吟行上の工夫
河原地英武
ある会員の方から「吟行が苦手で、俳句ができるか心配です。心配解消の方法はありますか」という切実な質問をいただいた。このお気持ちはよくわかる。わたしも伊吹嶺入会の当初は、吟行に誘われると句が作れるだろうかと不安になり、前日までに行き先のことをいろいろと下調べしたものだ。下調べをするだけでなく、いざというときの「保険」のために、現地を想像して句帳に2句ばかり俳句を書きつけておいたりもした。結果的には「案ずるより産むが易し」の俚諺どおり、毎回なんとか作ることができている。とはいえ、わたしなりに工夫していることもある。何かの参考になればと思い、記してみたい。
まず現地についたら、興が湧いても湧かなくても、目についたものを片端からメモしてほしい。鳥の名、花の名、虫の名など何でもけっこうだ。鳥居の上に鳩がとまっていた。その上に春の雲が浮かんでいたという月並な景でもいい。最初の30分で7つ8つそんなメモを書きとめ、そのうち3つくらいは五七五の形にしておくと気分が楽になる。心のスイッチも入って、周囲の些細なことにも気づき出すはずだ。漫然と景色を眺めているだけでなく、アクションを起こすことも有効である。水辺に来たら手を浸してみるとか、大木の幹をなでてみるとか、石を裏返すとか、草を引き抜いて匂いを嗅ぐとか、句材に対して能動的に働きかけると、気持ちに弾みがつき、五感もますます冴えてくる。吟行ではふつう3句投句ということになるかと思うが、3句だけ出そうとすると、なかなかまとまらない。わたしは10句投句だと考えることにしている。すると最初の3句は案外すっと作れるものだ。
最後に、やはり事前の下調べは大切である。吟行地に関する知識をある程度もって臨めば、現地についたとき、親近感を抱くことができる。さらにいえば、その土地に自分は受け入れられ、歓迎されているのだという感覚が生じる。実はこの感覚こそが重要で、そう感じられたら自ずと気持ちもほぐれ、吟行が楽しくなること間違いない。
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