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第309回目
(2025年9月)
HP俳句会 選句結果】
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【
松井徒歩
選 】 |
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特選:
ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ
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近江菫花(滋賀県)
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敬老日元理髪師の母の指
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田村幸之助(和歌山県)
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秋暑し竹百幹の身じろかず
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雪絵(前橋市)
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酒蔵の仕込み水呑む秋の旅
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雪絵(前橋市)
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指先に鎖骨の凹み夏終る
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伊藤順女(船橋市)
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一つもぎ三つこぼるる零余子かな
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康(東京)
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羅は銀鼠色に釣香炉
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石塚彩楓(埼玉県)
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沢庵の歯切れ良きかな敬老日
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みのる(大阪)
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木曽駒の眸にそよぐ蕎麦の花
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筆致俳句(岐阜市)
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兄の忌や備前の壺に式部の実
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*町子(北名古屋市)
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【
関根切子
選 】 |
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特選:
道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ
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ようこ(神奈川県)
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敬老日元理髪師の母の指
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田村幸之助(和歌山県)
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酒蔵の仕込み水呑む秋の旅
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雪絵(前橋市)
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空くじの多き駄菓子屋昼の虫
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鷲津誠次(岐阜県)
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連れションの友も鬼籍や秋の雲
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貝田ひでを(大阪)
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指先に鎖骨の凹み夏終る
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伊藤順女(船橋市)
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一つもぎ三つこぼるる零余子かな
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康(東京)
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登山口閉ざし波打つ芒の穂
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のりこ(赤磐市)
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かなかなの声のかさなる七七忌
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美佐枝(千葉県)
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夕かなかな父の残せし小引き出し
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よりこ(名古屋市)
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【
国枝隆生
選 】 |
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特選:
やすらぎの二人の夕餉胡瓜もみ
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小豆(和歌山市)
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空くじの多き駄菓子屋昼の虫
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鷲津誠次(岐阜県)
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いくたびも出でて愛でけり今日の月
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筆致俳句(岐阜市)
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色違へ高さ違へて草の花
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かれん(春日部市)
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雲流れ風の囁く花野かな
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かれん(春日部市)
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道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ
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ようこ(神奈川県)
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兄の忌や備前の壺に式部の実
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*町子(北名古屋市)
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爽やかに握手の別れ始発駅
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惠啓(三鷹市)
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アルプスを望む安曇野水澄めり
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蝶子(福岡県)
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曇天の切れ間に望む空高し
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美由紀(長野県)
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【
玉井美智子
選 】 |
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特選:
埴輪の眸(め)濡らす夜霧や百舌鳥古墳
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光雲2(千葉県)
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空くじの多き駄菓子屋昼の虫
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鷲津誠次(岐阜県)
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指先に鎖骨の凹み夏終る
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伊藤順女(船橋市)
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ハザードマップ車中に残る秋出水
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比良山(大阪)
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兄の忌や備前の壺に式部の実
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*町子(北名古屋市)
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時計なき腕に気づくや秋の風
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淳平(〒834-0047 八女市)
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ハンターに母を撃たれし鹿の声
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麻里代(和歌山市)
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ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ
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近江菫花(滋賀県)
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アルプスを望む安曇野水澄めり
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蝶子(福岡県)
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湯屋の窓全開で浴ぶ虫時雨
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櫻井 泰(千葉県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は、近江菫花さん(滋賀県)、伊藤順女さん(船橋市)、*町子さん(北名古屋市)、ようこさん(神奈川県)、鷲津誠次さん(岐阜県)でした。最高得点者が3名以上となりましたので、今月の入選賞は該当者なしとなります。
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【講評】
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2025年9月伊吹嶺HP句会講評 松井徒歩
沢山の御投句ありがとうございました。
1 夜勤明けバックトップの日傘かな
「バックトップ」が?でしたが、バックパックのことでしょうか? 夜勤明けの疲労と
解放感という現実と日傘を背中にさす姿に俳味を感じました。
2 歎異抄完読は無理桜咲く
親鸞に興味はあるものの、その書物の理解はとても無理と思ったのですね。今年も桜が
咲くのを見て「南無阿弥陀仏」の六文字だけで十分と思ったのでしょうか。
3 捨身の行伊崎の竿はいと細き
8月1日の琵琶湖の伊崎の棹飛びですね。確かに辿っていくには狭い幅ですが「いと細
き」で良いのかなあ?と思いました。
4 蜩や飯盒炊飯焚き付ける
良い情景なのですが、「焚き付ける」という行為ではなく、ご飯の匂いなど実感のある
描写の方が良いと思いました。
5 父の背に兄弟草矢当て競う
父親の背中に、親子の愛情と兄弟の無邪気な競争を感じました。
6 浴衣男子四人照れ合いふざけ合い
浴衣姿の男子4人という、非日常の無邪気な照れと高揚感が伝わってきますが、「照れ
合いふざけ合い」よりも。具体的にどんなことをしていたかを描写すればもっと良くなっ
たと思います。
7 百日紅門球場は休暇なり
「門球場」は固有名詞なのか球場の門なのか迷いましたが後者として鑑賞します。「百
日紅」が去り行く夏の雰囲気を出していますので、門の様子を描写してみてはどうでしょ
うか。「休暇なり」は報告だと思います。
8 秋暑し不器男の里の喫茶店
愛媛県松野町ですね。秋とはいえまだまだ暑い日、芝不器男を思いながら涼しい喫茶店
で憩う作者。至福のひとときですが、今ひとつ景色が見えてこないのが残念です。
9 敬老日元理髪師の母の指
母親の年を重ねた指には、数々の人の髪を整えてきた歴史と、一人づつのお客の記憶が
刻まれています。私も現役の理容師ですので今自分の指を見つめています
。
10 秋暑し竹百幹の身じろかず
「百幹」の言葉から整然とした竹林を想像しました。その竹がそよりともしない残暑な
んですね。でもそろそろ竹も青くなり秋らしくなることでしょう
11 酒蔵の仕込み水呑む秋の旅
出来上がる酒の味も想像しながら仕込み水を味わうのでしょうね。
12 空くじの多き駄菓子屋昼の虫
時間がゆっくりと流れる昭和の風景ですね。
国枝隆生氏選================================
今は少なくなった駄菓子屋の一風景を穏やかに詠まれている。「昼の虫」がややわび
しい駄菓子屋を象徴している。
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13 埴輪の眸(め)濡らす夜霧や百舌鳥古墳
夜霧に包まれて埴輪に命が宿ったような気配ですね。
14 御裳濯川(みもすそかわ)みそぎ見守る真如月
「見守る」という見立てが気になりましたが、信仰の奥深さを感じました、
15 蜩の短い命鳴きしきる
蜩の説明のように感じられました。
16 ため息の止まぬ残暑の日となりぬ
全部を言い切っていますので、今一つ余韻がほしいと思いました。
17 涼新たすうっと喉を通るお茶
気分の良い句ですが、「すうっと」と「通る」の意味が被さっているので、「通る」は
省略できると思います。
18 さらさらと木の葉鳴り出す九月かな
九月の風が爽やかなのですが、「さらさら」が適切かどうか?
19 夜長かなチェンマイ旅の娘のメール
娘さんからの海外からのメールを何度も読み返しているのですね。
20 板の間の灯下晴れやか茸筵
晴れやかな顔とは言いますが、板の間の「晴れやか」がイメージできませんでした。
21 日焼していたずら盛り食べざかり
夏に負けない健康的で行動的な子供さんが目に浮かびました。
22 連れションの友も鬼籍や秋の雲
友人に対するお気持ちは十分に読み取れますが、「連れション」には少し引いてしまい
ました。
23 赤とんぼ野に還りし生家跡
中六ですか?
〈国枝評〉生家跡に赤とんぼを見つけた懐かしさのみえる句。ただ中六の字足らずが気
になりました。中七は極力七音にしたいと思いました。この句の場合は「赤とんぼ野に
還りたる生家跡」でよいと思います。
24 鈴虫の声に混じりし寝息かな
「混じりし」は現在形のほうが良いように思います。
25 三角の三切れの西瓜セルフレジ
「三」の連続が狙いかもしれませんが、「三切れ」にさほどのインパクトは感じられま
せんでした。
26 指先に鎖骨の凹み夏終る
「指先に」は「指先の」の方が良いように思いました。
27 夏痩と答へし人の浅き笑み
夏痩せの人の佇まいが下五で分かれば良いのですが・・・。重篤な病の自嘲的な笑みか
とも思いましたが、「浅き笑み」は想像が途中で止まってしまいました。
28 蜩や明治の老舗店じまひ
「店じまひ」は報告気味のように想いました。
29 コスモスの風の絵筆の描く詩篇
言葉が多くて纏まりが悪いように思いました。
30 すがれゆく風を纏ふや破蓮
「すがれゆく」と「破蓮」が即きすぎのように感じました。
〈国枝評〉わびしさのみえる句で,思いのある句ですが、「すがれゆく」のは「敗蓮」
でしょうから、離れすぎの印象でした。順序を変えて「敗蓮のすがれて風を纏ひたり」
とすれば分かりやすいと思いました。
31 がやがやと人渡り来る月の橋
静かな月とにぎやかな橋の対比が面白いですね。橋のこちら側には何があるのだろうか
と想像しました。
32 一つもぎ三つこぼるる零余子かな
零余子を一つ取ろうとしたら、三つもこぼれてしまったという瞬間を捉えて、余計な言
葉を排し、事実だけを淡々と述べることで、かえって情景が鮮やかに浮かび上がってく
る。省略の効いた句ですね。
〈国枝評〉零余子の様子をよく捉えている。本当に零余子は一寸触れるとすぐに零れて
しまう。
33 雨上がりあきつの翅に玻璃の糸
「玻璃の糸」は玻璃のような透明な糸のことだと思いますが、「玻璃」と言い切っても
良いのかどうか自信がありません。
〈国枝評〉「あきつの翅に玻璃の糸」がよく分かりませんでした。
34 掛け軸の古木にとまる秋の蝶
「古木」は掛け軸に描かれた木のことでしょうか? よく分かりませんでした。
〈国枝評〉「掛け軸の古木」に止まっているのは絵である蝶でしょうか。季語の「秋の
蝶」の季語としての鮮度が薄いと思いました。
35 登山口閉ざし波打つ芒の穂
芒の穂が登山シーズンが終わった寂しさを象徴していますね。
36 秋薔薇咲いて痛しや棘あらは
棘が痛いのは当たり前なので、薔薇をよく見て写生してください。
37 わだつみのひかり浴びつつ秋燕
広大な海の光を浴びて帰ってゆく燕が目に浮かびました。
38 かなかなの声のかさなる七七忌
夏の終わりの静けさの中、蜩の声を聴きながら故人を偲んでいる姿が目に浮かびました。
39 洗い場を各戸に備え花藻かな
醒ヶ井の風景を思いましたが。「備え」は省略して推敲してみてはいかがでしょうか。
40 夕かなかな父の残せし小引き出し
良い句ですので上六を解消してほしいです。
〈国枝評〉父に対する思いのある句ですが、「夕かなかな」と上六とした効果がどこに
あるか分かりませんでした。リズム的にも「かなかなや」や「蜩や」などと上五にすれ
ばよかったと思いました。
41 落陽や脇本陣の忍草
「忍草」がかつての脇本陣の賑わいを知るかのようですね。
42 生盆や語り尽くせぬ戦中談
戦地に行っていれば百才以上の人でしょうか。戦争体験は語る人と語らない人がいます
が、語らざるを得ない体験があるのでしょうね。
43 夕立の砂場に赤き鳩車
寡黙な写生に好感を持ちました
44 羅は銀鼠色に釣香炉
視覚も臭覚も涼し気ですが、穏やかな風情の句ですね。
45 沢庵の歯切れ良きかな敬老日
敬老日といえど、歯の丈夫な人ですね。いかにも美味しそうです。
46 曼殊沙華地球の芯は燃えてをり
「曼殊沙華」と「燃えてをり」に即きすぎ感を覚えました。
47 木曽駒の眸にそよぐ蕎麦の花
木曽駒の眸と蕎麦の花のクローズアップが素敵ですね。
(国枝評)馬の目は大きいので,よく目に映った物を写生する句が多いが、目にに蕎麦
の花が揺れているというよく見ている写生である。
48 いくたびも出でて愛でけり今日の月
月見の喜びを素直に表現しましたね。
国枝隆生氏選================================
中秋の名月でしかもよく晴れている夜。こんな時の名月は何度見ても見飽きない。そ
んな様子がよく見える。ただ「今日の月」は現在の月であろうから、中七は「愛でた
り」と現在の様子で表現した方がよいと思いました。
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49 自慢せし父の金ペン秋ともし
多分お父さんがかつて自慢していたのだと思いますが。誰が?というところで迷いまし
た。でも秋の灯りに金が光っているのが見えます、
50 街の灯の散らばるジュエリー登高す
街の灯りが宝石に映っているのかと思いましたが、街の沢山の灯りが宝石のようだ、と
いう風景ですね。「灯の」を「灯は」にすれば分かりやすいと思いました。中八も何と
かしたいです。
51 搦手やぎょっと出くわす鬼やんま
出くわしたびっくり感がそれほど伝わってこないのが残念です。
52 秋暑しまう死ぬるまで続きさう
死にそうな暑さとは言いますが、強烈な残暑の感想のような感じがしました。「まう」
は旧仮名使いでも「もう」ですね。辞書には「まう」という説もあり、とありました
が・・・。
53 竹の春同期の友と加賀の旅
青々とした竹林が、同期の友との旅に清々しさを与え、心地よい情景が目に浮かびます。
54 秋茜八幡堀の陽は斜め
水面を舞う秋茜の群れが夕日と良く調和しています。
55 若き日の谺と会ひぬ大花野
若い日の谺と会うとは、どういうことかよく分かりません。若いころのころの谺の記憶
が蘇ったということですか?
56 標本の虫ピンの数夏終わる
標本の昆虫を留めたのピンの数に夏の思い出が凝縮されています。
57 ハザードマップ車中に残る秋出水
災害に会った車でしょうか? もしそうだったら「ハザードマップ」が随分と皮肉な残
り物ですね。
(国枝評)台風シーズンであろうか。いつも車の中にハザードマップを入れている。ハ
ザードマップに着目したのが面白い。なおこの句はハザードマップが車の中にあるのだ
から、語順を変えて「秋出水車中に残るハザードアップ」の方が分かりやすいと思った。
58 色違へ高さ違へて草の花
丁寧に写生していますね。
国枝隆生氏選================================
見ている秋の草は実に様々なのであろう。「色違へ」「高さ違へ」とリフレインが効
果的。
======================================
59 雲流れ風の囁く花野かな
作者が眼前の花野と一体化しているような趣があります。
国枝隆生氏選================================
前句に引き続き、この句も花野の美しさの背景を「句も流れ」「風の囁く」をリフレ
インで写生しているのが心地よい。
======================================
60 パンダゐぬ動物園や秋の風
パンダのいなくなった動物園に寂しい秋の風がふいている、という説明のように感じま
した。
61 風呂あとのビール一杯敬老日
普段から時々ビールを飲んでいるのだけど、ああ今日は敬老日だと気づき、自らを労っ
ている姿が伺えます。
62 秋澄むや羽衣のごと雲流る
ゆったりと流れる雲が目に浮かびます。
63 道草に付き合ふごとく飛蝗飛ぶ
ささやかな風景をユーモラスに切り取っていますね。
国枝隆生氏選================================
下校時の道草であろうか。いつものように道草して歩いていると、飛蝗がつきまとう
ように飛んでいる。あたかも道草につきあってくれるように。
======================================
64 背をつけて手足を伸ばす喜雨の朝
「背をつけて」が分かりませんでした、
65 つつく窓やつと目の合ふ今日の菊
「つつく窓やつと目の合ふ」が分かりませんでした。
〈国枝評〉つつく窓」がよく分かりません。それが中七以降にどうつながっているので
しょうか。
66 稲雀互いの声を呼び合へり
声を呼び合うという把握に共感ができませんでした。
67 兄の忌や備前の壺に式部の実
兄の忌日に、備前の壺に式部の実を行けて兄を偲ぶ。即物的表現が良いですね。
国枝隆生氏選================================
毎年やって来る兄の忌には毎年同じように秋の好きな備前の壺で活けることにしてい
る。しかも毎年同じ紫式部で。毎年同じように供養することは兄を忘れないための儀
式なのである。
======================================
68 街路樹に帰る燕と残る鳥
「街路樹」が場所の説明ですので、燕と烏の様子を写生してほしいです。
69 乾し草を濡らし一滴朝の露
「濡らし」は自明ですので省略したほうが良いと思います。
70 せーのーで食べる飛蝗の塩炒め
さほど食べたくないものを掛け声で勢いよく食べるという俳味を感じました。
71 棚田守減つて増えたか曼珠沙華
因果関係を感じました。
72 ひとりゐや秋の簾の夜の部屋
「部屋」は省略できるような気がします。
73 時計なき腕に気づくや秋の風
この「秋の風」は寂しい風なのか爽やかな風なのかで句の内容が全く変わるのでどちら
だろうかと悩みました。
74 聞き役の婆の縁側吾亦紅
歳月を重ねた者が持つ優しさを感じました。
75 茸山黒きパネルの下となり
ソーラーパネルだと思いますが、茸山との位置関係がよく分かりませんでした。
76 ハンターに母を撃たれし鹿の声
季語「鹿の声」の本意と離れすぎているのが気になりました。
77 ペン胼胝の確かな窪み休暇果つ
「ペン胼胝」は、日々の努力が形となった証。休暇が終わり、指先に触れるその窪みに、
仕事に戻るという現実をそっと確かめているようです。
78 新調の黒燕尾服秋気充つ
新調の燕尾服に袖を通す人の心の高揚と緊張、そして期待を季語「秋気充つ」が心地よ
く受け止めています。
79 送り火の妙の我が名や燃え尽きる
五山の「妙」が自分の名にあるという羨ましい偶然。
〈国枝評〉京都五山の送り火の一つに「妙」の字もある。この「妙」が自分の名前の文
字の一つであることから,毎年見ているのであろう。それをなつかしく見て、なつかし
みを込めて詠んでいるのであろう。
80 やすらぎの二人の夕餉胡瓜もみ
夏の夕暮れの穏やかで満ち足りた時間ですね。
国枝隆生氏特選================================
日常生活の穏やかな情景を「胡瓜もみ」を題材に詠まれている。二人居の生活がよく見
える。我が家の生活を見ているよう。
======================================
81 爽やかに握手の別れ始発駅
始発駅での別れは、終わりではなく新たな始まり。未来へと向かう二人の人生を、季語
「爽やかに」が清々しく彩っています。
国枝隆生氏選================================
久しぶりに友と一緒に過ごしたあとの別れる時の握手などといろいろなことを想像さ
せてくれる。握手して別れるのは始発駅は東京の新幹線も該当するが、この句は爽や
かな様子が見える。田舎の始発駅であろう。
======================================
82 富士望む花野の昼餉鳶の笛
広々とした自然の中で、富士山を望み、鳶の鳴き声を聞きながらの昼食。視覚と聴覚が
織りなす満ち足りた情景ですね。
83 産直の生き生きトマト朝の市
朝の光に輝くトマト。その日の始まりにふさわしい、瑞々しい活力を象徴しているよ
うです。
84 秋を待つ人それぞれに来る日暮れ
「秋を待つ」期待と、「日暮れ」の寂しさが混在する句。秋という季節が持つ、爽や
かさと哀愁が同居する複雑な感情ですね。
85 アルプスを望む安曇野水澄めり
山から流れる澄みきった沢水に心洗われますね。
国枝隆生氏選================================
回想句であろうか。安曇野の川か小流れか分からないが、澄んでいる水が心地よい。
多分空も山も見るものすべて澄んでいるのであろう。気分のよい句。
======================================
86 岨道の萩に触れゐて休みをり
歩き疲れた体に、そっと触れた萩の花が、静かに癒しを与えてくれる。はらはらと花
が零れ落ちる情景まで目に浮かぶようです。
87 湯屋の窓全開で浴ぶ虫時雨
私は入浴時に虫の声を聴くのが好きです。「浴ぶ」という措辞から盛んな虫の声を想
像しました。
〈国枝評〉銭湯であろうか、窓を開けたら一面の虫時雨に浴びる。田舎の銭湯の爽やか
さを感じる句。
88 地球一周四万キロとふ雁渡し
雁が地球を一周する、というように読めてしまうので、?の句でした。
89 秋の空塗装の知らせ明日からと
外壁の塗装だと思いますが言葉が足らないように思いました。
90 曇天の切れ間に望む空高し
憂鬱な気持ちを晴れやかにしてくれるような句ですね。
国枝隆生氏選================================
雲っていても雲の切れ間から見える空はよく澄んでいるのであろう。わずかに見える
空から田舎の空気がよく澄んでいるところが見える。
======================================
91 夕焼けに染まる薄雲散歩道
「散歩道」が場所の説明のように想いました。
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【
第308回目
(2025年8月)
HP俳句会 選句結果】
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【
酒井とし子
選 】 |
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特選:
石白く乾く河原や夏薊
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石塚彩楓(埼玉県)
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涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
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ジオラマの電車の走る広島忌
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水鏡(岐阜県)
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バス降りて生家への径草いきれ
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貝田ひでを(大阪)
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片脚は娘の住むところ虹の橋
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みのる(大阪)
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浮き人形思ひ出せないあの子の名
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粗稲沖(埼玉県)
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音続は昨日の続き夏休み
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石塚彩楓(埼玉県)
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雁来紅こどものころの空のいろ
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よりこ(愛知県)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
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康(東京)
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ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
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花虻(滋賀県)
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【
武藤光リ
選 】 |
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特選:
炎熱や模型のごとき街を行く
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みぃすてぃ(神奈川県)
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涼しさや母の実家の広き土間
|
伊藤順女(船場市)
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語り部の願ひは一つ星迎へ
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梦二(神奈川県)
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はらからの星みな遠し天の川
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美佐枝(千葉県)
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浮き人形思ひ出せないあの子の名
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粗稲沖(埼玉県)
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諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
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原洋一(苫田郡鏡野町)
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六畳の奥を焦がして晩夏光
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伊藤順女(船橋市)
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さりげなく来し方語る生身魂
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ようこ(神奈川県)
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サファイアの湖サファイアの翡翠来
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櫻井 泰(千葉県)
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夕立や土の匂ひを湧きたたせ
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蝶子(福岡県)
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【
奥山ひろ子
選 】 |
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特選:
父語るあの日の暑さ終戦忌
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美由紀(長野県)
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涼しさや母の実家の広き土間
|
伊藤順女(船場市)
|
炎熱や模型のごとき街を行く
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みぃすてぃ(神奈川県)
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顔隠す団扇の裏の寝息かな
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雪絵(前橋市)
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バス降りて生家への径草いきれ
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貝田ひでを(大阪)
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白髪の深き黙祷原爆忌
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みのる(大阪)
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風死すや知らぬ国旗の貨物船
|
伊藤順女(船橋市)
|
星月夜エンドロールの余韻かな
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ようこ(神奈川県)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
|
康(東京)
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蛇口から水の熱さや広島忌
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*町子(北名古屋市)
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【
渡辺慢房
選 】 |
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特選:
涼しさや母の実家の広き土間
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伊藤順女(船場市)
|
炎熱や模型のごとき街を行く
|
みぃすてぃ(神奈川県)
|
バス降りて生家への径草いきれ
|
貝田ひでを(大阪)
|
過不足の無き暮し向き菊膾
|
美佐枝(千葉県)
|
諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
|
原洋一(苫田郡鏡野町)
|
石白く乾く河原や夏薊
|
石塚彩楓(埼玉県)
|
折り紙の青空の色広島忌
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正憲(浜松市)
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鯖雲や頬骨高き竜馬像
|
康(東京)
|
旅人も輪に馴染みゆく踊りかな
|
かれん(春日部市)
|
ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
|
花虻(滋賀県)
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※(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)
今月の最高得点者は伊藤順女さん(船場市)、次点はみぃすてぃさん(神奈川県)でした。「伊吹嶺」8月号をお贈りいたします。おめでとうございます!
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【講評】
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2025年8月伊吹嶺HP句会講評 渡辺慢房
1 白と黄の蝶もつれあふ薄暑かな
軽やかな二匹の蝶の舞が薄暑に似合っていますが、季重なりとならないよう工夫した
いですね。
2 涼しさや母の実家の広き土間
古い日本家屋のひんやりとした空気が伝わります。こうした場合、「古民家」という
ような説明的な言葉を使いたくなりますが、土間とその空気感の写生で、家の様子が十
分に伝わりますね。
奥山ひろ子氏評===============================
広々としたお母様の実家に行かれた際の清々しい気持ちが、伺えます。
======================================
3 酔芙蓉帰りは紅し無常なり
全体的に「季語の説明」に感じられました。また、「無常なり」は言い過ぎに思いま
す。
4 月下ゆえ心が弾む夜警番
「心が弾む」と言わずに、物に託してその気持ちを伝えましょう。
5 機織の絶ゑしふるさと星今宵
昔は、夜の静けさの中に機織りの音が響いていたのが、今は聞こえなくなってしまっ
た。星空だけはあの頃と変わらずに輝いているという感慨が伝わります。
6 ジオラマの電車の走る広島忌
8月6日に催された何かのイベントの様子でしょうか? 広島には路面電車が走ってい
ますので、それの比喩かな?とも考えたのですが、句意がよく掴めませんでした。
7 段々の青田をわたる葉擦れの音
棚田を風が渡ってゆく景。葉擦れの音に着目したのが良いですね。「わたる」だと水
平方向への広がりが感じられますので、「のぼる」や「くだる」として立体感を出すの
も良いかもしれませんね。
8 駅舎の灯消えてかがよふ星の河
景は浮かびますが、「星の河」が季語になるのかやや疑問に感じました。星河(せいが)
という季語はありますが、それを「星の河」とするのは「銀河」を「銀の河」とするの
と同じではないかと思いました。
9 受話器より帰省の話夏の星
受話器のある電話で星が見えているということは、煙草屋の店先等の公衆電話でしょ
うか? 懐かしい景ですね。「帰省の話」で帰省そのものを詠んでいるわけではないの
で、季重なりにはならないと思いますが、もうちょっと工夫してすっきりさせたいです
ね。
10 天に擦るマッチの如し百日紅
真正面からの直喩ですね。マッチの頭の発火剤はいろいろな色がありますが、私のイ
メージは真っ赤で、ピンクや白の百日紅のイメージとは一致しませんでした。
11 炎熱や模型のごとき街を行く
あまりの暑さ・熱さに、現実感が薄れる感覚がなんとなくわかるような気がします。
武藤光リ氏評================================
大都会はともかく、灼熱の街は人影もまばらであり、その上建物の影もやけに、くっ
きり見える物である。それは作り物の世界か夢の中の世界に紛れ込んだような、異次元
の体験と繋がる。
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奥山ひろ子氏評===============================
暑さに灼けるような街を「模型のごとき」と表現なさった点が新鮮でした。もはや生き
物などいない世界のようですね。
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12 神輿ゆく辻は喚声人の群
喚声も人の群も、神輿という季語のイメージに含まれるように思いました。
13 せせらぎに顔洗ひゐるキャンプの子
キャンプの朝の景。川の音や鳥の声が聞こえてくるようです。
14 ゆっくりと見たり聞ひたりかたつむり
かたつむりがゆっくりなのは、言わずもがなの感じがしました。
15 炎天や裏窓突っつく友の顔
状況がよくわかりませんでした。ご友人は、何故炎天下に裏窓を突いているのでしょ
うか?
16 せせらぎに襤褸のどた靴夏の果
どた靴を辞書で引くと「足に合っていない不格好な靴」とありました。すると、この
靴は流れてきたのではなく、誰かが履いているのでしょうか? 状況がよくわかりませ
んでした。
17 顔隠す団扇の裏の寝息かな
こういう団扇の使い方もあるのですね。
奥山ひろ子氏評===============================
昼寝あるあるですね。「寝息」が気持ちよさそうです。
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18 絹擦れの音神官の薄ごろも
衣擦れの音が涼し気で、神官の凛とした佇まいが浮かびます。
19 バス降りて生家への径草いきれ
むっと来る草いきれも懐かしく感じられたことと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
今は空家の生家でしょうか。侘しさを含んだ懐かしさが滲んでいます。
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20 喉仏上下運動ビール干す
ビールを飲む景の描写としては、ありがちで表面的な印象を受けました。
21 炎天や友の禿頭なお更に
ユーモラスな句。「なお更に」に続く言葉をあれこれ考えてしまいました。
22 傷口をシクシク責めて蝉の鳴く
句意がわかりませんでした。蝉が鳴くと作者の傷が痛むのでしょうか?
23 語り部の願ひは一つ星迎へ
句意がわかりませんでした。七夕の語部とは? またその願いとは?
24 人波の凪ぎる炎昼友を待つ
「凪ぎる」という日本語は、手元の広辞苑には載っていませんでした。「凪ぐ」が正
しいのではないかと思います。
25 翳す掌も影も張り付く溽暑かな
掌や影が何(どこ)に張り付くのでしょうか?
26 新月や走る閃光海ほたる
走る閃光の正体と、海ほたるが海中で発光する生物のことか、東京湾の人工島のこと
かがわかりませんでした。三段切れも気になります。
27 片脚は娘の住むところ虹の橋
ちょうど娘さんが住んでいる方向に虹の脚の片方が見えたのか? それとも、この世
ではないところというような意味なのか??
28 白髪の深き黙祷原爆忌
80年前の少年少女も白髪となりました。
奥山ひろ子氏評===============================
黙祷を捧げる方の思いが感じられました。若い人にも関心を持ってほしいです。
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29 生きろよと鳴くは寓意か法師蝉
蝉はただひたすら鳴くだけですが、それがどう聞こえるかは聞く人間の気持ちの問題
ですね。「寓意か」にそれを感じている作者の心が表れています。
30 宿場町暮るればのぼる盆の月
たまたまかもしれませんが、「暮るればのぼるXXX月」が滝廉太郎の「花」の歌詞と
同じなので、陳腐な言い回し的に感じてしまいました。
31 はらからの星みな遠し天の川
天の川を見上げ、亡くなった同胞を偲んでいるのでしょうか?
32 過不足の無き暮し向き菊膾
人生を達観した感じがします。
33 夏空は原始の青や火口丘
火口丘から空を見上げているのでしょう。「原始の青」をイメージしようとしてみま
したが、うまく行きませんでした。言葉で説明するより、「夏空」だけで読者のイメー
ジを喚起する方が良いように思いました。
34 浮き人形思ひ出せないあの子の名
もどかしい気持ちが伝わります。浮き人形のように記憶が浮かんで欲しいですね。
35 立秋の白帆きらめく父の島
お父様が島を所有されているのではなく、お父様が戦死された島という意味かと思い
ましたが、そこに帆船(ヨット?)があるのでしょうか? 状況がよくわかりませんでし
た。
36 アルコールゼロで潤すビール哉
ノンアルコールのビールテイスト飲料を飲んだというだけでは、句材として物足りな
いと思います。
37 診察をまつ隣席の団扇風
病院の待合室かと思いますが、作者の心情や様子が今一つ伝わりませんでした。隣の
人の団扇の風を心地よく感じたのか、不愉快だったのか??
38 てにをはをどれにしようかすいつちよん
助詞の使い方は本当に大事です。意表を突くような季語の離れ方が絶妙に感じられま
した。
39 諌めたるお酒も供へ盂蘭盆会
「もう好きなだけ飲んで良いんだよ」という気持ち。「酒」を「お酒」とすると、句
が甘くなるような気がします。(それを狙うのも有りですが。)「お酒も」の「も」も
気を付けた方が良いと思いました。
40 トマト熟れ少年はやも髭生やす
トマトと少年の成長をだぶらせていますが、やや即き過ぎに感じました。
41 純心の合唱雨の長崎忌
「純心」は学校名でしょうか?それともそういうタイトルの歌があるのでしょうか?
42 音続は昨日の続き夏休み
毎日少しずつ本を音読しているのですね。昨日の続きを読むことは普通なので、もう
少し掘り下げた観察・発見が欲しいと思いました。
43 石白く乾く河原や夏薊
猛暑で川も乾涸びかけているのでしょう。夏薊の生命力が印象的です。
44 六畳の奥を焦がして晩夏光
晩夏とは言え、夏の太陽は高く、あまり部屋の奥までは射し込まないのではないかと
思いました。
45 風死すや知らぬ国旗の貨物船
無風状態と、正体がわからない船。もやっとした気分ですね。
奥山ひろ子氏評===============================
湾岸も暑いでしょう。「知らぬ国旗」が暑さをさらに運んでくるような印象です。
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46 ベルーガの歌ふくよかや水温む
「水温む」は早春の季語ですが、ベルーガが棲むような海に使うのは違和感を覚えま
した。
47 鯨鳴く声は潮流統ぶ孤高
観念的で、「うまいことを言おうとしている」感を受けてしまいました。
48 古古米てふ言ふてはをれぬ敗戦忌
政府備蓄米の放出を、戦中戦後の窮乏の記憶にだぶらせたのですね。やや理屈を感じ
ました。
49 雁来紅こどものころの空のいろ
夕焼け空かと思いますが、子供の頃は今とは色が違って見えたのでしょうか?
50 坊ちやんの道後暑しやビルの街
道後には行ったことがありませんが、坊っちゃん(漱石の小説名には「っ」が入りま
す)のイメージから古風な印象を持っていました。今はビルの街なのですね。作者も同
じような意外な印象を持たれたのでしょう。
51 辻堂のくすむ提灯盆祭り
辻堂が、神奈川の地名なのか、路傍の仏堂なのか迷いました。また、お盆には墓や仏
堂には新しい花や提灯を供えたりするのではないかと思いますが、こちらの提灯はなぜ
くすんだままなのでしょう?
52 星月夜エンドロールの余韻かな
映画を見た帰り道でしょうか?最初意味がわかりませんでしたので、もう少し分かり
易く詠まれると良いと思います。
奥山ひろ子氏評===============================
映画のあとですね。エンドロールと星空が合っていると思いました。
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53 さりげなく来し方語る生身魂
「さりげない」と作者が感じた具体的な様子や、「来し方」の内容が読者に伝わると
良いと思います。
54 山のものあまた供へて茄子の牛
お盆に仏壇に供えるのは、野菜や果物が多いと思いますが、山のものとは何でしょう?
55 秋の蝶待つてゐさうな駅ノート
上五と下五の名詞で中七を挟む形の、いわゆる「観音開き」で、秋の蝶が待っている
ようにも、秋の蝶を待っているようにも読めます。いずれにしても、秋の蝶と駅ノート
の関係がよくわかりませんでした。
56 折り紙の青空の色広島忌
最初句意がわかりませんでしたが、何度も読むうちに原爆の子の像のことかと思い当
たりました。
57 峯雲に絡め取られし比良比叡
峯雲は、俳句では夏の空に湧き上がる入道雲(積乱雲)のことを言いますが、この句の
場合は比良山地や比叡山の峰に掛かった雲という意味でしょうか? そうだとすると、
季語にはならないと思います。
58 水飲みて塩飴くちに炎天へ
大事なことですが、ストレートすぎて俳句というより標語のように感じてしまいまし
た。
59 鯖雲や頬骨高き竜馬像
思わずネットで竜馬像の画像を検索してしまいました。確かに、下から見上げるアン
グルだと、頬骨が高く見えるものがありますね。秋空をバックにした竜馬像の印象が明
瞭です。
奥山ひろ子氏評===============================
「頬骨高き」が具体的な表現で、竜馬像の特徴を捉えていると思いました。
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60 村と村渡す吊り橋初あらし
秋の初風に揺れる吊り橋ですね。「村と村渡す」は説明的ですので、吊り橋の様子を
具体的に写生されると良いと思いました。
61 夜通しの音鳴りやまず踊下駄
「夜通しの音」と「鳴りやまず」が重複しているように感じました。
62 旅人も輪に馴染みゆく踊りかな
この旅人は作者自身でしょうか? 旅行先で盆踊りに参加したのですね。「旅人も」の
「も」が句を説明的にしているように思います。「旅人の」とすると、その人にスポッ
トライトが当たります。
63 会議果て残暑の街の人混みに
切れが無く、報告的に感じました。
64 盂蘭盆会集う若者ニ・三人
若者が二三人来たと喜んでいるのか、二三人しか来なかったと憤っているのか?
65 線状降水帯聞きなれぬまま盆に入る
線状降水帯という言葉、最近はテレビやラジオで良く聞くので、私はすっかり聞きな
れてしまいました。
66 虫の声負けじと響く弦合奏
55でも書いた「観音開き」ですね。虫の声と弦合奏(弦楽合奏?)が張り合っているの
でしょうか?
67 家一歩出るを躊躇ふ炎天下
炎天下は炎天の下で太陽に照らされている状況ですから、「家一歩出るを躊躇ふ」と
矛盾するように思いました。「夏の昼」や「日の盛」だとそれは解消すると思いますが、
いずれにしても、暑いから→出たくないという理屈を感じます。
68 落日や一気に囃す油蝉
「一気に囃す」は、油蝉が一斉に鳴きだすという意味でしょうか? 油蝉は日暮れよ
りも日中に盛んに鳴くようなイメージがあります。(蝉の旧字は環境依存文字でこの講
評を書いているエディターでは表示できないため変えさせて戴きました。)
69 蛇口から水の熱さや広島忌
あの日の暑さ・熱さが偲ばれます。上五は字余りになっても「蛇口からの」としたい
です。
奥山ひろ子氏評===============================
暑さで水道の水も熱いのでしょう。肌に感じた感覚が原爆と重なり、当時の悲惨さに思
いを馳せる作者ですね。
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70 畑からこれ一番と茄子の馬
誰かが茄子の馬にするための茄子を畑から採ってきたのだと思いますが、茄子の馬が
自分で畑から歩いて来たように思えてしまいました。
71 ライブ後のそぞろ歩きや夏の月
そぞろ歩きで興奮を醒ましているのでしょうね。夏の月が涼やかです。
72 隣室の夫とシンクロ明易し
何がシンクロしたのでしょうか?
73 サファイアの湖サファイアの翡翠来
写真を撮りたくなりますね。カワセミの漢字は宝石の翡翠と同じですので、それをさ
らに別の宝石になぞらえるのはちょっと無理矢理な感じもしました。
74 飛行機雲を撃ちてし止まむ水鉄砲
小さな子が、飽かずに水鉄砲で飛行機雲を狙っているのですね。中七の、戦時中に使
われたスローガンが不気味な感じがします。
75 糖尿の夫に味覚の秋が来る
川柳的に感じました。御夫君の食べ過ぎにはご注意ください。
76 行く夏や我よりも濃き犬の影
比喩的な影が薄い・濃いという意味でしょうか?
77 亡き父の下駄が狭庭に飛蝗とぶ
下駄が狭庭にあってそこに飛蝗が跳んだと解しましたが、なぜ下駄を庭に置きっ放し
にしているのか、奇異な感じがしました。
78 母の句に初めて出逢ふ敗戦忌
「母の句に初めて出逢ふ」の状況をいろいろ想像してみましたが、今一つよくわかり
ませんでした。
79 一瞬の静寂を破り蝉時雨
確かに、蝉の声や虫の声、蛙の鳴き声などは、不思議と一斉にピタリと止むことがあ
りますね。
80 室外機止んで暫しの螽斯
エアコンの室外機が稼働している間は、螽斯は鳴かずに潜んでいたのですね。作者は
たまたま屋外にいて、この状況に出会ったのでしょう。
81 爆心地知る子ども等や百日紅
「爆心地知る」は、爆心地のことについて知っているのか、どこが爆心地かを初めて
知ったのか? いずれにしても、夏を象徴する百日紅があの日を思い起こさせます。
82 たむろして縁台将棋夏休み
子供が縁台将棋、もはやファンタジーのような光景ですね。
83 遠花火音のみ届く路地の居間
「路地の居間」は路地の奥にある家の居間という意味だと思いますが、ちょっと無理
な感じがしました。また、居間にいるのでしたら、花火は見えずに音だけ聞こえるのは
当然な気がします。
84 公園に人影は無し草いきれ
猛暑で、日中公園で遊ぶことも難しくなっていますね。
85 夕立や土の匂ひを湧きたたせ
夕立の前後には、独特のにおいがしますね。土壌中の菌の化合物や植物の脂肪酸、オ
ゾンなどが原因だそうです。懐かしい感覚ですが、これらはすでに「夕立」という季語
のイメージに含まれるように思います。
86 炎帝の怒りは未だ収まらず
昨今の猛暑のことを言っておられるのだと思いますが、炎暑、極暑、酷暑、劫暑とい
う季語一つで言い表せると思います。
87 明易や投句締め切せまり来る
一晩中作句されていたのでしょうか? 熱心に俳句に取り組まれるのは良いですが、
無理はなさらないようにしてください。
88 回覧板届ける外の蝉しぐれ
本当はあまり外に出たくはないのでしょうが、回覧板を止めないようにと思い切って
外に出たのでしょう。回覧板を届けるのも蝉時雨も屋外に決まっていますので、「外の」
の部分を工夫したいと思いました。
89 だし汁のかほる蕎麦屋の夏暖簾
夏暖簾を出した蕎麦屋の佇まい、良いですね。「だし汁(そばつゆ?)のかほる」は、
蕎麦屋の形容としてはちょっと平凡で、暑い季節よりは寒い時期の方がより惹かれるよ
うな気がしました。
90 瀬戸内の夕立無き地や晴れの国
岡山ですね。夕立という言葉は入っていますが、これは季語として利いていないと思
います。
91 雨後の傘広げ下校児残暑かな
「雨後の傘広げ」が最初良くわかりませんでしたが、日傘として使ってるのですね?
92 蝉しぐれ強き日差しを憂う朝
朝から蝉が鳴いて、暑くなりそうな日ですね。「強き日差しを憂う」と、思ったこと
をストレートに言わずに、物に託してその気持ちを伝えられると良いですね。
93 父語るあの日の暑さ終戦忌
思いが感じられます。ただ、類句・類想が多いように思います。
奥山ひろ子氏評===============================
今の気候的な暑さとは違う、精神的な意味も含む「終戦忌」のやるせない暑さを感じま
した。
「父語る」という親子でお話しされたことで、心に沁みるお時間だったのだろうと思い
ました。
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