切れが無く散文的です。病人に甘露煮の金柑をというのも、よくあることと思います。

93 爽籟の鼓動を宿す神の杜 

 「爽籟の鼓動」の意味がわかりませんでしたが、気取ったことを言おうとしている雰
囲気が感じられました。

94 嫁ぐ日の父は寡黙や蕎麦の花 

 「嫁ぐ日の父は寡黙」は、句材にしたくなりますが、皆同じことを考えます。季語が
離れているのが良いと思いますが、ちょっと離れすぎて、季語が動くようにも感じまし
た。

95 ゴーギャンの写しを残し秋去りぬ 

 句の意味がわかりませんでした。ゴーギャンの絵の模写が残った?

96 ボストン美術館閉じる暮の秋 

 名古屋ボストン美術館が10月で閉館になるというニュースを、ネットで見ました。
それをそのまま言っただけでは、句として物足りません。

97 渋柿と教えてもらふ塀の外 

 「塀の外」とは刑務所の外のことかと思いましたが、そうではなさそうですね。「渋
柿と教えてもらって、それでどうしたの?」という感じです。

98 朴落葉広がつてゆく足の音 

 「足の音」とは、足がポキポキ鳴るような音に思えます。歩く音の意味でしたら「足
音」としないと意味が通じません。中七が上五にかかるようにも、下五にかかるように
も読めます。

99 五重塔仰げば鵙のこゑ一つ 

 印象鮮やかな句です。塔の上の青い空や白い雲が見えて、鵙の声が響く空気感も伝わ
ります。

100 根深葱白く洗ひてきざみけり 

 特に珍しくない日常の景に過ぎないように思いました。

101 客間にて添水の鳴るを聞きて待つ 

 切れが無く散文的です。客が客間に通されて、主人が来るのを待っているのか、主人
が客間で来客を待っているのか? いずれにしても、添水と言えば「鳴る」や「聞く」
は要りませんね。

102 石塔を据える石工の背にやんま 

 切れが無く散文的です。

103 秋晴や熊鈴跳ねるランドセル   

 山村の小学生の下校風景ですね。山道を、鈴を鳴らしながら元気に駆け下りてくる子
供達の様子が見えます。

104 枕辺の林檎擂る香や雨の午後 

 幼い頃を思い出すような句ですね。擂った林檎そのものでなく、香りを詠むことで臨
場感が増しました。

105 朝顔の咲き一日の始まりし 

 句材・発想が平凡に思いました。

106 秋桜シャッターチャンス狙ひをり 

 コスモスがカメラを持って写真を撮ろうとしているようです。

107 髪乱す風を躱して秋桜 

 風を躱しているのは作者なのか秋桜なのか、解釈に迷いました。

108 鵙鳴くや栞がはりの飴袋 

 飴の袋を本に挟んで栞代わりにするという描写が具体的で意外性もあり、面白いと思
いました。季語の離れ具合も良いですね。

109 落ち檸檬懐く地蔵の円き肩 

 「落ち檸檬」という表現は、窮屈で無理があると思いました。また、檸檬が懐くとい
う言葉の意味がよくわかりませんでした。

110 禅寺の萩盛り過ぎ人まばら 

 事柄の説明であり、完全な散文です。俳句は「物」を詠み、「切れ」によって文字に
書かれていない奥行き・感動を表現します。

111 裂け折れの杉の根本の野菊かな 

 荒々しく古びた杉の木と、ひそやかで可憐な野菊の対比が良いですね。「の」の繰り
返しが気になるので、上五を「裂け折れし」としても良いかもしれません。

112 残照のくろぐろあかき鰯雲 

 残照が黒々しているという意味がわかりませんでした。

113 秋灯やゆっくり回る糸車 

 秋の夜長に、「ゆっくり回る」という具体的な描写で、静かに糸を紡いでいる人物の
横顔が見えて来ます。

114 朱き実の木の間隠れや秋深し 

 深秋の森を散策している景ですね。落ち葉を踏む音が聞こえるような句です。

115 悲しみを燃やしたやうに曼珠沙華 

 曼珠沙華のように、季節感や姿形が鮮明なものは、それだけで読者に具体的なイメー
ジを与えますので、それ自体を句に詠もうとすると、誰でも思いつくような平凡な句で
季語を説明するようになったり、作者の主観が前面に出過ぎる独りよがり感の強い句に
なったりしがちですので注意が必要です。この句は、上五中七が観念的ですが、作者独
特の表現になっていると思います。

116 うらぶれた路地のポストや暮の秋 

 「うらぶれた」と感じた点を具体的に詠むと良いですね。

117 胸張つてゴールテープや秋高し 

 運動会の一こまだと思います。季語が活きていて、テープを切った子の笑顔まで見え
て来ます。

118 天高し湾へせり出す観覧車 

 「天高し」と「観覧車」が付き過ぎの感がありますが、中七の意外性がそれをうまく
受け止めていると思います。高いところが苦手な私は、あまり想像したくありませんが
・・・。

119 秋高しマーチ響くや鼓笛隊 

 「秋高し」で切れ、「マーチ響くや」でも切れています。例外はありますが、一句に
切れは一つとした方が、良い句になる場合が多いです。

120 女人講本堂出づれば後の月 

 女性と月は、一見あまり関係なさそうで、どこかでつながっているイメージがありま
す。「後の月」というのも、じっくり考えると深い意味が有りそうな無さそうな・・・
という気がします。中七が字余りな点が残念に思いました。

121 世を生きてもだえつむるや鬼やんま 

 意味がわかりませんでした。俳句は、人生観や小主観などを述べるのには向いていま
せん。「物」を詠んで感動を伝えましょう。

122 軽快にペダルを踏むや鰯雲 

 「軽快に」と言わずに軽快な様が伝えられると良いですね。自転車の輝き、風の音、
流れる髪など、軽快さを伝えられる「物」はいろいろあると思います。

123 おはぐろや別の世のごと水の影   

 「別の世のごと水の影」が観念的で、具体的なイメージが伝わりません。

124 秋燕の湖の塒へ幾万羽  

 実景かもしれませんが、燕が数万羽の大群をなしているところは想像できませんでし
た。さぞ賑やかだと思いますが、秋燕という季語の雰囲気には似合わないような気がし
ました。

125 レモン採る棘に注意と母の言ふ 

 報告の域を出ておらず、どこに感動があるのかわかりませんでした。

126 運動会抜きつ抜かれつリレーの児 

 「運動会」と言えば当然連想する光景で、いわゆる「季語の説明」です。

127 秋の暮影踏み遊ぶ姿なく 

 「無い」ものを詠むのは難しいですね。「影踏みの子らの帰りぬ秋の暮」等とすれ
ば、子供ら遊んでいた様子、そして子供らがいなくなった景が浮かぶと思います。

128 鴨来る凪の湖面に描く波紋 

 鴨が湖面に着水して波紋が広がったというだけでは、事実の報告の域を出ませんの
で、もう一つ突っ込んだ観察が欲しいと思いました。

129 秋寂ぶや掃除ロボット足元に 

 面白い句ですね。夏の間はうるさく暑苦しいだけだった掃除ロボットも、季節が秋め
いてくると、ふと親しみがわくのでしょう。日常生活の中の小さな小さな季節感をうま
く捉えていると思いました。

130 からくりの人形小筆柿日和 

 一読では句の意味がわからず、筆柿の種類で小筆柿というものがあるだろうか等、
ネットで調べて、有馬の人形筆のことと理解しました。「からくりの人形小筆」はわか
らない人はわかりませんから、「有馬筆」として良いと思います。(むしろその方が調
べやすいです。)

131 口先の黄色よろしき秋刀魚選る 

 事実の報告の域を出ておらず、感動がどこにあるのかわかりませんでした。

132 朝寒の茶葉沈むまで待ちにけり 

 毎日煎れているお茶なのでしょうが、今日に限っては、茶葉の沈むのを待っている間
にひんやりとした空気を感じたのでしょう。日常の中に感じた季節感がうまく詠まれて
いると思います。

133 信号の赤き眼玉や秋深し 

 信号の眼玉への見立ての意味がわかりませんし、季語も活きていません。

134 秋渇道頓堀に立つ走者 

 「道頓堀に立つ走者」がわかりにくいですが、グリコの看板のことでしょうか? 季
語が活きていません。

135 特大やとどのつまりのとどの臍 

 「とどの臍」とはボラの臍、いわゆるそろばん玉と呼ばれる内臓の部位のことと思い
ます。トドと呼ばれるサイズにまで成長した魚から、特大のそろばん玉が取れたという、
報告の域を出ない句と感じました。

136 掻堀の池のヘドロに立つ秋思 

 そんなところで物思いにふけることができるのでしょうか?

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 今月は以上です。毎度拙い講評で恐縮ですが、皆様の句作に少しでも参考になれば
幸いです。

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