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選句結果
     
【 第322回目 (2026年10月) HP俳句会 選句結果】
【  酒井とし子 選 】
  特選: 補聴器の拾ふ葉擦れや秋の風 ()
   戒名は要らぬ家系や秋桜 鷲津誠次(岐阜県)
   ほろ酔ひて秋の夜雨とジャズピアノ      直樹(埼玉県)
   村人の守る無住寺稲の花 水鏡(岐阜県)
   草の花輪ゴムで括る袋チョコ 百合乃(滋賀県)
   虫すだく五百羅漢の千の耳 後藤允孝(三重県)
   金木犀海へとつづく切通し 水夢(春日部市)
   枯園に古地図のごとく雨滲む ようこ(神奈川県)
   箸袋に防人の歌秋深む よりこ(名古屋市)
   朝まだき草の葉先の白露かな 小豆(和歌山市)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選: 綻びを風に吹かれて捨案山子 後藤允孝(三重県)
   薮枯らし狸の持てる通ひ帳 田村幸之助(和歌山県)
   ハルカスの眺望釣瓶落しかな      みのる(大阪)
   秋簾町家の奥の機の音 山びこ(名古屋市)
   ほろ酔ひて秋の夜雨とジャズピアノ 直樹(埼玉県)
   金木犀海へとつづく切通し 水夢(春日部市)
   母の爪切る縁側の菊日和 原 洋一(岡山県)
   故郷へ電車待つ間の走り蕎麦 *町子(北名古屋市)
   満月や雑木林の葉の尖り 芳典(東海市)
   海見ゆる掛大根を高く吊り まこと(さいたま市)
【  武藤光�リ 選 】
  特選: 下町の昭和めく路地秋簾 伊藤順女(船橋市)
   うそ寒や代打の代打凡退す ゆきえ(和歌山市)
   補聴器の拾ふ葉擦れや秋の風      ()
   ふるさとの香り開くや新走り みぃすてぃ(神奈川県)
   綻びを風に吹かれて捨案山子 後藤允孝(三重県)
   紅葉且つ散る華厳寺の石畳 筆致俳句(岐阜市)
   母の爪切る縁側の菊日和 原 洋一(岡山県)
   蔓引けば夕日連れ来る烏瓜 久保田山蛾(栃木県)
   木犀の金散り敷ける留守の家 かよ子(和歌山市)
   海見ゆる掛大根を高く吊り まこと(さいたま市)
【  渡辺慢房 選 】
  特選: 満月や雑木林の葉の尖り 芳典(東海市)
   薮枯らし狸の持てる通ひ帳 田村幸之助(和歌山県)
   索道の大きな撓み渓もみじ      みのる(大阪)
   ふるさとの香り開くや新走り みぃすてぃ(神奈川県)
   秋簾町家の奥の機の音 山びこ(名古屋市)
   虫すだく五百羅漢の千の耳 後藤允孝(三重県)
   秋の海夫を見舞ひし浦賀道 佐藤けい(神奈川県)
   紅葉且つ散る華厳寺の石畳 筆致俳句(岐阜市)
   故郷へ電車待つ間の走り蕎麦 *町子(北名古屋市)
   脚絆より桧の木屑牡丹鍋 戸口のふっこ(静岡県)

※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、後藤允孝さん(三重県)、芳典さん(東海市)、および無記名の方でした。允孝さんと芳典さんに「伊吹嶺」十月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2026年10月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

 前回(八月)は「理屈・因果関係を詠まない」ことについて触れました。今回は、
「俳句の三要素」ということについて書きたいと思います。

 私は、俳句は以下の三要素により成り立つと考えています。

(1)五七五の定型:これは俳句の「前提」であり、自由律は俳句とは認めない立場です。
破調や句またがり、字余り・字足らずは認めますが、単に言葉を置いてみたら字余りだっ
たというようなものはダメです。何らかの狙いがあって敢えて字余りとしたというよう
な「攻め」の姿勢が必要です。

(2)季語:これは俳句の「約束」です。俳句が十七音という短さでも読者に感動が伝え
られるのは、季語の力によるところが大です。季語の力を使いこなせるようになること
が、俳句上達には肝要です。

(3)切字:切字は俳句の「手段」です。言葉を切ることによって、その向こうにある情
景・心情を読者に伝えると共に、俳句を韻文として成立させます。切れのない俳句は、
散文の切れ端になってしまいます。

 以上を心に留めて作句して戴くことにより、より質の高い句が得られるようになると
思います。それでは、個々の句を鑑賞します。


1	倒木の苔は青丹に秋時雨

 秋時雨の中の倒木の、湿りを帯びた苔の色が浮かび、うら寂しい感じがよく出ていま
す。ただ、「青丹」という凝った色名を使っていますが、苔の色としては予想の範囲内
で、あえて言う必要があるかと思いました。

2	智恵の輪の外れぬまに秋に入る

 中七の「外れぬまに」は六音ですので、「外れぬままに」の入力ミスでしょうか。知
恵の輪が解けないちょっとしたイライラ感と、秋を迎えた爽涼感のアンバランスさが面
白いと思いました。「智恵の輪」は「知恵の輪」と書く方が一般的かと思います。

3	油照りや育てし西瓜動かざる

 「油照り」(夏)と「西瓜」(秋)の季重なりです。大きく育った西瓜が重くて動か
せないという意味かもしれませんが、句からはそこまで読み取れず、西瓜が(自分で)動
かないのは当たり前のことのように感じました。

4	横町に花火の香る月夜かな

 花火を光ではなく匂いで捉えた点には工夫を感じますが、花火(夏)と月夜(秋)の季重
なりで、敢えて二つの季語を使う必然性が感じられませんでした。

5	薮枯らし狸の持てる通ひ帳

 縁起物の信楽焼の狸が持っている通い帳は「信用第一」を表すとのことです。その狸
に藪枯らしを這わせたままにしておいては、商売繁盛は期待できませんので、すでに廃
業した店の前に置かれたままになっている狸かと想像し、藪枯らしに絡まれるがままの
狸に、ちょっと哀れなおかしみを感じました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 信楽焼の狸でしょうか。おかしみのある狸と生命力あふれる「藪枯らし」の取り合わ
せが、昔話のような雰囲気で面白いと思いました。

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6	槍投ぐる二の腕太し秋の雨

 上五中七の逞しさや生命感と、下五の秋の雨の寂しさや静けさとの対照が、私にはう
まく響き合わず、ちぐはぐに感じられました。また、雨の中で槍投げの練習や試合をし
ている景にも、少し違和感を覚えました。

7	うそ寒や代打の代打凡退す

 面白い句材ですね。上五の季語がやや「即き過ぎ」に感じますので、もう少し離れた
季語を工夫されると、更に面白くなると思います。


8	四人艇橋の下過ぐ秋の暮

 「四人艇」は、ボート競技の四人漕ぎの艇を指すのでしょうか。そうであれば、練習
を終えた艇が音無く橋の下を通過する秋の日暮という、静けさを感じさせる景が浮かび
ます。ただ、「四人艇」という言葉だけでは具体的な船の姿を思い描きにくく、少し戸
惑いました。

9	落ち栗や妻の土産に五つ六つ

 ほのぼのとした句ですね。五つ六つという数から、食べるためというより、秋の季節
感を細君と分かち合いたくて拾ったのでしょう。ささやかな土産に、夫婦の温かな関係
が感じられます。

10	一里塚裾を染めるや彼岸花

 こんもりとした一里塚の裾に、彼岸花が一面に咲いている景ですね。ただ、上五と下
五が名詞で、中七に切字の「や」が入る、いわゆる「観音開き」「キセル俳句」の形に
なっています。上五と下五を入れ替えても句が成り立つため、語順や切れを工夫したい
ところです。また、「裾を染める」という表現にも、もう少し新鮮さが欲しいと思いま
した。

11	戒名は要らぬ家系や秋桜

 仏式の葬儀をしないキリスト教徒や神道の家系なら、戒名は必要ありませんね。ただ
この句の場合は、代々の主義主張として戒名を拒むという意味も感じられます。そう読
むと多少の面白さはありますが、「秋桜」との取り合わせがどう響くのか、私にはよく
分かりませんでした。

12	草の花旅の名残の道祖神

 草の花と道祖神は似合いますが、「旅の名残の道祖神」の意味がよくわかりませんで
した。旅をしたのが作者であれば、旅の途中でみつけた道祖神を持って来てしまったよ
うに思えますし、道祖神を見て昔の旅人に思いを馳せていると解するのも、どうもしっ
くり来ませんでした。

13	片言の妻との会話焼き秋刀魚

 「片言の妻」は、病気や加齢などで言葉が不自由になられたのでしょうか。それとも
外国出身の奥様なのでしょうか。いずれにしても、夫婦が秋刀魚を囲んで会話する温か
な食卓が浮かびます。秋刀魚といえば焼いて食べる場面を連想しやすいので、「焼き秋
刀魚」を「初秋刀魚」などにすると、また違った情景の広がりが生まれると思います。

14	草の花身も知らぬ子がお辞儀する

 「身も知らぬ」は「見も知らぬ」かと思います。

15	補聴器の拾ふ葉擦れや秋の風

 葉擦れの音も良く聞こえる補聴器なのですね。補聴器が葉擦れの音を「拾ふ」という
表現に工夫を感じます。ただ、葉擦れと言えば風があることはわかりますので、季語を
もう一工夫されては如何でしょうか?

16	甲斐駒の濃き山襞や秋さびし

 「濃き山襞」は、山肌の深い起伏や谷筋の濃い陰影を表しているのでしょうか。甲斐
駒ヶ岳の峻厳な姿が浮かびます。ただ、その景からすでに寂寥感が感じられますので、
「秋さびし」は少し即き過ぎのように思いました。

17	一管の笛の青さや秋気澄む

 「笛の青さ」は、笛そのものの色でしょうか。それとも、笛の音色を青いと感じたの
でしょうか。後者なら、聴覚を色彩に転じた面白い表現だと思いますが、それがわかる
ように表現して欲しいと感じました。また、「青さ」と「秋気澄む」は清澄な印象が重
なりますので、季語にはもう一工夫の余地があるように思いました。

18	ハルカスの眺望釣瓶落しかな

 あべのハルカスからの眺望は、いつでも釣瓶落としである。という意味に感じられま
した。

 奥山ひろ子氏評===============================

 大阪のあべのハルカスでしょう。近代的な建築物と、日の落ちる様のスピードを表す
季語の取り合わせで、都会の夕暮れの景が読み取れました。「眺望」の措辞も工夫のあ
る表現だと思いました。

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19	索道の大きな撓み渓もみじ

 大きな景ですね。視線の動きもダイナミックです。

20	赤とんぼ群るる墓石や遠き日々

 上五中七で情景が浮かびますが、「遠き日々」が作者にしかわからない感慨なのが残
念です。

21	ふるさとの香り開くや新走り

 故郷の地酒が届いたのでしょうか? 香りが開くというのが、新酒にふさわしい表現
ですね。

22	秋袷生え際白き盆の窪

 盆の窪は自分では見えません。秋袷の人物の盆の窪の生え際に白いものが混じったの
を見た作者の心情を思うと、物語が広がるように思います。

23	秋簾町家の奥の機の音

 今でも機織りの音が聞こえる由緒のある街なのですね。秋の散策は風情がありそうで
す。

 奥山ひろ子氏評===============================

 秋簾の奥から機の音とは、時代をさかのぼったような景です。どんな人が何を織って
いるのか興味が湧きます。

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24	斃れ伏す熊の背丸き花野かな

 熊も好きこのんで人里へ出てくるわけでは無いでしょう。やむを得ないこととはいえ、
駆除された熊の丸い背中は哀れです。野の花に包まれているのがせめてもの慰めという
ことでしょうか?

25	ほろ酔ひて秋の夜雨とジャズピアノ

 贅沢な大人のひとときですね。時にはこういう気取りの姿勢も良いものです。

 奥山ひろ子氏評===============================

 おしゃれな句というのでしょうか。お酒を飲んだのは作者ご自身と思いました。幸せ
な時間ですね。

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26	村人の守る無住寺稲の花

 子々孫々、地元の人たちに守られてきた寺なのでしょうね。ただ、「村人の守る無住
寺」は事情を説明する表現ですので、村人たちが寺を守っている様子が、具体的な景を
通して伝わるように詠めると、さらによいと思いました。

27	わらわれてもわれはわれなりわれもこう

 言葉遊びですね。「笑われても私は私」という開き直りにはユーモアを感じます。た
だ、吾亦紅が音の面白さのために使われており、季語としての働きや必然性は弱いよう
に思いました。気心の知れた仲間の句会なら、こうしたお遊びも楽しいでしょうね。

28	蜘蛛の巣にかかるな飛べよ秋の蝶

 蜘蛛の巣(夏)と秋の蝶(秋)の季重なりです。

29	天の川群雲切れ目にちょっとだけ

 詠み方が報告的かつ散文的なのが残念です。

30	八重咲の木槿ピンクの花の意志

 「ピンクの花の意志」の意味がわかりませんでした。

31	仄かに朱上弦の月ほてりけり

 赤みがかって見えた上弦の月を、火照っていると見立てただけでは、句材として乏し
いと思いました。

32	草の花輪ゴムで括る袋チョコ

 上五と下五が名詞の、いわゆる「キセル俳句」「観音開き」と呼ばれる形ですね。
「輪ゴムで括る」のが草の花なのか袋チョコなのか、読みが定まりません。また、袋
チョコを括る景だとしても、「草の花」との取り合わせがどう響くのか、少し分かり
にくく感じました。

33	色鳥のこぼれて鳴くや家族葬

 哀しみの中にもほのぼのとした雰囲気を感じます。人生を全うされての大往生で、ご
く親しい家族だけで静かに送っているのだと思いました。

34	綻びを風に吹かれて捨案山子

 様子が浮かびますが、上五中七が捨案山子の説明のようにも感じられました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「綻びを」が確かな写生で、秋のわびしい捨案山子をしっかり詠まれていると思いま
す。

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35	虫すだく五百羅漢の千の耳

 確かに、羅漢が五百人いれば耳の数は千ですね。千の耳で聞いていると思うと、虫の
声も周囲に轟くような気がしてきます。

36	秋夕焼藪に透け来る野面積

 古城の跡でしょうか。「藪に透け来る」という表現から、藪の向こうに隠れていた石
垣が、次第に姿を現す様子が浮かびます。作者の視線の動きも感じられ、奥行きのある
景ですね。

37	薄野のウエーブぽんと風を投ぐ

 「ぽんと風を投ぐ」がよくわかりませんでした。ウエーブが風を投げたのでしょうか?

38	夕焼空ドヴォルザークの帰り道

 「遠き山に日は落ちて・・・」(家路)のメロディですね。「夕焼空」と「ドヴォルザー
クの帰り道」の取り合わせは直球過ぎるので、もう一工夫欲しいと思いました。

39	七難を隠す衣被の真白

 「色の白いは七難隠す」ですね。無骨な皮の中から出てくる白い芋は、可愛らしさを
感じます。俳味のある句と思いました。

40	金木犀海へとつづく切通し

 金木犀の香りの中、切通しの先に海が見えてくるような景を想像しました。金木犀は
庭木として植えられることが多いので、切通しとの取り合わせには少し意外性を感じま
すが、自分の周りの香りから遠くの海へと景が広がるところがよいと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 金木犀の香りと、静かな波の音で、港町の風情が感じられました。漁師町でしょうか。

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41	キャンパスの漕艇場に律の風

 「キャンパスの漕艇場」は、大学が所有・管理する漕艇場のことと解釈しました。秋
風の雅称である「律の風」は、漕艇競技の規則正しい櫂の動きとも響き合うように感じ
ます。ただ、漕艇場そのものの具体的な景がもう少し見えると、さらに印象深い句にな
ると思いました。

42	ハンカチで包む笑栗(えみぐり)なほ痛し

 散歩の途中でしょうか? 思いがけなく見つけた栗を、毬に入ったまま持ち帰ろうと
したのですね。そのままでは痛くて持てないのでハンカチで包んだものの、それでも手
に乗せたりすると痛いという状況は良くわかりますが、意外性に乏しいので、下五はも
う一工夫欲しいと思いました。

43	秋の蚊よ武士の情けじゃ立ち去れい

 類句・類想が多そうですが、それに怖じずに句にしたところが逆に新鮮に感じました。
時代劇めいた大仰な言い回しが愉快ですね。

44	露草や閉じて久しき荒物屋

 出来ている句と思います。閉店してしまった荒物屋と、そこに咲く露草の取り合わせ
に寂寥感があります。ただ、中七「閉じて久しき」は目に見える景ではないので、ここ
をもっと具体的な景にすると更に良くなると思います。

45	炊き上がる荒汐部屋の今年米

 荒汐部屋というのは相撲部屋なのですね。作者が意図されてるかどうかわかりません
が、荒汐=粗塩という連想で、ぴかぴかの新米で握った美味しそうな塩むすびをお相撲
さんが頬張っている姿が浮かびました。ただ、「炊き上がる」と「今年米」が離れてし
まっているので、少しわかりにくく感じました。

46	秋蝶や屋根屋根に置くごろた石

 このごろた石は、屋根材が風で飛ばないようにするための重石だと思います。「屋根
屋根に置く」とありますので、そのような家か小屋がたくさんあるのだと思いますが、
現代の一般家屋でそのようなことをしているのを見たことはありません。農作業用の小
屋などでしょうか?「秋蝶や屋根に石置くXXXXX」「秋蝶や石を乗せたるXXX小屋」のよ
うに、建物の方を写生してみては如何でしょうか?

47	残る蝉篠突く雨に鳴きいそぐ

 「鳴きいそぐ」という表現には作者の主観が感じられます。「残る蝉」だけで季節の
移ろいや命の儚さなどが感じられますので、「鳴きいそぐ」という主観や「篠突く」と
いうような慣用的な比喩を排して蝉の鳴き声や雨の様子を具体的に描写した方が、季語
の本質に迫れると思います。

48	しなやかに聞き役の妻吾亦紅

 「しなやかに聞き役の妻」の意味が掴めませんでした。何を言ってもしなやかに受け
流すということでしょうか?妻の人柄を吾亦紅の姿に重ねたのかもしれませんが、具体
的な言動が見えないため、人物像が浮かびにくく感じました。

49	花園のベンチに母子の秋日和

 花園・ベンチ・母子・秋日和と、ほのぼのとしたものが詰め込まれ、穏やかな幸福感
を感じます。ただ、どこにピントが合っているのかわかりにくく、遠くから撮った風景
写真のように感じられました。

50	秋の海夫を見舞ひし浦賀道

今ご主人を見舞って来たところとも読めますし、かつてご主人のお見舞いに通った浦賀
道で、秋の海を見下ろしているとも読めると思いました。後者の方が、過ぎ去った時間
への思いが感じられ、句に深みが生まれるように思います。

51	紅葉且つ散る華厳寺の石畳

 華厳寺は岐阜県にある天台宗の寺院とのこと。春は桜、秋は紅葉で人気のところのよ
うですね。行ったことはありませんが、頭上に残る紅葉と石畳に散り敷く紅葉の景が浮
かびます。古刹の風情が感じられます。

52	今年酒買うて左党の足軽し

 酒飲みとしては共感できますが、「酒好きが新酒を買った」→「嬉しくて足取りが軽
い」という因果関係・理屈が感じられるのが残念です。作者の気持ちは伝わりますが、
読者の想像を広げる余地がありません。

53	黄葉して村の主なる銀杏かな

 村のランドマーク的な大銀杏ですね。「黄葉して村の主たる大銀杏」とした方が、黄
葉したことによりその存在感が一層増したことが伝わると思います。

54	母の爪切る縁側の菊日和

 温かな句ですが、「母の爪切る」は、「母が爪を切る」の意味にも「(作者が)母の爪
を切る」の意味にも解釈できます。「縁側で爪切る母や菊日和」「母の爪縁側で切る菊
日和」等とすれば、どちらの意味かはっきりすると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「菊日和」の季語がぴたりと決まっていますね。穏やかであたたかい親子の時間がい
いですね。

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55	かなかなに急かさる菜の支度かな

 蜩は夕暮れによく鳴きます。また蜩が鳴く頃は日暮れも早くなりつつあり、夕餉の支
度の気が急きますね。ただ、状況はよくわかりますが、原句だと「蜩が鳴く=日暮れが
近い」→「夕餉の支度をしなくては!」という理屈が感じられます。例えば「かなかな
や未だ決まらぬ晩の菜」等、少し離してみては如何でしょうか?

56	校庭に見つめ合ひてや吾亦紅

 状況がよくわかりませんでした。作者が誰かと見つめあっていて傍らに吾亦紅が咲い
ているのか? 作者と吾亦紅が見つめあっているのか? 吾亦紅どうしが見つめあって
いる(と見立てている)のを作者が見ているのか?

57	蔓引けば夕日連れ来る烏瓜

 出来ている句と思いますが、先行句に「蔓引けば動く火の玉烏瓜」「蔓引けば雲を抜
け来る烏瓜」など、発想や構成がよく似たものがあります。「夕日連れ来る」という表
現には工夫が感じられますが、類想の域を出ていないように思いました。

58	紅葉の焔投げ入る那須山河

工夫が感じられますが、誰が、何を、どこに投げ入れるのかがはっきりしないように感
じました。これは、山々が紅葉する様子を「紅葉の焔を投げ入れる」という比喩で表現
したためと思います。「投げ入る」は文語の終止形で、いったん文が切れる形となり、
後に続く「那須山河」との関係も曖昧になっているように思います。

59	聡き児の指す先を跳ぶ飛蝗かな

 「指す先」が、「指している所」なのか「指している所の更に先」なのか解釈に迷い
ました。それによって、飛蝗の跳ぶところを正しく当てている子供が賢いと言っている
のか、飛蝗が子供より一枚上手と言っているのかが決まると思います。


60	ライバルに負けて選外菊の鉢

 事実の報告であるとともに、自分が丹精した菊への想いよりも勝敗に焦点が当たって
おり、詩情が感じられませんでした。

61	枯園に古地図のごとく雨滲む

 冬の庭園に雨が「滲む」というのが、どのような情景なのか掴めませんでした。また、
「古地図のごとく」という比喩にも、何を古地図に見立てたのかがわかるような具体的
な景が欲しいと思いました。

62	星屑のごとき花殻金木犀

 花殻を辞書で引くと、「仏に供えた花の、不用になって捨てるもの」とあります。ま
た、園芸用語を調べると、「花が咲き終わってそのまま植物に残っているもの」だそう
ですが、この句の場合はおそらく、地面に散り敷いた金木犀の花のことを言っているの
だと思います。残念ながら星屑への直喩はそれほど目新しさを感じず、全体的に金木犀
という”季語の説明”的にも感じられました。

63	薄黄木犀匂はぬ鼻の下なぞり

 「匂わないから」→「鼻の下をなぞった」という理屈・因果関係を感じました。「匂
はぬ」と言わずに、作者が薄黄木犀の匂いを感じようとしていることを写生することで、
状況を読者に伝えるようにしたいところです。なお、「なぞる」は文字や絵の通りに擦っ
たり書いたりすることですので、鼻の下を擦ったでしたら「なする」の方が良いと思い
ます。

64	剥きたる胡桃かりこり吾子の八重歯きら

 「剥きたる胡桃かりこり」は、外皮を剥いた胡桃(の種)を擦り合わせているのか、胡
桃の種を割って中身を食べているのか、解釈に迷いました。胡桃を食べるときの音とし
ては、「かりこり」は不自然に思えますが‥‥。いずれにしても、景がはっきりわかる
言葉を選ぶと共に、五七五の定型をもっと意識して戴きたいと思いました。

65	故郷へ電車待つ間の走り蕎麦

 郷愁と走り蕎麦が似合っています。ただ、電車を待つ間に食べる蕎麦と言えば、ホー
ムの立ち食い蕎麦を連想してしまい、そんなところで走り蕎麦が食べられるのかな?と
いう疑問が湧いてしまったのが正直なところですが、駅前の本格的な蕎麦屋ということ
も有り得ますね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 帰郷前、急いでお蕎麦を食べている作者。故郷へ早く帰りたいという気持ちが感じら
れました。

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66	秋祭り父と子笑まふ肩車

 微笑ましい景ですが、二つ問題点を感じました。親子が肩車をして楽しそうな景は、
秋祭りに限らず見られますので、「季語が動く」ように思います。また、上五と下五が
名詞で、入れ替えても句が成立してしまういわゆる「観音開き」や「キセル俳句」と呼ばれる形です。例えば、「肩車されし子の笑み秋祭」とすれば、観音開きは解消します。

67	脚絆より桧の木屑牡丹鍋

 野趣溢るる・・という感じの情景ですね。店で食べる牡丹鍋ではなく、猟師小屋か炭
焼き小屋のようなところで男たちが食べる鍋を想像しました。「桧の木屑」が具体的で、
山仕事の匂いまで感じられるところが良いと思います。

68	三万歩つるべ落しの乗車席

 句の意味が分かりにくく思いました。三万歩歩いて、日が暮れて、列車かバスなどに
乗っているということでしょうか? 運動のために歩き、帰りは列車かバスに乗ったの
かな?などと想像しましたが、いまいちよくわかりませんでした。

69	箸袋に防人の歌秋深む

 防人の歌が書かれている箸袋などを使っているとは、風情がありますね。防人の歌は、
遠い故郷や残してきた家族・恋人などを恋うものなどが多く、深まりゆく秋によく似合
います。

70	伸びて背を競ひし子等よ葉鶏頭

 「伸びて背を競ひし」の意味が分かりにくく思いました。背伸びして競ったというこ
とでしょうか? そうではないなら、「背の丈を競ひし」で良いと思います。葉鶏頭も
競うように並んで伸びる姿をよく見ますね。

71	満月や雑木林の葉の尖り

 「葉の尖り」で木々の枝葉のくっきりとしたシルエットが見えて来ます。宮沢賢治の
童話やムーミン谷のようなメルヘンの世界が浮かびました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「葉の尖り」が、よく見ておられ、表現も断定的でいいと思いました。季語「満月」
も効いていて、絵本に出てきそうな場面です。

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72	秋晴れや運動靴の泥かたし

 子供の運動靴でしょうか。どこを駆け回ってきたのやら、泥が固くこびりついている
のですね。「泥かたし」という具体的な描写から、からりと晴れた秋の空気が感じられ
ます。子供が元気に外を駆け回る姿まで想像できる、明るい句だと思います。運動靴を
子供の靴とすると、より景がはっきりします。

73	矜羯羅童子制多迦童子秋の水

 矜羯羅童子と制多迦童子は、不動明王の脇侍ですね。二童子の名を並べることに字数
を費やしたため、秋の水との関係を感じ取る手掛かりが乏しいように思いました。

74	横笛や老爺の指に鍬の胼胝

 季語がどれかわかりませんでした。横笛・老爺・鍬・胼胝を調べてみましたが、どれ
も季語にはならないと思います。ただ、農作業で鍛えられ、鍬による胼胝のある武骨な
指で笛を演奏するというのは味わいがあります。

75	放棄田の増えし古里捨案山子

 状況はわかりますが、類想が多いように思いました。また、放棄田と捨案山子の重複
感も気になりました。

76	木犀の金散り敷ける留守の家

 「木犀の金散り敷ける」は類想があるように思いました。また、なぜその家が今留守
だということがわかるのか疑問に思いましたが、おそらく長期間住人不在ということな
のでしょうね。人の気配のない庭に木犀の花が散り敷いている、静かな景が浮かびます。

77	日本では稲刈るころか摩天楼

 マンハッタンのような外国の都会で日本を偲んでいるのだと思いますが、「〇○ころ
か」は入れ替えがきくように感じました。花咲くころか、雪降るころか、蝉鳴くころか
・・・等々。

78	瓜坊を夫は隠してゐるやうな

 句意が掴めませんでした。夫が本物の猪の子供を隠して飼っているのか、夫の心の中
に潜む何かを瓜坊に喩えているのか?

79	ひとときを啼きて静まる虫の声

 虫の声や蛙の声は、一斉にピタリと止まることがありますね。ただ、その事実を言う
だけでは、句材として乏しいと思いました。

80	朝まだき草の葉先の白露かな

 「白露」は「はくろ」「しらつゆ」の二つの読みと意味があり、どちらも季語になっ
ています。この句の場合は、音数より「はくろ」の方だと思いますが、それだと二十四
節気の一つのことになり、葉先に結ぶ露の意味とは異なってしまいます。

81	下町の昭和めく路地秋簾

 下町・昭和・秋簾に統一感がありますが、「昭和めく路地」が抽象的な説明に感じら
れました。どんな点に昭和らしさが感じられたのか、具体的に写生してほしいと思いま
した。

 武藤光�リ氏評================================

 秋簾を見て、昭和の郷愁を得たのだ。下町には、まだまだ、こんな処が残っている。

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82	身にしむや墓じまいせし跡の色

 「墓じまいせし跡の色」が良くわかりませんでした。墓石などを撤去して更地にした
部分がどんな色になったのでしょう?

83	木犀の香を継ぐ先の大師像

 「木犀の香を継ぐ先」が良くわかりませんでした。香を継ぐとはどういうことでしょ
う? 木犀の匂いがする方へ辿って行ったということでしょうか?

84	掛け声の空へ伸び行く秋祭り

 秋祭りの賑やかさ、爽やかさを感じますが、「掛け声の空へ伸び行く」に違和感を憶
えました。空へ伸び行くだと、朗々と長く響く音声のような感じがします。「空へ弾け
る」等の方が自然な気がします。

85	四角描き稲を刈りゆくコンバイン

 区画整理されて四角形になった田圃なのでしょう。コンバインが外周から稲を刈って
いくのは、よく見る光景です。「四角描き」という捉え方には工夫がありますが、それ
だけでは見慣れた作業の説明にとどまり、詩情が感じられませんでした。

86	海見ゆる掛大根を高く吊り

 海風の丘で大根を干している景ですが、上五の「海見ゆる」で切れるのか、「海見ゆ
る」が掛大根を修飾するのか、解釈に迷いました。また、"掛"大根を"吊る"というのも、変な感じがしました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 作者の地方では、大根を高く吊って干されるのですね。具体的な描写がいいと思いま
した。潮風を浴びた干し大根はミネラルが豊富で美味しそうです。

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87	爽やかや例大祭の幟旗

 高い秋空にはためく神社の幟が浮かびます。「爽やか」という季語もよく似合います
が、例大祭では見慣れた景でもありますので、もうひとつ作者独自の視点や発見が欲し
いと思いました。

88	高らかに響く横笛田刈りあと

 米の収穫後の秋祭りの景が浮かびます。逆に言うと、「秋祭り」という季語があれば、
この句のような様子を含む景が浮かんできます。

【 第321回目 (2026年9月) HP俳句会 選句結果】
【  松井徒歩 選 】
  特選: かなかなや井戸に供ふる塩と酒 田村幸之助(和歌山県)
   芋の露二つ転げて一粒に みのる(大阪)
   魚籠軽き太公望や秋没日      ()
   鳥渡る翳りの伸びる摩天楼 みぃすてぃ(神奈川県)
   かなかなや父の残せし小引出し よりこ(名古屋市)
   蜩や庭に畠の武家屋敷 直樹(埼玉県)
   乱切りの刃先に残る胡瓜の香 正憲(浜松市)
   笠影に紅のかがよふ風の盆 土璃(神奈川県)
   持ち替ふる両手にずしり稲の束 戸口のふっこ(静岡県)
   知恵の輪の外れぬままに秋に入る 石塚彩楓(1-5-2埼玉県)
【  関根切子 選 】
  特選: 笠影に紅のかがよふ風の盆 土璃(神奈川県)
   かなかなや井戸に供ふる塩と酒 田村幸之助(和歌山県)
   秋の灯やゼンマイ固くオルゴール      百合乃(滋賀県)
   秋晴や孫殿を力走す みのる(大阪)
   路地の子の不意打ちにあふ水鉄砲 後藤允孝(三重県)
   ひもすがら納戸の隅の虫の声 岩田  勇(名古屋市)
   魚籠軽き太公望や秋没日 ()
   かなかなや父の残せし小引出し よりこ(名古屋市)
   青胡桃土偶の並ぶ郷土館 直樹(埼玉県)
   蜩や庭に畠の武家屋敷 直樹(埼玉県)
【  玉井美智子 選 】
  特選: 仰向けの蝉の骸や被爆像 正憲(浜松市)
   秋の灯やゼンマイ固くオルゴール 百合乃(滋賀県)
   無花果や宝珠となりし手の窪み      山びこ(名古屋市)
   箒目の波なぞりゆく秋の風 山びこ(名古屋市)
   鳥渡る翳りの伸びる摩天楼 みぃすてぃ(神奈川県)
   血縁の途絶えたる地や彼岸花 よりこ(名古屋市)
   兵として死なぬ国にや菊日和 原洋一(岡山県)
   夜長の灯助詞の一文字選びをり 吉沢美佐枝(千葉県)
   艫の波細く消えゆく今朝の月 井立美智乃(四日市)
   分校は山懐や群とんぼ 蝶子(福岡県)
【  国枝隆生 選 】
  特選: 曼殊沙華園児の声の届く畔 蝶子(福岡県)
   かなかなや井戸に供ふる塩と酒 田村幸之助(和歌山県)
   芋の露二つ転げて一粒に      みのる(大阪)
   路地の子の不意打ちにあふ水鉄砲 後藤允孝(三重県)
   鳥渡る翳りの伸びる摩天楼 みぃすてぃ(神奈川県)
   かなかなや父の残せし小引出し よりこ(名古屋市)
   大花野どこへ迷ふも花の中 原洋一(岡山県)
   月明かり風の奏でる手風琴 水夢(春日部市)
   夜長の灯助詞の一文字選びをり 吉沢美佐枝(千葉県)
   知恵の輪の外れぬままに秋に入る 石塚彩楓(1-5-2埼玉県)

※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、田村幸之助さん(和歌山県)でした。「伊吹嶺」九月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


     2026年9月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。

1	   日の丸は白地に赤き敗戦記

「赤き」は「赤し」と終止形にして敗戦記の前に切れを入れた方が良いと思います。
「敗戦記」は「敗戦忌」の変換ミスでしょうか?

2   名刹の古きトイレで蚊に刺され

川柳と俳句の違いは俳句には「切れ」があることです。「名刹の古きトイレや蚊に刺さ
れ」とすれば「蚊に刺され」の前に切れが生じます。

3      稲刈りをするも気になる米相場

  理屈を感じました。

4      光る羽根田んぼに蒔きし蜻蛉かな

「蒔きし」は「撒きし」の誤記かと思います。田圃に蜻蛉が集まるのはよく見かける光
景ですが、光る羽根を蜻蛉が撒いた、という表現が作者の閃きですね。

(国枝評)この蜻蛉は眼前に飛んでいる蜻蛉でしょうか。もしそうなら、「はね」は
「羽」または「翅」を使います。「羽根」は死んだあとや人工の羽根に使います。ここ
では「翅」を使うと便利でしょう。

5     夕月や胃薬を買ふ占い師

 深読みをすれば、この占い師は深く感情移入する性格で、悪い相の人を見続けてスト
レスがたまり、胃薬を買いに来た。なんていう想像をしました。

6       かなかなや井戸に供ふる塩と酒

井戸を清め、いつまでも質の良い水を汲み続けたいという思いが伝わってきます。蜩の
鳴く初秋の風情も良いですね。

国枝隆生氏特選================================

何かのいわれのある井戸でしょうか。「井戸」と「かなかな」の取り合わせが何となく
しっくりときました。かなかなも祈りを捧げているようです。

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7   秋暑しカツのラベルの油染み

気分は分かりますが、救いがなくて鑑賞が重くなります。

8   桟橋の板の隙間や秋夕焼

「板の隙間」ですが、もう少し先に進んだ写生が欲しいです。

9      秋の蝶何か急かるる肩あたり

(国枝評)秋ともなると何かにつけて急かされる心地がするのでしょう。ただ秋の蝶が
飛んでくるだけで感じたのでしょう。

10	    秋の灯やゼンマイ固くオルゴール

「固く」は「固き」の方が自然だと思います。

(国枝評)秋の夜にオルゴールを聴くのもしみじみとした感慨がありますね。この句は
主題はオルゴールでしょうから、上五は「や」で強く切らないで、「秋灯下」と和らげ
て、オルゴールを強調した方がよいでしょう。

11	     秋晴や孫殿を力走す

悪くはないですが、愛情溢れる孫俳句の典型でしょうか。

12   芋の露二つ転げて一粒に

芋の葉の上で、二つの露の玉が転がり、出会った瞬間に合体して大きな一粒になる。そ
の一連の動的な光景を、主観を交えずに捉えた、視線のしっかりとした写生句です。

国枝隆生氏選================================

瞬間の面白さを捉えています。芋の露は確かにこの通りで、露は次々と一粒になって
膨らんでいきます。

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13   朝顔や文士の貌は遠のいて

作者あるいはだ誰かが若いころは文士の顔をしていたのでしょうか。

14   炎昼や航跡曲げて漁港かな

上五で「や」を使っているので下五で「かな」は使わない方が良いと思います。切れ字
は一句の中で一つが原則です。

(国枝評)この句の主題は「炎昼」でしょうか、「漁港」でしょうか。どちらにも切れ
字があると、言いたいことが分散します。

15   祭り果て軒の風鈴余情かな

「余情」は読者が読み取るものですから、「余情かな」と言われても困ります。

16   汗腺を全開にして子等遊ぶ

言い尽くしてしまっているので、余情が欲しいです。

17   路地の子の不意打ちにあふ水鉄砲

 下町の郷愁を誘う光景ですね。

18   無花果や宝珠となりし手の窪み

無花果を掌で包むように受けている姿を想像しましたが、言葉の運びが手の窪みへ集中
していますので。上手く読み取れませんでした。

(国枝評)「無花果や」と強く切りますと、意味的に断絶して詠みます。ここは「無花
果の」と続けた方が分かり易いでしょう。

19   箒目の波なぞりゆく秋の風

 「なぞりゆく」が言葉の発見ですね。

(国枝評)庭園の砂でしょうか。そんな箒目にも秋を感じたことでしょう。擬人化が効
いていると思いました。

20   秋雨や濡れて歯医者の台の上

秋雨と「濡れて」が即きすぎのように思います。

21   秋日傘行基菩薩に会釈礼

上五と下五が共に名詞ですので窮屈な感じです。

22   朝夕に白粉花の淑女かな

「白粉花の淑女」が分かりません。

23     南瓜煮る病気知らずの母自慢

健康で丈夫なお母さんなのですね。南瓜も美味しいことでしょう。

24   ひもすがら納戸の隅の虫の声

納戸という今どき珍しい言葉から想像するに、古い日本家屋の物置や奥まった部屋でしょ
うか。「ひもすがら」とあるので、作者も一日中ほぼそこに留まっているのでしょう。
静寂を超えた寂寥感を覚えました。

25   晩酌の供にさんまの夢の夢

 さんまが高くなったということであれば理屈のように感じます。

(国枝評)「夢の夢」と重ねたことにどんな意味あるのか分かりませんでした。

26	魚籠軽き太公望や秋没日

 秋の日の沈む早さと「魚籠軽き」という描写の取り合わせに、味わい深い俳味を感じ
ます。

27	秋めくや日矢さす湖の漁舟

 そつなくできた叙景句ですね。

28	月上る歯形の残る積木かな

 「歯形の残る積木」が実景としても、どう感じたらよいのか戸惑いました。

29	鳥渡る翳りの伸びる摩天楼

 暮れゆく都市の風景と、はるばる時間をかけて渡ってきた鳥たちの姿が交差する、ド
ラマチックな光景です。

国枝隆生氏選================================

摩天楼の」影に見た渡り鳥の季節を感じたのでしょう。大景を詠んだ爽やかな景色で
す。「渡り鳥みるみるわれの小さくなり 上田五千石」を思い出しました。 

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30	ごろりんと歪な梨のかほるごと

「かほるごと」がよく分かりません。

31	ちちろ虫眠れぬ脳の重きこと 

 なかなか眠れないにしても、表現がやや大げさだと思います。

32	血縁の途絶えたる地や彼岸花

 切ない句で共感しますが、中七の調べを今少し改善すればもっと良くなると思います。

33	かなかなや父の残せし小引出し

 小さな引き出しには、亡き父親の思い出が静かに宿っています。蜩の声に包まれなが
ら、心の中で父と対話する作者の姿が目に浮かぶようです。

国枝隆生氏選================================

かなかなは郷愁を誘うようですね。蜩を聞いていると、父を思い出したのでしょう。

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34	青胡桃土偶の並ぶ郷土館

 物ばかりなので、季語は物以外のほうが良いと思いました。

35	蜩や庭に畠の武家屋敷

武家屋敷がまとう歴史の重みと、その庭にある畑という素朴な生活感。ふたつの対比が
映し出す時の流れを、物悲しい蜩の鳴き声が優しく包み込んでいます。

36	兵として死なぬ国にや菊日和

 意味は分かりますが「国にや」で良いのかどうか?

(国枝評)上五、中七、と抽象的な願いを言われても俳句には短すぎると思いました。

37	大花野どこへ迷ふも花の中

 迷うことを楽しんでいる姿が目に浮かびます。

国枝隆生氏選================================

花野を歩いていると、道が分からなくなったのでしょう。いつまでも花野を抜けられ
ないのがほほえましく感じました。

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38	月明かり風の奏でる手風琴

 月光と爽涼な風の音のコラボレーション。

国枝隆生氏選================================

今どき手風琴は見当たらないでしょう。月を見ていると回想に駆られたのでしょうか。

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39	シーラカンス潜む深海星月夜

 なかなか面白い取り合わせですね。ただ、シーラカンスは深海に生息するものですか
ら、上五中七が常識でしょうか。

40	落日の影絵に宿る秋思かな

(国枝評)秋は何にでも秋思を感じるのですね。夕日に写った影にことさらしみじみと
した感慨を受けたことなのでしょう。

41	夜長の灯助詞の一文字選びをり

 こちらの句はよく分かりますね。私も助詞の一文字には悩みます。

国枝隆生氏選================================

トリビアなことに執着するのも夜長のせいでしょうか。

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42	雅なる名前授かり式部の実

 季語が良い雰囲気を出していますが、「雅なる」では名前を授かった感動が伝わらな
いと思います。

(国枝評)上五、中七、は「式部の実」の説明のように聞こえました。

43	加賀友禅まとふひと日や萩の風

 切れ字の「や」が付いている「ひと日」が句の焦点となります。この句の焦点が「ひ
と日」で良いのかどうか?

44	乱切りの刃先に残る胡瓜の香
 
 視覚と臭覚の繊細な感覚の句ですね。調理の手際の良さも感じます。

45	仰向けの蝉の骸や被爆像

被爆像に昆虫とはいえ骸を配合するのは生々しすぎるように思いました。

46	逝く猫やいじらしく尾の揺るる秋

 死を目前とした猫の「いじらしく」尾を振る仕草が切ないですね。

47	見上ぐればつつゐづつなる月渡る

「つつゐづつ」という古典のロマンを背景にした構成は買いますが、月に連体形でつな
がるのはいかがなものでしょうか。「見上ぐれば」も要らないように思います。
 
48	県道をしるす棒立つ秋出水

「しるす棒」は標識でしょうか? 少し乱暴な言葉のように思いました。

49	桑の実を食べたる舌を見せあへる

 子供たちの観察でしょうか? 和気あいあいと楽しそうですね。
 
50	水煙の天女帰らむ月今宵

 薬師寺東塔の水煙でしょうか。「天女帰らむ」でドラマチックな句となりました。

51	笠影に紅のかがよふ風の盆

 女性の笠の影に、ふと垣間見える口元の紅がなんとも艶やかですね。

52	昏れゆける伊根の舟屋の秋ともし

 素直な写生句ですね。

53	幾山河越えて来たるや渡り鳥

 はるばると渡って来る鳥たちの常識のように感じました。

54	木曽暑し左は江戸の道標(しるべ)

 中山道ですね。 

55	熱帯夜踊るポーズの大統領 

 テレビの映像以上のものが見えてこないので実感に欠けるように思いました。

(国枝評)某国の大統領のパロディでしょうか。

56	雁渡しレギュラー二千円分で

 「雁渡し」と「二千円」は関係ないと思いますが、助詞の「で」で関係があるように
見えてくるのが気になります。

57	幼子のブーケはいつも草の花

 素朴な草の花のブーケの幼子の楽しそうな笑顔が目に浮かびます。

58	意地ひとつ捨つれば楽に鰯雲

 当たり前の人生訓のような気がしました。

59	踊り場に脚ひらく蝉とじる蝉

 踊り場は広義では人生が交差する場所でもあります。そこに転がる、命を閉じようと
する蝉。何かドラマを感じそうではありますが、今一消化不良でした。

60	老蝶や雨傘の柄にすがりをり

 老いているからすがるという理屈を感じました。

(国枝評)「老蝶」という言い方の季語はあるのでしょうか。「秋の蝶」だと十分かと
思いました。

61	百日紅花盗人は手をつけず

 「花盗人」という言葉ををどういう意味で使ったのかよく分かりませんでした。

62	雨に耐え風を堪える木の実かな

 木の実の写生になっていないように思います。

63	残暑めく乗り換え駅のベンチかな

 きちんとできた句ですが、報告気味のように思います。

64	立秋の終着駅に降りて立つ

 前句と同じ感想です。

65	持ち替ふる両手にずしり稲の束

 豊作の様子が伝わってきます。

66	秋濡れて湖に雲間のシアン色

 「秋濡れて」がよく分かりません。

67	朝の風秋を携へ通る窓

 朝の風に秋を感じたということだと思いますが、もっと素直な表現の方が良いと思い
ました。

68	旅の宿夢の叙唱の虫の声

 「夢の叙唱の虫の声」がよく分かりませんでした。

69	八月や歴史の重み忘れまじ

 よく分かる句で良いのですが、教訓はあまり俳句にはなじまないので、目に見える俳
句を望みます。

70	秋暑し迷惑電話詐欺電話

 こちらは目の前の電話が見えますが、入選までは今一歩でしょうか。

71	姉の逝く静かな知らせ十六夜

 切ない句で心に迫るのですが、「静かな」が惜しいです。もっと適切な言葉があるよ
うに思いました。

72	穏やかな寝息たつる子葉月かな

 下五の前で切れていますが、かな止めの場合は中七から下五に繋げた方が良いです。

73	倒木の苔は青丹に秋時雨

 「青丹よし」という枕詞があるので、奈良の風景を思い浮かべました。

74	知恵の輪の外れぬままに秋に入る

 秋の愁いを感じました。

国枝隆生氏選================================

ひとつのことに遊んでいるといつの間にか秋になったと季節感を感じたのでしょう。

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75	艫の波細く消えゆく今朝の月

 消えゆく航跡と明け方の月の風景が良いですね。

76	リキュール瓶の円き線今日の月

 七・五・五のリズムがあまり良くないのが残念です。

77	氷河崩るその先にある地球もや

 「その先に」は未来のことだと思いますが、「ある」で地球へ繋げるのはどうかな
あ?と思いました。もっと適切な言葉があるように思います。

78	黄落や明日の命の地に還る

 命の儚さと「黄落」が近すぎるように思いました。

79	父母の墓訪ぬる背をつくつくし

 「背を」よりも「背に」のほうが良いように思いました。

80	頭垂れ匂ふ稲穂や棚田径

 良く実った稲穂の説明のように感じました。

81	綿菓子も飛行機雲も秋の空

 空の雲が綿菓子のようだということでしょうか。よく分かりませんでした。

82	朝顔のつる登りゆく団地かな

 報告のような句だと思いました。

83	分校は山懐や群とんぼ

 蜻蛉が群れ飛ぶ山間の生徒も少ないでしょうが、元気に走り回っている学校が目に浮
かびます。

84	曼殊沙華園児の声の届く畔

 曼殊沙華の咲く畔の近くに幼稚園があるのですね。元気な声が聞こえてきます。

国枝隆生氏選================================

曼珠沙華の畦を歩いていると、園児の遊んでいる声に郷愁を誘うようです。

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85	ふみ切の待つ間日暮れの白粉花

 白粉花は夕方ごろから咲く花なので、「日暮れの」は言わずもがなのような気がしました。

86	八十余年歩み続けて鰯雲

 自分の感慨を述べる句には「鰯雲」は便利な季語ですね。

87	寸の間の雨間でくるり赤蜻蛉

 長雨の少しの止み間に赤とんぼを見つけて気が晴れたのですね。

88	虫の音や爪痕残る雨上がり

 水害の傷跡の残る静寂の中で凛と鳴く虫の声に、自然の生命力と再生を感じます。

(国枝評)何の「爪痕」でしょうか。「虫の音や」と強く切っているので、虫とも思え
ませんし。


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