トップページへ戻る
TOPページへ戻る HP俳句会 投句フォーム 投句一覧 選句結果
選句結果
     
第290回目 (2023年11月) HP俳句会 選句結果
【  高橋幸子 選 】
  特選 駒音の障子に響く夜寒かな みぃすてぃ(神奈川県)
   水桶に揺るる青空彼岸花 みぃすてぃ(神奈川県)
   赤蜻蛉群れ翔ぶサナトリウム跡      直樹(埼玉県)
   秋晴の社会見学消防署 佐藤けい(神奈川県)
   渋柿の熟るる里曲や暮れ早し 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   産土の落葉の時雨墓じまひ 美佐枝(千葉県)
   団栗や片言増えし一歳児 後藤允孝(三重県)
   溶岩の道末枯れて海へ墜つ 伊藤順女(船橋市)
   柏手を一人響かせ神の留守 蝶子(福岡県)
   石蕗咲くや札所見守る大師像 蝶子(福岡県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 藁屋根の藁の切り口冬近し 正憲(浜松市)
   水桶に揺るる青空彼岸花 みぃすてぃ(神奈川県)
   白壁の明治の校舎文化の日      正憲(浜松市)
   止め碗の柚子の香ほのと祝ひ膳 雪絵(前橋市)
   渋柿の熟るる里曲や暮れ早し 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   人去りて椅子のおしやべり暖炉の炎(ひ) 小林土璃(神奈川県)
   綿虫やまう会へぬひとまた一人 康(東京)
   冬晴や明日は初日の触太鼓 梦二(神奈川県)
   木漏れ日に小鳥飛ぶ影冬に入る まこと(さいたま市)
   燈台や白波を寄せ千鳥寄せ 櫻井 泰()
【  国枝隆生 選 】
  特選 藁屋根の藁の切り口冬近し 正憲(浜松市)
   幾たびも句帳見返す秋夜かな 直樹(埼玉県)
   吊るし柿影を留め置く白障子      素風(岩手県)
   行くほどに渓流隠す谷紅葉 素風(岩手県)
   止め碗の柚子の香ほのと祝ひ膳 雪絵(前橋市)
   洛北の空は鈍色しぐれめく 筆致俳句(岐阜市)
   団栗や片言増えし一歳児 後藤允孝(三重県)
   柏手を一人響かせ神の留守 蝶子(福岡県)
   光つつ風に従ふ花芒 小豆(和歌山市)
   朴散っていよいよ空の高くなり 野津洋子(瀬戸市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 針のみみ見えて通せぬ寒夜かな 椋本望生(堺市)
   駒音の障子に響く夜寒かな みぃすてぃ(神奈川県)
   水桶に揺るる青空彼岸花      みぃすてぃ(神奈川県)
   赤蜻蛉群れ翔ぶサナトリウム跡 直樹(埼玉県)
   行くほどに渓流隠す谷紅葉 素風(岩手県)
   藁屋根の藁の切り口冬近し 正憲(浜松市)
   止め碗の柚子の香ほのと祝ひ膳 雪絵(前橋市)
   団栗や片言増えし一歳児 後藤允孝(三重県)
   柏手を一人響かせ神の留守 蝶子(福岡県)
   光つつ風に従ふ花芒 小豆(和歌山市)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、正憲さん(浜松市)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


2023年11月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

契約先のサーバーの更新に伴い、長期間に渡って句会ができなくなりました。御迷惑を
お掛けしたことをお詫び申し上げます。
今回は国枝氏が体調不良のため氏の選評はありません。ご了承ください。

1	駒音の障子に響く夜寒かな

 駒音に悩みました。最初は馬かと思いましたが将棋ですね。「夜寒」から厳しい勝負
が伺えます。

高橋幸子氏評===============================

特選に頂きました。障子は冬の季語ですが、この句では、将棋の対戦が行われている
部屋が鮮やかにイメージでき、〈障子に響く〉との表現も上手いです。「夜寒かな」
で、夜寒が強調され、晩秋の夜の引き締まった空気の中、将棋の駒音が障子を通して
響いて聞こえてきます。

======================================

2	水桶に揺るる青空彼岸花

 水桶に映った青空を<揺るる>とした表現が巧みですね。

高橋幸子氏評===============================

水桶とは、墓参りをする時持っていく手桶のことでしょうか。そう思うと〈揺るる青
空〉が、納得。彼岸花が印象的です。

======================================

3	肌寒といふは人肌恋ふること

季語の説明をしているように思いした。

4	すきとほる日はすきとほる新米を炊く

<すきとほる日>は「秋澄む」の趣でしょうか。<すきとほる>のリフレインと下七の
効果があるかどうかが疑問です。

5	幾たびも句帳見返す秋夜か

投句の締め切りがが近付いて、自選に悩んでいる姿が目に浮かびました。

6	赤蜻蛉群れ翔ぶサナトリウム跡

 『風立ちぬ』を思いました。

高橋幸子氏評===============================

〈サナトリウム跡〉から、かつて療養していた方々が思われ、群れ飛ぶ赤蜻蛉が哀愁
をイメージさせます。

======================================

7	吊るし柿影を留め置く白障子

季重なりが少し気になりましたが「柿」が季語ですね。

8	行くほどに渓流隠す谷紅葉

だんだんに紅葉が濃くなっていく様子ですね。

9	芒穂の会釈のありし野道かな

<会釈>という見立てが面白いかどうか?

10	冬耕や豊かな実り先ず感謝

実りの後に<に>あるいは<を>が隠れているようにも見えますが、切れているように
も見えます。

11	小さき蝶山より降りて紫蘇の花

蝶は春の季語ですが、紫蘇の花は8月から9月に咲きますから、秋の蝶を詠った句とい
うことでしょうか? <て>の働きがよく分からないので紫蘇の花との関係が分かりま
せんでした。

12	秋思ふと偶成の詩の口を衝く

「少年老い易く 学成り難し」ですね。

13	寝転べば紺碧の空秋無限

上五の<ば>が因果関係を孕んでいて、句を弱くしているように思いました。

14	硝子戸の雨滴乾びぬ秋湿り

 「秋湿り」だから乾びないという理屈を感じました。

15	団栗の不作に熊の巷かな

時事の報告気味だと思います。俳句は意味の伝達ではなくイメージの伝達だと思います。

16	藁屋根の藁の切り口冬近し

何の主張もないイメージだけの伝達に好感を持ちました。

17	白壁の明治の校舎文化の日

明治と「文化の日」が即きすぎかとも思いましたが、印象鮮明な句ですね。

18	止め碗の柚子の香ほのと祝ひ膳

<止め碗>という具体的なところに焦点を絞ったのが成功していると思います。

19	月天心鎮守こんもり眠りたる

 <こんもり>という優しさが月と程良く合っていると思いました。

20	秋晴の社会見学消防署

 形の整った句ですね。

高橋幸子氏評===============================

消防署見学は、小学3・4年生でしょうか。〈の〉だけがひらがなで、明快な句姿。
調べもよく、「秋晴」が全体によく響いて、にぎやかで生き生きした社会見学の様
子が想像されます。

======================================

21	秋澄むや踏み切りの音遠く聴く

上五で動詞を使っていることもありますが、<聴く>とまで述べる必要はないように
思いました。

22	渋柿の熟るる里曲や暮れ早し

「渋柿」と「暮れ早し」の季重なりが気になりましたが、手練れの余裕の句作という
感じですね

高橋幸子氏評===============================

〈渋柿の熟るる〉と〈暮れ早し〉が季重なりかと思ったのですが、里曲の秋の暮れ方
の雰囲気が、〈渋柿の熟るる〉によくマッチしていると思い、選としました。

======================================
。
23	釣竿をのべて好日日向ぼこ

<好日>と「日向ぼこ」に重複感を受けました。

24	朽木抱く龍の鱗や茸群れ

<龍の鱗や>とは数が多いという意味でしょうか、よく分かりませんでした。もしそ
うなら<群れ>と重なるように思いました。違っていたらすみません。

25	あたたかき十一月は続きけり

 報告気味ですね。

26	暮早き洗濯物の湿りかな

暮れるのが早いので洗濯物が乾かないという理屈を感じました。

27	罠の子を助けられずに惑ふ熊

<助けられずに>は述べすぎだと思います。

28	尊徳の本に真つ赤な柿落葉

 <真つ赤な>が説明でしょうか・・・。

29	人去りて椅子のおしやべり暖炉の炎(ひ)

普段はこういう句は採らないのですが、童話のような趣に惹かれていただきました。

30	立冬と思へぬ強き日差しかな

 <思へぬ>は説明では・・・。

31	綿虫やまう会へぬひとまた一人

お歳をめされるとこういうことが増えますね。身につまされます。<まう>は<もう>
だと思います。

32	産土の落葉の時雨墓じまひ

 中七は「落葉時雨や」と確り切れを入れてはどうでしょうか。

高橋幸子氏評===============================

近頃、〈故郷の墓じまい〉をよく耳にします。〈落葉の時雨〉が墓じまいの心境をよ
く表していると思います。

======================================

33	数珠繋ぎのヘアピンカーブ紅葉狩

<数珠繋ぎの>は字余りにしてまで使う言葉かどうか?推敲すれば五音に収まる言葉
が見つかると思います。

34	洛北の空は鈍色しぐれめく

 手堅くまとめ上げた句ですね。

35	尼様の箒手をやく濡れ落葉

面白い句ですが、<手をやく>が説明では?

36	二夜の月三度四度と振り仰ぎ

 「二夜の月」は「後の月」だと思いますが、中七との数字合わせがそんなに効いて
いないと思いました。

37	冬晴や明日は初日の触太鼓

大相撲の初日への期待感の伝わる句ですね。

38	新婚に来し鬼岩や色葉照る

岐阜県の鬼岩公園でしょうか。固有名詞に共感してもらえるかどうか?

39	運動会ソーラン節の逞しく

ソーラン節がどう逞しいのか見えてきませんでした。

40	変わりばえしない南瓜の夕餉かな

 <変わりばえしない>は説明では・・・。

41	深き眠り太極拳のありがたき

 太極拳のおかげで良く眠れるということでしょうか。<ありがたき>が感想的な説
明では。

42	団栗や片言増えし一歳児

「団栗」が付かず離れずの良い按配ですね。

高橋幸子氏評===============================

丁度一歳ごろが片言の増えるときで、それを喜ぶ笑顔が見えるようです。季語〈団栗〉
が、良く映り合っています。

======================================

43	谺さへ染まりて還る谷紅葉

主観が強い上に<さへ>がさらに主観を強調しています

44	巣に降りる朱鷺のふわりと夕日中

 <降りる>に対して<ふわり>というオノマトペが安易すぎるのでは。

45	木漏れ日に小鳥飛ぶ影冬に入る

冬の静かな光景が目に映ります。

46	針のみみ見えて通せぬ寒夜かな

見えているのに糸を通せないもどかしさを季語に預けていますね。

47	遠ざかる過去を引き寄す旅小春

 薄れゆく記憶の表現に工夫を施しましたね。

48	胡桃割る子供の頃に見た不思議

 どんな不思議か?

49	願い事神の留守にも手を合はす

神様は留守だけれど手を合わすという理屈を感じました。

50	小春日や酒香沁む蔵のなまこ壁

 <酒香>は「しゅか」と読むのでしょうか?

51	紅葉狩心身ともに染まりけり

心まで紅葉に染まるというのが、詩としてもどうかなあ?と感じました。

52	新しきレンズの眼冬の空

<レンズの眼>は眼鏡で良いと思いますが・・・。

53	溶岩の道末枯れて海へ墜つ

<海へ墜つ>がポイントですね。

高橋幸子氏評===============================

昔、溶岩が海へなだれ、固まった地形を想像しました。今は草や木の生える道となり、
その葉先や枝先が枯れ、海へ墜ちる様子。蕭条とした大きな景を想像しました。

======================================

54	柏手を一人響かせ神の留守 

「神の留守」は即きすぎのような気もしますが、静かな雰囲気が出ていますね。

高橋幸子氏評===============================

〈神の留守〉なのが俳諧的で面白いと思いました。柏手の響きを聞いているのは、自
分だけでしょうか。

======================================

55	石蕗咲くや札所見守る大師像
 
お遍路でしょうか。季語が良いですね。

高橋幸子氏評===============================

大師像が、札所を向いているのですね。柔和なまなざしが、如何にも札所を見守って
いるように、作者には思われたのでしょう。〈石蕗咲くや〉がやさしい雰囲気によく
合っています。

======================================
 
56	蓑虫や風の意のまま宙ぶらり

表現が(俳味ともとれますが)幼すぎるように感じました。

57	光つつ風に従ふ花芒

 素直に表現されていますね。

伊藤範子氏評===============================

「光りつつ」送り仮名が要ると思いますが、花芒の情景が見えるのでいただきました。

======================================

58	足伸ばしふわり着地の冬の鷺

 <ふわり>(ふはり)は素直なんですが、着地のオノマトペとしては安易すぎると思
いました。

59	朴散っていよいよ空の高くなり

 空の高さが程よく表現されていますね。「朴散って」(朴散つて)が効いているよう
に思います。

60	星月夜ポケット仕舞う缶コーヒー

 <ポケット仕舞う>はポケットの後に助詞がいると思います。「星月夜缶コーヒー
をポケットに」としてはどうでしょうか。

61	野分晴落ち葉煌めく散歩道

 下五が場所を示しているだけで甘いと思います。

62	陽射し受くるる秋蝶の翅脈かな

 連体形は<受くる>ですので<受くるる>という活用はないと思います。

63	あかあかと障子の端に来し朝日

 <来し>は省略できるもでは?

64	本を落つ君の写真や冬薔薇

 <落つ>は終止形ですのでここで切れて、中七の<や>で切れて、三段切れになっ
ています。

65	燈台や白波を寄せ千鳥寄せ

波も鳥も自ら寄って来るのですが、灯台が引っ張っているような表現が面白いですね。



第289回目 (2023年7月) HP俳句会 選句結果
【  高橋幸子 選 】
  特選 水遊びいま全身が好奇心 大原女(京都)
   乳の香を残す産衣や夏の夕 輝久(大分県)
   暴走音またぞろ響く熱帯夜      岩田遊泉(愛知県)
   盛り塩の白き尖りや宵祭 筆致俳句(岐阜市)
   水打つてより改札を始めけり 正憲(浜松市)
    法事あと傘寿卒寿の縁涼み 典子(赤磐市)
   早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   紅薔薇の紅を離るる雫かな 後藤允孝(三重県)
   試し堀り馬鈴薯五個のカレーかな りきお(秋田県)
   総会は満場一致日の盛 櫻井 泰(千葉県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 いつの間に水鉄砲の的になり ようこ(神奈川県)
   黄菖蒲や田水の匂う雨上がり 素風(岩手県)
   水遊びいま全身が好奇心      大原女(京都)
   信号を待つ間立ち入る片かげり 美佐枝(松戸市)
   ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花 雪絵(前橋市)
   止まり木のカフェの窓辺に水中花 飴子(名古屋市)
   手花火のつきたる闇の匂ひかな みのる(大阪)
   母の家更地となりて迎盆  隆昭(北名古屋市)
   コピー機の小さき唸りや梅雨のあけ 町子(北名古屋市)
   青田風母の見送りいつまでも 梦二(神奈川県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 盛り塩の白き尖りや宵祭 筆致俳句(岐阜市)
   乳の香を残す産衣や夏の夕 輝久(大分県)
   薬師寺も唐招提寺も蝉時雨      康(東京)
   今年竹風の重さをまだ知らず 雪絵(前橋市)
   ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花 雪絵(前橋市)
   手花火のつきたる闇の匂ひかな みのる(大阪)
   壁に描きし七夕竹に貼る願ひ まこと(さいたま市)
   ペディキュアや外反母趾の素足にも 小豆(和歌山市)
   クレーム処理終へて一人の缶ビール 櫻井 泰(千葉県)
   花筒に今日はひまわり娘の墓前 野津洋子(瀬戸市)
【  伊藤範子 選 】
  特選 熱帯夜冷たきものに猫の耳 康(東京)
   水遊びいま全身が好奇心 大原女(京都)
   盛り塩の白き尖りや宵祭      筆致俳句(岐阜市)
   水打つてより改札を始めけり 正憲(浜松市)
   手花火のつきたる闇の匂ひかな みのる(大阪)
   立山を背に万葉の歌碑涼し 隆昭(北名古屋市)
   尼寺の甍の照りへ白日傘 小林土璃(神奈川県)
   早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ 蒼鳩 薫(尾張旭市)
   見回りの農夫へ強き青田風 蝶子(福岡県)
   クレーム処理終へて一人の缶ビール 櫻井 泰(千葉県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、大原女さん(京都)、筆致俳句さん(岐阜市)でした。「伊吹嶺」7月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】



         2023年7月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。
今月は事情により選者が坪野洋子さんから伊藤範子さんに変更となっています。

1	良く生きてよろけて座る青田かな

お米を作られているのでしょうか。よくぞここまで従事できたなあという感慨が伝わっ
てきます。

3	一泊の帰郷や母と蛍狩

(国枝)久しぶりに帰った実家で蛍を見るのは懐かしいですね。ただ「一泊」「帰郷」
の言葉が固いようです。音読みでなく「ふるさとのひと夜は母と蛍狩」のように訓読み
で柔らかく詠むことも考えられます。

4	乳の香を残す産衣や夏の夕

中七は自動詞のほうが自然かなと思いましたが、季語が良い気分を出していますね。

高橋幸子氏評================================

季語「夏の夕」が一句に印象的な効果を与えています。昼間の暑さが弱まり、明るさが
残る夏の夕方は、香りが引き立って感じるのでしょう。乳を飲んで満ち足りた赤子の産
着に、乳の香が残っているのを捉えた佳句だと思います。

 ======================================

5	暴走音またぞろ響く熱帯夜

 暴走族には「熱帯夜」が良く合いますね。

高橋幸子氏評================================

バイクをふかす音でしょうか。幾度も熱帯夜に響いてきて、暑苦しさがつのります。
<またぞろ響く>に作者の憤懣やるかたない気持ちが表れています。

 ======================================

6	何処までも見事な青田ことば無し

報告気味の句だと思います。

(国枝)見事な青田を言いたかったのでしょうが、「ことば無し」はその青田の結論を
言っているようでした。

8	息子来てかの日に戻る冷素麺

<かの日に>が抽象的で読み切れませんでした。

10	母連れて海辺ドライブ薄暑なり

報告の句だと思います。

11	黄菖蒲や田水の匂う雨上がり

 時間をかけて田水の匂ひを発見したのでしょうか。根気の賜物ですね。

国枝隆夫氏評===============================

菖蒲田の水の匂いを雨上がりに感じたと言う感覚がよかったと思います。ただ中七以降
も菖蒲のことを詠んでいますので、上五は「や」で切らないで、「黄菖蒲の」と続ける
ところかと思います。

======================================

12	筒鳥や親のこころを啼く如く

<親のこころを啼く>が良く分かりませんでした。

13	水遊びいま全身が好奇心

できましたら好奇心一杯の様子を描写してほしいところですが、<全身>という表現が
良いですね。

(伊藤範子さんの選です)

高橋幸子氏評================================

具体的な描写がないのに、水遊びをしている幼子の様子が生き生きと脳裏に浮かんでき
ました。目の輝き、手足のぴちぴちした動き、水しぶき、笑い声等々。幼子は、興味が
あることを全身を使って表現しますが、水遊びはまさにそのもの。<いま全身が好奇心>
との措辞は、即物具象写生ではないので最後まで迷いましたが、景が鮮明に浮かんでく
ることから特選に取らせていただきました。

 ======================================

国枝隆夫氏評===============================

子供の水遊びを見ているのでしょうか。その子供が好奇心に満ちていることを発見した
のでしょう。いわゆる即物具象でなく、抽象名詞の「好奇心」が成功しています。

======================================

15	雷に怯え農守る老の部屋籠り

老人の様子を述べすぎていると思います。もう少し簡潔に述べてみてはどうでしょうか。

16	物言はず下ろすシャッター西日堰く

(国枝)「西日堰く」がよく分かりません。「西日急く」の変換ミスでしょうか。

18	ふと淋し夏至の落日川向かう

<ふと淋し>という生の心境ではなく、落日を描写したほうが良いと思います。
<寂し>終止形、<落日>体言で三段切れですね。

19	雷神の響みてみづうみ熱孕み

雷の光で湖が熱を孕むという感覚でしょうか?<響みて>の表現が句を分かりにくくし
ているように思います。

21	風死すや張子の虎は首を振る

 中七下五は悪くないので、もう少し適切な季語が欲しいと思いました。

22	木下闇閻魔に上ぐる御賽銭

<上ぐる>は省略できるので余った三音でお賽銭を描写してみてはどうでしょうか。

23	越瓜やむかし大寺の伽藍跡

(国枝)「越瓜」がよく分かりません。

24	宅配便初蝉の声届けをり

 受け取りのためドアを開けたら思いがけぬ蝉の声が聞こえたという景でしょうか。

25	いちにちをたたむ木槿の散華かな

< いちにちをたたむ>が面白い表現ですね。

(国枝)木槿のはかなさをきれいな言葉で詠んでいます。ただ全体が「木槿」の説明の
ように聞こえました。

26	信号を待つ間立ち入る片かげり

 日常のひとこまを見逃さない俳人の目ですね。

国枝隆夫氏評===============================

誰もが経験する信号待ちです。平易な表現に共感しました。

======================================

28	草の波越へて筑波へ夏つばめ

うんと広い草の波でしょうか。美しい情景ですね。

29	熱帯夜冷たきものに猫の耳

面白い取り合わせですね。

(伊藤範子さんの特選です)

30	薬師寺も唐招提寺も蝉時雨

程良く離れた両寺を季語の力で上手く表現しましたね。

31	今年竹風の重さをまだ知らず

<知らず>はやや理屈っぽいかもしれませんが、<風の重さ>が上手ですね。

(国枝)言いたいことは分かりますが、一寸理知的に入ったような印象でした。

32	ふるさとを出ずに卒寿や茄子の花

季語の斡旋が絶妙ですね。

国枝隆夫氏評===============================

うまれてからこの年になるまで、一歩もふるさとを出なかったのも一つの感慨だと思い
ます。私のようにふるさとを喪失した者にとって、詠めない題材です。

======================================

33	紫陽花に囲まれ眺む静寂かな

<眺む>が終止形ですのでここで切れています。下五かな止めですので連体形で下五に
繋げたいところです。

35	朝採れの鍬形もらひ仲直り  

「鍬形」は昆虫のことですね。朝採れの野菜かと勘違いして<仲直り>が?でしたが、
納得いたしました。

37	盛り塩の白き尖りや宵祭

<白き尖り>と具体的に述べたのが良いと思います。季語も絶妙。

(伊藤範子さんの選です)

高橋幸子氏評================================

清めの塩を盛って宵祭の神事が行われたのでしょう。盛り塩の<白き尖り>を発見した
作者。宵祭の厳粛さや格調高さが想像されます。

 ======================================

38	止まり木のカフェの窓辺に水中花

スタバのようなところでなく個人営業のカフェですね。

国枝隆夫氏評===============================

カフェと言ってもスナックのような止まり木のある喫茶店でしょうか。そんな喫茶店に
は水中花が似合います。

======================================

39	白南風や柳腰なる松並木

松並木の例えに他の木を持ってくるのが気になりました。

40	万緑に呑まるる矢穴残す岩

(国枝)「呑まるる」が矢穴に掛かる連体形、「残す」が音に掛かる連体形でしょうか。
入れ子状態の連体形が分かりづらくしているような印象でした。

41	空蝉や児を探す声遠ざかり

季語だけが強調されて中七以降の状況が良く分かりませんでした。

42	水打つてより改札を始めけり

丁寧な文脈の句ですね。駅員の心配りが心地よいです。

(伊藤範子さんの選です)

(国枝)「92打ち水の駅舎より人吐き出され」どちらの句も駅舎に打ち水をしたところ
を詠んでいます。ひと時の安らぎが見えてきます。同じような句でしたので、どちらか
を優先して採ることは出来ませんでした。

高橋幸子氏評================================

暑い最中の駅員さんの心遣いが感じられます。一人で何役もする小さめな駅でしょうか。
水を打って清々しい駅舎。乗客もおなじみさんが多いのでしょう。実直な駅員さんとの
会話も弾みそうです。
 ======================================

44	短夜や鯉の寝顔が気になつて

<鯉の寝顔>が遊びすぎのような・・・。

47	夏の朝ノ―ゼンカズラ目に眩し

凌霄花を何故片仮名表記にするのか・・・?

(国枝)「ノーゼンカズラ」は「凌霄花」のことでしょうか。俳句では日本語は漢字
か、ひらがなで書きたいものです。

48	手花火のつきたる闇の匂ひかな

手花火が終わって匂いだけが残っている暗さを巧みに表現しています。

(伊藤範子さんの選です)

国枝隆夫氏評===============================

手花火が終わるところに闇の深さとはかなさが感じられました。そんな闇に匂いを感じ
たのでしょう。下5を「匂ひかな」と現在形で止めるか、「手花火のつきたる闇の匂ひ
けり」を過去形にして余韻を残す方法も考えられます。

======================================

49	白扇の陰に隠れて生欠伸

<隠れて>は省略できるのではと思いました。

51	片影の縁台将棋集る猫

<集る猫>がこの句の中で効いているかどうか?

52	御手洗の水琴窟や音涼し

水琴窟の音が涼しいのは常套すぎると思いました、 

54	にんまりと笑顔で昼寝して居りし

<にんまり>と<笑顔>は重なりすぎていると思いましす。

56	立山を背に万葉の歌碑涼し

立山の大景を背に万葉歌。大らかな句ですね。

(伊藤範子さんの選です)

57	母の家更地となりて迎盆 

お一人で暮らしていたお母さんでしょうか。一入の感慨ですね。

国枝隆夫氏評===============================

よくある詠み口ですが、素直な表現で共感します。

======================================

58	尼寺の甍の照りへ白日傘

中七の助詞は<へ>で良いのかどうか? ここは切れを入れた方が良いように思いました。

(伊藤範子さんの選です)

60	いつの間に水鉄砲の的にな

庄野潤三の小説をやや明るくしたような感じを受けました。

国枝隆夫氏評===============================

作者と子供たちで水遊びをしているのでしょうか。遊んでいるうちに子供たちの水鉄砲
の的になった。その場面展開がうまいですね。

======================================

63	蟻地獄ここは誰にも内緒なり

<内緒なり>が観念的すぎるので共感できませんでした。

64	 掃き残す破れガンザキ夏落葉

ガンザキは熊手のことですか?破れているので掃き残すという理屈を感じました。

(国枝) 「ガンザキ」がよく分かりませんでした。ネットでは熊手の方言ともありま
したが。

65	 法事あと傘寿卒寿の縁涼み

良いご家族ですね。親戚とのお付き合いもほどほどというご時世。見習いたいです。

(国枝)面白い句です。高齢化社会とはこういうことなのですね。私もその年齢になっ
てしまいました。

高橋幸子氏評================================

七十歳や八十歳の方々が集う法事は何回忌なのでしょう。法事は旧家で行われたのか、
お寺で行われたのか定かではありませんが、法事が終わり、互いに語らいながら、<縁
涼み>をしている様子がよく伝わってきます。

 ======================================

66	病床の妹の鼻唄夏の蝶

鼻唄を口遊むほどですから余程回復したのですね。

67	早苗饗や茣蓙に野良着の泥零れ

 丁寧に描写していますね。

(伊藤範子さんの選です)

高橋幸子氏評================================

この句の<早苗饗>は、田植え作業が終わってすぐ行われるのでしょう。植田のそばに
茣蓙を敷き、野良着のまま田植えの慰労会が行われているのだと想像しました。<茣蓙
に野良着の泥零れ>の具体的な景が、この早苗饗の様子を活写しています。

 ======================================

68	待ちゐれば玻璃の帯留め浴衣着て

<帯留め>は動詞ではなく体言だと思いますので送り仮名はないほうが良いと思います。

69	紅薔薇の紅を離るる雫かな

<紅>のリフレインが心地よいですね。

高橋幸子氏評================================

雨上り、紅薔薇の花びらにたまっていた雫が落ちるときの様子を凝視してできた句と思
われます。花びらの上にある時は、紅を映して紅色だった雫が、花びらを離れたとたん、
透明な雫となって落ちる映像が浮かんできました。

 ======================================

70	杖を突く妻に差掛く白日傘
 
<差掛く>は終止形ですがこの句では連体形で繋げた方がよいように思いました。<傾
ぐる>ではどうでしょうか。

71	風鈴の揺れてバスタオルの揺れる

風流の風鈴と俗のバスタオルの対比ですね。

73	蝉時雨混声合唱ほど響き

さほど不自然さはないとはいえ中八ですね。

74	コピー機の小さき唸りや梅雨のあけ

そつなく出来上がっていますね。

国枝隆夫氏評===============================

コピー機が唸っているときは、生きているようです。その生きている様子が感覚的に響
きます。ただそんな唸りに「梅雨の明け」がよいか、もう少し暗い感じの「梅雨の闇」
がよいか迷うところです。

=====================================

75	壁に描きし七夕竹に貼る願ひ
 
描かれている七夕竹という題材がとても良いと思いました。

77	重畳の夏嶺に流る姉の笛

(国枝)「重畳」がよく分かりません。「頂上」の変換ミス?

78	籐椅子に夢現聴く波の音

<夢現聴く>が分かりませんでした。夢現で波の音を聴いているということでしょうか。

79	老躯にも湧き出づ気力雲の峰

<出づ>は終止形ですのでここで切れが生じます。<気力>は体言ですのでここでも
切れて三段切れの句になっています。

80	故郷に戻り裸足の浜遊び

(国枝)ふるさとに海があるということはこういう句が出来るということですね。海な
し県の私にはうらやましい。

82	雨水の連鎖となりぬ蜘蛛の糸

<連鎖>は蜘蛛の糸に水滴がびっしりと付いているということでしょうか。良く観察さ
れていると思いますが、<連鎖>が少し硬い表現かなあと思いました。

84	若葉寒離れて父子の武将塚

<離れて>が哀れを誘いますね。寒いと言っても若葉ですから程良い季語だと思います。

85	青田風母の見送りいつまでも

施設に入っている私の母を思い、共感いたしました。

国枝隆夫氏評===============================

久しぶりにあった母と別れるときの切なさが「見送りいつまでも」によく込められてい
ます。

======================================

86	片陰り残し川原の土石流

<片陰り残し>が分かりませんでした。

88	盆踊りの稽古に笑顔戻り来ぬ

上六を何とか解消してほしいです。

89	夏休み孫は来るのか来ないのか

来てほしいのですが来れば疲れるので、達観した心境でしょうか。面白く読ませていた
だきました。

91	見回りの農夫へ強き青田風

青田風に強風が珍しいと思いました。

(伊藤範子さんの選です)

93	試し堀り馬鈴薯五個のカレーかな

 農事には疎いので試し彫りの五個は多いのか少ないのか分かりませんが、、美味しそ
うですね。

高橋幸子氏評================================

我が家でも先日馬鈴薯の試し掘りをしました。土の付いた新じゃがの皮は、こそげばつ
るつるの馬鈴薯の肌が現れ、とても美味しいです。試し掘りした馬鈴薯五個のカレー、
新じゃがの香りと食感がたまりませんね。

 ======================================

95	代わる代わる持ちて鬼灯市の帰り

上六、下六。せめてどちらかだけの字余りにしてください。

96	六畳を青き小暑の風抜けり

(国枝) 「青き小暑の風」が分かりづらく思いました。「青き」が「小暑」に掛かっ
ているようでした。「小暑の青き風」と詠むべきでしょうか。なお終止形の「抜く」は
自動詞でしょうか。他動詞でしょうか。この句の内容からは自動詞のように見えました。
そうすると下二段活用になりますので、この已然形に「り」はつながりません。

98	ペディキュアや外反母趾の素足にも

少し自虐的ですが即物的で面白く読みました。

99	総会は満場一致日の盛

目出度し目出度しの決着。俳味もあります。

高橋幸子氏評================================

六月は、株主総会の時期。この句の総会も株主総会でしょうか。この頃は<物言う株主>
の報もあり、総会ももめることが多いと聞きます。この総会も午前中は色々な意見が飛
び交ったのでしょうか。でも日の盛りの頃には、満場一致で締められたのでしょう。
<満場一致>と「日の盛」の取り合わせや、ひらがなが<は>と<の>だけの簡潔さが
魅力です。

 ======================================

100	クレーム処理終へて一人の缶ビール

美味しいビールですね。

(伊藤範子さんの選です)

102	花筒に今日はひまわり娘の墓前

切ないですね。でも「ひまわり」でなんとなくほっとしました。表記は「ひまはり」と
してください。

103	入院す友送る朝茄子の花

入院すの<す>は終止形ですのでここで切れが生じます。<朝>は体言ですのでここで
も切れます。三段切れになるので句中の切れは一つだけにしてください。

(国枝)上五を「入院の」とすれば三段切れでなく、うまくつながると思いました。

105	雨上がり古木を包む苔青し

(国枝)初め、この句の「苔青し」が季語かどうか分かりませんでしたが、よく調べた
ら、「苔茂る」の副季語でありました。そうするとよい句だと思いました。

106	木曽古道旅人癒やす滝しぶき

上五で切れていますが、切れをなくして旅人に繋げた方が良いように思いました。


copyright(c)2003-2007 IBUKINE All Right Reserved.