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【
第301回目
(2025年1月)
HP俳句会 選句結果】
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【
国枝隆生
選 】 |
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特選:
青竹の跳ねてどんどの子ら散らす
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雪絵(前橋市)
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味噌蔵の石の白さも寒の内
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岩田 勇(愛知県)
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寒月や切絵のごとき大阪城
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みのる(八尾市)
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読みさしの本かたはらに去年今年
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粗稲沖(埼玉県)
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寒に入る利休鼠の雲迅し
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百合乃(滋賀県)
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木蓮の冬芽蒼天指してをり
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田中由美(愛知県)
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七種の青き湯気立つ厨かな
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筆致俳句(岐阜市)
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竹刀持つ握りこぶしや淑気満つ
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ようこ(神奈川県)
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ふる里の空は鈍色寒鴉
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ぽっぽ(東京)
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おしゃべりの止まらぬ朝や寒雀
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美由紀(長野県)
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【
松井徒歩
選 】 |
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特選:
喪の友へ薫香贈る寒の入
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近江菫花(滋賀県)
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味噌蔵の石の白さも寒の内
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岩田 勇(愛知県)
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少年の一途な瞳初稽古
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大原女(京都)
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冬ざれや鍋洗ひをる修行僧
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粗稲沖(埼玉県)
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廃村に樹齢百年冬桜
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近江菫花(滋賀県)
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寒に入る利休鼠の雲迅し
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百合乃(滋賀県)
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一杓の寒九の水や肚に沁む
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後藤允孝(三重県)
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若水や透けて柾目の樽の底
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後藤允孝(三重県)
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買初めや吾子に小さきイヤリング
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のりこ(赤磐市)
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一すじの汽笛を残し山眠る
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櫻井 泰(千葉県)
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【
関根切子
選 】 |
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特選:
青竹の跳ねてどんどの子ら散らす
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雪絵(前橋市)
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悴む手包む掌もまた悴めり
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原洋一(岡山県)
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帰る子にひと間空けをく年の夜
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原洋一(岡山県)
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読みさしの本かたはらに去年今年
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粗稲沖(埼玉県)
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鍵かけぬ里の暮らしや日向ぼこ
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石塚彩楓(埼玉県)
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木蓮の冬芽蒼天指してをり
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田中由美(愛知県)
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七種の青き湯気立つ厨かな
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筆致俳句(岐阜市)
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大漁旗掲ぐ港や初明り
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かれん(埼玉県)
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筆初留学生の書く平和
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麻里代(和歌山市)
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カラフルな留学生の雪だるま
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麻里代(和歌山市)
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【
玉井美智子
選 】 |
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特選:
寒月や切絵のごとき大阪城
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みのる(八尾市)
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帰る子にひと間空けをく年の夜
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原洋一(岡山県)
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まどろみに薺打つ音聞きゐたり
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康(東京)
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喪の友へ薫香贈る寒の入
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近江菫花(滋賀県)
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白波の煙る海原野水仙
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石塚彩楓(埼玉県)
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大漁旗掲ぐ港や初明り
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かれん(埼玉県)
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日向ぼこ出窓に三毛と玉さぼてん
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小林土璃(神奈川県)
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足に猿縋らせて去る猿回し
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櫻井 泰(千葉県)
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石段に連なる人や除夜詣
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伊藤順女(船橋市)
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タイマーの音にほほ笑む初写真
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野津洋子(愛知県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、雪絵さん(前橋市)でした。「伊吹嶺」1月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年1月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
今年もよろしくお願いいたします。
1 秋風や浄護院てふ朱き門
点は入っていませんができている句ですね。
2 投句選妻と味わう温め酒
投句と選ということだと思いますが<投句選>と詰めてしまうのが気になりました。
3 つつがなき巳年をねがふ明けの春
できている句ですが、賀春の説明のように思えました。
(国枝評)「つつがなき巳年をねがふ」は誰しも思うことで、結論というか、スローガ
ンのように感じました。
4 初時雨傘の華さく駅出口
「駅に西口東口」を思い出しました。こちらは改札口の人々の描写ですね。
5 味噌蔵の石の白さも寒の内
中七の<も>の使い方は俳句雑誌の作品でよく見かけますね。
国枝隆生氏評================================
石の白さから寒さを表現するのはシンプルだが、感覚的に共感できる句。
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6 うたた寝の覚めて空ろな冬の暮
<空ろな>が言い尽くしているように思えますがどうでしょうか? 俳句の形として
は前句同様完成していると思います。
7 老いもまた新しきかな初鏡
老いも新しいというのが漠然としているように思いました。
8 懐しき街の記憶や初日の出
懐かしいという記憶も漠然としていると思います。
(国枝評)やや抽象的だが、「懐しき街」は昔訪れた街であろうか、「初日の出」から
思い出す記憶に本当に懐かしさを感じたのだと思います。
9 一人居や手早自賛の三ヶ日
<手早自賛>が分かりませんでした。何でもてきぱきとこなすという意でしょうか。
10 残照に磨ぎ水ぎらり冬至かな
<ぎらり>が飾り言葉のようで大袈裟かなと思いました。かな止めですので中七の切
れも気になりました。
(国枝評)下五の「かな」は上五、中七を大きく受け止めて感動を述べる切れ字なので、
一般に切れを入れないで、一本調子で詠むものなので、中七を「ぎらり」と切るとリズ
ムが悪くなると思います。
11 それとなく一句を添へて初日記
今年も良い年で願いたいですね。どんな句でしょうかね?
12 少年の一途な瞳初稽古
上五中七は良いのですが、何の稽古か想像したほうが良いのか、分かっていたほうが良
いのか迷うところであります。
13 息白きブーツ履く娘の急ぎ足
<白き><履く>と二つ<娘>に掛かっていますので、上五は<息白し>として切れを
入れてはどうでしょうか。
14 悴む手包む掌もまた悴めり
予選でいただきました。頷きながら読ませていただきました。
(国枝評)動詞が三つもあると、印象が分散することが多いのですが、この句は「悴む」
だけを詠んでいるので、違和感はありませんでした。
15 帰る子にひと間空けをく年の夜
これから帰る子とも読めますが、中七を読めば実家へ帰ってくる子のことですね。
(国枝評)大晦日に我が子が帰ってくるのだろう。空けておくひと間は昔子供が使って
いた部屋で、いつも空けてあって、いつ帰ってきてもよいようにしているのだと思いま
した。
16 膨やかに着こなし上手初詣
<上手>は要らないように思いました。
17 初夢や夢みる夢に夢のあり
俳味を通り越してややこし過ぎるように思いました。
18 寒月や切絵のごとき大阪城
大阪城でなくても良いような気もしますが、影となった城郭はそんな感じですね。
国枝隆生氏評================================
寒月に浮かんでいる大阪城を「切り絵のごとき」と捉えた感覚がよかったと思います。
======================================
19 煮凝りの白き眼玉に睨まれる
魚の目玉に睨まれるという感慨はよくあることなのでさほど面白いとは思えませんでし
た。
20 青竹の跳ねてどんどの子ら散らす
元気な子供たちの声も聞こえてきそうです。
国枝隆生氏評================================
どんどの状態をよく観察して、素直な写生句で好ましいと思いました。
======================================
21 川岸に流れ片寄せ蘆枯るる
丹念に観察した結果だとは思いますが、動詞が三つ続くのが気になりました。
22 まどろみに薺打つ音聞きゐたり
奥様が朝早くから薺を打っているのですね。
23 初場所の贔屓力士の初日かな
相撲ファンとして気持ちが逸るのはわかりますがやや報告でしょうか。
24 身ごもりの濃き赤マルや初暦
<赤マル>は<赤丸>のほうが良いと思います。
(国枝評)今年、我が娘が出産する日を赤丸で印したのであろう。やや類型的だが、心
が籠もった句。
25 冬ざれや鍋洗ひをる修行僧
修行僧の厳しさが季語で一層伝わってきます。<鍋洗ひをる>と具体的に述べたのも
良いと思います。
26 読みさしの本かたはらに去年今年
読書好きの作者が見えてきます。
国枝隆生氏評================================
年越しの様子を「読みさしの本」に託して詠んでいるのが共感できた。ただ「かたはら
に」の一寸あいまいなところを具体的に詠むと臨場感が出てくると思いました。例えば
「読みさしの本枕辺に去年今年」など。
======================================
27 正月の位に日輪の上がりけり
<正月の位>がよく分かりませんでした。
28 垂直に上がるドローン初伊吹
実景としても「初伊吹」という季語と合っているようには思えませんでした。
29 喪の友へ薫香贈る寒の入
元日から数日過ぎた「寒の入」がよく効いていますね。ご友人も喜ばれたことでしょ
う。
30 廃村に樹齢百年冬桜
廃村となってしまったが桜は健在。でも寂しい光景ですね。
31 寒に入る利休鼠の雲迅し
雲の色を<利休鼠>としたのが面白いですね。
国枝隆生氏評================================
「城ヶ島の雨」など「利休鼠」色の雨は有名ですので、これで納得いきます。ただ現実
には利休鼠色は灰色にやや緑がかっている色なので、雲にふさわしいかどうか確認して
から詠みたいものです。
======================================
32 寒の梅一輪さえも匂い濃し
<さえも>が主観ですので、そのあたりは読者に読み取ってもらう描写をしてくださ
い。
33 ひとりふたり帰りて冬ざれの砂場
上六ですが、語順を変えるなどして推敲すれば定型に収まると思います。中七以下の
破調も調べを悪くして散文調になっています。
34 小夜時雨君を遣らじとカーラジオ
<君を遣らじと>が分かりませんでした。
35 年老いて涙湧きくるおでん酒
年を取って涙もろくなったということでしょうか?よく分かりませんでした。
36 音立てて追いくる枯葉足速む
枯葉が追いかけてくるから足を速めたわけではないと思いますが、そういう理屈のよ
うな表記が気になりました。
37 うらぶれし借家の木札枇杷の花
<うらぶれし>という説明調ではなくそう見えるような借家の描写(写生)をしてほ
しいです。
38 三河しぐれて縞木綿見本帳
七五五の冒険句ですね。地域団体商標『三河木綿(R)』というのがあるのですね。
39 道も狭に銀杏落葉のひかりかな
<道も狭に>の措辞がこの句でどれだけ効いているのか?
40 胸底に除夜の汽笛の余韻なほ
(国枝評)この汽笛は船だろうか。「胸底」とあるので、昔聞いた余韻を思い出してい
るのだろうか。それこそ余韻のある句。
41 白波の煙る海原野水仙
しっかりと形のできた句ですね。
42 鍵かけぬ里の暮らしや日向ぼこ
田舎の方は地域のつながりが強くて鍵の心配はいらないのですね。
43 桜木の幹艶やかや淑気満つ
ほどよく出来上がっていると思います。
44 木蓮の冬芽蒼天指してをり
こちらも上々ではないかと思います。
国枝隆生氏評================================
木蓮の冬芽の一物写生に力強さを感じる句でよいと思いました。ただ「蒼天」と固い表
現で詠んでいますが、その分中七が窮屈になったと思います。「木蓮の冬芽空へと指し
てをり」と助詞を入れて、単純に詠んでもよいかと思いました。
======================================
45 七種の青き湯気立つ厨かな
<青き湯気立つ>で厨の光景が鮮明になりまいた。
国枝隆生氏評================================
七草粥を茹でている様子でしょうが、あえて湯気も青いと捉えた感覚が捨て難いと思い
ました。
======================================
46 庭の松雪の重さに耐へてをり
実直な句ですがやや報告気味でしょうか。
47 はしゃぐ子にシャッタ決めれぬ初旦(あした)
<決めれぬ>ではなく<決められぬ>だと思います。
48 新春の結ぶ神籤や杜の花
結んである御籤が<杜の花>という意味ですか?
(国枝評)「杜の花」は神社のお神籤が花のようだと言うことでしょうか。比喩に一寸引っ
かかりました。
49 百年の夢を託せり宝船
決まっている句ですが、「宝舟」以外に物が描写されればもっと良いですね。
(国枝評)宝船はまさに「百年の夢を託せり」のような感じなので、宝船の説明のよう
に思えました。
50 大漁旗掲ぐ港や初明り
良い風景ですが<掲ぐ>は終止形ですので、三段切れが気になりました。
51 人は消え花野は枯野に移ろひぬ
よく分かる句ですが、花野と枯野の両方の景色が目に入りますのでどうかなと思いま
した。
(国枝評)この句は秋から冬にかけた時間の経過を詠んでいます。俳句は短いので、瞬
間を詠んでこそ活きてくると思います。
52 日向ぼこ出窓に三毛と玉さぼてん
「日向ぼこ」に猫の句は山とありますのでどう差別化を付けるかが難しいです。
53 一杓の寒九の水や肚に沁む
「寒九の水}を上手く表現していますね。
54 若水や透けて柾目の樽の底
上品な写生句ですね。
(国枝評)「若水」は元旦に桶に汲んで料理や福茶に使うなどする水。元旦らしさが出
てよい句だと思いますが、中七に「透けて」があるので、中七以降も若水のことを読ん
でいますので、上5を「若水の」などと切れがない方が分かりやすいと思いました。
55 人はみな黙して行かむ三日かな
嘱目の句としても季語が合っていないような気がします。
56 振り返るひとみな美しき冬の雷
雷で振り返ったのなら理屈っぽいし、全く関係のない取り合わせでは季語が離れすぎ
ているように思いました。
57 楪や負けず嫌ひは親ゆずり
できるならば実感のある事柄や物を詠んでほしいのですが、自己紹介の句としてこれ
も良いのかなあと思いました。
58 竹刀持つ握りこぶしや淑気満つ
初稽古の以外な所に注目しましたね。
国枝隆生氏評================================
「握りこぶし」に子供の力強さをよく表していると思いました。
======================================
59 ベンチ寝の目と耳覆ふ冬帽子
嘱目としても寒い冬にどうしてベンチで横になっているのでしょうか? 変形の日向
ぼこの句ですかね。
60 さつそうと撒き餌掠むやゆりかもめ
<さっそう>が説明なので、さっそうと見えるゆりかもめの動作を描写してほしいで
す。
61 片付けの残る宴や去年今年
大晦日から年明けまで宴が続いたのでしょうか。だとすると季語の説明のような感じ
がします。
62 買初めや吾子に小さきイヤリング
おしゃめな女の子が目に浮かびました。
63 ふる里の空は鈍色寒鴉
日本海側の町の古里でしょうか。厳しい生活が伺えます。
国枝隆生氏評================================
「ふるさと」を「空の鈍色」と「寒鴉」と取り合わせから思い出している様子に説得力
があるように思えました。
======================================
64 マリア像冬暖かな腕かな
<腕>ですが、マリア像の腕なのか作者の腕なのか迷いました。
65 お洒落して心に秘めて初句会
<心に秘めて>がよく分からないのですが、ひょっとして恋の句ですか?
66 若隆の横綱に土初場所や
「初場所や」は上五に据えたほうがよいように思います。
67 風の戸は昭和のねぐら嫁が君
昭和の古い家が作者の家で、ネズミまで天井で走り回っている、という句でしょうか?
上五と中七が同じことのように思えました。
68 ハルカスウォーク春着の声高し
破調はともかくとしても、報告のように思えます。。
69 筆初留学生の書く平和
散文調なのが不満なのですが、良い場面ですね、「書初や平和と太く留学生」などど
うでしょうか。
70 カラフルな留学生の雪だるま
カラフルなのは留学生なのか?雪だるまなのか?雪だるまなら面白いと思いました。
71 一すじの汽笛を残し山眠る
観光の蒸気機関車でしょうか。山が汽笛を残したと読めるのが気になりますが、それ
も不思議な光景として流してしまえば絵になる句だと思いました、
72 足に猿縋らせて去る猿回し
良く調教されたというよりも家族の関係のような後ろ姿ですね。選を済ませたあとで
「しまった、採り損ねた」と思いました。
73 石段に連なる人や除夜詣
「除夜詣」の報告のように思えました。
74 松光る昭和の団地初日の出
<松光る>が終止形ですと三段切れ。連体形にしても浮いているような感じです。
(国枝評)典型的な三段切れの俳句だと思います。
75 流木に骨ごとき音冴る月
骨のような流木なら分かりますが、骨のような音が分かりませんでした。
76 富士の山隙なき縄の冬かもめ
<隙なき縄>が分かりませんでした。
77 薄紅のマニキュア指に冬うらら
「冬うらら」が句を甘くしているように思います。もう少し引き締まった季語のほうが
良いと思います。
78 朝の市大根の葉の瑞瑞し
瑞瑞しく見える大根の葉を具体的に描写してほしいです。
79 度忘れの名前に苦笑初日記
私も人の名が出てこなくなりました。日記では先に進まないので困りますね。
80 嘴を向けあひもして初鴉
番でしょうか。<あひもして>の<も>はいらないように思いますが、仲が良さそう
ですね。
81 柏手を一人響かせ初詣
お一人ですから小さな神社なのでしょうか。凛とした姿が伺えます。
82 庇無き無人販売雪催
ほぼ野ざらしの無人販売なのですね。「雪催」が寂しさを誘っています。
83 救急車はるかに聞こゆ寒夜かな
かな止めですので、<聞こゆ>は連体形にしてほしいです。
(国枝評)この句も10番と同様に下五を「かな」の切れ字で強く止めています。従っ
て中七が「聞こゆ」の終止形で切れているのが「寒夜かな」が浮いた感じです。「救急車は
るか聞こゆる寒夜かな」とすればリズム的にもよくなり、実感のある句となると思いま
した。
84 凜として白き一輪冬薔薇
<凜として>は作者が述べるのではなく、読者に読み取ってもらうものだと思います。
85 タイマーの音にほほ笑む初写真
先日集合写真を撮ったのですが、微笑むタイミングが分からず苦労しました。
86 身震ひに空気ふるはす大くさめ
身震いしてくしゃみをするのだと思いますので<身震ひに>の<に>が?でした。
87 蒼穹に富岳泰然淑気満つ
正に淑気に満ち満ちているのですが、<蒼穹><泰然>と胸を張った言葉が並びすぎ
ているように感じました。
(国枝評)この句は「淑気」で格調高い句ですが、さらに「蒼穹」「富岳」「泰然」と固
い飾り言葉が続くのが気になりました。
88 息災を喜び合うて若菜粥
こちらは身辺の穏やかな場面でですね。形よくできていると思いました。
89 寒月や見つめる先はスマートフォン
季語が効いているように思えませんでした。
90 おしゃべりの止まらぬ朝や寒雀
家族のおしゃべりでは景が見えてこないので、雀の鳴き声として解釈しました。
国枝隆生氏評================================
「おしゃべりの止まらぬ」が人間か寒雀かが問題になりますが、ここは寒雀の鳴き声を
「おしゃべりの止まらぬ」と見たのだと思います。その方が説得力のある句となりまし
た。ただ中七の「や」が気になりますので、「朝の」とすれば分かりやすいと思いまし
た。
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【
第300回目
(2024年12月)
HP俳句会 選句結果】
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【
奥山ひろ子
選 】 |
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特選:
クリームへサンタの転ぶ聖菓かな
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戸口のふっこ(静岡県)
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身の丈に合はせ小さき熊手買ふ
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近江菫花(滋賀県)
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尾羽たて垂直に入る鳰
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のりこ(赤磐市)
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親鸞忌住職二代唱和して
|
隆昭(北名古屋市)
|
夕焼けの光のみこむ冬の雲
|
奥村僚一(甲賀市)
|
一日をほどほど過ごし今年酒
|
奥村僚一(甲賀市)
|
墨薄し売家の木札枇杷の花
|
石塚彩楓(埼玉県)
|
寒林を出て断崖の伊豆の海
|
伊藤順女(船橋市)
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干布団日の香を乗せて取り込みぬ
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町子(北名古屋市)
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夫の打つうどん不揃ひ湯に踊る
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野津洋子(瀬戸市)
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【
武藤光リ
選 】 |
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特選:
開戦日立ち食いそばに風荒ぶ
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田中由美(愛知県)
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辛いとは言はぬ母なり一葉忌
|
水鏡(岐阜県)
|
自販機のひかる公園寒北斗
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みぃすてぃ(川崎市)
|
身の丈に合はせ小さき熊手買ふ
|
近江菫花(滋賀県)
|
家計簿に亡母の一句や冬銀河
|
鷲津誠次(岐阜県)
|
夕焼けの光のみこむ冬の雲
|
奥村僚一(甲賀市)
|
鯛焼を抱へ深夜のターミナル
|
かれん(埼玉県)
|
茶の花や開け放たれし武家屋敷
|
蝶子(福岡県)
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ぺこと消えぽこと尻出すかいつぶり
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椋本望生(堺市)
|
冬空へシニアコーラス意気高し
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かよ子(和歌山市)
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【
酒井とし子選
選 】 |
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特選:
漁火の沖一直線や冬銀河
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みのる(大阪)
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しぐるるや奈良井宿まであと一里
|
水鏡(岐阜県)
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金鯱の溶け落ちさうな秋日かな
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岩田 勇(愛知県)
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ロシア茶や窓の枯葉は琥珀色
|
粗稲沖(埼玉県)
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家計簿に亡母の一句や冬銀河
|
鷲津誠次(岐阜県)
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駅蕎麦に薬味たつぷり雪催
|
康(東京)
|
親鸞忌住職二代唱和して
|
隆昭(北名古屋市)
|
鯛焼を抱へ深夜のターミナル
|
かれん(埼玉県)
|
茶の花や開け放たれし武家屋敷
|
蝶子(福岡県)
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寒林を出て断崖の伊豆の海
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伊藤順女(船橋市)
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【
渡辺慢房
選 】 |
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特選:
留石の黒き棕櫚縄返り花
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石塚彩楓(埼玉県)
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咳の児のおもちゃひろごるべットかな
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大原女(京都)
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笹鳴や半ば埋もれし焔魔堂
|
百合乃(滋賀県)
|
ロシア茶や窓の枯葉は琥珀色
|
粗稲沖(埼玉県)
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三匹の猫に囲まれ日向ぼこ
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重明(長野市)
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一日をほどほど過ごし今年酒
|
奥村僚一(甲賀市)
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わが影に追われて忙し師走かな
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後藤允孝(三重県)
|
寒林を出て断崖の伊豆の海
|
伊藤順女(船橋市)
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落葉籠両手は御霊抱くように
|
戸口のふっこ(静岡県)
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光へと駆くる幼子冬帽子
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田中由美(愛知県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、伊藤順女さん(船橋市)でした。「伊吹嶺」12月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2024年12月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 通院の帰りドライブ秋日和
思わず回り道をしてドライブをしたくなるような好日なのですね。ただ、それをその
まま言うだけでは、理屈・説明になってしまいます。「通院の帰り」は「病院の帰り」
とした方が、言葉の重複感が無くなります。
2 秋刀魚焼く忘れた香隣まで
「忘れた香」は、忘れるほど長い間嗅いでいなかった香りという意味だとすると、そ
んなに長いこと秋刀魚を食べていなかったのかと、ちょっと意外に思いました。また、
秋刀魚を焼くにおいが近所まで漂うというのは、典型的な市井の風物詩のひとつだと思
いますので、句材にするにはもう一工夫欲しいと思いました。
3 月影に踊り明かせや曼殊沙華
彼岸花を擬人化して命令するという工夫をされていますが、月影(秋)と曼珠沙華(秋)
の季重なりなのが残念です。
4 大蟷螂に無沙汰を詫びて墓参
なぜ蟷螂に無沙汰を詫びる義理があるのか?と不思議に思いましたが、想像を巡らす
と、墓参をさぼっていたことを、墓を守っているように思えた蟷螂に詫びたということ
かと思いました。蟷螂(秋)と墓参(秋)の季重なりです。
5 辛いとは言はぬ母なり一葉忌
季語からお母さまの生き様が伝わってきます。欲を言えば、「辛いとは言はぬ母」を
もっと具体的な景が見えるように、物や仕草で詠めれば良いですね。
6 しぐるるや奈良井宿まであと一里
実際に中山道(木曽街道)を歩いて詠まれたのか、想像で詠まれたのかわかりませんが、
江戸時代の旅の様子が浮かびました。縞の合羽に三度笠の渡世人が、俯いて歩いている
ようです。
7 金鯱の溶け落ちさうな秋日かな
今年は秋になっても暑い日が続きましたね。「秋日」は、俳句では気持ちの良い秋の
太陽や日差しのこととして詠むものですが、猛烈な暑さとして詠むのも俳味があると思
いました。
8 水鳥の進む一筋山の池
木々も葉を落として動くもののない山中の池に、ただ一筋、水鳥の水脈だけが伸びて
ゆく様子が詠まれています。寂しい冬の風景です。
9 雨を聴き風と語るや冬帽子
冬帽子の主の、自然と親しむ様子を詠まれていますが、ちょっと抽象的で格好をつけ
過ぎな感じを受けました。
10 自販機のひかる公園寒北斗
誰もいない夜の公園に自販機の明かりだけが見えています。北の空に光る北斗七星が
寒々としています。
11 バスを待つ君の名知らず冬の虹
純情な初恋という感じの句ですね。作者の性別はわかりませんが、季語より穢れの無
い乙女心という感じがします。
12 七五三風に靡かず立つ子の背
子供の後ろ姿に成長を感じられたのだと思います。ただ、小さな子でも「風に靡く」
というのは、よほどの強風でもない限り無いような気がしました。
13 霜柱踏んで1番パー5
早朝からのゴルフでしょうか? 私はゴルフをしないので、「1番パー5」にどうい
う感慨があるのかが分かりませんでした。申し訳ありません。
14 身の丈に合はせ小さき熊手買ふ
作者の謙虚な生き方が偲ばれますが、「身の丈に合はせ」が主観で説明的に感じられ
たのが残念です。
奥山ひろ子氏評===============================
作者の控えめなお人柄がうかがえるとともに、来年の幸福を願う気持ちが伝わりまし
た。
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15 くしゃみして字引頼りに難字記す
手紙でも書いているのでしょうか? わからない字を調べるのが字引ですので、「難
字記す」は言わなくてもわかると思います。
16 炬燵居や積ん読再読思うまま
炬燵に入って本を読むのは普通のことで、それだけを句材とするには厳しいと感じま
した。
17 咳の児のおもちゃひろごるべットかな
風邪気味の子を寝かそうとしているのに、なかなか横にならずにおもちゃで遊び続け
ている様子。やんちゃな子供の表情と、ちょっと困ったお母さんの顔が浮かびます。
18 ねむねむの児が引いてくる羽布団
自分で布団を引っ張ってくる様子が可愛らしいですね。羽布団は羽根布団と書きます。
19 掛け蒲団節々たぐる夜明けかな
「節々たぐる」がどういう様子なのか、よくわかりませんでした。誰かと布団の引っ
張り合いをしているのでしょうか?
20 小春日に年迎えの戸洗ひをり
「年迎えの戸」がよくわかりませんでしたが、小春日(冬)と年迎え(旧仮名だと年迎
へ)の季重なりではないかと思いました。
21 立冬やペンキ塗り立てジャングルジム
ペンキを塗りなおして真新しく見えるジャングルジムと、季語がいまいち噛み合って
いない様に感じられました。三段切れなのも気になりました。
22 北風に倒れて起きる泡立草
植物が風に吹かれて倒れ、また起き上がると言うのは普通のことなので、それだけを
詠んでも俳句としては貧しく感じられます。北風(冬)と泡立草(秋)の季重なりでもあり
ます。
23 河原鳩クツククツクと突く靴
河原鳩は日本にはいない鳩の種類で、季語ではないようです。また、河原鳩が靴を突
いているのだと思いますが、靴が河原鳩を突いている様にも読めます。
24 此処にもと拾ひて見詰む木の華髪
「木の華髪」は「木の葉髪」の誤記でしょうか?
25 笹鳴や半ば埋もれし焔魔堂
冬ざれた村はずれの様子が浮かびます。焔魔堂を手入れする人もいなくなった過疎の
村、あるいは廃村かもしれませんね。
26 蹲踞にひとひら沈め柿紅葉
何かの意図が有って、蹲踞に柿紅葉を沈めたのでしょうか? 茶道にそのような作法
や慣習があるのかな?とも思いましたが、門外漢のためよく分りませんでした。
「沈め!」という命令形ではないと思いますが・・・・。
27 ねんねこの親子の灯す酒処
ねんねこを着て子を負ぶっている店主が、店あるいは提灯に灯を入れたということで
しょうか? であれば、子供は灯をともしませんから、「ねんねこの女将の・・・」等
とした方が良いと思います。
28 ロシア茶や窓の枯葉は琥珀色
ロシア茶という言葉はネットで調べても出てきませんでしたが、ジャムを入れたロシ
アンティーのことかと思います。「窓の枯葉は」は「窓の枯葉の」とした方が琥珀色が
より印象的に感じられます。
29 論敵の居る幸せや師走酒
月の名前に「酒」を付けても季語にはなりません。ここは「おでん酒」や「温め酒」
で良いのではないでしょうか?
30 尾羽たて垂直に入る鳰
写生句ですが、季語の説明に感じられました。写生か季語の説明かは、そこに発見・
感動・詩情があるかどうかだと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
しっかり写生されています。鳰をよく見ておられると思いました。
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31 実を落とし天辺を突く枯銀杏
前句と同じく、季語を説明しているように感じました。
32 漁火の沖一直線や冬銀河
漁火は「いさりび」だと字余りになりますので、「ぎょか」と読ませるのだと思いま
す。漁火が沖に一直線に並んでいる上に銀河が架かっているのか、漁火の見える沖の上
に銀河が一直線に見えているのか、解釈に迷いました。後者だとすると、漁火は沖に見
えるものなので、「漁火や一直線の冬銀河」で良いと思います。ただ、銀河が一直線に
見えるかどうかは意見が分かれるところだと思います。
33 寒木瓜やいあはせひとつふたつみつ
中七下五の意味が分かりませんでした。「ひとつふたつみつ」は、花が開いて行くと
ころかと思いますが、「いあはせ」は、その開く瞬間に居合わせたということでしょう
か?
34 ほつとする隣りの寝息寒の星
星の見えるところで寝息を立てているとは、冬のキャンプでしょうか? 寒星(かん
せい・かんぼし)は冬の星と同じ意味ですが、寒の星だと寒の期間(寒の入りから寒明け
まで)に見る星という意味になると思います。
35 米を研ぐ指をすり抜け十二月
指をすり抜けるのは米?十二月?それとも作者自身でしょうか?
36 鍵しっぽ立てゝすり寄る炬燵猫
炬燵猫は、炬燵に潜り込んでいる猫のことですが、この猫は炬燵の外にいるのではな
いかと疑問が湧きました。
37 三匹の猫に囲まれ日向ぼこ
猫も人も幸せそうです。「猫に囲まれ」を「猫侍りたる」としても良さそうですね。
38 家計簿に亡母の一句や冬銀河
亡母は「はは」と読ませるのかと思います。この家計簿は誰のものでしょう? お母
様のものであれば、「一句」いう言い方はしないでしょうから、作者が自分の家計簿に
お母様の一句を書き込んで偲んでいるということかと思いますが、家の中から冬銀河が
見えるのか?という点も気になりました。
39 駅蕎麦に薬味たつぷり雪催
駅のホームで寒風に吹かれつつ啜る蕎麦は堪えられませんね。「薬味たつぷり」は
「どさと薬味や」等とすると、より臨場感が出ると思います。
40 木枯の龍馬像過ぎ海に出づ
木枯しが龍馬の像を吹き過ぎて海に出たのか? 作者が木枯しに吹かれている龍馬像
を過ぎて海に出たのか?
41 アイドルの不意の死雪蛍刹那
中山美穂氏の件かと思います。「雪蛍刹那」の意味が判然としませんが、何となく儚
く切ない感じがします。
42 笹鳴きを録音せめば失せにけり
国語力不足で申し訳ありませんが、「せめば」は「せむとすれば」の意味でしょうか?
そうだとしますと、事実を述べただけの報告的な句と感じられました。
43 村人を一つにさせる牡丹鍋
村中の人が集まって牡丹鍋を食べる行事のようなものがあるのでしょうか? 「村人
を一つにさせる」は観念的で説明臭い感じがしますので、一つになっている様子を具体
的な景で詠んで欲しいと思いました。
44 鰤起し北前船の大屋敷
物で詠まれていますが、「北前船の大屋敷」は北前船で儲けて建てた大屋敷という意
味で、いまいち具体的な景が浮かばないのが残念です。
45 連弾やポインセチアの十ほども
年末のピアノの発表会でしょうか? ステージはポインセチアの鉢植えで飾られてお
り、クリスマスムードが感じられます。
46 カラカラと雨戸走れり枯芙蓉
カラカラは雨戸の走る音ですが、枯れた芙蓉が風に鳴る音にも感じられます。
47 降誕祭シェフひと手間の介護食
心遣いが温かいですね。「ひと手間」が具体的に映像になると更に良いと思いました。
48 秩父夜祭御旅所の坂が待つ
季語「秩父夜祭」の説明のように感じられました。
49 切り岸や東尋坊の冬怒涛
「切り岸」は、東尋坊の説明だと思います。
50 百合鴎乱舞東京湾暮色
百合鴎は別名都鳥とも呼ばれ、新橋と豊洲を結ぶ無人電車の名前にもなっていますの
で、東京湾との取り合わせは付きすぎに感じました。(鴎の旧字は環境依存文字のため、
鴎の字を使用させて戴きました。)
51 親鸞忌住職二代唱和して
季語が付きすぎに感じました。
奥山ひろ子氏評===============================
お寺の後継者問題も大変な今日この頃、朗々とした読経が聞こえてくるようです。
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52 墨染の托鉢の僧雪の花
雪中托鉢。黒と白との対比が印象的です。
53 大橋の孤に晩歳の翳よどむ
「晩歳」は「歳晩」の誤記でしょうか?
54 背戸の垣結び目新冬構
三段切れが惜しいと思いました。
55 夕焼けの光のみこむ冬の雲
夕焼け(夏)と冬の雲(冬)の季重なりが残念です。
奥山ひろ子氏評===============================
「光のみこむ」の思い切った措辞に作者らしさが出ていて、雲の美しさも感じました。
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56 一日をほどほど過ごし今年酒
いつもと変わらない平凡な一日も、新酒の口を切ればちょっと特別に感じられます。
奥山ひろ子氏評===============================
「ほどほど」が面白い表現。今年酒もおいしいことでしょう。
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57 紅葉散る水音高き奥入瀬に
綺麗な景ですが、奥入瀬といえば渓流の水音が浮かびますので、中七が説明に感じら
れました。
58 寡黙なる白鳥の郷暮色濃し
「寡黙なる」が係るのが「白鳥」なのか「郷」なのか疑問に思いました。どちらにし
ても、「寡黙なる」という形容はしっくり来ないように思います。
59 わが影に追われて忙し師走かな
師走が忙しいというのは平凡ですが、自分の影に追われるという発想は面白いと思い
ました。
60 老ゆる身で賀状書く手の文字乱る
「身」と「手」、「書く」と「文字」に重複感を覚えました。散文的でもありますの
で、切れを意識して整理されると良いと思います。
61 鯛焼を抱へ深夜のターミナル
深夜に鯛焼きを売っているところがあるのだろうか?と、余計な心配をしてしまいま
した。
62 水掻きの時折見ゆる鴨の昼
「蝶の昼」「花の昼」「藤の昼」等は見たことがありますが、「鴨の昼」というのは
初めてで、どういう情景なのか悩みました。「水掻きの時折見ゆる」というのは、鴨が
陸に上がっているのでしょうか?
63 生命取り合ふほど交り鴨の恋
上記と同じく、「鴨の恋」というのも初めてで、季語になるのかどうかわかりません
でした。Youtubeで鴨の交尾の動画を見てみましたが、命を取り合うというような様子
には見えませんでした。ちなみに、鳥の恋や猫の恋は春の季語になっています。
64 夕食はポテト大盛漱石忌
若い頃に漱石の主だった作品は読んだと思いますが、大盛りのポテトに関連するよう
なシーンや描写があったかどうか思い出せませんでした。
65 冬支度終へし町並景新た
言いたいことはわかりますが、「景新た」が主観で、理屈っぽいように感じました。
66 小夜ふけて静謐の雪明かりかな
綺麗な句ですが、「雪明かり」と言うだけで静かな夜の景が浮かぶように思います。
67 初雪のかすかに残るまつ毛かな
綺麗な句ですが、失礼ながら「見て来たような嘘をつき」的に感じてしまいました。
68 他愛なきこと綴りたり日記果つ
今年も一年無事に暮らせたということでしょうね。
69 墨薄し売家の木札枇杷の花
墨の薄れた札と、目立たない枇杷の花が似合っています。ただ、三段切れですので、
上五は終止形で切らないで「墨薄き」とした方が良いと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
寂しげな荒涼感が、「枇杷の花」に託されています。「墨薄し」の具体的な写生もいいですね。
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70 留石の黒き棕櫚縄返り花
棕櫚縄の色と花の色の対比が良いですね。後ろの青空も見えて来ます。
71 茶の花や開け放たれし武家屋敷
武家屋敷は、冬でも戸を開け放っておくのでしょうか? 寂しげな茶の花も見えて、よ
り寒々とした感じを受けました。
72 匂ひ立つ花柊の札所径
ヒイラギはモクセイ科で、小さな花の割には強い香りがしますので、「匂ひ立つ」と
いう表現が合っていると思いました。良い香りに疲れも癒されたことでしょう。
73 寒林を出て断崖の伊豆の海
伊豆は比較的温暖なところですが、冬はやはり寒々と感じられますね。それでも、青々
とした明るい海が浮かんできました。
奥山ひろ子氏評===============================
伊豆の波の音が聞こえてきそうです。冬の海の寒々した情景が浮かびました。
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74 歳の市昭和めきたる珈琲館
「珈琲館」は喫茶店チェーンの店舗ブランドです。その店のことを言っているのでな
ければ、「珈琲店」や「喫茶店」等の方が良いと思いました。
75 歳重ね二人で啜る晦日蕎麦
子供の頃は親や兄弟と、そして若いころは子供達と正月を迎えたものですが、いつし
か夫婦二人で年越しをするようになります。上五を工夫して、年を重ねたことを物を詠
むことで伝えられると、さらに良くなると思いました。
76 干布団日の香を乗せて取り込みぬ
句の意味はよく分かりますが、「季語の説明」的に感じられました。
奥山ひろ子氏評===============================
「日の香を乗せて」に作者の喜びが出ています。
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77 喜壽米壽壽(いのちなが)なり初句会
喜寿や米寿がご長寿であるのは自明ですので、中七は言わなくてもわかると思います。
78 空昏く海冥く冬花火燦
花火が上がるのは夜ですので、空も海も暗いですね。また、「燦」と言わなくても、
花火の様子は浮かんできます。むしろ、漠然とした「燦」という描写よりも、冬花火ら
しい一瞬を捉えて欲しいと思いました。
79 マフラーの先の解れや少女の眼
句意がつかめませんでした。マフラーの先が解れて、少女の眼がどうしたのでしょう?
80 長靴の闊歩してゐる冬野かな
闊歩しているのは長靴ではなく人でしょうから、「長靴で闊歩」ではないかと思いました。
81 樹氷林スマートフォンを縦横に
「スマートフォンを縦横に」は、写真を撮る構図を考えているのでしょうか?だとす
ると、それは樹氷林を撮るときだけとは限らないと思います。
82 ぺこと消えぽこと尻出すかいつぶり
不二家の宣伝のような愉快な句ですね。ただ、季語「かいつぶり」の説明に感じまし
た。
83 凩や平均寿命の壁を越ゆ
作者にとって、平均寿命は一つの壁なのでしょう。ようようそれを越えても、なかな
か安らげないことを、季語が物語っています。
84 鯨テキといふ御馳走や青春期
鯨テキがご馳走であるというのは作者の主観であり、それが青春期のことであったと
いうのは説明に感じました。
85 落葉籠両手は御霊抱くように
落葉籠というのが良くわからなかったので調べてみました。堆肥にする落葉を入れて
運ぶための、大きな竹の背負い籠のようですね。そこに集めた落葉を入れる仕草を、
「御霊抱くように」と読まれたのだと思います。一読ピンと来ませんでしたが、有るか
無きかの落葉の重さと霊魂の比喩は面白いと思いました。
86 クリームへサンタの転ぶ聖菓かな
最初、意味がわかりませんでした。巨大なクリスマスケーキに向かってサンタの扮装
をした芸人がこけるバラエティ番組かと思いましたが、ケーキの上に小さなサンタの人
形が乗っていて、それが倒れたという意味でしょうね?わかってみるとなるほどという
感じです。サンタ(サンタクロース)と聖菓の季重なりは、この場合気になりません。
奥山ひろ子氏評===============================
平明な表現ですが、クリスマスの楽しさ、幸福感が詰まった作品。ジングルベルまで
聞こえてきそうです。「サンタの転ぶ」は何度読んでも楽しく、秀逸な写生と思います。
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87 無住寺に棲み付く狸鄙の村
「無住寺の狸」で、棲みついていることはわかると思いますし、寂れた村の光景も浮
かびますので、もう一工夫の余地があると思いました。
88 夕陽さす古池侘し枯れ蓮
「侘し」は主観です。古池や枯れ蓮で侘しさは十分伝わります。
89 真つ直ぐに我が道進む冬木立
冬木立が列を作って行進している様を思い浮かべてしまいました。
90 北風や水面をすべり翻る
中七下五が北風のことを言っているのであれば、上五は「や」で切らない方が良いと
思います。
91 冬空へシニアコーラス意気高し
寮歌祭でしょうか? 往年の青年たちが肩を組んで歌っている様子が浮かびました。
92 寒菊や今年限りの同窓会
前句と比べて、一気に物悲しくなりました。季語が似合いすぎ(付き過ぎ)の感じが
しますので、もう少し離して、温かさの中にどこか悲しさも感じるようなものを取り合
わせると良いと思いました。
93 柳行李縁側に干す今日小春
俳句は一人称現在形が基本ですので、「今日小春」と言うとかえってくどく感じます。
「小春かな」で良いのではないでしょうか?
94 防大生のきりっと立つ冬の駅
上五を「防大生の」とすると中七が字足らずとなります。「きりっと」は主観であり
具体的な様子が浮かびにくいので、きりっと見える具体的な様子を描写すると同時に、
中七を定型に収めたいところです。
96 夫の打つうどん不揃ひ湯に踊る
うどんを不揃いとけなしておいて、それが湯に踊っている様子を楽しげに見ているあ
たり、微笑ましいツンデレ感を覚えます。
奥山ひろ子氏評===============================
ちょっと不器用ではありますが、愛情のこもったうどんに、読者の心も温まります。
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97 雪催ひ電話のベルに訃の続く
ベルが鳴って電話に出ると、訃の報せだったということですね。心も冷えて行きそう
です。
98 冷えし日や緋色に染まる日の出前
「寒暁」または「冬曙」という季語で済むように思いました。
99 すれ違う子の鼻歌もジングルベル
ジングルベルは季語でしょうか? クリスマスソングとして愛唱されている歌ですが、
元の歌詞は橇の競争のことを言っていて、クリスマスや宗教的なことは含まれていませ
ん。
100 開戦日立ち食いそばに風荒ぶ
吹きさらしのスタンドで蕎麦を啜りながら、ふと今日が開戦日であることを思い出し
たのですね。戦後生まれの私にとっては、12月8日は特に思い入れのある日ではなかっ
たのですが、ジョン・レノンの命日となってから忘れられない日になりました。
武藤光リ氏評================================
立ち食い蕎麦屋と開戦日は何の関係もないが、吹きっさらしで安い蕎麦を流し込む心
境にふと、戦争の辛い昭和を感じたと思う。なお、歴史的仮名遣いでは立ち食いは立ち
食ひ。丁寧な日本語を望みます。風荒ぶ立ち喰ひ蕎麦屋開戦日 など。
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101 光へと駆くる幼子冬帽子
母親の編んだ毛糸のキャップでしょうか? 寒くても元気な子供の様子が浮かんでき
ます。
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