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選句結果
     
第312回目 (2025年12月) HP俳句会 選句結果
【  酒井とし子 選 】
  特選 母と児のしりとり続く冬の道 花虻(滋賀県)
   民宿は元武家屋敷冬の雨 ゆきえ(和歌山市)
   図書館に馴染みの席の冬帽子      鷲津誠次(岐阜県)
   砂浜に網干す漁師冬うらら 筆致俳句(岐阜市)
   枯蓮や陽を撥ね返す水の黙 原洋一(岡山県)
   学校のチャイムかすかに夕枯野 素風(岩手県)
   縁側の猫のあくびや漱石忌 ようこ(神奈川県)
   雪しまく辯天堂の赤格子 康(東京)
   山眠る古城の庭のワイン樽 康(東京)
   回覧に至急の朱書き年の暮 惠啓(三鷹市)
【  武藤光リ 選 】
  特選 枯蓮や陽を撥ね返す水の黙 原洋一(岡山県)
   山茶花や婦人科病棟北五階 百合乃(滋賀県)
   粕汁や競輪場の安食堂      田村幸之助(和歌山県)
   向き合うて絵本読む子や冬うらら 大原女(京都)
   冬星やすとんと暮れし鳰の湖 みのる(大阪)
   入山の禁止立札山眠る 筆致俳句(岐阜市)
   打たせ湯の風の揺らめき神の旅 正憲(浜松市)
   家計簿に憂さの積もりて十二月 よりこ(名古屋市)
   縁側の猫のあくびや漱石忌 ようこ(神奈川県)
   短日や大橋くぐる小さき水脈 近江菫花(滋賀県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 石庭の波に漕ぎ出す朴落葉 雪絵(前橋市)
   蒼天やダム湖をわたる鷹の声 野津洋子(愛知県)
   粕汁や競輪場の安食堂      田村幸之助(和歌山県)
   皺多き手をしみじみと去年今年 垣内孝雄(栃木県)
   民宿は元武家屋敷冬の雨 ゆきえ(和歌山市)
   向き合うて絵本読む子や冬うらら 大原女(京都)
   冬晴やプールに河馬の耳目鼻 まこと(さいたま市)
   水を切る鮭の背鰭や月の川 素風(岩手県)
   チェロの音のホールに満ちて冬ぬくし 佐藤けい(神奈川県)
   凍てし夜や鉄橋渡る音遠し 美由紀(長野県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 母と児のしりとり続く冬の道 花虻(滋賀県)
   粕汁や競輪場の安食堂 田村幸之助(和歌山県)
   石庭の波に漕ぎ出す朴落葉      雪絵(前橋市)
   冬晴やプールに河馬の耳目鼻 まこと(さいたま市)
   砂浜に網干す漁師冬うらら 筆致俳句(岐阜市)
   打たせ湯の風の揺らめき神の旅 正憲(浜松市)
   銀杏散りやまず緩和ケア棟の窓 よりこ(名古屋市)
   水を切る鮭の背鰭や月の川 素風(岩手県)
   短日や大橋くぐる小さき水脈 近江菫花(滋賀県)
   着ぶくれて鏡に映るあなた誰 美由紀(長野県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、花虻さん(滋賀県)でした。「伊吹嶺」12月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2025年12月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

1	片方の補聴器外し神の旅

 神様が補聴器を外して旅立ったように思えてしまいました。

2	奥付に見つくる先師暮の秋

 著者の一人に亡くなった師の名前が載っていたのですね。過ぎゆく秋が一層寂しさ、
懐かしさを募らせます。

3	孫抱きて自治会の来し敬老の日

 自治会の役員か何かの係の人が来たという意味かと思いますが、省略の仕方にちょっ
と無理があるように思いました。下五は「敬老日」として字余りを解消した方が良いと
思います。

4	完成と思える俳句秋の空

 この俳句がそれでしょうか?

5	山茶花や婦人科病棟北五階

 山茶花は、病棟に飾られた切り花でしょうか? 婦人科病棟と言うだけで状況がわか
りますので、南北や階数を言う必要は無いように感じました。

6	末枯の中にすがれし花ニ輪

 末枯とすがれ(末枯れ)は同じ意味です。

7	装ひのなほ留まりぬ秋の山

 秋の山を形容する「山装う」という季語を説明したように感じました。

8	車停め連山眺め秋思ふと

 何か、順序が逆のような感じがしてしまいました。秋思が湧いたために車を停め、山
を眺めたのではないでしょうか?

9	粕汁や競輪場の安食堂

 競輪場に行ったことが無いので勝手な想像ですが、赤鉛筆を耳に挟んだ人たちが、粕
汁を啜りつつワンカップや缶ビールを飲んでいるイメージが湧きました。私もそういう
ところで飲むのが好きです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 生活感あふれる作品。「粕汁」と「安食堂」が雑多な雰囲気を捉えていると思いまし
た。

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10	古団地押しくら饅頭せし公園

 子供の頃に住んでいた団地でしょうか? 思い出の公園でいろいろな遊びをしたので
しょうが、冬はやはり押しくらまんじゅうですね。

11	冬麗や今朝も一輪遊女の墓

 今も毎日花を供える人がいるのでしょうか? 下五が字余りなのが残念です。

12	足元の落葉に夕日さす木の間

 様子はなんとなくわかりますが、落葉、夕日、木の間のどこに焦点があるのかわかり
ませんでした。

13	皺多き手をしみじみと去年今年

 手をしみじみと「見ている」のでしょうね。多くの歳を重ねてきた感慨ですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 石川啄木を彷彿とさせますね。「去年今年」の季語により、今年一年を振り返る作者
の思いに共感しました。

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14	前篭に食パン二斤落葉道

 自転車の前籠でしょうね。「食パン二斤落葉道」からは、作者の気持ちが読み取れま
せんでした。大好きなパンを買ってうきうきしているようにも、米が高くて仕方なく好
きでもないパンを買ったようにも取れました。

15	民宿は元武家屋敷冬の雨

 冬の雨はうら寂しい感じがします。作者は、かつて武家屋敷だった家屋が今は民宿に
なっていることを嘆いているのでしょうか?

 奥山ひろ子氏評===============================

 「民宿」と言っても立派な建物なのでしょう。元武家屋敷という歴史的資産をうまく
利用しているのですね。

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16	向き合うて絵本読む子や冬うらら

 向き合っていては同じ本は読めませんので、それぞれ別の本を読んでいるのでしょう
ね。「肩並べ」等、一緒に同じ本を読んでいる景の方が、より季語が活きると思いまし
た。
 奥山ひろ子氏評===============================

 「向き合うて」がポイントで、仲の良い様子が伝わりました。音便も効いていると思
います。

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17	冬ざれや尾にも塩振る焼肴 

 焼魚ではなく焼肴とされたところにこだわりを感じ、化粧塩をされた、会席などの格
式ある料理が浮かんできます。冬ざれは、歳時記によると「見渡す限り冬の景で、荒れ
さびた感じをいう。」とあり、中七・下五と合うか疑問に感じました。

18	芋煮会京の瀬音に集い来る

 私は東北の出身なので、芋煮会は子供のころから身近ですが、京都の方でも楽しまれ
ているのですね。 瀬音や集うは、芋煮会のイメージに含まれるように思いました。

19	図書館に馴染みの席の冬帽子

 なんとなく、わかるようなわからないような・・・という感じがしました。図書館に
馴染みの席があるのは作者なのか第三者なのか? 冬帽子は誰かが被っているのか?そ
れとも席に置いてあるのか・・・?

20	寒鮒の心得顔に釣られけり

 魚に表情があるの??と思いましたが、同時にそこに俳味を感じました。

21	冬星やすとんと暮れし鳰の湖

 すとんが、冬の日暮れの早さを表しています。冬星と鳰の季重なりが気になりました。

22	除夜の鐘うつつもゆめも胸に染む

 除夜の鐘を聞きながら、行く年来る年に思いを馳せているのですね。「うつつもゆめ
も胸に染む」は主観的・観念的ですので、もっとモノに託して気持ちが伝えられると良
いと思いました。また、染むは沁むの字を当てた方が良いと思います。

23	待ちわびるポインセチアを飾る窓

 待ちわびるのは作者なのか、ポインセチアなのか、窓なのか、よくわかりませんでし
た。

24	小夜時雨路地の奥にはジヤズ喫茶

 雰囲気のある句ですね。「路地の奥には」が説明的ですので、「路地の奥なる」とさ
れては如何でしょうか?

25	冬空は日暮れて暫し湖のあを

 切れが無く、時間の経過を詠まれていることもあって、散文的に感じました。「空が
日暮れる」は重複感のある言い方ですので、「空が暮れる」で良いと思います。

26	能面へ神を宿して舞ふ神楽

 冬の季語の神楽を説明した印象ですが、神楽面と能面は似ていますが別のものですし、
面に神を宿すというのも疑問に感じました。

27	冬の雷睨みし能登のゴジラ岩

 冬の日本海に轟く雷と、それを睨むゴジラ岩、迫力のあるシーンを目撃されましたね。

28	冬青空古きお堂に深き闇

 冬空の明るさと、堂の中の闇との対比ですね。

29	母と児のしりとり続く冬の道

 手をつなぎ、白い息を吐いてしりとりをしながら冬の道を帰る母子が見えてきます。
小さな子供ということを強調するために「児」の字が使われることが良くありますが、
この句の場合は「母と子」として親子関係を強調した方が、より温かみが出るように思
いました。

30	難渋のスマホに焦る冬の暮

 スマートフォンの操作が良くわからなくて焦っておられるのだと思います。「難渋」
と「焦る」に重複を感じました。

31	暮早し杖と手押しの飯支度

 手押しは、手押し車のことでしょうか?

32	石庭の波に漕ぎ出す朴落葉

 枯山水の庭でしょうか。朴の葉は大きいので、船に見立てるのもしっくりきますね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「漕ぎ出す」の措辞が面白い表現。朴落葉ならまさに小舟のような形ですね。落葉に
意思があるような表現が独創的で、落葉でありながら命を感じるという点で、特選にい
ただきました。

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33	枯蔓の生きざま見たり牧の柵

 作者の主観を述べるのではなく、実景を写生して感動を読者に伝えましょう。また、
「枯蔓の生きざま」という言葉に矛盾を感じました。

34	凩や文机の灯のもの寂し

 「もの寂し」と作者の感じたことをそのまま言うのではなく、物を写生することでそ
の気持ちを読者に伝えられると良いですね。

35	凡庸に八十路の坂や年の暮

 この坂は上るのか?下るのか?などということを、ふと考えてしまいました。いずれ
にしても、凡庸なのが一番良いような気がします。

36	日短ノルマンディーの兵の墓

 「ノルマンディー上陸作戦」という古い戦争映画を思い出しました。第二次世界大戦
の激戦地ですね。暮れ行く墓地の向こうには、モン・サン・ミシェルが見えそうな気が
します。

37	冬晴やプールに河馬の耳目鼻

 河馬といえば、坪内稔典氏が浮かびますが、こちらは素直な写生句です。厳密に言え
ばプールは夏の季語ですが、ここでは気になりません。

 奥山ひろ子氏評===============================

 河馬の耳と目鼻だけが水面上に表れているのですね。河馬ののんびりした様子が伝わ
りました。

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38	行く年や小さき干支の逢ひ上がる

 「小さき干支の逢ひ上がる」の意味がわかりませんでした。「縫ひ上がる」の誤記で
しょうか?

39	鉄瓶の沸く音たかし寒の夜

 寒は、寒の入(小寒)から節分前までの約30日間を言います。寒い夜の意味でしたら、
「冬の夜」や「寒夜(かんや)」「夜半の冬」などの季語があります。

40	木枯らしや毒吐く口の寄り難し

 「毒吐く口」は、「毒のある言葉を吐く口」の意味でしょうか? 木枯らしが吹かな
くても、そういう人にはあまり関わりあいたくないですね。

41	入山の禁止立札山眠る

 納得できる句ですが、ちょっと理屈っぽく感じました。

42	砂浜に網干す漁師冬うらら

 景がよくわかり、季語も合っていると思います。欲を言えば、網干すで砂浜の景は見
えて来ますので、漁師の動作を写生するなどすると、さらに良くなるように思います。

43	木の葉また落ちゆく木曽の深さかな

 「夜明け前」の冒頭が浮かんできました。

44	打たせ湯の風の揺らめき神の旅

 風が吹いたので、打たせ湯が揺れたということですね。季語がうまいと思いました。

45	家計簿に憂さの積もりて十二月

 作者の主観がそのまま出ており、俳句というより、川柳として読むと味わいがあると
思いました。

46	銀杏散りやまず緩和ケア棟の窓

 この句の場合は、字余りや句跨りの破調が、良い味になっていると思いました。

47	海境へ漕ぎ出す漁船鰤起し

 海境(うなさか)は、神々の世界(常世)と人間の世界を隔てる海の果て。鰤起しは豊
漁の前触れ。勇壮な船出が目に浮かびます。

48	煤逃もかなはぬ二人暮らしかな

 俳味がありますね。以前に作った拙句「早く逃げよと妻の云ふ煤払ひ」を思い出しま
した。

49	枯葉降る茶屋の抹茶や掌にほのか

 掌にほのか(に温かい)は、抹茶のことを言っているのだと思いますので、中七は「や」
で切らない方が良いと思います。「枯葉降る茶屋の抹茶の温みかな」等。

50	大名の園に御座舟秋の水

 神戸の相楽園でしょうか? 舟と水がやや即き過ぎの感じを受けました。

51	枯蓮や陽を撥ね返す水の黙

 冬の陽光の静けさ、透明感が伝わります。「水の黙」がちょっと観念的に感じました。

 武藤光リ氏評================================

  ふと、猿の惑星を感じたのではなかろうか。突然に過った終末への予感。
  17文字の詩となった。

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52	柚子浮かべ旅の叶はぬ母癒す

 温かい気持ちが伝わります。「柚子浮かべ」は、風呂のことだと思いますので、はっ
きりと柚子湯または柚子風呂とした方が良いと思いました。また、「癒す」は言わずに、
読者に察してもらうようにした方が、句に奥行きが出ると思います。

53	学校のチャイムかすかに夕枯野

 遠くから聞こえるチャイムが、夕暮れの枯野の寂しさ、懐かしさを膨らませますね。

54	水を切る鮭の背鰭や月の川

 月明かりの中の鮭の遡上ですね。見たことがありませんが、想像するに印象的な景と
思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 北海道の鮭の遡上なのでしょう。力強い野性味を感じ、同時に美しい月も出ており素
晴らしい景だと思いました。

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55	ブナノキの落ち葉掃く人召し使ひ

 ぶなの落葉を掃いている人が召し使いであるという事実に、どんな感慨が込められて
いるのかが読み取れませんでした。現在、召し使いという職業・身分の人が存在するの
か?という点も疑問に感じました。

56	手押し車の散歩の婆を見ぬ師走

 心配されているのでしょうか?上五の字余りはなんとかしたいところです。

57	烏瓜十五六個も空き家軒

 烏瓜がはびこるほど長い間放置された空き家なのでしょう。下五が寸詰まりの感じを
うけました。

58	金目鯛釣り好き婿の手のぬくみ

 状況がよくわかりませんでした。婿殿(娘の夫)が金目鯛を釣って来て、作者は婿殿の
手に触れているのでしょうか? それとも、渡された金目鯛に、婿殿の手の温みが残っ
ていたということでしょうか?

 【註】投句は「手のむくみ」でしたが、作者より、「むくみ」は「ぬくみ」の打ち間
違いであるとの御連絡を戴きました。HP句会は、投句された句を自動処理でホームペー
ジに掲載しているため、投句一覧の句の訂正はできませんが、講評の方は訂正して掲載
致しました。

59	縁側の猫のあくびや漱石忌

 漱石と猫は即き過ぎに感じました。

60	親父似の達磨抱へる年の市

 頑固親父だったのでしょうか?俳味があります。

61	寒旱槌音高く響きけり

 私は上五の季語にネガティブなイメージを感じるため、中七下五とバランスが悪いよ
うに思えてしまいました。

62	息白く始発電車の二番線

 早朝のホームですね。「二番線」にどういう思いが込められているのかが読み取れま
せんでした。

63	指折らず足し算できてクリスマス

 季語がしっくり来ないように感じました。

64	吾子の問ふ蜜柑のすじは取る取らぬ

 お子さんに蜜柑の皮を剥いてもらっているのでしょうか? 状況がよくわかりません
でした。

65	十四日過ぎていそがし年の暮

 年の暮れは忙しいものです。十四日になにか特別な意味があるのかと考えてみました
が、よくわかりませんでした。

66	枯野原ひねもす遊ぼう鳥と星

 ひねもすは、朝から夕方までという意味ですが、昼間に星が出ているのでしょうか?

67	一茶忌の雀と遊びたき日より

 小春日に、ふと今日は一茶忌だと気づいたのですね。そうすると、雀が頭に浮かぶの
は自然ですね。

68	艶やかに黒豆仕上げ年用意

 破れや皺無く上手に煮あがったのですね。年用意の一景。

69	青空へ百年聳ゆ大銀杏

 季語がありません。

70	干し上げしタオルに縋る冬の蠅

 「縋る」に冬の蠅らしさが出ていますが、蠅が干したタオルにとまるのは珍しいこと
ではありませんので、もう一工夫欲しいと思いました。

71	雪しまく辯天堂の赤格子

 上野の不忍池の辯天堂を想像しました。雪が舞う中の朱色が印象的ですね。

72	山眠る古城の庭のワイン樽

 庭にワイン樽がある城というと、欧州等の海外でしょうか? 山中にひっそりと立つ
洋風の城を想像しました。

73	冬川の尽きたる流れ樹々の影

 「尽きたる流れ」は冬の川の説明に感じました。

74	冬晴の豊かな波をふたりして

 句の意味や状況がよくわかりませんでした。二人でサーフィンをしているのでしょう
か?

75	回覧に至急の朱書き年の暮

 年の暮れの慌ただしさがこんなところにも感じられます。

76	眠らざる熊ふところに山眠る

 熊も人里に出ず、山懐にいてくれれば良いのですが…。

77	向かひ席の皆マスクして昼電車

 句材として取り上げるほどの面白い景とは感じませんでした。

78	ビル解体美しく開ける冬夕焼

 美しく開けるのは冬夕焼けでしょうか? 夕焼けが開けるとはあまり言わないと思い
ますが・・。読み方も分かりませんでした。「うつくしくあける」では字余りですので、
「うましくあける」?「はしくひらける」?

79	日向ぼこ笑まふ園児の箱車

 日向ぼこをしているのは作者なのか園児なのかわかりませんでした。また、笑まうの
は箱車のように思えてしまいました。

80	チェロの音のホールに満ちて冬ぬくし

 チェロの音が体に満ちて心も満たされてゆく感じです。中七は「満つるホールや」と切りたいと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 いいですね、チェロの音色は。体全体に響く感じです。「ホールに満ちて」が奏者と
観客が一体となって音楽を味わっているようで、いいと思いました。

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81	短日や大橋くぐる小さき水脈

 夕日を浴びながら帰帆を急ぐ小舟の景が浮かびます。舟と言わず水脈を詠んで舟を見
せるところが巧みだと思いました。

82	三毛丸む床暖房の貴賓席

 「丸む」は「丸める」の文語です。この句の場合は「丸まる」とすべきと思います。

83	骸骨がセーター着るごと我が末期

 「骸骨がセーター着るごと」の比喩表現がよくわかりませんでした。セーターを着た
ご自身が骸骨のように痩せているという意味でしょうか?

84	子連れ熊山を下りて撃たれたり

 報道された事実を述べただけの報告に感じました。

85	磨かれし洋館の窓冬の薔薇

 透明な窓の冷たさと、孤高な冬薔薇の清澄さがマッチしています。

86	灯台の急な階段冬日和

 季語が動くように感じました。

87	赤のれん愚痴を吐き出す年の暮

 赤のれんが何かわかりませんでした。居酒屋や一膳飯屋的な店を縄暖簾とは言います
が・・・・。

88	泥試合終はつたやうな蓮根掘

 蓮根掘りは深い泥田に入って作業をしますが、それを「泥試合終はつたやうな」とは、
どういう意味かよくわかりませんでした。

89	大北風や秋葉権現様の旗

 秋葉権現は火伏の神様で、大北風とはやや即き過ぎな印象を受けました。

90	欲張って五年日記を買いにけり

 報告的に感じます。また、「欲張って」は説明的です。

91	蒼天やダム湖をわたる鷹の声

 鳶の鳴き声は聴いたことがありますが、鷹の声は聴いたことが無いので、どんな声な
のか聴いてみたいと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 清々しい空を行く鷹。静かなダム湖を眼下に飛んで行く鷹の姿が力強く感じました。

 ======================================

92	能面の澄みし眼ざし冬日さす

 能面にもいろいろな種類がありますが、澄んだ眼差しを持つ面はどれか?と考えてし
まいました。

93	凍てし夜や鉄橋渡る音遠し

 空気が澄んで、遠くの音も良く聞こえる夜ですね。微かな列車の音に郷愁を感じます。

 奥山ひろ子氏評===============================

 夜汽車の鉄橋を渡るリズム感ある音を想像しました。空気がピンと張りつめている様
子も感じました。

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94	着ぶくれて鏡に映るあなた誰

 心の声がそのまま句になりました。

第311回目 (2025年11月) HP俳句会 選句結果
【  関根切子 選 】
  特選 里神楽お国言葉の混じる神 近江菫花(滋賀県)
   聞く耳を持たぬ同士やおでん酒 康(東京)
   粥煮ゆる厨の窓の花八手      垣内孝雄(栃木県)
   懸命に稲刈る子らや学校田 花虻(滋賀県)
   しぐれつつ昏るるうだつの町明かり 筆致俳句(岐阜市)
   わけ入ればわれも枯野のもののうち 原 洋一(岡山県)
   小春日や畳む衣類に猫寝まる *町子(北名古屋市)
   ロシアより来て白鳥の諍へる 櫻井 泰(千葉県)
   雪吊を見やる庭師の手に煙草 まこと(さいたま市)
   黄葉のトンネル渡る風優し 美由紀(長野県)
【  松井徒歩 選 】
  特選 露葎染みて色濃き跣足袋 戸口のふっこ(静岡県)
   真夜中のしゞまに白し秋の薔薇 直樹(埼玉県)
   粥煮ゆる厨の窓の花八手      垣内孝雄(栃木県)
   小夜時雨笑みのこぼるる古写真 垣内孝雄(栃木県)
   立冬の夕日捉へて零余子落つ 後藤允孝(三重県)
   秋灯や根付けの夜叉の眼に力 隆昭(北名古屋市)
   里神楽お国言葉の混じる神 近江菫花(滋賀県)
   野紺菊束ねし供花の辻仏 蝶子(福岡県)
   鷹渡る特攻隊の行きし空 まこと(さいたま市)
   おのおのの頭の揺れや田色づく 戸口のふっこ(静岡県)
【  国枝隆生 選 】
  特選 杖を曳き落ち葉踏む音生きる音 正子(山形県)
   聞く耳を持たぬ同士やおでん酒 康(東京)
   粥煮ゆる厨の窓の花八手      垣内孝雄(栃木県)
   半日を探しものして片しぐれ よりこ(名古屋市)
   望楼のガラスに写る鰯雲 隆昭(北名古屋市)
   着ぶくれのままで奏づる駅ピアノ 水鏡(岐阜市)
   しぐれつつ昏るるうだつの町明かり 筆致俳句(岐阜市)
   貼り替へて灯の影の濃き白障子 原 洋一(岡山県)
   鷹渡る特攻隊の行きし空 まこと(さいたま市)
   吹き溜まる落葉のぬくみ日の温み 野津洋子(愛知県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 聞く耳を持たぬ同士やおでん酒 康(東京)
   落葉舞ふ片手拝みの辻稲荷 康(東京)
   朝寒やちびりちびりと煎じ薬      美佐枝(千葉県)
   葬列の尾灯の滲む夕しぐれ よりこ(名古屋市)
   冬暖か手垢の残る万華鏡 水鏡(岐阜市)
   しぐれつつ昏るるうだつの町明かり 筆致俳句(岐阜市)
   小春日や畳む衣類に猫寝まる *町子(北名古屋市)
   ゴルフ靴片減り目立つ霜の朝 田村ゆきえ(和歌山市)
   ひそやかに老いは来るもの枯蟷螂 惠啓(三鷹市)
   露葎染みて色濃き跣足袋 戸口のふっこ(静岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、康さん(東京)でした。「伊吹嶺」11月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


     2025年11月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	生きている死にあがらって薬漬け

「生きている死」がどういうことなのかよく分かりませんが、「薬漬け」というやるせ
なさは良く伝わってきます。

2	セコム掛け夜長に消える職場の灯

「セコム掛け」とはセキュリティーシステムのスイッチを入れたという意味でしょうか?
やや乱暴な表現のように感じました。

3	書肆開く夢どこへやら暮の秋

長い間温めていた夢がいつの間にか潰えてしまった作者の喪失感。これから冬に向かう
「暮の秋」という季語から、作者の人生の立ち位置も示唆しているのでしょうか。

4	木枯しやティシュを配る赤い爪

凩の中での無感動な労働に対するささやかな抵抗を、女性の「赤い爪」に感じました。

5	色鳥や入日さしたる大銀杏

「銀杏」は季語ではありませんが、夕日に彩る黄葉が贅沢な景色ですね。夕日に色鳥が
合うかどうか迷うところであります。

6	椋鳥や仲間追ふてか老い翼

俳句では「自分はこう思う」というような主観は避けた方が良いと思います。

(国枝評)文語表現するなら、「追ふて」でなくて、「追うて」ですね。

7	セキレイの尾の振るしぐさ指揮者なり

俳味のある句ですが、「セキレイ」は漢字の表記の方が良いと思います。

8	蛇腹道紅葉じゅうたんグラデかけ

「グラデかけ」はグラデーション」を掛けているという意味でしょうか? 言葉の省略
が過ぎるように思います。

9	平凡をいただく音の冬林檎

「音は」林檎をかみ砕く音でしょうか? 「平凡」は普段の生活のことでしょうか? 
よく分かりませんでした。

(国枝評)「平凡をいただく音」がよく分かりません。

10	重ね着てそれとは見せぬ身のこなし

どんな身のこなしなのかが見えてきませんでした。

11	物干しの竿に引つ掛け十三夜

竿に引っ掛けたのは何ですか? ひょっとして「月」ですか?

12	河口に雑魚よく跳ねて小六月

河口の雑魚が「小六月」によく合っていますね。景もよく見える上々の写生句だと思い
ます。

13	宵の庭束の間石蕗の花明り

「束の間」は「花明り」のことでしょうか? だとすると「宵」ですので理屈を感じま
した。

14	コスモスや女駅長縄電車

「駅長」と「縄電車」との間に切れがあるように感じました。

15	初冬に字面のみ追う読書かな

「初冬」が余り効いていないように感じました。

16	やや寒し後ろ手に引く古襖

晩秋の季節の移ろう微妙な時期のやや寒。古襖の建付けのやや悪い音が聞こえるようで
す。

17	落葉舞ふ片手拝みの辻稲荷

「片手拝み」で悩みました。私の本音では行儀が悪いなあという思いですが、ネットで
調べると色々な意味があるようですね。

18	聞く耳を持たぬ同士やおでん酒

頑固な左派と右派の論争を想像しました。

国枝隆生氏選================================

それぞれが我を張った頑固者同士なのであろうか。これがまたお互いに気があってい
る証拠なのであろう。飲み屋で激論を交わしている二人が見える。

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19	ミソハギの雫掬びて妣偲ぶ

 「ミソハギ」は漢字か平仮名が良いと思いましたが、お母さんへの神聖で繊細な思い
が伝わってきました。

20	はらごろを噛めば泪の味のごと

「はらごろ」ですがいくら調べても解答が見つかりませんでした。

21	呼び鈴の掠れし路地や暮れの秋

 「呼び鈴の掠れし」がよく分かりませんでした。あまり良い音がしないということで
すか?

22	柿熟れて明るさつくる過疎の村

過疎化の村の寂しさの中でのささやかな輝きですね。ただ「明るさつくる」という意味
付けはどうかな?と思いました。

23	どんぐりを踏んで謝る木陰道

自然のささやかな営みに対する優しさですね。

24	満ちてなほ十月桜しのびやか

十月桜の控えめな美しさが良く伝わってきますが、やや説明でしょうか。

25	朝寒やちびりちびりと煎じ薬

晩秋の一日の始まりが良く伝わってきます、「ちびりちびりと」に自分の身体を労わる
様子も伝わってきます。

26	秋空にはるか鼓笛の響きをり

どこに対しての「はるか」かよく分かりませんでした。

27	真夜中のしゞまに白し秋の薔薇

 真夜中ですと満月を少し過ぎた月光でしょうか。その淡い光に、秋の白い薔薇がひっ
そりと浮かび上がっている。美的感覚の良い句ですね。

28	粥煮ゆる厨の窓の花八手

 病後の小康を得た人でしょうか。窓の外の静かな冷たさが、湯気を立てる粥の温かさ
をより一層際立たせています。

国枝隆生氏選================================

粥を煮ているから、体調が万全でない人がいるのであろう。花八手から穏やかな家庭
が見えるようだ。

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29	小夜時雨笑みのこぼるる古写真

 季語はできるだけ離した方が良いという意見もありますが、「小夜時雨」と「古写真」
の間であれば問題ないでしょう。しかし、「笑みのこぼるる」との間の余情をどのよう
に探れば良いのか、よく分かりませんでした。深読みすればこの写真の人物は作者とは
ほろ苦い別れでもあったのだろうかと想像しました。

30	旧姓に戻りし里の柿すだれ

 何らかの事情で生家に戻られたのでしょうか。これからの人生を見つめ直す作者を里
の柿が温かく迎えてくれたのですね。

(国枝評)「旧姓に戻りし里」がよく分かりません。里が旧姓に戻ったのですか。作者
は旧姓時代の若い頃住んだ里と言うことを言いたかったのでしょうか。一寸無理がある
省略の感じでした。

31	葡萄一房袋をかけて傘かけて

 葡萄栽培の丁寧な説明のような感じがしました。上七も何とかしたいです。

32	懸命に稲刈る子らや学校田

 学校の田で子供たちが一生懸命働いている様子は伝わってきますが、「懸命に」を具
体的な表現にすればもっと良くなると思います。

(国枝評)何処でも学校で稲を育てているようだ。「懸命」から自分たちの稲への愛着
が見えるようです。

33	半日を探しものして片しぐれ

 半日もかけたのだから大事な探し物なんでしょうね、しかもどうも見つかっていない
様子です、「片しぐれ」の不安定な気象状態が焦燥感を煽ります。

国枝隆生氏選================================

雨の一日、家でやることにした探しもの。結局半日探した結果、見つからない。
「しぐれ」と「探しもの」の取り合わせが面白い。

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34	葬列の尾灯の滲む夕しぐれ

 何も心境を語っていない写生句ですが、「夕しぐれ」という季語が作者の思いを代弁
しています。

35	朱の鳥居湖に浮き立ち秋日和

 中七に切れを入れた方が良いように思いました。

36	立冬の夕日捉へて零余子落つ

 「夕日捉へて」の解釈に迷いましたが、感覚的に読めば不思議な美しさも見えるよう
な気がしました。

37	元請に納期迫られ夜業の灯

 芭蕉の言葉に「言ひおほせて何かある」というのがありますが、この句は事実を言い
尽くしているように思いました、

38	吾も君も非正規雇用夜食取る

 こちらの句は抑制がありますので、季語が効いていると思いました、

39	望楼のガラスに写る鰯雲

 「望楼」がやや凝った言葉ですので、「ガラス」は漢字のほうが良いように思いまし
た。

国枝隆生氏選================================

昔なら消防署の望楼などが考えられたが,今は何であろうか。高いところに立って映っ
ている鰯雲はまさに眼の高さに近いのだろう。素直な視線の写生句。

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40	秋灯や根付けの夜叉の眼に力

 「秋灯」という静寂な光の中で、夜叉の「眼に力」という表現が、存在感を放ってい
ますね。

41	蟷螂の縋る雨戸の夕陽かな

雨戸に縋る小さな命の蟷螂に、一日の終わりの夕陽が降り注ぐ。それは、この世の森羅
万象を象徴しているようです。

42	谷川に声消されたり山葡萄

 谷川の轟音という自然の力と、人間の微かな存在感の対比が、山葡萄の静かな実りに
よって、より際立っていますね。

43	陸士長刈り取る城の蔦かづら

 「陸士長」は自衛隊の人ですか? その人が城の蔦を刈り取っている。そういう意外
性でしょうか?

44	里神楽お国言葉の混じる神

 お国言葉の神がいかにも里神楽らしくて俳諧味がありますね。

45	着ぶくれのままで奏づる駅ピアノ

 駅のピアノは行きずりの人の奏者にとっては緊張の一瞬だと思いますが、「着ぶくれ」
にほのぼのとした情景が浮かびました。

46	冬暖か手垢の残る万華鏡

 「手垢」に万華鏡の歴史が刻まれています。思いがけなく温かい一日、来し方に思い
を馳せているのでしょうか。

47	枯園に古地図のごとく雨滲む

 「古地図のごとく」という見立てがよく分かりませんでした。

48      恙なく生きて勤労感謝の日

 個人の感慨ですので読者に評価してもらう句としては向いていないと思います。

49      案の定しぐれてきたりむすびの地

 芭蕉の忌日を時雨忌と言いますので、「案の定」が理屈に思えます。

50      しぐれつつ昏るるうだつの町明かり

  静かでしっとりとした写生ですね。

国枝隆生氏選================================

この近辺で言えば、うだつの立つ町と言えば美濃市であろうか。時雨の中で暮れゆく
町にはしっとりとした昔風の町灯りが見える写生。

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51     冬晴や影なる我と二人連れ

 冬晴の凛とした空気の中の静かな孤独を感じました。

52     紫に秘めたる殺意鳥兜

 「鳥兜」には毒がありますので、理屈を感じました。

53      貼り替へて灯の影の濃き白障子

 中七が感覚の効いた良い写生なのですが、障子の貼り替えも季語なので、そこが気に
なりました。

国枝隆生氏選================================

張り替えたら、灯の影が濃くなったと感じたのは、障子と明かりの影のコントラストを
強調した句と思いました。

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54      わけ入ればわれも枯野のもののうち

 やや主観が強いような気がします。

55      蜘蛛の囲に未完の日暮ありにけり

 未完の日暮が?でしたが、未完は「蜘蛛の囲」ですね? 雲の囲は夏の季語ですので、
季節が離れすぎて戸惑いました。

56      立冬や明けの真白きフルムーン

 今年の立冬は旧暦18日でしたね。月は夜明けの西、少し上でしょうか。でも「フルムー
ン」が?

(国枝評)「フルムーン」は満月のことですか。普通満月は午後6時前後に月の出になる
と思います。明けのフルムーンは無理があるようです。

57      満載の園児のカート秋の空

 乳母車のようなのに園児がいっぱい乗ってるのをよく見かけます。秋空の下ほのぼの
とした光景です。

58      身に入むや唯松籟の古戦場

 松籟が、古戦場の静寂をいっそう際立たせ、深い無常感を漂わせています。

59       夜半の秋声の澄みゆく長電話

 「声の澄みゆく」が分かりませんでした。

60      新婚や研ぐ手の白き今年米

 研ぎ汁で手が白いのか実際に手が白いのか迷いました。

61	仁王立つアーバンベアや冬立ちぬ

  「仁王立つ」の「立つ」と「冬立ちぬ」の「立ち」の類似性が気になりました。

(国枝評)「仁王立」という名詞はありますが、「仁王立つ」という動詞はあるのでしょう
か。動詞で表現するなら、「仁王立ちになる」だと思うのですが。

62	木枯しや値引き求めてゆくスーパー

 言い尽くしてしまっているので、俳句の面白さに欠けるように思いました。

63	両親の名も厳かに七五三

 神社の内陣での祝詞の場面でしょうか。「名も厳かに」がポイントですね。

64	紅葉狩り紅葉のやうなミモサラダ

 紅葉の言葉の二度使いが気になりましたが、お弁当のサラダでしょうか?

65	床磨く今日は勤労感謝の日

 休日でも一生懸命働く。その働きと「勤労」の重なりが気になりました。

66	小春日や畳む衣類に猫寝まる

 猫が寛いでいる場面で、「小春日」はよくあるかもしれませんが、「畳む衣類に」に
独自性があります。

67	野紺菊束ねし供花の辻仏

 素朴な辻仏に、地味ながらも彩りの映える野紺菊を供える。その飾らない信仰心に、
心が温まるのを感じました。

(国枝評)辻仏など野仏は野草である野紺菊がふさわしい。

68	暗がりの木立抜けだし谷紅葉

 紅葉に辿り着いた行程の説明のように感じました。

69	踏みしめる銀杏落葉や夕日影

 夕暮れに落ち葉を踏みしめる音が寂しさを誘うかもしれませんが、日影とはいえ周囲
の落ち葉の黄金色も見えますね。

70	伸びやかな松の梢や鵙の声

 松の梢の先の澄んだ秋の空が、「鵙の声」の持つ鋭い緊張感によって、一層引き締まっ
た青さに見えてきます。

71	腰伸ばす老婆の風情秋茜

「風情」という抽象的な言葉は避けた方が良いと思います。

72	いたずらっ子しきりにあくび餅雑炊

 いたずらっこ子という落ち着きのない子が、あくびばかりするというのが俳味ですね。

73	ロシアより来て白鳥の諍へる

 ロシアを皮肉っているようですね。

74	霞ヶ浦を小さく使ふ鴨の陣

 「小さく使ふ」が遠慮しているように見えますが、広大な霞ケ浦でのささやかな営み
が伺えます。

75	青空のゑくぼのやうに返り花

 大胆な把握ですね。冬の青空と白い帰り花を重ねるとそう見えなくもないと思いまし
た。

76	石ころを蹴って断ちたる秋思かな

 「絶ちたる」という意志は表明せずに読者に読み取ってもらう仕立てにすればもっと
良い句になると思います。

77	雪吊を見やる庭師の手に煙草

 最近は煙草は褒められないですが、「手に煙草」の姿から、雪吊の完成した達成感が
伺えます。

(国枝評)今どき,屋外では禁煙が常識だが、昔気質の庭師のふさわしいのは煙管が似
合うのだろう。いかにも雪釣りのできばえに満足している様子がよく見える。

78	鷹渡る特攻隊の行きし空

特攻隊の悲劇的な行路と、鷹の渡りの生命の営みを対比させています。鷹が空を渡りゆ
く力強さに対し、若者たちが一瞬の飛行で命を終えねばならなかった無常感が、切実に
伝わってきます。

国枝隆生氏選================================

知覧の様子を連想しました。鷹の渡りを見ながら,特攻兵に思いを馳せているのでしょ
う。私も昔、知覧で帰燕を見ながら、同じような思いに駆られたことがあります。

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79	銀行の静脈カード冷まじや

 季語が答えを出してしまっているので、俳句独特の余情に欠けるように思いました。

80	ゴルフ靴片減り目立つ霜の朝

 季語を上五にして、「片減り目立つゴルフ靴」としたほうが良いように思いました。

81	ひそやかに老いは来るもの枯蟷螂

 「老い」と「枯」の言葉の重なりが気になりました。

82	古農家の深き軒下吊し柿

 「古民家」という表記は良く見ますが「古農家」はどうでしょうか?

83	行く秋やシャッター閉ち”し古き店

 「古き店」では説明ですので、具体的にした方が良いと思います。

84	独り聴くタンゴの調べ秋深し

 程よく纏まった句ですね。独りの孤独感と深秋の情緒とが程よく調和していると思い
ます。

(国枝評)タンゴというと頂きたくなる。私もいつも聞いているが、タンゴというと調
べよりリズムを楽しんでいる。

85	露葎染みて色濃き跣足袋

 「染みて色濃き」に農作業のリアリティーを感じました。

86	おのおのの頭の揺れや田色づく

 「頭の揺れ」から、黄金色に輝く田の農作業の様子が生き生きと伝わってきます。

87	杖を曳き落ち葉踏む音生きる音

 杖を頼みの生活ではあるけれど、落ち葉を踏む音に。生きているという実感を確認す
る作者なのですね。

国枝隆生氏特選================================

落葉を踏みながらの散歩でもよい。落葉を踏んでいる音がまさに自分が生きている証拠
の音だと実感している。落葉を踏む音に触発されて、元気が付く大人のである。

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88	欅立ち公園彩る小春日や

 「小春日や」という季語が不安定な感じです「欅立ち公園彩る小春かな」ではどうで
しょうか。中八も気になりました。

89	吹き溜まる落葉のぬくみ日の温み

 リフレインが小気味よいですね。

国枝隆生氏選================================

落葉の温みに日の温みを感じたところをリフレインでうまくまとめられていると思い
ました。

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90	顔見世の親子息合ふ「道成寺」

 息の合う様子を描写してほしいです。

91	凪の湖面日差し吸い込む照紅葉

 上六が調べを悪くしています。

92	黄葉のトンネル渡る風優し

 黄葉の森を楽しんでいる気持ちが伝わってきました。

93	氏神の柏手打つ背に冬日差

 中八ですので、「に」を省略すれば良いと思います。

94	山際の入り日輝く秋の暮

 「入日」と「暮」の意味の重なりが気になりました。


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