トップページへ戻る
TOPページへ戻る HP俳句会 投句フォーム 投句一覧 選句結果
選句結果
     
第317回目 (2026年5月) HP俳句会 選句結果
【  松井克行 選 】
  特選 メーデーの先頭をゆくブルドッグ 筆致俳句(岐阜市)
   弁当のおかず交換若葉雨 田村幸之助(和歌山県)
   岩窪に蝌蚪より小さき魚光る      芳典(東海市)
   春雨や卒寿八十路の長電話 大原女(京都)
   たたう紙に母の筆跡更衣 原洋一(岡山県)
   点滴の縷々と卯の花腐しかな みのる(大阪)
   しろがねの光走れり初鰹 かれん(春日部市)
   薫風や芝生に解く抱っこひも 蝶子(福岡県)
   あたたかし見知らぬ人の会釈受け 小豆(和歌山市)
   母の日や庭の白薔薇仏前に まこと(さいたま市)
【  国枝隆生 選 】
  特選 暮れ方の風音乾く麦の秋 吉沢美佐枝(千葉県)
   オムライス上手に出来て長閑なり  百合乃(滋賀県)
   たたう紙に母の筆跡更衣      原洋一(岡山県)
   子の名前大きく掲げ鯉幟 石塚彩楓(埼玉県)
   流れ読む船頭の竿青嵐 正憲(浜松市)
   しろがねの光走れり初鰹 かれん(春日部市)
   札所への百の石段青楓  筆致俳句(岐阜市)
   薫風や芝生に解く抱っこひも 蝶子(福岡県)
   さ緑の香や「おかわり」と豆の飯 かよ子(和歌山市)
   雨上がり日差し弾ける柿若葉 美由紀(長野県)
【  関根切子 選 】
  特選 たたう紙に母の筆跡更衣 原洋一(岡山県)
   春深む甘きにほひのパン工場 直樹(埼玉県)
   粒ほどのいのちが動く蝸牛      後藤允孝(三重県)
   点滴の縷々と卯の花腐しかな みのる(大阪)
   薫風や新入幕の触れ太鼓 みぃすてぃ(神奈川県)
   番長となる面構へ葱坊主 正憲(浜松市)
   流れ読む船頭の竿青嵐 正憲(浜松市)
   メーデーの先頭をゆくブルドッグ 筆致俳句(岐阜市)
   札所への百の石段青楓  筆致俳句(岐阜市)
   薫風や芝生に解く抱っこひも 蝶子(福岡県)
【  玉井美智子 選 】
  特選 岩窪に蝌蚪より小さき魚光る 芳典(東海市)
   暮れ方の風音乾く麦の秋 吉沢美佐枝(千葉県)
   たたう紙に母の筆跡更衣      原洋一(岡山県)
   朝霧の零るる楓若葉かな 後藤允孝(三重県)
   薫風や新入幕の触れ太鼓 みぃすてぃ(神奈川県)
   流れ読む船頭の竿青嵐 正憲(浜松市)
   ときとして主亡き家の余花匂ふ ようこ(神奈川県)
   谷繋ぐ橋の如くの鯉のぼり 古屋侏儒(神戸市)
   札所への百の石段青楓  筆致俳句(岐阜市)
   薫風や芝生に解く抱っこひも 蝶子(福岡県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は原洋一さん、次点は蝶子さん(福岡県)でした。「伊吹嶺」5月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


     2026年5月伊吹嶺HP句会講評        松井徒歩

沢山の御投句ありがとうございました。


1	たまゆらの風誘うや花吹雪

雅な言葉を使って趣のある句ですが、「風」と「花吹雪」の意味的重なりが気になりま
した。

2	春の闇空一面の妖しさよ

 「妖しさよ」が主観的な感想ですので、読者が妖しいと感じるような描写をしてくだ
さい。

3	弁当のおかず交換若葉雨

 ほのぼのとした光景が目に浮かびます。若葉を濡らす雨すらも心地よく、おかずを交
換する楽しさが伝わってきます。

(国枝評)雨なので弁当の取り替えっこは教室で行われているのでしょうか。その明る
さを詠むなら、「窓若葉」もありかなと思います。

4	木造の白き灯台花苺

 出来ている句で、景もよく見えます。

5	夏の峰絵筆に混じるビリジアン

 「混じる」で良いのかどうか? もっと他に適切な言葉があるような気がしました。

6	青嵐河畔の句碑に掠れ文字

 助詞の「に」は「の」のほうが良いように思いました。

7	旧友の家建て替わる鯉のぼり

 家が建て替わっても、端午の節句には、また以前と同じように鯉のぼりが空を泳ぐの
でしょうね。他人の家に建て替わるのであればまた違う感想になります。

8	岩窪に蝌蚪より小さき魚光る

 蝌蚪とそれよりも小さな魚。その光は確かな命の躍動ですね。

9	人と句を愛す憲法記念の日

 憲法記念日に際し、平和への祈りを句に託す作者の姿が浮かびます。

10	春雨や卒寿八十路の長電話

 九十才と八十才の長電話。年の離れた兄弟か、あるいは旧知の友でしょうか。受話器
越しに尽きることなく続く積もる話を、しめやかに降る「春雨」が優しく包み込んでい
ます。

(国枝評)兄弟か仲のよい友達の電話でしょうか。リズム感を考えるなら、「春雨や卒
寿傘寿の長電話」もありでしょうか。

11	こどもの日絵本作家となる私

 子供のころを回想しているのでしょうか? 

12	新緑や伐採跡に丸き椅子

 切り株のことでしょうか? それとも丸い椅子が置いてある?

13	暮れ方の風音乾く麦の秋

 初夏の夕暮れ時に吹き抜ける乾いた風が、心地よい余韻を残しています。

国枝隆生氏特選================================

やや情景がはっきりしませんが、麦秋の頃は何となく風が乾く感じがするのでしょう。
その取り合わせの感性がよいと思いました。

======================================


14	晴ればれと鳶の弧ひとつ風光る

 気分爽快な句ですが、「晴ればれ」と「風光る」が感覚的に重複しているように感じ
ました。

15	牡丹や崩るるさまも華のあり

 滅びの美学ですね。

16	オムライス上手に出来て長閑なり 

 オムライスというシンプルな料理はおおらかな春に相応しいですね。

国枝隆生氏選================================

春の長閑さとオムライスの日常的な場面での取り合わせが春の楽しさを感じる印象の
句でした。

======================================

17	海棠や高麗青磁の窯の庭

 海棠の紅色と、焼き上がった時の青磁の色彩との対比が鮮やかですね。あるいは陶片
もあるのかもしれません。

18	春深む甘きにほひのパン工場

 春の深まりをパンの香りで捉えた表現が自然で、心にすっと入ってくる素直な句です
ね。

19	統合の決まりし学舎鯉のぼり

 何処かの学校と合併してこの学舎は使われなくなるのかも知れませんね。たなびく鯉
のぼりは無心です。

20	執着を手放す闇へ白牡丹

 上五中七の主観が強すぎて解釈に困ります。

(国枝評)白牡丹が執着を手放すとは面白い句立てですが、上五、中七の抽象表現の意
図がよく分かりませんでした。

21	彼岸から呼び戻されし埴輪兵

 この句も分かるようで分からないもどかしさが・・・。

(国枝評)あの世から呼び戻されるとは面白い発想の句だと思いますが、「彼岸」が季
語であれば具体的なあの世ではなく、時候の季節の季語ですから、具体的なあの世では
ないと思いました。

22	昭和の日玉子サンドに塩振りて

 休日のゆったりとした気分が伝わります。

23	蓬萌ゆ模型飛行機風に乗り

 蓬の生命力と、模型飛行機を運ぶ春の風が心地よく調和しています。

24	リビングにひびく朗読みどりの夜

 何の朗読か分からないので、鑑賞に困りました。

25	風炉点前宗匠自慢楽茶碗

 報告気味のように感じました。

26	赤鉢巻とシユプレヒコール五月祭

 メーデーですね。季語の説明のように感じました。

(国枝評)あえて七・七・五と破調にしたのは何かの意図があったのでしょうか。上五
は「鉢巻と」だけで十分かると思います。

27	たたう紙に母の筆跡更衣

 多当紙に残された文字を目にして、亡き母への思慕が、胸に迫ってきたのですね。

国枝隆生氏選================================

このたとう紙に母の筆跡があるということは母の形見の和服なのでしょう。その夏物
の和服に着替える更衣の時期には必ず母のことを思い出しているのでしょう。

======================================

28	一望の若葉一樹の若葉かな

 作者の表現の冒険的な意欲を感じました。

29	粒ほどのいのちが動く蝸牛

 ささやかな命への温かい励ましが感じられますね。どこか一茶の句にも通じる優しさ
があるように思いました。

(国枝評)蝸牛にふさわしい角を「粒ほどのいのち」と詠んだのでしょうか。「いのち」
は格好いいと思いますが、何か具体的な物でいのちを詠む方法もあるかなと思いました。

30	朝霧の零るる楓若葉かな

 霧が零れるということが、よく分かりませんでした。

31	子の名前大きく掲げ鯉幟

 「名前大きく掲げ」から、わが子への深い愛情が伝わってきます。

国枝隆生氏選================================

鯉幟を上げるは子どもの成長を願う親にとって象徴的な位行事なのでしょう。鯉幟に
特に子どもの名前を大きく書くということは一番大事なことだということが伝わって
きました。

======================================

32	山門に見上ぐる草鞋遠鶯

 見上げるほど大きな草鞋の存在感と、遠くから聞こえる鶯の繊細な声。その対比の妙
味ですね。

33	はつなつのゆるりと回る観覧車

 ゆったりと回る観覧車の動きが、初夏の光に満ちた空の広がりを引き立てています。

34	花は葉に人出の絶えぬ城下町

 花の盛りを過ぎても人の波が途切れない様子に、この城下町が持つ歴史の深さを感じ
ます。

35	どくだみをむしれば強き怒りの香

 「強き怒りの香」が主観が強すぎて付いて行けませんでした。

36	点滴の縷々と卯の花腐しかな

 「縷々と」に込められた、点滴の心細く長い時間。その屈託が、外に降りしきる「卯
の花腐し」の重たい空気と重なり、静かな共鳴を生んでいます。

37	蝶追うや満開の桜見上ぐる子

 「蝶」と「桜」の季重なりは避けた方が良いと思いました。

38	五月来ぬ髪を束ねる通学路

 通学路で髪を束ねるということが、よく分かりませんでした。

(国枝評)髪を束ねる通学路とは何でしょうか。通学路が束ねているようでした。本当
は束ね髪の女の子の通学路なのでしょう。者略しすぎだと思いました。

39	薫風や新入幕の触れ太鼓

 初夏の風が、新入幕の力士を祝っているようですね。

40	本堂もしばし開帳ひばり鳴く

「開帳」は期間限定なので、「しばし」は言わずもがなのように感じました。

41	番長となる面構へ葱坊主

 よほど存在感のある葱坊主なんですね。

42	流れ読む船頭の竿青嵐

 竿先から伝わる微妙な水の抵抗や変化を、船頭は読み取っているのでしょうか。青嵐
の強風の中、繊細な竿捌きが求められます。

国枝隆生氏選================================

やや風の強い日に渡し船などで棹をうまく操ることは難しいのでしょう。「流れ読む」
と捉えたところがこの句のポイントなのでしょう。

======================================

43	田を植えるその一処学校田

「その一処」が曖昧で写生になっていないと思いました。

44	朝曇鴉のつつくごみ袋

 「鴉のつつくごみ袋」は鴉の典型的な生態ですので、報告に留まっていると思います。

45	砂遊びに飽くを待つ母花は葉に

 上六の解消に努めてください。

46	若き日をテレビに見付つく五月祭

 若き頃のメーデーを懐かしんでいるのですね。

47	ペチペチと歩く人鳥こどもの日

 〈ぺチぺチ、ペンギン〉と検索すると幾つかの記事が出てきます。オノマトペはよほ
ど斬新な使い方をしないと成功しないと思います。

48	新弟子の下手な出囃子浅き夏

 高座のことだと思いますが、「新弟子」はお相撲を連想しますので、言葉に注意を払っ
てください。

49	鏡めく代田の面や流れ雲

 代田の水面に映る、形を変えながら移ろいゆく雲の描写が素敵ですね。

50	ときとして主亡き家の余花匂ふ

「ときとして」と「余花匂ふ」が離れているのが気になりました。

51	夏立つや疱瘡あらはなるシニア

 中高年の人に対して思いやりが欠けているような描写のように感じました。

52	週一の移動販売風薫る

 色々な事情で買い物に行けない方々にとって、移動販売は本当に助かる存在ですね。
利用される皆さんの喜びや感謝の思いが、「風薫る」という言葉に込められているよう
に感じました。

53	峠立ち麓にヒラヒラ鯉のぼり

「ヒラヒラ」が安直ですので実のある写生をしてほしいです。

54	谷繋ぐ橋の如くの鯉のぼり

谷の対岸まで鯉のぼりが沢山連なっている景ですね。

55	ふんわりと風をはらむや夏暖簾

 「ふんわりと」が常套かもしれませんが、涼し気ですね。

56	しろがねの光走れり初鰹

 「初鰹」の質感を「しろがねの光」と見なし、それが「走る」と形容することで、瑞々
しい鮮度が伝わってきます。

国枝隆生氏選================================

初鰹は江戸時代ほどでなくても真っ先に食べたい魚でしょう。ましてや新鮮で脂が白
く光るほどであれば、なおさらおいしく見えたことでしょう。

======================================

57	薔薇色の海より揚げしヨットかな

 夕日に輝く海でしょうか。ヨットも水に濡れて美しい句ですが、「揚げし」という過
去形ではなく現在形のほうが良いと思いました。

58	残生の今日の過行く青嵐

 「青嵐」という季語から、これまでの波乱の人生のようなものを感じました。

59	メーデーの先頭をゆくブルドッグ

 参加者のペットなのですが、ブルドッグが皆を引き連れているような可笑しさを感じ
ました。

60	札所への百の石段青楓 

 三十三観音の札所か、四国八十八ケ所巡りか。石段の登りの疲れを新緑の楓が癒して
くれます。

国枝隆生氏選================================

札所寺などはやや高いところにあるのでしょう。寺に着く最後の苦しい階段でしょう。
しかしそのあとは青楓の明るさに満ちた札所に着くことになるのでしょう。

======================================

61	芽柳や雨に賑わふ眼鏡橋

 芽柳の淡い萌黄色と、橋の上で重なり合う傘の彩りが、雨の日の春の風情をを引き立
てています。

62	薫風や芝生に解く抱っこひも

 赤子を初夏の芝生に下ろすという瞬間を捉えた佳句。爽快な風の中で、健康な赤子を
見守る母の穏やかな眼差しまでをも感じます。

国枝隆生氏選================================

赤ちゃんを抱っこしていたところ、清々しい薫風のあるところでその紐を解いた光景、
いかにも親子の睦まじさが見えてきます。

======================================

63	あたたかし見知らぬ人の会釈受け

 見知らぬ人とはいえ、ご近所の方でしょうか。普段はお付き合いがなくても、こうし
たさりげない挨拶を交わすのは、お互いに心地が良く、素敵なことですね。

64	花冷えや音なくしむる夜の雨

悪くない句ですが、花冷えの説明のような感じを受けました。

65	富良野まで一直線の新樹光

 新樹光が一直選のようにも読めますので「の」ではなく、ここで切れを入れたほうが
良いように思います。

66	母の日に大き花丸カレンダー

 カレンダーの前で切れていますが、「母の日の花丸大きカレンダー」と繋げたほうが
良いと思います。

67	囀ずりや二人黙々草むしり

 一見するとそっけない句のようですが、鳥たちの囀りが、二人の草むしりを励まして
いるようでもあります。言葉はなくとも通じ合う、ご夫婦の微笑ましい姿が垣間見える
ようです。

68	さ緑の香や「おかわり」と豆の飯

 美味しそうですね。

国枝隆生氏選================================

「そら豆はまことに青き味したり」と詠んだのは細見綾子先生でしたが、この句も豆
御飯がみどりの匂いがしたと詠んでいます。いかにもおいしい御飯です。

======================================

69	母の日や庭の白薔薇仏前に

 カーネーションではなく、庭の白い薔薇を供えたところに、母への静かで心の籠もっ
た思いが伝わってきます。

70	仰ぎ見る校庭真中花樗

 校庭の真ん中に木が植えられているのは珍しく、それだけで強い存在感を放ちます。
「仰ぎ見る」という措辞によって、淡い紫の花を咲かせた、立派な花樗の大木が想像さ
れます。

(国枝評)学校によく象徴的な高木があり、印象的ですが、「真中」というと校庭のど真ん中に樗の木があるように読めました。

71	男の子四人育てし家の鯉のぼり

 良い内容の句ですので上六にならない推敲をしてほしいです。

72	坂上から望むわが町風薫る

 前句と同じ感想です。

73	小判草群れたる道はかつて海

 「かつて海」と言われると、景色がなくなってしまうので鑑賞が難しいです。

74	薔薇園の薔薇の陰なる鯉の池

 狙って作ったのだと思いますが、「薔薇園」は要らないと思います。

75	若葉風喧騒戻るラッシュアワー

 若葉風と喧騒が合わないように思います。

76	雨上がり日差し弾ける柿若葉

 初夏の明るいエネルギーを感じました。

国枝隆生氏選================================

柿の葉は厚くて艶のある葉です。雨あとにはことさら明るく見える若葉なのでしょう。

======================================

77	傘畳む裾の乱るる緑雨かな

 緑雨は気分の良い雨なので「裾の乱るる」とは相性が良くないように思います。

78	麦秋やA3サイズの時刻表

 中八は避けてください。


第316回目 (2026年4月) HP俳句会 選句結果
【  酒井とし子 選 】
  特選 花冷や地下鉄駅のモザイク画 田村幸之助(和歌山県)
   目借り時開きしままの単行本 水鏡(岐阜県)
   老ゆるとは友死ぬことよ桜散る      大原女(京都)
   恋敵また一人増え花筵 鷲津誠次(岐阜県)
   一車輌園児貸し切り山ざくら 鷲津誠次(岐阜県)
   右あけるエスカレーター四月馬鹿 ゆきえ(和歌山市)
   蝶の昼ATMに長き列 石塚彩楓(埼玉県)
   啓蟄や子にうつすらと髭の影 原洋一(岡山県)
   箒目の著き神苑朝桜 蝶子(福岡県)
   満面の児らの自画像チューリップ 比良山(大阪)
【  武藤光リ 選 】
  特選 先々代のままの表札鳥雲に よりこ(名古屋市)
   胸元に小鳥の名札入園児 近江菫花(滋賀県)
   恋猫の闇夜の問答切りもなし      直樹(埼玉県)
   啓蟄や子にうつすらと髭の影 原洋一(岡山県)
   野仏の眉根にひそむ春愁ひ みのる(大阪)
   箒目の著き神苑朝桜 蝶子(福岡県)
   満面の児らの自画像チューリップ 比良山(大阪)
   蓬摘む残る温もり指の先 小豆(和歌山市)
   葉桜や静穏戻る散歩道 美由紀(長野県)
   読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌 梦二(神奈川県)
【  奥山ひろ子 選 】
  特選 啓蟄や子にうつすらと髭の影 原洋一(岡山県)
   花冷や地下鉄駅のモザイク画 田村幸之助(和歌山県)
   禅寺の魚板の凹み入り彼岸      水鏡(岐阜県)
   目借り時開きしままの単行本 水鏡(岐阜県)
   箒目の著き神苑朝桜 蝶子(福岡県)
   登校の列の乱れや葱坊主 蝶子(福岡県)
   満面の児らの自画像チューリップ 比良山(大阪)
   対岸に漕ぎ出す渡しかげろへる 惠啓(三鷹市)
   山葵田に富士の伏流滾々と 惠啓(三鷹市)
   読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌 梦二(神奈川県)
【  渡辺慢房 選 】
  特選 父母を連れ妹を連れ入学児 まこと(さいたま市)
   廃線の人道橋や花の雨 田村幸之助(和歌山県)
   花冷や地下鉄駅のモザイク画      田村幸之助(和歌山県)
   春塵やベルに追はるる昇降口 芳典(東海市)
   啓蟄や子にうつすらと髭の影 原洋一(岡山県)
   箒目の著き神苑朝桜 蝶子(福岡県)
   登校の列の乱れや葱坊主 蝶子(福岡県)
   黙々と畑打つ翁告天子 隆昭(北名古屋市)
   山葵田に富士の伏流滾々と 惠啓(三鷹市)
   読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌 梦二(神奈川県)

(各選者の特選は2点・並選を1点として計算し、最高点の方を最多入選賞といたします。
同点が3名以上の場合は該当者無しとさせて頂きます)

今月の最高得点者は、原洋一さん(岡山県)でした。「伊吹嶺」四月号をお贈りいたします。おめでとうございます!

【講評】


        2026年4月伊吹嶺HP句会講評        渡辺慢房

 今回は、個々の句を鑑賞する前に、全体を通して「季語の説明はしない」ということ
について申し上げたいと思います。

 優れた俳人は、一つの季語から様々なものやことを読み取ります。季語そのものの映
像や音、匂いなどはもちろん、周囲の様子や空気感、その季語の持つ歴史的背景、逸話、
その季語が使われた名句などにもイメージが広がります。

 「俳句では写生が大切」と言われますが、これは「自分が心に思ったことを言うので
はなく、見たもの聞いたものをそのまま言うことで、思ったことを読者に伝える」とい
う意味です。しかし、これがうっかりすると、季語を別の言葉で言い換える、すなわち
「季語の説明」になってしまいがちです。例を挙げると・・

花吹雪風吹くたびに舞ひにけり

 この句は一見きれいな景を写生したようですが、花吹雪は多くの花びらが風に舞うこ
とですので、「風吹くたびに舞ひにけり」は季語の説明になっています。読者は、「花
吹雪」という一語だけで、花が風に舞う様子を思い浮かべることができますので、「風
吹くたびに舞ひにけり」と言う必要はまったありません。

 作句する際には、「季語の説明」にならないように注意してください。では、個々の
句を鑑賞します。


1	鴨引けばたつべを上げに田舟来る

 たつべが分からなかったので調べました。琵琶湖でスジエビを捕るために沈めておく
かごとのことでした。田舟は、水田で苗や肥料を運ぶために使う舟のことで、夏の季語
ですが、たつべを上げるのにもこれに乗ったりするのでしょうか? 引鴨(春)との季重
なりである点が気になりました。

2	氷魚舟エンジンかけて日の出待つ

 氷魚は琵琶湖などで捕れる鮎の稚魚ですね。夜明け前の静かな湖面にエンジンの音だ
けが響いている様子が浮かびます。夜明けと同時に船出するのでしょうね。

3	廃線の人道橋や花の雨

 しっとりとした静かな風情が感じられます。

4	花冷や地下鉄駅のモザイク画

 モザイク画は、石・ガラス・陶器などの断片でできています。その無機質な感じが、
季語に合っていると思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 地下鉄駅のひんやりした空気と、「花冷」、「モザイク画」で華やいだ季節との対比
がいいと思いました。

 ======================================

5	夕鐘ややさしく苦く春キャベツ

 夕餉の準備で、切ったキャベツを一口味見したのでしょう。「やさしく苦き」の方が
座りの良い句になると思いますが、「苦く」としたことで現代的になりました。

6	春霞幼馴染の声に似て

 春霞が幼馴染の声に似ているということでしょうか? 意味がよくわかりませんでし
た。

7	飛行機や春の雲割き故郷へ

 「雲を割く」のような言い古された詩的な比喩表現は、注意して使わないと、安易で
陳腐に感じられます。

8	登校の班長凛々しチューリップ

 集団登校ですね。懐かしいです。「凛々し」は作者がそう感じたという主観になりま
すので、凛々しく感じたもの、ことを具体的に写生して欲しいと思いました。

9	断ち難きしがらみひとつ金縷梅

 「断ち難きしがらみひとつ」は主観であり説明ですので、読者に伝わるものがありま
せん。その気持ちは、もの、ことに託して俳句にしましょう。

10	さくら花あまねく映すジムの窓

 おそらく作者はジムから窓ガラスを通して桜を見ているのだと思いますが、その場合
は「映す」とは言わないと思います。

11	禅寺の魚板の凹み入り彼岸

 彼岸のお参りで見た、長い間使われて叩く部分が凹んだ魚板ですね。魚板と言えば、
「禅寺」は言わなくてもわかると思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「魚版の凹み」が歴史を感じさせます。

 ======================================

12	目借り時開きしままの単行本

 状況は分かり易いですが、下五を字余りにしてまで「単行本」であることにこだわら
なくても良いのではないかと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 私もよくありがちな光景で、共感しました。

 ======================================

13	老ゆるとは友死ぬことよ桜散る

 歳を重ねれば友人が亡くなることも確かにありますが、俳句はそうしたことに対する
小主観を述べるものではないと思います。子規は、次のような内容を含む句を「月並み
俳句」として批判しています。月並み俳句=駄洒落・穿ち(ひねりすぎ)・謎めかし・
理知的すぎる・教訓的・厭味・小利口・風流ぶる・小主観・擬人法の多用

14	花づかれ誰もが座する石のあり

 疲れたから→座るという理屈が感じられます。

15	恋敵また一人増え花筵

 状況がよくわかりませんでした。花見の宴で、作者の意中の人に複数の人が粉を掛け
ているのでしょうか?

16	菜の花へ降り立つ黄泉の使者の影

 「黄泉の使者の影」が何のことを言っているのかが分かりませんでした。何かの比喩
でしょうか?

17	胸元に小鳥の名札入園児

 一読、個人情報保護のために、園児の本名でなく「すずめ」や「ひばり」などのニッ
クネームの名札を付けているのかと思いましたが、よく考えたら名札のホルダーが小鳥
の形ということでしょうね。小さい子らしく、可愛らしいですね。

18	逃げ水をかくまふ茂原掩体壕

 掩体壕は、飛行機を敵の空襲から守るためのシェルターですね。それが、「逃げ水を
かくまふ」というのは、どういう状況なのでしょうか?

19	余呉の湖水脈ひく二羽の残り鴨

 静かな余呉湖を、二羽の鴨がゆっくりと渡って行く。のどかな春の景ですね。

20	先々代のままの表札鳥雲に

 上五の字余りを何とかしたいところです。「祖父の名の」等、工夫してみて下さい。

 武藤光リ氏評================================

  季語を上手に使っている。時の移り変わりとちょっとした
 寂寥感が詩情を醸し出している。

 ======================================

21	人の庭通り抜け行く恋の猫

 猫が庭を通り抜けるのは珍しいことではなく、句材としては弱いと思いました。また
「恋猫」はさかりのついた猫を指す言葉として辞書に載っており、「恋の猫」と言うと
意味が変わってしまいます。「春の猫」でしたら、歳時記に載っています。

22	恋猫の闇夜の問答切りもなし

 さかりのついた猫の声を問答に喩えるなど工夫がみられますが、その声は「恋猫」の
イメージに含まれますので、所謂「季語の説明」になってしまっていると感じました。

23	やはらかにミモザ揺れをる海の街

 ミモザの黄色と海の青の対比が鮮やかですね。上五の「やはらかに」が主観的かつ抽
象的に感じられますので、もっと具体的な描写があると良いと思いました。

24	一車輌園児貸し切り山ざくら

 園児たちの遠足でしょうか?「一車両」とありますので、多数ある車両のうちの一つ
ということで、自動車ではなく列車なのでしょうね。山桜は花と葉と幹の色の取り合わ
せが上品に感じられ、ソメイヨシノなどの花が先に咲く品種より大人びたイメージがあ
ります。作者がこの季語を選択した理由に興味が湧きました。

25	神父様の祝辞始まる入園式

 カトリック系の幼稚園ですね。神父の温かく穏やかな声が想像されますが、入園式で
祝辞があるだけでは、句材としてちょっと弱いように思いました。上五と下五の字余り
も気になりました。

26	クラシックの静かなひと時風信子

 水栽培のヒヤシンスでしょうか? 上五と中七の字余りが気になりました。

27	過疎の村田の畔まっすぐ春化粧

 春化粧という季語があるのか、疑問に思いました。中七が字余りです。

28	表札を見とどけ飛びくる初つばめ

 燕が毎年同じところに巣を作るのを、表札を見て来ると言ったのだと思いますが、理
屈っぽく感じられました。中七が字余りです。

29	春塵やベルに追はるる昇降口

 子供たちが学校に駆け込む様子が浮かびます。下五の字余りが残念です。

30	大店の跡や重機と蟻の穴

 大店(おおみせ)は、江戸吉原などの格式の高い遊郭のことで、よく落語などに登場
する言葉ですが、この句の場合は現代の大規模店舗の意味でしょうか? 重機が入って
いる跡地に、蟻の穴が見えるほど入って行って危なくないのかと、心配になりました。

31	比叡比叡湖になだるる棚霞

 「比叡」は比叡山のことかと思いますが、「比叡比叡」と重ねた意味・意図を掴みか
ねました。

32	夫婦らし花見帰りか笑みこぼれ

 「夫婦らし」も「花見帰りか」も作者の主観ですので、作者がそう思ったものを写生
しましょう。例えば、花筵を持った男女でしたら、それをそのまま言えば、花見帰りの
夫婦らしいことがわかります。

33	右あけるエスカレーター四月馬鹿

 エスカレーターの左立ち右空けは、東日本に多いですね。作者は関西の方でしょうか?

34	鉱脈の端にある村春の雷

 「鉱脈の端にある村」の具体的な景が浮かびませんでした。鉱脈の端でない村との違
いは何でしょう?


35	月山の白き輝き蒼天に 

 季語がありません。無季の句を否定するわけではありませんが、基本的にはやはり有
季定型の約束を守って欲しいと思います。

36	花見頃見ながら向かう入院へ

 「花見頃」は、「花の見頃」か「花見の頃」か迷いましたが、「見ながら向かう」と
ありますので、「花の見頃」の意味でしょうね。ただ、俳句では花と言えば、蕾や散る
などと言わない限り見頃の状態の花を言います。また、「向かう入院へ」は、「入院へ
向かう」の倒置形だと思いますが、入院は場所ではなく行為を指しますので、「入院へ
向かう」は日本語として不自然だと思います。

37	麗らかやうだつの上がる紙問屋

 春の陽気に包まれた老舗の紙問屋の様子が浮かびます。ただ、「うだつの上がる」と
いう表現が気になりました。「うだつが上がらない(=出世しない)」という慣用句が
ありますが、構造物としてのうだつ(卯建)は上げると言うのでしょうか?

38	蝶の昼ATMに長き列

 屋外にまで列が伸びているのでしょうね。陽気が良いと、並んで待つのもあまり苦に
ならないかもしれませんね。

39	崩し字の歌碑を隠すか飛花落花

 「隠すか」と、疑問や呼びかけと思われる表現となっており、写生と言うよりも作者
の主観が強く感じられました。飛花落花という漢語的で格調の高い季語と相まって、風
流ぶりを感じてしまいました。

40	閑古鳥鳴く店先や春の塵

 閑古鳥は夏の季語ですが、ここでは「閑古鳥が鳴く」という慣用句として使われてい
ます。客がいない→塵が積もるという理屈が感じられました。

41	啓蟄や子にうつすらと髭の影

 季節が巡るとともに、子も成長して行きますね。季語の斡旋がうまいと思いましたが、
人によってはやや即き過ぎと捉えるかもしれません。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「啓蟄」の季語と、子供さんの「髭」の取り合わせが面白く、作者ならではの感覚を
見た思いです。「うつすらと」の写生もいいですね。小さな生き物、人間共に生命力あ
ふれる時期で、これからの活躍を応援したくなりました。

 ======================================

42	八十路まだ遊びの途中葱坊主

 季語の取り合わせが面白いと思いましたが、13の句でも述べましたように、人生訓、
処世訓、小主観など述べた俳句は、底が浅くなりがちです。

43	父母を連れ妹を連れ入学児

 入学児が父母に連れられているのでなく、入学児が父母を連れているというのが面白
いですね。確かに、入学式の主役は入学児ですので、なるほどと思いました。

44	徘徊の道に加はる藤の花

 「徘徊」は、認知症の問題行動のようなネガティブなイメージもありますが、ここで
は逍遥や散歩というような意味かと思います。作者の散歩コースにある藤が咲いたとい
うことですが、それを報告するだけでなく、それを見た作者の気持ちが読者に届くよう
に詠めると良いですね。

45	野仏の眉根にひそむ春愁ひ

 この春愁は、作者の心に沈んでいるものが、野仏のかんばせに映ったものだと思いま
す。

46	春月や介護施設てふ一社会

 確かに、住居型の介護施設は、閉じた一社会と言えると思います。概念的な句ではあ
りますが、添えられた季語により、晩年を迎えた方たちの静かである意味清らかな生活
の様子が偲ばれます。

47	一斉に上がる踏切四月来る

 連続踏切のようなところでしょうか? 踏切を渡る人たちの中に、新入生や新社員ら
しき人の姿も見られるのでしょうね。

48	海へ向くふらここの空転校す

 海へ向いているのはふらここなのか空なのか、解釈に悩みました。「転校す」の主語
が誰なのかもよくわかりませんでした。

49	箒目の著き神苑朝桜

 清々しい早朝の空気感も伝わります。そういう空気を吸えるのも三文の徳ですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 朝から箒をかけられて、美しい掃き目と桜が清々しいと思いました。

 ======================================

50	登校の列の乱れや葱坊主

 集団登校ですね。やんちゃな子も混じっているのでしょう。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「列の乱れ」が子供らしく、「葱坊主」の音から連想する腕白ぶりに作者のユーモア
を感じました。

 ======================================

51	満面の児らの自画像チューリップ

 「満面の児らの自画像」の意味がわかりませんでした。「満面の笑み」や「得意満面」
のような言い方はしますが、「満面の児ら」や「満面の自画像」という言い方は無いの
ではないかと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「児らの自画像」がいいですね。自分で自分の笑った顔を描くという平和な姿と、
チューリップの明るい花の個性が合っていると思いました。

 ======================================

52	逃水にごみ収集車地鳴りして

 句意がつかめませんでした。逃水が見えるあたりのところにごみ収集車がいて、その
収集車が地鳴りを起こしているということでしょうか?

53	水浴びをするかに雲雀ホバリング

 水浴びの比喩が意外でしたが、全体的に「揚雲雀」という季語の説明に感じました。

54	黙々と畑打つ翁告天子

 地を見つめながら畑を打つ人物と、天高く囀る雲雀の対比が良いですね。

55	春雷や的に動かぬ甲矢と乙矢

 的に刺さった矢が動かないのは当たり前だと思ってしまいました。

56	御前に匂ふピアスやクロッカカス

 ピアスが匂うというのがわかりませんでした。クロッカカスはタイプミスでしょうね。

57	「花」を弾く駅のピアノや春の昼

 麗らかな春昼にぴったりの曲ですね。ぴったり過ぎる気も・・・。

58	蝌蚪生まる二級河川の一処

 一級河川は国、二級河川は、都道府県が管理する川ですが、その分類を言う狙いがわ
かりませんでした。

59	整形外科の元気をもらふ門桜

 整形外科医院の前にある桜の木でしょうか? 「元気をもらう」と言わずに、元気が
湧いてくる景を伝えられると良いですね。上五の字余りも何とかしたいところです。

60	たんぽぽの絮瓦礫の街へ飛んで行け

 瓦礫の街とは、どこのことでしょうか? 震災のあった地か、戦火の街か? また、
なぜそこにたんぽぽの絮が飛んで行って欲しいのでしょうか?

61	春の星サンテクジュペリ紐を解く

 星とサンテグジュペリは即き過ぎに思いました。また、本を開く意味のひもとくは
「繙く」で、「紐を解く」とは言わないと思います。

62	花菜漬けワインを冷やし帰り待つ

 ワイン(白でしょうね)を冷やすという行為には、非日常感があります。何かの記念
日か、良いことなどがあったのでしょうか? 花菜漬がワインに合うのか?とも思いま
したが、こちらも一年のうちごく限られた時期にしか食べられないものということで、
ちょっと特別感がありますね。

63	春めくやローランサンの淡き影

 確かに、ローランサンの絵画の色使いは、淡い感じですね。この句の「影」は、陰影
の意味ではなく、光や色合いでしょうね。

64	蓬摘む残る温もり指の先

 この「温もり」は心象的な物かもしれませんが、私にはちょっと現実感に乏しく感じ
られてしまいました。

65	豊漁のおこぼれねだる孕猫

 漁港に棲みついた猫で、人に慣れているのでしょうね。

66	赤い橋のこちら花街春柳

 作者は花街の方から橋を見ているのですね。赤い橋と、芽吹いた柳の薄緑が奇麗です
ね。

67	法螺貝に起こる勝鬨先帝祭

 先帝祭という季語を知りませんでした。5月に行われる、下関市の伝統神事なのです
ね。「法螺貝に起こる勝鬨」は先帝祭のワンシーンで勇壮ですが、やや季語の説明的に
も感じました。


68	げんげ田のなかへ気動車停まりけり

 電化されていないローカル線ですね。長閑な旅ができそうです。

69	花筏夜半の嵐の置き土産

 花筏ができた理由が述べられており、やや理屈っぽく感じました。

70	葉桜や静穏戻る散歩道

 桜の花が終わったので→人が減って静穏が戻ったという理屈を感じました。

71	対岸に漕ぎ出す渡しかげろへる

 「対岸に漕ぎ出す」は「渡し」の説明に感じました。また、季語のかげろふ(陽炎)
は本来名詞で、「陽炎へる」と動詞化するのは誤用ですが、俳句では動詞化して使って
いる例を良く見かけます。この場合、別の言葉である「陰ろふ・影ろふ」という動詞と
混同されないよう「陽炎へる」と漢字にするか、陽炎の別の言い方である「かぎろひ」
を使って「かぎろへる」とした方が良いと思います。

 奥山ひろ子氏評===============================

 素朴な景ですが、写生ができている作ですね。 

 ======================================

72	山葵田に富士の伏流滾々と

 富士山の伏流水で育った山葵は、清澄で美味しそうですね。

 奥山ひろ子氏評===============================

 静岡県でしょうか。水の清らかさと、富士山の遠景が感じられ、気持ちの良い御句と
思いました。

 ======================================

73	雨上がる花桃の緋や窓明かり

 色彩・光を感じる句ですが、三段切れなのが残念です。

74	若き日の住居の跡や春暮るる

 若い頃に住んだ家かアパートが今は無くなり、更地になっているのでしょうか? 昔
を偲ぶ作者の心情はわかりますが、季語を含めて具体的な景に乏しいため、読者に伝わ
るものが少ないように思いました。

75	公演に犬猫鳩や諸葛菜

 何の公演かと思いましたが、もしかして公園の変換ミスでしょうか? 公園だとして
も、公園に鳩がいたり犬や猫を連れた人がいたりするのは、特に珍しくは無いと思いま
す。

76	足生えて蝌蚪は尻尾を持て余す

 13の句の評で述べたように、穿ちや小主観、風流ぶりなどを句に持ち込むと、底の浅
い句になりがちです。

77	花吹雪ときに色あり音のあり

 花吹雪という季語を、気取って説明しているように感じてしまいました。

78	若葉雨店へ取り込むのぼり旗

 雨が降ったから→幟を取り込むという理屈を感じました。

79	読み聞かせ選ぶ本棚啄木忌

 季語の離れ具合が良いと思いました。

 奥山ひろ子氏評===============================

 「啄木忌」から、作者の実直なお人柄を想像しました。読み聞かせの本を熱心に吟味
なさる姿が見えます。

 ======================================

80	釣釜や蛭釘のみに身を任す

 釣釜という季語の説明に感じました。

81	炉塞ぎて躙口より庭に出ず

 茶道のことは良く存じませんが、茶室は躙り口よりほかに出入りするところは無いの
ではないでしょうか?

82	防砂ネット外せば春の浜となり

 一部の観光地の海岸では、防砂ネットが冬の風物詩になっていたりするようですね。
それを取り外したから春というのは、ちょっと安直に感じました。


83	黄砂拭く明日の黄砂のために拭く

 明日もどうせまた黄砂が降るからといって、今日の掃除をさぼるわけにも行かないと
いうわけですね。「明日の黄砂のために」のが皮肉で捨て鉢な気持ちを伝えます。


copyright(c)2003-2007 IBUKINE All Right Reserved.