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【
第308回目
(2025年8月)
HP俳句会 選句結果】
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【
酒井とし子
選 】 |
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特選:
石白く乾く河原や夏薊
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石塚彩楓(埼玉県)
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涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
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ジオラマの電車の走る広島忌
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水鏡(岐阜県)
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バス降りて生家への径草いきれ
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貝田ひでを(大阪)
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片脚は娘の住むところ虹の橋
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みのる(大阪)
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浮き人形思ひ出せないあの子の名
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粗稲沖(埼玉県)
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音続は昨日の続き夏休み
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石塚彩楓(埼玉県)
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雁来紅こどものころの空のいろ
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よりこ(愛知県)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
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康(東京)
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ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
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花虻(滋賀県)
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【
武藤光リ
選 】 |
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特選:
炎熱や模型のごとき街を行く
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みぃすてぃ(神奈川県)
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涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
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語り部の願ひは一つ星迎へ
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梦二(神奈川県)
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はらからの星みな遠し天の川
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美佐枝(千葉県)
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浮き人形思ひ出せないあの子の名
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粗稲沖(埼玉県)
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諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
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原洋一(苫田郡鏡野町)
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六畳の奥を焦がして晩夏光
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伊藤順女(船橋市)
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さりげなく来し方語る生身魂
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ようこ(神奈川県)
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サファイアの湖サファイアの翡翠来
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櫻井 泰(千葉県)
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夕立や土の匂ひを湧きたたせ
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蝶子(福岡県)
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【
奥山ひろ子
選 】 |
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特選:
父語るあの日の暑さ終戦忌
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美由紀(長野県)
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涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
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炎熱や模型のごとき街を行く
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みぃすてぃ(神奈川県)
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顔隠す団扇の裏の寝息かな
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雪絵(前橋市)
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バス降りて生家への径草いきれ
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貝田ひでを(大阪)
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白髪の深き黙祷原爆忌
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みのる(大阪)
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風死すや知らぬ国旗の貨物船
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伊藤順女(船橋市)
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星月夜エンドロールの余韻かな
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ようこ(神奈川県)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
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康(東京)
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蛇口から水の熱さや広島忌
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*町子(北名古屋市)
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【
渡辺慢房
選 】 |
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特選:
涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
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炎熱や模型のごとき街を行く
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みぃすてぃ(神奈川県)
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バス降りて生家への径草いきれ
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貝田ひでを(大阪)
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過不足の無き暮し向き菊膾
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美佐枝(千葉県)
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諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
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原洋一(苫田郡鏡野町)
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石白く乾く河原や夏薊
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石塚彩楓(埼玉県)
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折り紙の青空の色広島忌
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正憲(浜松市)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
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康(東京)
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旅人も輪に馴染みゆく踊りかな
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かれん(春日部市)
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ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
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花虻(滋賀県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は伊藤順女さん(船場市)、次点はみぃすてぃさん(神奈川県)でした。「伊吹嶺」8月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年8月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 白と黄の蝶もつれあふ薄暑かな
軽やかな二匹の蝶の舞が薄暑に似合っていますが、季重なりとならないよう工夫した
いですね。
2 涼しさや母の実家の広き土間
古い日本家屋のひんやりとした空気が伝わります。こうした場合、「古民家」という
ような説明的な言葉を使いたくなりますが、土間とその空気感の写生で、家の様子が十
分に伝わりますね。
奥山ひろ子氏評===============================
広々としたお母様の実家に行かれた際の清々しい気持ちが、伺えます。
======================================
3 酔芙蓉帰りは紅し無常なり
全体的に「季語の説明」に感じられました。また、「無常なり」は言い過ぎに思いま
す。
4 月下ゆえ心が弾む夜警番
「心が弾む」と言わずに、物に託してその気持ちを伝えましょう。
5 機織の絶ゑしふるさと星今宵
昔は、夜の静けさの中に機織りの音が響いていたのが、今は聞こえなくなってしまっ
た。星空だけはあの頃と変わらずに輝いているという感慨が伝わります。
6 ジオラマの電車の走る広島忌
8月6日に催された何かのイベントの様子でしょうか? 広島には路面電車が走ってい
ますので、それの比喩かな?とも考えたのですが、句意がよく掴めませんでした。
7 段々の青田をわたる葉擦れの音
棚田を風が渡ってゆく景。葉擦れの音に着目したのが良いですね。「わたる」だと水
平方向への広がりが感じられますので、「のぼる」や「くだる」として立体感を出すの
も良いかもしれませんね。
8 駅舎の灯消えてかがよふ星の河
景は浮かびますが、「星の河」が季語になるのかやや疑問に感じました。星河(せいが)
という季語はありますが、それを「星の河」とするのは「銀河」を「銀の河」とするの
と同じではないかと思いました。
9 受話器より帰省の話夏の星
受話器のある電話で星が見えているということは、煙草屋の店先等の公衆電話でしょ
うか? 懐かしい景ですね。「帰省の話」で帰省そのものを詠んでいるわけではないの
で、季重なりにはならないと思いますが、もうちょっと工夫してすっきりさせたいです
ね。
10 天に擦るマッチの如し百日紅
真正面からの直喩ですね。マッチの頭の発火剤はいろいろな色がありますが、私のイ
メージは真っ赤で、ピンクや白の百日紅のイメージとは一致しませんでした。
11 炎熱や模型のごとき街を行く
あまりの暑さ・熱さに、現実感が薄れる感覚がなんとなくわかるような気がします。
武藤光リ氏評================================
大都会はともかく、灼熱の街は人影もまばらであり、その上建物の影もやけに、くっ
きり見える物である。それは作り物の世界か夢の中の世界に紛れ込んだような、異次元
の体験と繋がる。
======================================
奥山ひろ子氏評===============================
暑さに灼けるような街を「模型のごとき」と表現なさった点が新鮮でした。もはや生き
物などいない世界のようですね。
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12 神輿ゆく辻は喚声人の群
喚声も人の群も、神輿という季語のイメージに含まれるように思いました。
13 せせらぎに顔洗ひゐるキャンプの子
キャンプの朝の景。川の音や鳥の声が聞こえてくるようです。
14 ゆっくりと見たり聞ひたりかたつむり
かたつむりがゆっくりなのは、言わずもがなの感じがしました。
15 炎天や裏窓突っつく友の顔
状況がよくわかりませんでした。ご友人は、何故炎天下に裏窓を突いているのでしょ
うか?
16 せせらぎに襤褸のどた靴夏の果
どた靴を辞書で引くと「足に合っていない不格好な靴」とありました。すると、この
靴は流れてきたのではなく、誰かが履いているのでしょうか? 状況がよくわかりませ
んでした。
17 顔隠す団扇の裏の寝息かな
こういう団扇の使い方もあるのですね。
奥山ひろ子氏評===============================
昼寝あるあるですね。「寝息」が気持ちよさそうです。
======================================
18 絹擦れの音神官の薄ごろも
衣擦れの音が涼し気で、神官の凛とした佇まいが浮かびます。
19 バス降りて生家への径草いきれ
むっと来る草いきれも懐かしく感じられたことと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
今は空家の生家でしょうか。侘しさを含んだ懐かしさが滲んでいます。
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20 喉仏上下運動ビール干す
ビールを飲む景の描写としては、ありがちで表面的な印象を受けました。
21 炎天や友の禿頭なお更に
ユーモラスな句。「なお更に」に続く言葉をあれこれ考えてしまいました。
22 傷口をシクシク責めて蝉の鳴く
句意がわかりませんでした。蝉が鳴くと作者の傷が痛むのでしょうか?
23 語り部の願ひは一つ星迎へ
句意がわかりませんでした。七夕の語部とは? またその願いとは?
24 人波の凪ぎる炎昼友を待つ
「凪ぎる」という日本語は、手元の広辞苑には載っていませんでした。「凪ぐ」が正
しいのではないかと思います。
25 翳す掌も影も張り付く溽暑かな
掌や影が何(どこ)に張り付くのでしょうか?
26 新月や走る閃光海ほたる
走る閃光の正体と、海ほたるが海中で発光する生物のことか、東京湾の人工島のこと
かがわかりませんでした。三段切れも気になります。
27 片脚は娘の住むところ虹の橋
ちょうど娘さんが住んでいる方向に虹の脚の片方が見えたのか? それとも、この世
ではないところというような意味なのか??
28 白髪の深き黙祷原爆忌
80年前の少年少女も白髪となりました。
奥山ひろ子氏評===============================
黙祷を捧げる方の思いが感じられました。若い人にも関心を持ってほしいです。
======================================
29 生きろよと鳴くは寓意か法師蝉
蝉はただひたすら鳴くだけですが、それがどう聞こえるかは聞く人間の気持ちの問題
ですね。「寓意か」にそれを感じている作者の心が表れています。
30 宿場町暮るればのぼる盆の月
たまたまかもしれませんが、「暮るればのぼるXXX月」が滝廉太郎の「花」の歌詞と
同じなので、陳腐な言い回し的に感じてしまいました。
31 はらからの星みな遠し天の川
天の川を見上げ、亡くなった同胞を偲んでいるのでしょうか?
32 過不足の無き暮し向き菊膾
人生を達観した感じがします。
33 夏空は原始の青や火口丘
火口丘から空を見上げているのでしょう。「原始の青」をイメージしようとしてみま
したが、うまく行きませんでした。言葉で説明するより、「夏空」だけで読者のイメー
ジを喚起する方が良いように思いました。
34 浮き人形思ひ出せないあの子の名
もどかしい気持ちが伝わります。浮き人形のように記憶が浮かんで欲しいですね。
35 立秋の白帆きらめく父の島
お父様が島を所有されているのではなく、お父様が戦死された島という意味かと思い
ましたが、そこに帆船(ヨット?)があるのでしょうか? 状況がよくわかりませんでし
た。
36 アルコールゼロで潤すビール哉
ノンアルコールのビールテイスト飲料を飲んだというだけでは、句材として物足りな
いと思います。
37 診察をまつ隣席の団扇風
病院の待合室かと思いますが、作者の心情や様子が今一つ伝わりませんでした。隣の
人の団扇の風を心地よく感じたのか、不愉快だったのか??
38 てにをはをどれにしようかすいつちよん
助詞の使い方は本当に大事です。意表を突くような季語の離れ方が絶妙に感じられま
した。
39 諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
「もう好きなだけ飲んで良いんだよ」という気持ち。「酒」を「お酒」とすると、句
が甘くなるような気がします。(それを狙うのも有りですが。)「お酒も」の「も」も
気を付けた方が良いと思いました。
40 トマト熟れ少年はやも髭生やす
トマトと少年の成長をだぶらせていますが、やや即き過ぎに感じました。
41 純心の合唱雨の長崎忌
「純心」は学校名でしょうか?それともそういうタイトルの歌があるのでしょうか?
42 音続は昨日の続き夏休み
毎日少しずつ本を音読しているのですね。昨日の続きを読むことは普通なので、もう
少し掘り下げた観察・発見が欲しいと思いました。
43 石白く乾く河原や夏薊
猛暑で川も乾涸びかけているのでしょう。夏薊の生命力が印象的です。
44 六畳の奥を焦がして晩夏光
晩夏とは言え、夏の太陽は高く、あまり部屋の奥までは射し込まないのではないかと
思いました。
45 風死すや知らぬ国旗の貨物船
無風状態と、正体がわからない船。もやっとした気分ですね。
奥山ひろ子氏評===============================
湾岸も暑いでしょう。「知らぬ国旗」が暑さをさらに運んでくるような印象です。
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46 ベルーガの歌ふくよかや水温む
「水温む」は早春の季語ですが、ベルーガが棲むような海に使うのは違和感を覚えま
した。
47 鯨鳴く声は潮流統ぶ孤高
観念的で、「うまいことを言おうとしている」感を受けてしまいました。
48 古古米てふ言ふてはをれぬ敗戦忌
政府備蓄米の放出を、戦中戦後の窮乏の記憶にだぶらせたのですね。やや理屈を感じ
ました。
49 雁来紅こどものころの空のいろ
夕焼け空かと思いますが、子供の頃は今とは色が違って見えたのでしょうか?
50 坊ちやんの道後暑しやビルの街
道後には行ったことがありませんが、坊っちゃん(漱石の小説名には「っ」が入りま
す)のイメージから古風な印象を持っていました。今はビルの街なのですね。作者も同
じような意外な印象を持たれたのでしょう。
51 辻堂のくすむ提灯盆祭り
辻堂が、神奈川の地名なのか、路傍の仏堂なのか迷いました。また、お盆には墓や仏
堂には新しい花や提灯を供えたりするのではないかと思いますが、こちらの提灯はなぜ
くすんだままなのでしょう?
52 星月夜エンドロールの余韻かな
映画を見た帰り道でしょうか?最初意味がわかりませんでしたので、もう少し分かり
易く詠まれると良いと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
映画のあとですね。エンドロールと星空が合っていると思いました。
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53 さりげなく来し方語る生身魂
「さりげない」と作者が感じた具体的な様子や、「来し方」の内容が読者に伝わると
良いと思います。
54 山のものあまた供へて茄子の牛
お盆に仏壇に供えるのは、野菜や果物が多いと思いますが、山のものとは何でしょう?
55 秋の蝶待つてゐさうな駅ノート
上五と下五の名詞で中七を挟む形の、いわゆる「観音開き」で、秋の蝶が待っている
ようにも、秋の蝶を待っているようにも読めます。いずれにしても、秋の蝶と駅ノート
の関係がよくわかりませんでした。
56 折り紙の青空の色広島忌
最初句意がわかりませんでしたが、何度も読むうちに原爆の子の像のことかと思い当
たりました。
57 峯雲に絡め取られし比良比叡
峯雲は、俳句では夏の空に湧き上がる入道雲(積乱雲)のことを言いますが、この句の
場合は比良山地や比叡山の峰に掛かった雲という意味でしょうか? そうだとすると、
季語にはならないと思います。
58 水飲みて塩飴くちに炎天へ
大事なことですが、ストレートすぎて俳句というより標語のように感じてしまいまし
た。
59 鯖雲や頬骨高き竜馬像
思わずネットで竜馬像の画像を検索してしまいました。確かに、下から見上げるアン
グルだと、頬骨が高く見えるものがありますね。秋空をバックにした竜馬像の印象が明
瞭です。
奥山ひろ子氏評===============================
「頬骨高き」が具体的な表現で、竜馬像の特徴を捉えていると思いました。
======================================
60 村と村渡す吊り橋初あらし
秋の初風に揺れる吊り橋ですね。「村と村渡す」は説明的ですので、吊り橋の様子を
具体的に写生されると良いと思いました。
61 夜通しの音鳴りやまず踊下駄
「夜通しの音」と「鳴りやまず」が重複しているように感じました。
62 旅人も輪に馴染みゆく踊りかな
この旅人は作者自身でしょうか? 旅行先で盆踊りに参加したのですね。「旅人も」の
「も」が句を説明的にしているように思います。「旅人の」とすると、その人にスポッ
トライトが当たります。
63 会議果て残暑の街の人混みに
切れが無く、報告的に感じました。
64 盂蘭盆会集う若者ニ・三人
若者が二三人来たと喜んでいるのか、二三人しか来なかったと憤っているのか?
65 線状降水帯聞きなれぬまま盆に入る
線状降水帯という言葉、最近はテレビやラジオで良く聞くので、私はすっかり聞きな
れてしまいました。
66 虫の声負けじと響く弦合奏
55でも書いた「観音開き」ですね。虫の声と弦合奏(弦楽合奏?)が張り合っているの
でしょうか?
67 家一歩出るを躊躇ふ炎天下
炎天下は炎天の下で太陽に照らされている状況ですから、「家一歩出るを躊躇ふ」と
矛盾するように思いました。「夏の昼」や「日の盛」だとそれは解消すると思いますが、
いずれにしても、暑いから→出たくないという理屈を感じます。
68 落日や一気に囃す油蝉
「一気に囃す」は、油蝉が一斉に鳴きだすという意味でしょうか? 油蝉は日暮れよ
りも日中に盛んに鳴くようなイメージがあります。(蝉の旧字は環境依存文字でこの講
評を書いているエディターでは表示できないため変えさせて戴きました。)
69 蛇口から水の熱さや広島忌
あの日の暑さ・熱さが偲ばれます。上五は字余りになっても「蛇口からの」としたい
です。
奥山ひろ子氏評===============================
暑さで水道の水も熱いのでしょう。肌に感じた感覚が原爆と重なり、当時の悲惨さに思
いを馳せる作者ですね。
======================================
70 畑からこれ一番と茄子の馬
誰かが茄子の馬にするための茄子を畑から採ってきたのだと思いますが、茄子の馬が
自分で畑から歩いて来たように思えてしまいました。
71 ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
そぞろ歩きで興奮を醒ましているのでしょうね。夏の月が涼やかです。
72 隣室の夫とシンクロ明易し
何がシンクロしたのでしょうか?
73 サファイアの湖サファイアの翡翠来
写真を撮りたくなりますね。カワセミの漢字は宝石の翡翠と同じですので、それをさ
らに別の宝石になぞらえるのはちょっと無理矢理な感じもしました。
74 飛行機雲を撃ちてし止まむ水鉄砲
小さな子が、飽かずに水鉄砲で飛行機雲を狙っているのですね。中七の、戦時中に使
われたスローガンが不気味な感じがします。
75 糖尿の夫に味覚の秋が来る
川柳的に感じました。御夫君の食べ過ぎにはご注意ください。
76 行く夏や我よりも濃き犬の影
比喩的な影が薄い・濃いという意味でしょうか?
77 亡き父の下駄が狭庭に飛蝗とぶ
下駄が狭庭にあってそこに飛蝗が跳んだと解しましたが、なぜ下駄を庭に置きっ放し
にしているのか、奇異な感じがしました。
78 母の句に初めて出逢ふ敗戦忌
「母の句に初めて出逢ふ」の状況をいろいろ想像してみましたが、今一つよくわかり
ませんでした。
79 一瞬の静寂を破り蝉時雨
確かに、蝉の声や虫の声、蛙の鳴き声などは、不思議と一斉にピタリと止むことがあ
りますね。
80 室外機止んで暫しの螽斯
エアコンの室外機が稼働している間は、螽斯は鳴かずに潜んでいたのですね。作者は
たまたま屋外にいて、この状況に出会ったのでしょう。
81 爆心地知る子ども等や百日紅
「爆心地知る」は、爆心地のことについて知っているのか、どこが爆心地かを初めて
知ったのか? いずれにしても、夏を象徴する百日紅があの日を思い起こさせます。
82 たむろして縁台将棋夏休み
子供が縁台将棋、もはやファンタジーのような光景ですね。
83 遠花火音のみ届く路地の居間
「路地の居間」は路地の奥にある家の居間という意味だと思いますが、ちょっと無理
な感じがしました。また、居間にいるのでしたら、花火は見えずに音だけ聞こえるのは
当然な気がします。
84 公園に人影は無し草いきれ
猛暑で、日中公園で遊ぶことも難しくなっていますね。
85 夕立や土の匂ひを湧きたたせ
夕立の前後には、独特のにおいがしますね。土壌中の菌の化合物や植物の脂肪酸、オ
ゾンなどが原因だそうです。懐かしい感覚ですが、これらはすでに「夕立」という季語
のイメージに含まれるように思います。
86 炎帝の怒りは未だ収まらず
昨今の猛暑のことを言っておられるのだと思いますが、炎暑、極暑、酷暑、劫暑とい
う季語一つで言い表せると思います。
87 明易や投句締め切せまり来る
一晩中作句されていたのでしょうか? 熱心に俳句に取り組まれるのは良いですが、
無理はなさらないようにしてください。
88 回覧板届ける外の蝉しぐれ
本当はあまり外に出たくはないのでしょうが、回覧板を止めないようにと思い切って
外に出たのでしょう。回覧板を届けるのも蝉時雨も屋外に決まっていますので、「外の」
の部分を工夫したいと思いました。
89 だし汁のかほる蕎麦屋の夏暖簾
夏暖簾を出した蕎麦屋の佇まい、良いですね。「だし汁(そばつゆ?)のかほる」は、
蕎麦屋の形容としてはちょっと平凡で、暑い季節よりは寒い時期の方がより惹かれるよ
うな気がしました。
90 瀬戸内の夕立無き地や晴れの国
岡山ですね。夕立という言葉は入っていますが、これは季語として利いていないと思
います。
91 雨後の傘広げ下校児残暑かな
「雨後の傘広げ」が最初良くわかりませんでしたが、日傘として使ってるのですね?
92 蝉しぐれ強き日差しを憂う朝
朝から蝉が鳴いて、暑くなりそうな日ですね。「強き日差しを憂う」と、思ったこと
をストレートに言わずに、物に託してその気持ちを伝えられると良いですね。
93 父語るあの日の暑さ終戦忌
思いが感じられます。ただ、類句・類想が多いように思います。
奥山ひろ子氏評===============================
今の気候的な暑さとは違う、精神的な意味も含む「終戦忌」のやるせない暑さを感じま
した。
「父語る」という親子でお話しされたことで、心に沁みるお時間だったのだろうと思い
ました。
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【
第307回目
(2025年7月)
HP俳句会 選句結果】
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【
松井徒歩
選 】 |
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特選:
アマンドの角に人待つサングラス
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康(東京)
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定年の無き農に生く炎天下
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雪絵(前橋市)
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能面のかそけき笑みや沙羅の花
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みのる(大阪)
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梅雨晴れや駿河の海の耀へり
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水鏡(岐阜県)
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大めばる酒たつぷりと甘辛く
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梦二(神奈川県)
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藻の花や素足くすぐる瀬の流れ
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粗稲沖(埼玉県)
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はからずも同じ香水恋敵
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ようこ(神奈川県)
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山笠にバケツもて掛く力水
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かれん(春日部市)
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星涼し漁火遠く日本海
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まこと(さいたま市)
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円虹や女人高野に釈迦如来
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近江菫花(滋賀県)
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【
関根切子
選 】 |
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特選:
あつさりと見抜かれし嘘ソーダ水
|
康(東京)
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アマンドの角に人待つサングラス
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康(東京)
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夕焼に染まる公園紙芝居
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みぃすてぃ(神奈川県)
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紫陽花や息のきれいな子供たち
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大原女(京都)
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定年の無き農に生く炎天下
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雪絵(前橋市)
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祈るごと幹に縋れる蝉の殻
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みのる(大阪)
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幼子の髪に蛍火乗せ来たり
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粗稲沖(埼玉県)
|
山笠にバケツもて掛く力水
|
かれん(春日部市)
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人混みの四万六千日の風
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かれん(春日部市)
|
星涼し漁火遠く日本海
|
まこと(さいたま市)
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【
玉井美智子
選 】 |
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特選:
能面のかそけき笑みや沙羅の花
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みのる(大阪)
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建て替への話聞きをり夏燕
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雪絵(前橋市)
|
祈るごと幹に縋れる蝉の殻
|
みのる(大阪)
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面接の沈黙長く扇風機
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鷲津誠次(岐阜県)
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青梅雨や岩間を白き水一縷
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美佐枝(千葉県)
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あるもので足りる生活や胡瓜もみ 生活(たつき)
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石塚彩楓(埼玉県)
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山風をリュックに入れて夏帽子
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石塚彩楓(埼玉県)
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絵日記に膨らんでゆく西瓜かな
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麻里代(和歌山市)
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稜線へ長き急登雲の峰
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蝶子(福岡県)
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ハンカチにうつすら残る妣の名前
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小豆(和歌山市)
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【
国枝隆生
選 】 |
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特選:
大夕立ドームまるごと洗ひけり
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筆致俳句(岐阜市)
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あつさりと見抜かれし嘘ソーダ水
|
康(東京)
|
こいさんの話途切れて祭笛
|
百合乃(滋賀県)
|
一天の紺一村の青田かな
|
原 洋一(岡山県)
|
能面のかそけき笑みや沙羅の花
|
みのる(大阪)
|
祈るごと幹に縋れる蝉の殻
|
みのる(大阪)
|
藻の花や素足くすぐる瀬の流れ
|
粗稲沖(埼玉県)
|
あるもので足りる生活や胡瓜もみ 生活(たつき)
|
石塚彩楓(埼玉県)
|
絵日記に膨らんでゆく西瓜かな
|
麻里代(和歌山市)
|
句碑に添ふ水の揺らぎや花菖蒲
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蝶子(福岡県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、みのるさん(大阪)でした。「伊吹嶺」7月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
|
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【講評】
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2025年7月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
沢山の御投句ありがとうございました。
1 人知れず過疎の公園鯉のぼり
いつのまにか人が訪れなくなった公園という意味でしょうか。公園に「過疎」という言
葉が似合わないような気がしましたが。季語はうまく収まっているように思います。
〈国枝評〉公園に過疎という言い方はあるのでしょうか。
2 遠蛙布団干してる補植なり
補植の木に布団が干してあるという景でしょうか。俳味のある句ですね。季語も目前の
景とよく合っていると思います。
3 あつさりと見抜かれし嘘ソーダ水
男女の人間関係の句だと思いますが、季語から察するに気の置けない良い関係のよう
ですね。
国枝隆生氏評================================
ウイットに富んだ面白さがある。ソーダ水と嘘の取り合わせがユニーク。
======================================
4 アマンドの角に人待つサングラス
六本木の洋菓子店でしょうか。店内の喫茶ではなく外の角で待つというのが絵になりま
すね。
5 夕焼に染まる公園紙芝居
夕焼けでしたら「染まる」は省略できるように思います。句の焦点を公園ではなく紙芝
居に移してはどうでしょうか。
6 空蝉やまだ濡れてゐる羽根の音
羽化した直後の蝉を上手く表現していますね。
7 紫陽花や息のきれいな子供たち
「息のきれいな」は面白い感覚ですが、目に見えてこないのがもどかしいです。
8 夏の行くときどき髪をかき上げて
「夏の行く」は「夏野行く」の変換ミスでしょうか。それとも「行く夏」のことか?
髪をかき上げるのもどういう仕草なのかよく分かりませんでした。
9 声高し実習生の汗光る
活気のある句ですが、上五と下五が共に終止形ですので、「声高し実習生の汗光り」
などどうでしょうか。
10 無人駅母の故郷立葵
三段切れですが、「立葵母の故郷の無人駅」とすれば三段切れは解消します。
〈国枝評〉名詞だけの三段切れにリズム感が悪い印象を受けました。
11 すててこや昭和も遠くなりにけり
「や」「けり」も含めて草田男の本歌取ですね。ここまで堂々とやられると喝采を送
りたくなります。
〈国枝評〉中村草田男の有名句もありますが、やはり我々は「や」「けり」の強い切れ
のダブりは避けたいと思います。
12 噴水を占めて烏の乱舞かな
鴉の傍若無人振りがが目に浮かびます。
13 蛍狩帰りは父の君何日再来ホーリージュンザイライ
残念ながら私の手には負えません。
14 こいさんの話途切れて祭笛
どのようなこいさんなのか興味が湧きます。
国枝隆生氏評================================
「こいさん」と「祭笛」の取り合わせが面白い。祭りの臨場感と都会風な雰囲気が
マッチしている。
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15 一天の紺一村の青田かな
「一」 のリフレインの歯切れがよいですね。
国枝隆生氏評================================
大景の把握がよかった。村中、青田に覆われている明るさが見える。同色系の「紺」
と「青」の取り合わせも成功している。
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16 白のユトリロ青のシャガール砂日傘
冒険句ですね。
〈国枝評〉砂日傘からの発想だろうか。ユトリロとシャガールへの発想が面白い。二人
の絵を見た人なら、誰でも納得するのではないか。
17 定年の無き農に生く炎天下
炎天下で生涯現役を宣言している姿が素晴らしい。
18 建て替への話聞きをり夏燕
毎年来ている燕も、次の夏までに新築がなっていないと困ってしまいますね。
19 老翁の端居に移すミステリー
今まで読んでいた場所から端居へと場所を移りミステリー小説を読んでいる、という
ことでしょうか。場所を移したことがミステリーとも読めて、「移す」という動詞が?
でした。
20 合歓の花むかし綿打つ小屋在りし
今はもうない綿打ち小屋への郷愁が合歓の花の柔らかな姿と重なりますね。
21 能面のかそけき笑みや沙羅の花
能面の笑みという感覚に、実のある季語が相まって詩情が膨らんだように思います。
国枝隆生氏評================================
能面の表情は見る人によっていろいろ考えられる。能面に笑みを感じることは多い。
その笑みと「沙羅の花」の取り合わせに納得感がある。
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22 祈るごと幹に縋れる蝉の殻
抜け殻の儚さに「祈るごと」という比喩が上手く重なっていますね。
国枝隆生氏評================================
空蝉が木や葉に止まっている様子に「祈る」様子はよくあるかもしれないが、忠実な
写生。
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23 大瀑布お不動さんの炎を消しさう
不動明王の火炎光背に滝の飛沫が掛かっているのですね。
24 梅雨晴れや駿河の海の耀へり
国名の駿河が効いていますね。富士山の姿も見えるようです。
25 老鶯のさえずり添えて朝ご飯
鴬のきれいな声を聴きながら美味しく朝食をたべた、という句だと思いますが、
「添えて」は他動詞で、誰かが鶯の声を添えたかのようですので不自然に感じました。
26 渚まで駆ける裸足に夏の海
「に」ではなく「や」として切れを入れたほうが良いように思います。
27 「々脚(おどりあし)」遺しがゞんぼ庭の闇
「々脚(おどりあし)」ですが、ネットで検索しても分かりませんでした。
28 大めばる酒たつぷりと甘辛く
「酒たつぷりと」に、美味しい煮つけを作るぞという意気込みを感じます。甘辛い匂
いが漂ってくるようですね。
29 藻の花や素足くすぐる瀬の流れ
素足で実感する清流の冷たさですね。季語が詩情を膨らませています。
国枝隆生氏評================================
「藻の花」と「素足」が季重なりと見えるが、ここは「藻の花」が季語であろう。
「素足くすぐる」の写生が実感。
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30 幼子の髪に蛍火乗せ来たり
始めは蛍が来たのだと思いましたが、「乗せ」は他動詞なので、幼子が蛍を乗せてき
たのですね。
31 面接の沈黙長く扇風機
普通の職場でしたらエアコンがあるはずですが、扇風機ですからどんな所?と想像し
ました。「沈黙長く」が肝だと思いますが、ここからの想像が止まってしまいました。
32 青梅雨や岩間を白き水一縷
青々とした風景と、白い水の一筋の対比が良いですね。
〈国枝評〉水に青と白の発想の取り合わせに感覚のよさが出ている。
33 たまゆらの夕虹まとふ電波塔
虹は元々儚いものですから「たまゆら」がやや飾り言葉になってしまっていますが、
電波塔という無機質なものとの対比の構図は良いかなと思いました。
34 あるもので足りる生活や胡瓜もみ 生活(たつき)
個人的な感慨の句ですが、季語「胡瓜もみ」で詩情が出ましたね。
35 山風をリュックに入れて夏帽子
中七の発想の飛躍が大胆ですね。。
〈国枝評〉リュックが風に膨らんでいるように見たのは、単に荷でふくらんでいるだけ
かもしれないが、それは風によるものだとの発想にユニークさを感じる。
36 喧騒の臭気澄みたる夕立あと
都会の垢を洗い流すような夕立ですね。
37 新米の精米匂ふ四次問屋
「米」の二回使いが気になりました。何とか他の言葉はないでしょうか。
38 手を振りてオペ室に消ゆ真夏の日
不安感を伝えたいのかもしれませんが、「消ゆ」が不吉なイメージですので、言葉を
替えたほうが良いように思いました。
39 亡き父を見舞ひし路に芙蓉また
何回もお見舞いに行っているのだと思いますが、「芙蓉」に特別な思いがあるのです
ね。
40 はからずも同じ香水恋敵
上五中七はどこにでもあるような感じですが、「恋敵」の措辞で物語になりましたね。
41 緑蔭のベンチ賑はふ昼餉どき
報告気味だと思いました。
42 大夕立ドームまるごと洗ひけり
壮大な句ですね。
国枝隆生氏評================================
単純でありながら、大景の写生が見事。視線の位置が高く、ドームを丸ごと見ている
把握に納得。
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43 かしましや御廟所までの蝉の道
蝉がやかましいのは当たり前だと思いました。
44 献花台ハイビスカスの濃く匂ふ
何の献花か分かるともう少し景が見えてくるのですが・・・。沖縄でしょうか?
45 蛇の衣丈六尺を留めをり
「丈六尺」は仏像のことでしょうか?それを留めるとは?
46 山笠にバケツもて掛く力水
博多祇園山笠の熱気が伝わってきますね。
47 人混みの四万六千日の風
「風」のイメージが分からないのですが、喧騒の中の一瞬の風を表現しているので
しょうか?
48 青田風田の神様の笑ひ顔
風にそよぎ、田んぼの神様が微笑んでいる。この水田では、きっと素晴らしいお米が
実るのだとおもいます。
49 星涼し漁火遠く日本海
涼やかな星空の下、沖に瞬く漁火が、静寂に包まれた日本海。抒情豊かな句ですね。
50 逝く人を見送る眼青蜥蜴
観賞の難しい句ですね。行く人ではなく逝く人なので死に逝く人なのか?「青蜥蜴」
が句全体にどう働いているのかも分かりませんでした。
51 コンビニへ駆け来るをのこサングラス
景は良く見えますが、全体に報告気味でしょうか。
52 子燕に餌とる下手な一羽おり
餌を取るのが下手では巣立ちもできませんから笑っていられませんね。
53 稲筵三日三晩梅を干す
「三日三晩」という表現に、単なる農作業の描写にとどまらず、根気や情熱といった
気概を感じます。しかし「稲筵」が秋の季語なのでこれが気になりました。
54 平城山を音なく越へる夏の雲
「ならやま」という読みもそうですが、全体に穏やかな感じを受けました。「越へる」
は旧仮名使いでは「越える」で、文語だと「越ゆる」ですね。
〈国枝評〉平城山に入道雲がかかっているのでしょう。青空と真っ白な雲の対比が見え
るようです。なお「越へる」は「越ゆる」ですね。
55 円虹や女人高野に釈迦如来
珍しい円虹を女人高野の山に見て、室生寺の釈迦如来を思う作者。濁世が洗い流され
るような感です。
56 片蔭をさがす真昼の赤信号
赤信号を待つ間でも日陰を探す作者、真昼ですので日陰も少なく悲惨ですね。私もよ
く体験します。
57 涼風やしばし微睡む昼下り
昼寝とまではいかない微妙な居眠りでしょうか。それはそれで気持ちの良いひと時で
すね。ましてや涼風ですので。
58 明早し犬の散歩の話し声
季語の説明としては申し分のない句ですが、もう少し余情が欲しいと思いました。
59 つつがなく一日を終へて冷奴
日記に添えるのには申し分のない句ですが、投句作品としては物足らないと思います。
60 素麺をすする子の目が笑ってる
嫌味が無く、全くの素の表現に好感しました。
61 モンゴルの地にもなじみの競馬あり
賀茂競馬の季語をモンゴルの「競馬」に使うのは無理があると思います。
62 けふの無事喜び合うて冷奴
59番と同じような句ですが、「喜び合うて」に実感がありますね。
63 馬手に閼伽弓手に日傘父祖の墓
言葉が多すぎるように感じました。
64 星祭り願ひ事ただ一つなり
大抵は一つの願いことなので、「ただ」はちょっと大げさに感じました。
65 初蝉のひと鳴きに手を止めて聞く
「聞く」まで述べる必要はないと思います。「ひと鳴き」もいらないかもしれませ
ん。俳句は簡潔に作りたいです。
66 絵日記に膨らんでゆく西瓜かな
西瓜の絵がだんだん出来上がることですね。
国枝隆生氏評================================
夏休みの宿題の絵日記が想像される。書いているうちに段々西瓜が大きくなっていく
様子をほほえましく見ている作者が見えるようだ。
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67 キャンプファイヤー女神希望はみな男子
最近のキャンプファイヤーの事情を検索しましたが、年のせいか女神について鑑賞し
きれませんでした。
68 母は子のひたすら百度踏む大暑
子供のための懸命なお百度参り。暑さの中、母親の汗が見えるようです。
69 夏ぐれや傘の滴を避け合ふて
滴りを避け合っているということは混雑している場ですね。「合ふて」はウ音便で
「合うて」だと思います。
〈国枝評〉「合ふて」のように終止形に「て」は続かないと思います。「合うて」が正
しい。
70 螢舟螢を置いて流れけり
蛍舟は運航するものですから「流れけり」は?でした。
71 ディオールの香水妻を鎧ひけり
纏いではなく鎧いでよかったでしょうか? 「鎧ひ」は他動詞ですので香水が妻を鎧
ふことになってしまいます。妻をではなく「妻が」としたほうが良いと思います。
72 夏帯や路地の日暮れは人恋し
夏の日暮れで「人恋し」はそぐわないように思いました。
73 宙に浮く糸を頼りの蜘蛛走る
「糸を頼りの」が理屈とも説明とも感じますので、糸が目に見えるように述べてくだ
さい。
74 摘む茄子の指より零る紫紺かな
「零る」は終止形ですので「紫紺かな」に繋がりません。あえて言えば「指を零るる」
でしょうか。
75 句碑に添ふ水の揺らぎや花菖蒲
句碑に寄り添う水面の揺らぎに、花菖蒲が映し出され、情景に趣を与えていますね。
国枝隆生氏評================================
客観写生に忠実な句。句碑のそばの花菖蒲、そこにある水面に揺らぎを発見した情景
に納得感がある
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76 稜線へ長き急登雲の峰
一歩一歩進んでいく登山者の姿が目に浮かびます。
77 ハンカチにうつすら残る妣の名前
「うつすら残る」という措辞に亡母への万感の思いが感じられます。
〈国枝評〉生前、お母さんが使っていたハンカチであろう。ハンカチにかすかな母の文
字を発見したところが実感です。なおこのような句では「妣」と使わなくても普通の
「母」で十分分かると思います。
78 湯上がりに麦茶飲み干すごくごくと
「ごくごくと」というオノマトペは常套すぎます。
79 風はらむ野良着涼しやおやつ時
農作業の一休みの心地よい情景が目に浮かびます。
80 木下闇高らにきたる鳶の声
木下闇という季語で高方の鳶を詠うのはちぐはぐだと思いました。それと、「高ら」
という言葉は辞書、ネットともに見つかりませんでした。
81 蝉の音の少なき日々や選挙カー
せっかく静かなのに選挙カーがやってきたという理屈のようなものを感じました。
82 影探し右に左に夏の蝶
蝶が影を探すはずはないのですが、春とは違い夏の強い日差しの中、健気に舞う蝶が
目に浮かびました。
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