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【
第316回目
(2026年4月)
HP俳句会 選句結果】
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| 【
酒井とし子
選 】 |
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| 特選:
花冷や地下鉄駅のモザイク画
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田村幸之助(和歌山県)
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目借り時開きしままの単行本
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水鏡(岐阜県)
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老ゆるとは友死ぬことよ桜散る
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大原女(京都)
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恋敵また一人増え花筵
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鷲津誠次(岐阜県)
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一車輌園児貸し切り山ざくら
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鷲津誠次(岐阜県)
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右あけるエスカレーター四月馬鹿
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ゆきえ(和歌山市)
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蝶の昼ATMに長き列
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石塚彩楓(埼玉県)
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啓蟄や子にうつすらと髭の影
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原洋一(岡山県)
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箒目の著き神苑朝桜
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蝶子(福岡県)
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満面の児らの自画像チューリップ
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比良山(大阪)
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| 【
武藤光リ
選 】 |
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| 特選:
先々代のままの表札鳥雲に
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よりこ(名古屋市)
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胸元に小鳥の名札入園児
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近江菫花(滋賀県)
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恋猫の闇夜の問答切りもなし
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直樹(埼玉県)
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啓蟄や子にうつすらと髭の影
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原洋一(岡山県)
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野仏の眉根にひそむ春愁ひ
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みのる(大阪)
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箒目の著き神苑朝桜
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蝶子(福岡県)
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満面の児らの自画像チューリップ
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比良山(大阪)
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蓬摘む残る温もり指の先
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小豆(和歌山市)
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葉桜や静穏戻る散歩道
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美由紀(長野県)
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読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌
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梦二(神奈川県)
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| 【
奥山ひろ子
選 】 |
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| 特選:
啓蟄や子にうつすらと髭の影
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原洋一(岡山県)
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花冷や地下鉄駅のモザイク画
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田村幸之助(和歌山県)
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禅寺の魚板の凹み入り彼岸
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水鏡(岐阜県)
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目借り時開きしままの単行本
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水鏡(岐阜県)
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箒目の著き神苑朝桜
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蝶子(福岡県)
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登校の列の乱れや葱坊主
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蝶子(福岡県)
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満面の児らの自画像チューリップ
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比良山(大阪)
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対岸に漕ぎ出す渡しかげろへる
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惠啓(三鷹市)
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山葵田に富士の伏流滾々と
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惠啓(三鷹市)
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読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌
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梦二(神奈川県)
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| 【
渡辺慢房
選 】 |
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| 特選:
父母を連れ妹を連れ入学児
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まこと(さいたま市)
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廃線の人道橋や花の雨
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田村幸之助(和歌山県)
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花冷や地下鉄駅のモザイク画
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田村幸之助(和歌山県)
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春塵やベルに追はるる昇降口
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芳典(東海市)
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啓蟄や子にうつすらと髭の影
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原洋一(岡山県)
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箒目の著き神苑朝桜
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蝶子(福岡県)
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登校の列の乱れや葱坊主
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蝶子(福岡県)
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黙々と畑打つ翁告天子
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隆昭(北名古屋市)
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山葵田に富士の伏流滾々と
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惠啓(三鷹市)
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読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌
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梦二(神奈川県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、原洋一さん(岡山県)でした。「伊吹嶺」四月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2026年4月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
今回は、個々の句を鑑賞する前に、全体を通して「季語の説明はしない」ということ
について申し上げたいと思います。
優れた俳人は、一つの季語から様々なものやことを読み取ります。季語そのものの映
像や音、匂いなどはもちろん、周囲の様子や空気感、その季語の持つ歴史的背景、逸話、
その季語が使われた名句などにもイメージが広がります。
「俳句では写生が大切」と言われますが、これは「自分が心に思ったことを言うので
はなく、見たもの聞いたものをそのまま言うことで、思ったことを読者に伝える」とい
う意味です。しかし、これがうっかりすると、季語を別の言葉で言い換える、すなわち
「季語の説明」になってしまいがちです。例を挙げると・・
花吹雪風吹くたびに舞ひにけり
この句は一見きれいな景を写生したようですが、花吹雪は多くの花びらが風に舞うこ
とですので、「風吹くたびに舞ひにけり」は季語の説明になっています。読者は、「花
吹雪」という一語だけで、花が風に舞う様子を思い浮かべることができますので、「風
吹くたびに舞ひにけり」と言う必要はまったありません。
作句する際には、「季語の説明」にならないように注意してください。では、個々の
句を鑑賞します。
1 鴨引けばたつべを上げに田舟来る
たつべが分からなかったので調べました。琵琶湖でスジエビを捕るために沈めておく
かごとのことでした。田舟は、水田で苗や肥料を運ぶために使う舟のことで、夏の季語
ですが、たつべを上げるのにもこれに乗ったりするのでしょうか? 引鴨(春)との季重
なりである点が気になりました。
2 氷魚舟エンジンかけて日の出待つ
氷魚は琵琶湖などで捕れる鮎の稚魚ですね。夜明け前の静かな湖面にエンジンの音だ
けが響いている様子が浮かびます。夜明けと同時に船出するのでしょうね。
3 廃線の人道橋や花の雨
しっとりとした静かな風情が感じられます。
4 花冷や地下鉄駅のモザイク画
モザイク画は、石・ガラス・陶器などの断片でできています。その無機質な感じが、
季語に合っていると思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
地下鉄駅のひんやりした空気と、「花冷」、「モザイク画」で華やいだ季節との対比
がいいと思いました。
======================================
5 夕鐘ややさしく苦く春キャベツ
夕餉の準備で、切ったキャベツを一口味見したのでしょう。「やさしく苦き」の方が
座りの良い句になると思いますが、「苦く」としたことで現代的になりました。
6 春霞幼馴染の声に似て
春霞が幼馴染の声に似ているということでしょうか? 意味がよくわかりませんでし
た。
7 飛行機や春の雲割き故郷へ
「雲を割く」のような言い古された詩的な比喩表現は、注意して使わないと、安易で
陳腐に感じられます。
8 登校の班長凛々しチューリップ
集団登校ですね。懐かしいです。「凛々し」は作者がそう感じたという主観になりま
すので、凛々しく感じたもの、ことを具体的に写生して欲しいと思いました。
9 断ち難きしがらみひとつ金縷梅
「断ち難きしがらみひとつ」は主観であり説明ですので、読者に伝わるものがありま
せん。その気持ちは、もの、ことに託して俳句にしましょう。
10 さくら花あまねく映すジムの窓
おそらく作者はジムから窓ガラスを通して桜を見ているのだと思いますが、その場合
は「映す」とは言わないと思います。
11 禅寺の魚板の凹み入り彼岸
彼岸のお参りで見た、長い間使われて叩く部分が凹んだ魚板ですね。魚板と言えば、
「禅寺」は言わなくてもわかると思います。
奥山ひろ子氏評===============================
「魚版の凹み」が歴史を感じさせます。
======================================
12 目借り時開きしままの単行本
状況は分かり易いですが、下五を字余りにしてまで「単行本」であることにこだわら
なくても良いのではないかと思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
私もよくありがちな光景で、共感しました。
======================================
13 老ゆるとは友死ぬことよ桜散る
歳を重ねれば友人が亡くなることも確かにありますが、俳句はそうしたことに対する
小主観を述べるものではないと思います。子規は、次のような内容を含む句を「月並み
俳句」として批判しています。月並み俳句=駄洒落・穿ち(ひねりすぎ)・謎めかし・
理知的すぎる・教訓的・厭味・小利口・風流ぶる・小主観・擬人法の多用
14 花づかれ誰もが座する石のあり
疲れたから→座るという理屈が感じられます。
15 恋敵また一人増え花筵
状況がよくわかりませんでした。花見の宴で、作者の意中の人に複数の人が粉を掛け
ているのでしょうか?
16 菜の花へ降り立つ黄泉の使者の影
「黄泉の使者の影」が何のことを言っているのかが分かりませんでした。何かの比喩
でしょうか?
17 胸元に小鳥の名札入園児
一読、個人情報保護のために、園児の本名でなく「すずめ」や「ひばり」などのニッ
クネームの名札を付けているのかと思いましたが、よく考えたら名札のホルダーが小鳥
の形ということでしょうね。小さい子らしく、可愛らしいですね。
18 逃げ水をかくまふ茂原掩体壕
掩体壕は、飛行機を敵の空襲から守るためのシェルターですね。それが、「逃げ水を
かくまふ」というのは、どういう状況なのでしょうか?
19 余呉の湖水脈ひく二羽の残り鴨
静かな余呉湖を、二羽の鴨がゆっくりと渡って行く。のどかな春の景ですね。
20 先々代のままの表札鳥雲に
上五の字余りを何とかしたいところです。「祖父の名の」等、工夫してみて下さい。
武藤光リ氏評================================
季語を上手に使っている。時の移り変わりとちょっとした
寂寥感が詩情を醸し出している。
======================================
21 人の庭通り抜け行く恋の猫
猫が庭を通り抜けるのは珍しいことではなく、句材としては弱いと思いました。また
「恋猫」はさかりのついた猫を指す言葉として辞書に載っており、「恋の猫」と言うと
意味が変わってしまいます。「春の猫」でしたら、歳時記に載っています。
22 恋猫の闇夜の問答切りもなし
さかりのついた猫の声を問答に喩えるなど工夫がみられますが、その声は「恋猫」の
イメージに含まれますので、所謂「季語の説明」になってしまっていると感じました。
23 やはらかにミモザ揺れをる海の街
ミモザの黄色と海の青の対比が鮮やかですね。上五の「やはらかに」が主観的かつ抽
象的に感じられますので、もっと具体的な描写があると良いと思いました。
24 一車輌園児貸し切り山ざくら
園児たちの遠足でしょうか?「一車両」とありますので、多数ある車両のうちの一つ
ということで、自動車ではなく列車なのでしょうね。山桜は花と葉と幹の色の取り合わ
せが上品に感じられ、ソメイヨシノなどの花が先に咲く品種より大人びたイメージがあ
ります。作者がこの季語を選択した理由に興味が湧きました。
25 神父様の祝辞始まる入園式
カトリック系の幼稚園ですね。神父の温かく穏やかな声が想像されますが、入園式で
祝辞があるだけでは、句材としてちょっと弱いように思いました。上五と下五の字余り
も気になりました。
26 クラシックの静かなひと時風信子
水栽培のヒヤシンスでしょうか? 上五と中七の字余りが気になりました。
27 過疎の村田の畔まっすぐ春化粧
春化粧という季語があるのか、疑問に思いました。中七が字余りです。
28 表札を見とどけ飛びくる初つばめ
燕が毎年同じところに巣を作るのを、表札を見て来ると言ったのだと思いますが、理
屈っぽく感じられました。中七が字余りです。
29 春塵やベルに追はるる昇降口
子供たちが学校に駆け込む様子が浮かびます。下五の字余りが残念です。
30 大店の跡や重機と蟻の穴
大店(おおみせ)は、江戸吉原などの格式の高い遊郭のことで、よく落語などに登場
する言葉ですが、この句の場合は現代の大規模店舗の意味でしょうか? 重機が入って
いる跡地に、蟻の穴が見えるほど入って行って危なくないのかと、心配になりました。
31 比叡比叡湖になだるる棚霞
「比叡」は比叡山のことかと思いますが、「比叡比叡」と重ねた意味・意図を掴みか
ねました。
32 夫婦らし花見帰りか笑みこぼれ
「夫婦らし」も「花見帰りか」も作者の主観ですので、作者がそう思ったものを写生
しましょう。例えば、花筵を持った男女でしたら、それをそのまま言えば、花見帰りの
夫婦らしいことがわかります。
33 右あけるエスカレーター四月馬鹿
エスカレーターの左立ち右空けは、東日本に多いですね。作者は関西の方でしょうか?
34 鉱脈の端にある村春の雷
「鉱脈の端にある村」の具体的な景が浮かびませんでした。鉱脈の端でない村との違
いは何でしょう?
35 月山の白き輝き蒼天に
季語がありません。無季の句を否定するわけではありませんが、基本的にはやはり有
季定型の約束を守って欲しいと思います。
36 花見頃見ながら向かう入院へ
「花見頃」は、「花の見頃」か「花見の頃」か迷いましたが、「見ながら向かう」と
ありますので、「花の見頃」の意味でしょうね。ただ、俳句では花と言えば、蕾や散る
などと言わない限り見頃の状態の花を言います。また、「向かう入院へ」は、「入院へ
向かう」の倒置形だと思いますが、入院は場所ではなく行為を指しますので、「入院へ
向かう」は日本語として不自然だと思います。
37 麗らかやうだつの上がる紙問屋
春の陽気に包まれた老舗の紙問屋の様子が浮かびます。ただ、「うだつの上がる」と
いう表現が気になりました。「うだつが上がらない(=出世しない)」という慣用句が
ありますが、構造物としてのうだつ(卯建)は上げると言うのでしょうか?
38 蝶の昼ATMに長き列
屋外にまで列が伸びているのでしょうね。陽気が良いと、並んで待つのもあまり苦に
ならないかもしれませんね。
39 崩し字の歌碑を隠すか飛花落花
「隠すか」と、疑問や呼びかけと思われる表現となっており、写生と言うよりも作者
の主観が強く感じられました。飛花落花という漢語的で格調の高い季語と相まって、風
流ぶりを感じてしまいました。
40 閑古鳥鳴く店先や春の塵
閑古鳥は夏の季語ですが、ここでは「閑古鳥が鳴く」という慣用句として使われてい
ます。客がいない→塵が積もるという理屈が感じられました。
41 啓蟄や子にうつすらと髭の影
季節が巡るとともに、子も成長して行きますね。季語の斡旋がうまいと思いましたが、
人によってはやや即き過ぎと捉えるかもしれません。
奥山ひろ子氏評===============================
「啓蟄」の季語と、子供さんの「髭」の取り合わせが面白く、作者ならではの感覚を
見た思いです。「うつすらと」の写生もいいですね。小さな生き物、人間共に生命力あ
ふれる時期で、これからの活躍を応援したくなりました。
======================================
42 八十路まだ遊びの途中葱坊主
季語の取り合わせが面白いと思いましたが、13の句でも述べましたように、人生訓、
処世訓、小主観など述べた俳句は、底が浅くなりがちです。
43 父母を連れ妹を連れ入学児
入学児が父母に連れられているのでなく、入学児が父母を連れているというのが面白
いですね。確かに、入学式の主役は入学児ですので、なるほどと思いました。
44 徘徊の道に加はる藤の花
「徘徊」は、認知症の問題行動のようなネガティブなイメージもありますが、ここで
は逍遥や散歩というような意味かと思います。作者の散歩コースにある藤が咲いたとい
うことですが、それを報告するだけでなく、それを見た作者の気持ちが読者に届くよう
に詠めると良いですね。
45 野仏の眉根にひそむ春愁ひ
この春愁は、作者の心に沈んでいるものが、野仏のかんばせに映ったものだと思いま
す。
46 春月や介護施設てふ一社会
確かに、住居型の介護施設は、閉じた一社会と言えると思います。概念的な句ではあ
りますが、添えられた季語により、晩年を迎えた方たちの静かである意味清らかな生活
の様子が偲ばれます。
47 一斉に上がる踏切四月来る
連続踏切のようなところでしょうか? 踏切を渡る人たちの中に、新入生や新社員ら
しき人の姿も見られるのでしょうね。
48 海へ向くふらここの空転校す
海へ向いているのはふらここなのか空なのか、解釈に悩みました。「転校す」の主語
が誰なのかもよくわかりませんでした。
49 箒目の著き神苑朝桜
清々しい早朝の空気感も伝わります。そういう空気を吸えるのも三文の徳ですね。
奥山ひろ子氏評===============================
朝から箒をかけられて、美しい掃き目と桜が清々しいと思いました。
======================================
50 登校の列の乱れや葱坊主
集団登校ですね。やんちゃな子も混じっているのでしょう。
奥山ひろ子氏評===============================
「列の乱れ」が子供らしく、「葱坊主」の音から連想する腕白ぶりに作者のユーモア
を感じました。
======================================
51 満面の児らの自画像チューリップ
「満面の児らの自画像」の意味がわかりませんでした。「満面の笑み」や「得意満面」
のような言い方はしますが、「満面の児ら」や「満面の自画像」という言い方は無いの
ではないかと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
「児らの自画像」がいいですね。自分で自分の笑った顔を描くという平和な姿と、
チューリップの明るい花の個性が合っていると思いました。
======================================
52 逃水にごみ収集車地鳴りして
句意がつかめませんでした。逃水が見えるあたりのところにごみ収集車がいて、その
収集車が地鳴りを起こしているということでしょうか?
53 水浴びをするかに雲雀ホバリング
水浴びの比喩が意外でしたが、全体的に「揚雲雀」という季語の説明に感じました。
54 黙々と畑打つ翁告天子
地を見つめながら畑を打つ人物と、天高く囀る雲雀の対比が良いですね。
55 春雷や的に動かぬ甲矢と乙矢
的に刺さった矢が動かないのは当たり前だと思ってしまいました。
56 御前に匂ふピアスやクロッカカス
ピアスが匂うというのがわかりませんでした。クロッカカスはタイプミスでしょうね。
57 「花」を弾く駅のピアノや春の昼
麗らかな春昼にぴったりの曲ですね。ぴったり過ぎる気も・・・。
58 蝌蚪生まる二級河川の一処
一級河川は国、二級河川は、都道府県が管理する川ですが、その分類を言う狙いがわ
かりませんでした。
59 整形外科の元気をもらふ門桜
整形外科医院の前にある桜の木でしょうか? 「元気をもらう」と言わずに、元気が
湧いてくる景を伝えられると良いですね。上五の字余りも何とかしたいところです。
60 たんぽぽの絮瓦礫の街へ飛んで行け
瓦礫の街とは、どこのことでしょうか? 震災のあった地か、戦火の街か? また、
なぜそこにたんぽぽの絮が飛んで行って欲しいのでしょうか?
61 春の星サンテクジュペリ紐を解く
星とサンテグジュペリは即き過ぎに思いました。また、本を開く意味のひもとくは
「繙く」で、「紐を解く」とは言わないと思います。
62 花菜漬けワインを冷やし帰り待つ
ワイン(白でしょうね)を冷やすという行為には、非日常感があります。何かの記念
日か、良いことなどがあったのでしょうか? 花菜漬がワインに合うのか?とも思いま
したが、こちらも一年のうちごく限られた時期にしか食べられないものということで、
ちょっと特別感がありますね。
63 春めくやローランサンの淡き影
確かに、ローランサンの絵画の色使いは、淡い感じですね。この句の「影」は、陰影
の意味ではなく、光や色合いでしょうね。
64 蓬摘む残る温もり指の先
この「温もり」は心象的な物かもしれませんが、私にはちょっと現実感に乏しく感じ
られてしまいました。
65 豊漁のおこぼれねだる孕猫
漁港に棲みついた猫で、人に慣れているのでしょうね。
66 赤い橋のこちら花街春柳
作者は花街の方から橋を見ているのですね。赤い橋と、芽吹いた柳の薄緑が奇麗です
ね。
67 法螺貝に起こる勝鬨先帝祭
先帝祭という季語を知りませんでした。5月に行われる、下関市の伝統神事なのです
ね。「法螺貝に起こる勝鬨」は先帝祭のワンシーンで勇壮ですが、やや季語の説明的に
も感じました。
68 げんげ田のなかへ気動車停まりけり
電化されていないローカル線ですね。長閑な旅ができそうです。
69 花筏夜半の嵐の置き土産
花筏ができた理由が述べられており、やや理屈っぽく感じました。
70 葉桜や静穏戻る散歩道
桜の花が終わったので→人が減って静穏が戻ったという理屈を感じました。
71 対岸に漕ぎ出す渡しかげろへる
「対岸に漕ぎ出す」は「渡し」の説明に感じました。また、季語のかげろふ(陽炎)
は本来名詞で、「陽炎へる」と動詞化するのは誤用ですが、俳句では動詞化して使って
いる例を良く見かけます。この場合、別の言葉である「陰ろふ・影ろふ」という動詞と
混同されないよう「陽炎へる」と漢字にするか、陽炎の別の言い方である「かぎろひ」
を使って「かぎろへる」とした方が良いと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
素朴な景ですが、写生ができている作ですね。
======================================
72 山葵田に富士の伏流滾々と
富士山の伏流水で育った山葵は、清澄で美味しそうですね。
奥山ひろ子氏評===============================
静岡県でしょうか。水の清らかさと、富士山の遠景が感じられ、気持ちの良い御句と
思いました。
======================================
73 雨上がる花桃の緋や窓明かり
色彩・光を感じる句ですが、三段切れなのが残念です。
74 若き日の住居の跡や春暮るる
若い頃に住んだ家かアパートが今は無くなり、更地になっているのでしょうか? 昔
を偲ぶ作者の心情はわかりますが、季語を含めて具体的な景に乏しいため、読者に伝わ
るものが少ないように思いました。
75 公演に犬猫鳩や諸葛菜
何の公演かと思いましたが、もしかして公園の変換ミスでしょうか? 公園だとして
も、公園に鳩がいたり犬や猫を連れた人がいたりするのは、特に珍しくは無いと思いま
す。
76 足生えて蝌蚪は尻尾を持て余す
13の句の評で述べたように、穿ちや小主観、風流ぶりなどを句に持ち込むと、底の浅
い句になりがちです。
77 花吹雪ときに色あり音のあり
花吹雪という季語を、気取って説明しているように感じてしまいました。
78 若葉雨店へ取り込むのぼり旗
雨が降ったから→幟を取り込むという理屈を感じました。
79 読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌
季語の離れ具合が良いと思いました。
奥山ひろ子氏評===============================
「啄木忌」から、作者の実直なお人柄を想像しました。読み聞かせの本を熱心に吟味
なさる姿が見えます。
======================================
80 釣釜や蛭釘のみに身を任す
釣釜という季語の説明に感じました。
81 炉塞ぎて躙口より庭に出ず
茶道のことは良く存じませんが、茶室は躙り口よりほかに出入りするところは無いの
ではないでしょうか?
82 防砂ネット外せば春の浜となり
一部の観光地の海岸では、防砂ネットが冬の風物詩になっていたりするようですね。
それを取り外したから春というのは、ちょっと安直に感じました。
83 黄砂拭く明日の黄砂のために拭く
明日もどうせまた黄砂が降るからといって、今日の掃除をさぼるわけにも行かないと
いうわけですね。「明日の黄砂のために」のが皮肉で捨て鉢な気持ちを伝えます。
|
【
第314回目
(2026年2月)
HP俳句会 選句結果】
|
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| 【
酒井とし子
選 】 |
 |
| 特選:
筆先の割れる写経や余寒なほ
|
ようこ(神奈川県)
|
|
島国の湖に島あり霞立つ。
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大原女(京都)
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|
ささくれの指に残れり寒さかな
|
たまえ(京都)
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春近き部屋パソコンの起動音
|
直樹(埼玉県)
|
|
小流れの音より春の立ちにけり
|
筆致俳句(岐阜市)
|
|
春めくや赤フレームの眼鏡買ふ
|
如月庵(岐阜県)
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|
老梅や旧家に残るつるべ井戸
|
安楽(岐阜県)
|
|
みどりごのかそけき寝息冬萌ゆる
|
水鏡(岐阜県)
|
|
二月や期限切れなる備蓄水
|
石塚彩楓(埼玉県)
|
|
突堤に並ぶ釣り人鳥帰る
|
惠啓(三鷹市)
|
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 |
| 【
武藤光リ
選 】 |
 |
| 特選:
御手水に小さき青空梅三分
|
蝶子(福岡県)
|
|
寒夕焼指切りをして転校す
|
鷲津誠次(岐阜県)
|
|
出航の船に日矢差す菜の花忌
|
よりこ(名古屋市)
|
|
小流れの音より春の立ちにけり
|
筆致俳句(岐阜市)
|
|
華厳寺の戒壇めぐり余寒なほ
|
筆致俳句(岐阜市)
|
|
湯に放つ若布の緑目に沁むる
|
ようこ(神奈川県)
|
|
老梅や旧家に残るつるべ井戸
|
安楽(岐阜県)
|
|
みどりごのかそけき寝息冬萌ゆる
|
水鏡(岐阜県)
|
|
二月や期限切れなる備蓄水
|
石塚彩楓(埼玉県)
|
|
日向ぼこ夫と二人のティータイム
|
小豆(和歌山市)
|
|
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 |
 |
| 【
奥山ひろ子
選 】 |
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| 特選:
ほろ酔いの父が読み手のかるた取り
|
飴子(名古屋市)
|
|
紅梅のぽつと弾ける日差しかな
|
雪絵(前橋市)
|
|
畔を焼く野良着の匂ふ兜太の忌
|
久保田山蛾(栃木県)
|
|
「よっしゃー」と拳突き上げ合格す
|
貝田ひでを(大阪)
|
|
寒夕焼指切りをして転校す
|
鷲津誠次(岐阜県)
|
|
うつすらと海の蒼吐く蜆汁
|
原洋一(岡山県)
|
|
筆先の割れる写経や余寒なほ
|
ようこ(神奈川県)
|
|
淡雪や少年野球の卒部式
|
蝶子(福岡県)
|
|
おぼろ夜や枕元にはランドセル
|
鷲津誠次(岐阜県)
|
|
日向ぼこ夫と二人のティータイム
|
小豆(和歌山市)
|
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| 【
渡辺慢房
選 】 |
 |
| 特選:
出航の船に日矢差す菜の花忌
|
よりこ(名古屋市)
|
|
唐梅や撫で牛少し微睡みぬ
|
みぃすてぃ(神奈川県)
|
|
寒夕焼指切りをして転校す
|
鷲津誠次(岐阜県)
|
|
小流れの音より春の立ちにけり
|
筆致俳句(岐阜市)
|
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筆先の割れる写経や余寒なほ
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ようこ(神奈川県)
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老梅や旧家に残るつるべ井戸
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安楽(岐阜県)
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みどりごのかそけき寝息冬萌ゆる
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水鏡(岐阜県)
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遠くまであおぞら薄紅の冬芽
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石塚彩楓(埼玉県)
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御手水に小さき青空梅三分
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蝶子(福岡県)
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淡雪や少年野球の卒部式
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蝶子(福岡県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、ようこさん(神奈川県)でした。「伊吹嶺」二月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2026年2月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 ほろ酔いの父が読み手のかるた取り
微笑ましいお正月の風景ですね。下五は「歌留多かな」とすると句が締まると思いま
す。
奥山ひろ子氏評===============================
「ほろ酔いの父」がいいですね。お父様にとって幸せな時間で、ご家族のほのぼのとし
た雰囲気が感じられました。「ほろ酔ひ」でいただきました。
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2 冬空に楓の実殻の揺れやまず
冬空を背景に楓(ふう)の実が寂しげに揺れている様子が浮かびます。
3 隠沼の無明を破る鴨の水脈
格調を感じる句ですが、隠沼(こもりぬ)の水脈が見えるという点に矛盾を感じてしま
いました。
4 雪かぶり黙して立てる地蔵かな
写生句ですが、「黙して立てる」は地蔵の描写としては当たり前のように感じました。
5 寒風に吹かれ山茶花いと強し
寒風と山茶花の季重なりです。また、「いと強し」と作者の主観をそのまま言わない
で、その強さが読者に伝わるようにしたいですね。
6 盆梅の老樹いまだに精気あり
「いまだに精気あり」は作者の主観で、報告的です。精気を感じた点を具体的に写生
して欲しいと思いました。
7 善哉忌環状線の駅メロディー
織田作之助の忌日ですから、この環状線は大阪でしょうね。ネットで調べたところ、
19の駅にそれぞれ違うメロディーがあるとのことですが、それが善哉忌とどう響くの
かがよくわかりませんでした。
8 鬼やらひ神社の下を電車過ぐ
事実・実景だと思いますが、それを作者がどう感じたのかが伝わって来ませんでした。
9 焼畑の里の猟夫の清め酒
景が見えるようで、なかなか見えて来ませんでした。焼畑の里より、焼畑と言った方
が具体的な景が見えると思います。清め酒も、猟夫が飲んでいるのか、銃や罠に振りか
けたりしているのか?
10 軽便の駅長室の冬帽子
この句も、状況がよくわかりませんでした。この帽子は、駅長が被る制帽で、冬用の
ものがあるのでしょうか? 帽子の主は駅長だと思いますが、帽子を置いてどこへ行っ
たのでしょうか? 作者はなぜ駅長室にいるのでしょうか?
11 唐梅や撫で牛少し微睡みぬ
撫で牛の傍に蝋梅が咲き、その香が漂っています。作り物の牛がまどろむなどという
ことは無いのですが、なんとなくそんな気にさせられます。
12 虎落笛今夜は月夜動く影
三段切れで、上五と下五が名詞で入れ替えても句が成り立つ、いわゆる「観音開き」
ですね。虎落笛(冬)と月夜(秋)の季重なりでもあります。
13 日向ぼこ日本は海に寝ころんで
雄大でユニークな発想ですね。
14 島国の湖に島あり霞立つ。
春の湖の景ですね。海(湖)と島の入子構造が面白いです。最後の「。」は打ち間違い
でしょうか。
15 ささくれの指に残れり寒さかな
中七「残れり」だとここで切れて、「ささくれが指に残った。寒い!」という意味に
なります。「残りし」とすると、「ささくれのある指に寒さが残った」という意味にな
ります。
16 電車止め飛行機を止め春一番
春の訪れを告げる嬉しい風のようですが、そういう実害もあるのですね。
17 春寒や信号無視の猫過る
逆に、信号を守る猫がいるのか?と思ってしまいました。
18 紅梅のぽつと弾ける日差しかな
「ぽつと弾ける」がいかにも春らしいですね。日差しの温かさが伝わります。
奥山ひろ子氏評===============================
作者は開花の瞬間をごらんになったのでしょう。「弾ける」は「弾くる」で瞬間を捉
えた措辞の生き生きした表現がいいと思いました。
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19 料峭や風雷神の鋭き眼
春先の風はまだまだ冷たく感じます。風神雷神の眼光の鋭さに通じるものがあります
ね。
20 春兆す鬼怒の瀬音よ風音よ
鬼怒川は栃木を流れる清流で、茨城で利根川に合流します。作者はこの川の瀬音、風
音に春を感じたのですね。
21 早梅を愛でて里山振り返る
俳句では、「早梅や」と書けば、愛でている気持ち、様子が十分に伝わります。
22 脳天を突きて寒水素通りす
句意がわかりませんでした。何が脳天を突いて、寒水がどこを素通りするのでしょう
か?
23 寒風に哭く千年の大欅
大欅を吹き渡る風の音を、「欅が哭く」と表現されました。作者にはそのように聞こ
えたのでしょう。大欅だけで、樹齢の長い古木の様子が浮かびますので、「千年の」と
いう説明的な措辞は無くても良いように思いました。
24 春近き部屋パソコンの起動音
PCの起動音に春の気配を感じられたのですね。私には無い感性で、感心しました。
25 野焼なる消防団の煤け顔
「なる」は多様な意味・用法がある日本語ですが、この場合の意味がよくわかりませ
んでした。「野焼きである」という意味でしょうか? また、「消防団の煤け顔」を詠
むことで、作者は何を伝えたかったのでしょう? 滑稽? 慰労? 不快? 読者により解
釈が異なるような気がしました。
26 畔を焼く野良着の匂ふ兜太の忌
畔焼と兜太忌の季重なりです。
奥山ひろ子氏評===============================
「匂ひ」は畔焼の匂いと拝察しましたが、農業にも取り組んだ兜太を念頭に詠まれ、作
者の兜太への敬慕を感じました。「匂ひ」で切れを入れてもいいかと思いました。
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27 陸海空のダイヤを乱す春一番
16番の句と同じ句意ですね。こちらはやや説明的に感じました。
28 「よっしゃー」と拳突き上げ合格す
合格を季語としている歳時記もあるようですが、入学試験以外の各種試験の合格もあ
りますので、はっきりとした春の季語を入れたいところです。例:春光に拳突き上げ合
格す
奥山ひろ子氏評===============================
合格を知った瞬間そのままを切り取られた印象で、うれしさが伝わってきました。
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29 寒夕焼指切りをして転校す
再会を約す指切りでしょうね。冬の夕焼けが淋しく奇麗です。
奥山ひろ子氏評===============================
転校は切ないもの。その気持ちが「寒夕焼」の季語によく投影されています。
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30 萌黄さすほつほつふふむ蕗のたう
蕗の薹の説明的に感じました。
31 うつすらと海の蒼吐く蜆汁
確かに蜆汁は青みがかりますが、蜆は海ではなく淡水または汽水に棲みますので、
「海の蒼」が気になりました。
奥山ひろ子氏評===============================
そうなんです。蜆汁は少し青味がかります。なるほど、「海の蒼」なのですね。詩的
表現がいいですね。
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32 湖畔には万羽の鶴や宙鳴らし
「宙鳴らし」の意味がわかりませんでした。
33 上七軒幽けき路地へ牡丹雪
上七軒は、京都の古い花街とのことですね。「幽けき路地」は細い路地というような
意味でしょうか? 情景の見える句ですが、中七を「や」で切ると更に句が締まると思
いました。
34 冴返る皿取り落としたたく床
意味がよくわかりませんでした。床を叩いたのは、作者が取り落とした皿でしょうか?
作者でしょうか?
35 浮寝鳥時に柵越える夢
浮寝鳥が、時々は柵(しがらみ)を越える夢を見ているだろう・・という句意でしょう
か? 浮寝鳥は空を飛べますので、いつでも自由に柵を越えられると思います。
36 新調の車椅子にて老いの冬
「にて」とありますので、作者はこの車椅子に乗られているのだと思います。「老い
の冬」という淋しさがにじむ語句がありつつも、車椅子を新調されて快適になった静か
な嬉しさも伝わります。
37 大雪に村埋れんとしていたり
雪国では、年に何度もこういう景を見るのでしょう。
38 野遊びや母置き去りに掛けまはり
元気の良い子供ですね。「掛け」は「駆け」ですね。
39 出航の船に日矢差す菜の花忌
司馬遼太郎と言えば、歴史小説や紀行文学の大家で、上五中七がよく似合っています
ね。
40 春風のやうにタッチの駅ピアノ
「春風のやうにタッチの」の意味がわかりませんでした。「春風のやうなタッチの」
でしたら、ピアノの鍵盤のタッチの比喩表現かと思えるのですが…。ただし、この場合
でも春風は季語としては働かないと思います。
41 スマホ消え本の電車に受験生
「スマホ消え本の電車」の意味がわかりませんでした。
42 小流れの音より春の立ちにけり
水の音は、春を感じる音の代表格ですね。
43 華厳寺の戒壇めぐり余寒なほ
寒さの残る中での戒壇めぐりですね。引き締まった空気が感じられます。
44 筆先の割れる写経や余寒なほ
余寒の句が続きます。こちらは、筆先が割れて掠れた文字に寒さを感じたのですね。
奥山ひろ子氏評===============================
「筆先の割れる」がいい写生。文語は「割るる」ですね。季語と共鳴していると感じ
入りました。
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45 湯に放つ若布の緑目に沁むる
生の若布は褐色で、熱湯に入れると瞬時に鮮やかな緑色に変わります。それは感動的
と言っても良いと思いますが、「目に沁むる」と主観を語らないで、作者の感じた感動
が読者に伝わるようにしたいですね。
46 絵らふそく雪の三寺参りかな
状況はわかりますが、「三寺参り」というがちょっと説明的に感じました。これを言
わずに、蝋燭と雪を具体的に描写して、三寺参りの様子を読者に伝えることができると
もっと良くなると思います。意味や状況が伝わらない句も困りますが、あれこれと説明
しすぎるのも良くありません。俳句では、読者の句を解釈する力を信じることも大切で
す。
47 新雪にあらたなる雪十日町
十日町は豪雪地帯で、積雪の被害も出ているようですね。「新雪にあらたなる雪」は
工夫がうかがえますが、やはり言葉の矛盾を感じてしまいました。
48 世の中へ目を剥く仁王冬木立
仁王像と冬木立の対比が良いと思いますが、「世の中へ目を剥く」が仁王の描写とし
ては浅いように感じました。
49 梅が香の伝へておりし風の向
きれいな句ですが、梅の香りが風に乗ってきたというだけでは、句材としてちょっと
弱いと思いました。
50 春めくや赤フレームの眼鏡買ふ
春と赤がやや「即き過ぎ」に感じました。
51 枝垂梅降り注ぐ如いのち咲き
「降り注ぐ如」は枝垂梅の形容だと思いますが、「いのち咲き」の意味がわかりませ
んでした。梅の花をいのちに喩えたのでしょうか?
52 まだ白き伊吹の嶺や春寒し
山頂にまだ雪が残っている=寒いという理屈を感じました。
53 老梅や旧家に残るつるべ井戸
できている句ですが、中七下五の描写で梅の木も老木であることはわかりますので、
上五にもう一工夫あると更に良くなると思いました。
54 秒針の音なき校舎浅き春
「秒針の音なき校舎」がよくわかりませんでした。逆に、常に時計の秒針の音が聞こ
える校舎というのがあるのでしょうか?
55 街は今蒼き沈黙冴え返る
「街は今蒼き沈黙」がわかりませんでした。どういう状況なのでしょうか?
56 鳥帰る遅延を告ぐる時刻表
時刻表は、定時運行の時刻が載っており、遅延の情報は書かれていない(事前には書
けない)と思います。
57 みどりごのかそけき寝息冬萌ゆる
これから成長が加速して行くことを予感させますね。
58 咳の子に昔話をして共寝(ともね)
風邪がうつらないようにしてください。
59 春だねと犬の呟く散歩かな
犬が人語を話すはずはありませんので、作者にはそう聞こえたということかと思いま
すが、ちょっと突飛な感じがしました。
60 濁りたるオリーブ油の香冴返る
オリーブ油は、冷蔵庫や寒い部屋などに置くと白く濁ったり固形化したりしますね。
ただ、その状態での香りを作者がどう感じたか、この句からは読み取れませんでした。
61 沁み渡る濯ぐ歯磨き余寒なほ
「沁み渡る濯ぐ歯磨」が良くわかりませんでした。歯を濯ぐときの冷たい水が歯に沁
みるということでしょうか?
62 遠くまであおぞら薄紅の冬芽
「遠くまであおぞら」という措辞はちょっと不思議な感じがしましたが、冬の澄んだ
空気が感じられます。空の色と冬芽の対比が良く、中七下五の句またがりも効果的に働
いていると思います。
63 二月や期限切れなる備蓄水
三月十一日が近づきますね。ローリングストックなどを上手に行って、備蓄品が期限
切れにならないようにしてください。
64 息詰めて舞う飛ぶ走る冬五輪
冬五輪が季語になるか気になりました。また、「舞う飛ぶ走る」選手が息を詰めるの
は無理があると思います。しかし、それは置いておいて、全体的に俳句というよりオリ
ンピックのスローガンかキャッチフレーズのように感じました。どれかの競技に着目し
て、感動した一瞬を切り取ってみては如何でしょうか?
65 サンドウィッチレタスで挟む蕗の味噌
蕗味噌は大好物で毎年自分で作りますが、サンドイッチに使うという発想は無く、驚
きました。今度勇気を出してやってみます。クリームチーズなども合いそうですね。
66 突堤に並ぶ釣り人鳥帰る
釣り人たちと鳥の関係が弱いように思いました。釣りをする人たちは、竿先や浮きな
どに注意を向けており、渡り鳥を気にする人は少ないような気がします。
67 眼と耳の老化の愁ひ蜆汁
上五中七は、個人的に非常に共感しますが、下五の季語がいまいちはまらず、いわゆ
る「季語が動く」ように感じました。
68 拝殿の太鼓どどんと春兆す
拝殿の太鼓は一年中同じ音で鳴ると思います。その中でどう春を感じられたのかが伝
わると良いと思いました。
69 傘に少し入れくれたる春ショール
春ショールを纏った人が、作者を傘に入れてくれたということでしょうか? 「少し」
とありますので、あまり雨が防げず、濡れてしまったのでしょうか?
70 梅まつり所々に投句箱
「所々に投句箱」は、写生というより報告に感じました。それを作者がどう感じたか
が、読者に伝わるようにして欲しいと思います。
71 もやもやの心に灯る黄水仙
心に思った想像上の黄水仙でしょうか? それは季語として機能しないと思います。
72 冬ざれや床屋裏口の手拭い
「床屋裏口の手拭い」の景が浮かびませんでした。何のために、裏口のどこにどのよ
うに置かれて(吊るされて?)いる手拭いなのでしょうか?
73 左手を離れる兄よその手に弟
状況がわかりませんでした。作者が兄弟の兄と左手を繋いでいて、その手を放して今
度は弟と手をつないだということでしょうか?
74 御手水に小さき青空梅三分
「小さき青空」と「梅三分」が良いですね。細かい部分ですが、上五の助詞は「に」
以外にも使えるものがあります。どの助詞がベストか、よく検討したいですね。(にが
ダメと言っているわけではありません。)
武藤光リ氏評================================
映像がしっかりしている。
梅三分と小さき空が響き合い、肌寒い早春の神社が表出された。
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75 淡雪や少年野球の卒部式
春の雪降る中でのラストゲームでしょうか。中八が残念ですね。
奥山ひろ子氏評===============================
「卒部式」というのがあるのですね。「淡雪」の季語がやさしく卒部する球児を包ん
でいるように思いました。
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76 おぼろ夜や枕元にはランドセル
屋外の景と屋内の景が混ざっている点が気になりました。
奥山ひろ子氏評===============================
新入生あるあるですが、「おぼろ夜」という季語で夢やわくわくする気持ち、もやも
やする不安まで感じました。季語の力です。
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77 節分を佳き日と嫁ぎはや幾年
「節分に嫁いだ」という事実を回想している句ですので、桜の絵の桜が季語にならな
いのと同様、この場合の節分は季語になりません。
78 日向ぼこ夫と二人のティータイム
微笑ましいですね。上五と下五を入れ替えても成り立つ、いわゆる「観音開き」なの
が残念です。
奥山ひろ子氏評===============================
仲良しご夫婦を写生すると、このような御句になるのですね。素敵です。
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79 集金の近道険し笹子鳴く
状況がよくわかりませんでした。何の集金に、なぜ険しい道を歩いているのでしょう
か?
80 生姜湯の碗撫す吾の余生まだ)
余生はまだ来ない? 余生はまだ続く?
81 焼き芋を二個ふところに友見舞ふ
あまり深刻ではない怪我や病気なのでしょう。気の置けない友人と、一個ずつですね。
82 寒明けを待たずいそいそ鍬手入れ
いそいそに、早く畑に出たい気持ちが表れていますね。ただ、いそいそと言わずにそ
の気持ちがわかるようにすると、さらに良くなると思います。
83 待春の木曽馬砂浴び豪快
中七下五の破調が気になりました。豪快というのは作者がそう感じたということです
が、そうした主観を言わずにその気持ちを読者に伝えると良いと思います。
84 父の香は上の抽斗室の花
句の意味がわかりませんでした。温室の上段の引き出しに、お父様が愛用されている
(されていた?)コロンでも入っているのでしょうか?
85 凍てし朝いざ出陣と受験生
凍てる(冬)と受験生(春)の季重なりです。「いざ出陣」も受験生の描写として新鮮味
を感じませんでした。
86 朝焼けや一輪開く梅の花
朝焼け(夏)と梅(春)の季重なりです。「一輪開く」も梅の描写としてありきたりに感
じます。
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