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第311回目
(2025年11月)
HP俳句会 選句結果】
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| 【
関根切子
選 】 |
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| 特選:
里神楽お国言葉の混じる神
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近江菫花(滋賀県)
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聞く耳を持たぬ同士やおでん酒
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康(東京)
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粥煮ゆる厨の窓の花八手
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垣内孝雄(栃木県)
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懸命に稲刈る子らや学校田
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花虻(滋賀県)
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しぐれつつ昏るるうだつの町明かり
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筆致俳句(岐阜市)
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わけ入ればわれも枯野のもののうち
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原 洋一(岡山県)
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小春日や畳む衣類に猫寝まる
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*町子(北名古屋市)
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ロシアより来て白鳥の諍へる
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櫻井 泰(千葉県)
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雪吊を見やる庭師の手に煙草
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まこと(さいたま市)
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黄葉のトンネル渡る風優し
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美由紀(長野県)
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| 【
松井徒歩
選 】 |
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| 特選:
露葎染みて色濃き跣足袋
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戸口のふっこ(静岡県)
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真夜中のしゞまに白し秋の薔薇
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直樹(埼玉県)
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粥煮ゆる厨の窓の花八手
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垣内孝雄(栃木県)
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小夜時雨笑みのこぼるる古写真
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垣内孝雄(栃木県)
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立冬の夕日捉へて零余子落つ
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後藤允孝(三重県)
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秋灯や根付けの夜叉の眼に力
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隆昭(北名古屋市)
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里神楽お国言葉の混じる神
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近江菫花(滋賀県)
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野紺菊束ねし供花の辻仏
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蝶子(福岡県)
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鷹渡る特攻隊の行きし空
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まこと(さいたま市)
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おのおのの頭の揺れや田色づく
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戸口のふっこ(静岡県)
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| 【
国枝隆生
選 】 |
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| 特選:
杖を曳き落ち葉踏む音生きる音
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正子(山形県)
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聞く耳を持たぬ同士やおでん酒
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康(東京)
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粥煮ゆる厨の窓の花八手
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垣内孝雄(栃木県)
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半日を探しものして片しぐれ
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よりこ(名古屋市)
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望楼のガラスに写る鰯雲
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隆昭(北名古屋市)
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着ぶくれのままで奏づる駅ピアノ
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水鏡(岐阜市)
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しぐれつつ昏るるうだつの町明かり
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筆致俳句(岐阜市)
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貼り替へて灯の影の濃き白障子
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原 洋一(岡山県)
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鷹渡る特攻隊の行きし空
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まこと(さいたま市)
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吹き溜まる落葉のぬくみ日の温み
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野津洋子(愛知県)
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| 【
玉井美智子
選 】 |
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| 特選:
聞く耳を持たぬ同士やおでん酒
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康(東京)
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落葉舞ふ片手拝みの辻稲荷
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康(東京)
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朝寒やちびりちびりと煎じ薬
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美佐枝(千葉県)
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葬列の尾灯の滲む夕しぐれ
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よりこ(名古屋市)
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冬暖か手垢の残る万華鏡
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水鏡(岐阜市)
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しぐれつつ昏るるうだつの町明かり
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筆致俳句(岐阜市)
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小春日や畳む衣類に猫寝まる
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*町子(北名古屋市)
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ゴルフ靴片減り目立つ霜の朝
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田村ゆきえ(和歌山市)
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ひそやかに老いは来るもの枯蟷螂
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惠啓(三鷹市)
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露葎染みて色濃き跣足袋
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戸口のふっこ(静岡県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、康さん(東京)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年11月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
沢山の御投句ありがとうございました。
1 生きている死にあがらって薬漬け
「生きている死」がどういうことなのかよく分かりませんが、「薬漬け」というやるせ
なさは良く伝わってきます。
2 セコム掛け夜長に消える職場の灯
「セコム掛け」とはセキュリティーシステムのスイッチを入れたという意味でしょうか?
やや乱暴な表現のように感じました。
3 書肆開く夢どこへやら暮の秋
長い間温めていた夢がいつの間にか潰えてしまった作者の喪失感。これから冬に向かう
「暮の秋」という季語から、作者の人生の立ち位置も示唆しているのでしょうか。
4 木枯しやティシュを配る赤い爪
凩の中での無感動な労働に対するささやかな抵抗を、女性の「赤い爪」に感じました。
5 色鳥や入日さしたる大銀杏
「銀杏」は季語ではありませんが、夕日に彩る黄葉が贅沢な景色ですね。夕日に色鳥が
合うかどうか迷うところであります。
6 椋鳥や仲間追ふてか老い翼
俳句では「自分はこう思う」というような主観は避けた方が良いと思います。
(国枝評)文語表現するなら、「追ふて」でなくて、「追うて」ですね。
7 セキレイの尾の振るしぐさ指揮者なり
俳味のある句ですが、「セキレイ」は漢字の表記の方が良いと思います。
8 蛇腹道紅葉じゅうたんグラデかけ
「グラデかけ」はグラデーション」を掛けているという意味でしょうか? 言葉の省略
が過ぎるように思います。
9 平凡をいただく音の冬林檎
「音は」林檎をかみ砕く音でしょうか? 「平凡」は普段の生活のことでしょうか?
よく分かりませんでした。
(国枝評)「平凡をいただく音」がよく分かりません。
10 重ね着てそれとは見せぬ身のこなし
どんな身のこなしなのかが見えてきませんでした。
11 物干しの竿に引つ掛け十三夜
竿に引っ掛けたのは何ですか? ひょっとして「月」ですか?
12 河口に雑魚よく跳ねて小六月
河口の雑魚が「小六月」によく合っていますね。景もよく見える上々の写生句だと思い
ます。
13 宵の庭束の間石蕗の花明り
「束の間」は「花明り」のことでしょうか? だとすると「宵」ですので理屈を感じま
した。
14 コスモスや女駅長縄電車
「駅長」と「縄電車」との間に切れがあるように感じました。
15 初冬に字面のみ追う読書かな
「初冬」が余り効いていないように感じました。
16 やや寒し後ろ手に引く古襖
晩秋の季節の移ろう微妙な時期のやや寒。古襖の建付けのやや悪い音が聞こえるようで
す。
17 落葉舞ふ片手拝みの辻稲荷
「片手拝み」で悩みました。私の本音では行儀が悪いなあという思いですが、ネットで
調べると色々な意味があるようですね。
18 聞く耳を持たぬ同士やおでん酒
頑固な左派と右派の論争を想像しました。
国枝隆生氏選================================
それぞれが我を張った頑固者同士なのであろうか。これがまたお互いに気があってい
る証拠なのであろう。飲み屋で激論を交わしている二人が見える。
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19 ミソハギの雫掬びて妣偲ぶ
「ミソハギ」は漢字か平仮名が良いと思いましたが、お母さんへの神聖で繊細な思い
が伝わってきました。
20 はらごろを噛めば泪の味のごと
「はらごろ」ですがいくら調べても解答が見つかりませんでした。
21 呼び鈴の掠れし路地や暮れの秋
「呼び鈴の掠れし」がよく分かりませんでした。あまり良い音がしないということで
すか?
22 柿熟れて明るさつくる過疎の村
過疎化の村の寂しさの中でのささやかな輝きですね。ただ「明るさつくる」という意味
付けはどうかな?と思いました。
23 どんぐりを踏んで謝る木陰道
自然のささやかな営みに対する優しさですね。
24 満ちてなほ十月桜しのびやか
十月桜の控えめな美しさが良く伝わってきますが、やや説明でしょうか。
25 朝寒やちびりちびりと煎じ薬
晩秋の一日の始まりが良く伝わってきます、「ちびりちびりと」に自分の身体を労わる
様子も伝わってきます。
26 秋空にはるか鼓笛の響きをり
どこに対しての「はるか」かよく分かりませんでした。
27 真夜中のしゞまに白し秋の薔薇
真夜中ですと満月を少し過ぎた月光でしょうか。その淡い光に、秋の白い薔薇がひっ
そりと浮かび上がっている。美的感覚の良い句ですね。
28 粥煮ゆる厨の窓の花八手
病後の小康を得た人でしょうか。窓の外の静かな冷たさが、湯気を立てる粥の温かさ
をより一層際立たせています。
国枝隆生氏選================================
粥を煮ているから、体調が万全でない人がいるのであろう。花八手から穏やかな家庭
が見えるようだ。
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29 小夜時雨笑みのこぼるる古写真
季語はできるだけ離した方が良いという意見もありますが、「小夜時雨」と「古写真」
の間であれば問題ないでしょう。しかし、「笑みのこぼるる」との間の余情をどのよう
に探れば良いのか、よく分かりませんでした。深読みすればこの写真の人物は作者とは
ほろ苦い別れでもあったのだろうかと想像しました。
30 旧姓に戻りし里の柿すだれ
何らかの事情で生家に戻られたのでしょうか。これからの人生を見つめ直す作者を里
の柿が温かく迎えてくれたのですね。
(国枝評)「旧姓に戻りし里」がよく分かりません。里が旧姓に戻ったのですか。作者
は旧姓時代の若い頃住んだ里と言うことを言いたかったのでしょうか。一寸無理がある
省略の感じでした。
31 葡萄一房袋をかけて傘かけて
葡萄栽培の丁寧な説明のような感じがしました。上七も何とかしたいです。
32 懸命に稲刈る子らや学校田
学校の田で子供たちが一生懸命働いている様子は伝わってきますが、「懸命に」を具
体的な表現にすればもっと良くなると思います。
(国枝評)何処でも学校で稲を育てているようだ。「懸命」から自分たちの稲への愛着
が見えるようです。
33 半日を探しものして片しぐれ
半日もかけたのだから大事な探し物なんでしょうね、しかもどうも見つかっていない
様子です、「片しぐれ」の不安定な気象状態が焦燥感を煽ります。
国枝隆生氏選================================
雨の一日、家でやることにした探しもの。結局半日探した結果、見つからない。
「しぐれ」と「探しもの」の取り合わせが面白い。
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34 葬列の尾灯の滲む夕しぐれ
何も心境を語っていない写生句ですが、「夕しぐれ」という季語が作者の思いを代弁
しています。
35 朱の鳥居湖に浮き立ち秋日和
中七に切れを入れた方が良いように思いました。
36 立冬の夕日捉へて零余子落つ
「夕日捉へて」の解釈に迷いましたが、感覚的に読めば不思議な美しさも見えるよう
な気がしました。
37 元請に納期迫られ夜業の灯
芭蕉の言葉に「言ひおほせて何かある」というのがありますが、この句は事実を言い
尽くしているように思いました、
38 吾も君も非正規雇用夜食取る
こちらの句は抑制がありますので、季語が効いていると思いました、
39 望楼のガラスに写る鰯雲
「望楼」がやや凝った言葉ですので、「ガラス」は漢字のほうが良いように思いまし
た。
国枝隆生氏選================================
昔なら消防署の望楼などが考えられたが,今は何であろうか。高いところに立って映っ
ている鰯雲はまさに眼の高さに近いのだろう。素直な視線の写生句。
======================================
40 秋灯や根付けの夜叉の眼に力
「秋灯」という静寂な光の中で、夜叉の「眼に力」という表現が、存在感を放ってい
ますね。
41 蟷螂の縋る雨戸の夕陽かな
雨戸に縋る小さな命の蟷螂に、一日の終わりの夕陽が降り注ぐ。それは、この世の森羅
万象を象徴しているようです。
42 谷川に声消されたり山葡萄
谷川の轟音という自然の力と、人間の微かな存在感の対比が、山葡萄の静かな実りに
よって、より際立っていますね。
43 陸士長刈り取る城の蔦かづら
「陸士長」は自衛隊の人ですか? その人が城の蔦を刈り取っている。そういう意外
性でしょうか?
44 里神楽お国言葉の混じる神
お国言葉の神がいかにも里神楽らしくて俳諧味がありますね。
45 着ぶくれのままで奏づる駅ピアノ
駅のピアノは行きずりの人の奏者にとっては緊張の一瞬だと思いますが、「着ぶくれ」
にほのぼのとした情景が浮かびました。
46 冬暖か手垢の残る万華鏡
「手垢」に万華鏡の歴史が刻まれています。思いがけなく温かい一日、来し方に思い
を馳せているのでしょうか。
47 枯園に古地図のごとく雨滲む
「古地図のごとく」という見立てがよく分かりませんでした。
48 恙なく生きて勤労感謝の日
個人の感慨ですので読者に評価してもらう句としては向いていないと思います。
49 案の定しぐれてきたりむすびの地
芭蕉の忌日を時雨忌と言いますので、「案の定」が理屈に思えます。
50 しぐれつつ昏るるうだつの町明かり
静かでしっとりとした写生ですね。
国枝隆生氏選================================
この近辺で言えば、うだつの立つ町と言えば美濃市であろうか。時雨の中で暮れゆく
町にはしっとりとした昔風の町灯りが見える写生。
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51 冬晴や影なる我と二人連れ
冬晴の凛とした空気の中の静かな孤独を感じました。
52 紫に秘めたる殺意鳥兜
「鳥兜」には毒がありますので、理屈を感じました。
53 貼り替へて灯の影の濃き白障子
中七が感覚の効いた良い写生なのですが、障子の貼り替えも季語なので、そこが気に
なりました。
国枝隆生氏選================================
張り替えたら、灯の影が濃くなったと感じたのは、障子と明かりの影のコントラストを
強調した句と思いました。
======================================
54 わけ入ればわれも枯野のもののうち
やや主観が強いような気がします。
55 蜘蛛の囲に未完の日暮ありにけり
未完の日暮が?でしたが、未完は「蜘蛛の囲」ですね? 雲の囲は夏の季語ですので、
季節が離れすぎて戸惑いました。
56 立冬や明けの真白きフルムーン
今年の立冬は旧暦18日でしたね。月は夜明けの西、少し上でしょうか。でも「フルムー
ン」が?
(国枝評)「フルムーン」は満月のことですか。普通満月は午後6時前後に月の出になる
と思います。明けのフルムーンは無理があるようです。
57 満載の園児のカート秋の空
乳母車のようなのに園児がいっぱい乗ってるのをよく見かけます。秋空の下ほのぼの
とした光景です。
58 身に入むや唯松籟の古戦場
松籟が、古戦場の静寂をいっそう際立たせ、深い無常感を漂わせています。
59 夜半の秋声の澄みゆく長電話
「声の澄みゆく」が分かりませんでした。
60 新婚や研ぐ手の白き今年米
研ぎ汁で手が白いのか実際に手が白いのか迷いました。
61 仁王立つアーバンベアや冬立ちぬ
「仁王立つ」の「立つ」と「冬立ちぬ」の「立ち」の類似性が気になりました。
(国枝評)「仁王立」という名詞はありますが、「仁王立つ」という動詞はあるのでしょう
か。動詞で表現するなら、「仁王立ちになる」だと思うのですが。
62 木枯しや値引き求めてゆくスーパー
言い尽くしてしまっているので、俳句の面白さに欠けるように思いました。
63 両親の名も厳かに七五三
神社の内陣での祝詞の場面でしょうか。「名も厳かに」がポイントですね。
64 紅葉狩り紅葉のやうなミモサラダ
紅葉の言葉の二度使いが気になりましたが、お弁当のサラダでしょうか?
65 床磨く今日は勤労感謝の日
休日でも一生懸命働く。その働きと「勤労」の重なりが気になりました。
66 小春日や畳む衣類に猫寝まる
猫が寛いでいる場面で、「小春日」はよくあるかもしれませんが、「畳む衣類に」に
独自性があります。
67 野紺菊束ねし供花の辻仏
素朴な辻仏に、地味ながらも彩りの映える野紺菊を供える。その飾らない信仰心に、
心が温まるのを感じました。
(国枝評)辻仏など野仏は野草である野紺菊がふさわしい。
68 暗がりの木立抜けだし谷紅葉
紅葉に辿り着いた行程の説明のように感じました。
69 踏みしめる銀杏落葉や夕日影
夕暮れに落ち葉を踏みしめる音が寂しさを誘うかもしれませんが、日影とはいえ周囲
の落ち葉の黄金色も見えますね。
70 伸びやかな松の梢や鵙の声
松の梢の先の澄んだ秋の空が、「鵙の声」の持つ鋭い緊張感によって、一層引き締まっ
た青さに見えてきます。
71 腰伸ばす老婆の風情秋茜
「風情」という抽象的な言葉は避けた方が良いと思います。
72 いたずらっ子しきりにあくび餅雑炊
いたずらっこ子という落ち着きのない子が、あくびばかりするというのが俳味ですね。
73 ロシアより来て白鳥の諍へる
ロシアを皮肉っているようですね。
74 霞ヶ浦を小さく使ふ鴨の陣
「小さく使ふ」が遠慮しているように見えますが、広大な霞ケ浦でのささやかな営み
が伺えます。
75 青空のゑくぼのやうに返り花
大胆な把握ですね。冬の青空と白い帰り花を重ねるとそう見えなくもないと思いまし
た。
76 石ころを蹴って断ちたる秋思かな
「絶ちたる」という意志は表明せずに読者に読み取ってもらう仕立てにすればもっと
良い句になると思います。
77 雪吊を見やる庭師の手に煙草
最近は煙草は褒められないですが、「手に煙草」の姿から、雪吊の完成した達成感が
伺えます。
(国枝評)今どき,屋外では禁煙が常識だが、昔気質の庭師のふさわしいのは煙管が似
合うのだろう。いかにも雪釣りのできばえに満足している様子がよく見える。
78 鷹渡る特攻隊の行きし空
特攻隊の悲劇的な行路と、鷹の渡りの生命の営みを対比させています。鷹が空を渡りゆ
く力強さに対し、若者たちが一瞬の飛行で命を終えねばならなかった無常感が、切実に
伝わってきます。
国枝隆生氏選================================
知覧の様子を連想しました。鷹の渡りを見ながら,特攻兵に思いを馳せているのでしょ
う。私も昔、知覧で帰燕を見ながら、同じような思いに駆られたことがあります。
======================================
79 銀行の静脈カード冷まじや
季語が答えを出してしまっているので、俳句独特の余情に欠けるように思いました。
80 ゴルフ靴片減り目立つ霜の朝
季語を上五にして、「片減り目立つゴルフ靴」としたほうが良いように思いました。
81 ひそやかに老いは来るもの枯蟷螂
「老い」と「枯」の言葉の重なりが気になりました。
82 古農家の深き軒下吊し柿
「古民家」という表記は良く見ますが「古農家」はどうでしょうか?
83 行く秋やシャッター閉ち”し古き店
「古き店」では説明ですので、具体的にした方が良いと思います。
84 独り聴くタンゴの調べ秋深し
程よく纏まった句ですね。独りの孤独感と深秋の情緒とが程よく調和していると思い
ます。
(国枝評)タンゴというと頂きたくなる。私もいつも聞いているが、タンゴというと調
べよりリズムを楽しんでいる。
85 露葎染みて色濃き跣足袋
「染みて色濃き」に農作業のリアリティーを感じました。
86 おのおのの頭の揺れや田色づく
「頭の揺れ」から、黄金色に輝く田の農作業の様子が生き生きと伝わってきます。
87 杖を曳き落ち葉踏む音生きる音
杖を頼みの生活ではあるけれど、落ち葉を踏む音に。生きているという実感を確認す
る作者なのですね。
国枝隆生氏特選================================
落葉を踏みながらの散歩でもよい。落葉を踏んでいる音がまさに自分が生きている証拠
の音だと実感している。落葉を踏む音に触発されて、元気が付く大人のである。
======================================
88 欅立ち公園彩る小春日や
「小春日や」という季語が不安定な感じです「欅立ち公園彩る小春かな」ではどうで
しょうか。中八も気になりました。
89 吹き溜まる落葉のぬくみ日の温み
リフレインが小気味よいですね。
国枝隆生氏選================================
落葉の温みに日の温みを感じたところをリフレインでうまくまとめられていると思い
ました。
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90 顔見世の親子息合ふ「道成寺」
息の合う様子を描写してほしいです。
91 凪の湖面日差し吸い込む照紅葉
上六が調べを悪くしています。
92 黄葉のトンネル渡る風優し
黄葉の森を楽しんでいる気持ちが伝わってきました。
93 氏神の柏手打つ背に冬日差
中八ですので、「に」を省略すれば良いと思います。
94 山際の入り日輝く秋の暮
「入日」と「暮」の意味の重なりが気になりました。
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【
第310回目
(2025年10月)
HP俳句会 選句結果】
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| 【
奥山ひろ子
選 】 |
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| 特選:
酌み交す羅漢の盃に木の実落つ
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惠啓(三鷹市)
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土色の帆布のリュック秋遍路
|
田村幸之助(和歌山県)
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鰯雲園児の競ふ竹とんぼ
|
康(東京)
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|
穂芒の寄せては返す野の光
|
雪絵(前橋市)
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秋灯や内緒話の子ら笑ふ
|
直樹(埼玉県)
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夕映えの赤城連山雁渡る
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美佐枝(千葉県)
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|
相槌もいつか寝息の夜長かな
|
原 洋一(岡山県)
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下町のアパートの窓吊柿
|
まこと(さいたま市)
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天の川過りて夜間飛行の灯
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伊藤順女(船橋市)
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鷹柱長谷の大仏下に見て
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梦二(神奈川県)
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| 【
武藤光リ
選 】 |
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| 特選:
相槌もいつか寝息の夜長かな
|
原 洋一(岡山県)
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鰯雲園児の競ふ竹とんぼ
|
康(東京)
|
|
穂芒の寄せては返す野の光
|
雪絵(前橋市)
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木の実降る音ころころとアンダンテ
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百合乃(滋賀県)
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秋雨や白壁つづく寺内町
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水鏡(岐阜県)
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夕映えの赤城連山雁渡る
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美佐枝(千葉県)
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湖に映る青空蓼の花
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石塚彩楓(埼玉県)
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宗祇水噛んで味はふ水の秋
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筆致俳句(岐阜市)
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郷の土纏うて届く落花生
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惠啓(三鷹市)
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松手入れ切られし枝の匂ひ立つ
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蝶子(福岡県)
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| 【
酒井とし子
選 】 |
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| 特選:
鰯雲園児の競ふ竹とんぼ
|
康(東京)
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土色の帆布のリュック秋遍路
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田村幸之助(和歌山県)
|
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どこからも城見ゆる街鳥渡る
|
康(東京)
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穂芒の寄せては返す野の光
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雪絵(前橋市)
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長き夜や寂聴源氏を明石まで
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原 洋一(岡山県)
|
|
相槌もいつか寝息の夜長かな
|
原 洋一(岡山県)
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百円の無人販売柿の秋
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筆致俳句(岐阜市)
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枯れてなほ道標なり花カンナ
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比良山(大阪)
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独り居の葉擦れの音も夜寒かな
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小豆(和歌山市)
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手づれ著きスペースキーや秋の声
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櫻井 泰(千葉県)
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| 【
渡辺慢房
選 】 |
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| 特選:
下町のアパートの窓吊柿
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まこと(さいたま市)
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土色の帆布のリュック秋遍路
|
田村幸之助(和歌山県)
|
|
どこからも城見ゆる街鳥渡る
|
康(東京)
|
|
穂芒の寄せては返す野の光
|
雪絵(前橋市)
|
|
夕映えの赤城連山雁渡る
|
美佐枝(千葉県)
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水尾を引く海しろがねの良夜かな
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素風(i岩手県)
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百円の無人販売柿の秋
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筆致俳句(岐阜市)
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大地まで枝を撓らせ富有柿
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麻里代(和歌山市)
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若かりし吾の一張羅着る案山子
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かよ子(和歌山市)
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酌み交す羅漢の盃に木の実落つ
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惠啓(三鷹市)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、康さん(東京)、雪絵さん(前橋市)、原 洋一さん(岡山県)でした。最高得点者が3名以上となりましたので、今月の入選賞は該当者なしとなります。
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【講評】
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2025年10月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 口開けて我を忘れた大花火
幼い頃の回想句でしょうか? 共感する読者が多いと思いますが、ポカンと口を開け
るのも、我を忘れてしまうのも、花火に見とれる様子としては平凡な描写に感じました。
2 葉桜の無常に透ける木漏れ日や
日に透けた葉桜は生命感に満ちて美しく、夏の訪れを感じさせますが、そこに無常を
感じられたというのが不思議な感じがしました。中七で切れて、下五の木漏れ日との取
り合わせになるのだと思いますが、「や」の切字が不自然に思われます。
3 秋灯や外国人のミシン工
縫製工場での残業でしょうか? 秋は日暮れが早く、夕方は灯りを点けないとならな
いのでしょうね。ミシン工の国籍も年齢も性別も容姿もわかりませんが(もちろん、俳
句でこれらを全部言うことはできませんが)、作者は遠い日本で遅くまで働くミシン工
を見て、何かを感じられたのでしょう。
4 土色の帆布のリュック秋遍路
土色も帆布も、秋のお遍路さんの背負うリュックにふさわしい感じがします。山道で
は、色づいた葉に溶け込みそうですね。
奥山ひろ子氏評===============================
「土色」が素朴でいい色の表現ですね。
リュックを背負う現代の姿お遍路さんの姿ですね。
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5 どこからも城見ゆる街鳥渡る
城が町のシンボルなのですね。視線が上向きに定まって景が浮かびます。
6 鰯雲園児の競ふ竹とんぼ
爽やかな秋空に勢いよく舞い上がる竹とんぼが浮かびます。掲句のままでも上五が切
れていますが、より強く切字を入れて、例えば「鯖雲や」としたいと思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
竹とんぼを高く高く飛ばし、鰯雲の空へ揚る景が清々しいと思いました。
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7 長き夜や覚めて読み継ぐ一書有り
状況は良くわかりますが、「読書の秋」を説明したようにも感じてしまいました。
8 パン屋さん繁盛させて燕去ぬ
燕が軒に巣を作るのを吉兆とする言い伝えは全国にあるようですね。ただ、それをそ
のまま俳句としたのでは、理屈・説明になってしまいます。「パン屋さん」というさん
付けも句を弛緩させます。
9 老いぼれの赤ん坊あやす稲刈月
最初は、作者が「老いぼれの赤ん坊」をあやすと言う意味で、認知症を詠んだ句かと
思いましたが、九月は稲刈りで皆忙しく、赤ん坊の世話は老人に任されるという句意で
しょうね。ちょっと説明的に感じました。
10 キッチンの牛蒡サラダに入日かな
季語は牛蒡サラダでしょうか? 入日でしょうか? おそらく牛蒡サラダを季語とし
ている歳時記は無いと思います。 入日は、春入日、秋入日のようにしないと季語とし
て用いるのは難しいと私的には思います。
11 穂芒の寄せては返す野の光
「寄せては返す」で、波と言わなくても波のように戦ぐ様子が浮かんできます。
奥山ひろ子氏評===============================
「野の光」の措辞が秀逸だと感じました。
芒の句は既視感がある句になりがちですが、この作品は作者の個性が感じられまし
た。
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12 海原の月に真向ふ大玻璃戸
私も松島のホテルに泊まった時に、このような景を見た記憶があります。
13 堰堤や塩辛蜻蛉は石のうへ
堰堤にも大小いろいろありますが、どのような堰堤でしょうか? 中七下五は、あま
り珍しくない景のように思いました。
14 秋灯や内緒話の子ら笑ふ
一つの秋ともしの下で、家族がそれぞれ過ごしているのですね。子供らには子供らの
楽しい話があるのでしょう。
奥山ひろ子氏評===============================
無邪気な子供の様子がかわいらしいです。
何をお話ししておかしかったのか気になります。
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15 木の実降る音ころころとアンダンテ
速度を示す音楽用語がお洒落ですが、ころころは物が転がる様子を表す擬態語で、木
の実が降る音には思えませんでした。
16 秋霜や時刻表より遅きバス
早朝のバス停でバスを待っているのでしょうか? 「時刻表より遅きバス」は、少々
冗長な言い回しに感じました。
17 父と子の増える口数鯊日和
親子で鯊釣りですね。日頃はあまり話をしない父親と息子も、のんびりと気持ちの良
い日和で話が盛り上がるのでしょう。釣果の方は??でしょうか?
18 色変えぬ松 松陰の辞世の句
吉田松陰の辞世の句は、松のようにいつまでも緑(古びない)という句意かと思います
が、そういう作者の主観は、なかなか読者の感動を呼びません。
19 秋雨や白壁つづく寺内町
秋霖の寺内町、風情がありますね。
20 鰯雲沖に釣舟あまたなり
良い釣り日和なのですね。海も凪いでいるのでしょう。鰯雲と釣舟がやや即き過ぎな
感じも受けました。
21 隣室の荷造り始む無月かな
状況が良く分かりませんでした。隣室は、自宅の自分が今いる部屋の隣の部屋のこと
なのか? 集合住宅のお隣さんなのか? 中七が終止形で切れていますが、荷造りと無
月を取り合わせた意図も掴めませんでした。
22 月光げが生み落としたる一番星
「月光げ」がわかりませんでした。タイプミスでしょうか?「月影」でしょうか?
23 名札にはルビを振りをり新松子
句意がわかりませんでした。「新松子」という珍しい姓の方がいて、その人の名札を
ルビ付きで書いているのでしょうか?
24 耳底に沁みつく音や桐一葉
桐一葉や一葉落つは、俳人にとっては特別な景ですが、実際にその瞬間を見たことが
ある人はどれくらいいるでしょうか? 実は私も、実際に桐の葉が落ちるところを見た
ことはありません。実際にその瞬間に遇えて、葉の落ちる音を聞いたら、このような感
慨が湧くかもしれないと思いました。
25 夕映えの赤城連山雁渡る
雄大で風情のある景ですね。冬が近いことを感じさせます。
奥山ひろ子氏評===============================
大きな景で、秋の夕暮れの素晴らしい景色を歯切れよく詠まれていると思いました。
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26 爽やかやバス停でチョコ二つ三つ
バスを待つ間に・・・ですね。季語から、楽しいお出かけであることが察せられます。
27 田植え機の道蘇る刈田かな
意味が良くわかりませんでした。田植え機の道とは? 蘇るとは?
28 稲妻や光と闇の割符めく
言いたいことはわかりますが、季語の説明的に感じました。
29 遠伊吹山(とおいぶき)絵筆に拾ふ愁思かな
愁思は秋思の誤変換でしょうか?
30 金木犀隣家ほどよく離れをり
「隣家ほどよく離れをり」の意味がつかめませんでした。隣の家の金木犀が、あまり
強過ぎず程よく匂ってくるということでしょうか?
31 菊切って掌に残り香のある日かな
感性の鋭い句と感じました。「残り香」は誰かが去った後に残っている香りのことを
言いますので、漢字は同じですが「残香(ざんこう)」または「移り香」の方が良いよう
に思いました。
32 爽籟やパステル色の空柔し
触覚、聴覚、視覚に訴える句ですね。金木犀の香りも感じられます。「パステル色」
で柔らかい色合いが感じられますので、下五は工夫の余地があるように思いました。
33 編隊の無事みおくりぬ渡り鳥
編隊は渡り鳥のことを言っているのだと思いますが、句を読む限りでは編隊が渡り鳥
を見送ったように思えます。
34 湖に映る青空蓼の花
空と蓼の花の色合いが奇麗ですね。ただ、もうちょっと作者独自の視点や発見がある
と良いと思いました。
35 シャラシャンと巫女舞ひの鈴秋高し
上五の擬音は言わずに、巫女舞の鈴とだけ言ってあとは読者の想像に任せた方が句に
広がりが生まれ、音数も節約できます。
36 名月やスマホの中の小宇宙
「スマホの中の小宇宙」の意味が分かりませんでした。スマートフォンの多彩な機能
を宇宙になぞらえているのでしょうか?
37 藤袴咲かせて待つやワタリチョウ
藤袴はアサギマダラが好むことで有名ですね。ワタリチョウは漢字表記の渡り蝶で良
いように思いました。
38 長き夜や寂聴源氏を明石まで
夜長だから源氏物語を読みふけってしまったという理屈も感じられますが、「明石」
の字面が夜明けを連想させるところが巧みだと思いました。
39 相槌もいつか寝息の夜長かな
しゃべる相手がいて、しゃべることがあるのはうらやましいことです。
奥山ひろ子氏評===============================
作者の話を誰かに聞いてもらっていたのだと思いました。その相槌も寝息に変わっ
て、一人眠れない作者は夜長を物思いにふけっているのでしょう。句材が面白いですね。
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武藤光リ氏評================================
お孫さんを寝かし付けているのだろう。疲れた身ではあろうが、
微笑ましい、ほっこりする夜長だ。
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40 檸檬噛むしかめつ面の幼かな
可愛らしいですが、檸檬を齧って顔をしかめるのは珍しい景ではないと思いました。
41 わだかまり消へし再会鰯雲
主観的・抽象的な句ですが、晴れ晴れと爽やかな気持ちは伝わります。
42 水尾を引く海しろがねの良夜かな
月夜の海に一本の航跡、絵画のようですね。
43 新蕎麦や礫土拓きし山畑
作者の父祖が拓いた畑でしょうか? 今年も故郷の新蕎麦が戴ける喜びですね。
44 永眠の増えて会報身に入むる
何かの会報の、会員の消息欄か訃音の記事ですね。お気持ちはよくわかりますが、表
現がやや直截的な気もしました。
45 秋霖の肺腑抉るやひもすがら
「秋の雨が肺腑を抉る」とはどのような状況でしょうか? 霖は長雨のことですので、
「ひもすがら」は言わなくても良いように思いました。
46 秋灯下亡き人増えし句集読む
多くの人の句が載っている合同句集でしょうか? 句形が散文の様で報告的に感じま
すので、「読む」のような動詞を使わずにまとめたいと思いました。
47 戦禍なきこの地を遊べ稲雀
失礼ながら、格好良いことを言おうとしているように感じてしまいました。また、人
間間で戦争があっても、雀にはあまり関係が無いのでは?とも・・・
48 新涼の川風に浮く河童橋
上高地ですね。上五の「新涼の」がかかるのが川風なのか河童橋なのかわかりにくい
ので、もう一工夫あると良いと思いました。
49 行合の空へ大橋架かりをり
橋を下から見上げているのでしょうか? 橋に対して「架かりをり」は言わなくても
良い言葉だと感じました。
50 宗祇水噛んで味はふ水の秋
宗祇水は郡上八幡の湧水ですね。「噛んで味はふ」は実感がこもっていて良いと思い
ましたが、季語が即き過ぎに感じました。
51 百円の無人販売柿の秋
どれも一品百円の無人販売店の傍らに、実がたわわに生っている柿の木があるのでしょ
う。私は今朝某所の朝市に行って、3個で100円の柿の実を買って来ました。
52 墓洗ふ肩にとまるや赤とんぼ
「墓洗ふ(秋)」と「赤とんぼ(秋)」の季重なりです。
53 寝静まる遊具の影や天の川
屋外の遊具の影が映るような月夜には、天の川は良く見えないと思います。また、影
が映るのは地面、天の川は天上で、視線の向きも気になりました。
54 下町のアパートの窓吊柿
吊し柿や柿簾というと、郊外の農家のの軒下を思い浮かべますが、下町の、それもア
パートの窓というのもある種の風情がありますね。市井の人の暮らしが思われます。
奥山ひろ子氏評===============================
田舎町ではなく「下町のアパート」に柿が吊るされているところが意外性があると
思いました。どんな人が住んでいるのかも気になります。
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55 何もなき刈田の道やとんびの輪
「何もなき」とわざわざ言った意図は何でしょうか? 広々とした地上の景を言いた
かったのであれば、もっと別の表現があるように思いました。
56 しんしんと夜の深さや鉦叩
鉦叩の密やかな音を聞くと、夜の深さが身に入むようですね。「しんしんと」が夜の
形容としては平凡な感じもしましたが、鉦叩の音を連想させる効果もあると思いました。
57 密やかに白曼珠沙華一隅に
白い彼岸花も、時折見かけますね。「密やかに」と「一隅に」にやや重複感を覚えま
した。
58 コスモスを羽状複葉守りをり
説明的に感じました。また、羽状複葉も含めてコスモスだと思います。
59 枯れてなほ道標なり花カンナ
主観的で理屈っぽさを感じました。
60 野に摘みし萩一括り壺に活く
「一括り」が萩の束のボリュームを感じさせますね。句が動詞で終わっているので散
文的に感じられます。下五を名詞にするように工夫するとさらに良くなるのではないで
しょうか?
61 秋灯や田園てふ喫茶店
「てふ」の読み方は「ちょう」で2音ですので、中七が字足らずになってしまいまし
た。「田園といふ」とすれば7音となります。
62 負け試合子は語らずに金木犀
季語の斡旋が良いですね。何の試合かはわかりませんが、悔しさに耐えている子の姿
と、その背を優しく見守る親の視線が感じられます。
63 秋晴や風に揺れたる針の音
意味が分かりませんでした。秋晴れの下、風に揺れて音を立てている針とは何でしょ
う?
64 泣き止まぬ児にふれ落つる柿紅葉
柿の葉は厚くて大きいので、子供がびっくりしてますます泣きそうですね。
65 秋袷妻は女となりにけり
単衣や夏用の袷を召されていた時には、女性らしさを感じなかったのでしょうか?
66 桐一葉再会の人待ちにけり
桐の木の下での待ち合わせですね。桐一葉は、「一葉落ちて天下の秋を知る」から来
ていますので、あまり良い兆候ではない気がします。
67 刈草の乾く匂ひや秋うらら
「刈草の乾く」は、干草(草干す)という夏の季語と同義であるように思いました。
68 天の川過りて夜間飛行の灯
作者は地上から夜空を見上げているのですね。両翼の赤と緑のランプが夜空を滑る様子が浮かびます。
奥山ひろ子氏評===============================
秋の夜空を見上げての、風情ある景ですね。
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69 大地まで枝を撓らせ富有柿
生り年ですね。秋空を背景にたわわに実る柿は、いかにも「豊の秋」という感じです。
70 追伸のあとの余白へ小鳥来る
雰囲気のある句ですが、本当に手紙の上に小鳥が来たのではないと思います。中七は
「余白や」と切ると、作者の視線が机上の手紙から窓の外に移った感じが出ると思いま
す。
71 秋桜や町内仲間のバスツアー
「町内仲間のバスツアー」が説明的で景が漠然としているように感じられました。
季語も動くと思います。
72 天高しソーラン節の流れ来る
「流れ来る」ですから、遠くの方から聞こえるのでしょうね。何をしているのかを見
に行って、それを句にして欲しいと思いました。
73 もみぢ宿朝の厠の尿の音
敢えてこうした句材を選ばれたかもしれませんが、私には響きませんでした。
74 鷹柱長谷の大仏下に見て
鷹の視点で詠まれたところがユニークですね。
奥山ひろ子氏評===============================
大変よい景色をご覧になりましたね。
旋回しながら上昇する鷹の群れと、大仏の取り合わせが、力強い物同士でいいと思い
ました。
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75 若かりし吾の一張羅着る案山子
もう着ない(着られない?)若いころの服の、良い使い道ですね。俳味があります。
76 出窓には野の花二輪秋ふかし
季語が動くように思いました。晩秋の花を具体的に示して、秋が深まった感慨を伝え
る方法もあると思います。
77 軽トラに載せて真っ赤な稲刈り機
「真っ赤な」で往年の小林旭の歌を思い出しました。
78 蕎麦啜る日吉社(ひえしゃ)門前秋日和
参拝の後の新蕎麦、良いですね。酒を冷やで一杯やりたいところです。
79 独り居の葉擦れの音も夜寒かな
侘しさが伝わります。「も」の使い方が少々気になりました。
80 何処へと風に吹かれて赤とんぼ
作者の心情・主観が出過ぎたように感じました。風に吹かれた赤とんぼの様子を写生
して、「どこへ行くのだろう?」と思った感じを読者に伝えたいですね。
81 郷の土纏うて届く落花生
掘ったまま、土を落としていない落花生。塩茹でで鄙びた味を楽しみたいですね。
82 酌み交す羅漢の盃に木の実落つ
呑兵衛の石の羅漢も、降って来た木の実に驚いたことでしょう。俳味があります。
奥山ひろ子氏評===============================
面白い瞬間をご覧になり、自然から授かった句ですね。「羅漢の盃に」としっかり
写生し得難い瞬間をうまく詠まれていると思います。
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83 突堤のひねもす人出鯊日和
良い天気だから→鯊釣りの人が多い・・という理屈を感じました。
84 採られずに空き家の柿の熟れたまま
空き家の柿の木の実が誰にも採られないということに意外性は無いので、もう一工夫
欲しいと思いました。
85 秋潮へ向かう船団みあれ祭
みあれ祭の説明的に感じました。
86 松手入れ切られし枝の匂ひ立つ
感覚的で良いと思いましたが、やや季語の説明的とも感じました。
87 手づれ著きスペースキーや秋の声
「手づれ」は「手擦れ」でしょうか?スペースキーには何も書かれていないので、擦
れてもあまり変わらないのでは?と思いました。
88 生きていれば良いこともある冬の蝶
小主観を詠んだ句は、作者の自己満足になりがちです。
89 うそ寒し一人娘を嫁がせて
季語の選択がステレオタイプ的に感じてしまいました。
90 爽やかや富田木歩の土手歩く
墨堤を逍遥されているのですね。富田木歩の生涯に爽やかさを感じられるかどうかが
この句の鑑賞のポイントですが、意見がわかれるように思いました。
91 山嶺を染める夕紅曼珠沙華
夕焼と彼岸花の競演ですね。
92 金木犀時を違えぬ優しき香
金木犀が決まった時期に咲くのは当たり前ですし、その香りも周知です。句全体が季
語の説明に感じました。
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